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陰キャアーチャーの合理的ダンジョン攻略 ~何って、ダンジョンの外から矢を放って無双してるだけだが?~  作者: 艇駆 いいじ


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67.合理的対立!

「なんだ、てめぇは?」


「影山英夢。史上最強の白魔術師の恩恵を受けた合理的アーチャーだよ」


 力丸先輩の体を支える僕を睥睨し、不知火はチッと舌打ちをした。


「関係ねえ、失せろ!!」


 刹那、眼前に放たれた斬撃。ゼロ距離から迫り来るのは、即死級の一撃――!


「惚れ惚れするくらい合理的だ。だけど、僕はさらにその上を行く」


 白い閃光が視界を覆う。まるでこの世の終わりを体験しているような状況の中、僕は深く意識を自分自身(・・・・)にフォーカスした。

 意識が徐々にゆっくりになっていく。あれほどの強い光も、鼓膜が破れそうな音も、何も感じない。代わりに湧いてくるのは、全能感にも近いほどの高揚。


 僕は、ゆっくりと(・・・・・)弦を引く。


 弦から指を放した瞬間、具現化した架空の矢が、斬撃を撃ち返した。


「きゃあ!」


 比奈の叫び声を皮切りに、爆発音に代わって森の中を駆け巡ったのは突風にも近い凪だ。

 僕の一撃が、不知火の一撃を相殺した。その反動のようなものだ。


「……てめぇ、今何をした?」


「何って、僕はただ腕を振っただけだよ。冬香のバフがあればこれくらい――」


「はぐらかすな! バフを受けたくらいでそんな芸当が出来るわけねえ。んなことは俺にだってわかる。だから何をしたって聞いてるんだよ」


 ……マズいなあ。流石に今のはやりすぎたかな? 学院最強の男の一撃を腕を振って弾き返したって……今思えばそんな雑な言い訳なかったか。


「まあいい。で、てめえはやるのか? やらねえのか?」


「やるって何を?」


「決まってるだろ。てめぇら青は団長を失った。赤は白のポイント全てと青の550ポイントを総取りした。時間が来ればゲームセット。それでも俺と戦うのかって言ってるんだよ」


 確かに、今から青が優勝するには赤組を倒すしか方法はない。力丸先輩のいない今、はっきり言ってここから逆転はないだろう。


「どうせやっても無駄だ。やめとけよ。さっきのは何のトリックだか知らねえが、何度も通用はしない。その雑魚見て、無理なのはわかっただろ?」


 不知火は小馬鹿にするような視線で、僕に抱えられている力丸先輩を見やる。彼の背後から、複数の生徒がキャッキャッと笑い声を上げた。


「勘違いしてるみたいだけど……僕は別に、勝つつもりはないですよ」


「あ?」


「だから、僕は別に勝つつもりなんかないですよ。別に優勝したくてやってたわけじゃないので」


 そもそもの話、僕は力丸先輩が刹那さんにいいところを見せるのを手伝うと言っただけであって、最初から優勝しようと思って戦っていたわけじゃない。


 力丸先輩が倒れた今、戦いを続行するメリットは何もない。僕としても無駄な戦いはしたくないので、ウォッチを外すなり、不知火に負けたフリをするなりした方が合理的だ。


「……ハハ、なんだよ。じゃあ結局、やる気があったのは力丸だけかよ!」


 赤組の3年生のものと思われる野次が入った途端、他の赤組の生徒たちはどっと笑った。中には涙を流しながら笑い転げている生徒もいる。


「力丸が起きたらどんな顔するだろうなあ!? 自分が独り善がりで、無駄骨の間抜けだったって気づいたらなあ!」


 残念だが、世の中は平等じゃない。

 努力や執念は時には大事だ。でも、人間にはそれ以外にも、生まれた環境や持っている物、時の運だって重要だ。


 力丸先輩には悪いが、僕は合理的な選択を――、


「笑わないでください!!」


 その時、ぴしゃりと誰かの叫び声が響き、生徒たちが静まり返った。

 声の主は――冬香だった。


「力丸先輩は独り善がりでも、無駄骨でも、間抜けでもありません! 目標のために努力して、最後まで戦ったんです! 確かに結果が出ないこともあるかもしれませんが、そのために費やした時間も、体力も、信念も、無駄なんかじゃない! 人を強いとか弱いとか決めつけて何もしないあなたたちより、よっぽど尊いことなんです!」


 冬香は泣いていた。脚はガクガクと震え、今にも折れてしまいそうだ。


 はあ……そんなに大きな声が出せるなら、授業中にもっと大きな声を出した方がよっぽど合理的だろうに。

 なんだって、こんな場面でそんなにいい台詞を言っちゃうんだ。


「先輩、まだ勘違いしてるみたいですね。僕は最初から勝つつもりでやっていない。――だけど、負けるつもりでもやってないんですよ」


「……なんだと?」


 なんだって、僕はこんなこと言っちゃうんだろう。


 冬香の涙を見て、同情したから? 力丸先輩の姿に鼓舞されて?

 答えはきっと、どちらでもあり、どちらでもない。


「だって、このまま青が負けたら力丸先輩がかっこつかないでしょ。それに、僕はあなたにも教えてあげたいんですよ、不知火先輩」


「俺に? 一体何を――」


 僕は不知火に向けて、指を三本立てて見せた。


「一つ目。この世界に無駄なことなんてない。確かに力丸先輩は負けた。一見すると彼の努力は無駄だったかもしれないが、それによって結実するものもある。誰かを立ち上がらせる力になることだってある」


「二つ目。優勝の価値。どうせこれまで体育祭――どころか、どこでも負けたことないですよね? だから、先輩が当然のように獲得してきた『優勝』の二文字に、力丸先輩がどれだけ懸けてきたか、教えてあげますよ」


「そして……三つ目。敗北。努力や挑戦の大切さを語ってきた僕が、無慈悲に、合理的に、一方的に――敗北を教えてあげますよ」


 言い切った直後。僕は不知火の胴体に渾身のストレートをお見舞いした。

 肉と骨の感触が拳に伝わった刹那、彼の180センチ近い体が吹っ飛ばされる。

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