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18.合理的探索!

「僕たち、このままずっと二人で暮らしていくのかもね……それもいいかもしれないね」


「諦めてんじゃないわよ! まだ脱出する方法はあるから!」


 ……ん? まだ何か手があるのか!?


「いや、でも……この方法は無理があるか……」


「勿体ぶらないで教えてくれよ」


「ダンジョンから脱出するアイテムをドロップするモンスターがいるのよ。落ちる確率は50%だから、倒せば落とす可能性が大いにある」


 何、そんなモンスターがいるのか!

 じゃあ、そいつを倒せばすぐにでも地上に戻れる!


「……ただ、一つだけ問題点がある。そのモンスターは5層にスポーンするのよ」


 美玲は悔しそうに呟いた。


「私一人じゃ5層のモンスターを相手に戦うことは出来ない。それに、英夢のことを守りながら移動しなくちゃいけない。だからここで待つのが最善策よ」


「じゃあ、もし僕が一人で5層のモンスターを倒せるって言ったら?」


 そう言うと、美玲は呆れたようにため息を吐いた。


「あのねぇ。その嘘、面白くないから。5層のモンスター相手にまともに戦える人なんか一握りしかいないのよ?」


「じゃあ、僕はその一握りの人間だ。合理的に考えてくれ、さっきの道案内はちゃんと出来ただろ? こんなところで座って楽しくお喋りして待つより、サクッと5層のモンスターを退治して地上に帰った方がいい」


 美玲は訝しげな視線をこちらに向けているものの、完璧に僕を疑っているわけではないようだ。実際、彼女は僕が【必中】で敵を倒しているのを見ている。


 しばらく無言の時間が続いたが、やがて美玲が折れた。


「……わかったわ。じゃあ二人で5層に向かいましょう。ただし、少しでも足手まといだと思ったらすぐ引き返すからね!」


「それでいいよ。じゃあ、ひとまずは僕たち相棒ってことで」


「調子に乗んな! 第一、まだ完璧に信用したわけじゃないから!」


 2層への階段の位置はさっきの探索で分かっている。僕たちはその方向に歩き出した。


「はい、階段はここ」


「本当に一発で階段の場所が分かった……いや、さっき見つけただけでしょ? 騙されないわよ。次の階段までその態度を貫けたら褒めてあげる」


 美玲が階段を降りようとしたので、僕は左手でそれを制止した。


「そのまま降りるとモンスターに気づかれる。やるならこういう風に、下に降りる前に!」


 <観測者>によって見つけた3層のモンスター5体に向けて、矢を放つ。


「……はい、降りていいよ」


 階段を降りるように促すと、美玲は冷ややかな笑みを浮かべていた。


「英夢って……いつもこんな探索の仕方してるの?」


「そうだよ。サーチ&デストロイは基本だからね」


「そんな基本ないから! 普通はもっと予想外の会敵とか、不確定要素があって戦闘が挟まるの!」


 不確定要素なんてない方がいいに決まっている。特に浅い層は最短で、最も努力を省いていくべきだ。


 階段を降りたら、後は悠々と歩いていくだけ。

 <観測者>の範囲内にモンスターがいたら遠くから撃つだけなので、ばったりモンスターと会うなんてこともなく、とにかく暇だ。


「ねえ、そういえば成り行きで美玲にタメ口聞いてるけどさ……美玲って何歳なの?」


「しれっと失礼ね。私は19。英夢より大人だから」


「年上かあ。19歳で有名配信者なんて凄いですね(・・・)


「タメ口でいいわよ別に。それに、勢いで人が集まってきただけだから、私は自身は別に凄くもなんともない」


 ストイックだなあ。そういう時は自分の手柄にしちゃえばいいのに。

 この前の配信でも、大怪我したのに前に進もうとしてたし、口調とは裏腹に真っすぐな性格なのかもしれない。


「美玲はなんで配信者になろうと思ったんだ?」


「決まってるでしょ。夢を叶えるため。強くなって、お金持ちになって、皆を笑顔にしたい。私が配信をすることで、一人でも多くの人を幸せにしたい」


 いいね。多くの人を笑顔にする――なんて非合理的なことは考えていないが、前の二つは僕も概ね同意だ。


「僕も配信者になったら人気になれるかな? 普段の攻略の様子を動画にするだけでお金が入ってくるならやってみたいんだけど」


「無理ね」


 いや即答すんなよ!


「ダンジョン配信は『見せ方』が重要なの。かっこいい戦闘とか可愛い仕草とか、面白いトークとか……挙げたらキリがないけど、配信にはそういう『ときめき』が必要なの」


「それであの挨拶か。未来永劫……なんだっけ?」


「殺す! ここから出たらタダじゃおかないから!」


 怖いなあ。っていうか自分でも恥ずかしいなら辞めればいいのに。


「……ゴホン。それに、配信者はなるのは自由だけど。英夢は別に配信で成り上がっていきたいわけじゃないんでしょ? あなた、なんで冒険者になろうと思ったの?」


 奥が深い質問だ。だが、僕の答えはシンプル。


「自分の合理性を試してみたかったからだよ」


 僕らの前には、3層に続く階段があった。

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