2-2-12
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エリーの体を貫いた槍をヴラドはゆっくりと引き抜くと、鼓動の止まった彼女の体を見下ろして大きくため息を吐いた。
「残念だ……本当に惜しい。」
そして開いたままの瞳へと手を伸ばしたその時……。
「がぁッ!!」
「なっ……。」
ヴラドが伸ばした手にエリーが突然噛みつく。そのまま手の肉を喰い千切ると、彼女はそれを咀嚼して飲み込んだ。
呆然とそれを眺めていたヴラドだが、ある異常なことに気がつく。
(我輩の強靭な皮膚を噛み千切った?ただの人間が?いったい……どうなっている。)
ヴラドの疑問が解消される間もなく、エリーは自力で自分のことを拘束していた紅い鎖を引き千切ると、深紅色に染まった狂暴な瞳をヴラドへと向けた。
「紅い瞳、吸血鬼の飢餓反応。まさか既に…………ッ!!」
言葉を言い終える前にヴラドの顔面にエリーの右手がめり込む。それと同時に装着されていたパイルバンカーが負荷に耐えられず破損し、辺りに部品が飛び散った。
「くっ!!」
「があぁァァァッ!!」
エリーが獣のような咆哮をあげると、辺りに飛び散っていた血が一斉に彼女の手に集まり始め、右手に禍々しい鉤爪のような物を作り出した
それをヴラドへと向けて振り下ろす。
「これはもらえぬ。」
サイドステップでそれを躱したヴラドだが、彼が躱したあとには地面が抉り取られたような巨大な爪痕が残る。
「クハハッ、素晴らしい力だ。貴様はどこまで我輩を楽しませてくれるのだ?」
笑うヴラドへと再び襲い掛かるエリー。すっかり自我を失っている様子の彼女だったが、そんな彼女の脳内に一際クリアに聞き覚えのある声が響く。
『まるで獣、品性の欠片もないわね。』
その声が響くとエリーの意識が戻る。
「ぐっ……誰だよ、アタシの頭ん中にいんのは!!」
ずきずきと痛む頭を押さえながらエリーは問いかける。すると再び脳内に声が響く。
『私が誰かなんて今はどうでもいいこと。とにかく少しそこを退きなさい。』
そう声が響くと、まるで首根っこを掴まれて後ろに引っ張られるようにエリーの意識が背面へと追いやられてしまう。
『なっ……どうなって!?』
幽体離脱した後のように、自分の体を上空から見下ろす形となってしまっているエリー。そんな彼女に脳内で響いていた声の主がエリーの肉体を使って語り掛ける。
「そこで見ていなさい。どうせこの体はもうすぐ朽ちてしまうわ、その前に少しだけ力の使い方を教えてあげる。」
そう言うと、エリーの体を乗っ取った何者かはヴラドのほうに向きなおる。
「む?なんだ、雰囲気が……。」
「まずは、こういうのはどうかしら?」
エリーの体を乗っ取った者は人差し指で目の前に一本線を描く。するとヴラドへと向かって真っ赤な空気の刃が飛んだ。
「っ!!」
ヴラドがそれを躱すと背後にあった住居が真っ二つに両断されてしまう。
「なんという威力か、純血種のそれと何ら変わらぬ。」
一瞬唖然としながらもヴラドは血の槍を握りしめて彼女へと距離を詰める。以外にもあっさりと槍の間合いに侵入を許した彼女の心臓へと空気を裂きながら矛先が迫った。
「直線的、華がないわね。」
彼女は迫ってくる槍の矛先を手の平を貫通させることで受け止めた。まったく痛がるそぶりも見せず、流れ出た血へと目を向けるとそれに向かって命令する。
「貫きなさい。」
するとその命令通りに滴り落ちていた血は針のように形を変えヴラドの体を貫く。
「むぅっ!!」
ヴラドが即座に身を引こうとするが、彼女はそれを許さない。
「逃がすな。」
またしても命令すると、今度はヴラドの体内から無数の針が生え彼の身動きを封じた。全身を針で貫かれ身動きのできない状態のヴラドへエリーの体を乗っ取った者は語りかける。
「串刺し公と呼ばれ畏怖された存在が、こうして串刺しにされてるのは笑えるわね?」
「ク……フフ、言ってくれる。我輩の核を貫かなかったのはこうして辱めるためか?」
「いいえ、それは単純にあなたを殺すのは私じゃないからよ。」
「何を言っている?」
ヴラドへと語りかけていたエリーの体は突然大量の血を口から流し始める。
「やっぱり少し本気で力を使うと耐えられないわねぇ。まだまだ、青い証拠。」
ぽつりとつぶやくと同時、ヴラドの体を貫いていた針がドロドロと液体になって消えていく。そしてエリーの体が力なく仰向けに倒れ込んだ。
「二度は教えないわよ。今度は自分で何とかしなさい。」
エリーの体を乗っ取った何者かは空を見上げてそう語りかけるとゆっくりと目を閉じた。
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