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一章はここでお終いです。次話から次章に入ります。
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エリーが煙草を吹かしていると、そこにメイが現れた。
「エリー、今の子がリンちゃんなのよね?」
「あぁ。親に虐待されただけじゃなく、遊び半分で吸血鬼になるとかいう可怪しなモンまで飲まされたみてぇだ。」
エリーがそう報告すると、メイが苦虫を噛み潰したような表情で一つ舌を打つ。
「チッ……とことん外道ね。あいつ等のほうがよっぽど人間の道を外れてるわ。」
「間違いねぇな。」
「それでこれからリンちゃんのことはどうするの?」
「まぁ、保護して観察になるだろうな。お袋としてもリンのことを政府には渡したくないはずだしな。」
「そっか、ここで生活するのなら安心ね。私もすぐ面倒見てあげれるし。」
「ん、そういやぁ今お袋がリンにラボを案内してるぜ。そんなに気になるんだったら声かけてきたらどうだ?」
「もう面会しても大丈夫なの?」
「問題ねぇよ。アタシが保証する。」
「じゃあちょっと行ってくるわ!!」
するとぱたぱたと駆け足でメイはリースたちが歩いて行ったほうへと行ってしまう。それを見送って、吸い終わった煙草を消したエリーがもう一本煙草を吸おうとすると……。
「んあ?煙草切らしちまったか。しゃあねぇ、買ってくっか。」
エリーはバイクで地上のコンビニへと向かう。
そしてお気に入りの銘柄の煙草を買って再び帰ろうとしたとき。
「ん?」
彼女は何かに気が付いた。
(どっかから見られてる。どこだ?)
辺りを見渡すが、周りにエリー以外の人影はない。感覚をさらに尖らせてみるが、気配も感じない。
「そっちがその気なら、アタシにも考えはあるんだぜ?」
ニヤリとエリーは笑うと、ヘルメットをかぶってバイクを発進させ、来た道とは逆に進んだ。そして、何十年以上も前に使われなくなった廃工場の中へと入っていく。
廃工場の真ん中にバイクを停めると、彼女は自分が入ってきた入口方面へと向かって声をかける。
「ここなら誰も来ねぇぜ。とっとと姿を見せろよ」
彼女がそう声をかけると、空から音もなく体をローブで覆った何かが舞い降りた。
「お出ましか。」
エリーはすでに片手にはマグナムを構え、もう片方の手にはナイフを握っていた。臨戦態勢に入っている彼女に、舞い降りた何者かが言葉をかける。
「近頃吸血鬼化した人間を狩っているのはお前だな。傭兵エリー。」
「そうだって言ったら?」
「……そうだな。」
エリーは瞬きもせず目標を注視していた。だが、文字通りそれは彼女の目の前から姿を消したのだ。
「っ!?」
眼前から消えたかと思えば、エリーの背後から声が響く。
「消えてもらうか。」
その言葉が響くと同時、エリーの腹部を何かが貫いた。
「ガハッ!!クソがっ!!」
腹部を貫かれたままエリーは体を捻ると手にしていたナイフで反撃する。だが、その反撃のナイフは空を切った。
「ごふっ、やってくれるじゃねぇか。」
口から血を溢れさせながら、エリーは再び目の前に現れたそれを睨みつける。
「腹部を貫いたというのに、死なないか。ただの人間の女にしてはタフだな。」
「はっ……あいにく腹をぶち抜かれたのはこいつが初めてじゃねぇもんでな。アタシの初めてを奪えなくて残念だったなクソ吸血鬼。」
エリーは強引に腹部に突き刺さっていた槍状の赤い物体を引き抜いた。
「減らず口をたたく……。」
少し機嫌の悪そうな口調でそうぽつりと言うと、吸血鬼はエリーの目の前から再び姿を消した。
(ふぅ……しゃあねぇ。ちょっくら覚悟決めるか。)
するとエリーは両手をだらんと垂らす。その直後、突然彼女の目の前に吸血鬼が姿を現したのだ。
「あきらめたかっ!!」
ローブの内側から再び何かがエリーへと向かって放たれる。しかし、エリーはまるでそれをわかっていたとばかりにニヤリと笑うと、だらんと脱力させていた腕に急激に力を込めた。
「諦めるわけねぇだろバーカ。」
極度の脱力から生み出される反応は速く、吸血鬼の攻撃が少し腹部にめり込むとほぼ同時に眼前にマグナムの銃口が突き付けられた。
「くっ!!」
躱そうと頭を動かす吸血鬼だったが、マグナムから放たれた一発の銃弾は吸血鬼の左目を抉る。
「ぐあぁぁっ!!」
左目を押さえて怯む吸血鬼へと向かってエリーは再びマグナムを構えると、今度は心臓の少し横辺りに狙いをつけた。
「チェックメイトだぜ化け物。」
そしてエリーがトリガーを引いた瞬間、彼女の射線を突然何者かの手が遮った。それによってエリーの放った銃弾は……。
「ほぅ、なるほど。銀加工の銃弾。確かにこれならば我々を仕留めるのはたやすい。」
「う……そだろ。」
エリーが放った銃弾は、射線を遮った一人の男の手によって、あろうことか手で受け止められてしまっていた。
それと同時にエリーの表情が一気に曇る。
彼女は感じ取っていた……先に戦闘していた吸血鬼がかわいく見えるほど、この男のほうが夥しい数の人間を殺していることを。
「銀の銃弾を使っているとはいえ、今はただの人間。純血に近い眷属をここまで追い詰めるとは実に面白い。」
エリーよりもはるかに背の高いその男は彼女を見下ろすと不気味な笑みを顔に張り付けた。
「面白いものを見せた褒賞を与えよう。」
すでに動けなくなっているエリーへとその男は手を翳す。すると、エリーが流し、床にたまっていた血だまりがうごめきだす。そして次の瞬間……血だまりから生えた無数の血の槍のようなものに彼女の体は無残に貫かれた。
「これぞ、至高の死に様……実に美しい。」
満足そうに笑う男の笑い声が廃工場の中に響き渡る。
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