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浴場へと足を踏み入れると、そこは巨大な露天風呂になっていた。山の紅葉、そして目の前で流れる滝……。まさに絶景だ。
「すっごい綺麗……エリー!!あっち滝が流れてるわ!!」
「ほぉ~、こいつはすげぇな。お袋が通うわけだ。」
「こんな場所を私たちだけで独占できるなんて……最高ね。リースさんに後でちゃんとお礼言わなきゃ。」
圧巻の風景を眺めながら二人はお湯に体を浸す。
「あぁ~……ラボの風呂も悪かねぇが、やっぱ本場は一味違ぇな。なんか体の奥底まで浸透してくる感じがするわ。」
「ね~、お湯もちょうどいい温度で、この景色を見ながらならずっと浸かれそう。」
湯に浸った瞬間からすでにとろけそうになっている二人。すっかりリラックスムードの二人のもとへ再びツバキが現れる。
「当旅館の温泉は如何でしょうか?」
「控えめに言って最高です~。」
「気に入っていただけたのなら何よりでございます。よければこちらも一緒にお楽しみください。」
するとツバキは猪口の乗ったお盆を湯船の上を滑らせてエリーの前に運ぶ。それに続いてメイの前にはお盆とコップに入った飲み物が流れてくる。
「こいつは……日本酒か?」
猪口を手に取り香りを嗅いだエリーはすぐに入っていた液体が日本酒であることを見抜いた。
「はい、エリー様はお酒にはお強いと先ほど伺いましたので、普段リース様が召し上がっているものと同じ日本酒を……。メイ様にはブドウのサワーをご用意いたしました。」
「わ、ありがとうございます!!」
美味しそうにゴクゴクと勢いよく飲み始めたメイの横で、エリーは少し感慨深そうにしながら猪口に入った日本酒を一息で飲み干した。
「よい飲みっぷりです。」
「はっ、お袋が好きそうなフルーティーな味の日本酒だ。」
「お口に合いませんでしたか?」
「いんやそういうわけじゃねぇ。今はこいつでいいのさ、まだ酔っぱらうつもりはねぇからな。ただ飯んときは辛口のやつがいいな。」
「かしこまりました。」
酒を嗜みながら湯に浸り、絶景を眺め、最高の時を過ごしていた二人。その最中、エリーはふとあることを思い出す。
「そういや、この旅館はお袋が建てたって言ってたよな?」
「えぇ、この旅館は設計から細部に至る何から何まですべてリース様が手掛けたものですよ。私はこの旅館の守り人として雇っていただいているだけなのです。」
「設計からって、リースさんそっちの方の知識もあるの?」
少し酔いが回っているのか、頬を赤くしているメイがエリーに問いかける。
「アタシに聞くなよ。お袋のことはアタシでさえ知らねぇことのほうが多いんだ。アタシが知ってるのはただ、とんでもねぇ量の知識に富んでて、とにかく強ぇ……そんでいてバカみてぇな金持ちってことぐれぇだ。」
「ふふふ、リース様はとにかく謎が多い方ですから。その全貌を知っているのはおそらくリース様本人しかいないでしょう。」
「自分のことを知るのは自分のみ……か。」
そうぽつりとつぶやきながらエリーはまた日本酒を呷る。そしてチラリと横に目を向けると、今にもメイが湯船に沈みそうになっていた。
「っと、名残惜しいがそろそろ上がるか。メイのほうが限界みてぇだ。ほれメイ上がるぞ。」
「ほぇ?わらひまら……。」
「呂律が回ってねぇ、続きは部屋に戻ってからだ。」
「う~。」
すっかり温泉の気持ちよさと酔いでトロトロにとろけてしまったメイのことをエリーは背負うとツバキへと向かって言った。
「わりぃが冷たい水を一杯もらえねぇか?」
「それならばこちらにご用意しておりますよ。」
ツバキがメイに一杯水を飲ませると、火照りが少し収まったようで、エリーの背中でメイは寝息を立て始めてしまった。
「ったく、酒弱ぇのに意地張りやがって。」
「ふふふ、意地を張ってでもエリー様と一緒に飲みたかったのかもしれませんよ?」
「…………。そういうことにしといてやるか。」
まんざらでもなさそうにそうぽつりと言ったエリーの姿にクスリとツバキは笑う。
「本当に仲がよろしいようで。」
「まぁアタシにはメイしか友達って呼べるような存在はいねぇからな。」
幼少期にメイと初めて出会った時のことを思い返そうとすると、突然エリーの頭にズキンと痛みが走る。
「……ッ。」
「エリー様?」
「問題ねぇ、アタシも少し飲みすぎたみてぇだ。飯まで部屋でゆっくりさせてもらうわ。」
「お体にはどうぞ気を付けてください?」
「あぁ。」
そして部屋へと戻ったエリーは、メイのことをベッドに横に寝かせると、部屋の窓を開けて煙草を咥えた。
「ふぅ……。」
煙を吐き出しながら少しうつむいたエリーは心の中で一つ言葉をこぼす。
(やっぱり思い出せねぇ。)
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