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松本ヨシキは自分の腕を丸ごと巨大なブレードのような形状に変化させると、エリーへと襲い掛かる。
「死ねッ!!」
「当たらねぇよ。」
振り下ろされたそれをエリーは軽く横にステップして躱した。エリーという標的を失った異形の腕は地面をたたく。その威力はすさまじく、硬いアスファルトが粉々に砕けた。
(あの腕……喰らったら死ぬな。)
冷静に分析しながらエリーは周囲の状況に気を配る。
(ここじゃ人が来るのも時間の問題だ。場所を変えるか。あいつはアタシのことを必ず殺しに来る。ついてくるはずだ。)
そう判断したエリーは寂れた裏路地のほうへと走る。
「っ!!にげるなっ!!」
すると彼女の予想通りターゲットはエリーを追いかけて行く。脚力も人間離れしているせいで松本ヨシキはあっという間にエリーの背中に追いついた。
「逃げられるわけ……。」
「逃げてねぇよバーカ。」
くるりとエリーは体を翻すと、勢いそのままにターゲットの顔面に蹴りを叩き込む。そして一瞬ターゲットの動きが止まった瞬間を逃さず、銀製のナイフで喉笛を搔き切った。
「あがっ!!」
「おっ、ちょうどいい。」
悲鳴を上げようとターゲットが口を開けたのを見計らって、エリーは彼の口の中に対吸血鬼用のマグナムの銃口を突き入れた。
「もごぉっ……」
「あいにくこの銃のサプレッサーは開発中でな。てめぇをサプレッサー代わりにさせてもらうぜ。」
そう言って容赦なくエリーはマグナムの引き金を引いた。
ドンッ!!
大して銃声は抑えられなかったものの、音の反響は抑えられた。その代わり整っていたターゲットの顔面は原形をとどめないほど滅茶苦茶になってしまったが……。
「ふぅ、メイ終わったぜ。」
『お疲れ様、ケガはないエリー?』
「問題ねぇ。回収ルートの指示頼む。」
『了解。』
そしてエリーはターゲットを確保するとメイの指示したルートに従ってラボに戻るのだった。
エリーがターゲットをラボに運び入れると、リースがニコニコと微笑みながら待っていた。
「サンプル一体持ってきたぜお袋。」
「うんメイちゃんから話は聞いてるよ。今回は割とスマートにやれたんじゃない?」
「そうでもねぇ、結局こいつを使っちまった。」
エリーはターゲットを打ち抜いたマグナムを取り出した。
「あ、使ってくれたんだね。」
「あぁ、こいつの口ン中をサプレッサー代わりに使えねぇかと思ったが、やっぱ無理だったわ。」
そう話すエリーの言葉にドン引きするリース。
「人の口をサプレッサー代わりにって……残酷なこと考えるねぇエリー。」
「しょうがねぇだろ、どうにか銃声を小さくできねぇか模索してたんだ。あいにく水入りのペットボトルも持ち歩いてなかったもんでな。」
「ま、これのメンテナンスも請け負っておくよ。だいぶ血が中に入っちゃってるみたいだからね。」
「ん、頼んだ。」
「さて……今回のサンプル君は、松本ヨシキ君だったね。どんな状態かな~…………うわぁ、ぐちゃぐちゃ。」
リースは死体袋を開けると、その中に納まっていた松本ヨシキの凄惨な体を見て顔をしかめる。しかし彼女はあることに気が付く。
「ふむふむ、予想通り傷の修復が始まってるね。いくら銀製の武器での怪我であっても時間経過で修復する……これは芦澤カナの時と同じだね。まぁ今回は頭を吹っ飛ばされてるから治りは遅いみたいだけど。」
「銀製の武器でも治っちまうのか?」
「うん、かなり修復は遅いけどね。それとあくまでも例外だけど、切断した断面同士をくっつければ銀製の武器の攻撃でも即修復可能みたいだね。」
「そういや芦澤カナの首と胴体くっつけてたな。」
「そうそう、あれは彼女に脈がまだあったからもしかして~と思ってくっつけてみたんだよ。そしたら大成功ってわけさ。」
「よくそういうことぶっつけ本番で試そうと思うな。」
「これも研究者としての性ってやつさ。やってみようと思ったら即行動しちゃう。」
エリーの言葉に答えながらリースは松本ヨシキの体の状態を確かめ終えると、死体袋のジッパーをキュッと締めた。
「うん、死にかけだけどまだ生きてる。これから怪我が治るって考えればほぼ健康体みたいなもんだね。」
「ってかよ、芦澤カナもそうだったが……首を切り落としても死なねぇ、こいつに至っては口から弾丸つっこまれても死なねぇとか、逆にどうやったらこいつら吸血鬼は死ぬんだ?」
「それはまだわからない。もし、現代まで伝わってる伝承通りなら……心臓を銀製の武器で貫いてみるとか?まぁまぁいろいろやってみるさ!」
さぞ楽しそうに笑うリースの笑顔はサイコパスのそれと何の遜色もない。
「エリーは少し休んでなよ?メイちゃんもここ数日少し無理してたみたいだから、二人は少し休むこと!ね?」
「はいはいわかったよ。」
「うん結構、それじゃ何かまたわかったら随時知らせるよ。」
そしてリースは死体袋を引きずって自分の研究室のほうへと歩いて行った。
「しばらく休め……ねぇ。休めつったって、な~んもやることねぇしなぁ。」
つまらなそうにそうぼやいたエリーの頬にぺしっとチケットのようなものが当てられる。
「そう言うと思って姉さんがちゃんと準備してくれたみたいだぜエリー。」
「なんだよこれ……温泉旅行のチケット?」
背後から現れたバリーに手渡されたのは二泊三日の温泉旅行のペアチケット。
「またお尋ね者になったアタシらがこんなもんできると思ってんのか?」
「言ったろ?姉さんがちゃんと準備したってな。」
「……そういうことね。」
チケットの裏をめくればそこにはリースの字で「楽しんで♡」と書かれていた。
「お袋の息のかかった場所ってわけだ。ならまぁ安心か。」
「メイちゃんと一緒に温泉にどっぷりつかってリフレッシュして来いよ。」
「ん、メイにも話してくるわ。」
エリーがそのチケットを持ってメイのもとへと向かうと、すぐに二人の二泊三日の温泉旅行が決定した。
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