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100年の休暇  作者: 十月猫熊
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意識を取り戻したカティアは、体が元気になってきても、マイク一家の家に居続けていることや、カティアの物がどんどん買い揃えられていくのに戸惑っていた。


そんなある日、5人で夕食のテーブルについたところで、話がある、とマイクが切り出した。


ちらり、とこちらを見られて、カティアはいよいよこの家族とお別れなのか、と俯いて、下唇をこっそり噛んだ。

どんなことをいわれても泣いてしまわないように…。


「あー、その。カティアが随分と元気になってきたので、カティアの仕事がようやく決まった。この別棟での雑用係だ。まあ、その名の通り、何でもやらなくてはならないので大変な仕事ではあるが、やりがいもあるし、たくさんの人と知り合える仕事だ。悪くないと私は思う」


仕事が決まった…!

嬉しくて、俯いていた顔を上げた。


元気になったところで領主の館から追い出されてしまうのでは、と内心怯えていたけれど、少なくてもこの敷地内にマイク一家と一緒に居ることができる。


独身寮に移っても、別棟の食堂で働くカイトの姿なら、食事の時に見られるだろう。

モナと自分の休みが重なることがあったら、少し話ができるかも。

雑用係なら、庭師のマイクの手伝いをすることだってあるかもしれない。

ラルフとは、彼が鍛錬のために敷地内を走っているときにすれ違うかも。


そう思うと嬉しくなった。


ふと、4人がじっと自分を見つめているのに気が付いて、どうしたらいいか分からなくなって、4人の顔をきょろきょろと見た。


「それでね。私、サラ様からご褒美をいただいたの」


モナがそう言って嬉しそうににっこりと笑った。


ご褒美を頂けたのなら嬉しいに違いない。

何をいただいたんだろう…?


思わず首を少し傾げると、すっと席を立ったモナがカティアの隣に来た。


膝立ちになってカティアと目の高さを合わせ、そしてカティアの膝の上にあった両手をとって、モナの両手で包むようにした。


「それはね、あなたよ。カティア、あなたをうちの子にしていい、ってお許しをいただいたの」


最初、言葉の意味を理解できなかった。


あまりに想像とかけ離れたことをいきなり言われると、内容を飲み込むのに時間がかかるものだとその時初めて知った。


「うちの子…?」


「ええそうよ。あなたにはそのペンダントがあるから、いつか本当の御家族がお迎えに来るのでしょうけど。それまでは、私たちの娘になってくれないかしら?」


「そうだ、モナだけじゃなく、俺だって娘が欲しかった」


マイクはそう言って頷いているし、ラルフは椅子を蹴立てて立ち上がると、「妹だ!」と叫んでテーブルの周りを駆け回り始めた。


隣に座っていたカイトは、にっこりと微笑んで「こんな騒がしい家族は嫌かな?」と駆けまわるラルフを捕まえて椅子に押し戻した。


カティアはどんなことを言われても泣かないように、と思っていたことも忘れて、ぽろぽろと涙をこぼし、嬉しさのあまりに涙が止まらなくなることもあるのだということも、初めて知った。


「こんな私でもいいのですか…?」


思わず聞いた一言に、四人が頷いてくれて、口々に、あなたがいいの、カティアがいいんだよ、と言ってくれる。


「よ、よろしくお願いします」


小さな震える声でそう答えるのが精いっぱいだった。


そうして3年たった今でも、そのまま一緒に暮らしている。



***



周りの見知った人たちからの生暖かい視線にめげず、出迎えたカティアを軽々と抱き上げ、くるくる回っているラルフは、3年前、カティアとそう変わらない体の大きさだった。


犬の獣人はヒトよりは長命で大抵100歳過ぎまで生きる。


当時、15歳のラルフは、まだ耳やしっぽがあって幼体と呼ばれる状態だった。

ラルフの二次成長はとても遅かった。

15歳で幼体というのは滅多にいないらしい。


そして、幼体だったので、しばらく二人で同じベッドで眠っていた。


ヒト族の感覚だとぎょっとするかもしれないが、耳やしっぽのある幼体のうちは男女もへったくれもないのだ。


当時、ラルフのモフモフしたしっぽを撫でながら眠りに落ちるのは幸せだった。


それがいまや、ラルフは見上げるような体躯となってしまった。


もちろん耳もしっぽもない、18歳の青年だ。

そして、まだ18歳なので、大きくなるのが止まっていないようだった。


そして、カティアも孤児なので出自が分からず、はっきりしたことは言えないまでも、どうもヒト族ではなさそうだと分かってきていた。


「あー、全然変わってないか。てかむしろ縮んだ?やっぱりこのままなのかなぁ。小人族って珍しいよな」


「縮んでません!ラルフ兄さんがまた大きくなっただけでしょ!」


12歳までは、特にヒト族と違うようなところはなかった。

髪色がオレンジ色という珍しい色なくらいで。


そして、13歳になると、他の子より小柄かな?という感じがし始めていた。

そんな頃にここに奉公に上がったのだ。


そして16歳になった今。

カティアは13歳の頃とほとんど変わっていなかった。


大抵の種族の女の子たちが女性らしい体つきになっていく年頃なのに、カティアの体が丸みを帯びてくる気配はない。


さらにモナも気にしてくれていること。…初潮も、なかった。


初潮がないままなら、女性の体としてどこか不具合があることになる。


将来結婚もできない。


結婚して仕事を辞めていく者もいるが、一生独身で働いている者もたくさんいる。

もちろん、結婚しても働き続ける者もいる。


カイトやラルフがお嫁さんを娶る日もそう遠くないのだから、実家に変な小姑がいてはお嫁さん達に驚かれてしまう。


彼らにお嫁さんが来ることになったら、独身寮に移って、一生ここで働かせてもらえばいい、と思うようになっていた。


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