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狂乱武舞  作者: 鹿末玄胴爾
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第四話「赤き刃」

「……知ってる事、全て吐いてもらうぞ」


 金城は振り返り、赤髪の男の姿をじっと見た。身長は平均的だが体格はしっかりと引き締まっている。

 顔には歴戦の古傷が刻まれており、彼もまたその赤い瞳で金城を伺っている様子。

 腰にぶらさげた短剣の柄に左手を乗せ、顎を右手で触って呑気にしているが全く隙がない。


 対、同業者戦に慣れた殺し屋。と金城は評価する。


 赤髪の男も同じ感想を抱いていた。身長は高く、二百と言えるほどの大きさがあり、体格は動物のゴリラを彷彿とさせる程に筋骨隆々。

 警戒心は凄まじく迂闊に攻撃してもこなければ、自分の間合いに入ることも許さない。


 押し測れない程の死戦を潜り抜けてきた歴戦の殺し屋。と赤髪の男は評価する。


「全盛期の時に対峙しなくてよかったわ」


 沈黙を破り、赤髪の男が口を開く。


 何か作業をしてる時に会話をすると集中力を下がる。それは一般人での話。

 彼は金城が評価した通り隙のない猛者だ。言葉を投げつつ相手の油断を誘い、一閃を繰り出すつもりだった。


「な、にぃ……!?」


 気づいた時には金城が足元にいた。


 相手が同格、格下ならば思惑通りになっていただろう。その二点が揃っていればの問題だが。


 先程奪った槍をしならせ、金城は赤髪の男の首に突き立てた。


 鉄と鉄が衝突し、火花が飛び散る。赤髪の男は貫かれるより前に短剣で攻撃を防いで見せた。

 そのまま薙ぎ払って金城から距離を取り、もう一方の短剣を抜いて構える。


「どんな踏み込みだよ……。人間辞めてんのか!?」


 赤髪の男は呼吸を乱し、汗を垂らしながら声を荒げる。彼の表情からは完全に余裕が消え去っていた。

 そして、今発した言葉がまた彼を乱すことになる。


 金城は前屈みになり両膝を曲げ、大きく飛び跳ねた。それにより地面に亀裂が走り、煙が舞う。


 頭上からの攻撃。


「うおらぁ!!」


 前方に向かい両刀をクロスに斬り、反撃に出る。しかし、手応えはなかった。

 赤髪の男は唖然とするが、煙の中から感じた殺意に反応してしゃがむ。

 発砲音が響いた。


 弾丸が彼の頭上を通過し、壁に穴を開ける。二発目の弾丸は頬肉を掠め取り、三発目は明後日の方向に。

 もう一発目は……こない。

 弾切れか油断を誘うためのブラフ。思考を張り巡らしながら、頭と心臓を腕で守りつつ前進する。


 弾を装填する音がした。聞き逃さなかった赤髪の男は晴れない煙の中に向かい、左の短剣を投げた。

 肉が裂けたような音が響き、赤髪の男は口角を上げる。


 次の瞬間、飛んできて槍が彼の右肩に突き刺さった。


「ぐおぉっ!?」


 そのまま衝撃に持って行かれる形で転倒する。攻撃を受けた際に右の短剣を手放した。

 故に武器が無い状態だ。

 赤髪の男は動かせる左手で槍を掴み、引き抜こうとするとーー


 背中に衝撃を受け、うつ伏せに倒れた。


 鼻血を垂らしながら振り返るとそこには金城がいた。赤髪の男は魔の抜けた顔をする。

 恐る恐る前に振り向くと、晴れていく煙の中に胸に短剣が突き刺さった小柄な男の死体があった。


 ここは路地裏で左右の建物に挟まれている。その片方の建物の窓が割れていた。

 槍を投げ、窓を破り回り込んできたのか。と赤髪の男は考えるが首を振る。


 今、この状況になるまで一分も経っていない。


「んっ、あぁ?」


 赤髪の男は考えていると、彼の肩に突き刺さった槍が突然震えだした。

 そして、彼の肩を完全に突き破り金城の元へ飛んでいく。


「ぐおああぁああ!!」


 槍は金城の手に向かい、金城はそれを刺さらぬよう受け止めた。

 血を大量に流しながら赤髪の男は理解した。


「磁石か、回りくどい真似を……」


 満身創痍と言えよう。それでも尚、彼の闘志は消えておらず平然と立ち上がって左手にナイフを持つ。

 金城は感心したような表情を浮かべた。


 束の間、赤髪の男の回し蹴りが金城の顔に命中する。


 出血多量と右腕が使えないハンデを物ともせず、素早い攻撃。金城の中の評価が跳ね上がった。

 槍を回転させ両手に持つと、目に見えぬ速さで連撃を繰り出し赤髪の男に突き刺した。


 敢えて致命傷にならない程度に攻撃を受け、赤髪の男はタックルを仕掛ける。がビクともしない。

 金城は槍の柄で押し退け、石突を腹部に打ち込んで蹴り飛ばした。

 赤髪の男は衝撃を流しきれず、倒れ伏せる。


「がっ、ぐうぅ」


 まだ諦めまいと起きあがろうとするが、金城は石突で顔を殴り押さえ付けて抵抗できなくする。

 勝敗は今、決した。


「……お前、名前は?」


 押さえつけたまま、金城は彼の名を聞いた。赤髪の男は敗北したことを潔く認め、目を閉じて口を開く。


「イレウス、イレウス=プライド」


「俺の名は金城春秋だ」


 敵意を解いて押さえてた槍を離すと、金城は倒れるイレウスに手を伸ばす。

 一瞬戸惑うが、イレウスは金城の手を受け取り立ち上がった。


「まずは知りうる情報を洗いざらい吐け」


「拒否権は?」


「そういうのは要らん。俺は無駄なやり取りが嫌いだ」


 消えていた殺意が少し漏れ出したを感じ取ったのか、イレウスは無駄口を叩くのを辞めた。


「組織名はGSZ、ジェノサイズ。ボスの名前は平岡透で狡猾で用心深い奴だ」


「以前は数十万単位の構成員がいたらしいが、地上での戦争で敗北して今は一万弱しかいない」


「リベンジするために必死なんだろうな。血眼になりながら、俺らのような野良の殺し屋かき集めてる」


「最強格の殺し屋を、な」


 イレウスは金城を横目に見た。


「野郎は俺を試してるのか。虫唾が走る……」


「あんたが直接動いて来るのは予想外だったけどな。本来、俺はあんたの所の二番手と接触する予定だったし」


「凍上か、……ふはははっ」

「なんだよ」


「平岡の野郎はしっかり調べてる割に、力量の差が解らんようだな。凍上とお前じゃ天と地だぞ」


 金城の発言に苛立った様子を見せるが、すぐに冷静になりイレウスは質問をした。


「評価してるんだな。その、凍上という奴のこと」


「俺より強いからな」


「……はっ?」


 驚くイレウスに見向きもせず、金城は咥えた煙草に火をつけて煙を吐き出した。

 そして、細目で後ろに振り返る。


「なぁ、凍上」


 視線の先には息を荒げながら額に青筋を浮かべ、殺意を剥き出しにした白髪の男が立っていた。


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