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第9話 初陣

 大丈夫。怖くない。大丈夫。怖くない。

 声にならない程度に呟きながら、夜の住宅街を跳ぶ。

 街にはもう既にSOが現れたことを示す警報が鳴り響いており、住人もほとんどが避難してくれているはず。

 ───この先にSOがいる。これが、この戦いが、私にとっての初陣だ。だけど、大丈夫。怖くない。

 足に意識を集中させて再度跳躍。次の着地点はあそこの屋根の上にしよう。


「───ルク、バルク!」

「っ……?!」


 そんな感じで必死に色々考えながら移動していると、唐突に横から大声で話しかけられて、思わず着地した民家の屋根の上に止まってしまう。


「バルク、焦りすぎだよ。それに……震えてる。顔色も悪いし、ホントに大丈夫?」


 心配したように私の顔を覗きながら言う彼女は、私と一緒に魔法少女に覚醒した幼なじみ、リーテタンザナイト。


「大丈夫、大丈夫だよ、加蓮(かれん)ちゃ───」


 あっ、本名で呼んじゃった……私は思わず口を手で塞いだ。今更遅いけど……

 変身してる時は他の魔法少女のことは魔法少女名で呼ぶようにってさんざん芽依(めい)さんに言われたのに……


「ホントに大丈夫? もし辛いなら、今からでも───」

「大丈夫! ほんとに、大丈夫だから……!」

「あッちょ、沙紅(さく)!」


 加蓮ちゃんの引き止めるような手を無理やり振りほどいて足を戦場に向ける。

 行かなきゃいけないから。例え、怖くても、帰りたくても、戦わなくちゃいけないんだ。


「みんなを助けたいから。私にはそれが出来るだけの力がある……だから───!」


 腰のホルダーに懸架された、魔法少女の武器にしては少々不釣り合いな拳銃を取りだしながら、また戦場に向かって跳躍する。


「魔法少女バルクガーネット。みんなを助けに来たよっ!」


 月の光を背にして、戦いに参戦する宣言をする。

 みんなを助けたい。そのために戦う。それが、私、一条 沙紅の願い。魔法少女バルクガーネットとして戦う理由。


「まずは、怪我してる人がいないか探さなきゃ……!」





「魔法少女バルクガーネット。みんなを助けに来たよっ!」


 沙紅の戦闘に参加する宣言が、まだ追いつけていないボクの耳に届く。

 シューターのくせにアタッカーのボクより足が早いから、訓練の時もボクが参戦する前に戦いに参加することが多々あった。

 アタッカーのサポートするのがシューターの役割のはずなんだけどな……と考えながら、自分も戦いに参加する宣言を行う。


「魔法少女リーテタンザナイト。護るため、我が(やいば)を振るう!」


 今日の……いや、変身した時の沙紅はいつも、どこか焦っているように感じる。

 芽依さんにも散々焦りすぎだと注意を受けていたが、最近の訓練では少しずつ、焦りが少なくなって冷静さを取り戻しつつあったんだけど……ボクもだけど、いざ初陣ってなるとやっぱりどうしても。ね?

 かく言うボクも、いざ戦場が目に入ると恐怖やらなんやらかんやらで視野が狭くなる。これも芽依さんに注意されている。『恐怖も緊張も必要だけど、しすぎると体が動かなくなる。そうなるとその後は死しかないわよ』とは芽衣さんの言葉だ。

 目の前の破壊された街の惨状、その奥に見える空間を切り取ったような結界。まだSOの姿が見えないから、いきなり戦闘開始っていう訳じゃない。でも、それでもこの後に会敵したらと思うと……怖いものは怖い。


「───それでも、護りたいものがあるから」


 バルクガーネット(沙紅)は既に救助者がいないか探し回っている。あまり離れると守りづらいし、最低でも2人1組で行動するべきだ。

 魔法少女は4人1組のスクワッドで動くことが基本とされている。今この場にいるのはボクとバルクの2人だけだが、後から先輩2人が合流する手筈になっている。───とにかく、それまでにSOを探し出して、巻き込まれた人がいたらすぐに助けないと。


「バルク!」


 救助者を探しつつ不自然な結界の方に行こうとしているバルクを呼び止める。


「あの中に2人でいくのは危険だ。せめて先輩を待ってからじゃないと」

「リーテ……分かってるけど、でも───」

「でもじゃない」


 案の定、止めなければ1人でも突っ込んでたなぁ、こりゃ。

 バルクの願いは『みんなを助けること』。誰かが助けを求めているかもしれないなら、彼女は迷わず突撃する。確かに悪い事ではないと思うけど、助けるために自分のことすら顧みないその姿は、正しく弾丸。


「まだ周りの捜索も完璧じゃないから、まずはそこからだよ。あの中は、先輩たちが来てから一緒に。ね?」


 ───誰かを助ける沙紅を護りたい。それが、ボクの、刄田(はた) 加蓮の願い。

 まだ結界の方に行きたいのか、今にも走り出しそうな勢いのバルクの手を、離さないように、離れないようにしっかりと握る。


「弾丸みたいな打ちっ放しになんて───させない」


 手を引く沙紅に聞かれないように呟いたボクの誓いは、夜の風に溶けて消えた。

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