第11話 護る
「グギ……?」
外からの、何らかの力によって、我が切り取っていた空間が元の空間に戻された。
これは一体───
「【破壊】、だろうね。君が構築した、空間を切り取っていた魔法を破壊したんだろう」
破壊の魔法か……なるほど、恐ろしい力だ。目の前の宿敵とは違う、我にとって、正しく天敵と言える魔法だ。
その使い手がここに向かっているというのか。ならば出来るだけ早く、ここから離れたいものだが……
「ここに着くまで、まだ時間があるな。カニくん! なぜ攻撃をやめてるだい?! まだ研究は終わっていないよ!!」
「グギ……」
やはり、そうなるか……致し方あるまい。早めに魔人の満足いくものを引き出して、ここから撤退することとしよう。
そうつけないため息を心の中でつきながら決め、次の斬撃を放とうとした。その瞬間だった。
「───」
少年を守っていた障壁が……消えている。
先程の破壊の魔法とやらに消されたのか……?
「ふむ、あの障壁は先程の破壊の魔法で消えてしまったようだね……残念だ」
もっと研究したかったのにと言外に言う魔人を思わず睨みそうにな───
「ッグ……?!」
突如、少年の体から濃密な闇が溢れ出した。
なんなんだいきなり……少年の体に何があった……? いや、そもそも人間が闇の魔力なぞ使えるはずが……
そう思考している間にも、少年は闇の魔力をとめどなく溢れさせている。
───我は……これと同じものを見た事がある……これは……これはまるで……
「ッ……創造主のようなオーラだね、興味深い……」
魔人さえも圧倒する闇の魔力……そう、正しく。
我が生まれた瞬間に見た、あのお方の力と同様のモノに間違いない。
◇
「なになになになに?!」
リリー先輩が結界を壊して少ししたあと、ボクたちに襲いかかってきた強烈な魔力の奔流に、沙紅の声で気がついた。
「バルク!先輩!」
ボクは咄嗟に沙紅とレイド先輩の前に体を滑り込ませ、腰の刀を抜き放ちながら中段に構える。
濃密な魔力は、それだけで人を殺せてしまう。魔法少女もある程度は耐性があるけど、直感が告げてる。あれは容易にボクたちを殺せる魔力だ。
───これで守れるかは分からないけど、沙紅を護るためにやるしかない……!
「ボクたちを守れ! 『神秘の護り手』!」
ボクたち魔法少女の魔法は、魔法少女自身の願いの強さによって魔法の強度が変わる───今のボクの願いは、沙紅を護ることだ!
「いっけぇぇぇぇえええええええ!!!!」
この状況で生き残れるならこの魔法しかないと、思い出したように頭に浮かんだ魔法に思いっきり魔力を乗せて、濁流のように押し寄せる禍々しい魔力をぶった斬る。───瞬間、斬った空間がパックリと割れて、ボクたちを守るような盾が展開された。
表面が多角的に磨かれた灰簾石の盾のようなボク自身の魔法に、他人事のように、美しいとそう感じた。
「ッ───うぉりゃぁぁぁぁああああああ!!」
ピシ、ピシ、と少しずつヒビが入っていく盾に、なおも魔力を注ぎ続ける。これがなくなったらダメだ。ボクだけじゃない、沙紅も、先輩たちも……!
「───うんうん、よく頑張りました。あとは任せなさい」
もう限界だ……と、そう考え始めていた時、ふと肩に手を乗せられる。
横目で見れば、いつでも魔法を放てるように、鎌に魔力を集めた状態のリリー先輩が、ボクの横に立っていた。
「壊しなさい……『平和のための破壊者』ッ!」
鎌を切り上げるようにして一振した瞬間───目の前から流れてきていた魔力が、掻き消えた。
これが……リリー先輩の願いの魔法……
「凄すぎですよ……リリー先輩───っ」
「おっと」
目の前の脅威が無くなったことで安心したのか、足の力が抜けて倒れそうになったところを、レイド先輩に支えられる。
「初めて、しかも、自分の魔力の殆どを乗せて願いの魔法を放ったんだ。しばらく休むといい」
「そうよ〜? 変身を維持してるだけでも辛いでしょ? ゆっくり休んで」
「ありがとう……ございます」
レイド先輩とリリー先輩に言われ、2人に支えられながら、住宅の塀にもたれるようにして座る。
「凄いよ、加蓮ちゃん! 初陣で願いの魔法を使えるようになるなんて!」
「バルク、魔法少女の時にリーテに本名で話しかけるなと何度言われれば気が済むんだ?」
「あ……ご、ごめんなさい……」
「全く、興奮するのはわかるが、ここは戦場であり───」
「まぁまぁ、そこら辺にしてあげなさい」
───護れた。
沙紅も、先輩たちも、自分も。誰一人欠けることなく、あの魔力の奔流を乗り切った。この、いつものスクワッドを護れた。
今のボクには、【願いの魔法】なんかより、その達成感に包まれていた。
「───おや、魔法少女じゃないか」
「グギャ……」
この後に何が待っているのかなんて、考えもしないほどに。