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第九十八話…… 『目次・2』

「日暮~ 見舞いに来た、 入るぞ」


ん?


「ん? 何だよまた寝てたのか、 まだ疲れが溜まってんよかよ…… まあ仕方ないか」



「あぁ…… わりぃ、 冬夜か、 来る事は土飼さんから聴いてたんだけどな、 何かずっと眠くて」


《午後十三時頃・医務室》


「大丈夫日暮君? でもわかる、 具合い悪い時ってめっちゃ眠いよね、 多分体がさ休めって言ってるんだよ」


冬夜と、 威鳴さんだ、 ん? その後ろにも……


「日暮くん、 元気?」


おっ


「菊野か、 何か話すの久しぶりだな、 体は元気、 でも威鳴さんの言うみたいにさとにかく眠いのよ」


菊野和沙きくのなぎさだ、 彼女は冬夜と同じ中学の同級生で、 同じクラスの友人だ


「菊野さんの偶然会ってさ、 日暮のお見舞いに行くって言うから、 一緒に来たんだよ、 ちょっと大所帯になっちゃったかな?」


ふっ


「別に良いよ、 ありがとな、 菊野も、 それに威鳴さんもわざわざ、 三人とも色々忙しい時期だろうに」


冬夜は笑う


「何だよ、 そんな気を使ってらしく無いぞ日暮、 お前はもっと堂々とよく来たなって感じで迎えりゃ良いんだよ」


ははっ


「だったら果物の一つでも持って来いよ、 定番のリンゴだな、 うさぎをの形に切ってくれよ」



「ばーか、 今や高級品、 お前に食わす果物なんざねぇよ、 そんなのはママにでも頼みな」


あははっ


ははっ


「ふふふっ、 でも日暮くん本当に元気そうで良かった、 びっくりだったよいきなり、 その、 あんな事になって」


あー


「心配かけたな、 もう大丈夫だよ、 土飼のおっさんにもさっさと復帰しろって急かされた所だし、 直ぐに良くするよ」



「やめとけって、 今なんか特に会議しかする事無いから、 それが休めるならラッキーじゃん、 俺だったら幾らでも休んじゃうね」


この気楽な兄貴感、 威鳴さん年上だけど話しやすいな


「まあその冗談は置いといても、 本当に休めよ? 多分これからもっと忙しくなるからな、 日暮、 お前の力が必要何だ」


俺の力が…………


「なぁ、 冬夜」



「ん? どうした日暮」


あっ、 あ………………


「あのさぁ、 その、 皆がさ、 俺の事を…………… いや、 やっぱなんでも無い」



「何だよ、 俺の事をなんだ?」



「……んでもねぇよ、 そう言えば冬夜こそもう体は良いのかよ? ずっと敵に捕まってたんだよな」



「………ああ、 そうだな、 でも体はそんなに異常無いんだ、 でも久しぶりに飯食って布団で眠れた時思わず泣きそうになったぜ」



「冬夜くんも無事で良かったよ、 本当にずっと心配だったし、 日暮くんも、 冬夜くんも、 あの日の約束を守って帰ってきてくれた、 私嬉しいよ」


相変わらず良い奴だな


「すーん、 なになに、 皆マブダチなの? お兄さん置いてけぼり~ ねぇ和沙ちゃん、 俺も頑張ったんだよ? 褒めて~」



「あはは…… 威鳴さんもおつかれさまです、 頼もしいです」


やったー ……………ん?


「あれ? そう言えば何か忘れてる様な……… 何だっけ?」



「まあ良いや、 あんま長居すると日暮君休めないよな、 早いけどそろそろおいとましようか?」



「そうですね、 ……日暮、 今はしっかり休んで備えろよ、 何かあったら呼んでくれ」


はぁ……


「わーってるよ」



「私も行くね、 日暮くんまたね」


手を振ると三人は医務室から出ていく、 あれ?


「何か話がある様だって土飼のおっさん言ってなかったかな?」


ん?


……………………………………



…………


「………あれ? 冬夜君、 俺達やっぱり何か日暮君に質問があったんじゃ無かったっけ?」



「う~ん、 そんな気もするんですけど…… それより俺は日暮が言いかけた言葉が気になって…… あいつ何か悩んでるのかな?」


菊野もぐいっと前に出て同調する


「私もそんな感じした、 日暮くんって何時もは悩みなんか無いよって感じしてるけど、 嘘が下手だから、 誤魔化して直ぐに分かるんだよね」


お~


「二人とも日暮君の事がよっぽど好きなんだね~ 友情だね、 青春だね~」


二人は頷く


「俺は日暮のおかげで前に進めましたから」



「私も、 二人が居てくれたから一歩踏み出せたんです」


医務室の通路を歩いて行く三人、 そうは言うが三人が三人何か奇妙な記憶の欠損がある様に感じる事に違和感を覚えて居た


(……日暮君に何か聞こうと思ってたのに、 何だっけな)



(……私、 普段はこの時間誰かと追いかけっこしたり遊んでたよね? 誰だっけ)


欠けたパズルのピースの様に永遠に埋まらないだろうと思う程の欠如、 その違和感すら何時しか忘れてしまう……


………………………………



……………



……


《午後十三時半頃・共有五番室》


「いてて…… この間ぶつけた所がさまだ痛いんだよね、 赤くなってんの」



「へー、 って何したの?」


二人の女性が並んで話をしている、 一人は肘をぶつけたようでさすってもう一人に愚痴を吐いていた


「ほら、 この間、 何かやばいって言われて一番室? 広い所行ってさ避難したじゃん? あの時にさ…… 私あんまり覚えて無いんだけどさ、 誰かに押し飛ばされてさ、 それで転んだ拍子にぶつけたの」



「え? 何それ怖…… だめだよそういう時は相手を掴んででも止めなきゃ」


んー


「いや、 そうなんだけどさ、 その時の事あんまり思い出せないけど、 男だったんだよね、 通路を歩いてる男に押し飛ばされた」



「ふ~ん、 でもあんた、 なんで通路何かに出てたのよ、 ほらブロック分け見たいな感じだったじゃん避難はさ」


肘を摩る女性は首を捻る


「だから~ あんまり覚えてないの~ でも誰かに突き飛ばされたって事は分かるの」


そんな事…………


「突き飛ばした奴が誰なのか俺知ってるよ」



不意に横から声が聞こえて女性二人はそちらを見る、 男がすぐ側で壁にうつかっていた


「俺見てたから知ってるよ、 あっ、 俺は聖夜、 星之助聖夜ほしのすけせいやいや~ 君運がいいよ、 こういうのはさ時が経って有耶無耶になるのが関の山だから」


「俺が見ててよかったよ、 怪我したんだもんね? 許せないよね綺麗な肌なのにさ」


星之助聖夜の名乗る男の纏うオーラ、 女性二人は訝しげに思いながらも気づけば頷いていた


「あの? それで誰何ですか? 私を突き飛ばしたのは」


男は怪しく笑う


「明山日暮、 知ってる?」


…………………………………


《同時刻・共有六番室》


「よく思い出して下さい、 明山日暮が突然シェルターで戦いを始めたんじゃないですか、 それで多くの人が傷付いた」


う~ん


「でも…… 化け物も倒してくれたし、 あの戦ってた人だって悪い人だったんでしょ? 結果的には守られた訳で……」


主婦達の集まりの中に、 若者が混ざりこんで話をしていた、 専らあの日、 藍木シェルターが襲撃にあった日の話である


「結果的って、 それが一番だめなんですよ、 彼はヒーローじゃ無い、 自分勝手に戦った、 見てましたか? 笑っていたでしょ」


うんうん


「そうだったそうだった、 あんなに皆が傷付いて、 こっちはお願いやめてっ! って思ってたのに、 あの子楽しそうに笑ってたわね~」



「そう言えば…… ありがとう何て感謝してたけど、 実際にありがたかったのは…… あら? 誰だったかしら……」


ざわざわ


「なーに言ってんのよ…… ほらあの子でしょ? その、 傷付いた皆を治してくれた…… 何とかちゃん? あれ? 名前が出て来ないけど」


それに皆が頷くのを見て、 若者は語気を強める


「ここだけの話、 この間このシェルターを守ってくれたのもその子何ですよ、 あの明山日暮は何もして居ないんです!」


多くの人が調査隊の作戦を実際には知らない、 ここには多くの人が居る、 誰が調査隊で、 その時藍木山攻略戦が行われて居た事も知らない人が多い


「なんなのそれっ! 本当に何もして無いんじゃない! 皆苦しんでるのに一人だけいい気になってるだけって事?」


何もして居ない何て若者は言っていない、 勝手な妄想で悪印象が膨らむのは大いに嬉しい誤算である


「そうそう、 今彼、 ずっと医務室のベットを使ってダラダラとしているんです、 体は健康その物、 どこも異常はありません」


主婦達の頭が猫の様に逆立つ


「キィー 許せないっ! 私文句言いに行ってやるわ!」


ははっ


「いや奥さん、 ちょっとお待ちになって、 今数人で行った所で相手にされませんよ、 あいつは自分の他人からの評価をいい事に、 このシェルターの管理人から優遇されている立場何です」


「問題を起こせば邪険にされるのはこちらの方だし、 第一あいつは平気で人を殺そうとする恐ろしい奴です、 見ていたでしょ? 近づくのは危険です」


主婦は頭を抱える


「だったらどうすればいいのかしら、 こんなに頭に来たのは久しぶりよ、 一刻も早くあいつをここから追い出してやりたいわ」


パチンッ


男が指を鳴らす


「奥さん、 良いねぇ、 それそれ、 追い出す、 もっと言うと自主的にここから出ていってもらうんですよ、 それしかない」


えっ……


「あっ、 いや、 でも、 確かにそう言ったけど、 外には恐ろしい怪獣が……」



「奥さん~ 彼を野放しにしておけば、 このまま怪獣に殺られなくても、 明山日暮と言う怪獣に内側から食べられちゃいますよ」


男は神妙な面持ちで呟く


「今は皆さんでこの話を伝えるんです、 静かにですよ、 皆さんが得意の噂話です、 でも注意して、 管理人や明山日暮本人には気づかれちゃ行けないんだ」


「そして多くの人が賛同した瞬間皆で一気に畳み掛ける、 ここから出てけって訴えるんです」


大事の気配を感じてか主婦達が一気に収縮する、 やはり声だけはでかい癖に勇気が無いか……


なら……


「奥さん型、 この中に娘さんがいる方は気を付けた方が良いぜ、 藪から棒に聴こえるかも知れないが、 その子達を守る為に言うんだ」


自分の子供達の話を急に振られ主婦たちの顔は一気に鬼面の様に強ばる


「ここだけの話、 最近になって明山日暮の周りには年頃の若い女性が近寄る様になったんですよ」


へ?


「どうもきな臭いんですよね、 守ってやるとか甘い言葉を吐いて居るのか、 それとも弱みを握っているのか、 明山日暮の奴、 女好き見たいですよ」


男は更に笑う


「後これは最新情報ですが、 ついにやっちまった見たいでね、 この間女性専用の医務室にふらふらっと侵入したみたいでね」



「えぇっ!」


全くいいネタを揃えて居るやつだぜ明山日暮、 ババア共は調べもせずに信じやがる


「その時はそこの管理人のオバサンが殴って止めたって言うから、 それ程だったんだと思いますね~」


主婦達の顔がいい感じに青ざめたのを確認した所で、 男は入口方に向けて合図を送る、 すると入口から別の若者が走って来て語り部の若者に耳打ちをして帰っていく


しょうもない三文芝居だ、 だが肝心でもある


「ええっ……… おいおいおい、 明山日暮の奴、 まじかよ」



「へ? 何よ、 何かあったの? 今の子は何て言ってったのよ」


食いついた食いついた、 怖気を震わせる様な生々しい話……


「明山日暮の持ち物の中から、 出ちまったらしいんですよ、 数日前に忽然と消えた、 ある女の子の下着が……」


あああああ


声にならない絶叫をあげる主婦達を見て、 語り部を務めた男は内心でどす黒い笑みを作るのだった


…………………………………………



…………………



……


《午後十四時頃・医務室》


「日暮くん、 久しぶり」


ん?


ぼーっと壁を見つめていた日暮に話し掛けたのは女性だった、 この人は確か……


美里みさとさん、 それに新那にいなさん、 随分久しぶりですね」



「うん本当に、 日暮くんがあのビルから私達をこのシェルターに連れて来てくれた時以来だね」


日暮がこの街に遠征に来た時、 この街、 甘樹街の正面、 甘樹駅前に聳えるビルを拠点に、 対等な仲間として、 菜代望野なしろののさん等と共にこの街の未避難者の救出をした


その時助けたのがここに居る美里さんと、 もう一人元気な女性、 優香ゆうかさんだ


彼女達救出した人をこのシェルターへと連れて来た時、 このシェルターで出会ったのが新那さん、 二人の親友で、 三人は再会を果たしたのだった


「私はゆうと二人でずっと怯えて震えてた、 日暮くんが助けに来てくれた時、 私本当に心が暖かくなったの」



「私も同じ、 二人のことが心配で、 一人で寂しかった、 あの日二人をここに連れて来てくれた日暮くんには私も感謝してるの」


日暮は首を横に振る


「俺はそこまで言われる程の事はしてませんよ、 皆さんがそれぞれ皆さんの希望で、 希望があったから信じて生きて来れた、 それだけです」


美里が笑う


「またそうやって、 それらしい事言って私達の言葉から逃げる~ もっと向き合ってよこの想いに」



日暮は首を傾げ、 徐に疑問をぶつける


「そう言えば優香さんが居ない様ですけど、 彼女も元気で居るんですよね?」


はぁ……


「日暮は何だかんだ言ってあの事が気になるの?」


え?


「あははっ、 美里、 ちょっとめんどくさい時のゆうみたいだよ」


新那の言葉に美里は口を尖らせる


「あんなヒス女と一緒にして欲しくない、 あっ、 日暮くんそんなに気になるなら聞いてよ、 あの子ね」


美里は大袈裟に手を振って説明を始める


「あの時はあんなに日暮くんラブって感じだったのに、 日暮帰っちゃったら、 その後直ぐに男作ったのよ、 今もその大好きな彼と一緒に居るわ」


そう


「なら良かった、 傍で支えてくれる人が居るなら良いじゃないですか」



「はぁ…… 君って随分ずれてるよね、 まあ知ってたけど、 とにかく元気そうで良かった」


そこまで言うと二人は顔を見合わせる


「私達もう行くね、 それじゃあ日暮くんお大事に」


そういう新那さんは出口へ向かい歩いていく、 美里さんは置いていかれた様に立ち呆けて居た



「美里さん?」



「日暮くん…… 私はね二人のことが凄く好きなの、 大事な友達だから」


そうだろう、 前にもそう言っていた、 彼女は責任感の強い女性だ、 友達の為に言いずらい事を、 自分が嫌われても良いからと、 本気で真摯に話をぶつけて来た人だ


「あの時さ、 私言ったじゃん、 日暮くんに心が無いなら、 ただ期待させるだけなら、 ゆうには近ずかないでって」


そうだ、 日暮の行動は、 他人を想定して居ない、 結果的に助けられた人が殆ど、 しかしその人達は勝手に日暮に期待してしまう


「よく覚えてます、 とても心に響く言葉でした、 あの言葉は俺の考え方を変えた様にも思えます」


美里はうっすらと笑う


「そう? 私も必死だったからな、 それが伝わったのかな…… ふふっ」


ん? 楽しそうに笑うな


「私ね、 友達が大事なのは本当なの、 でもね、 あの時真剣に日暮くんに語ったのはね、 実は他にも理由があるんだよ」


理由?


「ゆうだけじゃ無い、 日暮くんに希望を感じて、 日暮くんに惹かれちゃった哀れな女はゆうだけじゃ無いよ」


へ?


「あの、 美里さん何を……」


ぐいっ


美里が一気に近づく、 彼女の吐息と、 長い髪が日暮の顔を擽るほどの近さで彼女の声は紡がれる


「私、 ゆうに日暮くんを取られたくなくて、 必死にあの子と君を遠ざけたんだよ、 ふふっ」


え?


はらっ……


彼女が髪を耳にかけながら、 惜しむように元の距離へと離れた


「予想通りあの子は寂しさに耐えかねて適当な男作って満足してる、 そういう所が可愛いんだけどね、 でも本当に甘い汁は安安人には譲らない、 日暮くんは私の事どんな女だと思ってた?」



「へっ? えっ、 何か、 素敵…… な?」


ふふふっ


「ありがとう、 正解は素敵で悪い女でした、 日暮くん、 私はちゃんと君の事好きだからね、 じゃあね」


えっ……………


有無を言わせない勢いで美里は振り返りもせずに医務室を後にした、 日暮はただただ困惑するばかりだった


……………………………



……………


《同時刻・四番室》


「あ~あ、 今頃二人はいい顔して日暮くんとお話してるんだろうな~ 全く、 あんなつまらない男と遊んでる私って馬鹿みたい」


優香は愚痴を吐いていたが、 遠くに居た男が仏頂面で自分の所に来ると一転して男に笑顔を向けた


「マサくんっ、 お話終わった?」



「あぁ、 またせたな優香」


にこりとも笑わない男、 優香は内心溜息をつく、 あの日、 踏み出せない自分に手を差し伸べてくれた日暮の眩しさと熱が今、 腹の底から欲しい


のに……


「あのねマサくん、 私行きたい所が有るんだけど、 その、 私を助けてくれた明山日暮くんって子がね今医務室にいて、 お見舞いに……」


ギロ


男は優香を強く睨みつける、 いつもそうだ、 彼は自分の聞きたくないような話をするとこんな顔で睨みつけて黙らせてくるのだ


しかし、 その時は少し内容が違った


「まじかよ優香、 お前騙されてるぞ」


へ?


「な、 何が? マサくん教えてよ、 私が誰に騙されてるの?」


男はアホズラで天井を見上げながらこう語った


「明山日暮だよ、 ちょうど今仲間から話聞いた所だったが、 まさかお前からその名前が出るとはな」


何?


「その明山日暮って男、 どうもやらかしたらしいのよ、 男禁の医務室に侵入したり、 女の子の下着泥棒までやったらしい、 クズだクズ」


え?


嘘………………


優香の中で形成された素敵な明山日暮像が醜く変貌していく、 いい事と言うのは、 悪い印象で払拭されてしまう


それに彼女は、 思いのほか明山日暮と言う人間を全く知っていないのだ


「そんな人だったんだ、 超最低じゃん、 本当にクズ」



「だろ? そうだ優香、 良かったらダーツして遊ぼうや、 せっかくだし何か賭けてよ」


優香は頷く


「うん、 やっぱり私マサくんと居ると楽しいな~♪」


二人はそう会話しながらダーツの台に着いて、 その矢を握るのだった


…………………………………



………………



……


「有り得ません! 絶対に有り得ない」



「有り得たでしょうが、 ここにあるのが証拠じゃない、 動かない証拠よ」


《同時刻・避難者就寝十三番室》


「それ明山日暮の荷物でしょ、 ほら見てみなさい、 中身からあらあら下着が出てきたじゃない」


有り得ない……


食い下がるも群がるオバサン達の勢いに押されてしまう、 それでもそんな事有り得ないのだ


「ちょっと、 あんたらいい加減にしろよ、 人の息子の名前を吐き捨てる様に失礼にも程が有るだろ、 それに日暮はずっと医務室に居るんだ、 ここには来ていない!」



「関係無いわよ、 それな明山日暮の荷物何でしょ? 明山日暮の下着じゃ無いわよねぇ?」


このオバサン達……


そもそもこれは確かに兄貴の荷物だ、 でも家族の知る限り、 兄がこの荷物に触れた事は無い


この荷物は、 あの日、 モンスターが人々を襲い、 家族がシェルターに避難した際に日暮が纏めた荷物だ


日暮はあの時家族を逃がす為モンスターに立ち向かったが、 その時邪魔になるからと荷物を家族に預けたのだ


そんな荷物の事は忘れて居るようで、 日暮は今自分のボロボロなリュックを使っているし、 それは医務室に共にある


ココにある日暮の荷物は、 所詮忘れ去られた物、 それでもと思って家族がここに持ってきた物だ


「言っとくが家の息子はそんな下らない事は絶対にしない、 だいたいあんたら妙だな? いきなりやって来て、 そんな事誰から聴いた? 何で本人が触った事も無いこのバックが日暮の物だと分かる?」



「っ…… な、 論点をすり替えようったってそうはいかないわよ!」


何なんだこのオバサン集団は……


…………………


「おいオバサン! 兄ちゃんがそんな事する訳無いだろ! 兄ちゃんは今にも化け物に殺されそうだった俺と、 俺の兄弟を助けてくれたんだぞっ!」


声変わりしたての様な若い声が割って入る、 そこには中学生くらいの少年が立っていた、 その後ろには彼の言う兄弟らしき子供達と、 その母親らしき女性が驚いた顔で固まっていた


「ん? なぁに坊や、 あなた明山日暮の知り合いなの?」



「命の恩人だって言ってるだろ、 あんたは見た事有るのかよ、 ダンプぐらい大きなカバの化け物を、 俺は死ぬ所だった、 それを命を懸けて助けてくれたのは兄ちゃんだ、 兄ちゃんを悪く言うのはやめろ」


少年の声は不思議と妙に人の内側に響く性質があった


「ふんっ、 それが何よこっちには証拠が有るんだから論より証拠よ、 ほら、 あんたこの子の母親でしょ、 あんたはどうなのよ黙ってないで何か言いなさいよ」


矛先は少年の母親に向かう


「あんたも娘が居る母親なら気持ちは同じでしょう? 自分の可愛い子供がこんな変質者に襲われたら貴方はどうすんのよ、 えぇ?」


もう殆どオバサンのヤンキーだ、 オバキーだ


ふぅ……


少年の母親は小さく息を吐くとおばさん達に怯える子供を抱き寄せる


「私にとってはこれが証拠です、 ここに居る温もり、 洋汰ようたが、 純也じゅんやが、 海愛みちかが、 幸佳さちかが、 そして、 秀助しゅうすけが」


芯の通った母親の声に、 同じ母親としてオバサンは後退する


「っ、 だから、 そんな事じゃ無いのよっ! それとこれとは違うじゃ無い、 ね?」



「違いません、 想像してみて下さい、 ……もう二度と顔を見れないと思って居た子供達が目の前に居たんです、 その時の幸福は他の何とも変えられない」


だから


「私の命以上の宝の恩人である明山日暮くんを私は何があっても信じます、 それだけです」


うっ……


オバサンは想像したのだろう、 吐き気すら堪えるよえな、 泣き顔に近い顔をして黙る


「……あまり問題を大きくするなら管理人の木葉鉢このはばちさんに報告します、 そうすればどちらにせよこの件の審議を判断してくれるでしょうから」



「…………良いわ、 今回は引きます、 それでも明山日暮への疑いが無くなった訳じゃない、 いつか白日の元に晒される日がくるわ、 その時まで待つ事にします」


オバサンは踵を返して部屋の外へと歩いて行く、 その姿を見送ると避難者就寝十三番室は静寂に満ちる


自然な流れで明山家族は、 先程の親子に向き直ると、 向こうもこちらを見ていた


「明山日暮くんのご家族…… ですよね?」


明山母がはっとしたように声を絞り出す


「はっ、 はい…… あの、 皆さんは? 息子とどんな関係が?」


相手母はうっすらと微笑む


「先程話した通りなんですよ、 そうだ、 ここで立ちっぱなしと言うのも何ですから食堂でお茶でも飲みながらどうですか?」


そう言いながら相手母は日暮のバックを自分の服の袖越しに持ち上げる


「通り道ですし木葉鉢さんの所にこれを持っていきましょう、 彼女達ならば力になってくれる筈です」



「えっ、 えぇ」


母の後を必死に追い掛ける子供達と共に食堂へと向かう、 その途中で会議室に寄る、 中では現在戦略会議が行われている様だが事情を聴くと快く受け取ってくれた


正直不安である、 何か良くない空気を感じる、 だがそれよりも今は、 目の前を笑顔で歩く親子の事がとても気になっていた


食堂で適当な広めの席に着くと、 お茶やらコーヒーやら皆それぞれ好きな物を机に起くと、 一拍置いて相手母が語り出す


「子供達の命の恩人なんです、 ね」



「うん、 お母さんと離れ離れになって、 それから化け物から隠れて暮らしてた、 でも襲われて、 皆もうダメって時に」


ばーん!


突然下の男の子が大きな声を出して身振り手振りで語り出す


「とづぜん舞い降りて、 どガーン! ってこーんな大きい化け物を吹き飛ばしたんだよっ!」


あらまあ……


「洋汰突然大きな声を出すなって、 びっくりするだろ」



「でもそれぐらい凄かったじゃんっ!」


兄弟二人のやり取りをその母親は優しく見守る


「家の息子がいなかったら……」



「はい、 もう二度と見れなかった光景です、 だから、 私は明山日暮くんを信じます、 それに私だけじゃ無い…… あら」


相手母、 先程移動中に行った自己紹介に寄ると、 鞠心まりこさんと言うらしいが……


鞠心さんが手を振ると、 向こうから誰か歩いて来る、 若い男性で隣には彼女だろうか女性が居る


「どうしましたか鞠心さん? ん? そちらの方達は?」



峰鳥羽みねとばさん、 こっちの方々、 明山日暮くんのご家族何ですよ」


男性が目を見開く


「本当ですか! 会えて光栄です!」


へ?


「あの? 貴方は?」


男性がはっとした顔をする


「すみません…… 峰鳥羽晃みねとばあきらです、 自分はこの街で一人孤独に死を迎える所を日暮君に助けて貰って」


また……


「私は奈々ななかと言います、 あき君は恋人になるんですが、 日暮くんが居なければ彼とはもう二度と再会出来なかった」


あらら、 うちの息子が………


日暮母はもうあんぐりと口を開け放っている、 それは父も、 茜も同じ気持ちだった


不意に男性が顔を上げると、 遠くに手を振りだした


「おーい、 船路ふなじさーん、 こっちこっち」


何か声のでかそうなおじさんと、 その隣には老夫婦が居た


「おっ、 鉄次てつじさんと、 桜花おうかさんも一緒でしたか」



「おうよ、 それに皆、 あの時のメンバーが何でか集まってんな、 何かあったのか?」


峰鳥羽さんはにやりと笑う


「聴いて驚いて下さい、 何とかこちらのご家族、 日暮くんのご両親と妹さん何ですよ!」



「なぁーにぃー! それはマジか!」


本当に声がでかい


「え? えっと皆さんは?」



「子供達や、 峰鳥羽君と同じだよ、 ワシも、 妻も、 それにこの船路君も、 皆日暮君に命を助けて貰った者だよ」


えっ…… こんなに大勢……


日暮の母、 彩乃あやのの目には自然と涙が溜まる


「家の息子が、 こんな……」


鞠心さんが頷く


「皆さん、 よく聞いて下さい、 明山日暮くんが何か良くない流れに飲まれてしまった様なの」



「その話か、 だから俺も鉄次達と話をしてたんだ、 日暮君の事を意図的に悪く言う声が急に広まってやがる」


船路さんが怒った顔をして周囲をギラギラと睨む


「気を付けろよ、 こういう空間での悪い噂ってのは物凄い早さで伝わって行くんだ、 相手はそれがわかってぇいやがる」



「あっ、 あの…… 」


緊迫した空気に押し潰されそうだけど、 それでも茜は声を出さずに居られなかった


「兄ははちゃめちゃで変な所も有るけど、 それでも兄は悪い人じゃ無いって、 私にとってはかけがえのない兄です、 私も兄に感謝している事が有るんです、 だから……」


そこに居る者は皆まで言うなとばかりに大きく頷く


「私達は、 私達だけは何があっても日暮くんの味方で居ます、 だからどうか、 ご家族も気を強く、 彼を信じてあげてください」


ああ、 そうだ


「はいっ、 かけがえのない命を繋いでくれた兄を、 とても誇りに思って、 今度は私達で兄を助けましょうっ!」



「よく言った! 力になるぜ声がでかい以外に取り柄は無いがなっ!」


ああ、 なんて誇らしい気持ちなんだろう、 きっと父も、 母も同じ事を思っている、 当たり前だからこそ、 当然の存在だからこそ


大好きな家族の事を心から讃えることが出来ることは、 とても素敵な事だ、 美しい事だ


「今はゆっくり休んでてよお兄ちゃんっ」


とても心強い仲間と共に……………


……………………………………



…………………



……


《同時刻・医務室》


「明山日暮さ~ん、 私甘樹シェルター広報部の記者の、 坂零さかただと言う者でして~ 是非今回の騒動について聞きたいんですが~」



「あ? 騒動だ? いきなり来といて録な説明も無しに話切り込むのは、 てめぇ録な記者じゃねぇな?」


あははは


「いえいえ、 これは失礼、 最新情報を掴んで張り切って伺ったら、 まさかの最新情報すぎてご本人すらお気づきで無いとは……」


何言ってんださっきからこいつ


「バレてしまったんですよ、 ふふっ、 貴方の荷物の中身、 そう言われればドキリとするでしょう?」


は?


「てめぇな、 俺のこの格好を見て動けないとでも思ってんだろ、 余裕で元気バリバリだからな? あんま舐めた事言ってると……」


にやり


記者は笑う、 何だ凄く嫌な感じ……


カキカキ


「明山日暮さんは元気一杯、 医務室で惰眠を貪って居ると、 体が動かないなんて事も無い…… っと」


おい


「何書いてんだよ」



「あ~ 失礼、 記者の性見たいな物ですね、 気になった事はこうやってメモしておかないと」


あ?


「てめぇあれか、 そうやってある事ない事書こうって訳か? やっぱり録な記者じゃ無いな、 嘘つき野郎が」



「嘘かな? そもそも記事と言うのは記者が取材をして書きたいこと書く場所ですよ? でも私は無い事は書きません、 書くのはある事だけ」


ただし


「正確に言うなら私が有りそうっていう思った事、 その中で面白そうって思った事だけですけどねぇ」


妙な感覚だ、 記者の視線が少し怖い


「そろそろ本題に入らせて下さい、 ズバリ質問するんですが、 今皆さんがしてる噂って本当ですか?」


あっと


記者は演技丸出しの動作で頭に手を当てる


「明山日暮さんは医務室で寝てたから知らないか、 貴方今、 皆が噂してるんですよ、 やらかしちゃったってね」


ちっ


「舌打ちっ、 怖い怖い、 で? 本当なんですかね? 盗っちゃったんでしょ? 女の子パンティー、 いひひっ」


はぁ? なんつった今こいつ


「お前、 何言ってんだ?」



「顔怖いですよ、 噂通り凶暴そうな人、 平気で人を傷付けたり、 男禁に侵入、 やってそうですね~」


ややこしい奴だな


「俺馬鹿だからさっきからさ、 回りくどいんだよ、 何が言いたいか明瞭にしてから話せ」



「はーい、 と言ってももう聞いちゃった、 さあ、 どうなの? 盗っちゃったの?」



「やったわけねぇだろ」


記者が頷く


「うんうん、 そう答えるって思ってたよ、 そりゃあ誤魔化すよね、 でもそんな誤魔化し効かなくなるよ、 ここにどれだけの人が居ると思ってるの、 み~んな噂してるよ」


ああ、 もう話したくない


(……皆って皆か? 皆で俺そうな風に言ってるのか?)


ゾクッ


何か震える


「息が荒いですね、 動揺だったりして」


うざい


ギロ



記者が少したじろぐ程の鋭い目、 睨みつける


「お前、 どんな記事が書きたいんだ? お前は俺がとにかく悪いやつだって記事が描きたいだろ?」



「いやだな~ 正解です」


そうか……


「だったらよ、 俺がもし人を殺したって言ったら、 お前にとっては最高のネタって訳だ」


記者は興奮する


「それはもうっ! 殺したんですか? やっちゃったんですか? 気になりますっ! 書きますよ夢ですからっ!」


ほ~ん


日暮はいつの間にか震えや怖気は消えていた、 兎に角こいつをここからたたき出す


「残念ながらまだだよ、 でもなぁ、 お前からしたら残念だよなぁ?」


記者が首を傾げる


「はて? 何が……」


だからよ………


記者は日暮の冷たく鋭い瞳を見て無意識的に身構える


「これから殺るとしたら、 一人目はてめぇだ、 死んだら記事が書けねぇから残念だよなって言ってんだよっ」


っ………


「あはっ、 あははは、 ふふん、 今日はもう良いです、 帰るとします」


日暮は追い払うように手を振る、 記者は乾燥した唇を舐めて医務室を後にした


背筋が寒い、 あの嫌な感覚、 純粋な殺意よりも粘着質で、 払っても拭っても取れない悪意と敵意


「だから嫌なんだよ、 ここは」


社会が暴力を封じた事により、 人々の黒い部分は内で渦巻く、 人の頭は良くなり、 爪を隠す


『日暮、 お前の事を悪く言う声が有るのを私は知っている』


背筋が凍りそうになる、 今まで自分がして来た事が、 この間土飼が話していた言葉が深く重く突き刺さる


「俺頭悪いし、 言葉も弱いからさ、 文句あるならさ、 こんな時代だし、 殴り合いで皆決着つけない? シンプルで良いのに」


電池式の壁掛け時計を見る、 この後は一様予定が有るが……


「全部、 だりぃな………」


眠ってしまいたいけど、 どうも目を瞑ると誰かが見ている様に感じ、 不快感に瞼を開けてしまう


人の居ないところに行きたい…………


日暮は、 医務室の扉を暫く見つめたが、 その後ナタを手に取る、 風に当たりたいな…………

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