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第九十六話…… 『羽ばたく空・刻まれる道筋』

わ?


「…………何処ここ」


何か、 天界みたいな感じだ、 雲の中なのか視界は真っ白で流動し続けている


ひゅ~


少し強い風が身を打ち付け、 服がバタバタと揺らめく、 あっ………


「分かった…… 死んだ?」


そう思えば……


「天国みたいな…… え? 天国? おい! 神っ! っざけんなっ! 行きてぇのは天国なんてぬるっちい場所じゃあねぇぞっ!!」


あ~


そんな事より……


「な~んか頭がはっきりしない、 シェルター帰ってきて…… その後どうしたっけ? ん? え? 何時死んだの? 記憶とかこんなにはっきり残るんだ……」


う~ん……………


「まあ、 いっか…… 寝よ」


どうも頭が鈍いんだよな、 めっちゃ眠い……


ふっ………


眠さが重力の様に体を地面に押し付ける、 瞼が重い……


…………


バサンッ! バサンッ!!


羽音? しかもでかい……


バサンッ!!


瞼を開けて確認する、 すると大きな影がこちらを見下ろしていた、 あれ? どっかで見た様な……


「やっ、 日暮、 目が覚めた様だね?」


お前……


「鳥野郎…… ココメリコで戦った暗低公狼狽あんてんこうろうばいの姿……」



「この姿で会うのは久しぶりだね、 あの滾る様な戦い以来だ、 あの戦いはさ、 色々あって、 君に腹が立つ事が沢山合ったが、 我にとってとても楽しい戦いだった」


なんだろう…… 過去を見て嘗てを語る暗低公狼狽の姿には悲愴が見て取れる


「何だよいきなり…… まぁ、 でも、 俺もだよ、 鳥野郎、 お前は俺にとって初めての強敵だった、 鳥頭のガキも合わせれば初めての戦いでもあった」


戦いに焦がれ、 それでもこの世界に戦いは無い、 楽しかった学生生活は終わりを迎え、 あるがままに社会へと出る


社会の常識や、 ルール、 が身に焼き付いていく、 最初は嫌で嫌で仕方無かった事も何時しか当たり前になっていく


これは、 こう言う物何だ…… 流れ何だ…… そもそも存在しないんだ…… 心躍る戦いの日々なんて、 何処までもフィクション何だ……


あ……………


ああっ!


楽しいっ!!


あの時の時間、 初めての死の実感、 傍に来て初めて強く生を感じる、 そうか、 これが生きると言うことかっ!


あはははははっ


……………


「あんなに笑ったのは久しぶりだったよ、 お前はまじで強かったしな、 よく勝ったと思うよ、 自分ながら」



「我もだ、 我の能力は自身の肉体の性質と相性が良くて、 殆どの戦いを初手で終わらす事が多くてね、 昔は弱かったんだ、 産まれてすぐ親に捨てられて……」


暗低公狼狽は空を見上げる


「この空に煌めく星々、 まあ生憎ここからでは見えないが、 その星々を数えて居た、 何時だって死にかけのボロボロだ」


「隠れ傷を癒し、 他者の食い残しを啄み、 自分より弱い物をひたすらに食った、 でもある時自分より大きな者と戦うことになった」


確実な死の実感と、 それを覆す瞬間の歓喜、 戦いの中で熱くなる自分自身……


「楽しかった、 あの世界どいつもこいつも生きるのに必死、 食うか食われるかの世界で来る日も来る日も、 我は勝ち続けてきた」


「我が産まれた日に見上げた夜空に、 無鴎むくの形をした星達の形を見た、 その無鴎は毎日空を周り、 見えなくなり、 また遠くに見え」


「無鴎が七週した頃、 当時共に族帝として君臨していた我の両親を見つけた、 奴らは我を見た時笑った、 そして躊躇無く殺しにかかった」


良かった……


「我も初めからそのつもりだった、 運命で決まった戦いの様に、 その戦いは必然だったのだ」


刻んでも刻んでも蘇生し復活を遂げる父と、 高い機動力と戦闘能力を有した母、 同時に襲いかかって来た二人を相手取り……


「三日三晩戦い尽くして、 最後は我が確実にトドメを刺し、 その身を喰らい尽くした、 我はそれから強者求め、 何時しか族帝殺しと呼ばれる様になった」


強大な力を有した、 その存在は多くの種が恐れた


「何時しか我と戦う物は居なくなった、 降伏する者さえ現れた、 我には分からなかった、 我は敵が強くとも戦って来たからだ、 死の実感の傍こそ、 最も生の実感を得られるからだ」


つまらなかった……


「どんな者も、 未来や、 自身の子の事馬鹿りを考え、 今を生きる自分と言う命に目を向けない、 あいつらは死が怖いが、 生もまた怖いのだ」


呆れた……


「だからこそ、 お前はあの時、 我に向かってきた、 弱小種と侮っていた我に向かって吠え、 無謀にも、 しつこくとも、 何度もその牙を奮った」


「最後まで睨みつけ、 戦い続け、 遂には我にトドメを刺した時、 我は命を感じた、 久しく感じていなかった生の実感を強く……」


何だ…… 何だこの儚さは、 何だこのボッカリ穴の開いた様な感覚は……


おい…………


「ん? どうした日暮、 もしかして今更気が付いたのか? そうさ、 ここは夢の中だよ、 君は目を覚まさなくては行けない」


だから……


「お別れを言いに来たんだ、 最後に我が、 君に言いに来たんだよ」


は?


「お別れだ? どういう事だよ、 何か妙だぞ、 ここはどこ何だよ」



「夢の中…… 我の精神世界の中だよ、 景色で言えば我の産まれた世界の、 我の巣だ、 雲の上に有る、 素敵な場所だろ?」


ここが、 夢の中……


「何時もの日本家屋の所じゃないんだな、 あの和服の、 和蔵わくらだっけ? あいつがいる所じゃ無い」



「彼女の所とは違うよ性質は近いけどね、 彼女も今回の事で結構あたふたしたみたいだよ、 大変だったろうね」


今回の事? そう言えば……


「日暮、 覚えて居るか? 藍木山攻略戦の後、 甘樹あまたつシェルターに帰った時の事、 もうあれから三日経つけど、 その時君に起こった事」


日暮は考えようとして、 頭がズキリと痛んだ、 思い出せない……


「そうだろうね、 話すよ何が起こったのか…… あの時、 あの少女、 魔王の雪ちゃんを前にした時にさ、 果てしない程の怒りを感じだろ?」


ああ、 言われればそんな事があった、 ステージの上で、 明らかに力を他人に行使する少女に対して怒りが湧いた


「あの時、 少女は人の精神に干渉する力を使っていた、 恐ろしい力さ、 操り人形にだって出来る力、 その力があの空間に漂っていた」


あの空間を吸うと人は狂乱気味になる、 まるでライブのステージ、 高揚感に全身が痺れる


そう言えば、 不思議と日暮はあの狂乱に飲まれなかった……


「それには理由が有る、 我だ、 日暮の中に我が居たからだ、 正確に言うならあの力は確かに日暮にも干渉していた」


しかし、 他の人達と状況が違っていた


「魔王にはモンスターを操る力が有る、 魔力だ、 魔王は、 魔力でモンスターを縛り付ける、 そしてあの空間に漂っていたのも魔力」


つまり


「君の中の我にのみ、 モンスターを操る力として反応してしまった、 モンスターは魔力に触れると凶暴性が増す、 あの抑えられない怒りはそこから来ていた」


何となく、 言われている意味は分かる


「我は必死に表は出ないよう隠れて居たつもりが、 結果として彼女に対して最もアピールをした存在だった、 そうして気づかれた」


何となく思い出す、 その後少女はこちらに向けて力を放つと、 鳥野郎の鳥面が地面に落ちて砕けた、 その辺から記憶が無いんだ


「そう、 彼女は君の中の我を消そうと力を使ったのだ、 そうして結果がこれだ」


これと言われても……


「日暮、 君があの少女の事をどうしたいのか分からないから、 我はこんな曖昧な言い方出来なくて恐縮だが、 これから話すのは実際に起こった事実だ」


見下ろす鳥野郎の顔が怖く、 鋭い睨みが効いている


「我という自意識は確かに日暮の中に芽生えて居た、 その存在感は強まり、 一体一分の一体一、 日暮が居るから我が居て、 我が居るから日暮が居る」


だが


「大前提として我の自意識もまた日暮なのだ、 日暮が我に勝った、 だから我は日暮なのだ」


前にも聞いたけど………


「我々は二人で二百パーセントでは無い、 二人で百パーセントで半々なんだよ、 そしてあの少女はその我の部分を消し飛ばしたんだ」


つまり?


「意識と言うのは脳の中に宿る、 あの少女が我としての部分を消し飛ばした事で、 君はあの時一瞬にして脳の半分を消し飛ばされた事になる」


は?


「そうして君は必然的に植物の様になった、 ボッカリ開いた脳の穴は大きかった、 君は現実ではこの三日間ずっとベットの上で壁を見つめていた様だ」


だとしたら、 それって………


「雪ちゃんは俺に攻撃して来たって事か?」



「いや…… どうだろうな、 さっきも言ったがあの少女の想定外だったのか、 それともこうなる事を見越しての事だったのかは分からない、 お前次第だな、 日暮、 君はあの少女をどうしたい?」


あ~


「よく分からん、 あの時の怒りは消えてるし、 普通で行けば寄生虫を取ってあげようとした…… のかな?」



「その解釈で良いだろう、 問題はそこじゃ無いからだ、 あれは少女の不可抗力、 それで良いんだ、 大事なのはこれからの事だ」


これから……


「君の脳の物理的欠損は我が最後の力で直した、 あの少女から隠し通した君のナタに残して置いた保険でな、 そして」


「欠如した記憶や、 自意識はフーリカと言ったかな、 彼女が能力で戻してくれた様だよ、 感謝すると言い」


フーリカが、 ありがとう…… って目が覚めたら言わなきゃな


「脳に異常は無い、 脳は賢いから上手く再編成して殆ど元通り、 記憶や意識、 人格に問題は無いだろう」


「だからそこじゃない、 真の問題…… と言うか、 そうだな、 さっきも言ったがお別れ何だ、 日暮、 我はもう居ない」


目の前で強く大きく存在している様に見えるのに、 どうしてか分かる、 その存在感は希薄だ……


「ここに居る我は所詮残留、 保険の残りカスに過ぎない、 お前が目覚める時、 その時消える」


命を掛けて戦った、 殺した命、 日暮の中でそれでも存在を繋いで、 一緒に今度は一つの命を二人で掛けて戦い、 死の淵で常にこいつは日暮と戦い続けた


なんか……


「寂しくなるな、 ほんの少しの間だけだったけど……」



「ははっ、 まさか殺しあった相手にそんな顔をされるなんてね…… と言いつつ……」


暗低公狼狽は言葉を濁す


「我はきっとたどり着けない、 何処にもたどり着けない、 死ではなく消滅、 輪廻の道理には反するだろう」


だが……


「それは君の物だ、 それだけは覆らない君だけのものだ、 もう我じゃ無い」


それ?


日暮は無意識的に腰に手を回す、 そこにあるのが当たり前の重さがぶる下がっていた


ナタを抜くと、 形の歪んだ輪郭とナタに巻きついたゴツゴツとした骨が確かにあった


「我は最早辿り着くことは出来ないが、 変わらないよ、 我から奪ったその骨、 そのまま進んで辿り着いてくれ、 日暮、 我の一部をあの地へ持って行ってくれ」


目が合う、 その瞳の中にこれまで暗低公狼狽が進んできた道と、 その先の景色が映っていた


「お前はそのままグングン進め、 例え道に迷っても、 心でだけは迷うな、 人か、 獣か、 どちらかを選ぶ必要は無い」


バサンッ!


翼を大きく広げる、 その様は強者として歩んで来た絶対的な自信に煌めいており、 素敵だと思った


「何方も、 どれもお前だ、 矛盾など気にするな、 お前という存在に輪郭等ない、 思った通り、 望んだ通り、 進む道を浸進め」


こいつ自身がそうした様に……


「それこそが強さだ、 選ばれるな、 常に自分自身で選び続けろ、 その先に、 確実にその先にあの地……」


亜炎天あえんてんは確実に存在しているっ!」



背筋に鳥肌が立つ、 風が吹き荒れぶつかる、 暗低公狼狽が翼を羽ばたかせる


「日暮っ! ……頼んだぞっ!」


バサンッ!


ああっ


「暗低公狼狽っ! 俺の最初の戦いがお前で良かったっ! そのお前と最後に一緒に戦えて良かったっ!」


最後は笑えるよ、 お前のこの強い羽ばたきを見たら、 お前の強さは希望だ……


バサンッ! バサンッ!


「日暮っ! 我もだっ! 我を殺したのがお前で良かった! お前と命を掛けてもう一度戦えて本当に良かった!」


高く上がっていく暗低公狼狽、 その声は少しずつ遠く……


「今は、 とても楽しい気分だよ、 お前の前進は我にとっての希望だったっ!」


ふっ……


「じゃあな日暮っ! 下らない所で死んだりするなよっ!!」


うるせぇよ……


「鳥野郎っ! てめぇこそっ! 見ていやがれっ! 俺の戦いをっ! 必ず辿り着くからよっ!」


だから……


「じゃあなっ!!」


バサンッ!!


一際大きく羽ばたいて強くぶつかる風が最高潮になった時、 世界が少しずつ崩れて行く、 もう目覚めの時だ……


少し目を閉じて、 体が落下する様な感覚を覚えた時、 不意に開いた瞳に、 この大空を自由に強く飛ぶ蛮鳥の姿が遠くに見えた


もうあいつは居ない、 それでも……


「勝つよ、 俺はこれからも」


その呟きが崩壊する空間の中に溶けて消えていく、 真っ白か、 真っ黒か、 殺風景で何も見えない視界の中、 吸い込まれる様に意識が浮上する


目が醒める…………………


………………………………………………



……………………………



…………



………………………


「わっ……………」


間抜けな声で目が覚めた、 途端に空気が肺に入る感覚、 体を押さえつける重力、 流れる血や、 心臓の鼓動さえ今は感じる


命の鼓動が…… 体を巡る、 俺は今生きて……………


「んっ、 ん…………………?」


すぐ近く、 息を感じる程の距離で小さく声が聞こえる、 寝ぼけた様な声だ、 こっちも同じくらい寝ぼけた頭で考える


(……俺、 何してたっけ)


ああ、 鳥野郎が何か言ってた様な………………… ああ


(……もう、 居ないのか)


はぁ……


大きく息を吐き、 本格的に目を覚ます、 ここはどこ、 自分はいったい…………


「………日暮さん」


ん?


……………………ん?


どっかで聞いた様な名前、 自分の名前だ、 それを呼ぶ声は………


「フーリカ?」


そういや記憶やら何やらをどうとかしてくれたとかあいつ言ってた様な………


え?


熱、 体温を感じる、 触れ合う程すぐ傍、 何処か甘い様な匂いがする


これは…………


不意に目を開いて、 すぐ近距離で目が合う、 寝起きの回らない頭で互に硬直する


何か、 おでこが痛い、 ずっと硬いものに当たっていた様に熱くなっている


「……………え?」



「……………へ?」


うわ、 綺麗な瞳だな、 宝石みたい………


…………………


いや、 いやいやいやいや


「うわあっ近っ!?」



「へわっ、 あわわわわっ!?」


いやまじで近…………


ガチャっ!


「っ、 お兄ちゃん居るっ!」


あ、 茜………


「お兄ちゃっ……… えっ!?」


やべ、 よく分かんねぇけど、 見られたくねぇ所を身内に見られた、 でも妹なら………


ガチャンッ!!


「日暮っ! ここに居たのっ!」


あっ、 母親………


「………………あら、 あらあらあら」


最悪だ………


「違うから、 違うから!」


遠ざける様に体を引いてフーリカから距離を取る


「あっ…… 日暮さん、 おはようございます、 具合はどうですか?」


どうって………


うっ………


「体かった…… めっちゃ重い、 何だよこれ……」



「良かった…… 日暮、 貴方、 目が覚めたのね…… っ、 三日も動かなかったのよ」


三日………


「大丈夫よ、 その間の身の回りの事は全部私がしたから」


うわ、 全然聞きたく無かったその話……


「うわぁ、 最悪っ、 まじでクソ、 ざけんなっ」



「はぁ? 今私に言ったのかしらねぇ? それが世話してくれてた親に対して言う言葉なの?」


それは、 ありがとう、 という言葉は心の中でのみ完結する


「しぃらぁねぇよっ、 頼んでねぇよ、 そんな事っ!」



「このクソ息子が! クソなのはあんたの方でしょ! 心配ばっかりかけやがってぇ!」


何だこの口の悪い母親は………


反抗するぞ? 良いのか? 俺は反抗期を後一万回残して居るぞ?


「そもそもッ!」



「口答えするんじゃなわよっ!」


ああああ?


「るっせぇなっ、 寝起きにでけぇ声だすなっ…………」


ガタァンッ!!



突然、 部屋の中、 奥の方から何かを吹き飛ばす様な音が響く、 何だ、 この重圧感は…………


ゴゴゴゴゴッ……………


ドシンッ!


「医務室ではァ、 お静かにお願いしまゥッ!!」


ドシン ドシンッ


おばさんだ、 白衣を着たおばさんが鬼の形相でこちらに向かってくる、 不意に目が合う……


「おぉとぉこぉッ!! 男ッ!! ここはァ! 女性専用の医務室だァ! 立ち入りを許可していない男がァ、 紛れ込んでイヤがるゥ!!」


………………俺?


「キィェェエエエッ!! 喰らえ私の………」


グリッ!


拳が固まる音、 え? やばい、 これ殴られ…………


っ!?


(……あっ、 やべぇ、 体上手く動かなかっ)


愛有鉄拳ラブプラスハンマーァ!!」


えっ、 デカ……………


ドスッ!


ドガァアアアンッ!!!


「っしゃあ! 非常識男、 滅殺!」


???????


誰もが大口を開けてただ呆然とその様を見ていた、 兄を、 息子を、 好きな人を吹き飛ばされる様を


日暮は………


「ひょっ? ……………………………。」


ベットの上から吹き飛び壁に打ち付けられ白目を向いて天井を仰いで居た


え?


「ひっ、 日暮さーーーんっ!?」



「はっ、 私を何をして…… わぁっ!? 目が覚めたら男が吹き飛んで居るっ!?」


そこからドタバタと大騒ぎが起こり、 日暮は自身の使うベットへ運ばれた、 フーリカはベットへのお絵描き行為が派手に咎められお説教をされた


母も妹も申し訳なさそうに大きく頭を下げて部屋を後にした、 そしてその騒動の中、 女性専用の医務室に居た老婆かち乃はどんな喧騒も気にせず眠り続けたと言うのはまた別の話だ……


………………………………………



……………………



……


「頭を打ってるみたいだから、 今日は絶対安静だ、 元気そうだから飯はいっぱい食えよ」


いたた………


「あのババア強すぎだろ、 何もんだよ」



「普通に主婦のおばさんだけど? まあ眠気覚ましとしてさ受け取っときなよ」


覚めてたってつうの


眼鏡をかけた高身長な目の前の医者は日暮の心音を測り終えると立ち上がる


「さて終わり、 健康そのもの、 一晩ゆっくり寝て、 明日はリハビリ、 そうしたら直ぐに体が上手く動く様になるよ」


はぁ……


「ありがとうございます、 何か何もしてないのに体は疲れたからさっさと寝ます」



「そうだね、 そうしなよ、 明山日暮君、 全快したらまた戦いに戻るんだろ? だったら今が一番忙しい時だ、 休める内に休んで起きなさい」


頷くと、 医者は書類や道具を手に持ち扉の方へ向かう


「あっ、 そうそう、 家族に感謝しなさい、 特に妹さんに、 彼女はずっと君の事を信じてくれて居たよ」


「鬱陶しく感じるかもしれないけど、 それでも大切なものだからね、 説教臭くなるからあまり多くは言わないけどね、 さっ、 次々~」


軽薄そうな見た目してる癖に、 医者はちゃんと医者だな……


ちっ ちっ


静かな医務室に時計の秒針が進む音が鳴る、 ずっと張り付いて居ても休まらないだろうと家族は自分達の所に帰った様だ


そう言えばフーリカともまともに話せてない、 礼も言えてないし……


「……何だろ、 目が覚めてから、 あいつの事考えると、 うっ、 てなる」


目が合った時自然に惹かれた、 すぐ側に感じた熱も今はもう冷めてしまったが、 悪い感じの物でもない


「………どうしてあいつはわざわざ俺なんか助けてくれたんだろうな」


心の底から湧き出てくる何かを必死に押さえ付ける、 疑問にする事で分からない振りをする、 知識共有はその人の想いまで共有されてしまう


「………違う、 違う違う違う、 まだだ、 まだ止まれない、 なあ、 そうだろ? なあ」


手を伸ばして、 荷物の中からナタを手に取る、 そのナタは形が歪んで湾曲し、 確かにあの日手に入れた姿、 暗低公狼狽の骨が巻き付いていた


「辿り着くからな、 俺は道を逸れてない、 俺は真っ直ぐ進むからな」


寝転がり天井を暫く睨むと波のように眠気が押し寄せる、 押し寄せる暗闇に身を委ねると、 心を殺す様に、 日暮はナタを強く握り締め眠った


…………………………………………



……………………



………


「うん、 そうそう、 手すりに捕まったままそのまま真っ直ぐ歩いて~」


よっせよっせ


三日間寝たきりに近い格好で、 その上脳が機能して居なかったからか、 最初体は本当に重く、 石のように硬かった


日暮の肉体に何処も異常は無い、 脳の物理的ダメージは癒え、 その中身も高いだけじゃないスイカのようにパンパンに詰まっている


少しづつ体を動かすと、 昔何かのCMで見た、 海外のめっちゃくちゃ水を吸い込む謎のスポンジの如く、 肉体の使い方を思い出し刻んで行く


「はいおっけ~ 歩く事は十分ね、 じゃあ今度は小走りしてみよっか」


リハビリを行う部屋まで完備されているとは本当に何でもごされなシェルター施設である、 藍木シェルターとは大違いだ


タッタッタッ……


足を運ぶ、 体が熱くなる、 代謝が上がり血が巡る、 酸素が四肢に、 脳に行き渡る


ああ、 生きてるっ! 両手を広げて喜びそうな感覚、 こんなのは始めてだ


「うんうん、 良い顔、 走るのも問題無いみたい、 本当に一時間程で体の使い方を思い出した見たいだね、 すごいすごい」


………なんだろう、 普段相手するのがジジババだからか、 自身が三つ子の母だと本人が語って居たがそのせいか


リハビリの先生は物凄くにこやかな人で、 喋り方もまるで小さな子供に向けて話し掛ける様な物で何か小っ恥ずかしくなる


「は~い、 そろそろ終わりにしよっか、 体の感覚はもう取り戻せた見たいだしね、 あっ、 でも復帰はお医者さんの判断を聴いてからね~」


日暮は頷く


「もうちょっと休んでろって言われたので、 今日は色んな人と話しでもしようかと思ってます、 いや、 本当にありがとうございました」



「うんうん、 どういたしまして~ そうだ、 もっと動きたくなったらトレーニングルームも有るからそこに行くと良いよ」


日暮は頷く、 ある程度したらそのつもりだ、 このシェルターはそうそう外には出してくれないらしい


「ふふっ、 それなら~ 例の子にも合うのかしら?」


ん?


「聴いたわよ~ 女性専用医務室に侵入して、 好きな女の子との再会を喜び抱きしめあったって、 青春ね~」


ぁあ?


「ちょっと待って、 脚色され過ぎ…… でも無いか、 その噂、 めちゃくちゃ広がってる訳じゃ無いですよね?」



「ふふふ、 主婦を間に人気沸騰の話題だよ~ 主にその男は逮捕、 死刑または去勢しろ~ 女性専用医務室への侵入を断固許すな~ 男は性犯罪者だ~ って」



「怖…… こんな世界になっても変わらねぇなおい……」


最悪のレッテルを貼られた様だ、 仕方なかったとはいえ、 もうちょっと上手いやり方何か幾らでもあったろうに、 いい方に転んで欲しかった……


「まあ良いです…… 俺基本的に人の言葉は無干渉何で、 何言われても効いてこないし、 それじゃあありがとうございました~」



「ええ、 またね~ 私は貴方の恋応援してるわよ~」


すんな


…………………


リハビリ室を後にして歩く、 今日までは医務室を使って居て良いらしい、 量産的なベットとマットレスだけど、 普通に避難してる人よりはワンランクはいい寝心地だ


「今の内に寝とくか? いや、 寝てばっかでもな~ あ~ クソ、 まじでクソ、 …………………あ~」


今は昼前だ、 この地下シェルター内じゃ外の天気も分からないが、 何か陽の光を浴びて、 風を感じたい……


たんたん……


下を向いて歩いていると正面から足音が聞こえる、 何処か存在感のある足音だ、 正面を見るとどっかで見た様な女性が居た


「あっ、 性犯罪者じゃ~ん、 目覚めてそうそう散々な言われようねあんた、 ぷぷっ、 おもしろ~い」


は?


「何だてめぇ? 初対面? でいきなりそれかァ? 頭のネジが抜けてる様だなクソ女、 ぶん殴るぞっ」



「きゃ~っ、 こわ~い、 フーちゃんにもそんな風に襲いかかったの~? って、 あんた私の事忘れたの?」


え? やっぱり初対面じゃ無い、 ……あっ、 こいつ藍木シェルターで突然やって来て俺をぶん殴った……


「汚ねえ暴言吐いて、 人をぶん殴る事しか脳のない女か~ 久しぶり~」



「おいっ! それは明らかにお前の事だろがっ! こんな可愛い私が…… おまえ私の名前覚えて無いだろ?」


知る訳も無く


「はぁ…… あんたと話をすると想像の百倍疲れるわ、 私は天成鈴歌あまなりすずか、 いい、 覚えてよ?」


はいはい


「天成さんね、 あっ、 明山日暮です~」



「知ってるわっ、 初対面じゃねぇつうの、 同級生何だよ一応、 そんな接点無かったけど」


あ~ 前にもそんな事言ってたな……


「そですか、 それじゃあ、 ハバナイスデー」



「いや待て、 私話有るから、 一応ね、 私が前に進む為にね、 その、 謝りたかったのよ、 あの時の事…… いきなりぶっ叩いてごめんなさい」


鈴歌は無意識的に最適な角度から放つ上目遣いで許しを乞うた、 まあ、 日暮には分からなかっ………



「結構可愛い顔してるなお前……… あっ」



「は?」


………………………………


「いや、 いやいやいやいや、 違うから、 前はゴジラみたいな顔だったから、 それに比べたらモスラくらいだったかもな、 可愛いもんだったかもなって」



「例えがクソなのよっ! あ〜 ムカつく、 やっぱり、 もう一発っ、 ぶん殴らせろっ!」


グリッ


拳…… 単調なフック、 狙いは顔面側頭部、 初速意外と早い、 でも腕を出して防御すれば間に合う………


ブチ切れていきなり殴りかかって来る女、 やっぱり暴力女じゃんけ……


戦闘の思考は鈍らない、 一瞬で意識を切り替え、 最適解の防御姿勢を……


グリッ!


鈴歌の拳がぶつかった腕にくい込み……


ギチギチ…… ベキッ!


折れた


「っ、 えっ!?」



「舐めてるからよっ! ぶっ飛べっ!」


ドガァンッ!!


あわわわわわわわわわわわわ


ドザッ………


体が大きく舞い、 飛びそうになる意識をそれでも強く引く、 体を空中で捻り、 両足で滑りながら着地、 体勢を崩さない………


ってか………


「いったぁっ!? 回復っ! 回復回復っ!」


折れた腕と、 頬骨が熱を持ち肉体が再生を始める、 そうだ、 これだけは俺の勝利の報酬……


「うわっ、 聴いては居たけど、 きっも、 治りやがったんだけど!?」


お前が驚くんかい……


「でも良い感じに戦闘の思考が巡ったわ、 ありがとう、 頭が冴えてきた」



「え? 感謝されるの? 本当に意味わかんないわ……」


鈴歌は拳を見る、 あの時と違い力が有るにも関わらず、 手が痛い、 この痛みは何時まで経っても無くならない、 攻撃する事への代償


こいつは、 常にその痛みを感じ続けて戦って居るのか?


鈴歌は日暮と言う人間、 好んで戦いをする者の思考をまるで理解出来ない、 それでも


「どう? 私能力に目覚めたのよ、 強かったでしょ、 力」



「いや、 くそ痛かったつうの暴力女、 イカレてんのかよ」


ふふっ


「あんたの驚いた顔、 見れて良かった、 あの男の言ってた通りね、 逆恨みは一発ぶん殴れば吹っ切れる物だわ」



さーて


「あんた、 さっさと休んで会議に出席しなさいよ、 あんたが来ないと藍木山攻略戦の概要が分からないって土飼さんが言ってたから」


あ~ それもあったか


「それよりなにより、 先ずはフーちゃんの所に改めて行きなさいよ、 早めにね」


……………


「なぁ、 なんだと思う? 何だろこれ」



「は? 何? どれ?」


日暮は天井を見上げる


「目が覚めてから、 あいつの名前とか聴くと、 わっ、 ってなるんだけど、 これ、 なんだと思う?」


わっ?


「…………………あんた、 それ、 まさかっ」



鈴歌は何故かガッツポーズをする


「きたきたきたっ! 激アツチャンス! そっちから寄ってきたならこっちのもんよっ! 私に任せなさいっ」


は?


(……何だこいつ、 いきなりぶつくさ頭おかしいのか?)


ビシッ!


天成鈴歌がこちらに向けて指を向ける


「人に指さしちゃダメ…………」



「明山日暮っ!」



「今日の三時頃、 女性専用医務室に来なさい、 そこにて待つ」


果たし状?


意味が分からないが、 それだけ言うと鈴歌は踵を返して通路の奥へと消えていった、 また静寂が漂う


「やっぱ寝るか」


何かぐっと疲れた、 こっちから会いに行かずとも、 俺に会う予定がある奴は向こうから来る、 そう、 何故なら病み上がりだから


「ダラダラしよっ」


そう呟くと日暮は医務室へ向けて歩みをす進めた…………


…………………………………………



………………………



………


「…………そうなんすよ、 さっき見て、 鈴歌が男をぶん殴ってたんですよね、 でも何かよく聞こえなかったけど楽しそうに話してました」



「………その相手の男、 誰か分かったか?」


薄暗い倉庫の通路、 侵入者の力で焼けた後の残るそこは、 以前から若者達が集まり話をする場になっていたが、 今は数人の男女しか居ない


「男の顔はわかりました、 最近結構有名な奴、 明山日暮って言ったかな? 聖夜せいやは知ってます?」


星之助聖夜ほしのすけせいやは頷く


「知ってる、 前に一応調べたら同級生だった、 明山日暮、 学生時は全く接点が無くて、 話した事すらない気がする」


そいつか鈴歌と、 しかもあの鈴歌が人をぶん殴るっ言うのは………


星之助が自分の顔に手を触れる、 大きく腫れ上がった顔、 昨日聖夜自身が鈴歌に殴られた跡だった


つまり、 大きな接点が有る者に対して行う鈴歌の感情表現、 滅多に本心を見せない彼女の数少ない心なのだ、 あの拳は……


と聖夜は思っている


(……鈴歌にとって何者何だよ明山日暮、 俺が昨日殴られた、 そして明山日暮も殴られた、 同じかよ、 そんな訳の分からない男と俺が同じかよっ)


そう言えば……


(……明山日暮の妹と昨日鈴歌は一緒に居たな、 あれにも意味がある筈だ、 その三人しか知らない何かが、 鈴歌を大きく変えた)


彼女の向ける笑顔が全てだった、 彼女の言葉は全てだった、 彼女の想いが全てだった


(……俺を好き何だ、 鈴歌は俺の事が好きなんだ、 昔から俺に頼るんだ、 俺が居なきゃだめなんだ、 なぁ、 鈴歌そうだろ、 鈴歌っ、 俺を試してるんだろ?)


なら分かった、 お前の気持ちが分かった


「聖夜さんどうしますか? 鈴歌さん居なきゃ寂しいっすよね、 帰ってきてまたここで笑って欲しいです」



「…………そうだな、 本当にその通りだ、 多分あいつが変わったのはその明山日暮が原因だ、 あいつと鈴歌を離せば鈴歌はもう一度俺達の所へ帰ってくる」


二人の距離を離す、 彼らはその言葉を聴いて目を鋭く尖らせる


「いつも道りな感じって事ですよね?」



「そうだ、 明山日暮をリンチして二度と鈴歌に近ずけない様にする、 あいつは戦い慣れてる、 準備は怠らない」


他の奴らは当たり前の様に頷く、 最早ここに居る奴らは常識のタガが外れていた、 こんな事は初めてじゃ無い


以前鈴歌をストーカーする男を発見し全員でリンチ、 そいつは二度とストーカーをしなくなった


大丈夫


(……鈴歌、 お前の事は俺達が守るからな、 二十四時間、 三百六十五日、 ずっと見てるから安心しろよ)


薄暗闇の中で彼らのねじ曲がった想いがゆらゆらと揺らめく、 その黒い心が物語を引き寄せる


タンッ タンッ


通路に足音が響く、 その音は大きく聞こえた


星之助聖夜はその足跡を強く睨む


少女が立っていた、 髪は黒く、 薄暗闇の中で目が赤黒く光っている、 明らかに異様……


「面白そうな事話しているね、 私が力を貸してあげようか?」


聖夜は首を傾げる


(……何だこのガキは、 いや、 何処かで見た事がある、 そうだ、 この子は……)


口が開く


「………魔王様 …………?」


(………魔王? 俺が今そう言ったのか?)


ふふふ


「そうよ、 私は魔王、 貴方たちみたいな面白そうな黒い想いが大好物、 だから私が力を貸してあげる、 さあ、 目を閉じて………」


そこに居る者達は気が付けば目をつぶって居た、 抗う事は出来ない……


「ふふっ、 楽しくなりそう…… 今度は笑ってくれるかな? お兄さんっ………」


薄暗闇の中で少女は笑う、 それは益々魔王と言う存在を表す様に黒く邪悪に満ちた笑顔だった

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