第九十五話…… 『束の間の』
チュンチュン チュンチュン
朝の早い小鳥たちの清く可愛らしい声が街に合唱の様に響く、 人の居ない街は早くも鳥たちの合唱コンクールだった
昨日の破壊痕や、 未だに立ち上る黒い煙にも平等に陽の光は降り注ぐ、 空は快晴、 朝から気持ちのいい天気だった
それを地下シェルターに住む人達は見る事が叶わない、 まあ、 仕方ないけど……
はわぁ~
「あ~ 良く寝た、 昨日の戦いのせいか凄く疲れていたのか、 朝まで熟睡だったぜ~」
威鳴千早季は寝床から立ち上がる、 まだ眠たげの顔と、 しっかり癖の付いた髪を気にすること無く歩き出す
「千早季、 おはよう、 よく眠っていたわね」
威鳴の姉だ、 すぐ側にいやがったのか……
「おはよ、 飯行こうぜ~」
頷く姉と並んで歩き食堂へと赴く、 食堂内は人でごった返しているが、 少し探すと目標の人物を見つけた
「冬夜君、 おはよう、 悪いね寝坊した」
「威鳴さんおはようございます、 いいですって今日は偶の休日何ですから」
冬夜は既に朝食を食べた様で、 紙コップに注がれたお茶を飲んでいた、 威鳴も朝食を用意し食べる
「うんうん、 なかなか美味しいね、 あれだけ動いてこの量だときついけど、 まぁ、 これだけ人が居たら文句も言えない」
「そうですね、 むしろ今こうして俺達がご飯を食べて生きていられる事に感謝しなくちゃって思いますね」
真面目だな~
よく見ると冬夜の瞳が波打って居る、 冬夜の友達水の少女はそこか……
「ふぅ…… 食べながらで悪いんだけどさ、 良いかな?」
「はい、 マリーもちゃんと聴いてるのでご安心を、 始めましょう」
二人は予めこの話し合いを予定していた、 二人には共通点がある、 それは、 自身の傍に神秘が存在し、 共存していると言うこと
二人だけがあの時確実に他の人とは感覚が違っていた、 二人だけは意識を残し確かにあの光景を見ていた……
「昨日俺達何されたと思う?」
昨日、 勿論それは藍木山攻略戦を終え、 疲れた体を引きずりこの甘樹シェルターに帰った後のこと
まず作戦室にたどり着いたが、 一番室にいる木葉鉢朱練や、 大望吉照に挨拶をしようと皆で向かったのだ
一番室に入ると、 既に中は異様な気配に包まれて居た、 その空間の空気を吸った途端、 頭が痺れ目眩がした
「あの時マリーが守ってくれたから俺はそこまでおかしくならずにすんだ」
「俺も、 姉貴に守られた、 あの時の感じ、 姉貴達、 神秘の気配に近い感じだったな、 抗えない」
冬夜は頷く
「雪ちゃん、 あの女の子だった、 その気配、 いや力を放って居たのは」
冬夜の言葉にマリーも、 威鳴と姉も同意する
威鳴が顎に手を当てる
「冬夜君は居なかったけどさ、 藍木山攻略戦の会議をした時、 妙な話が出たんだよね、 ……冬夜君さ、 異世界って言われてピンと来る?」
冬夜は顔を顰める
「アニメか漫画の話ですか?」
「いいや、 もうそんな事言ってられないでしょ、 現実の話だよ」
その言葉を考えて、 そうして冬夜は目を見開く
「モンスターは異世界から来た?」
「そう、 こことは異なる世界があってさ、 ライトノベルみたいな、 話的にそこから来た」
冬夜は腕を組み頭を悩ませる
「異世界…… その話と言うのはそもそも何処から出てきた話何ですか? 雪ちゃんと関係のある話なんですよね?」
「おいおい、 突拍子も無いからって疑わないでよ、 前置き何だよ、 ちょっと話を聞いてよ」
威鳴は少し話をするつもりが、 何だかんだと話を始め、 結局冬夜の知らない事、 シェルター襲撃の前後の事から、 藍木山攻略戦までの話を語った
「それでねそれでね……」
ドスッ
うっ………
「威鳴、 冬夜君の顔を見てみなさい、 呆れてるわよ」
「ごめん…… 脱線してたね」
「はぁ…… まあいいです、 何があったのかはよく分かりました、 それで?」
威鳴は頷く
「話を戻すけど、 異世界の話が会議で出たのは、 そこに異世界人が居たから何だよね」
?
「異世界人? 居るんですか、 モンスターの世界に人が?」
「フーリカさんって言ったな、 あっ、 日暮君と仲良いよ、 結構可愛い、 あと、 大望さんと一緒にいるメイドさん知ってる? その人もそうらしい」
メイドさんは少しかってが違うけどね……
「……成程、 本当にラノベのような異世界なんですね、 向こうの世界にも人の世があって、 モンスターも居て」
「そう、 それでさその二人が話の中で言ったのよ、 魔王って言葉をさ」
昨日の一番室での時間、 頭の中に強く残った言葉
魔王……
「向こうの人の世界は滅んだらしいんだよ、 それでその原因が魔王だって、 ドラクエの勇者が負けた世界みたいな? そんな感じなのかな?」
そう言えば……
「この街にやって来たあの大きな龍、 あの龍と戦ったのも、 雪ちゃんだって言ってましたよね? 人の世界を滅ぼせる程の力、 だとすればある意味納得もできます」
つまり……
「昨日のはその力の一旦、 雪ちゃんは魔王で、 その力を俺達に向かった使って来た…… これは……」
「冬夜君、 もしかして考えてる? あの少女をどうするべきか?」
どうする……
「因みに、 あの雪ちゃんの事を一番知ってるのも日暮君らしいよ、 思うんだよね、 日暮君、 この騒動の台風の目に近い所に居るんじゃないかな?」
日暮が……
「日暮、 あの後目を覚まさないからそのまま医務室で寝たみたいですけど、 ちょっと見舞いがてら話を聞きに行きませんか?」
「そそ、 俺もそう思ってたんだ~ ちょいしたら行こうか」
二人はその後少し話をして、 その後机を片付ける、 因みにマリーと、 威鳴の姉は何やら世間話に身を投じていた
神の世界にも色々あるらしい様だ、 その話にもきりを付けてもらい席を立った
…………………………………
……………………
……
ベットは壁際にして貰った、 壁にかかる風景画にとても興味があるらしい、 今朝目が覚めたと聞いてお父さんと、 お母さんと一緒に駆け付けた
のに……
「ねぇ、 お兄ちゃん」
?
こうやって話し掛けると目線だけこちらを見て心做しか不思議そうな顔を見せる、 それでも直ぐに関心を失い壁の方を向いてしまう
「茜、 お兄ちゃんは少し疲れてるだけよ、 そうよ、 日暮は強い子だもの、 少しっ、 したら良くなるわ……」
そうやって言うお母さんの声は震えて居る、 お父さんもずっと無言で頼りない
私、 明山茜は、 今医務室に居た
私は昨日、 怖かった、 何か大きなモンスター? それが襲ってきて、 どうにかなったみたいだけど、 お母さんと、 お父さんと震えてた
お兄ちゃんは、 何か藍木山に戦いに行ってて、 居なかった、 私はお兄ちゃんが帰って来た事も知らなかった
いきなり医務室に居るって言われて、 駆けつけたらベッドの上で目を覚まさないから、 怖くて震えた
朝になって、 目が覚めたって聞いて、 凄く嬉しかった、 転がる様な勢いでここまで来た、 のに……
植物状態…… 少し違うけど、 今のお兄ちゃんを見て私はそんな言葉が頭に浮かんだ
原因は不明、 突然こんな状況になってしまったらしい、 顔を背け、 こちらに背中ばかりを見せる姿は弱々しい
離れるに離れられなくて、 ずっとここに居る、 さっきお兄ちゃんの友達の冬夜さんと、 威鳴さんって年上の人が来たけど、 今のお兄ちゃんを見て帰って行った所だ
何だかんだでもうお昼になってしまった、 お腹も空いてこない……
「お父さんとお母さん、 お昼食べて来なよ、 私、 お兄ちゃん見てるから」
「えっ? ああ、 でもお腹も空かないしな………」
降りる沈黙
「それでも、 痩せ細った姿なんてお兄ちゃんは見たくないよ、 二人が帰ってきたら私が今度行くから」
二人は顔を見合わせて、 暫くして頷いた、 少し無理に笑顔を作って言う
「ありがとう、 そうね、 それもそうね! こんな姿見て笑われたら頭に来るから、 ご飯食べてくるわね」
うん
母が父を引っ張るように医務室を後にする、 幾つかある医務室の中でもここは軽度の怪我何かをした人が休む部屋だ
兄は脳に問題があると忙しそうな医者が言っていた、 外傷は全く無いのだ、 昨日戦いをしてたとは思えない程全く
心当たりはある、 よく分からないけど兄は傷を再生する力を持っていた、 以前シェルターが襲われた時、 兄はボロボロになっても傷が再生した、 ちょっと怖い
けど……
「脳の傷なら治るんじゃ無いのかな…… ねぇ、 お兄ちゃん、 何があったの?」
問いかけても返事は帰って来ない、 試しに立ち上がって兄の見つめる風景画の方へ回り込んで見る、 その視線を遮って立つ
「お兄ちゃんっ」
しっかり目を合わせて立つ、 何時もだったら恥ずかしくて直ぐに逸らしてしまう、 でも今の兄の色を失った瞳は逸らす気すら無くなる程生命力を感じなかった
視線を遮られば何か反応するかと思えば何も変化は無い、 風景画も至って面白みの無い物で興味も沸かない
………………
「もしかして、 風景画を見てる訳じゃない?」
試しに風景画を外して移動させて見ても兄の向く方向は同じだ
「……何だろう、 壁に意味があるのか? いやいや、 至って普通の壁だし……」
兄は首を捻って横を向いている
「結構捻ってるよね、 首痛くなりそう…… ん? もしかして本当に見たいのはさらにその奥?」
体を動かす力は無く、 首と目だけはかろうじて動く、 そうして何かを探す様に、 訴える様に……
「今のお兄ちゃんの位置からじゃ見えない物は、 棚だけだ」
ホームセンターに売られて居るような四段の棚で暇つぶしの本が入って居たり、 てっぺんには瓶に入った造花が刺さっていた
一番上の段は籠が入っていて荷物を入れられる様になっている、 その籠を棚から抜いて中を見る
「お兄ちゃんの持ち物…… あっ、 このナタ昔から家の物置にあった、 お兄ちゃんが戦いに使ってたナタ…… うわっ!?」
籠からナタを持ち上げて見ていると、 兄が怖いくらいの視線をこちら、 ナタを睨む様に見ていた
「これがっ、 ナタが欲しかったの? ……どれだけ戦いが好きなのよ、 はぁ……」
すい~ っと兄の目の前でナタを移動させると、 兄は視線だけでナタを追う、 視線が追随する
それにしても……
「変な形、 前はこんなんじゃ無かったのに、 どんな使い方したらこんなに形が歪むの? おまけに……」
この変な形に歪んだナタ……
「変な石? みたいな物がめり込んでる、 何かすべすべして、 石じゃない、 これは…… 骨?」
柄にくい込んだ骨、 兄の刺さる様な視線は確実にこのナタと骨を見ている
「………はい、 これが欲しいんでしょ」
兄の手を広げ、 ナタを置く、 兄はそれを強く握り込む
グサッ
めり込んだ骨の先端が尖り兄に突き刺さる
「お兄ちゃんっ! 大丈夫っ!?」
深く突き刺さって居るにも関わらず兄はそれが当たり前の様に声も出さない
血が流れない、 流れない分だけ、 奇妙な事に突き刺さった骨が伸びていくナタ全体に巻きついて…… そう言えばシェルターで戦ってた時も元々はこんな感じだった……
ビシッ!!
グシャアアアッ!!
っ
「えっ!? おにっ」
目を見開く、 ナタから骨が伸びでお兄ちゃんの頭を貫いた、 相変わらず血は出ず……
ビシュルッ!
音を立てて骨が縮み元に戻った時、 既に貫かれた傷は消えていた
ドザッ
お兄ちゃんがベットに力無く倒れ込む
「お兄ちゃんっ! っ熱! えっ、 熱あるよ! ちょっとお医者さん呼んでくるからっ!」
茜は慌てて医務室を飛び出していく、 その後ろ姿が、 確かに日暮の目に写った……
ザッ…………………
…………………………………………
………………………
………
「まだ来てないの? 明山日暮……」
はぁ……
「はい…… 日暮さん忙しいのかな、 まあ、 昨日の今日ですしね」
「忙しいなんて言い訳をここで使う様な奴だったら私が容赦しないわ、 真っ先に駆けつけるでしょ事情を知らない訳じゃ無いだろうし」
医務室、 医務室と言っても色々だ、 ここは基本男性立ち入り禁止の女性専用の部屋だ
但し、 この時勢、 家族や、 それに近しい友人や知人であれば、 許可を得る事で入る事が出来る
現在この医務室を使ってる方の多くが高齢女性であり、 基本誰かの入室を拒む様な雰囲気は無い
「あんまり事情知らないけど、 フーちゃんにとってはこの世界で最も近しい奴が明山日暮でしょ? あいつそれを分かってんの?」
「まあまあ、 良いんですよ私の事は、 後回しでも…… 他にする事、 いっぱい有るだろうし………」
そんな言葉とはうらはらに、 ベットに横たわるフーリカは寂しそうな声を出す
彼女は昨日、 シェルターに侵入して来た男を食い止める為に戦闘、 炎の能力にその身を焼かれ憔悴していた
それでも、 藍木山で戦う日暮を迎える為に待っていたのだが、 土飼とか言うおっさんの『まだ帰らないよ』の残酷な一言についに意識を失ってしまった
医務室に運ばれ、 昨日の夜には目を覚ました様だ、 明山日暮がどうにかして帰って来たと言う話はうっすら聞いて喜んでいたのに……
「私呼んでこようか、 引きずってでも連れて来るから」
ふふっ
「ありがとうございます、 天成さん、 やっぱり天成さんは優しいですね、 でも良いんです、 天成さんが居てくれてあんまり寂しく無いですから」
飾り気のない笑顔、 計算は無く純粋、 どれだけ彼女がいい子なのか分かる
「フーちゃん、 名前で呼んでよ、 私家が変な家だったから家を表す天成は、 嫌いじゃないけど、 親しい人には名前で呼んで欲しいの、 鈴歌って呼んで」
天成鈴歌はフーリカの横になるベットの隣の椅子に腰かけ話相手をしていた
「はいっ! 鈴歌さんっ、 んっ~! 鈴歌さんっ! 鈴歌さんっ!」
え?
「なっ、 なに? なになにどうしたの?」
フーリカは少し照れたように顔を赤くして言う
「私、 王女だったから、 あんまり対等な関係の友達が居なくて、 いや、 人付き合いも実はあんまり上手く無かったんですけど……」
「それで、 憧れてて、 その、 名前で呼びあったり…… とか?」
それを喜んでるの? はは
「本当に可愛いな~ こう、 小動物みたいな可愛さが天然で備わってて…… あっ、 でも私はあだ名で呼んでるよ?」
「あだ名っ! どんと来いです! 一般階級の生徒達がキラキラと目を輝かせて呼びあっていたあだ名っ、 今私の素敵な青春がここにっ」
あはは…… 変なキャラ入ってるな……
しかもこんなに輝いた目で見られたら、 流石にこっちまで照れてくる
「と言うか、 名前呼びなら既にしてるんじゃないの? ほら、 明山日暮とは名前呼びじゃない」
日暮さん……
「はぁ…… やっぱり私、 日暮さんとは友達のまま終わるんでしょうか……」
え? そうなるの?
「はぁ…… 私にしたら良さが全く分からないけど、 フーちゃん、 あのね、 男ってのはいつまで経っても変わらない物なのよ」
?
「ガキだろうが、 青年だろうが、 おっさんだろうが、 ジジイだろうが、 男ってのは変わらないの、 ガキから変わらないのよ」
へ?
「明山日暮に少しでもその気があれば、 ゆっくりしていても大丈夫、 これから時間をかけてもっと近ずけば良い」
「でもね、 多分無い、 あいつには無い、 まじで無い、 フーちゃんの恋の勝率は…… ゼロパーセントよ」
ガーーーンッ
「へっ?、 へぇえ………………」
ちっちっ
「落ち込むな淑女よ、 それはあくまでもあいつの変化具合だ、 男が何時までも変わらず、 真っ直ぐ行っちゃうなら」
「こっちが変わってやるのが大人の女よ、 向こうに合わせてあげるの…… いや、 正確には合わせてあげながら少しずつ方向を変えてくの」
?
「男は馬鹿だからちょっとの変化は気が付かない、 ちょこっとづつ向きを変えて、 気が付いた時には最初と全然違う方を向かせてやれる、 それが女の力」
「その場合、 男は真っ直ぐ進んで来たと錯覚してるから自分の道を疑ったりしない、 これが上手いやり方だよ」
へ~
「難しそうですね、 私に出来るかな……」
「フーちゃんは一人じゃない、 私が着いてる、 利用出来る人間を尽く堕として来た百戦錬磨の鈴歌様がするからねっ♪」
ぇえ……
「たっ、 頼もしいですね……」
「そうでしょ、 ……あの時フーちゃんが私と対等で、 私に『かわいい』を教えて欲しいって言ってくれたの、 嬉しかった」
フーリカはやっぱり、 鈴歌は可愛くて美しいと思い、 彼女を見つめる
「ん…… そう言えばフーちゃんごめん、 私この後人に呼ばれててさ、 あの土飼さんとか、 作戦室の人達にさ、 私も能力を手に入れたから戦力として観られたのかな」
「そうなんですね…… いえ、 大丈夫です、 私も何だか眠くなって来たので、 暫く眠る事にします」
うん、 そうした方が良い
「早く元気になって、 そうしたら忙しくなるよ~ 私流女磨きは超厳しいからね」
「はい、 凄く楽しみですっ」
うん……
「それじゃあ、 また後でね」
鈴歌はそう言って手を上げると席を立ち医務室から出て行く、 その後ろ姿を追った後、 フーリカは少し持ち上げていた首を力無く枕に乗せた
静寂が医務室に満ちる、 小さめの声で話していたと思うけど、 誰かに文句を言われたりしなくて良かった……
すぐ横の棚に飾られた造花を見つめる……
「……日暮さん、 来ないかな…………」
やっぱり体が疲れて居るみたいだ、 瞼が重い…… 目を開けていられない…………
スー
目を閉じると直ぐに眠りについてしまった、 その時は不思議と夢は見なかった、 心も休まる様な心地いい眠りだった……
……………………………………
……………………
……
あの月が夜を照らして、 徐々に空が白く変わってくる、 日が出て、 空高く目指し登る
汗をかいて、 体が疲れ、 飯を食って、 空が紅くなって、 月が出てくる
眠って、 起きて、 眠って、 起きて……
あれから三日経った……
「彼は今点滴で体に栄養を取り込んで居る状態です、 眠る様に昏睡している、 私も長いこと医者をしているけれど不思議だ」
そんな医者の言葉が乾いた風の様にサラサラと耳から抜けてどこかへ行ってしまう
「彼が何らかの原因で倒れ、 そうして動かなくなったと思ったら、 熱を出し眠り、 そのまま三日起きない、 幸い熱は下がって呼吸もしている」
何故目を覚まさないのか?
知るか、 そんな事……
「日暮はこのままどうなってしまうのですか? 本当に元気な子だったから、 こんな……」
母の声は震えている
「分からない、 ただ、 いつ目を覚ましても不思議じゃない、 体は至って健康です、 ご家族に出来るのは、 ただ彼の目覚めを待つのみです、 皆さんご飯は食べてますか? 眠れている?」
「……かろうじて、 食欲は無いけど、 悪夢に魘され何度も起きるけど、 そのうちに眠れます」
父だ、 本当に弱々しく頼りない、 それを責めること等出来るはずも無いが
「君は大丈夫?」
え? 私……
「はい…… 兄は強いんです、 本当に、 絶対に負けないと思います、 だから、 私も簡単には負けてやりません」
医者の先生が頷く
「うん、 そうだね、 君が居るとお兄ちゃんも心強いだろうね」
茜は兄の日暮を見る、 自分だけが知っている、 三日前、 あのナタの骨が兄に突き刺さり頭部を突き刺した事に意味はあるのか……
きっと今も、 兄は……
兄があの時から目を覚まさない、 辛いけど、 時が止まる訳じゃない、 私は私で踏み出して進まなくてはならない……
医者の先生はその後別の方の所へ向かった、 茜は医務室を後にする、 特に用は無いが少し歩きたかったからだ
すると前方から見覚えのある女性が向かって来て、 茜は無意識に目を逸らした
「ちょっと、 何よその反応、 傷つく~ ……別にとって食ったりはしないわ、 明山日暮の妹ちゃん」
天成鈴歌さんだ、 この人といえば、 藍木のシェルターで兄を逆恨みでぶっ叩いた人と言うイメージしかない
「いえ、 そんなつもりじゃ…… 」
鈴歌は肩をすくめる
「はぁ…… あの時の非は認めるわ、 あれは私が悪かった、 だからいちいちビクビクしないでよね」
嘘を言っている様には見えない
「そうだ、 妹ちゃんに聞きたい事があるんだけどさ」
「茜です」
うん
「茜ちゃんに聞きたいんだけど、 明山日暮って今何処で何してるの? あいつフーちゃんの…… フーリカちゃんの見舞いに全く来やしないんだけど」
そうだ、 フーリカさんも怪我をして医務室に居るんだ、 でも仕方ない……
「兄も医務室ですよ、 知りませんでしたか? その、 今は昏睡状態で…… 目を覚ましません………」
へ?
小さくそんな声が鈴歌から漏れたのを聴いた
「嘘、 じゃないわよね?」
嘘だったらどれ程良いか……
「………そう、 それは悪かったわ、 私も後でお見舞いに行こうかしら? いや、 やっぱりやめた、 今からまた会議だし……」
何やらブツブツと言葉を漏らす彼女は至って元気があって、 生気に満ちている
少し恨めしくなる
「こっちから願い下げです、 兄は貴方の顔何て見たく無いんじゃないですかね」
鈴歌はその言葉に鋭く目を合わせて息を吐く
「ふぅ…… そうかなぁ? あいつの性格なら、 もう大して気にもしてないと思うよ?」
これはフーリカから聴いた話だ、 あの時の事何か気にしてないし、 何なら未だに私が誰なのかよく分かってない、 超ムカつく
それがよく分かってるのか茜はハトが豆鉄砲食らったみたいにか細く黙る
よく見ると……
「茜ちゃん、 寝癖がそのままだよ?」
「えっ」
茜は慌てて自身の後頭部を触ると、 ピョーンと高らかに跳ね上がり癖になった髪が角の様に主張している
(……目に隈まで作って)
仕方ない……
「会議には遅刻してあげる、 そもそも出たくないし、 あんな会議より乙女を綺麗にしてやりますか、 ちょっと来て」
「は? 何ですか、 行きませんよ」
はぁ……
「来いっ、 引きずってでも連れてくよ、 可愛い顔が台無し何だから、 さっ」
強引に茜の腕を掴んで、 鈴歌は自分の荷物置き場まで向かう、 こんな時でさえ、 乙女の鞄の中には可愛いが詰まって居るのだ
「可愛いは女の子の基本、 良い、 可愛いは強い、 貴方も、 貴方の周りの人も笑顔になる」
「今から茜ちゃんには量産型女子になって貰います」
えっ……
「原宿に居る様な女の子ですか? いやいやいや、 私なんてそんなの無理ですよ」
「え~ 期待してる顔しちゃってるよ?」
ガチャ
荷物置き場の扉を捻って中に入ると、 中に殆ど人は居なかった、 日中は皆暇潰しに出掛けるからだ
(……あれ? 一人居るみたい、 荷物を漁ってる)
そう思った時、 隣で声が聞こえた、 その声は怒っていた
「ねぇ、 それ私の荷物だよね、 おい、 何してんだよお前っ」
えっ!?
一瞬背筋が凍りそうな程冷えた、 ドスの効いたと言うのだろうか、 恐ろしい声は、 見た目とは相反する、 天成鈴歌の喉から這い出た物だった
やっぱり怖い……
しかし、 それが本当に鈴歌の物だったとしたら、 そんな声も出る、 荷物を漁ってるのは男だった
「…………鈴歌、 ごめん、 俺だよ、 俺、 聖夜だよ、 星之助聖夜」
………
「あぁ、 星之助君、 で? 何してんの?」
どうやら二人は知り合いの様だ、 だからこそ妙な生々しい緊張感が漂っている
妙な事に巻き込まれたなと、 茜は思った
「鈴歌、 最近俺を避けてるよな? 何でだ?」
は?
「質問に応えろよ、 名前名乗って許されたとでも思ってんの? だからだよ、 あんたにはもう辟易して来たの、 私と関わらないで」
沈黙が流れる、 星之助が歩いてこっちに向かってくる
「酷いこと言うよな~ 鈴歌、 俺は小さい頃からお前の事好き何だぜ? お前の為と思ってやれる事何でもやって来た、 のに」
何だろう、 少し怖い……
グッ
鈴歌さんが一歩踏み出す、 まるで恐怖を感じ無いかの様に、 頭ひとつ高い男に向かって踏み出す
「いやだから、 応えになってないんだけど? 質問くらい応えてくれないかな? だから嫌いになったって言ってんのよ」
二人が一メートル程の近距離で止まり睨み合う
「鈴歌…… 俺はな、 お前が好きなんだよ、 ずっと好き何だ、 お前だけを好きでいたんだ、 おっ、 お前がっ、 いつも俺を意識させてたんだろぉっ!」
大の男が大声を張り上げる、 不味い、 誰か、 人を呼んで来た方が……
「……うるせぇな、 ごちゃごちゃと、 お前に初めから気何かあった事ねぇよ、 そうやって利用してたって事に気が付かないの? 冷めた、 完全にあんたには失望したわ」
はぁ……
「もう一言も話したく無い、 質問の応えも要らないからどっかに消えて」
男、 星之助が震える
「ふざっ、 俺のッ! ことが好き何だろぉ!! そうだろゥぉっ!! はぁ…… 俺の、 俺の事が嫌いだって言うなら……」
グリッ
男が拳を握ったのが見えた、不味い……
「俺の物にィしてやるぅああっ!!!」
拳、 大ぶりの、 速い、 大きな体格から放たれる拳が、 真っ直ぐ狙いを済まして、 鈴歌の可愛い顔に吸い込まれ……
パンッ!
っ!?
何て事は無かった、 天成鈴歌は数日前に過去と向き合い前進した、 彼女は今能力者
能力はドライ・ドライグ、 彼女の華やかさと可憐さが爆発的に燃える、 半人半龍の肉体を得る
彼女は、 煉華龍………
「女の子に手まで上げる何て、 クズだね、 本当に心底失望した、 あいつでさえ結局殴らなかったのに」
あいつ……
「あっ、 あいつって誰だよォッ!」
どうだって良いでしょそんな事、 でもね、 あいつくらいで丁度良いの、 ムカつくけど……
グッ!
「男ならっ、 中途半端に細かい事を何時までも気にしてんじゃねぇっ!!」
ドガァッ!!
硬く握った拳を男の顔面に叩き込む、 正当防衛だし、 スッキリするだけで悪気はちっとも湧かない
「うがっ!?」
ドスンッ!
インパクトの瞬間大分力を抑えたから、 数メートル飛んでおしりから地面に落ちるもそこまで大事無さそうだ
「消えろ」
ちっ
そそくさと立ち上がり男は出口に向かって行く、 と言うか……
方向的に二人のやり取りをぼーっと見ていた茜の方に向かって……
「……ん? 君は明山…………」
ドンッ
「おい、 ボサっとするな、 さっさと出てけよ」
鈴歌の睨みを受け、 既に真っ赤に腫れ上がった顔を抑え男は部屋から逃げる様に出て行った
…………………………
静寂が満ちる
「はー、 全く困っちゃうな、 ああいう男は、 ぷんぷんっ」
今更可愛さアピール全開にされても……
「ごめんね、 何か私も疲れちゃった、 茜ちゃん、 また明日ご飯一緒に食べない? 私今日はもう休む…… じゃない、 今から会議行かなきゃ……」
大変そうだ……
「はっ、 はい、 私は全然…… その、 あの、 食事もはい、 そうですけど…… 私、 原宿ファッション、 少し興味ありますから……」
鈴歌が笑う
「ははっ、 そう? なら今度着せ替え人形になって貰うから、 メイクもバッチリ決めてねっ」
そうやって少し話しをしてから二人は別れた、 茜はもう一度医務室に戻る
(……何か変な感じ、 天成さんも根はいい人だったし、 怖い思いも少ししたし、 でも、 気は紛れたかな……)
父も母も居るだろう、 そうしたらベットでに横たわる寝坊助の兄を見て笑ってやろう……
ガチャ
医務室の中、 奥に進む、 壁際、 そこに皆が………
あれ?
(……お父さんも、 お母さんも居ない……)
違和感、 視界に映る殺風景……
ベット、 空
へ?
「……お兄ちゃんが居ない」
適当に吹き飛ばされた布団が地面に落ちている、 荷物置き場の籠が落ちて居る、 中の、 あのナタが無い
ガチャ
たんたん……
「あら、 茜戻って来て……」
「お母さんっ! お兄ちゃんは何処っ!」
母は空っぽのベットの上を見て、 固まって大口を空け声に出ない悲鳴を上げている
知らないんだ、 お母さんも、 多分お父さんも、 もしかして、 起き上がって何処かに…
その場合、 兄の意識は戻った事になる
「お母さんっ、 お兄ちゃんを探そうって!」
「えっ、 ええっ」
空っぽのベットを置き去りにして、 転がるように駆け出す、 日暮は………
………………………………
………………
……
わわわわわわわわわわ
ぐわんぐわん
ばばばばばっ
勤めてた工場の中、 色んな音が鳴っている、 機械音やら、 作業音やら、 家鳴りやら
混ざりあった音が常に頭の中に木霊している、 集中していれば聴こえないけど
どうやら今は、 どうも集中出来ていない様だ、 頭の中で絶えず音がなり続けている
?
??
???
タン…… タン……
『……お前の足音、 工場の何処に居ても分かるよ、 その引きずる様なやる気の無い足音』
タン…… タン……
『……俺さ焼肉言ったら絶対タンしか頼まない、 九割タン、 日暮はカルビばっか頼むよなぁ』
タン…… タン……
?
……………………足音だ
歩いて居るようだ、 日暮…… 知ってる名前だ…… あ、 俺だ
?
景色が伸びている、 横にぐいーっと、 間延びしている、 何処までも遠い……
そもそも、 一体何処に向かって……
ガチャ
?
ドアノブをひねる音……
…………………………………………
………………
「ん? あら? ダメよお兄さん、 勝手に入って来ちゃ、 書いて有るでしょ、 女性専用医務室って、 それともここの誰かの知り合い?」
……………………
?
「……ちょっと、 何か言いなさいよ怪しいわよ? もしもし? 聴こえてる?」
?
おばさんの声が少し煩い、 せっかく眠りについたのに、 これじゃあ眠るに眠れない
(……もう、 何………………)
?
あれ…………………
「日暮…… さん?」
男性が入口の所で立ち呆けて居る、 おばさんはその彼を止めて居るのだ
「はいはい、 出てった出てった、 捕まえるわよ、 私の愛有鉄拳が出るわよ~」
彼が押され、 外へと行ってしまう……
待って、 嫌だ、 待って………
あれ?
体が動かない、 重い…… 全然言う事を聴かない、 動け、 動け……
ガンガン……
動いてっ!
………………………
……
バサッ!
「はっ……………………………… あ、 夢」
酷い疲れと虚無感に襲われる、 嫌な夢だ、 日暮さんがようやく会いに来てくれたのに、 私は………
ん?
不意に気配を感じて、 フーリカは自分の寝るベットに掛かる自分以外の重さに気がつく
そこには……
「っ、 ……日暮さん」
少し声が震えた、 会いたくて会いたくて、 そんな人が遂に傍に居た、 夢じゃなかった……
彼は傍の椅子に座り、 上半身をベットに預け、 突っ伏して眠って居る
「私の顔を見に来てくれたのかな、 眠ってたから自分も寝ちゃった? 起こしてくれれば良かったのに……」
フーリカは腕を伸ばし日暮の肩に触れる
「日暮さん、 起きて下さい、 ここで眠られたら困りますよ」
揺すると反応があった、 ゆっくり日暮が顔を上げる、 ようやく顔が見れる……
「もう、 日暮さん、 こんな所で眠ってしまうなんて、 余程疲れて……………? 日暮さん?」
何か、 反応が弱い、 寝起きだから? いや……………
「日暮さ……… っ!?」
彼の顔を覗き込んだ時、 フーリカは思わず悲鳴をあげそうになった、 表情が無かった
暗い、 そこだけ影が指した様に暗い、 勿論のっぺらぼうって意味じゃ無いけれど
喜怒哀楽が抜け、 些細な反応すら見せる事が無い、 何処までも欠乏した様が顔から見て取れた
フーリカだからこそそう感じた、 日暮と記憶や知識を共有したフーリカだからこそ感じた
日暮の中、 脳の中に、 ボッカリと穴が有る、 大切な、 必要な物が欠けている
フーリカは見覚えがあった
「これ……宿種者の方たちの症状に似てる……」
宿種者とは、 毎年数千人程に起こるとされる現象、 それが起きた人の呼び名であり、 その実態はまたしても聖樹である
聖樹の飛ばす種が宿った者の事を一部では宿命の者と呼ぶが、 その最後は皆凄惨な終わりを迎える
頭部を狙い寄生する種、 それは一月程の時を要してその物の自意識を奪い暴走させる、 人は聖樹を恐れて来た
だからこそ、 人は宿命の者を、 天閣から選ばれた者と呼び、 その者とその者の家族に祝福として恩情なる金品を渡す、 その者達が路頭に迷わず済む様にである
何故なら、 宿命は暴走を起こさない様、 自意識を失う前に、 聖樹の種を燃やす特殊な魔法で脳を焼かれるのだ
時代が進むに連れ魔法の制度も上がり、 種だけを正確に燃やし殺せる様になった、 この魔法が無かった頃は皆等しく神の元に命を奪ったと言う
しかし、 聖樹の種が寄生する脳の位置は何時も同じであり、 種は素早く根を伸ばす、 どれだけ迅速に対処しようと変わらない
種を燃やす時、 その周りに一切傷が付かなかったとしても、 種が無くなると同時に、 その人は植物状態の様になってしまうからだ
その家族は、 その人の面倒を見なくてはならない、 国、 世界の為だ、 その為の保証としての金品だった
フーリカも以前そうして魂の抜けた様になってしまった人を見た事が有る、 そして……
「似ている、 でも、 流石に聖樹は関係無いよね、 聖樹の種を焼いた方達はもう歩く事も出来なくなった筈……」
日暮はここまで自力で歩いて来た?
「私を頼ってくれたのかな、 私なら解決出来る、 日暮さん相手なら私が役に立てる、 私の知識共有で、 日暮さんから共有された知識を日暮さんへもう一度共有する」
出来るはずだ
フーリカはベットから起き上がる
「っ、 痛い…… 皮膚が……」
敵の能力で身体中を焼かれたので、 動く度に火傷の後が服と擦れて鋭い痛みが走る
でも……
恋は盲目、 フーリカは体を引きずってこの医務室を管理しているおばさんが普段使っている机の所まで行く、 夢の中に出てきたおばさんだ
ぐー ぐー
おばさんは寝息を立てて机に突っ伏して眠っていた、 それを起こさない様に机の上から赤色のペンを取る
「借ります」
もう一度ベットまで戻ると純白のシーツに向き合い、 ペンを抜く
「本当にごめんなさい、 多分これ落ちないよね…… それでも、 日暮さんのために」
フーリカはシーツの上に丸を二つ描く、 真ん中で同じ大きさで、 並んで半分ほど重なり合った丸だ、 その周囲に文字を描いていく、 異世界文字
フーリカの能力には陣が必要だ、 能力はバウンダー・コネクト、 どんなものにも強制的に接点を作り出す
全く異なる物に接点を作り出す一つにくっつけたり、 逆に一つの物を接点から切断する様に分ける事も出来る
基本的な陣は彼女の体に既に刻まれ、 能力発動時に光を放ち陣が浮き出る、 陣は対象に対して晒された状態である事が望ましいと言う性質もある
簡単な結合と切断を行う陣は両腕に刻まれており、 常時発動出来る様にこの世界の服屋ではワンピースを着ることにした
しかし、 一つだけ、 知識共有プラリズム・コネクトだけは肉体に陣を刻んで居ない、 理由は明白、 出来ることは分かっていても使う機会はまず無いと思っていたから
陣だけは常に記憶している、 だからこそ、 スラスラと一字の間違いも無く書き込んだ陣……
不意に視線を感じて顔を上げる、 日暮が心做しかこちらを見ている
「日暮さん、 完成しましたよ」
描き終わるとフーリカは椅子に座る日暮の所まで行き、 日暮を移動させようとする
「ふっ…… いっ…… はぁ、 日暮さん、 男性の方って重い…… それでもっ」
とりゃあっ!
最早投げ飛ばす勢で日暮をベットの上へ押し飛ばす、 良かった、 上手いこと体が丸の中へ入った
フーリカも重なる反対の丸に入り、 むきあう様、 日暮の頭に触れる
フーリカは自分のおでこと、 日暮のおでこをぶつけ、 そこに物理的接点を作る……
「私が初めてこの知識共有の力を使ったのは日暮さんです、 あの日私を助けてくれた日暮さん、 そして、 二度目も日暮さんです、 私は日暮さんとしか繋がりません」
本人に聴こえてるいるのか、 いないの、 そんな事は分からない、 この寂しさを感じる数日間で心の声は外に溢れる想いとして漏れ出す
「私、 日暮さんが好きです、 この私の想いも貴方へ…… 知識共有・プラリズム・コネクト」
ふわぁ
空気が動く、 カーテンか少し揺れ、 陣が淡く光を放つ
日暮の欠損した自意識を、 共有し貰った知識や記憶でもう一度日暮の欠損した脳を満たす…………
ドンッ!
そんな強い初撃を脳に感じ、 ぶち込まれた情報を脳が整理し直す、 構築されていく………
フーリカの傍で、 日暮は夢を見た、 それは何だか儚いような夢だった……