表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

93/164

第九十三話…… 『二つの帝王・その頂点に立つ物に光指す』

「騎よ、 羚赫世什騎りょうらくせいじゅうきよ」


父だ、 猿帝・荒昏徒檑侯あぐれとらいこう、 父は族帝だ、 強いのだ


その昔、 争いが耐えない同似種を纏めあげ、 今の猿帝血族を創った、 恐ろしい化け物共が溢れ、 常に弱肉強食の厳しいこの世界で、 そんな世界で父は帝王なのだ


「この世界は広く大きい、 きっと今のお前には目に映る物が世界だと思うかも知れないが、 世界とはもっと広く、 大きい物なのだ」



「山を超え、 谷を超え、 そうして果の無い海を超え、 更に先、 新たな大地と、 見た事も無いような者達、 この世界の真の帝王達…… 」



「……猿帝?」


父が微笑む、 頭を撫でてくれる


「すまん、 怖がらせたな、 お前には関係の無い事だ、 お前は女だからな、 強い男と共に俺の遺伝子を繋げ、 更にこの血族を強く、 大きくしていけば良い」


うん………


……この話を聞くのは実は好きじゃ無かった、 この話をする時だけ、 父は私では無く、 私を透かして、 その先の未来を見ている


急に興味を無くされた様な妙な寂しさを子供ながらに感じた、 だが歳を取る事に父の言葉を理解出来た


強さと弱さ、 力関係、 たった三歳で能力を会得した自分も、 初めこそその能力を期待されていたが


肉体の硬化、 能力の性質は、 その者の無意識の望みだ、 硬化能力は痛みを恐れ、 恐怖に震え殻に閉じこもる


弱さ、 根底の弱さが能力に影響したのだと、 誰もが思ったろう、 目を見れば理解出来た


所詮力無き女だと、 小娘だと、 そして、 それを最も認めたのは、 他の誰でもない私自身だった


この世界で、 父は族帝でありとても強く最強、 その娘の私は女であり心の弱い小娘、 絶対に揺るがない力関係


これが、 この世界の法則だと理解した、 だが、 その常識はある日、 簡単に崩れ、 跡形もなく消え去ったのだ


それは、 歳が十になったばかりの頃、 血族の戦士との初夜を迎えた翌日の事だった


血族の為、 強い遺伝子を残す為、 未来の為、 猿帝の為、 自身の意思などまるで無く、 ただ不快な快楽に溺れる夜を過ごし


疲れと気だるさ、 今晩の約束すら取り付けられ、 もう意味もわからない様な心でぼ~っとしていた昼頃の事だった


それは、 空から舞い降りた、 知らなかった、 世界にはこんな奴が居るのかと、 あの日、 幼い頃に父が語った言葉を理解した


族帝殺し・暗低公狼狽、 という名を後に知る


奴はやって来るなり、 百の手で血族の者を無差別に殺し喰らった、 強靭な肉体を持つ戦士達が駆けつけるも、 尽く葬られた


その中に、 昨晩の相手も居た、 勿論そんな事を知ったのはそいつが頭から下を無作為に食われて惨たらしく地に落ちていたと報告を後から受けたからだ


だが、 暴れるだけ暴れ、 里を破壊し、 満足した様に去っていった族帝殺しが齎した事実に戦慄した


最強の、 族帝である父、 猿帝はその日死んだ、 獅子奮迅がどうたらこうたら、 持ち上げて語られたけど、 余りに呆気ないと私は思った


…………………


最強なんじゃ無かったのか? 族帝は、 最強の称号なんじゃなかったのか………


「………どうして私が、 新しい族帝に」



「それは貴方が父君の正当な血統の者であり、 この猿帝血族を導く力ある者だからでしょうな」


嘘だ、 そんなわけ無いだろ


「私は弱い…… 筈だ、 父の様に強くは無い」



「強さの意味を知るべき時が来たのでしょうな、 さぁ、 そのお力を、 族帝としてのお力をお振るいなさい……」


十歳の私は族帝であり、 父が残した唯一の血統だ、 父が今まで行っていた他種族間との交渉や、 争いを最前線で引き継ぐ事になり


更に、 夜になれば何も変わらず、 血を絶やさぬ様強い戦士達が我が家に列を成した


大人に成る間には五人は子が居た気がするが、 顔も見ぬ間にどこかへ連れて行かれた、 体だけ疲れ疲弊した


そんな日々にうんざりする様な暇すら無く、 ただ、 ただ忙しい、 それから五年経っても、 強さの意味は分からなかった


強さとは何だ、 ただ問い続ける事だけは止めなかった、 最強の族帝の父が死んで、 弱い私が最強の筈の族帝へと成った


強さとは何か……


ふと思った、 強さとは、 奴の事なのでは無いか、 父を殺した、 族帝殺し・暗低公狼狽、 奴の事では無いのか


気が付いた、 私達が弱いのだと、 根本的に猿帝血族は個体として強く無いのだと、 戦士たちの強さは、 所詮この血族の中で測る物差しに過ぎないのだ


族帝もまた、 種族の生存性を測り、 最も優れた種の、 一番偉そうにしている奴が貰う称号に過ぎないのだ


何だか、 腹がたった、 そうして父の言葉を思い出した、 そうか、 世界はもっと広く大きい


そういう事か………


族帝殺し、 奴が強さなのだ、 だが、 それは我々にとっての強さでしかないのだ


我々が喰らう弱い者、 我々、 我々を喰らう族帝殺し、 そして、 族帝殺しを喰らう者……


それこそが…… 最強


空を見た、 あの日族帝殺しが飛来した空を、 奴は一体何処からやって来たのだろう、 あの空は何処まで続いて居るのだろう


私は……… いや


「俺は、 俺達は、 弱い、 何故俺達は弱いのか、 族帝? そんな物は要らない、 俺達は、 真の最強…… 世帝を目指すべきでは無いのか?」


弱く在りたく無いのなら……


ドクンッ!


心臓が強く脈打った、 ついさっきよりも世界が広く、 大きく感じる、 曖昧だった自分の弱さを明確に知り、 同時に進むべき道をも理解した


これが、 前進、 これが…… 強さ!


…………………


「無理です」



「猿帝・それは無理な話です、 我々猿帝血族は真の強さには到達出来ません」



「……何故だ師よ、 八宝上道師はちほうじょうどうしよ、 応えろ、 何故我々は強くならない、 いや、 強さを求めてこなかった」


最古参、 八宝上道師は意味ありげに頷く


「貴方の考えは正しい、 よく強さの意味に気づかれた、 だが、 気づいた上で、 父君は弱く在る事を許容した」


何故だっ


「それは、 貴方の為、 いや、 もっと大きく血族の為、 いや、 正確には未来の為です」


未来? そうだ、 父は昔、 小さい俺を透かして未来を見ていた、 それが、 弱さ?


「弱さです、 託す弱さ、 託すと言うのは、 結局の所、 他力本願に他ありませんからね、 自分でやれるなら初めからやるでしょう?」


「交わり子を成す、 その連続はつまり、 問題の押し付け合いの連続、 命を、 死の恐怖を、 次の命へ押し付ける、 問題の先送り、 それが我々のしている事です」


そんな、 身も蓋もない様な極論を解かれたのは初めてだった


「強さ、 超越者達は滅多に子を生まない、 龍がそうだ、 世帝は皆龍であると言われて居るが、 奴らにとっての生死とは共に同義でありそこに恐怖は抱かない物です」


「何故なら、 奴らはたった一つ、 自分の命一つあれば生きられるのです、 簡単には死なないのだから、 その身一つで数万年と生きるのですから」


規模が違う……


「族帝殺しも同じ、 奴の場合はもっと異質、 あれは真にあの存在だけで完結した命、 未来に託さぬ、 自分の命を生きる者です」


未来に託す弱き者


「……父もか、 俺もそうなのか」


師は強く頷く


「父君は貴方に託した、 貴方もまた託した筈だ、 その血に刻まれた運命を、 弱小種に生まれた以上、 生きる為、 この連鎖から逃れる事は出来ませんぞ」


弱小種……


父は弱かった、 俺も弱かった、 どいつもこいつも弱かった、 族帝など関係ない、 血族など関係ない


我々は弱かった


…………………………………………………



………………………



……


だからこそ………………


清々しいっ!


ばんっ!


両手を広げる、 生き生きと命が輝く、 無限の生命力、 今ほど自身の命を強く感じた瞬間は無い


なぁ、 師よ、 これがお前が言っていた強者の姿だろう?


「俺は死なない、 老いもしない、 託さずとも命を繋げる、 いや、 繋いだ、 意識を、 記憶を、 経験と知識をっ!」


「俺を繋いだっ! この肉体にっ! 俺は俺のまま、 このまま進むぞっ! 最強を目指してなっ!」


歓喜極まる声を張り上げ、 厳淼采げんびょうさいは高らかに強さを叫ぶ


それを聴く者、 その強さを目の当たりにした者は、 しかしそれでも笑う


「ははっ、 結局求めるべきは強さ、 良いねぇ~、 でもなぁ、 それは違ぇなぁっ!」


最強はっ


「俺っ………」



「我だっ!! 我こそが最強だ! 断じて貴様では無いっ!!」


こっ、 この野郎………


「負けた奴が最強ぉ? 笑わせんなよ鳥野郎っ」



「負けた奴に寄生されてる様だが? その呼び方も少し懐かしぞ、 日暮っ」


崩れた藍木山、 その瓦礫の上で明山日暮と暗低公狼狽は笑う、 一つの肉体に宿る二つの意識、 その比率は奇跡的


一体一分の一体一、 互いの生存本能が互いを求め、 互いの能力が互いを生かす


そいつもまた、 最強を目指す者である、 最強への道を進む者である


「てめぇの能力がどれだけ強かろうと、 てめぇが極みの先に進もうと、 俺達の歩いてる所は変わんねぇよ、 邪気血みどろ溢れる戦いの道、 互に一つの命、 それを掛けたら全部対等だっ!」


ざっざっ


敵に向かい歩みを確実に進める、 距離を詰める、 詰める、 どんどん詰める、 厳淼采は動かない、 構えて動かない


その距離が縮まる、 十メートル、 七メートル、 五メートル……


ザッ!


「ブレイング・ブーストッ!」


バンッ!


踏み込み、 能力の発動と共に弾ける地面、 視界が急激に加速する!


接近っ!


「せらぁっ!!」


大きく構えたナタ、 体には暗低公狼狽の骨が巻き付けられ防御甲冑となっているので接近も全く怖くは無いっ


振り下ろすッ!


「またそれかっ! 刃を振る以外に脳が無いのかっ!」


っ! 馬鹿がっ!


「んなもん有るわけねぇっ!!」


シュンッ!


ナタが空を切る、 だが……


「ブレイング・ブーストッ!!」


加速、 振り下ろしたナタに、 空気圧の爆発で強制的に瞬間的な振り上げっ!


ビシャァッ!!


ヒットッ! 敵の肉体が抉り飛ぶ!


しかし……


「全て効かぬっ!! 攻撃は効かないと分からないのかっ! 瞬間っ! 回復っ!」


バシャッ!!


肉が疼いて傷を埋める、 無限、 押し寄せ溢れる程の生命力は、 瞬間的、 爆発的な治癒力へと変換、 回復……


「そしてっ! 裂傷裟刃交れっしょうさじんこうっ!! 細切れと化せッ!」


至極接近位置、 敵の全方位切断攻撃、 だが、 この攻撃はブーストによる回避は可能……


「ブレイング・ブーストッ………」


敵の攻撃、 その初速を計算した確実なる回避、 だが………


「日暮っ! フェイントだっ!!」


フェッ!?


敵の攻撃、 遅っ…… 不味い、 回避方向が割れた、 どれだけ回避速度が速かろうと方向がバレてるなら……


ボコッ


「穿つッ! 丈骨破製瀑じょうこつはせいばくっ!」


ギラッ


敵の肉体の一部が盛り上がって、 そこから突き出る、 鉄、鉄でコーティングされた恐らく骨の杭、 こちらの攻撃、 初速が異常っ!


バジュンッ!!


音と共に杭が腹にくい込み、 体がくの字に折れ曲がっる………


「げっっ!? 」


グシャアアアッ!!


あっ……


貫通っ!!


「っ! 四回っ…… 目ッ! 腹貫かっ、 れるのもっ! 慣れたもんなんだよぉっ!!」


ブワッ!


「ブレイング・バーストッ!!」


バギィインッ!!


腹の中で空気圧が爆発、 敵の骨の杭を粉砕する、 穴の空いた肉体が熱を持ち回復する


「ちっ、 鳥野郎、 回復のエネルギーは後どんだけ残ってるっ」



「今もカツカツだっ! 後一、 二回致命傷を貰えば確実に再生が追い付かなくなるっ、 日暮っ、 容易にダメージを貰うなっ!」


あーっ、 てるよっ!


「ブレイング・ブーストッ!」


ボンッ!


接近っ!


「ラッ!」


ビシャァッ!! ヒット! もういっちょっ!


「ブレイング・ブーストっ!」


ビシャンッ!


加速、 すれ違いざまの切りつけ、 しかし、 敵の肉体は傷を受けた端から新たに肉が疼いて回復……


「小賢しいっ! 貴様のそれはただ不快さを感じるのみ! 裂傷裟刃交ッ!」


っ!


「ブレイング・ブーストっ!」


敵の近接全方位攻撃を加速で回避、 さっきからこの繰り返しだ、 ジリ貧、 ダメを貰えば削られて行くのはこっちばかり


そろそろ見出さなくてはならない……


「鳥野郎、 分かったか、 あいつの倒し方……」



「……日暮、 お前はどうだ、 戦って感じた事を話せ、 何かがヒントになるかもしれない」


つまり、 無いって事ね、 現状確立した倒し方が……


一番不味いのはモチベーションの低下だ、 ジリ貧と言うのはそれだけで精神が削られる、 決着が早いに超したことは無い


時間が経てば経つほど、 状況は変化する……


グラッ!


っ!


地面がまた揺れる


「おわっ!? んだ? また地震……」


ドガンッ!! ドガンッ!


っ!?


そこらじゅう、 少し離れた地や、 隣の山肌が弾ける、 藍木山だけじゃない……


これは……


「共振と言うのか…… 日暮、 どうやら奴の狙いはこの山だけでは無い、 この山が崩れた衝撃が、 重なり、 周囲へと伝播しているっ!」


山を崩した波動が、 波紋の様に広がり、 周囲の山や崖、 弱い部分を崩し、 その流れは時間をかけて広がっている


その先力の向かう先には……


「っ! ダムかっ! 俺達の目的の藍木ダム、 聞いた事がある、 あれが万が一崩れたら俺達の町は水に沈むって……」


それが狙い、 なら……


「奴は本当にこの世界を取るつもりだ、 この町は手始めに過ぎない、 奴はここから始めるつもり何だ、 我とお前、 過去の因縁を確実に断ち切ってなっ!」


グラグラグラッ


バンッ!!


敵が地面を蹴る、 ここに来て向こうから向かって来るかっ……


っ、 やべぇ……


「ちっ、 揺れがっ、 足場が安定しないっ! 回避出来ねぇっ!」


バチバチッ!


「確実成る決着、 死ねぃ明山日暮ッ!! 裂傷裟刃交ッ!!」


全方位切断領域、 敵のその力による踏み込みによる突進、 刃の付いた鉄球が質量そのままに突っ込んで来る様なもんだ……


当たれば確実に肉体が吹き飛ぶ……


(……っ、 ブーストで何とか一撃避けたとしても、 揺れる足場じゃぜったい上手く着地できない、 二撃目を喰らえばもう回復出来ない、 畳み掛けられる)


ああ……


(……勝ち筋が見えない敵って、 すげぇ疲れるな、 どうすっかな…… 勝たなきゃ行けないんだけど……)


敵の動きがゆっくりに見える、 あれか、 あの…… あれか、 なんだっけ、 ゆっくり見えるやつ


ああ………………


………


キリッ!


っ!


全身が締め付けられる様に痛む、 暗低公狼狽の骨の防御甲冑が体に食い込み、 痛みで意識がはっきりする……


「上に飛べっ、 明山日暮っ!」


ぅぅ……………


「……っーストッ!!」


ボガンッ!!


言われると同時、 無意識に叫んで居た、 体がロケット様に真っ直ぐ空へ飛び上がる


ジャギィアンッ!!


間一髪、 敵が体の下、 足の裏の辺りを通り過ぎるのを風圧で感じた


こっから……


「更に飛べっ! 高く、 もっと高く飛びあがれっ!!」


高く……


「空へ飛べッ!!」


空………


「ブレイング・ブーストッ!!」


ボンッ!!


体が高く浮く……


「ブレイング・ブースト! ブレイング・ブースト! ブレイング・ブースト!!」


ボンッ! ボンッ! ボォンッ!!


高い……


「空…… の中………」


グイッ!


背中から骨が木の枝の様に枝分かれして生え広がる、 その骨を覆う様にボツボツと湧いて出てくる……


「羽…… 羽毛っ!?」



「……これは我が君の肉体の中で、 その存在感を高めている、 その分君本来の存在が希釈されている事を示す姿に他ならない」


だが……


「今君に羽ばたく翼が生えた、 我が翼を動かす、 だから日暮、 お前は更に飛べ、 空を飛ぶぞっ!」


嘘だろ……


「俺が空を飛ぶ……」


ボガンッ!!


っ!


下方、 地面が弾ける、 敵の踏み込み、 背中から生えた翼を羽ばたかせ上昇して来る……


「地がダメならば空を行こうという訳かァ! そんな物は全て無に返すっ! この俺、 厳淼采に戦えない環境は無いッ!!」


バザンッ!!


まるで初めから持っていたかの様に巧みに翼を使いこなしている……


「空で我に適う者は居ないっ! 飛べ日暮っ!」


ああっ


「ブレイング・ブーストッ!!」


ボォンッ!!


ドシュウッ!!!


(……うおわっ!?)


空なんてよく分からないから、 アメリカンヒーローの様に足を伸ばして、 ロケットの様に足の裏から空気圧で体を押し出す


ぶつかって来る空気の圧力に驚く、 だが以外にも………


「苦しくない…… 空気濃度が薄い上に、 圧力で押さえつけられた居るはずなのに……」


カラカラ……


「やはりな…… 我と戦った時から思っていた、 日暮お前の能力は空気圧、 周囲に膨大な空気を集め、 それを至近距離で圧縮する力」


「本来この力が自身の周りで起これば、 気圧の差や、 濃度の違いによりお前自身にダメージが有るはずだ」


「だが、 能力とは、 自身の能力は、 能力者ノウムテラス、 能力使用者自身を決して傷つけない」


そうだ、 それが能力の法則……


「それ故に、 能力を使用する上で前提的な力、 前提能力と言われる物が宿る」


前提能力、 聞いた事がある、 この山で、 能力者の邪馬蘭やばらと戦った時に聴いた


奴の能力は自身の血液の爆発能力、 大爆発を起こす為に体力の血液を使う、 能力の使用は決して自身を傷付けないと言う法則に従って


奴の前提能力は、 血液の無限化、 どれだけ能力を使用しても貧血にならないと言う物だった


「日暮、 お前の前提能力は空気圧や濃度の急激な変化への身体の適応、 この大空を飛ぶのに最適な力と言う訳さっ!」


後方、 日暮を追い羽ばたく敵、 厳淼采


「奴は恐らく空を飛ぶのに適した体を作っている、 だが奴の能力による変化は所詮真似事、 この世界の摂理、 物理法則を超えない」


「飄々と空を飛んで居るが、 そもそもの奴の常識として空を飛ぶと言うのは異常だろう、 空を飛ぶ様に産まれてきた鳥でさえ空気の抵抗をその身に受ける」


「奴の能力ではその物理法則をどうこう変える事は出来ない、 速度も速くは無い、 つまり奴は命、 この世界に生きる命に変わり無いんだ」



「前提能力と言うのはどうも本能力とのバランスが崩れている事がある、 奴がそうだ、 我が思うに奴の能力が無限の生命力な訳では無く……」


「奴がやってのけた肉体への能力の作用、 それを成す為の前提能力こそ、 無限の生命力なんだ」


言ってる事は分かるが……


「良いか日暮、 能力と言うの物にわざわざ前提的な力を含むのは、 能力起動の法則性を作る為何だ、 それは時に物理法則から逸れる事になる、 それとは違う法則何だ」


「我の経験から、 その法則、 つまり能力の流れと、 能力の始まり、 その者の心の意思が分かれば能力全体が見える、 そして、 それが見えると勝ち筋が見えるんだ!」


能力の性質はその使用者の意思に依存する


「奴が望んだのは完璧、 奴の思い描く完璧な姿が能力として発現した、 そこに特殊な産まれによる高い肉体の性質が伴っている、 言った通り似ている我も能力と同時にその体の性質を恐れられた」


鳥野郎の能力はあくまで百手を操る物、 そこに他者を吸収、 喰らう細胞と言う肉体の性質が噛み合った強さだ


「そして法則だが、 日暮お前がさっき奴に言ってのけたな雨を浴びながら」


何を?


「生きるとは何か、 最もシンプルにそれを表現するならば、 生きるとは、 産まれてから死ぬまで、 その間の事だと」


日暮は頷く、 これは日暮の持論だったがかなり的を得ていると確信している


「我もその通りだと思う、 シンプルで明瞭な答えだ、 恐らく奴も日暮の言葉に内心頷いたろう」


「死が終わりか、 途中経過なのか、 それは分からない、 死んで初めて分かる事だろう、 だが、 一つ言えることが有るとすれば」


「産まれたものは皆等しく生命力を得て生き、 そして絶対に死へ向かうという事だ」


二つの人影が風を切り、 空を飛ぶ、 因縁と決着、 そのレース……


「それで? よく理解出来るぜ、 当たり前の事を言われているからな」



「そうだ、 当たり前だ、 お前の当たり前で、 我の当たり前で、 そして、 奴の当たり前でもある」


……………


「奴が産まれ、 今生命力を持ってしてこの世界に生きて居ると言うのなら、 そして、 決して『不死』で無く『無限の生命力』、 つまり無限に生きる能力だと言うのならっ」


それは……


「奴が命の法則に囚われた我々と同じ生命であり、 無限に生きるという事はつまり、 無限に死へ向かい続ける、 と言う事だと証明しているっ!」


っ!


「つまり奴は死ぬっ!!」


「奴の産まれの過程がそうで有る様に、 奴の能力もまた綱渡りに過ぎないのだ! 生命の法則と、 能力の法則がぶつかり合った細い線の上を歩いて居る状態なのだっ!」


「奴の中でそのバランスが大きく傾いだ時、 どちらに転んでも奴は終わりだ、 生きる上で望む能力が、 生命の法則に反した『不死』に成る事は有り得るはずが無いのだ、 生きる事はイコール死ぬ事なのだから」


成程ね…… よ~く分かったよ……………


「で? そのバランスを崩す作戦は?」


カラカラんっ


「わからんっ!」


…………


「と言うか知らん、 生命に由来する能力は、 生命の事を知らない限り理解出来ない、 死を知った時初めて答えが出るかもな」


………………………


はぁ…………………………………


「言うと思ったよ、 ご高説どうも、 肝心な所は理解出来ないのね、 やっぱ凄い能力じゃん、 無限の生命力って」


綱渡りだろうが何だろうが、 限りなく『不死』に近い所を進んで居ると言う理解と確信だけは高まった


「俺が知りたいのはあいつの倒し方………」


後ろを追い掛ける敵、 厳淼采を日暮は振り返って……………


(……あれ? どこ行った)



「っ、 日暮っ、 う………」



「上だァっ!!」


ドシャァアアッ!!


っ!?


「うっげぇっ!?」


尻尾、 尻尾ブレード、 敵の空中から体を捻った振り下ろし、 胴体にくい込んで………


ビジャァッ………


(……やべぇ、 腹が思いっきり裂けて………)


血が重力に逆らって上に勢い良く吹き上げる、 このままじゃ……


「ブレッ…… イング・バーストッ!!」


ボガアンッ!!


ピシャッ……


空気圧によって敵を上方へ押し上げ、 自分は下方へと逃げる、 ああ、 銅が、 真っ二つに鳴るかと思っ………


グルンッ!


敵が巧みに空中で体を捻り身を細く、 急降下ッ!


「そうかっ! 気流の変化だ、 日暮のブーストは空気圧が強すぎる故に空気中で気流の流れさえ変化させている、 その流れを利用されたかっ! 我とした事がっ」


敵の降下、 急接近、 この場で、 この状況で、 迎え撃つしか無い、 全能力を持ってして迎え撃つしか無いっ!!


「日暮っ! 我とお前、 二人の最強の技でもう一度奴を迎え撃つ…………」


キラッ


ん? 今何かが光っ…………


ビシャアンッ!!


「っ!? ぅげぇあああっ!?」


何か、 何かが空から降って、 脇腹にくい込み突き刺さる、 これは……


「これはっ、 度々奴が作る鉄、 血液を鉄に変換する向こうの世界の虫、 その能力を再現して作った鉄の刃っ! カッターの様に薄く鋭く、 質量を持っているっ! 上手く気流に乗せ飛ばしたっ!」


キラキラキラキラッ!!


夥しい、 奴はいつの間にこれ程の鉄の刃を作り出して居たのか、 この数、 当たれば間違いなく肉体はズタボロっ……


暗観望測夜行百手あんかんぼうそくよこうひゃってっ!! チッ! 我の能力で弾き飛ばすっ!!」


キラキラキラキラっ!!


「オラァッ!!」


ガキッ! ガキンッ! パキンッ! キンキンッ! カキンッ!!


百の手、 奴の操る骨が伸び鉄の刃と撃ち合って行く、 火花を散らし、 金属音を立て空に煌めく


その間を縫って、 厳淼采は接近、 そうか、 百手を封じた事で、 今は日暮の能力だけで向かう敵に迎え打たなくては成らない、 それが狙いっ


グッ


ナタを強く握る、 敵が大袈裟に空中で引いたのは右手っ! 拳のブレードがギラリと光る


「っ! 来いよっ! 真っ向勝負っ! 超加速切断っ! ブレイング・ブーストッ!!」


瞬きをする程の速度で接近した敵の握られた拳、 迎え撃つように超加速した日暮の右手によるナタの振り上げ


その力は拮抗……………



バサァンッ!!


敵の羽ばたき、 敵が背の羽を大きく羽ばたかせる、 知っているこの感覚、 始まりのココメリコ、 あの戦いで嫌という程経験した


羽ばたきによって発生した空気がぶつかる、 日暮の空気圧は、 射程範囲外、 又は能力の完全発動前、 つまり空気圧の塊として完成仕切る前の状態時、 他の強い空気の流れとぶつかった際……


ボファンッ………


「あっ……………」


その形が崩れ、 不発に終わる、 敵、 厳淼采は笑う、 まるで予想が当たった喜びにはしゃぐ様に……


ガキッ!


空気圧による加速を失った、 日暮の不格好な体制で放たれた素の力による振り上げが、 気流と重力による自由落下、 そして高いフィジカルを有した敵の拳、 そのブレードとかち合う


ぐりっ


嫌な感覚、 力の方向が一方的に切り替わるっ


ビキッ!!


手首関節が……………


ベキッ! ビシャアアアアンッ!!


「っ! ぅああああああっ!?」


手首から折れ吹き飛び、 その衝撃が骨を伝わり、 内から皮膚を割り、 肘を通り過ぎ、 肩まで達する、 まるでプレス機に挟まれた様に弾け飛ぶっ!


「ああああっ!? いっ……」


痛み…… あああああっ


「っんの野郎ぉあっ!! ブレイング・ブラストッ!!」


左手を握る、 ブラストはあの戦いで、 空気の四散対策で生み出した、 拳の中に溜める空気圧これならッ………


……………………


………っ!?


能力が発動しない、 いやこれは………


ガキンッ!


ビシャアアアアンッ!!


「っげぇ!?」


鉄の刃が脳天に突き刺さる、 づ骸をたたき割り脳ベ刃が達する


「……すまない日暮…… 空気が集められないっ…… この空の気流は…… 全て奴が………」


えっ………………


え?


???


(…………? 敵が、 何か叫ん……)



「トドメだっ! 裂傷裟刃交っ!!」


ビシャビシャンッ!!


切断攻撃っ…………


ビシャアッ! バシャッ!! ピシャッ! ビシャンッ! ッ


ドシャッ! ドシャッ! ドシャッ!


「アハハハハハっ! ぶった斬れろぉっ!!」


ギランッ!


しっぽのクソデカブレードっ、 今度は回避不可っ………


ドグシャアアアンッ!!


真正面、 縦にしっぽのブレードが日暮に食い込む、 脳を、 顎を、 肋骨を分け肺を、 腹を、 又を、 中心線真っ二つに……


ギリリッ!


「……骨の装甲か、 暗低公狼狽、 最後の抵抗という訳だ、 だがッ!! これで最後だっ! このまま地面へ叩きつけ、 そこを貴様の墓としてやるっ!!」


ビシャシャシャッ……


まるで飛行機から続く飛行機雲の様に、 日暮の体から絶えず、 重力に逆らい血が吹き出し空に赤色の線を引く


再度敵がその身を捻る、 この光景はもう殆ど暗低公狼狽の視線であり、 この時殆ど日暮の意識は飛んでいた


酷く体が冷たい


「因縁との決着っ!! これはその蹴りだァッ!! セイッ、 ラァアアッ!!!」


ブンッ!


ドッ!


グッ!


シャァ!


ッ、 アアアアアアアンッ!!!


ボガァンッ!!!


?????


ボファンッ!!


空気を切って、 物凄い速度で日暮の肉体は空気を裂き、 放物線など描いている暇など無いほどの勢いで真っ直ぐ、 重力に引かれ………


………


ドッ、 ガシャアアアアアアアンッ!!


山に小玉する程の衝突音、 大きく土煙が上がるのを敵、 厳淼采は見る


「………やったぁ、 ……いや、 流石に死んだとは思うが、 決着とは確実な物で無くては成らない、 ボロ雑巾の様な肉片の一つでも見つけ、 絶対的な勝利が欲しい」


バサンッ バサンッ


羽ばたき降下する、 少し遠くまで蹴り過ぎた様だ、 土煙の上がる地点までゆっくり、 凱旋でもする様に舞い降りる


バサンッ…………


「ふん…… 落下地点、 山肌が更に崩れて居る、 流石に死んだ…… いや、 これも因縁との決着の為、 それにしても……」


厳淼采は周囲を見渡す


「ここは初めの山、 藍木山だったか、 裏手の屋敷、 その崖を崩し、 その下方から飛び、 着弾点は藍木山の正面、 登山道というわけか、 起承転結、 全ては始まりの地に戻る」


ん?


「あれは、 木材の破片、 そうか、 そう言えば登山道に小さな建物があったな、 御堂と人は呼んでいた…… あの建物に落下したのなら、 もしかしたら衝撃を緩和している可能性がある」


厳淼采は地面に降り立ち、 胡座をかいて座る、 拳を固く握って地面へと叩きつける


コォンッ!!


音が反響する、 厳淼采の耳は音波を広いその形を脳内に描く、 ソナーの様に、 エコロケーションの様に


ふぅんっ…………


「微かに…… 微かに命の音がする…… 小さく弱々しいが、 何と、 まだ生きている…… 俺の決着は着いていない……」


立ち上がり音の方向へ歩き出す、 歩みが進む、 決着への歩みが、 浸進む……


ガラッ


ひゅ~


風が吹き抜ける、 崩れた瓦礫の下から思いの外原型を残した明山日暮の肉体が姿を現す


「暗低公狼狽、 骨を展開し御堂へ突っ込んだが、 肉体の損傷を最小限に抑えている、 自身の肉体を犠牲にして……」


おかしい………


「何故だ、 俺が知る貴様はたった一つで完成した存在、 何故その人間に依存する」


ガラッ


「……………厳淼采、 君は勘違いしているよ、 君が今話しかけて居るのは、 確かに我の意識さ…… でも」


「君が同じ意識のまま、 猿帝・羚赫世什騎りょうらくせいじゅうきで無いのと同じ様に、 我は、 明山日暮だ、 君が話しかけて居るのも明山日暮だ」


血肉にまとわりつくボロボロの骨、 頭部の鳥の面がカラカラと揺れ動く


「……そうか、 貴様は本当にその人間に負けたのだな、 敗北し、 その人間に良い様に使われている、 その人間こそ、 貴様を喰らう強者だった」


あの日、 父を殺し、 常識を壊した奴が、 別の者に殺され、 帝王となった自分が今日、 そいつを殺す


これが命の連鎖、 かつて世界に存在した強者達が、 それでもその命を終えた様に、 これが生命の法則だ


「ならば、 この決着は、 俺だけが、 この連鎖から逸脱し、 法則に囚われない完璧へと成った事への証明だ」


厳淼采は両の手を掲げて笑う


「清々しいぞ、 紛うことなき、 俺こそが強者っ! この厳淼采こそが、 最強だっ!! あははははっ」


あははははっ


ははっ


はははははっ


「あはははははははっ!」


笑っているのは厳淼采では無かった、 明山日暮の肉体の中で、 暗低公狼狽が笑う


「……今際にておかしくなったか? 何を笑っている」


あはは


「いやね、 成程ね、 思い出したんだ、 君の里を襲った時の事、 君の父…… と言うか、 前、 前猿帝の今際をさ」


ピクリ


決着を前に厳淼采はその言葉に耳を傾ける、 過ぎた過去の事、 乗り越えた昔の事、 そう思って振り切ろうとしても、 無意識に次の言葉を待った


一瞬の静寂………


「ははっ、 厳淼采、 君がお喋りが好きで良かった」


………


バッ!


その言葉と同時に厳淼采は踏み込んだ、 決着は速い方が良い、 のにも関わらず、 呑気に話をしていた焦り、 敵は常に生存を諦めないっ


「ははっ! もう遅いんだよっ! 我は、 いや、 我がここを目指して落下したんだからねっ!」


地面に落ちる木の破片、 これは藍木山の登山道、 その中間地点に立つ御堂、 『藍満堂』が破壊された物だ


藍満堂は、 日暮率いる、 藍木山攻略戦の第四隊メンバーが初め居た場所である、 日暮は先頭の時以外基本リュックを背負って居るが、 邪魔になると思ってこの御堂に置いて居た


実際大した物は入って居ないのだ、 着替えの服とか、 タオルとか、 そんな大した事の無い物が……



ボガンッ!


地面が弾ける、 骨が何かに巻き付いて地面の中から出てくる、 何重にも布でぐるぐる巻きにされた拳二つ分程の何か


あれは……


ビシャビシャビシャッ!


骨が布を切り、 中身が覗く


キラッ


太陽光を潤沢に取り込み輝き光放つ、 水晶、 宝石…… いや、 琥珀……


くらっ……


「うっ………」


甘い、 濃い芳醇な蜜の甘い香り、 少し嗅いだだけで脳が一瞬麻痺し、 足取りがふらふらとする


これは……


(……八宝上道師が能力の併用として良く使って居た、 幻覚効果のある花蜜……)


それは、 花見丈虫はなみじょうちゅうと言う、 頭と尾に特徴的な花の生えたトカゲの様なモンスターで、 成長すればその体は頭から尾まで百メートル以上にもなる巨大生物


(……師が花見丈虫の花蜜を使って居たのは能力と相性が良いからでもあった、 だが別の目的、 師はずっと探していた)


目の前、 今目の前にある、 それ、 個体数として決して多くない花見丈虫の中で、 本の数体居るとされる特殊個体


見た目による違いは無い、 唯一頭部に咲いた花の蜜の中に、 琥珀が入っている


その琥珀の出来るプロセスは、 かの聖樹が飛ばした種が偶然、 花見丈虫の花の中に入り、 蜜が種を包む様に硬化し琥珀となった時のみ


聖樹の苗木は狙われる、 その内に大量のエネルギーを有して居るからだ、 つまり、 その種を取り込み固まった琥珀


それは……


「膨大なエネルギーの塊、 日暮がこれを持っている事は知っていた、 ここにある事も分かっていたっ!」


まさかっ、 そのエネルギーを取り込むつもりか…… そんな事をっ


「そんな事をして何をするつもりだァッ!! させんぞ、 そんな事はァ!!」


バンッ!!


「もう遅いと言ったろう! 我の細胞は触れた物を喰らってエネルギーにするのだぞっ!!」


ジャキッ………


焦り、 踏み込んだ厳淼采が腕を伸ばした先で、 骨が琥珀に触れ……


バァグシャァンッ!!


丸ごと琥珀を喰らった、 その肉体に取り込んだ


っ!


ヒガァアアアアンッ!!


琥珀が陽光を取り込んで光を放った様に、 それを取り込んだボロボロの明山日暮の肉体が、 同じ様に黄金の光を放つ


眩い、 思わず目を細め、 その足を止める、 一体、 何が…………………


シュゥン………


光を放ち、 そうして、 光が止む、 くらくらとする頭を振り、 数回瞬きをして、 明山日暮を見る、 その体は…………


っ………………………


………………はっ


………


はははっ、 あははははっ


「あははははははっ! 何だ、 何も起きないでは無いかっ! そもそもそんな物を肉体に取り込んで無事に済むわけが無い、 これで、 ついに正真正銘の終わり、 という訳だ」


全く、 ビビらせやがって………


「この肉体を破壊し、 今度こそ本当の決着をつけて………… ん?」


ん?


なんだ? おや? おかしいぞ………


「明山日暮の肉体に、 損傷が無い…… 傷が全て治って………………」


ピカッ!


突如視界の端で光る眩い光、 一体何がっ……


バッ!


そちらを振り返る、 いや、 何も無い、 何もいない………………


トンッ


「やぁ、 あらぬ方を向いてどうしたんだい?」


っ!?


背後、 明山日暮の体の寝転がる方向から左肩を何者かに触れられる、 この声、 何だ、 何者……


「っ、 俺に触れるなぁ!」


バァンッ!


振り向きざまに振るった左腕…………


ベチャッ!


何かが飛んで、 放物線を描いて地面に落ちた、 あれは、 何だ…… あれは………


うっ……


「俺の…… 腕…………… っ!?」


左肩から先が無い、 切断された、 吹き飛ばされた、 それは良い、 何故……


「かっ、 回復しない…… 生命力を感じないっ!? うっ………」


ギラギラと眩しい光を放つシルエットが立っていた、 細い線だ、 眩しくてよく見えないが、 頭部が鳥である事だけはかろうぞ分かる


お前は………


「暗低公狼狽っ!! 貴様ッ!! 何をしたァ!!!」



「はははっ! 別に、 特別な事はして居ないさっ、 生命の法則に則った終わり、 命の終わり、 『死』を、 いや『生』を断ち切れなかった君の終わり」


キラキラキラキラ……


「膨大なエネルギーが我の、 体に、 能力に、 精神に影響を齎したっ! この体が光を放ち続ける間、 我はもう一度、 純粋な我としてこの世界に存在しているっ!」


その精神が、 意思が、 明山日暮の肉体を飛び出して、 光放つ肉体を形成し今、 ここに居るっ!


ビカッ!


「っ! どこにっ!」


気配っ……


また背後かっ!!


「裂傷裟刃交っ! 細切れと化せッ!!」


ビシャビシャビシャンッ!!


背後の気配に襲いかかる切断攻撃、 それを迎え撃つ光の鳥頭が取った行動は……


「ふんっ!」


仁王立ち! 両の手を組み余裕の表情ッ!!


バシャシャシャンッ!


……


ビチビチビチッ…………


光に触れた途端、 肉や骨で作られた肉体は一瞬でちぎれ飛ぶ、 ちぎれた所からそれらは紫色に変色、 腐り、 乾く様にしょぼんで地に落ちた


っ!


「何だ! 貴様はなんなんだっ!!」


ビシャアンッ!!


速い、 いつの間にか、 その光放つ手が脇腹に、 右足が、 こちらの左足に触れている


ベシャッ…… ベシャァッ……


うっ!


「うがぁあああっ! 何だ、 これは…… 回復がしないっ、 生命力が枯れて行く…… 気持ちが悪い………」


光の中でそいつは笑う


「この姿と能力は光を放つ間の限られた間しか使う事は出来ない、 それは正に命の様に、 そして限りを暗示する様にっ! この能力はっ!」


ギランッ!


「触れた者へ強制的にそれを与え急激に加速させる、 それはっ……」


「寿命ッ!!」


パンッ!


光の手、 それは寿命の暗示、 命は死んだ時が寿命、 その考え方に則った法則、 この手は寿命、 この体に触れられる時、 その間が強制的に寿命と設定され、 ついに触れた時に、 死ぬっ!


敵、 厳淼采の場合、 触れた箇所は寿命を終えるが、 拮抗する無限の生命力がそこ以外を生かし続けるので、 肉体の一部に触れただけでは死を与える事は出来ないが


その光がその体全てを包んだ時、 生命力はある意味、 生命の法則通り、 寿命の道へ歩を進め、 その肉体は死へ導かれる


そして、 手で触れると言う事に関して、 そいつ以上の適任は居ないのだ


暗観望測夜行百手あんかんぼうそくよこうひゃってっ! 手刀陣・囲い籠型ッ!!」


光で構成された百の手が、 編み込む様に、 籠を作り、 厳淼采を捕らえようと囲む……


っ、 ああ………


バゴンッ!!


「あああああっ! この俺に近づくなぁ! 完璧である俺に、 死よ、 俺に近づくなぁッ!!」


敵の渾身のバックステップ、 その脚力から放たれるそれは、 一気に距離を取って……


あははっ


「厳淼采っ! さっき君は聴いたねっ! 何故我が日暮に依存し、 共生するのかとっ! それはね! 希望だからだっ!」


明山日暮は確実に、 絶対に、 あの地、 戦士達が最後にたどり着く、 真の最強を決めるあの地


亜炎天あえんてんに確実にたどり着くっ!


「明山日暮を信じたからさっ! 今も、 こうしてねっ!!」


今も………


ドスッ!


っ!


背後、 何かが背後からぶつかる、 押し出す、 強く吹き飛ばす、 これは、 この力は…………


「ブレイング・バーストッ!! ぶっ飛べっ!!」


ボガァアアンッ!!


うっ!


「うあああああああっ!? 明山日暮っ! 貴様っ! 貴様ッァ!!!!」


日暮は吹き飛ぶ厳淼采にビシッと指を指し笑う


「俺達がっ、 最強だっ!!」


ビカッ!


あぁ…… 強さ、 強さの意味…… それは恐怖を捻り潰す事では無いのか…… 無限の生命力で死を遠ざけることでは無かったのか………


ああ…… そうか…… 恐怖すら笑い飛ばし、 正直に、 勇気を持ってこの命を生きる事だったのか…………


光の籠がその体が包み込む、 捉えられた、 いや、 生に囚われた死を正しく導いた、 命の法則、 その流れに乗せた


二人の関係、 一体一分の一体一、 互いが互いを補い合い一つと化す、 寸分狂い泣き力のバランス、 それは……


(……生と死の関係に似ている)


ビガァッ バヂィンッ!!


敵の全てを光が包み込んだ時、 一際大きな光が放ち、 目を閉じる、 次に目を開けた時、 光は粒子となって空へと登って行くのを見た


もう眩い光は無い


カラカラ……


「日暮っ、 買ったぞ、 奴に、 二人でな」


ははっ


「俺の肉体に帰って来やがったか」



「当たり前だ、 お前も言ったじゃないか…… 俺達が、 最強だと」


ふっ……


「……日暮、 お前は目指すのだろう、 変わらず、 この道を進むのだろう?」


愚問だわ


「たりめぇだろ、 着いてきたかったら着いてくりゃいい、 但し、 雑魚は行けないんだ、 多分、 だから……」


鳥面は音を立てて頷く


「俺を導け」



「ああ、 代わりにお前は我を導けよ」


一体一分の一体一、 不思議としっくりとハマるその力関係、 この山で強者を下し、 進むべき道を前進する者


その姿は、 くっきりとこの世界に焼き付いて、 強く存在感を放つ


……………


「所で、 敵を倒した早々で悪いが、 日暮、 我々は一刻も速くここを去るべきだろう」


グラグラグラ…… ドンッ!


「あっ…… 共振か、 あいつ…… きっちり爪痕残しやがった……」



「この力、 流石に広がれば広がる程弱まって居る様で、 今はほら、 あの辺の山肌が崩れて居るが大した事は無い様に見える、 この共振はその内終わる」


ほっ……


「良かった………」



「だが、 ダムは崩れたかもな、 ゴーゴーと言う水の音は聴こえるぞ」


ボガアンッ!!


っ!?


地割れの様な音を立て、 水が山の奥の方から地面を掻き分け吹き出す、 それは、 無慈悲に恐らく川であった場所を蹂躙し、 下方、 藍木の街へとなだれ込んで行く


「ああ…… そう言えば俺の家はハザードマップ的に沈まないんだよね」



「それは良かった、 ならば惜しむ物等なかろう、 飛ぶぞっ!」


うん


「ブレイング・ブーストッ!!」


ボオンッ!!


バサンッ!


体が空へと打ち出される、 それを展開した翼が羽ばたき空を飛ぶ……


黄金色の光が目に刺さる


「……すっかりもう夕方だな、 いや、 長かった…… 長い戦いだった、 ひたすら疲れた」


バサンッ


「日暮、 街の方角から少し逸れている、 少し右前方に飛んでくれ」


ボォンッ!!


翼を背中に生やした男が空気に押され空を飛ぶ、 眼科の町は溢れ出したダムの水によって尽く呑まれ破壊されていく様を他人事の様に見下ろす


まあ、 もう誰も居ないだろう町だし、 何とかなるだろ……


そんな事を思いながら風を切って飛ぶ空は心地よくて、 きっともう十分もすれば紅く染まるこの空の先にぼんやりと目を向けた


じんわりと目がぼやける、 疲れのせいだろうか……


だとしてもこれは心地よい疲れだ、 一つ大きな事柄が終わりを迎えた、 調査隊入隊当初から掲げれた藍木山攻略戦はどんな形であれ終わりを迎えたのだった

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ