第九十二話…… 『二つの帝王・5』
ガヤガヤ ガヤガヤ
「おい、 何だ何だ何なんださっきからこの爆発音とか、 やべぇ感じは! まっ、 まさか! モンスター共が攻めてきたんじゃねぇだろうなぁ!!」
キャー ワー キャー
不味い、 みんな恐怖で落ち着きが無くなって居る、 どうにか鎮なくては……
甘樹シェルター内部、 地下シェルターの最も強固で安全とされる部屋、 一番室には避難者達が集められて居た、 ここは大ホール、 五千人以上の人を無理なく収容出来る設備がある
先程から外で響く爆発音、 地下シェルター内にすら揺れ動く、 怖気を震わす
一体、 本当に一体外で何が起こっているのか……
「朱練君、 心を落ち着けなさい、 外の事は外の者が対処している、 だからこそ中の事は我々が納めなくてはならない」
「……はい、 大望さん、 その通りですね、 私はこのシェルターの管理人、 ただ嘆いて居る訳には行きません」
ギガガ
拡声器、 この拡声器は櫓さんの能力で造られた物だ、 少ないノイズで正確な声を届ける、 本当に凄い
「皆さん、 甘樹シェルター管理人、 木葉鉢朱練です、 今皆さんは不安の中に居るでしょう、 今から私の知っている限りのこの街で起こっている事を話したいと思います」
その言葉によって人々のざわめきが消え、 避難者の視線が木葉鉢朱練に向く
「ただ一つだけ、 最初に伝えたい事があります、 それは、 このシェルターは大丈夫と言う事です、 皆さんの暮らすシェルターは何があっても大丈夫です!」
語気が強くなる
朱練の隣に立つ男が今度は拡声器を持つ
「皆さんこんにちは、 えー、 私の事を知っている方も多いでしょう、 議員の大望吉照です」
「朱練君の言葉に私はそれはもう頷きます、 何せこのシェルターを作ったのはこの私、 大望吉照ですからね! 皆さん思い出して下さい!」
「五年に渡る制作期間、 皆さんには交通の便に置いても不便をおかけしましたね、 そして膨大な金額を掛け、 一部では散々叩かれました、 ですが……」
「皆さん、 それも今の為です、 今、 この時の様な状況を想定してこのシェルターは造られた、 えー、 これは数字の話になりますが、 この建物は爆弾が落ちても潰れない、 そういったコンセプトの元作ったんですよ」
流石、 中々に上手い話し方だ、 流石やり手議員、 実際に工事期間中は大規模な規制がかかって皆かなり迷惑していた
そんなに金を掛けて何時使うんだ! 等といつかを楽観視した声もあった、 それがここに来ていい方に実感として効いて居る
一通り話して空気も何処か温かさの様な者が出てきた、 だからこそ、 ここで話すのだ、 この街で起こっている事を
「大望さんが居ればとても安心出来ますね、 さて、 皆さんも気になっている外の状況について話をします」
またしても空気が引き締まる
「皆さん、 少し怖くなるかも知れません、 ですから家族、 友人、 それ以外の人共に手を取り合って、 支え合って下さい」
「……今この街では大きな規模のモンスターとの戦いが繰り広げられて居ます」
まあ、 本当はそんなレベルでは無いのだろう、 先程一瞬外を見たが、 空を飛ぶ龍がちらりと見えた
でも大丈夫、 皆戦ってる
「戦いの正確な結果は現状分かりません、 ですが、 信じて下さい、 戦っているのは、 このシェルターを守って来た精鋭達、 彼らは困難を前に奮戦しております」
戦いはなにもモンスターとの戦いだけでは無い、 藍木山攻略戦に赴かなかった、 このシェルターに残った戦闘隊は今も最前線で力を貸してくれている
設備を整え、 戦闘に備えてくれている
「皆さんの誇りがこのシェルターを、 街を守って来ました、 そして今も、 これからも」
ああ、 誇らしい、 ただ一つ……
「そう言えばさっき大望議員が、 私が作った何て誇っていましたが、 このシェルターを作るのに一番貢献したのは私の父だと伺いましたよ」
「大望議員はその頃まだ若く、 ちゃんちゃらくさい青二才何て呼ばれたらしいじゃないですか~」
この話は知る人なら知るちょっと有名な話……
あははっ わははっ
シェルターの至る所から笑い声が聴こえる、 うん、 こんな時だからこそ、 明るく乗り越えなきゃ
「そっ、 その時の話は良してくれよっ!」
うふふ……
うん、 大丈夫、 どんなに困難な状況でも、 下を向いて心が暗くなっても、 私達は、 人間は戦っている
手を取り合って戦っている
私達は、 無敵だっ
…………………………
…………
ピガガ……
『藍木山攻略戦、 終了しました、 甘樹シェルター、 帰還しますのでゲートを繋いで頂きたい』
私もまだ……
「フーリカちゃん、 大丈夫? 力使える?」
うん、 天成さんは優しいな……
「はい、 怪我は酷くありませんから、 こちらフーリカ、 ゲート開きます、 バウンダー・コネクト」
甘樹シェルターの扉と、 藍木シェルターの扉が繋がる
ガチャ
開いた扉の向こうには……
「ただいま藍木山攻略戦メンバー帰還致しました」
土飼さんだ、 その後ろにも続々とメンバーが続く
焼かれた肌が痛む、 喉も苦しい、 でも、 こうしてもう一度立って、 待っていたのは、 早く会いたかったからだ
日暮さんに………
……………?
「あれ? 日暮さんは?」
「あー、 少し言い難いんだが、 日暮はまだ戦ってる最中だと思う」
へ?
「状況は話すが、 日暮だけはまだ藍木山で戦って居るので、 帰還していない、 だが安心して欲しい、 連絡は取れないが…… 日暮は大丈夫…… フーリカさん?」
え? え?
会えると…… 思ったのに……………
バタンッ
!
「フーリカちゃん! ちょっとおじさん! 残酷な現実をいきなりぶつけないでよ! って、 熱あるじゃん! 救護室運ばないと!」
「え? どっ、 どういう事なんだ!? 帰って来てそうそう! 誰か説明してくれぇれ!」
その後、 帰還早々この街の状況を藍木山攻略戦メンバーは聴くことになる
「まさか、 あの龍は異世界から突然やって来たやばい奴だったのか…… 藍木からも見えていたが…… それにシェルターが襲撃を受けて、 フーリカさんと、 天成さんで倒したと、 俺は若い子達を誇りに思うよ」
第一部隊の土飼、 第二部隊の雷槌、 第三部隊の威鳴、 そして冬夜はこちらでの話を聞いて顔を見合わす
「俺に出来る事はします、 攻略戦帰りですが、 休んでる暇は無いようですからね」
「俺も~ 流石にあの龍とは戦えないけどね…… って言うか、 あの龍はどうしてんの? 誰かが戦ってんの? まさかとは思うけど……」
菜代望野がその質問に答える
「状況が状況だから、 こっちも何が何だか分からないんだけどね…… 戦っているのは雪ちゃんって、 女の子なの、 日暮君と凄く仲が良いみたいだったけど」
女の子?
「え? あの? 幼い?」
冬夜は藍木山に居たから分からないが、 他の者は少なからずその子の事を知って居るだろう
「戦況は分からないけど、 これがね、 びっくりする様な話なんだけど…… いい勝負をしているらしいの」
情けないけれど……
「今は彼女、 雪ちゃんにこの街を任せるしかないわ……」
その申し訳なさに震える様な声、 事情を知る誰もが同じ感情だった
………………………………
…………………
……
まだ幼い少女の事を想う人は結構居る、 それが人の強さであり、 弱さでもある
でも、 そんな所が好きだ、 守ってくれる人も、 私が守りたい人も、 ここには居る
だからこそ、 みんなを照らしたい、 この空を明るく…………
ジリリリリッ
太陽光がアスファルトを焼く、 水たまりがキラキラと反射して青い空を反射する
ギララッ
上空、 晴れた煙の中から姿を現す、 ああ……
「貴方はそんな姿をしていたんだね、 とっても美しいよ、 空帝・智洞炎雷候」
纏った赤黒い溶岩石が全て無くなり、 その真の姿が目に映る、 かの龍は美しい白竜であった
羽毛に近い様な長い毛が風にナビいていて、 先に行くにつれて空色に変わっている
「やっぱり可愛いかも……」
荘厳さすら感じる気配、 神と謳っても遜色無いほどその龍は美しかった
少女は笑う、 逆に、 彼女の雪の様な白い髪は、 炭でも落とした様に黒く染まっている、 相反する様に互いに姿を現す
バザァンッ!!
体に纏っていた溶岩石が無くなり、 羽ばたく姿が軽く風を切る、 龍が高く飛ぶ
ギィギャアアアアアッ!!!
うん、 もう怖く無いよ、 貴方のこと怖くない……
「一緒に遊ぼぅ!」
少女が、 支えなく、 宙に立つ、 最早血界を足場にする必要すら無くなった、 黒い髪が風に揺れる
ッ、 バァンッ!!
強く蹴り、 空中に足場でもあるかの様に、 あの龍の元まで駆け上がる!
高く羽ばたいた龍が弧を描いて今度は下を向く、 確かに目が合う、 今は少女の事をしっかりと見ている
グギャァアアアアアッ!!!
チカッ!
咆哮、 その後龍の口内にて光が発現、 一瞬で膨張、 超高温により蜃気楼が発生し空が歪む
もう一撃、 龍のブレス!
「うん、 そうだね! 力比べしようっ!」
少女は両手を左右に広げ、 時計回りに、 右腕を下回転、 左手を上回転、 円を描く様に腕を振る
パンッ!
円の中心で手を叩く、 描いた円に光の線が走り、 見たことも無い文字と絵が虚空に焼き付く様に刻まれる
「魔晶印形成……」
ギチギギギギッ
「魔国式結界・駁至咩仍っ!」
光で描かれた陣の文字が赤黒く変質し、 中から尖った杭のような物が出てくる、 杭には陣と同じ様な文字が刻まれている
「世界を切り裂く杭…… 穿出っ!!」
バシュゥウンッ!!
空を切ってものすごい勢いで飛ぶ杭、 奇妙な事にその射線の後ろに続くように世界に細い、 黒い線が残る
チカッ!!
ボガァアアアアアアアンッ!!!
打ち出された龍のブレス、 圧縮されたそれは、 地に触れれば瞬く間に大地を岩盤戻まで吹き飛ばし赤熱の大地変えるだろう
細い杭が、 ブレスと真正面からぶつかる…………
ギジャァアアアアアアンッ!!!
奇妙な音が響く、 触れた杭はブレスに飲み込まれた様に見え……………………
バチバヂバチバチッ!
杭が作った黒い線が、 裂ける様な音を立てて左右に別れていく、 世界の分け目
それは、 オーロラの様に虹色で、 眩しいようで、 何処か薄暗く
街の空に大きく口開いた、 飲み込むかのように、 巨大な裂け目は、 ブレスの炎を飲み込んで行く
ぼぉぉおおおんっ!
…………………シュッ!
ブレスの炎が消え、 残り火の様な小さな燃えカスが街に雪のように降り注ぐ
しゅんしゅんっ
裂け目を縫い合わせるように、 黒い糸が現れ、 世界の裂け目を塞いで行く、 あっという間の出来事だった………
でも
「終わらないよっ、 魔国式結界・弥弥戸羅俱っ!」
ファンッ! フォワンッ! フワンッ!
街の至る所でドーム程の大きさの結界が展開していく、 その大きな丸い結界の中には瓦礫の屑や、 鉄骨、 崩れたビルの上階など、 十程ある結界の中に、 総重量千tにもなるだけの瓦礫が詰まっている
羽ばたく龍を追いかける様に少女が手を振ると、 その瓦礫を内包した結界の弾が龍を追随し、 ぶつかる
ドガシャアアアンッ!!
ギィギャァアアアアアアアアアッ!!
龍の鳴き声
「終わりじゃないよっ!!」
つぎつぎと振るわれる鉄球の様な結界は龍を尽く打つ
ドジャアアンッ!! ガジャアアアンッ!!
その度に発生する音は、 質量と、 破壊エネルギーの膨大さを確かに感じさせた
龍は鬱陶しそうに尾を振る
ベシィンッ!!
バリィィンッ!
一撃触れるとそれだけで結界全体に巨大なヒビが入る
「やっぱり力強いなぁ~」
バザァアアアンッ!!!
龍が高く飛ぶ、 またブレス…………
ヂガヂガヂカッ!!!
龍の体全体が眩く光る、 まるで静電気でも豊富に取り込んだかのように……
「っ! 智洞炎雷候は雷雲を頼らなくても体内エネルギーを雷に変換出来るの!?」
ブレスじゃない、 雷電攻撃、 しかも体内エネルギーの放出、 白竜の体が眩く光る
ッ! バヂィイイイインッ!!! バジャァアアアアンッ!!!
バシャァンッ!! バジヂィンッ!! バゴジャアアアンッ!!!
バジャジィアアアアンッ!!!
数千撃の雷が四方八方に散り、 街を紫電に焼いていく、 避雷針の様な高い建物が次々とと崩壊していく
この戦いで街がめちゃくちゃだ……
あれ? でも………………
「凄いな~ こんな力がある何て知らなかった! もっと見せてよ、 ふふっ、 ねぇ! もっと貴方の力を見せて!」
今気がついた、 この街や人を守る事ばかり考えて、 戦っている貴方の事を見ていなかったのは私の方かもしれない………
「ははっ、 魔晶印っ! 魔国式結界・閉透唱掾鬼!!」
グシャッ!
少女の頭蓋を割り角が現れる、 目が真っ赤に染まり、 細かい文字の様な物がびっしり浮かぶ
「魔王顕現!」
っ!
「魔国式結界っ!」
ギチギチ!!
先程の鉄球の様な結界が全てぶつかって一つに、 中の膨大な質量の瓦礫を圧縮押し潰して、 結界は槍の形へ変わる
「弥弥戸羅俱・輪変、 虚討槍」
ガシッ
少女の細いく小さな手が、 自分の倍は大きな槍を掴む、 それを大きく振りかぶる
「貫けっ!!」
バシュンッ!!
少女の物とは思えない轟速、 莫大な質量を含んだ槍が龍へ……
シュン
避けられた………… いや
バシンッ!
龍を越え高く打ち上がった槍、 その地点が一瞬弾け、 龍よりも高いその地点に突如少女が現れる
結界を起点としたワープ、 こんな事が出来るなんて知らなかった……
いや
「私は魔王、 私に出来ない事は無いっ!」
バンッ!!
空を蹴って龍に向けて急降下、 槍を構える
「落ちろっ!! あははっ!」
ドガンッ! バジャァアアアアアンッ!!
背中に落下、 音が弾ける程の勢で槍は龍の背中に吸い込まれる
ビシャアアンッ!
チッ
「浅いっ、 この竜毛、 弾力があって威力を殺されたっ!」
バチッ!
龍が光る
バヂィイイイイァアアアアアアンッ
「っ、 がぁ!? 体が痺れっ っ! せいらぁっ!!」
グシャアアン!!
痺れに耐え……
「もう一発っ!!」
グジャアアンっ!!
同じ部分に攻撃を打ち続け龍毛を無くす、 切り開いた傷に触れる
「魔国式結界・累驀徒擂っ!!」
空間が裂け目玉が覗く、 目玉が充血し、 放たれる超高圧レーザー!
ドジャアアアアアンッ!!
ッ
ギャガアアアアアアアアアアッ!!!
体表を貫き、 内側で爆散するレーザー、 流石の巨龍もこれには悲鳴を上げたか……
「っ、 このまま落とす……… !?」
龍の体が淡く光を放つ、 これは静電の光では無い、 これは、 これは………
…………………………
…………
地上で上空の戦いを見守っている者、 皇印龍・セロトポムは語る
「龍とは、 生まれながらにして力を有している、 それ故に新たな力を欲する者は少ない」
だが
「智洞炎雷候は完璧を求めた、 求めるだけの力、 彼はそれを手に入れた」
そう………
「能力、 龍が放つブレスも力も、 体内エネルギーの放出も、 或いは天候操作や、 環境の活性化も、 全て初めから有した力で出来る」
「だから、 そこに態々能力を求める者は少ない、 あの龍は能力を求めた、 あの龍は能力者だ、 その能力は……」
……………………………
………………
グジュンッ!
!?
一瞬で傷が塞がる、 これは………
「超再生、 この龍は、 再生能力持ち、 有り余る力を有した、 再生能力持ちのフィジカル特化型タイプ……」
龍と言う種には初めから少なからず高い治癒性を有している個体も多い、 それは智洞炎雷候もまた同じだった
だからこそ、 能力は本来ある治癒力に補正を掛けたに過ぎず、 能力のリソースはその分ほかの要素へと回されている
それは、 瞬間的な回復速度と、 常時発動による自動回復
傷を受けても自動的に全回復する、 元々の頑丈さに加えこの補正、 この龍が産まれてから、 この体が十パーセント以上の損傷を受けた事は一度も無い
不死身
と呼ばれている
「あははっ、 せっかくダメージ通ったと思ったのに…… って、 何か、 熱っ」
っ
ボォオオオオオンッ!!
体から火を吹く、 灼熱の体表、 同時に雷電も走る、 炎と雷を纏う龍
それこそまさに、 空帝・智洞炎雷候の名前の由来ともなった姿、 灼熱の炎と、 数千の落雷を上空で同時に解き放つ技……
雷志炎撃
っ!
ボガァアアアアアアアアアアアンッ!!! バァアアアンッ!
バジィアアアアアアアンッ!!! ビシャアアアアアンッ!!!
あぁ……
「終わらないよっ! 楽しくなってきた所じゃんっ! 魔国式結界・弥弥戸羅俱・輪変っ!」
バァンッ!!
槍が砕け、 その瞬間総重量千tにもなる瓦礫が一気に吹き出し、 少女の思い描く形に作り替えられていか
龍を覆う籠の様に展開し円を描く、 大きな円を描く瓦礫には全て魔王の力が付与されており、 怪しく光っている
少女が広げた手を強く握る
グッ
ドガァアアアンッ!
瓦礫の塊たちが、 龍から打ち出されたエネルギーと真っ向からぶつかる
簡単には壊れない瓦礫群、 結界による強度が増しているが、 現状少女の結界は龍の攻撃を防ぎきれない
火力をできるだけ抑え、 抑圧されたエネルギーが結界を割り、 瓦礫群が灼熱にもえ消える時
紫電を含んだ炎の塊が地上へと落ちていく、 少女はそれを見送る、 別にもう誰も住んで居ないような建物がいくら壊れても問題無いと、 いつしか考えは変わっていた
ただ、 一点、 戦いの最中、 巨龍とのやり取りに対して実は五十パーセントの出力しか出して居なかった
もう半分、 内側で絶えず脳内詠唱に意識を置いていた、 確実に組み立てた千七十八段階詠唱、 彼女から膨大なエネルギーが産まれる
魔王の体内を巡る力、 魔力、 膨大なエネルギーは、 膨大な魔力へと変換される
その全て、 自分の中の魔力が空っぽになるまで、 全ての魔力を、 ただ一点、 指先に貯める
「閻魔弾っ!」
バヂヂヂチィ!
バゴォアアアアアアアアアアアアアアンッ!!!
ジュゴアアアアアアッ!!!
空気が焼き付いて行くような、 白熱の魔弾、 それが確実に、 龍の顔面を捉える、 現代の魔王が仕組んだ最高火力っ!
ドガアアアアアアアンッ!!!!
キィィンッ!!
鋭い音が街を震わし、 爆風が地上へ降り注ぐ、 空は、 焼け焦げた様に赤黒く変色した
「ふっ、 あはははっ! これで首が吹き飛んでなかったら、 私、 ぞくぞくしちゃう! もっと、 力が必要なのかなぁ!」
少女は笑っていた、 恐怖し、 その身体を震わせて居た頃はもう大分昔の事に感じる、 少女は思う
(…………はぁ、 私、 何の為に戦ってたんだっけ? まあ、 良いか………… )
龍の体がゆっくり落ちていく
「っ! 死んだかなっ!」
ぐじゃぐゃぐじゃ
バジャアアアアンッ!
肉の弾ける様な音………
ギャガァアアアアアアアッ!!!
鳴き声……
バサンッ! バサンッ!!
首を持ち上げ翼がはためく、 また、 高く龍は空へ登る、 その顔は生気に満ちた様に華麗に空を飛ぶ
「わぁ…… 素敵…………」
巨龍と目が合う、 確かに目が合う、 その目は虹彩を確かに放って綺麗な目をしていた
…………………
「素晴らしい一撃だった」
!
少女は目を見開いた、 まさかあの空帝・智洞炎雷候が……
「私とお話してくれるの?」
「君には敬意を示そう、 ありがとう、 脳を破壊してくれて、 脳を破壊されたのは初めてだった、 鮮烈な一撃だった」
ふふっ
「なんでぇ~ 嬉しいの?」
「再生能力では、 老化は直せない、 脳は限界が来る、 もうずっと何もかも考えられない程脳が老化していた」
智洞炎雷候は早世の頃から存在する龍、 膨大な時間に疲弊したかの龍は、 ここ数千年の間で大分限界が来ていた
意味もなく空を飛び、 理由も美学も無くただ地を燃やし、 ただ、 ただ生きている、 ただ心臓が動いている
肉体から吹き出す炎は粘度を持ち、 身に纏う溶岩石となり、 重たくのしかかる様な重圧にすら何も思わない
誰も、 本来の白竜の姿を忘れ、 自分自身すら自分の姿を忘れ、 ただ……
再生能力は、 老化による機能の低下等には作用しない、 だが、 その特徴として、 破壊され回復した時、 能力発現時の状態が保存されており、 そこまで回復する
脳が破壊され、 脳が再生した時、 かつての若々しい龍の頭脳は再生されたのだ
「これ程の頭の冴えは懐かしい、 今はただ、 空帝として、 広い世界の空を飛び旅をしたい、 破壊や戦い等忘れて」
美しい白竜は羽ばたく
「龍共っ! この世界に陛廊頭石は無い、 元の世界へと戻るぞっ!」
ギャアアッ!! ギィギャアアッ!!
傷を受けた龍、 地に伏せる龍、 全て等しくもう一度首をあげる、 龍という存在の生命力の高さに驚く
バサンッ
「さようなら、 智洞炎雷候、 私達、 仲良くなったよね、 今度はもっと遊ぼうね」
「ふっ…… 魔王よ、 我々は元いた世界に戻る、 世界に空いた穴も塞いで帰ろう、 だが……」
龍の目が私を捉える
「魔王よ、 貴方もいつか、 戻るべき場所に行かなくては行けないよ、 何時までも囚われたままでは行けない、 前に進まなければ行けないよ」
?
「それじゃあ」
バサン バサンッ
グギャアアアアアアアッ!!
龍の咆哮、 この世界にやって来た龍達が次々穴に入り去っていく、 巨龍も世界の穴に入っていく
ぐぐぐ…… バシュンッ!
音を立てた世界に空いた穴が閉じる、 突如始まった龍による襲撃は幕を閉じた
見下ろす眼下の街は、 見るも無残に、 その破壊後を刻んで、 そこらじゅうから黒煙が立ち昇っている
あの龍を知るものならば誰もが言うだろう、 あの龍と戦い死なず、 この規模の破壊で済んだなら、 それは健闘だったろう、 と
清々しい風が通り抜け、 立ち上る煙を揺らし、 少女の髪を優しく撫でていく
『……前に進まなければ行けないよ』
…………
「前? どういう事だったんだろう……」
龍の言葉は少女に深い悩みを齎した、 多くの気持ちと感情が湧いては消え、 目を閉じた
街は静寂に包まれた、 かくして戦いは終わった、 確かな傷と、 思惑を残して
…………………………………
…………………
……
「………終わったかな、 お酒も丁度終わって、 いや、 中々いい時間だったよ」
「そういう割にはあんまり盛り上がって無かったけど、 シリアス映画を見てるみたいに静かだった」
街の破壊、 その思惑も実現させたもの達は去った龍達を見て、 映画でも見終わったかのように背筋を伸ばす
「実際私はあまり声を出さないタイプだからね、 まあ、 それだけじゃなく、 すこし物足りないと思ったんだがね」
ブラック・スモーカー、 雨録は深く椅子に腰掛けそう言ってのける
「あの少女、 凄いじゃないか、 何だかんだ街への被害を最小限に抑えて居る、 噂に聞いていたほどの破壊じゃなかった」
それを聴いてナハトは笑う
「あははっ、 だから言ったでしょ? 今第の魔王は特別製だって、 あの龍の脳を破壊した時は流石に声が出たけどね」
それと……
「冥羅はどうだった? 君も物足りない何て言わないよね?」
フードを被った男、 冥羅は首を横に振る
「素晴らしかったよ、 念願叶って、 確信無き希望が、 実感ある希望に変わった、 俺は今絶好調だ」
「それは良かった」
それで………
「ナハト、 それで君の念願、 少女は魔王へと成ったが、 これからはどうするんだい?」
幼体を、 魔王にする、 それは大きな目標で、 取り敢えずそこに向かって歩みを進めていた
だが、 そこから先の話は聞いて居ない
「ああ、 ここまで来たら大詰め、 今魔王の状態は特殊だ、 力を示し、 それが奴ら、 魔王を作り育てる、 しみったれた奴らに知覚された」
だからこそ、 幼体だった少女は、 魔王となった
「ミクロノイズの様に、 魔王の素質ある子供に鑑賞するエネルギーを奴らは放っていて、 それに適合した者は幼体となる」
「そうして、 少女は力的には魔王へと成ったけど、 ややこしい話、 正式な完全なる魔王には成れて居ないんだ」
雨録と、 冥羅は首を傾げる
「そうなるよね、 でも大丈夫、 失敗したとかじゃないよ、 必然なんだ、 あのね、 魔王って言うのは、 奴らの操り人形なんだよ」
「自我を破壊され、 なぜ戦って居るのか分からない、 そんな状況でただ只管に破壊を強要される、 そんな存在なんだ、 破壊の化身」
でも
「あの子はまだ自我を保っている、 自分の事も分かるし、 人の事だって守ろうとしてた、 あんな魔王は居ないよ」
だからこその、 特別製
「やはり、 真に魔王へと成るトリガーはしみったれ共に直接会う事が必要何だと思う、 所詮奴らの思念に触れ覚醒しても、 奴らの思うようには動かせないんだ」
つまり
「魔王の力だけを手に入れた少女なんだよ彼女は、 奴らはどうにかして彼女と接触しようとするだろう、 だが簡単では無い」
何故なら
「奴らは表に姿を表さない、 天閣に補足される事だけは絶対に出来ないんだ、 勿論、 世界に穴を開けてこっちに来る様な大それた事はしない」
「奴らは現状座して待つしか無い、 この状況を作り出す為に世界を融合したんだ、 狙い通り行って嬉しいよ」
それで……
「これからする事だけど、 彼女を暴走させる」
暴走?
「彼女、 魔王が使う魔国式結界にはね、 さっきも言ったミクロノイズとは違うエネルギー、 まあ、 魔力かな、 が必要何だけど」
「そのエネルギーを作り出して世に放ってるのはしみったれ共だと話したね? 奴らは今、 あんまり彼女に力を使って欲しく無いんだよ」
「電波と同じで、 何度も使用すれば発信元が特定されてしまう、 本来なら奴らの操り人形としてあまりそういう問題は発生しないらしいんだけど」
「とにかく、 俺からしたら、 力を沢山使って欲しい、 その内天閣に干渉した時、 天閣の主がその力を辿り、 奴らは終わりを迎える、 と思う」
成程……
「とにかくそのしみたれ共が憎くて仕方ないって感じだね、 分かった協力するよ私は、 だが一つだけ…… そろそろ教えて貰っても良いかな、 君は何者で、 どうしてこんな事までしてそいつらを叩きたいのか」
ナハトは頷く
「そうだね、 良いよ、 そろそろ頃合だと思ってたんだ、 まあ、 勇者としてもっと根本を叩こうって違和感無いと思うけどね」
ナハトは立ち上がる
「中で話そう、 韋刈も起こしてさ」
遠くの空に浮かぶ、 今誕生したばかりの魔王を見て、 勇者は笑う
思惑が、 一つ終わって、 またあらなた思わなくが生まれる、 これからもまた、 この街で黒い煙は揺蕩うのだろう
だが、 少なくとも、 今日、 一つのターゲニングポイントを過ぎた、 これからはあの少女を起点にこの街の物語は進むのだろう…………
………………………………………………
…………………………
…………
だからこれは、 全く関係の無い戦い、 思惑も、 物語の進行も、 何もかも、 囚われることの無い戦い
互が、 互いの思いを胸に、 進むべき道を進み、 前進した先でぶつかった因縁
完璧と、 強さ、 求めた先で吹き荒れるぶつかり合い、 物語が進む街から離れた所で
当人達以外誰も見る事も注目する事も無い戦い、 戦う必要が果たしたあるのか……
互いに睨み、 進む道に立ちはだかる障害、 戦う意味? 戦いに意味が必要なのか?
必要だとしたなら、 たった一つの思い、 ただそれだけが、 意味であり、 理由だ、 それは………
「「「殺すっ!!」」」
明山日暮が、 日暮の内側にて巣食う者、 暗低公狼狽が、 生まれ変わった者、 厳淼采が
三者三様、 その殺意だけは同じ
……だが、 明山日暮は先程の、 暗低公狼狽が言った、 敵、 厳淼采の能力について考える
「……無限の、 生命力?」
「そうだ、 人の形は決まっているな、 二足歩行で、 手足2本、 頭、 だいたい皆同じ形をしているな?」
頷く
「それは生命力のリソースを割いて整形した形だ、 生命の形は常に足し引き、 鳥は翼を持つが、 歩きは下手、 人間は歩きは上手いが、 空は飛べない、 そんな物語があるな?」
懐かしい
「みんな違って皆良い、 だな」
「でも、 それは妥協的思考だ、 地を走り、 空を飛び、 水を速く泳げたならそれの方が良いとは思わないか?」
それはそうだ、 でもそれは野暮ってもん……
敵を見る、 超筋肉質の肉体を持ち、 追いつけない程の力、 と速さ、 しかし、 その背中には翼を持ち空を飛ぶ
これは……
「リソースによる取捨選択の超越、 つまりそれが無限の生命力だ、 それが奴の能力何だ!」
腕の数が三本あったら今より便利だろう、 でも正直二本あれば事足りるし、 体を作る生命力に限りが有るなら無駄な構造だけは省きたい
それが、 使える生命力が無限にあるのなら、 そしてその生命力を自由自在に扱えるのなら、 考えつく魔改造を体に施すだろう
そして、 目の前の敵の様に成る、 成程理解出来る
「筋肉を付けるのも生命力、 傷を癒すのも生命力、 成程ね、 生命力が無限にあれば、 なんでもかんでもやりたい放題…… ん?」
ちょっと待てよ……
「生命力が無くなったら、 死ぬって解釈で良いんだよな?」
「そうだ、 だから我々は考えなくてはならない、 無限に生命力を持つ奴が、 死ぬのか、 どうなのか…… を」
まじか……
グッ グッ
厳淼采が手を開いて閉じて、 その感触を確かめる、 そしてこちらを見る
「覚悟は出来たか人間、 最後の最後、 死に物狂いで足掻く覚悟は……」
くっそ
「その余裕そうな感じが腹立つって言ってんだよ、 クソキメラ野郎」
「そうか、 では…… 死ねっ!!」
バァンッ!!
膜を貼った様なワイバーンの翼、 羽ばたき滑空する様に襲ってくる
「舐めやがって、 だが、 確実に重くなって、 ノロイんじゃねぇかぁ!!」
拳大の石を拾う
「ブレイング・ブースト!!」
ボガァアンッ!!
加速した石が敵にぶつかる、 ダメージは…………
?
「当たったよね? ダメージ無くね?」
バサンッ!
「無駄だっ、 人間っ!!」
ギランッ
拳から伸びるブレードが光る
ドガジャアアンッ!!
落下攻撃、 ブレードが首筋を撫でる……
シャンッ!
「っぶねっ」
ギランッ
逆の手………
こっちから踏み込むっ!
バンッ!
接近、 敵の懐……
「ブレイング・バーストッ!!」
空気圧による破壊……
バガジャアアアンッ!!
敵の装甲を破壊、 流石にバーストなら破壊出来る、 このまま………
ギランッ!
ブレード……
「手刀陣・忌来切っ!!」
バジィンッ! バシャァンッ!!
「日暮、 そのまま攻めろっ!」
おっけー
「らぁっ!」
ビシャアンッ!!
走行が剥げた箇所に正確にナタを叩き込む、 浴びる鮮血が確かに命を削っていると実感する
「ハァッ!」
敵の拳……
「ふっ! 当たんねぇよ、 今更そんなぬるいっ」
グッ!
ビシャアアンッ!!
もう一撃叩き込む、 いい、 断然さっきより戦い安い、 見掛け倒しだ……
グリグリ……
敵の肉体が何か疼いて……
ビシャァンッ!! ビシャアンッ!!
っ!?
骨だ、 こちらに向けて原谷胸を抜き破って鋭い骨が向かってくる、 くっそこういう戦い方もある……
バンッ!
心臓を狙った起動の骨をナタで弾き、 半身になって回避、 だがほかの骨が……
バギンッ! バキンッ!
「手刀陣・刺突八連槍!」
ナイスっ!
タンッ!
敵の肉体内側に触れる、 ゼロ距離……
「ブレイング・バースト!!」
グジュルッ! バジャアアアンッ!!
敵の腹が吹き飛ぶ、 いいこのまま……
ギランッ!
しっぽのブレード!
「フンッ!」
避ける、 間を、 開けるな……
「手刀陣…… いや、 離れろ日暮っ!」
!
バンッ!
バックステップ……
「裂傷裟刃交っ!!」
バジャジャジャジャンッ!!
肉体から細い…… 血管だ、 鞭のようにしなった血管が十本、 さらに飛び出した骨による攻撃と、 刃の様な髪の毛の振り下ろし、 しっぽのブレード
ビシャアアンッ! バシャアアンッ!!
ビシッ!
やばい、 巻き込まれた、 肉が引き裂かれ……………
「手刀陣・操手包纏っ!」
操手包纏、 それは暗低公狼狽が自身の能力、 暗観望測夜行百手のリーチを活かせない薮や林の中で戦う際、 能力の手を自身の体に巻き付け防御甲冑にする
シュルルルッ!
骨が、 暗低公狼狽の操る骨が体に巻き付いて来る
(……これはっ、 骨の鎧)
バギィンッ!!
敵の攻撃が骨の鎧に食い込む…… いや……
グジャアアンッ!!
骨の鎧が敵の攻撃を抉り喰らうっ!
「ひひっ、 てめぇを喰らう防御甲冑だっ!」
!
敵は驚愕に顔を染めて攻撃の手を緩める、 その距離を再度一気に詰める
「ブレイング・ブースト!!」
「気を付けろ日暮っ! この防御も別に完璧って訳じゃない! ぶつかった衝撃は殺しきれないし、 攻撃が速ければ食う前にダメージがある!」
おーけいっ!
グッ!
「らぁっ! 一閃っ!!」
ビシャァツ!!
くっついちまえば結構行ける、 相手が防御がん済みで回避に専念しなくなったからだ、 そしてこっちはその防御を崩す威力がある!
ギランッ
拳、 ブレード…………
キンッ!
ナタで弾く、 肉体捻ってその連携っ!
「たたっ蹴る! ブレイング・ブーストッ!!」
ドガァッ! バァアアンッ!!
敵が加速した蹴りの衝撃で仰け反る、 ここっ!
すっ……
深く沈んで、 下から狙い済まし、 敵の顔面した顎をぶっ飛ばす様に、 全力のナタ振り上げっ!
「ラァッ!!」
っ!
バガァンッ!!
刃が食い込む、 ここに叩き込むっ!
「ブレイング・ブーストッ!!」
バギィイインッ!!
派手な音がして敵の顔面、 般若の様な面が脳にかけて大きな亀裂が入る、 良いねこの感触、 絶対脳まで衝撃届いたっ
返す刃で今度は下、 胸を切り裂くっ!
「せっらぁっ!」
振りおりすナタ、 その刃が真っ直ぐ敵の胸の装甲を捉え…………
キィッンッ!!
!
甲高い音が鳴って弾かれる、 硬っ!?
(……んでだっ、 こいつの骨の装甲、 さっきまで余裕で突き立てたのに、 まるで鉄でも叩いた様な……)
黒、 黒い鈍く光る物が骨の装甲の下から出てくる、 これは…………
(………いや、 鉄じゃね? 鉄を体から精製? いや~ それは無理でしょ……)
でも、 この手応え、 確実に金属……
ん?
驚き、 その次に不意に違和感、 それは突如体を襲う…… 重さ
ドスッ………
「んっ!?」
腕、 腕が突然、 特に重い、 何だ、 何だこれ………
横目てナタを振るった腕を見る、 ギラギラと、 日暮の腕から鉄の様な金属が生えている
(……重っ)
「ははっ、 動きが鈍いのはお前の方だっ! そして今度は避けれないっ! 喰らえ、 裂傷裟刃交っ!!」
ビシャビシャビシャアンッ!!
再び、 敵の肉体から鋭い血管や、 髪の毛、 しっぽのブレードに、 触れるもんを全部繰り出すやけくそみたいな攻撃が日暮を襲う
「っ、 めんなよっ! ブレイング・ブーストっ!!」
ぼっガァアアアンッ!
自分事後方へ吹き飛ばす
(……そう言えばこのブーストは、 一番最初は逃げる時に自分の体を吹き飛ばして加速する技として使用したんだよな……)
ビシャァンッ!
敵の鋭い鞭を打つような血管を紙一重で避け……
そうだ、 これだ、 この動きだ
今の俺は鳥面が風の操作で空気を絶えず集めてくれる為、 能力は実質打ち放題、 ならもっと、 もっとバンバン打て
もっと絶え間なく打て、 加速技、 による移動技っ……
グッ!
「ブレイング・ブーストっ!!」
ボガァンッ!!
自分の体を加速、 地面を蹴って踏み込み、 敵との距離を詰める
「はっ! またそれか! 動きの鈍った今のお前の攻撃など今更何にもならんっ! オラァッ!! 捉えたっ!」
迫る敵の攻撃、 速いよ、 でも……
更に踏み込むっ
「ブレイング・ブーストっ!!」
バガァンッ!!
敵の脇を抜け、 一気に背後へ、 通り抜けざまに……
ビシャッ!
敵の脇腹を切りつけている
「っ! 小賢しい人間めっ、 後ろかっ!!」
ブオンッ!
しっぽブレードがこちらの位置をまるで分かっているかの様に迫り……
遅せぇよっ
「ブレイング・ブーストっ!!」
バゴンッ!!
更に加速、 今度は逆の脇を抜け、 一瞬で敵の前方へ、 背後に意識を向けている敵の死角を取る
この動き、 絶えずブーストによる加速による移動、 能力の限界を超越した使用、 ブーストの速さによる加速は、 厳淼采の意識速度を上回っているっ
「っ! 前かっ! 死角の取り方が単調だっ!」
まあ、 そう思うよなっ
「っ、 ブレイング・ブーストっ!」
ザッ
「馬鹿がっ! 今度は後ろっ…………… !」
馬鹿はお前、 焦りすぎ何だよ……
「俺はただ能力の名前叫んだだけだぜっ!!」
そう叫びながら左手を敵に向ける
「手刀陣・忌来切ッ!」
シュインッ!
ビシャアアアアンッ!!
「ウガァアアッ!?」
「ようやっと我の能力がまともに入ったな」
止まらねぇぞっ!!
「ブレイング・ブーストッ!」
バンッ!
踏み込み、 吹き出た敵の鮮血、 それに上手く紛れる様に、 敵の資格を逃れ背後へ
その一瞬の隙は大きい
「ブレイング・ブーストッ!!」
再度踏み込みっ!
バンッ!!
振り向く敵、 しかし姿を見失う、 急いで前方を見て、 しかし、 それでも居ない
(……そうなったら、 だいたい上だろうがよっ!)
「手刀陣・逆さ楼塔っ!!」
「ブレイング・ブーストッ!!」
ボオンッ!!
上に飛び、 反転、 空で押し出され下へ飛び込む、 その速度で同時に打ち出される骨のブレード……
ドシュッ! ドシュ! ドシュッ!!
「うがあっ!」
「せえっ、 よっ!! ブレイング・ブラストッ!!」
ボンッ!
握る拳の中で空気が膨張する、 骨による固定、 その一瞬遅れ、 敵の頭頂部、 ド真ん中、 スイカ割りみたいな感覚の……
「頭カチ割りっ!!」
ドッスンッ!
ベギィイッ! バギィィギィイッ!!
押し込んだ拳が、 脳髄を割り、 そのまま頭部を弾き、 陥没させる
バチャァアアアアンッ!!
ベシャッ!
「あははっ! 拳でスイカ割りしたらまじでこんな感じかっ、 トドメの、 ブレイング・バーストっ!」
「日暮っ、 お前に合わせる! 手刀陣・刹那霹彗苓手っ!」
合体!
「「刹那喰来手・バーストっ!!」」
バゴォオオオンッ! グジャアアアアアッ!!
破壊する空気圧と、 抉り喰らう骨のブレードが作り出す滅喰領域っ!
それが今度こそ、 もろに当たるっ!
バガジャアアアアアグシャァアアアアンッ!!
「っし! 直撃貰ったぁ!」
敵の肉体が見るも無残に吹き飛ぶ、 肉のくっ付いた骨が、 かろうじて人っぽい輪郭を作って居るような状態
明らかに生命の維持をして居ないが……
ギチギチッ…… バンッ!
バガァアアアンッ!!
敵の骨の輪郭が関節ごとに外れ、 鋭く槍の様に尖った骨が、 勢い良く射出されるっ!
バシャアンッ! ハジャァンッ!! バシャアアアンッ!!
っ!?
「っ、 ブレイング・ブーストっ!」
バンッ!!
地面を蹴って回避する、 あの勢いは流石に骨の防御越しでも当たったらダメージあった………
と言うか………
唯一残った様な肉と骨四散させて、 最後の悪あがき、 派手に自爆…… いや……
グジュルルルルッ!
何処がで肉がこねられる様な音がする、 おいおいまじかよ、 もう殆ど体無くなってた様なそんな状態から………
っ!
ドスッ
足音……………
そちらを見る………………
「はぁ…… いや、 なるほど暗低公狼狽と一つになる事で、 能力の鎧を纏い、 そして連発を可能にした貴様の能力による爆発的な連続の加速、 いや参った……」
おいおい………
「だが、 どんな戦いをしようが、 脳を吹き飛ばし、 俺を喰らおうが、 そこに尽きない生命力があるならば、 もう何度でも肉は疼き、 再生、 肉体を作る」
「当たりだ、 俺の能力は無限の生命力、 つまりこういう事だ」
今し方吹き飛ばしてやった敵、 厳淼采が悠然と立って居る、 成程、 さっき鳥面が考えなくては行けないと言っていたのはこういう事か……
「無限の生命力…… それは果たして不死身の能力なのか………」
バキンッ
腕や体が軽くなる、 外れた鉄が転がる
「向こうの世界に居る、 血液を金属に変換出来る虫が、 小さな虫でな、 そんな生き物の能力まで再現出来るのなら…… 果てしないぞ」
あっそ~
「はぁ~ 中々、 戦いを締めくくるラスボスっぽくなってきたじゃん」
正直勝ち方が見えてこない、 不透明さ、 一方的に削られる、 疲労感の蓄積
それでも、笑う、 強敵を前に、 頬が上がる
「日暮っ、 戦いは長引かせない、 そろそろ決着を付けるよ、 覚悟は良い?」
当たり前っ!
「ファイナルラウンド、 行くぜっ、 勝ちになっ!!」
ふはははははははははっ!
「さぁ、 来いっ!! 最後の最後まで抗いっ、 足掻き戦って見せろっ! 因縁共っ!!」
世界のストーリーに囚われない、 彼らだけの、 彼らの為の戦い、 命を燃やす炎が、 この山の上で繰り広げられる戦いの決着が近い事を暗示していた