第八十七話…… 『街に揺蕩う黒い煙・4』
高熱と炎、 吹き出す、 まるで活火山の様に、 まるで太陽フレアの様に……
「ファイア・インパルトッ!!」
っ
ジワっ……
相変わらず……
「暑苦しいな~ 何処から出てくるのあのやる気」
「本当に際限が無いのでしょうね、 脳みそか、 心か魂か、 タガが外れ、 知性を感じさせない、 人間性を欠いた化け物」
その生き様は早速人では無い
それでも……
「不思議、 桜初、 貴方が居るからちっとも怖くない、 ……ごめんね今まで貴方のこと忘れようと、 見ないようにしてた」
「それで良い、 良いのよ、 私は、 鈴歌の影、 貴方が明るく照らすから私は今ここに居る、 貴方は希望、 明るい方を向いていれば良い」
天成鈴歌は、 暗闇で立っていた、 敵を前にして立っていた
鈴歌でも勝てない、 桜初でも勝てない、 でも、 そもそも二人は一人だ、 そこに線引きなんてありはしない
外界で人々と繋がり、 縁を結び、 人を縛り、 己の賢い生き方を貫いてきたのは、 鈴歌であり、 桜初でもあるし
停滞した暗闇で、 今度は誰かの彩りとして、 他人の言霊を聞き、 他人に触れられその熱を感じた、 それは桜初であり、 確かに鈴歌でもあった
二つの人格じゃない、 使い分けだった、 あの暗闇は嫌いだけど、 桜初、 彼女の事は別に嫌悪なんかして無い
「私は、 私が好きだから」
うん、 大丈夫、 変わらない、 私の全てで対峙してみせる
シャラン
左手に鈴の着いた錫杖、 その握る手は白く、 細く、 足も同様だがそれはとても綺麗に映る、 髪は闇色で、 瞳も同様に闇
その逆右手足は生気が漲った様に生き生きとしており、 肌からは羽毛と鱗の中間の様な龍の皮膚が覗いている、 シッポは右に振られ耳はカラカルの様にピンとたっている
瞳は赤みを帯びている
はぁ……
「良いな…… その龍模、 可愛い」
「でしょ、 でも私もさ、 集会の時に偶に着る、 多彩色の花模様があしらわれた着物、 好きだったよ、 桜初だから似合ってた」
ふふっ
「別に貴方も着てたでしょう、 貴方は私なんだから」
「それはこっちのセリフ、 ふふっ」
ふぅ……
敵を見る、 敵は何やらこちらを驚愕の目で見ている
「お前、 女、 今なんと言った?」
?
「お前、 言った、 自分の事が好きだと……」
「それが? 当たり前でしょ、 自分を好きになれない様な奴はダメ、 大切なのは結局自分なんだから」
つまり…… つまり
「お前は、 俺が好きで、 俺もお前が好きだが、 お前はお前の事も好きで、 つまりは……」
「六角関係ぃっ!!!」
はは……
「馬鹿みたい…… 何でもありじゃん」
はははっ……
「ちょっとからかって見ましょう、 私と鈴歌は、 先程の彼女、 フーリカさんの事も好きですよ」
!!
「つまり、 えっと、 七…… 八……?」
「それだけじゃない、 私はあの男の人、 日暮さん、 だったかしら、 結構好きよ、 鈴歌は?」
「えっ、 私は嫌い」
!
「じゃあ、 十…… でなくて、 えっと九……」
「彼は私達の事どう思ってるのかしら、 鈴歌の事好いているかも、 それなら星之助君も、 あとタケシにサトル、 小早川に、 タケシ…… はさっきも言ったから」
「彼らは皆鈴歌を好いていたわね、 私はあんまり好きじゃなかった…… そうだ、 両親の事は? 好きになれない?」
「他の子はどうかしら、 好きな子居そうよね、 そもそも、 お父様はお母様が好きで、 その逆も好きで……」
ちらり
「えっ、 えっと、 誰が、 タケシ…… が? えっと、 父、 が? え?」
敵は口をパクパクとして頭を悩ませている、 両手の指を曲げては伸ばし、 曲げては伸ばし……
「聞いても良い? 私達は今、 何角関係かしら?」
敵はドキリとした顔をして目を白黒させる、 その顔を見て桜初は笑う、 鈴歌も楽しくなって来た
「ね~ 教えてお兄さん、 好きならわかるよね? ……そんなに頭を抱えて分からない? 教えてあげよっか?」
何時もの、 人の脳髄をしびれされる甘い声、 遠太俱は手をビシッとこちらに向け、 静止する
「いや待て、 教えて貰わずとも分かるわ、 えっと…… う~ん」
……
敵が全く動かなくなる、 その間に開かれた仏壇、 『頂様』の御前へと赴く
「『頂様』お久しぶりです、 桜初、 共に鈴歌です、 いえ、 真にお姿を拝見するのは初めてで御座いましたね」
カタッ カタカタカタカタカタカタッ
仏壇の戸が揺れる、 開かれた戸の中には灯りも点って居らず暗闇であり、 まるで闇その物を祀って居るかの様な出で立ちである
その中で、 確かに闇が流動する
『っっっっっ……… っ…… っっ』
何やら声が聞こえる、 桜初がその声に耳を傾ける
『っっ、 っっっ…… っっ』
「……はい、 はい、 成程…… はい…… わかりました、 はい」
?
『頂様』と話をするのは桜初だ、 鈴歌には『頂様』の声が聴こえても、 理解は出来ない
「なんて?」
「二人が仲良くしていて嬉しいって、 鈴歌の姿を見れて嬉しいって」
え?
「良い神様だったの?」
「ふふっ、 私達はあの家での嫌な記憶ばかり有るけれど、 『頂様』がどんな神様かなんて知る術は無かったし」
ああ……
「ごめんなさい『頂様』、 私貴方のこと勘違いして……」
「それより、 敵を殺せ、 さっさと殺せ、 御前にて血祭りに上げろ! と、 『頂様』は仰っているわ」
……………………
「敵には容赦ないね……」
仏壇から顔を上げて敵を見る、 敵は頭を抱え、 あーでも無いこーでも無いとブツブツ呟いているが
暫くしてこちらを見る
………
「わかった! 俺の答えはいっぱいだっ! 沢山だっ!!」
おおおおおっ!!
「これで、 沢山角関係だ!! 俺の炎も沢山倍だァっ!!」
おおおおおおっ!!!
「この膨大な熱量を全て打ち出すっ!!」
全方向火炎放射、 炎と熱の破壊旋風
「ファイア・リーグリスッ…………」
ん?
鈴歌はその敵に届く様に、 精一杯届く様に声を出す、 鈴の音の様に、 天使の様な声で
「え~ お兄さん分からないの~ ざ~こ、 ざ~こ、 途中で諦めちゃうなんて……」
炎! 炎! 炎………………
ふふっ
「だっさ~い」
っ………
うっ…………………
鈴歌の甘い声は糖度の高い果汁のように脳に痺れる電撃のように、 そして、 高い湿気の様に振りほどいても絡みつく様に
遠太俱に響いた、 それは、 ここが、 彼女たちを守護し、 見守る存在の力も作用してかもしれない
うっ……
「うぐぅっ! ううっ!!」
ははっ
思わず笑う、 鈴歌も、 桜初も笑う、 何故ならっ
「ぅぅううっ! うわっぁぅっ!!!」
敵の顔、 思わずかけられた言葉に羞恥心が強く作用、 キメキメだった顔面を福笑の様に歪め顔を真っ赤に染めている
そして、 敵がもう間もなく打ち出す筈だった高出力の炎が……
ぼぉぉぉんっ!! しゅぅぅ…………
遠太俱自身の内側で小爆発を起こし、 空気の抜ける様な音を立てて熱が萎む
あははっ
「オーバーヒート、 能力は心に強い作用を受ける、 身の丈に合わない火力に対して、 それを扱う過程が不釣合いである時、 能力はその力を発揮できないっ!」
ははっ
「私、 さっき力を目覚めた所なのに、 それくらいは分かるよ~ お兄さん、 本当に、 お☆バ☆カ☆さんっ♪ だねっ」
うっ!
「うぅぅぅっ! ううっ……」
声にならない声を上げ続ける敵、 見逃さない、 常に硬直した敵の体が、 筋肉が、 羞恥心によって崩れる
その隙間、 逃さない、 徹底的に……
バンッ!!
打ち込む!!
「ふっ!! 行くよ桜初っ!」
しゃらん
錫杖を鈴歌の龍の腕に持ち帰る、 リーチの長い錫杖の柄を、 緩みきった敵の鳩尾、 中心に、 正確に
タンッ!
打ち付ける、 龍の激力で!!
っ
ドカァッンッ!!
グリュッ!
「うげぇあっ!?」
よしっ!
「ようやく、 攻撃が通ったねっ!」
すぅ……
白い肌、 桜初の手が、 打ち付けられた錫杖を滑り、 伸ばされた手が敵に触れる
ピタッ
「ふふっ、 ごめんあそばせっ、 華飾り・枝垂れ憐華」
ふっ
ふわんっ!
「っ!? 何だこれっ」
触れた敵の鳩尾から、 ふわり、 音を立てて、 長い茎を伸ばし花が咲く、 その花は撓垂れ、 力無く下を向く……
ミチミチっ
花の根が遠太俱の体の中を進み、 鳩尾から、 肋を通り抜け、 右の肺へとその根を強く絡めた
桜初は口元を手で覆う
「あら、 可哀想、 綺麗に咲いたのに、 この花はもう間もなく腐れ落ちる、 全く憐れ、 憐れな華……」
クシャリッ
花が一瞬の内に枯れ、 塵のように消えていく、 太く、 確かに穿たれた花の根も姿を消した
そうなれば……
「うっ、 ゲホッ、 ゲッ、 っ、 ホッ……」
遠太俱は突然苦しい咳に襲われる、 酷く、胸が痛い
「根が枯れて無くなったの、 貴方の肺に穴を残して、 そのまま無くなったのよ」
肺に、 穴……
っ
「ゴホッ、 ゲッホッ…… ああっ、 っぼ……」
苦しそう……
「憐れ」
だっ!
「だまっ、 れぇっ! っほっ、 あああっ、 ゲホッ」
ドサリッ
耐えきれず膝を付く敵、 良い高さ
すっ
鈴歌は龍の右手を開け、 掌を広げて高く構える
ずっと、 考えてた……
あの日、 モンスターが現れた日、 鈴歌は、 敵にビンタをした
あの非力なビンタが何故、 敵を怯ませるに至ったのか、 それは……
当たり所、 狙うは……
たっ!
深く踏み込む、 頬を叩くビンタを狙う距離から、 一歩更に踏み込む、 少し奥っ
「これは効くよっ! はぁっ!!」
耳、 狙うは耳、 強力な耳へのビンタっ!
バァアアアアンッ!!
龍の力で振るわれたそれ、 衝撃は、 骨に、 そして……
「うっ!? ああっ!?」
鼓膜、 三半規管の破壊
つた~
驚愕に染まる遠太俱の左耳からどろり、 血が伝い落ちる
ピタッ!
鈴歌の履く、 底の厚いブーツがグリップ音を響かせる
「せぃ、 らぁっ!!」
グイッ!
勢い良く持ち上がるブーツ、 その先端による蹴り上げ、 それは、 遠太俱のアゴに、 性格無慈悲に
カァーーンッ!!
打ち付けられた!
「ガッ!?」
ぐわんっ!!
脳ミソが大きく揺れる、 肺に空いた無数の穴が敵の胸を酷く痛め、 呼吸困難、 更に、 破壊された鼓膜は音の到着を遅らせ
破壊された三半規管が平衡感覚を失った所に、 顎から、 脳への一直線、 駆け抜けた衝撃により
「……………………………」
敵は意識を失った
……………………………………………………
………………
ボオンッ
『何で何度も何度も言わせるかなぁ! お前さ、 向いてないよ、 おまえ何が出来るんだよ』
俺には、 力が……
『図体ばっかデカくて、 それで何か凄くなったつもりか? お前は何もして無い、教えやるよ、 お前に出来る事何てひとつも無いんだよ、 馬鹿野郎!』
違う、 違う、 お前にな見えないのか、 俺の強さが、 俺の存在の圧が、 俺の燃えたぎる魂が
俺は、 俺は……
ドガッ!
『お前は人を殺した、 間違い無いな?』
何を……
『俺は殴っただけだ、 死んだのはあの男の勝手だろう』
警察官は頭を抱える
『お前が殴ったから死んだんだろうが』
何?
『殴ったら死ぬのか? 俺もか? お前もか? 試しに殴って見るか?』
遠太俱の罪は、 彼の全く意図しない所で大きくなっていく、 それも一重に、 彼の内側で肥大し、 肥えて行くそれが居るから
………………………
…………
ああああッ
「ああああああああああああっ!!!」
ビリリッ
「うるさっ、 何でまだ叫べるのっ……」
らああああああっ!!
「鈴歌、 敵を見て、 白目を向いて泡を吹いてる、 気絶してるのよ、 それでも」
ドガッ
動き出す、 胸の痛みも、 破壊された鼓膜と、 三半規管から苦し激しい目眩、 痺れる脳ミソ
それを、 肉体のダメージを、 全く超越し、 内側、 名もないそれが、 躍動する!
肥えた獣、 遠太俱の内側に巣くい、 彼を動かし、 仕留めた敵の肉を啜る、 彼の本質
その根源
内側の獣………………
「ギガアアアアアッ!!!」
えっ?
「鬼?」
メキメキッ
握り込まれた敵の拳が、 大きく引かれる
(……当たったら不味い)
タンッ
バックステップで距離を………
ブゥワアアァンッ!!
振るわれた拳、 その衝撃はが、 交わした筈の拳から放たれ、 肉体を穿つ
ぐちゃっ!
「うっ!? ああっ…… 痛い」
っ
「鈴歌っ、 大丈夫?」
うん……
「平気、 桜初じゃ受けれないもん、 私の、 龍の頑丈な肉体じゃ、 なきゃ…… うっ」
痛覚は鈴歌が受ける、 それは良いが、 当たっても無い拳の威力がこれ?
「馬鹿、 みたい……」
コボッ
敵の口から泡と同時に血が噴き出す、 確実にダメージは敵の肉体を大きく蝕んで居る
にも関わらず
ドシッ
悠々さを感じさせる、 立ち上がってみせる、 これは
「化け物ね、 言葉も感情も失った、 本当に理性のない獣、 もう終わらせて上げましょう」
「うん」
ガラァアアアアアッ!!
ダンッ!!
咆哮、 突進!
シャララランッ!
錫杖を回す、 鈴の音が闇に反響し溶けて行く、 闇に作用しやすい、 この錫杖は
「ていっ!」
シャラランッ!
ベジィンッ!!
突進する敵の側面から、 力強い叩きつけ、 遠太俱は、 横方向に飛びそうになる体を強く保ち、 更に踏み込んで飛ぶ!
バンッ!
「ラアアアアッ!!!」
ジャンプして、 落下攻撃による叩きつけ!
ドガアアアアンッ!!
「危なっ……」
ドスッ!
っ
お腹、 熱い………
「うげっ」
素早い二の手、 既に伸ばされた敵の拳は鈴歌の腹をかすめる、 危ない、 動きの連携でバックステップをしてなかったら直撃していた
っ!
追撃してくる敵
シャランッ!
「離れてっ!」
バシンッ!!
シャラランッ
「ていっ! はぁっ!!」
バンッ バシンッ!
グッ!
二撃、 撃たれてなお止まることを知らぬように敵は一歩踏み込んで……
スッ からんっ!
錫杖を敵の踏み込み、 踏んだ地面の間に差し込む、 そのままテコの原理を利用
「せいっ、 らぁっ!」
ぐわっ!
「がぁっ!?」
下ろした足が下方から勢い良く持ち上げられ、 敵は後ろに、 体制を崩す
ここ、 畳み掛ける!
シャララッ、 カランッ!!
「ふっ、 らぁっ!!」
大上段の振り上げ、 叩きつける
ガァンッ!!
シャランッ
錫杖を逆回転、 体を捻り敵の急所を目掛け、 錫杖の柄を叩きつける
股下、 そこに叩き付けられれば……
ドズッ!!
っ
「ガッ!!? アアアアアアッ!?」
痛みによる大絶叫、 それが確かに潰れる感覚がした、 仕方なし、 こんな声も出る
うふふっ
「あらら、 ごめんね」
タンッ!
軽い踏み込み、 白い手が今度は敵の横腹に触れ、 そのまま流れる様に下へ、 太ももまで触れる
「華飾り・憐華腐獄、 憐れに腐りおちろ」
バシュ!
ズボンを突き破って敵の脇腹あら太ももにかけ、 おぞましい色の花が幾つも飛び出す、 それらは一様に、 何やらドロッとした液を垂れ流し枯れた
ドロッ……
ジュワァッ…………
「っ!? アアアアッ!?」
酸の様に、 その液が触れた皮膚が腐食して行く、 それは外側だけでなく、 根を張った肉体の内側から
うううっ!
「ウガァッ!!」
それでもまだ……
「動きますか、 しぶとい」
ドガンッ!
強い敵の踏み込み、 一直線にこちらを捉えようと、 その伸ばされた大きな手が真っ直ぐ……
捉えられる瞬間、 正確に、 見て、 見て……
狙い通りだから
…………
ガチャッ
鈴歌のすぐ後ろに扉を大きく開けた仏壇、 その触れてはならない闇
遠太俱の鈴歌を捉えた右手は、 そのまま、 真っ直ぐ、 そうして
「遅いよ、 動きが」
既に大きなダメージをおっていた敵、 その本能的な攻撃は、 既に、 最初程の強さを有していない
満身創痍の攻撃を、 鈴歌は首を軽く捻って避ける
真っ直ぐ、 遠太俱の拳は、 開かれた仏壇の中へ、 闇の中へ、 吸い込まれた、 そのまま深く、 底なし沼に落ちる様に
ごぼっ ごぼぼっ
「アッ!? アアアッ!!」
鈴歌はすっとその場からどき、 少し距離を取って彼を見る
暴れれば暴れる程、 腕が深く、 深く闇の中へ、 『頂様』の中へ入っていく
「彼の命は闇だ、 あの空間の様に、 停滞し、 殆ど流れが無い、 無という名の闇が彼の内側」
内側が闇と言うのは、 少しだけ親近感が湧くと、 鈴歌は思った
「『頂様』が、 彼の内側の闇と繋がったようね、 闇の中では、 どれだけ深くても、 闇は逃げられない、 一輪の花が、 花畑から逃げ出せないのと同じ様に」
根と根が絡み合い、 その身を互いに固定し合う、 葉と葉が、 蔓と蔓が、 絡み合い、 その場に縫い付ける様に
「『頂様』は闇、 心が闇の物は、 取り込まれてしまう、 私や、 鈴歌や、 家族や、 信者達の様に、 でも大丈夫、 すぐに心地好くなるわ」
カラララッ
まるで、 音を立てて、 映写機が、 コマ送りで映像を流す様に、 闇の中の真暗いスクリーンが、 彼の人生を映し出す
………………………
ちりん ちりん
『……この子、 何だか可愛くないわね、 全然愛着が湧いてこない』
赤ん坊を見下ろし女性がつぶやく、 その顔はつまらなそうだ
『……よく似てるよお前に、 でも俺似じゃない、 お前、 もしかして』
は?
『何? 浮気でも疑ってるの?』
『別に、 まだ何も言ってないだろ、 それより、 …………………………』
親と思われる二人は、 赤ん坊をそっちのけで何処かへ言ってしまった
赤ん坊は強い子だった、 無防備であるのに、 本能を知らぬ様に、 泣かなかった、 親がいずとも、 暗闇でも、 大きな音も気にしない
『あんたはストレスが無くて本当にいい子ね、 あんたの弟はギャーギャー煩くて堪らないわ』
気がついたら母は、 彼の事を好く様になっていた
だが、 それも、 一時的な物だった、 そのまま、 停止してしまいそうだった、 彼の心は、 乾いていた
初めて疑問を持った日、 彼は躍動した、 まるでスポンジの様に、 好奇心を刺激した
積み木が、 作ろうとした物に対して数が足りなかった、 気がついた、 一つの積み木を、 二つにしてしまえば良い……
バギッ!!
簡単だ、 簡単
弟が、 自分の玩具を取った、 取り返すか
バコッ!
『えぇんっ! ええぇんっ』
簡単だ
『近寄んなよデブ、 お前キモイんだよ』
酷いことを言う
っ
バガンッ!!
『……ごめんなさいっ、 ごめん、 ごめんっ!』
簡単
『いや、 その、 私、 部活も忙しいし、 それに、 ほら、 君の事異性として見た事無いし、 他に好きな人が居るから…… だから、 じゃあね』
ビリビリビリッ
…………………………………
グググッ
………………………
………
『好き、 好き…… って言うから、 もう、 やめて……』
簡単
簡単簡単簡単簡単簡単簡単簡単簡単簡単簡単簡単簡単簡単簡単簡単簡単簡単簡単簡単簡単簡単簡単
俺にかかれば
『もういい加減にして! 何度人を傷付けたら気が済むの! お母さん、 何度も止めなさいって言たでしょ!』
『こんな事を、 警察沙汰にまでなって、 貴方、 自分がどれだけ悪い事をしたかわかって居るの?』
…………………?
『もう、 もう嫌、 貴方、 何なの、 変よ、 ずっと思ってた、 もう、 着いていけない』
?
何で? 怒ってるんだ? 俺はただ、 好きなことをしているだけ
みんなそうだろう、 学校の先生だって、 自分らしさを大切にして、 行きたいように生きれたら素敵だって言ってた
俺はただ、 そうやって生きてる
わがまま? それは皆もそうでしょ、 少し気に食わないと、 平気で悪口言って、 人の物取って、 必死に書いたラブレター破り捨てて
みんなわがまま、 なら、 俺もわがまま
皆同じだよ、 俺と同じ…………
カラララッ………
………………………………
…………
グッ
(……違う、 私もそうだった、 私なんかもっと酷い、 自分が人の上に立った気になって、 見下した)
鈴歌は、 『頂様』に触れられ、 映し出される、 遠太俱の過去、 彼という人間を見て唇を噛む
産まれた時から、 持っていて、 疑問を抱かず振りかざして……
それでも
(……私は弱かったから気が付けた、 私よりもずっと強い奴に気付かされた)
彼は、 気がつけなかった、 持たされた力が強すぎて、 見に宿した力が強すぎて、 彼は気がつけなかった
彼は………
シャランッ
「さあ、 鈴歌、 彼の背を錫杖でついて、 彼をもっと深く、 私達の力で、 『頂様』の中へと押し込むの」
さぁ
「握って、 叩きつけるのよ、 終わらせましょう」
グッ
タンッ タンッ
「ウガッ! ガアアアッ!?」
闇を恐れる、 自分の中の、 自身の命の灯火にすら照らされない、 彼の心が、 本能的に闇を恐れる
彼は……
「哀れだ、 身の丈に合わない力すら持って産まれなかったら、 もう少しだけ、 考える術を身につけていたら」
「もっと早い内に、 彼よりも強い人に、 彼が出会えて居たなら、 きっとこうはならなかったのに」
シャラリンッ
錫杖が手からするりと抜け落ち、 地面に転がる、 派手な音を立てて、 要らない
「鈴歌? どうしたの?」
「うん、 わかるはずよ、 桜初、 貴方にも、 貴方は私何だから、 でも見てて、 私だからこそ、 今の私だから出来る事がある」
タンッ タンッ
闇に鈴歌の足音が響く、 遠太俱のすぐ側まで……
「ガアッ!!」
ベシッ!
振りかざした手が当たる、 痛い、 でも、 そんなに痛くない
「もう、 こんなに弱ってる、 だから、 私は貴方が、 怖くない」
ぱしっ
鈴歌の手が、 遠太俱に触れる
(……ダメだよ、 理性を失った獣のまま死ぬなんてダメだ)
っ
「フレア・ドライグッ!!」
ジリリリリッ!
ボオオオオオオンッ!!!
発火、 ドラゴンの炎
それが、 遠太俱を包み込む!
「思い出して! 貴方は自分の闇を恐れた、 でも、 怖くても良い! それでも良いの!」
遠太俱は鈴歌の炎に焼かれ、 それでも彼女を見る
「私も最近まで知らなかった、 気づけなかった、 進むのを怖がって、 自分が立ち止まって居ると思ってた」
それでも、 私の過去は語った
「全ての方向に道は続いてる、 私達は、 一寸先が闇でも、 それでも進んでるの! 怖がりながら、 それでも、 確かに踏み出し続けて居るの!」
だって
「貴方は! 必死に照らそうとしたから、 炎、 発火能力だったんでしょ! 自分の中の膨大な闇を照らす為に、 だから貴方の炎はあんなにも強かった!」
ダメだ
「炎を忘れちゃダメだ! 怖がりながらでも進む事を止めちゃダメだ! 炎は貴方だ! 貴方にとって、 他の誰でもない、 あなた自身が……」
「光だっ!」
ああ………
あっ
今まで、 未だ嘗て、 こんなに言葉をかけてくれた人が居ただろうか、 いや、 居た筈だ
その言葉から耳を塞いで、 聞こえない振りを、 いや、 実際に聞こえなかった、 言葉は、 不安定で、 理解が難しい
心も同じ、 難解で、 それでも……
「綺麗だ……」
ふふっ
「当たり前でしょ、 誰に言ってんのよ」
遠太俱と目が合う
「天国か、 地獄かなら、 アンタは地獄に落ちる、 でも、 それは導かれるがままに進むからそこに着くってだけ」
「真っ直ぐ、 貴方自身の炎で、 暗くても、 怖くても、 進みなさい、 貴方にしか進めない道を、 死して前に進みなさい」
何だ…… 何だろう
分からない、 何も分からないのに、 ようやく初めて
分からないって事が分かった、 初めて、 分かりたいって思える
本心で、 もっと知りたい、 多くの事を、 今までの事を……
「女…… いや、 なんだったか」
「鈴歌、 天成鈴歌」
そうか……
「鈴歌、 これは本心だ、 俺はお前の事が知りたい、 お前が好きだ!」
ははっ
バンッ!
鈴歌は触れた彼の体を強く前へ押す、 彼の体は、 そのまま、 深い、 深い闇の中へ引きずり込まれていく
「お断りよ、 でも、 気持ちを真っ直ぐ伝える姿勢は、 嫌いじゃ無いわ」
既に彼の体も、 胴体も闇に呑まれた、 彼が最後に笑った様な、 怒った様な、 悲しんだ様な
きっと始めたする顔に言葉をかける
「じゃあね」
ふわんっ…………
バタンッ!!
『頂様』の、 仏壇の扉が大きな音を立てて独りでに閉まる
「終わったね」
「そうね」
うん
「お別れじゃ無いからね、 桜初、 貴方は私、 私の中に、 何時までも居てね」
「分かってる、 その代わり、 鈴歌、 貴方の光で、 これからも私を照らしてね」
うん
「またね」
……………………………………………
…………………………
………
気が付くと目を瞑っていた、 私の中の闇を見ていた、 いつもの事だ、 目を開ける、 光を見る、 色彩を見る
それが私の役割、 私は天成鈴歌だ
「ふぅ……」
目を開ければ、 そこは倉庫前の通路だ、 全て消えたと思った証明は、 元通り、 その光を淡く放って居る
終わった
「はぁ…… 疲れた」
敵はその姿事消えていた、 残されたのは、 まとわりつく暑さと、 破壊後のみ
タンッ タンッ
倉庫の中を覗く、 倒された棚は、 熱を受け変形し、 物がそこら中に散乱している
取り敢えず火事にはなって居ない、 あれが実物でなく、 能力による炎だったからかもしれない
能力の性質は、 本人の思いの性質、 あれは、 炎や、 熱よりも、 光だった
床に脱ぎ捨てられた彼の上着、 そう言えば上裸だったと思う、 それに触れる
ポトッ
何かが落ちる、 それはカードだ、 名刺の様な……
『ブラック・スモーカー』
「構成員、 遠太俱、 黒い、 煙…………」
……………………………
……………
……
ドガアアアアアアッ!!
!?
爆発音、 少し離れた所からだ、 何? 今度は何?
そもそも……
「フーリカさん達は、 元々なんの為に動き回っていたの、 何かが、 起こるの? いや、 もう既に……」
…………………………………………
………………………
…………
夢だった、 この日をどれだけ待ったか、 どれだけ夢想したか
あの日、 幼い頃、 雲を真っ直ぐ伸びる飛行機雲を、 長く尾を伸ばす龍なのだと勘違いした
あの日から、 俺はずっと求めていた……
「テンリ・サライ、 俺の姿形は、 陛廊頭石」
グリリリッ
これで………………
深くフードを被った細身の男は笑う、 ついに準備を完了した、 これで、あとはここを目指して奴らは来る
「雨録、 これでオーケーだ、 頼む」
スーツ姿の男はその声を聞いて、 もう一人、 隣に腰を下ろす男を見る
「うん、 良いよ、 雨録お願い」
「分かったよ、 これでどうして龍が来るのか知らないが、 まあ、 良いさ」
ふぅ……
「カーン・ゲルト」
そう呟くと、 突如として空間に黒い穴が開く、 そこは入口で、 出口、 異世界とのトンネル
「冥羅の能力、 テンリ・サライは、 変質の能力、 自分の肉体を、 全く別の物に変質させる能力」
そして……
「陛廊頭石と言うのは、 云わば神の資格…… かな?」
資格?
「前に話したろ? 龍と言うのは力を持っている、 龍を神と崇めるものも居る程に、 だが」
「神と、 龍は並ぶ程の力を持ったとして、 龍は神にはなれない、 なぜなら、 あれ、 陛廊頭石を持たないから、 神は、 陛廊頭石を持っているんだ」
だから
「龍達は、 あれが喉から手が出る程欲しいのさ、 力を持つ、 古の上位古龍達は、 それの匂いを感じよう物なら、 死に物狂いで取りに来る、 争奪戦だ」
ん?
「つまりね、 本命は空帝・智洞炎雷候だけど、 来る龍は一匹とは限らないよ…… ん?」
あらら
「もう来たよ、 さて、 一番のりは、 一体どいつかな……」
バサンッ!
羽ばたく音が確かに聞こえる、 近い、 空いた異世界へのトンネルを通り抜けて、 匂いにつられてそれはやってきた……
っ!
バアアアアアアリィンッ!!
!?
ガラスが割れる様な音がして、 能力によって産まれた小さなトンネルが大きく割れる、 空間にヒビが入り、 トンネルは更に肥大化
何が、 出てきた………
バザンッ!!
!?
ビジジジジッ
「初めて見る、 世界だな、 弱来の匂いのする、 弱い世界だ……」
あれは、 大きい、 旅客機程の大きさだ、 空港で悠然と停まって居る、 あれと同じほどのサイズが、羽をたなびかせて滞空している
これは、 やばい……
クンクンっ
「居た、 陛廊頭石、俺の力………」
…………………
バリッ!!
又しても空間を割る大きな音、 更に飛び出してきたもう一つの影が、 最初の龍を吹き飛ばす
「あああああっ!! 離せっ! 殺すぞぉ!!」
「俺のダァ!! 陛廊頭石は俺のォ!!」
これまた厄介そうな……
「曲刀龍と、 斬剣龍、 まあ、 真っ先に来るのは流石に速い龍だよね」
「……有名なのかい?」
ああ
その名の通り、 水を思わせる色の龍には、 その尾が曲刀、 太刀の様に研ぎ澄まされている
土煙の様な色の龍は、 身体中から無数の剣が飛び出したかのように棘だらけだ
「まだまだ来るよ、 雨録は先に離れてなよ、 巻き込まれなく無いでしょ?」
そうだね
「ナハト、 君は?」
「俺は、 冥羅を守るよ、 彼は囮だが、 本当に食わせてやる気は無い、 餌じゃ無いんだよ、 仲間だから」
そうか
「それじゃ、 また、 仲間が皆であの場所に戻れる様に祈って居るよ」
パリンッ
ナハトの能力で作られた石のような物を、 雨録は破壊する、 すると彼の体はその場から忽然と姿を消した、 便利な移動能力
さてと……
「早いもん勝ちダアアアアッ!!」
「仕方ない、 別に龍と戦いたい訳じゃ無いからね?」
勇者の称号をその身に宿した時、 ミクロノイズによって発現する能力とは、 更に別の、 勇者だけの、 固有能力が発現する
「永剣相想・ミクティカルソード」
シャインッ!
鋭い音を立てて、 光放つ、 一振の剣がナハトの手へと現れる
勇者の剣、 全てのモンスターに対して、 百二十パーセントの出力を放ち、 それを持つ者に絶大な力を与える
「偶には、 勇者らしく、 モンスター討伐に意気込むとしますかっ」
巨龍を眼前に、 剣持ち、 勇者は笑う、 その性質は常に……
「あははっ、 さぁ、 来い! 存分に殺り合おう!!」
血と闘争を求めている




