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第八十二話…… 『藍木山攻略戦・6』

庭先に咲く紫陽花に触れる、 その色彩に淡い昼間の光が反射して妙にくっきりと、 その輪郭を浮かび上がらせる


不意に気配を感じそちらを見る、 着物の女性が鬱陶しそうにこちらを見ている


「やっ、 いい気候だね、 でも何も現実時間と同じ時期の花を育てなくても良いんじゃないか? せっかくの心の中何だ」


着物の女性にそう話しかけると彼女はこちらをいまいましそうに睨み、 冷たく言い放つ


「話しかけないで、 文句が有るならさっさと出て行きなさい、 ここに来ていいのは日暮だけ……」



「我ももう既に彼だよ、 彼が取り込んだんだ、 切っても切れない関係、 我が居なければ日暮も今頃死んでるよ」


ちっ


着物の女性は舌打ちをする


「まあまあ、 怒らないでよ」



「貴方が日暮の邪魔をする様なら、 私は何を犠牲にしても貴方を消します」


あはは


「無理でしょ、 君には、 それに邪魔はしないよ、 逆、 我は日暮に協力するんだ」



「……何が目的なんです?」


そんなの決まってる


「我も連れて行って欲しいんだよ、 彼が望む終着点、 戦士が最後に行き着く地、 亜炎天あえんてんに」


はぁ……


「そんなにあの世に行きたかったら無駄に生きながらえずあのままお陀仏すれば良かったのに」



「それが出来なかったからここに居るんだよ、 日暮が我の力を使い、 我を喰らって自分へと変換した」


だが


「それでも消えなかった、 彼が自分自身だと思ってる肉体もあの骨も、 まだ半分は我のまま、 日暮は奪いきれなかった」



「往生際の悪い」


それは本当にそうだと思う、 が……


「だが、 日暮が死んだ時、 その時は本当に終わりさ、 彼の肉体が死んだ時、 ようやく本当に我も死ぬ」


そして……


「日暮が亜炎天を目指すと言うなら、 我もそこを目指し力を欲し強者として生きてきた、 我もそこに確実にたどり着く」


その為に


「我は日暮に協力するんだ、 さあ、 一緒に戦おう日暮! 最強の存在へと成るんだ!」



「それを日暮は望んでいる…… と?」


庭先で、 我は笑う


「力を望む者の多くは、 体外的な力、 第三者的要因としての力を望む、 他者から分け与えられた力とかね」


「だが、 違う、 与えられた力こそ無意味な物は無い、 力を求める者の多くが自身を無力だと思い込んでいる」


「無力な命等ありはしない、 そもそも力無くして生命は躍動しない、 力を求める者の多くは楽をする事ばかり考えている」


「力とは他者から与えられずともその地に生を受けた時、 既に自分の内に内包している物、 力とは外ではなく、 寧ろ常に自分の内側にある物だ」


紫陽花の蕾に触れ、 撫でると力強く開花する、 この動きこそ力だ


「生きる事に関する、 この生命を生かす力は全て、 自分の内にある、 力を望む者の多くは、 その事に気が付かない、 いや、 目を向けない!」


常に!


「外側にある自分で無い物にこそ力が宿っていると信じて疑わない! 自分は弱者であり、 周囲より劣っていると信じこもうとする!」


だがだがだがだがっ!


「それは違う! 力に強弱は確かに有る、 あって当然だっ、 ならば! 伸ばせば良い、 鍛えれば良い!」


「内側の力が周囲より劣って居ると感じるのは手を加えないからだ! 何もしてないからだ! 何故強くなろうと努力しない?」


いいや!


「それこそ! 最強の能力も最強の剣や魔法も鍛えたからこそ輝いている! ならば自分も輝いて見える程何故鍛えない? 何故弱いままであろうとする?」


まるで演劇でも行うように大きく広げた手、 そこに一瞬羽ばたく翼が見えた


「……一体あなたは何が言いたいんです?」



「日暮はそれを知っている、 だからこそ我の力を借りるので無く、 我から奪い我が物顔で使う、 それでいい」


それで良いのだ


「与えられるので無く、 奪うのならそれは自身の力、 にしてしまえばそれで良いのだ!」



「だから貴方は何を……」



「日暮は我を望んで居る訳じゃない、 気が付いたからこそ、 我を喰らい自分としたんだ」


あはは


「望む望まない等気にはしまい、 そういう次元じゃない、 戦いは日暮や我にとって生きる事その物」


「そして生死にも特段こだわらんて、 亜炎天という地にその心奪われた以上、 前だろうが後ろだろうが関係ない、 そこに向かって浸進むのみ」


逆に


「君こそ日暮にどうなって欲しいんだい? 君こそ何を望んでる?」


着物の女性はこちらを強く睨みつける


「日暮の望むままに……」



「嘘、 日暮は望んでないさ、 人との繋がりや、 捨てたはずの社会性等」


ちっ


「それは貴方が決める事じゃない、 勿論私でも無い、 それでも、 日暮が人を助け賞賛を受ける事は誇らしい事」



「鬱陶しいだろうね、 人は、 いや、 命は一人でも生きていける、 日暮はそれを理解してる、 彼が前進の一歩を踏み出した時点でこんな小さな世界に収まらない」


着物の女性と我は少しの間睨み合う、 そうして互いに目をそらす


「貴方との話は無駄だわ、 私達は分かり合う事は無いでしょう」



「それはそうだね、 それよりも…… 彼、 日暮、 結構追い詰められてるじゃん、 敵は中々強いみたいだよ」


それでも


「ちゃんと楽しめてるみたいだね明山日暮、 さあ、 自身に宿る力を使い敵を打ち倒せ、 我もまた一つの力、 何時でも利用しなさいよ、 あはは」


笑う、 笑う


…………………………



……………



……


明山日暮も笑う


「あははっ、 いいね、 それで行こう、 あのゴリラをぶっ殺す最高の作戦だな」


冬夜は心配そうな顔で言う


「いや、 確かにそうだけどこの作戦は一人一人負担が大きくなる、 本当に大丈夫か?」



「いやいや冬夜君も分かってるっしょ、 それが最適解だって、 現状適応強化されてない冬夜君の攻撃が一番の希望何だ」


敵のゴリラの能力は厄介だ、 色々と頭のこんがらがる様なめんどくせぇ効果はあれど、 結果的にこちらの動きに適応し、 強化してくる


それはこちらが反応できない程の速度で、 化け物威力で、 容易にこちらの上を行く


数度拳を交えただけで既に、 日暮も威鳴も、 威鳴の姉も、 動きを適応強化され、 既に歯が立たない


だが適応強化される前、 そこには数撃だが協力に叩き込める瞬間があるのだ、 そこで仕留めきれ損なったら本当に終わり


チャンスへの道は細い、 だが、 だからこそ良いのだ、 この緊張感が、 興奮が身を焦がす程楽しいのだ


そうと決まったら何時までも呑気する気はない、 敵は今も先程の位置、 静岩窟せいがんくつの前の広場に座している


あれは奴のメインとなる…… と考察される回復強化能力による再生をしている、 つまり休んでいるからと思われる


つまり奴があそこに座している内は先程の戦闘のダメージは癒えきって居ないと言うこと、 なら無駄に回復させてやる必要も無い


「行きましょう、 冬夜も頼んだぜ」



「お前もな日暮、 結局お前のバーストが決定打何だ」


そう言って軽く手を上げると、 冬夜も同じ様に返す、 よし……


「やるか」


そう言って日暮達は作戦通り、 自身の所定の位置に向かう


……………………………



……………



……


薮から顔を覗かせ敵を見る、 敵はそれに気がつく素振りもない、 大事なのは日暮の存在だ


日暮は今回どこまでも鈍直に、 自身の能力の強さを疑って止まない、 何度でも立ち向かおうとする、 馬鹿で無くてはならない


だから、 敵が回復中であり、 なおかつ背後から襲えば攻撃が通る!


と、 未知数な可能性に掛ける馬鹿を演じなくては行けない


はぁ…… 行くか


バカスカ殴られるんだろうな…………


「ブレイング・ブースト!!」


バンッ!!


地面を蹴って一瞬の内に日暮は敵に迫る、 いや、 絶対速いぜ俺の攻撃……


だが……


「無駄だっ!」


バシンッ!!


敵の能力は適応強化、 既にブーストの速度は理解している、 敵は容易にそのスピードに反応する


背後からの強襲にもかかわらず腕を後に回し日暮の体をわしずかみにする、 化け物握力


バキバキッ


(……ってぇ)


苦しいだが、 大切なのは適度な悲鳴と、 馬鹿正直な抗いだ


「いぎゃああああっ!!」


これでいい、 痛みの感じ方は心次第、 殺し方が決まってるんだ、 こいつを殺せると興奮してるんだ


ならこの程度の痛み


それに………


ピシッ……


「……馬鹿だ、 っ牙龍!!」



グジャアアアンッ!!


「ぅがあああああっ!?」


敵の掌が吹き飛んで血が溢れ出す、 良いね!


そもそも、 こちらが追いつけない速度で敵が移動しようが何しようが、 こうやって敵がこちらを自身の掌の中に握り潰して


ゼロ距離作ってくれたなら、 当たるも当たらねぇもねぇ!


日暮はナタの骨を伸ばし全身に巻き付けている、 これは溜められたエネルギーをかなり食うがまあ良い


敵は俺を掴んだ、 さっきも、 馬鹿の一つ覚えの様に、 そこにかけた、 さっきから弾くでも無く握り潰してぶん投げる事ばかりだったからそこにかけた!


敵は毬栗を素手で握ったような物だ、 そして、 大事なのはこの時間!


既に殆どを適応強化され、 敵は俺を容易に殺せると理解しているこの時間、 この作戦の初手で敵と戦う日暮


ここの時間を質の高い物に出来るかどうかは日暮の戦い方次第、 次行の威鳴姉弟ペアが敵に攻撃を仕掛けるのは日暮の状況を見てだ


それにも種類がある、 日暮がボコボコにされまくれば、 二人はどうしようもなく出てこざる得ない


だがそれじゃダメだ、 最適の最高の状況で二人のカードを切る……


いいや……


「俺を舐めやがってるからァ! 来いっ!クソでかいだけのゴリラァ!!」


ここで殺す、 俺一人の力で、 殺し切ると、 その気で戦え!


バシンッ!


敵の踏み込み、 その音をかろうじて耳にとらえた瞬間には敵を見失っている、 適応強化された動き、 日暮のブーストの速さに適応した動きは速すぎる……


ドガッ!!


音と衝撃、 硬く冷たい感覚、 泥が舞ったのを見て理解する、 岩だな、 敵は俺に触れるとナタの骨で削られると理解し無機物による衝突でダメージを与える事にした様だ


そういう所が単純なんだよテメェは……


ガッ!!


日暮が地面を踏み込んで衝撃に耐える、 岩でぶん殴られた衝撃に何とか耐える、 倒れたら畳み掛けられる


倒れない!


痛みも苦しみも全部、 全部忘れろ!


ああああああ!


「あはははははははっ!」


日暮は笑う、 速すぎる?


「ブレイング・ブースト・シンキング」


ぐわあああんっ…………………


シンキング、 日暮のこの能力は思考速度の加速だ、 思考速度を加速させることによって爆発的な演算能力を獲得


時間の針よりも速い思考速度により、 まるで世界が止まったようにすら感じる


そんな世界で、 敵の攻撃の起動、 筋肉の動きから次攻の予測、 回避方向等を割り出し動きの最適解を導き出す


見えた!


グッ!


握ったナタを敵が居るだろう背後へ……


「おらあっ!」


スカッ!


「外れだ! あまりにも遅い!!」


既に背後、 背後に居たはずの敵、 そちらに振り向くと更に敵は背後に……


やっぱりな……


ふっ……


どすっ!


日暮の後回し蹴りが敵に当たる、 さっきから背後に背後に、 こっちがてめぇの速度に追いつけない事を前提に単調な背後取りしかしてこない


日暮は敵が背後へと回る癖を利用しナタによる一閃を捨て振りにし、 切り替えで後ろ回し蹴りを放った


敵は驚いた様に一瞬静止、 こいつ馬鹿だな!


「牙龍っ!」


グシャッ!


「うあああっ!?」


足に巻き付いた骨が蹴りによって突き刺さり敵を喰らう


「適応強化は便利だが、 能力に頼りすぎ何だよ!」



ドスっ!


そう言った途端体にかかる膨大な圧力、 敵の拳がぶつかった、 本気で速すぎて突然ぶつかってくる力……


でも


(……覚悟なら既に決まってる!)


ピンチはチャンス、 全ての行動が百パーセント自分に有利に働く瞬間等ない、 敵が有利でも、 こっちに覚悟さえ有れば!


グシャッ!


「あはははっ、 馬鹿っ! 素手で殴ったら抉られる事を忘れたのかぁ!!」


敵が驚いて咄嗟に殴ってきた拳が日暮に接触、 体に巻いた骨に当り敵を喰う


こういう小さなダメージも、 こちらとしては敵の血肉を喰らってエネルギーに変換出来るからありがたい


敵は思い出したように足元の岩を掴み殴りかかってくる


「何故! なぜ貴様は倒れんのだ!」


普通てめぇの拳食らったら体がとんでもなく吹き飛ぶさ、 だからそこが覚悟何だ!


ナタの骨は本当に伸ばそうと思えばどんだけでも伸ばせるし曲げたり巻いたり自由自在


だがら……


(……足元から骨伸ばして地面にぶっ刺して固定してんだよ! 背中も大量に骨沿わして体が曲がらねぇ様にしてる!)


そんな事をすれば力が逃げずに衝撃が体をもろ襲うが……


「体なんて回復出来んだよ! てめぇもそうだろ!!」


迫ってくる大岩、 敵が振り上げた大岩が轟速で……


(……いや遅い、 こいつがどれだけ肉体を適応強化しようとも、 それはこいつの体だからだ)


適応強化はこつい自身にしかかからない、 持ち上げた大岩にはそれだけの空気抵抗も重力もかかる


遅い訳じゃないが、 まだ何とかなる!


ピンチはチャンス!


この敵の強みは本来適応強化した体でこちらの視界から逃れ続ける事、 だが真正面から向かってくるこいつ


どれだけ早かろうが、 インパクトの瞬間は触れるしか無い、 相手の方からこちらに触れるしかない!


大岩衝突、 その瞬間……


「ブレイング・ブラスト!!」


拳が膨らむ、 握られた拳の中に抑圧した空気、 それをパンチによる打撃と共にぶつける!


ブラストは拳、 点で衝突するバーストだ、 バーストの威力を一点特価でぶつける


リーチが腕の分しかないが、 当たりさえすればバーストの威力が、 そのまま衝突……


「おらあああっ!!」


バギイイインッ!!


小さな拳と巨石の衝突! だが、 その中に内包した高威力!


ブラストによる衝撃が、 敵の振り下ろした大岩の威力に勝る時、 敵の力すら利用して、 大岩に亀裂が走る


バギイイアイインッ!!


岩が割れ、 数百の石片に、 そのままの勢いで押され四方八方へ散る


それが敵を襲う!


ドガッ! バキッ!!


「うがああああっ!?」


日暮は笑う、 一時は無敵かと思った敵だが、 やり方さえ考えれば倒し方はある、 こいつは俺の速さには対応出来るが


飛び散る石の速さは適応強化出来ないから当たるんだな!


よし、 敵が怯んだ今!


メキメキッ


地面から木の音が生えてくる、 威鳴の姉の物だ、 気がつけば威鳴の姉は茂みから出て来て敵の背後に悠然と立っていた


バッ! 敵の踏み込みの音


敵は既にこの木の根の速さを適応し強化している、 だが……


「どうして思ったのかしら、 あの速度が私の本気だって」


にやりっ


バシバシバシッ!!!


「がっ!? この速さっ」


ドロっ


伸ばされた木の根が敵に巻き付く、 木の根には何やらドロドロとした物が塗りったくられている


甘い香り……


「地殻の果実・マダムア=ダッツ」


威鳴の声だ、 威鳴が木の根に触れている、 そこにまとわりつくドロドロの果実の汁に触れる


バキバキバキッ! バギィンッ!!


硬化、 地殻の果実は硬化の能力、 果汁を鋼の如きへと超硬化する能力


敵を縛り付ける木の根ごと超硬化、 敵は………


「ガッ!? 動けんっ!!」


いいね、 少なくともこの硬化の能力は敵が知らない、 適応強化する前の力だ


敵を完全に縫い止めた!


ザザッ!


薮を掻き分ける音がする、 そこから冬夜が出てきて掛けてくる


「っ、 もう1人いたのか!」


敵は驚いた顔をしている、 それはそうだろう、 何故なら冬夜の事は今初めて見た、 適応強化していない


この状況下にてこれは絶体絶命、 だが敵はある程度当たりをつける


(……先程側方から水が飛んできた、 つまり恐らく新手の青年の能力は水、 狙いは窒息だろう)


水を纏わせて溺れさせようと、 呼吸は生き物に取っての大事な行為、 適応云々を別にして窒息死ならば食らうのだろうと


だが……


(……大丈夫、 既に経験している、 窒息の苦しさも適応可能、 初めは苦しいが徐々に何も思わなくなる)


敵は笑う、 この木の根の硬化の硬さにも適応できる、 そうすれば破壊できる……


「……マリー、 貫け」


冬夜が短く呟く、 敵は知らない、 水は冬夜では無く冬夜の親友、 水の上マリーの力だ


そしてさっきの作戦会議の時にマリーはどこぞに行っていて姿が見えなかった


日暮は合点が行く


(……さっき敵を打った水の玉、 威鳴さんの炎を消したあれ、 あれが本体何だな)


水蒸気となったそれは密かに敵の体内へと侵入している、 それが勢いよく体外へと吹き出る!


ビッ ビシャアアアッ!!!! ビシャンッ!!


突如体内から体を貫かれる感覚、 敵の腹と、 脇、 首筋等血管の多い所を狙い、 分断した複数の貫きが襲う


「派手にぶち撒けて! あははっ」


ビシヤッ!


最後に出てきた水晶の様な石がそう冷たく言葉を言い放ってそのまま冬夜に向かう


水晶に離れた水が逆巻いてくっついて行く


「よし! タイミングバッチリだよマリー!」



「あ〜 やっと出れた猿の中は気持ち悪いよ~」


言葉を交わす二人、 よし、 これで良い!


日暮との戦いで気を引いていた所に威鳴姉弟ペアの強襲による縫い付け、 そしてそこに冬夜の姿を囮にした、 予備動作なしのマリーによる水の貫き


体に内側から穴を開けられ、 恐らく回復するとは言え血液の大量損失、 良い


ここで完全に落とす、 ボサっとするな、 更に狙え!


縫い付けられた敵に……


「オラァッ! 喰らえ牙龍!」


日暮がナタの刃を向かわせる、 敵は何とか反応しようと動く、 恐らく既に威鳴姉弟の拘束を適応強化で抜け出すだろう


だが……


冬夜が敵に手を向ける


「逃がさない、 陰陽術・白日はくじつ脆雫魂もろなたましい


ぐわぁんっ


術を唱える冬夜、 冬夜は陰陽師の家系だ、 彼の力が発動し何かが溢れ出たように、 空気の流れを感じる


どっくんっ


「うっ、 うあっ……」


突如敵が喚く


「掴んだ、 敵の魂の形、 敵の魂を縫い止める! 陰陽術・宵糸今尺よいしこんじゃく!」


バシュバシャバシュッ!!


冬夜から出てた黒い糸が敵の肉体をすり抜け、 そこに確かにある何かを掴む


よし止まった


日暮のナタが振るわれる


ビジャアアンッ! ビシャッ!! ビシャアッン!!


敵を喰らって力を削いだ、 ここで確実に当てる、 8秒たったぜ!


パシッ!


掌で敵に触れる、 マリーが貫いて大穴が空いた敵の腹にだ、 掌と触れた敵の肉体の間で空気圧が膨らむ


「ブレイング・バースト!!」


ボワッ!!


空気圧が逃げ場を見つけた様に敵の傷口から侵入し、 敵の体が膨張……



グジャアアアアアアアンッ!!!!


「ぅがああああああっ!?」


吹き飛んだ!


「あはははっ、 死に際が派手なのは良いよなぁ!」


敵の体はバーストの威力により上下に引き裂かれる様にズタボロに吹き飛んだ、 日暮が繋いで、 威鳴姉弟が敵を止め、 冬夜とマリーの新戦力によって敵を壊止


最後に日暮の能力で仕上げ、 血肉をぶち撒け死に絶える敵の体を見下ろし日暮は思う


(……俺一人じゃ勝てない、 誰か一人が欠けていてら足りなかった)


だが確かに打ち倒した敵を前に、 その更に先に待つ敵、 猿帝の事を考える


この勝利の波は決して消えない、 このまま猿帝の元までたどり着き、 必ず奴の命を取る


このまま進め………………


……………


この時日暮は、 彼にしては珍しく、 倒した敵の事をすぐに頭から追い出し、 勝利の余韻に浸ることも無く


それはちらちらと浮かんでくる大切な人の顔、 皆の未来がかかった藍木山攻略戦を勝利する為か


敵に背を向け前へと進み出していた………


……………………………



……………


「……克服したぞ、 貴様らの全攻撃を適応したぞ、 もう貴様らで私には勝てん」



背後から聞こえた声


ガシッ


力強く大きい何かが日暮の背後から伸ばされ、 日暮の頭を掴んだ


グルッ バキッ!


手だ大きな手、 それを捻るとその手に大してはあまりに小さい日暮の首は簡単に可動域を外れ、 折れた



ドサッ


???


日暮は自分が倒れたと自覚する前にその意識を失っていた


……


「日暮っ!」


敵、 敵が生きてやがった、 どうしてこんな姿で生きていられる?


冬夜は焦った、 日暮にはナタによる回復があるので大丈夫だとは思うが、 それより敵は……


「無様な物だ、 猿帝血族最後の能力者ノウムテラスとして我らが猿帝に報いる戦いをするはずだったが、 私の負けだ」


敵の吹き飛んだ下側、 下半身が地面に転がり大量の血を吹き出し続けている


そして、 上半身が立ち上がったのだ、 奴は上半身だけで立ち上がって日暮を殺した


何だ? 生命力が強い? 何故死なない?


まさか……


「胴体を真っ二つにされたのは初めてだ、 膨大な死のインスピレーションだった、 だが、 それも適応、 強化した」



「どれだけ切り飛ばされようがその状況に対し適応強化すれば、 情報が更新され私は死ぬ事はない」


「そして私の真の能力は回復強化、 時間はかかるが回復可能、 この真っ二つの体もくっつくと理解している」


こいつ……


「じゃあどうやったら死ぬんだよっ」


悪態をつきながら冬夜は手を向ける、 その手が光る、 その動きに追随しマリーも敵に向かう


威鳴姉弟も次の行動に既に移っている、 とにかく敵を倒す、 何か方法が……


「無駄だっ!」


だっ!


敵の踏み込み、 の後に


ドカッ!!


衝撃!


「うがあっ!!」


殴られっ……


これが適応強化した敵の速さか……


冬夜は気が付けば浮遊感の中意識が混濁としていた、 一瞬で敵を見失い、 次の瞬間には衝撃と浮いた体


(……日暮の奴、 適応強化された後でもあの大立ち回り、 やっぱあいつ凄いよ、 俺は日暮の様にはなれない)


ドサッ!


地面に打ち付けられ村宿冬夜はぼやけた視界の中で親友のマリーがこちらに向かって来るのをかろうじて見た後に意識を失った


………………


「冬夜っ!」


冬夜に向かっていく水の少女マリー、 それを横目に威鳴は、 姉の伸ばした果汁の着いた木の根に触れ硬質化させる


歯が手のごとき超速の木の根の鞭が敵に触れ……


バッン!


「遅いわッ!」


ドスっ!


っ!?


敵が姉貴の体をぶん殴る、 さっき敵は姉貴を殴ってその強固さにより自身の拳を破壊していた


だが


「うっ!?」


その姉貴の体が吹き飛んでいく


「姉貴っ」


バッ!


「しねぇい!!」


ドガッ!!


っ!?


速すぎる、 全く見えない速度で殴られた、 威鳴の体も吹き飛んで、 威鳴は一瞬にして意識を奪われた


マリーは人知れず冬夜の体を藪の中へと隠す、 威鳴の姉も威鳴を木の根で引き隠れた


「ふぅ、 負けを悟り逃げ出すか、 笑いはせん、 お前たちは確かに俺に勝っていた、 普通であれば死んでいた命」


「能力により助かったとはいえ貴様らの絶え間ない攻撃、 正直焦った、 その様は天晴」


敵、 真鋼濵等瀧しんこうはまらだきはただ一つ、 首が折れ地面にゴミのように捨てられた遺体、 明山日暮を見下ろす


「名前も聞いていなかったな、 貴様が一番強かった、 そして貴様も回復能力があるのだろう」


「であれば油断せず肉体をバラバラに解体するとしよう、 そうでなくてはあんしんできぬ」


敵は日暮に手を伸ばす、 その細い腕を、 足を……


バキッ ベキッ!


折って壊して行く、 悲鳴すらもれない、 確実に死んでいる、 それでも執拗に


ボキッ! ベキッ!


何度も折り曲げた針金の様に、 決してもう一度真っ直ぐに戻る事は無い程にイタズラに破壊された体


「はぁ、 さて、 行くか」


逃げた二組、 果たしてどちらから追うべきか?


真鋼濵等瀧は歩き出す、 死んで行った同胞の為、 猿帝血族の未来の為、 そして我らが猿帝の為


まさに先程の日暮の様に、 進むべき未来の為に、 これから掴むこの世界の事を考えていた


…………


灯台もと暗し、 遥先を照らす灯台の光は、 自身の足元を照らせない、 人も、 猿帝血族だろうがそうだ


未来を見る生き物として理解しなくてはならない、 生きているのは今なのだと


未来を見渡すという事は、 今を生きる、 今の世界、 今の自分を一時的に目を向けないという事


群れを成す上で、 その群れの上に立つ物として、 確かに未来を見る事は大切だ


だが力を持っているのは今だ、 既にすぎた過去では無く、 未だ確定して居ない未来では無く、 力を宿して居るのは今だ


そして、 その事実に気が付き、 その上、 その命をただ一つの個体で生きる者は力ある今だけを見ている


そんな存在が居るのなら、 その命はとてつもなく強い


………………………………………



……………


「……あの地へたどり着く為だ、 日暮、 我の力が欲しいと言うなら手を貸そう、 共にたどり着こう、 亜炎天へ」


…………………………………



……………


声、 声が聞こえた、 明山日暮の声


「ちっ! まだ生きていたかっ…… !?」


日暮へと振り向く真鋼濵等瀧、 だが、 そこにある筈の死体が見つからない、 痕跡はある、 だがどこだ? 何処へ行った?


バサッ バサッ


微かな羽音が聞こえ、 曇り空から零れる光が地面に薄らと影を作る


真鋼濵等瀧は上を見る………


「久しいね、 美しい世界、 一度我が死んだこの世界、 美味い空気だ」


人影があった、 翼が生えている、 対の翼だ、 表情は見えない、 骨の様な材質でできた面を被っている、 鳥面だ


手には重圧な刃、 明山日暮のナタが握られている、 やはり、 やはり、 あいつは明山日暮だ


風変わりな格好になったが明山日暮っ


なのに……


真鋼濵等瀧の能力、 骨巧強鎧凙こったくじだいだくの適応強化は敵の動きの速度や出力を知る事で、 常にその動きの上を行く動きをする事で敵を圧倒する


そして、 これは背後からの攻撃や、 意識外からの動きにも大きく作用し、 攻撃の瞬間に僅かな感覚で敵の殺気を感知する様な効果がある


だからこそ日暮が何度も背後からブーストの速度で向かってきたがそれに対応出来たのだ


なのに、 なのに……


あれは明山日暮の筈なのに、 気が付かなかった、 奴が姿を変えたのも、 飛び立つ動作をしたのも気が付かなかった


お前は一体………


「お前は一体何者だっ!!」


空を悠然と飛ぶ明山日暮、 羽ばたく羽音に掻き消されない、 確かに実感を持って響く言葉が聞こえた


「我か? 我は明山日暮だ、 だが、 あえて以前の名前を言うのなら、 我の名前は……」


暗低公狼狽あんていこうろうばい、 有名な呼ばれ方をするなら、 族帝殺し、 だ」


ゾクッ


真鋼濵等瀧はその名を聞いて背筋が凍りそうになる、 猿帝血族に語り継がれる禁忌、 触れてはならない敵


上空の敵、 暗低公狼狽は、 現猿帝の父であり、 前猿帝……


真鋼濵等瀧が戦士として初めて仕えた存在であり、 猿帝血族の希望の柱であった人を


殺した敵だった


あの時はまだ戦士として未熟であり、 怯んだ自分の前で前猿帝はこいつに無惨に殺された


だが、 今なら、 能力を手に入れた今ならば………


「族帝殺し・暗低公狼狽! 貴様を殺すっ!!」



「あははっ、 やってれば良いさ! 久しぶりの戦いだせいぜい我を楽しませろよ猿帝血族っ!!」


同じ世界出身であるふたつの生命の決着が、 異なる世界にて始まる、 上空には渦が巻いた様な風が吹いていた

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