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第八十話…… 『藍木山攻略戦・4』

空を見上げれば、 今にも落ちてきそうなどんよりとした曇り空がそこにはあった


まるで私の心を表したような、 そんな空……


はぁ………


「……大丈夫でしょうか、 日暮さん」


目を瞑れば数日前のやり取りが思い起こされる


……………


『私も行きます! 藍木山の戦い、 私も参加します!』



『……却下』


そう言って短く私の意見を跳ね除けた日暮さんは少しだけ申し訳なさそうな顔をしていた


『私も戦えますよ、 日暮さんの隣で、 それに、 隣で私を守ってくれるって! 一緒に歩んでくれるって! やっ、 約束を違えるつもりですか?』


自分でも声が震えていた、 彼に関してはそんな事を全く思って居ない事は理解出来る、 彼の全てを知って居るから


実際に私は戦いにおいてど素人の足手まといであり、 これは私のわがままにすぎない事は分かっている、 それでも……


『わかってる、 フーリカ、 お前は頼りになるよ、 だからだ、 俺のできない事、 家族を守ってくれないか? それに雪ちゃんも見張っててくれるだろ?』


藍木山攻略戦において戦闘員の殆どが藍木山に乗り込む事になる、 そうなるとシェルターの警備はざるになってしまう


加えて数日前の深谷離井みやはないの企てた襲撃によりシェルター自身も損壊が出ており防衛に際して不十分なのだ


そんな状態で希望の光になったのは私の能力、 バインダー・コネクト


一つの物として完成している物に強制的に接点を作り出し、 異なる二つの物としての認識を与え分つ能力


また、 その逆も可能であり、 本来触れる事すら出来ない物同士を、 一つの物としての定義を与え接点を作り出す


藍木シェルターと甘樹シェルターを扉と言う境界を利用し、 二つの離れた空間に接点を作り出し繋げた


これを見て日暮さんが『どこ○もドアーみたいだ』と言っていたが多分似た様なものだと思う


何にせよ、 そうする事で藍木シェルターの避難者の方達を、 甘樹シェルターへと避難させる事が出来たのだ


つまり、 藍木シェルターに避難している日暮さんの家族や、 戦闘員ではもちろん無い魔王の卵、 雪ちゃんも甘樹シェルターに居ることになる


日暮さんの家族はとても優しくいい人でいきなり来た私にとても良くしてくれている、 私自身そんな皆さんの事が早くも好きになっている


それに日暮さんとした約束の話を出すなら、 確かに私は魔王の卵である雪ちゃんを見張るという事になっている


なっているのだが………


『隣で戦うんじゃなくて、 背中は任せたって奴だよ、 俺の手が届かない所をお前に任せる、 一緒に戦おうぜ』


ずるい……


そんな言葉を恥ずかしげもなく平気で言ってのけるのに、 嘘では無いけれど、 気持ちも無い、 彼の言葉はその時その時で繕った様に話すのがとてもずるい


……………


結局私は甘樹シェルターでこうして窓から外を眺めている、 今、 日暮さん達が敵の根城で戦って居る事を思うと胸が苦しい……


たんっ たんっ


後ろから足音がして振り向く、 そこにはすらっとした線の細い美人の女性が居た、 長い黒髪はよく手入れされて居るように淡い光沢を放って居る


この人とは以前あった事がある、 確か日暮さんの知り合いの……


「……菜代望野なしろののさんでしたか、 お久しぶりです」


そう丁寧に挨拶をする、 だが不意に日暮さんと仲の良さそうに話していた彼女を思い出し声が固くなったかもしれない


だがそんな事を気にした素振りも見せず菜代はこちらに微笑みかけてくる、 とても優しく慈悲深い


「えぇ、 フーリカさんだったかしら? どうしたの? 凄く落ち込んで居る様に見えるけど」


そんなに分かりやすかったか……


「はぁ…… まあ、 その、 ……日暮さん……、 達の事が心配で、 今も戦って居るんだと思うと……」


菜代は窓の外を眺める私の隣に来て白い壁に背中を付けて頷く


「わかる、 だって彼、 凄く無理をする人だから」


彼と言うのは日暮の事だろう、 限定的な物言いを避け、 達、 とつけ加えた自分とは違い、 彼女はただ一人を心配しているのだ


そう思って思わず奥歯を噛んだ


少し、 沈黙が流れる……


「あっ…… あの、 菜代さんは、 その…… あの………………」


沈黙に絶えれず声を出したは良い物の、 何が言いたいんだったか、 いや、 そんな事を言ってもいいのかと悩み言葉に詰まる


そんな私を菜代は注意深く覗くように見ると、 またしても微笑んだ口を開いた


「私が日暮君の事をどう思っているのか? かしら?」



どくんどくんどくん………


確信をつかれ思わず悲鳴をあげる所だった、 図星をつかれた私を落ち着かせる様に彼女は少し間を開けて更に言葉紡いだ


「単純に心配になるの、 お人好しなんて人は私の事を言うけれど、 それは違う、 どれだけカッコつけても本当は弱くて、 失うのが怖いの」


何処までも人間らしい答えに私は驚いた、 彼女は何処か人と線を引いている様に見えたが、 本当は不器用なだけなのかもしれない


「優しさ…… ですか? 私には無いものです、 不快に思いましたよね? 私の事めんどくさいって……」



「ふふっ、 ちょっとね、 でも私は結構好きよ貴方みたいな娘、 彼にも必要だわ、 彼が人として生きる道を捨てない限りね」


………………


「……そんな事、 無いです、 日暮さんは、 私の事を特別視してる訳じゃ無いですよ、 私は日暮さんにとって居ても居なくても……」



「それは本当にそう思っているの?」


………………………………


「いいえ、 私のわがままです、 もっと私の事を見て欲しい、 ……私の事どう思ってるんだろう?」



「はぁ…… めんどくさい娘ね、 そんなの本人に直接聞いてみなさい、 そうしない事には何も始まらないわよ」


人の気持ちを知るには、 先ずは自分の気持ちを伝えなくては行けない


「だから信じて待ちましょう、 無事に帰って来る事を」


……


「そうですね、 そうします」


相変わらず晴れない曇り空の様な顔でそういうフーリカに菜代はやれやれと言った感じで首をすくめた


窓から眺める景色、 その遠く、 離れた場所で戦って居る、 繋がっている空気も、 空も


その先で彼は今確かに………


…………………………………



…………………



………


ちっ


シャアアアアンッ!!



「っぶねっ!」


鈍い金属色が光を反射し振り切られる、 サーベル、 刃の形状はサーベルに近い


だが


シャアアアンッ! シャインッ! シュンッ!!


独特な風きり音だ、 大きさに見合わず軽さがあるが、 先程木の枝が触れた途端切断されたのを見て確かな切断効果を宿している理解している


「オラジャアッ! じゃハハハッ! どうしたァ! 避けてばっかじゃ戦いにならんぞぉ、 明山日暮ぇ!!」


ちっ


わかってらァ、 こっちは準備してたんだよ!


八秒!


「ブレイング・バースト!!」


圧縮された空気が指定方向へと打ち出される、 それは敵の足元


「ははっ、 ハズレぇ!」


ドガアアンッ!!


空気圧は衝突した地面を大きくえぐり、 地面が揺れる、 敵はそれを容易に避けるが……


バキバキバキ……


大きな音を立てて付近にあった木が傾ぐ、 地面を穿ち、 その木の根元を大きく抉り飛ばしたからだ


大きな木が敵、 猿帝血族殺戮係、 千里の邪馬蘭やばらに向かい倒れていく


「じゃまぁクセェ!! らァ!!」


びしゃあっ!!


邪馬蘭が左腕を振るうとそこから多量の血液が飛び散り、 倒れる木にべったりと着く


邪馬蘭の能力は、 自身の血液を爆発させる能力、 ド派手に音を立てて吹き飛ばす力の威力は一撃でもくらえば体が吹き飛ぶ程の能力


日暮と同じタイプの一撃特価型、 能力名を………


昂血晟叙こうけつじょうじょ・壱ノ番・烈玦爆朱尽れっけつばくじゅつ


ボっ!


高音に沸騰する様に、 体積を増し膨れ上がるように、 赤いおどろおどろしい光を放ち……



ドガアアアアアアアンッ!!!!


爆発!


バギギギギッ!


倒れてきた木は大きく弾き飛び粉々に吹き飛ぶ、 破片が幾千にも散り舞い上がった煙、 それが晴れる時には日暮は邪馬蘭の死角へと移動する


邪馬蘭は感覚を研ぎ澄まし日暮の位置を探すが………


ふっ


日暮は邪馬蘭の頭上、 木の上から敵に向けて飛び降りる、 能力で地面を抉り木の根を破壊した際敵の視界から逃れつつ倒れる木を蹴って別の木に飛び移ってていたのだ


だからそのまま…………


おっらぁ! ……


ぐわんっ!


敵がこちらを向く


「上かァ!! ラァ!」



「げっ!? なんで気が付くんだよっ」


こちらの落下に合わせてサーベル形の刃を振るう、 天性の感覚によるカウンター


……


だが………


ピタっ!


シュンッ!


首を狙ったであろう刃は日暮の鼻先をカスめるに留まる、 自由落下していた日暮の体が突如ピタリと制止したからだ


驚く邪馬蘭、 サーベルを振り切った体制の悪い敵に向けて日暮は予め引かれた右手から最速の突きを放つ


「おらァ!」


ヒュンッ!


ビシャッ!


「っ!? くそっ、 なんでてめぇ…… 枝?」


日暮の右手に握られているのはナタでは無く先端を鋭利に尖らせた頑丈な木の枝であった、 それが敵の頬を掠める


(……眼球を狙ったけどそらされたな)


だが……


「はっ! テメェのナタは一体どこ行った……」


敵の焦る声、 笑う日暮………


敵の背後に迫る重圧な刃!


グシャアアンッ!


「うがァ!?」


敵の背後から突如として襲う刃、 追いつかない状況理解


なぜナタは背後から向かってきたのか? 何故日暮は空中で制止したのか、 なぜ……


……邪馬蘭は見た、 日暮の体を何かが釣って持ち上げている、 その何かは日暮が飛び降りた木の枝に巻き付いてそのまま反対にも伸びている


そしてその伸びている何かの先端にナタが着いている、 これは骨?


「あははっ、 これはてめぇに見せて無かったな! 俺のナタに巻きついた骨は伸びるんだぜ!」


骨が巻き付き歪に形を変えた日暮のナタ、 その巻きついた骨は始まりの戦いで日暮が下した強者、 暗低公狼狽あんていこうろうばいの骨だ


奴の体細胞は取り込んだ物を百パーセント分解しエネルギーに変換、 それを使い自身の肉体に還元する事で欠損した部位を回復出来る


そしてナタに巻きついた骨をそのエネルギーを使い伸縮する事によって今の日暮の状況も作り出せる


そして忘れんな! もう八秒たったぜ!


日暮の能力、 ブレイング・バーストは単発高火力型の能力で、 超強力である代わりに連続では使えない、 必ず八秒のクールタイムが発生する


そして敵の能力も日暮と同じタイプの能力、 敵にも八秒のクールタイム型必要な事は前回の戦いで知っている


先程こちらが能力を打ってから、 相手が能力を放つまで四秒は間があったはず、 つまり敵は能力を発動するまでにあと数秒ある……


至近距離、 ここなら当たる!


「ブレイング・バースト!!」


圧縮された空気が敵にぶつかる、 その威力、 敵が遠くまで吹き飛ぶ……


いや……


吹き飛んで斜面の下へと落ちていく敵、 だが……


「ちっ、 あいつ土壇場で自分から下へと飛んだな、 諸に食らうのを避けたな、 手応えが弱かった」


とはいえ無傷では無いはずだが……


ん?


「やべ、 敵見失った」


ナタを手元に戻しつつ地面へと着地、 しかしその間に落下していった敵を見失った、 どこいった? って言うか


「アイツらの土色の体毛、 この山の中で見失いずらい……」


ガサガサ……


不意に草を掻き分ける音がしてそちらを振り向く


「ギャアッ!?」


猿型モンスター、 シェルター付近でもよく見る知性の低そうな奴らだ、 そうかここは猿帝血族のコロニー、 別に不思議じゃない


とはいえ、 今遭遇するのは面倒なんだけど……


ボコっ!


放置する考えを捨て素早く殺そうと考え動き出そうとした日暮は見た


突如猿型モンスターの腹が膨れた、 てらてらと赤く膨れ上がって居る、 まるでつつけば爆散するかの様な……


「ギャアアアッ!!」


猿型モンスターはこちらを見つけるなり駆け出して居る、 何かまずい……


「っ、 こっち来んじゃねぇ!」


日暮は敵から逃げる様に一本の木へと駆け出し三点飛びでジャンプ、 枝に手を伸ばす


「牙龍!」


ナタの骨が伸びて枝に巻き付くと体を持ち上げる、 枝にしっかり掴まりつつ猿型モンスターを見る……


「ギッ!? っ、 ギギャアアアアッ!!」


突如発狂、 日暮が枝に掴まって居る木の幹に膨れた腹を押し当てる


おいおい本当に……


「ギィギギャアアアッ!!」


ドガアアアアアアアンッ!!


悲鳴と共に爆散!


ベギッベギッ!!


「おっわ、 まじか……」


掴まって居た木が幹から吹き飛んで音を立てて倒れ出す、 設置型の爆散能力? エグすぎる……


敵は何処だ……


倒れる木から手を離し地面へと飛ぶ、 地面へと足がつく瞬間、 風上である後方から微かに鉄臭い、 血の匂い火がした



スタッ


地面に足が付く、 その瞬間、 温い温度がベタりと肌にくっ付いた様に感じて


ぐっ!


圧迫される様に、 押し出される様に、 それは認識が追いつく頃には高圧に、 威力を伴って日暮の背中を押し飛ばした


「うわっ!?」


体制が悪かった事もあり背を強く押されたたらを踏んだまま、 更に押され……


ガツンっ!!


「うげっ!?」


顔面から正面にあった木にぶつかる、 ペリきと音を立てて鼻の骨が折れた音が聞こえた


痛みと共に高圧で背中を押した何か、 それの存在をじっとりと服が肌に張り付く感覚で理解する、 それはぬるま湯の様な……


真っ赤


「血っ!?」


背後を振り返るとそこには邪馬蘭が左腕をこちらに向けていて、 そこから血が大量に吹きでている


この間の戦闘で起死回生の一撃を日暮によって食らわされ、 邪馬蘭は左腕を肘程から失っている


だがその傷口は未だ癒えず生々しい断面が見える……


まさか……


邪馬蘭がこちらに標準を合わせる様に右手で抑えた左手の断面をこちらに向ける


まさか今の俺の背を強く押した、 高圧放水は……


背中に触れるとべったりと血が着いていると知った、 おいおい嘘だろ……


ばっ!


やばい、 そう思い日暮は思巡より先に駆け出す、 敵はそれを追い掛けるように腕の断面を追い向ける


邪馬蘭が笑う


「昂血晟叙・四ノ番・庄烝涉砢浙じょうじょうしょうらせつ!!」


びしゃっ ぶしゃ……


敵の傷口の断面が疼き血を吹き出す、 それは圧縮され噴出する血管を絞る事により威力を持って吹き出す


バジャアアアアアアアンッ!!


「えっ」


ドガッ! ガッ!!


消防車の放水の様な物だ、 あれも万が一体に受けると打撲の様な怪我をすると言う


実際日暮を追う軌道上に生えている木が触れると同時に瞬く間に樹皮をえぐられ傷を付けられている


日暮も先程背中に食らった際に息が止まる程だったが、 明らかな外傷を伴う訳では無い、 だがくらえば威力に押され立っては居られないだろう


「オラオラ! まだ逃げんのがァ! じゃハハッ! 何とかしてミィ!」


(……くっそ! 木の影に隠れるしかねぇ!)


日暮は近くの木の影に隠れる、 そもそも奴の能力は血液を使った物、 これだけの血液を打ち出しておいて体が只では済まないだろう


バキバキバキ!


木の幹が削れていく音がする、 まだか? まだ奴の血液は底を付かないのか?


………………


「ん?」


いやそもそも、 血液は体にとって不足してはならない物、 少量の血液を失うだけで人は朦朧とするんだ……


バギギギッ!! バギンッ!!


「ゃっべ!」


木が削られ完全に破壊される、 幹から折れて音を立てて傾き始めた


おいおい!


「どんだけ血液あんだよ!! 底なしの血液かよ!!」


スタッ


一瞬かがんで小石を拾う、 小石を握って日暮は問う


「タイミングは!」


すると日暮の内側で無意識的に何かを受信し拾う……


三…… 二……



ここ!


「ブレイング・ブースト!!」


投擲した小石が超加速する、 小石は吸い込まれる様に敵へと向かっていく


「っ、 おっと、 流石に早いのぉ」


避けられた、 でも止まったな、 一度止めてしまえばそこから八秒か?


くっそ、 避ける為とは言え標的にされずらいよう斜面を下りつつ避けたので、 敵に近づくには登らなくちゃ行けない


だが敵が遠距離対応の攻撃を持っているなら呑気に近づく事は出来ない、 だったら……


そろそろ八秒……


踏み込む方を意識するこちらの能力発動の一秒後位が敵のクールタイムの終了時間だろう


一気に詰める!


「ブレイング・ブースト!!」


ばっ!


踏み込む、 跳躍!


その力強さ、 一瞬でその距離を詰める、 手に握られたナタを構える


「オラァッ!」


びしゃあっ


ナタは敵にカスる、 だが薄い、 それに敵はそんなに避けてない、 何故……


バシッ!


敵に接近しナタを振り切った日暮の腕を邪馬蘭が掴む、 やばい……


邪馬蘭が笑う


「昂血晟叙・壱ノ番・烈玦爆朱尽」


先程の血液の放出で日暮は既に敵の血塗れ状態、 これは……


ジリリリッ


相手の血液が暑くなり、 熱を放つ……


そして……


ドガアアアアアアアアアアアンッ!!!


想像以上の爆発、 邪馬蘭の烈玦爆朱尽は自身の血液を爆発させる能力、 それは離れた位置でも爆発可能だが


自身より外に出た血液は全て爆散する、 先程日暮をおって周囲に放水し続けた血液も例外無く爆発する


つまり、 周辺一帯爆発した


その結果………


ドガガッ ドガアアアッ!!


地表が大きく吹き飛ぶ、 そしてこの藍木山は元々地盤が弱い、 その上昨日降った雨の影響で土砂崩れを引き起こした!!


「っ! 山が崩れおった!?」


地響きと共に地面が下方へと流れていく、 雪崩のようにビビ割れた地面が段々と積み重なっていく


「まずい! 下の地面につられて、 上も崩れてっ、 巻き込まれたらやばい!」


邪馬蘭はこの時自身の能力の影響で崩落した山と、 それを危険視する事でいっぱいになり


とっくに爆散した筈の敵、 明山日暮の事は頭から消えていた……


ガランッ ガラッ!


上から露出し放たれた様に大きな岩がゴロゴロと迫ってくる、 土砂を巻き込んで


これに巻き込まれればひとたまりも無い……


それを見た邪馬蘭は逃げ出そうと……


ガシッ!


!?


「おいおい、 逃げんなよ、 何事も経験、 土砂に巻き込まれるなんて初めての事だから仲良く巻き込まれて見ようぜぇ!!」


明山日暮が叫ぶ


「!? 貴様何故生きてっ! 離せぇ!」


邪馬蘭は右手を振り上げて手に持ったサーベルを振り下ろす……


ジャリンッ!!


相変わらず奇妙な音を立てて低に突立つ刃、 キラキラと光っているそれ、 これは鱗だ、 営利な鱗を何百枚と重ねブレードにしているんだ


だが……


「喰らえ牙龍!」


グジャアアンッ!


打ち立てられたブレードが食われたように抉れ刃が吹き飛ぶ


「! 何故じゃ! 貴様のしょれはあの重圧な刃の力の筈……」


ぐっ!


「お話してる場合か! オラァッ!!」


ドスッ!!


掴んでいる敵の体を引き寄せながら驚く敵の鳩尾に正確に固めた拳をめり込ます


「うっ!?」


ガララッ ガラッ!


転がってきた土石流の影に覆われる、 あはは、 怖……


「さあっ! 生き残れるかどうかの大一番!」



「離せっ! 離っ……」


………………


ドガラアアアアッ!!! ガラアアアアッンッ!!



ガランッ ガラララッ!! ガラアアアッンッ!!!


???


??????


ガランッ


???


……………………


そこにふたつの生命がいた事等知る由もないこの山は、 重力に引かれその膨大な力を、 猛威を振るう


生き生きと生えていた草花、 樹木も根ごと掘り起こし、 木っ端微塵に吹き飛ばす


転がる巨岩がその勢いを失い胎動する土砂の流れが緩くなった時、 その景色は先程までと打って変わっていた


えぐれた土色が暦年の地層模様を浮かび上がらせ、 滑り落ちだ地面は下方の道路まで伸び塞いでいる


巻き込まれたら命があるだなんで思いたくは無い…………



っ………………


???


………………………………………………


……………………………


……


ドシャッ!



………………


ドクドクッ


??


……


グジャアッ!




っ!


……………………


……


「っ! うわっ!!」


コロンッ


「………………………………」


空を見上げて居た、 全て理解出来ない程、 痛みも苦しみも何も感じない様な、 自分ですら生きているのか死んでいるのか分からない程だった


体が熱い


再生しているお陰だ、 何とかナタの再生能力がこの体を生かしたのだ


いや、 よく無事だった……


「ちょっと、 だいぶ派手にやったわね明山日暮、 私がテを出してなかったら普通に死んでたわよ」



真っ赤な球体が浮かんで言葉を話している、 ああ……


「マリーさん…… じゃん、 助かったわ」


そこには日暮の友人、 村宿冬夜の親友でありながら、 その正体はこの地住まう水神様、 マリーだ


「さっさと起き上がりなさい」


そう言われて身を起こす、 崩れた斜面の上で横になっていたんだ


「巻き込まれる瞬間、 あたしが咄嗟にあんたの体を無理やり操って怪我の被害を最小限に抑えたのよ」


「その上予め捕まえといた野生のイノシシをここまで持ってきてあんたのナタに吸収させたからあんたは生きてる」


えっ


「まじ…… ありがとうございます」


マリーは冷たい声で言う


「あんたの事は嫌い、 でもあんたは助けるわ、 それが冬夜の思いだし、 それにあんたには冬夜を助けてもらう必要があるから」


ああ、 わかった、 だが、 その前に……


……


まじか……


「よう、 猿帝血族の邪馬蘭、 お前は素でこの土砂崩れから生き残ったわけ?」


日暮がそう声をかけた先、 身体中が腫れ上がり、 腕や足が歪に曲がているが、 それでもなお、 何とか立ち上がる邪馬蘭の姿があった


血だらけの真っ赤か


「何でそれだけ血が出てて死なないわけ? 無尽蔵の血液プールなの?」


あはは……


「それがァ…… ワシの、 前提能力じゃからなぁ……」



「前提能力?」



「なんじゃ、 知らんのか……」


ふらふらと立つ敵、 満身創痍の姿


「……能力は自身を傷つけない、 ワシの能力は爆発系じゃから、 その爆発でワシはダメージを受けん……」


「そして、 能力により血液を失うと言う事も無い、 能力で使う分には血液は無限に湧いて来るんじゃ」


「これがワシの、 能力を確立する為の基礎なんじゃ、 そういうのを前提能力、 っ言うじゃ………」


知らなかった


(……俺の前提能力は何だ? …………いや、 その前に)


「お前を殺す」


日暮は自身の能力有効射程へと近づく、 邪馬蘭は笑う


「あたりまえじゃ…… ワシはこの戦いに命掛けてんじゃからな…… ただ一つ、 お前はワシの能力利用して山崩すんのは想定内だっただか?」


日暮は笑う


「あははっ、 いいや何も考えて無かったよ、 ただ山が崩れた時にはすぐに利用しようと思ったね、 まあ、 巻き込まれただけだけど」


あと


「戦いに命掛けてんのはお前だけじゃねぇ、 お前も最後の最後気張れよ、 俺をぶっ殺す事だけ……」


ギラリと光る敵の目、 まあ、 わざわざ言ってやる事でも無いか


バッ!


日暮は構える、 ほとんど引き裂かれた服の下に肌ではなく、 何か角張った何かが見える


邪馬蘭はそれを見て理解する


日暮が何故爆発に耐えたのか、 何故サーベルの刃が破壊されたのか、 そうか……


「てめぇのナタ、 抉り喰う能力はナタでは無くその骨の能力…… その伸び縮みする骨を最大限伸ばして自身の体に巻いたのか」


そうする事で日暮は爆発する相手の血液を骨の力で喰らい爆破を最小限に抑えた


つまり日暮に当たった筈のサーベルもその骨に打ち付けられたため喰われたのか


そうか………


そうか…………………………………


邪馬蘭は納得したような顔で切断された左腕を構える、 体から溢れた血が逆巻いて左腕へと集まっていく


「ワシの前提能力は能力による血液使用の際体内の血液を失い過ぎない為に、 能力による使用限定で血液が無限に溢れる………」


邪馬蘭は笑う


「だがそれはあくまで使用者が自身の能力によって死なないようにする為の物である、 もう死ぬだけのワシには要らない」


「だから、 自身の血液の全てを使って放つ技を使うじゃ! 正真正銘最後の最後!」


「昂血晟叙!・五ノ番・圧惺炭釭爆あっせいたんこうばく!!」


みるみる内に肌が白くなっていく邪馬蘭、 前提能力を解除し、 死の間際、 最後の大爆発攻撃


能力が自分を傷付ける事は無い、 体から血が抜け切っても能力の影響で、 能力を放ち切るまでは奴は倒れない


そのてらてらとした赤黒い塊は見る見るうちにこちらに届く程の熱量を有し、 熱された鉄球の様に光を放ち始める


そうしてそれが勢いよく邪馬蘭の左腕から鈍い重音と共に打ち出される!


バアアアアアンッ!!!


向かってくるそれ、 日暮は半端な覚悟では挑め無い、 日暮も同様に一世一代、 最初で最後の思いを能力にぶつける!


「ブレイング・バーストッ!!!」


グワアンッ!!


周囲の空気が無理やり引っ張られ渦を作るように透明な底に圧力が掛かっていく、 絶大な威力を誇るこの力


ブワアアンッ!!


放たれ空気圧と血液の爆発玉がついに激しく衝突し……


バジャィアアアアアアンッ!!!


耳を引き裂くほどの音と衝撃がぶつかってくる、 このままの威力、 能力ノ突進力が弱い方に降り注ぐ……



(……勝つのは、 勝つのは俺っ)


キラリッ


ビシャッ!!!


!?


能力がぶつかり合うその中から衝撃に吹き飛ばされた何かが光を放って日暮に迫って切り付けた


肌から血が滲む、 先程までナタの骨を伸ばし纏って居たが、 あれは敵を倒して喰らい取ったエネルギーを使用して伸縮している


関節稼働を邪魔しないよう常に伸縮を可能にしている、 その為その間ずっと貯めたエネルギーをしようしてしまう


日暮はエネルギーだなんて言っているが、 ゲームじゃないんだ、 目に見える訳じゃない、 日暮はそれが底を着いて初めて無くなったと気がつく……


だから、 既に骨による装甲は解いていた、 どちらにせよエネルギーを内包している内は回復は自動的に行われる


そして……


キラッ キラリッ キランッ!



ビシャッ! ビシッ! ピシャッ!!


「ってぇ、 これは…… そうだ邪馬蘭が使ってたサーベル、 鱗を繋げて作られたブレードを混ぜたんだ、 飛んでくるのは鱗か……」


鉄騎龍てっきりゅうと呼ばれる龍の鱗は刃の様に鋭く硬い、 熱や爆発にも耐える強靭性がある


邪馬蘭は能力発現前にも関わらず巧みな戦闘術で単騎でと討伐を成功させており、 その時の証として猿帝に送られた剣だった


能力の発現はその個人の望んだ形、 強い意志だと言われている、 そしてそれは発動した能力も同じ


飛んでくる鱗に体を無数に切り付けられひるんだ日暮、 それに呼応する様に、 放たれたブレイング・バーストも敵の爆破に怯みだす


バジインッ!!


拮抗していた力の押し合いが今、 崩れた、 日暮のブレイング・バーストが負けた


そしてそれを押し切った敵の能力が日暮へと迫る、 日暮はその熱量を肌に感じながら思う……


…………


(……まだ、 終わりじゃねぇ!!)


「牙龍!! 敵の血を喰らぇ!!!」


ナタを構え瞬時に骨を伸ばし展開する、 高温だろうが、 爆発しようがこれが敵の血肉である限り奴の……


暗低公狼狽あんていこうろうばいの細胞が喰らいつくす!!


「オラぁあああっ!!」


グジャアアアッ!!


骨が敵の血液を喰らう、 だがその殆どが骨を通過し赤熱を持って日暮の身を破壊しようと迫る


まずい……


そのスローになった様に感じる世界で日暮は感覚で理解する


(……ああ、 これ食らったら流石にナタのエネルギー尽きるな)


エネルギーが尽きれば回復は出来ない、 つまり、 死だ


ビジャッ


爆破する血液が日暮に触れる


(……ああ、 強かったよ邪馬蘭お前は、 お前の勝ちだ……………)


ふとそう思った時、 体を囲む様にヒヤリとした感覚に包まれる……


「……ちょっと、 あんたは冬夜を助けなきゃ行けないんだから、 勝手に負けないでよ」


爆破の瞬間そう聞こえた


………………


ドガアアアアアアアアンッ!!!!!


…………………


…………


キーーーーーン


キーーーーーーーーンッ


爆破の余波で耳が壊れた、 だが肉体の感覚は確かにある、 死んでない


爆破が収まって耳鳴りが止んだ時体を包む水の神、 マリーが日暮から剥がれる


「はぁ、 最悪、 でも良いわ冬夜の為だもの、 癪だけど許してあげる」



「ああ、 ありがとう」


そう返事を返しながら敵を見る、 邪馬蘭は崩れていた、 そこにもう命の灯火は感じられない


能力を発動した時には既に死んでいたんだろう、 血の気の通わない真っ白な肌がそう思わせる


なら、 能力の強さが、 使い手の意志を反映して変わるなら、 痛みに身を引いて能力の押し合いに日暮が負けた様に


なら、 能力を発動した時点で死んでいたこいつは、 死んでも尚その意思が消えず最後まで戦いに生きたのだとしたら


「猿帝血族・殺戮係千里の邪馬蘭、 お前は強かった、 お前は知ってるか? そして辿り着いたか?」


日暮は空を眺める


「闘争者が、 死んだ後最後に辿り着くその地、 戦士達の桃源郷、 邪鬼血みどろ溢れる戦闘に溢れた地」


亜炎天あえんてんに、 俺もそこに行くよ」


日暮は笑う


「明山日暮! さっさと冬夜の所まで行くわよ! 早くなさい! ったく、 ああこの崩れた斜面どうやって登れば良いのよ!」


日暮は深呼吸をして気持ちを切り替える、 戦いは終わってない、 この戦いは藍木山攻略戦なんだ


藍木に住む人達、 皆も待ってる


…………………


「……………………………はぁ」


否が応にも浮かぶ人々の顔を振り切る、 きっと自分の帰りを待っている人達の顔も


「それは後々、 それより、 戦いだ戦い」


頭をふりったくって意識を変え、 日暮はマリーの後ろを追いかけ崩れた斜面を登り始めた


……………………………………



…………………



……


「あっ! 今、 日暮さんが私の事考えてる気がします!」



「……へー、 そう、 良かったわね」



「何ですか望野ののさん、 私の事疑ってるんですか? さっきも話した様に私は日暮さんの全てを知っているんですから!」


私達はさっきの今だけれどいっぱい話をして仲良くなった、 菜代さんだと堅苦しいから、 望野さんと名前で呼ばしてもらっている


勿論日暮さんと知識共有で全てを理解し合った話もした


「あはは、 フーちゃん変わってるわね」


私、 フーリカの事を、 フーちゃんと呼んでくれる望野さんの事は早くも好きになりつつある


皆良い人たちだな……


てってっ


小さな足跡が聞こえて振り返るとそこには小さな人影、 魔王の卵である雪ちゃんが居た


彼女は私のライバルでもある、 何故なら彼女もまた、 明山日暮という人間を好いているからだ


「お兄さんが今、 私の事を考えてたの、 分からないと思うけど」


このガ…… この子は……


「なら勘違いですよ、 日暮さんは私の事を考えて居ましたから、 私には分かります」


この二人の不毛な言い合いを望野さんが呆れたように笑って眺めた


それより


「わざわざ見当違いな報告をしにやってきたのですか?」


嫌味ったらしく言うと雪ちゃんは首を横に振る、 その様は憎いほど可愛らしい


「嫌な予感がするの、 凄く恐ろしい力を感じる、 何かが近ずいてる」



「急に何を?」



「ふー、 分かるでしょ? 本当に恐ろしいものの力を感じるの、 もしかしたらこの近くかも知れない」


彼女の目を見て背筋凍りそうになる、 彼女の目は、 少女の目とは思えない程鋭く、 魔王の目だった


「恐ろしい事って?」


望野さんが彼女に聴く


「分からない、 でも…… いや、 私が何とかするよ、 任せて」



「えっ」


少女はそう言うと輪郭がぼやける


「魔国式結界・瀨郲硫伶戸せれるれいど


ふぁんっ!


そう唱えた途端彼女がその場から姿を消した


「何今の、 彼女どこへ」



「分かりません、 でも多分転移系の能力、 向かったとしたら…… 外」


まずい


何が不味いのか、 見張っておいてくれと日暮さんに言われて、 その約束を守れないからか?


いや、 違う


「本当に何か不味いことが起こるのかもしれない、 彼女が言うのなら、 この街に何か……」


背筋はまだ凍りそうな程に冷たかった、 嫌な予感がする、 凄く嫌な予感が……


…………………………………



…………………



……


風が吹いている


「うん、 中々良いんじゃない、 きっとこの世界のことを彼も気に入ると思うな」


ビルの屋上に立って一人の男が笑う


「それに楽しみだろ? 冥邏めいら君の見たかった姿が見れるんだ」


冥邏と呼ばれた線の細い男は、 自身に声を掛けてきた男、 ナハトに対して口を開く


「ああ、 楽しみだよ、 興奮してきた、 この時をどれほど待ったか」


冥邏は普段落ち着いた印象の男だがこんなに興奮している様を見るのは面白い


雨禄さめろく、 準備は良い?」


そこにさらに別の男の名前が呼ばれる、 雨禄はこんなに世界では似合わない、 きっちりと着こなしたスーツ姿が、 何処かの会社員と言われても納得出来る


こんな三人はそれでもこの世界で、 悪事を働くそんな存在、 反社組織ブラック・スモーカーだ


「じゃあ良いね、 始めようか、 この世界に破壊と混沌を呼び込む…… この世界に異世界から最強の存在を呼び寄せる」


そいつは向こうの世界で神と並び対等の存在として恐れられている、 こう呼ばれている


「さあおいで、 世界の覇者、 空帝・智洞炎雷候ちどうえんらいこう


その恐れられた災厄の名を呼び、 勇者ナハトは不気味に笑った

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