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第七十五話…… 『藍木山攻略戦・会議』

進む道は決めろ、 未来はどうなるか分からない、 だから成り行きに任せるのか? 川を流れて行く木の葉の様に?


違う、 確かに未来は決まって居らず不透明だ、 だがそれは常に自分ではどうしようもない部分の事だ


常に自分の事は、 たとえ未来の事だとしても決めてしまえる、 明日はラーメンを食べるとか、 あいつとは二度と会わないとか……


決定さえしてしまえば自分の事は変わらずに進める、 自分を知ると言う言葉があるが、 あれは要は決定する事なのだ


『知る』等と言うから混乱する、 まるで何処かに自身の事を記した辞書があって、 決め兼ねた事柄を引くとそれに対する回答が得られる様な……


だが違う、 そんな物は無い、 寧ろその辞書を記すのは自分自身だ、自分の事だ、 自分がどんな人間か全て決定してしまえば良い


そうすれば人間性の振り幅を知り、 可能不可能では無く、 自分にとって必要不要で選択をする事が出来る、 無駄な事はするな


多くの人間がそれを聴いて簡単だと言うだろう、 だがその実それをやっている物は少ない、 何故か?


多くの人間が変化を求めて居るからだ、 変身だ、 形を変えて尾を、 鰭を、 羽を求めて居るのだ、 進化を望むからだ


だが気が付かない、 闇雲に、 盲目的に足を動かし続ける事を前進とは呼ばない、 目の前こそが前方だと信じて止まない


何を大事にしている? それを細かく見て、 その大事な物にくっついた汚れを落として、 細分化した物、 究極にただひたすらに求める物


そこに続く道だけを選んで進めば良い、 多くの物に手を出すのでは無く、 無駄を無くし一点集中、 極めた先で更に極める


究極の選択………


……なぁ? 明山日暮、 お前はそれを理解して出来る人間なんだと思っていたよ


お前にとって大事な事は、 戦い強くなる事、 それだけだったろ、 心の底から望んでそれが楽しかった筈だ


今のお前はどうだ? 自身が見出した、 磨かれた戦闘の思考が見据える道の先、 その先がお前には見えてるか?


お前は戦いの事だけ考えて居れば良かった筈だ、 友人や他の人間を跳ね除け、 仲間を作らず、 幼子を無視し、 目の前で絶望に暮れる女子に目もくれない


そうするべきだった、 初めて強敵を下した、 最初の探索、 あのホームセンターでの戦いで最高に命を燃やしたお前は生きていた、 笑っていた


お前は今、 あの時と同じ様に笑えているか? 人を助ける? 戦いに意味を見出す? 誰かと苦しみを分かち合う?


馬鹿な、 そんな物は必要ない、 戦いに、 強さに必要のない、 弱者の思考だ、 捨てろ、 そんな物は捨てろ


……なぁ? 明山日暮、 お前は今…………… 本当に前に進んでるのか?


そんなで、 辿り着くことができるのか、 あの地に、 最強の存在が最後に流れ着く地に


亜炎天あえんてんに…………………



……………………………………



………………………



………


「わ~ もちちゃんだ! もちちゃん!」


目の前で幼い少女がはしゃいで居る、 もちもちの手触りの柴犬のぬいぐるみ、 通称『餅柴』を抱えて満面の笑みだ


近くに居た彼女の母がほっとしたような顔をして微笑む


「良かったわね~ もちちゃんも恋音こいねに会えてきっと喜んでるわよ、 ふふっ」


喜ぶ娘を見てその母は愛おしそうに目を細めた、 そうして改めてこちらを見る


「本当にありがとうございました、 えーとっ、 確か……」



「明山日暮です、 お役に立てたのなら良かった、 あとこれ、 お借りしてた自宅の鍵です、 早めに返しておきますね」


女性は鍵を受け取りながら頷く


「日暮くん、 そうそう、 日暮くんね、 この間も皆を守ってくれた……」



「いえいえ大した事は…… じゃあ、 自分はこれで……」


依頼は終わった、 世間話に付き合うつもりは無い、 そう思って足早に去ろうとして……


「お兄ちゃん、 日暮お兄ちゃん? ありがとうっ」


餅柴を抱えた少女がはにかんでそう言った、 純粋な心が日暮と言う人間の中を突き抜ける……


少女に向き直る


「どういたしまして、 俺は何時でもみんなの味方、 皆の力になるから、 また何かあったら気軽に言ってね」


そう言って不器用に笑いかける、 またしても心にも無い事を……


「それじゃあ、 またね」


そうやって手を振って少女に背を向けて重い足取りで前へ進む、 あれ? あれだけ軽かった足が今は不思議と重い……


こういういい事した後って普通軽くなる物じゃ無いっけ? あれぇ……


ふらふらと歩きながらシェルターをふらつく、 ついさっきフーリカを連れて帰還し、 その後家族に会った


家族には、 出先で会ったけどそれでももう仲のいい友人だと話した、 だが何だかフーリカの方の距離が近いので妙な目で見られ


舌打ちをして睨み付けたら黙ったのでこれ幸いとばかりに席をたった、 フーリカは家族と少し話をしたいと言って居たので置いてきたが大丈夫だろうか


「めんどくさい事にならなきゃ良いけど…… ん?」


不意にこちらに近づいてくる小さな人影を視界に捉える、 そちらを向くと彼女は手を振った


「お兄さん~ お仕事終わった?」


雪ちゃんだ、 さっき家族の所に居なかったが、 菊野きくのと居ると聴いて居た、 何だかんだ言いながら菊野も面倒見が良いのできっと気に入られたんだろうな


「どうだろ、 また土飼のおっさんに聞いてみてだな、 午前は一旦終わりだけど、 午後もやる事あるだろうし」



「えー、 お兄さん私を放置してどっか行ってばっかじゃん、 目を離すと直ぐに居なくなるんだからっ」


幼い少女がぷんすか怒る様は妙に可愛らしさがあって、 全然怖くないが、 彼女の気持ちを無下にするのも悪い


「……そうだな、 俺も疲れたし午後は何もしないでゆっくりしたいかもな、 おっさんにもそうやって話してみるか」



「えっ、本当? やったー! 何して遊ぶ? 隠れんぼ? 鬼ごっこ?」


んー?


「まあ、 先ずはお昼だな、 もうそろそろお昼の時間だろ?」


雪ちゃんが頷く


「えへへ、 お腹空いた、 なぎと追いかけっこしたから、 でもなぎ全然体力無いね、 直ぐに息切らすの~」


あはは


「なぎって、 菊野の事か、 あいつは元々文系だからな、 風の子には敵わんわな」


雪ちゃんが笑う、 暗い洞窟の中で時の止まった様に生きていたこの間と比べたらすごく明るくなったな


「そう! だからお兄さんと……」


そこまで行って雪ちゃんが言葉を区切る、 彼女が日暮の後方を嫌そうな顔で睨む


ん?


「その子が雪ちゃん? 初めまして私はフーリカ、 日暮さんとは凄く仲の良い…… まだ、 お友達です」


透き通った声がしてそちらを振り返ると家族と会話をしていたはずのフーリカがこちらに向けて歩いてきた


しかも聞いても無いのに自分語りを始めた挙句、 他人まで巻き込んで意味のわからない事を垂れ出しやがった


雪ちゃんが日暮の手を引く


「お兄さん誰? このお姉さ…… おばさん誰? ふふっ」


ん? 何かめっちゃ煽るな


「……は? それは私に言ったんですかね? どんな子かと思ったら躾のなっていない子ですこと」


怖……


「フーリカさん情緒おかしくない? 子供相手にキレるなよみっともない、 雪ちゃんも、 こいつそんな老けてないよ」


パシッ


俺の声なんか聞こえて無いとばかりに睨みを効かす二人、 フーリカが雪ちゃんが引くのと逆の手を掴んでくる


「日暮さん、 子守りは他の者にさせて私とお出かけしませんか? さっき茜さんに髪を纏めてもらいまして、 ほらっ」


櫛で丁寧に解かれた髪を肩にかからないようひとつに纏め、 ポニーテールにしたフーリカがうなじを見せてくる


「どうですか、 ね?」


ぐいっ


「お兄さん、 気をつけてその人さっきから挙動が変だよ、 落ち着きなくふわふわと、 多分妖怪だよ、 やっつけちゃおう!」



「は? 妖怪…… って何? ……ああ、 妖怪って成程…… は? 誰が化け物ですか!」


うるさ……


「フーリカさんや、 気品は何処行った? 悪いけど今日はもう終いだ、 呑気する、 と言うかなんにせよ飯行くぞ、 飯」


軽く両手を振りほどいて食堂への歩みを進める、 口喧嘩なら他所でやってくれ


「……おかしい、 私と日暮さんは運命共同体、 どうして私を置いて……」



「お兄さん、 私の手も振りほどくなんて、 嫌われちゃったのかな……」


後ろから何か聞こえる、 ああ、 もう!


「ちっ、 さっさと行くぞ、 腹減ってんだからさ」


そう言って手を差し伸べると二人ともわかっていた様に笑って飛びついてくる、 笑って………


………………………………


果てしない違和感だけが自分の中で燻っていた…………


………………………………



…………………



……


「来たか日暮君、 それに彼女はフーリカさんだったかな」



「来たぜ、 シェルターの方にこんな部屋あったんだな、 The会議室って感じだ」


日暮はお昼を食べた後土飼に言われシェルター内部のかなり奥まった所にある部屋に連れてこられた


フーリカを連れ添ってやってきた日暮は部屋に入ると驚いた、 広い部屋では無いがその中は整然としていて綺麗で使われた印象は無い


部屋の中には出迎えた土飼とは別に、 能力者ノウムテラスである威鳴千早季いなりちさき


シェルターのリーダー大望吉照たいほうよしてる、 そして以前会った大望さんのお付のメイドさんも居た


「普段は使わない部屋だ、 この部屋に窓が無いから、 電気を使わなくては行けない、 だから会議も無駄のない物にしなくてはな」



「そうですね、 なら早速……… ん? メイドさん、 どうかしました?」


大望の隣で控えていたメイドさんがこちらを見るなり驚いて固まっている


「……フーリカ様ですか? ラグノート皇国第三皇女のフーリカ・サヌカ様? ですよね?」



「……えっ、 貴方……… あっ、 レイリア? レイリアですか?」


フーリカがそう応えた途端、 共有した記憶が掘り起こされた化石の様に強い存在感を現し出す


フーリカの記憶によると彼女は……


「彼女は前も紹介したが私の能力でここに居る異世界からの来訪者だ、 メイド長の幽霊・レイリア」


大望議員だ


「話の腰を折って悪いが順序良く行こう、 私は以前レイリア君の住む世界、 異世界に行ったことがあるんだ、 学生の頃さ」


日暮達が用意された席に着くと大望議員はその時の話を簡潔に話してくれた、 メイドさんも一瞬で心を落ち着けお茶を入れてくれた


「……という事で私は彼女がハイネスさんと言う貴族の邸宅で雇われると言う所までしか彼女の事を知らない」


「フーリカさんと言ったかな? 君はその後のレイリアの知り合い…… と言うか君も異世界からやって来た人何だね?」


大望議員がそう言う、 流石一度異世界に行ってるだけあってそもそも異世界と言う存在に違和感が無い様だ


日暮はフーリカと知識を共有しているから分かるが、 威鳴はライトノベルの名前をブツブツと言っているし、 土飼のおっさんは頭に?を浮かべている


大望議員の質問に答えたのはメイドさんの方だった


「大望さんが来た頃の話は向こうの世界で別に有名な訳じゃありません、 第一その頃彼女はまだ産まれてません、 その質問は私が応えます」


大望議員は今年四十二歳だそう、 四十二歳で議員をやっているのは凄い事らしい


「そもそも大望さんと初めて会ったあの町もラグノート皇国領のイグノと言う町でした、 私の仕えるハイネス様はラグノート皇国の有力な貴族でした」


「皇女であるフーリカ様と初めて会ったのはそれから随分たった頃、 ハイネス様のお付でフーリカ様の五歳の誕生日パーティーにお誘いされた時です」


「ご挨拶に向かった際に私の付けていた母の形見であるペンダントに目を輝かせて居て、 そんな彼女がとても可愛らしかったのでお祝いに差し上げたのです」


フーリカもそう言えばペンダントを付けていた、 横に座るフーリカを見ると彼女は照れた表情で首元のペンダントを掲げて見せた


「当時は幼かったとは言えレイリアの大切なペンダントを貰い受けてしまい申し訳ありません、 ですが私がレイリアを知ったとは正しくその時でしたね」


メイドさんは頷く


「いいのですよ、 今でも大切にして下さって居るようで嬉しく思います、 そして私は彼女の指名で彼女の教育係を任される事になりました」


聞くと本当に突然の事で仕えて居るハイネスと言う貴族と相談に相談を重ねて、 そして最後には首を縦に振ったと言う


「ハイネス様の元を離れ、 皇都に出向きフーリカ様の教育係として務めて参りました、 そしてフーリカ様が本格的に学校へと勉学を学びに出ると私の教育係としての仕事は徐々に終了したのです」


その後皇邸でメイドとして働き、 その働きが認められメイド長へと昇進したと言うのだから本当に凄い


「学校に通うようになってからは会う機会も減りましたが、 レイリアは私にとって年の離れた友人でした」


そう言うフーリカの声は少し震えている


「こうしてここで出会えたのは奇跡です、 でも、 レイリア貴方も本当はもう居ないのですね?」


レイリアは頷く


「大望様に魂として呼ばれ私は自身の死を認識しました、 私は皇都が魔王軍に襲われた際、 偶の休日を利用してハイネス様の邸宅へと出向いておりました」


「不思議な事にその時以前の魔王をエバシ様が倒してから大望様が来るまで三年、 それから十年間魔王は現れなかった」


「魔王を討伐すると遅くても五年以内に新たな魔王が現れる物ですが、 その時は余りに遅かった」


「そしてようやく現れた魔王の討伐に向けてエバシ様方勇者の面々が旅立たれて国が滅ぶまでの十三年もの長い間魔王は討伐されなかったのです」


「魔王が逃げ続けたのか何なのか、 七回の撤退と遠征を繰り替えてし勇者一行は旅をしていました」


「その間、 人間の世界は至極平和でした、 魔王はどこぞに身を潜めるばかりで何もありはしないのですから、 これまでに無い程平和でした」


あの日までは……


「私はつい先日まで殆ど魂だけの状態で、 大望様ですら私を視認する事が出来なかった、 きっと魔王軍の攻撃で私の魂までバラバラに破壊されたからでしょう、 恐ろしい化彲郡かちゃくんに食われ……」


「ですが鉢倉様が私の魂を集め、 置いていってくれた、 そして記憶の一部も、 ですから私にはそのあとの事が分かります」


鉢倉はちくらと言うのはこの間の戦いで見た剣士の事で、 確か大望の友人で、 共に異世界に行き、 そして異世界に残った人だと言う


鉢倉さんは敵を撃退後レイリアさんに魂の残骸と記憶を残し、ひっそりと居るべき場所に帰ったと言う


「鉢倉さんはエバシ様率いる勇者一行の八光騎士やつらいきしの一角でしたので、 彼の記憶によれば当時君臨していた第四十代魔王は確かにエバシ様によって倒されました」


「ですが、 逃げ続けるばかりで余りに弱かったそうです、 とても魔王とは思えない、 足りない何か……」


「その後勇者一行は何とか自分たちの国に戻って来た、 そうして惨状を見た、 その時既に国は滅んでいたんです」


話すメイドさん自身も驚いた様に、 それでも続きを話してくれる


「人間の世界を滅ぼしたのは、 第四十一第魔王、 既に完全な力を備え、 第四十代魔王討伐直後、 隣の大国、 セイリシア聖城国の王城上空に顕現」


「同時に魔王軍四天王と、 四天王率いる数万の魔国獣が四方に散り、 セイリシア王都は二日で陥落」


「そこを中心に烈火の如く魔の手は伸び、 知って通りラグノート皇国は四天王の一人、 血虐のマカラによって崩壊しました」


話を聞いたフーリカが顔を青くして震える声を絞り出す


「なっ、 何故、 魔王を討伐したのに、 直ぐに次の魔王が現れるのですか? それにたった二日であのセイリシアが?」


レイリアは頷く


「これはエバシ様方が実際に敵を倒しながらセイリシアに向かい、 王城にて魔王と対峙した際に交わした会話の様なので事実かと」


しかしレイリアは首を横に振る


「何故そうなったのかは分かりません、 きっと準備していたのでしょう、 第四十代魔王は初めから四十一第魔王の隠れ蓑だったのでしょうね」


フーリカが思わず立ち上がる


「魔王は? 勇者エバシ様方は第四十一第魔王を倒したのですか?」


レイリアが俯く


「……いいえ、 エバシ様は魔王との対峙で惨たらしく殺された様です、 鉢倉様は四天王マカラを決死の戦いで何とか倒した直ぐの事だった様です、 エバシ様の死体が目に映ったのは」


フーリカが息を飲む、 二人のやり取りを疑って居るものは既にこの空間に居なかった


「でも、 第四十一代魔王は死んだ筈ですっ、 何故なら新たな魔王がっ…… あっ、 いえ……」


雪ちゃんの事を思ったのだろうが既のところで言葉を引っ込める、 脱力して倒れるように座り直したフーリカの震えた手に手を重ねる


ありがとう、 雪ちゃんの事を言わないで置いてくれて……


「俺も分け合って事情を知ってるんだけど、 その後世界はどうなったの? 実際この世界とその異世界は混ざりあった訳で、 人間と魔王の戦いはどうなった訳?」


レイリアは首を横に振る


「それも不確かです、 鉢倉様もその後亡くなった様ですから」


そっか……


「今言えるのは人間界は滅んだという事ですね、 その中で、 フーリカ様、 貴方が生きていて良かった」


レイリアはそう言ってフーリカに笑いかける、 それを見てフーリカは大粒の涙を流す


「うっ、 私だけ生き残って…… 私、 強く生きますね、 レイリアの分も、 亡くなった皆の分も……」



「……ありがとうございます、 昔からお優しい方ですねフーリカ様は、 ……明山日暮さんでしたか?」


ん?


「彼女をよろしくお願いします、 気負い過ぎては身を滅ぼしますから…… どうかフーリカ様を支えてあげて下さい」


強い目だ、 分かってるよ


「安心してよ、 協力して前に進もうって、 互いに支え合おうって約束しましたから」



「ふふっ、 そうですか…… 良かった、 フーリカ様良い殿方と巡り会いましたね、 きっと皇帝であるお父様はお怒りになるでしょうけど」


フーリカが笑う


「そう…… ね、 お父様はそう言うの厳しかったから、 日暮さんじゃ許してくれないと思います、 でもそんなの関係ないですよねっ」


おい……


「何の話だよ、 飛躍してないか?」



「ふふっ、 乙女の秘密です」


うざ


でも…… そうやって言って笑い合う、 フーリカとレイリアさんは確かに、 年の離れた友達といった感じでこっちまで笑顔になった


……………………


………


「……やはり今一番の課題は藍木山あいきやま攻略の為の事だな、 日暮君、 今も向こうの甘樹あまたつシェルターの管理人と話が出来るのかね?」



「ええ、 さっき事前に話をしといたので、 菜代なしろさんも準備出来てると思うけど……」


ピガガッ


能力で作られた特別製の無線機を、 甘樹街に居る菜代さんの無線機と電波を繋げる


「あっ、 菜代さん? 準備出来てますか?」



『ええ、 良いわ、 木葉鉢このはばちさんに変われば良いかしら?』


日暮は了承の返事をして無線機を机に置く、 それを合図に向こうから少し懐かしい声が聞こえる


『……こんにちは、 初めましての方も居られる様ですが、 甘樹シェルターのリーダーを務めております、 木葉鉢朱練このはばちあかねと申します、 以後お見知り置きを』


彼女の鈴の音の様な声ですらすらと語られる挨拶は不思議と人を惹きつける、 その声に威鳴なんかは…… 「この子絶対可愛いよねっ」と盛り上がっている


そしてそれに返したのは大望議員だ


「ええ、 こんにちはお嬢さん、 藍木シェルターのリーダー、 大望吉照です、 まあ名前だけは有名だと自負しているけれど、 一応議員なんだ、 よろしくね」


大望議員も凄みのある声だ、 確かな経験から来る力を感じる


『存じております、 大望議員は我が地域の、 ひいてはこの国の最先端を行く方ですから、 普段の力強い決断力に感服いたします』


『そして大望議員がリーダーを務める藍木シェルターに避難して居られる方々はさぞ心強い気分でしょう』


大望が笑う


「あはは、 そうでも無いよ、 私の力は小さな物だ、 だが私はどんな時も自分を弱いとは思わない、 何時だって私は一人では無いからな」


「朱練君、 君もそうだろう、 立派に駿助しゅんすけの意志を継いで先頭に立っているじゃないか、 誇りに思うよ」


朱練も笑う


『父から話には聴いておりましたが、 ご友人としての大望議員の事を良く聞かされました、 こうしてお話叶って嬉しく思います』



「私もだ、 同じくこの世界で、 人を導く者として、 駿助に変わって、 君が私と対等の立場で歩みを進めると言う事、 私もとても嬉しいよ」


大望は何処か遠くを見ながらそう言う、 この何もかもが変わった世界で、 それでも人の前に立ち、 人を導く者


その二人が今ここに並んだ、 それは力と力がぶつかり、 大きなうねりとなって動き出す、 この世界の希望的瞬間だった


「まあ、 こうして無線機越しにしか会話が出来ないのは惜しいがね、 そしてそれは大きな問題なのだよ」



『と、 申しますと?』


自然な流れで話し合いは始まった


「日暮君から話は聞いているかな? 我々は今、 藍木山を根城にするモンスターの討伐及び、 その地点の藍木ダムの復旧計画を練っている」



『大まかには聞いております、 そしてそれに対しこちらが力を相応の力を貸すと約束しています』


大望は頷く


「ああ聴いている、 だが大きな問題が有るんだ、 日暮君の報告によって、 甘樹と藍木を繋ぐふたつの橋、 下流の藍木川橋と上流の藍木山橋の両橋ともが破壊され陥落しているそうなのだ」



『っ、 それは本当ですか? そうだとしたら移動に対して大きな問題が生じます、 我々は藍木に経つ為準備を進めておりましたが、 それは藍木川橋を通れる前提の事でした』


二人の話す通り二本ある橋はどちらも破壊され落ちている、 迂回して更に下流の橋を目指すと今度は大幅に遠回りになるのだ、 ふたつの町を繋ぐ経路にこのふたつの橋は生命線だったのだ……


その時フーリカが小声で耳打ちしてくる


「あの日暮さん、 日暮さんの記憶と二人の会話からしてそちらの協力者の方がここに来れる様にしなくては行けないという事ですよね?」



「ん? うん、 そうそう、 でも橋が渡れないとなると難しくなってくるんですわ、 流石一級河川、 存在がでかい」


フーリカは顎に手を当てて、 そして頷く


「私の能力で繋げましょうか? 例えばこの部屋と、 あちらのシェルターを」


……………


「へ? んな事出来んの?」



「こら日暮っ、 ふたりが話をしているのだから少し声量を落とせっ」


土飼のおっさんに怒られた、 実際大きな声が出たので話をしていた大望議員もこちらを見ているし、 無線機の向こうからは苦笑いが聞こえてくる


だが、 フーリカが言った事が本当だとしたらこんな議論は全く必要無くなる、 全て解決する


一応……


「フーリカさんや、 出来るとしたらお願いして良いのかな? 色々な意味で」



「……良いですよ、 私人を助けたい、 その為のお手伝いが出来るのなら、 そのために私は力を使いたい」


そうか、 なら……


「挙手っ! ちょっとその話良いですか? ズバッと解決出来るかもしれません!」


日暮がまったをかける


「日暮君、 解決とは? どう言う事だね?」


大望が聞いてくる、 無線機の向こうで木葉鉢さんも声を潜めている


日暮は立ち上がってフーリカに手を差し出す


「彼女、 フーリカ様様で何とかなるかも知れないぜ、 だよな?」



「はい、 ちょっと良いですか……」


フーリカは日暮の手を取って立ち上がると軽い足取りで歩きだす


「そこにある扉って入口とは違う扉ですけど、 何が入ってる扉ですか?」


会議室の奥にある扉の前でフーリカは立ち止まる


「ん? あぁ、 そこは物置だが、 今は空だが?」


フーリカは頷く


「ならこの扉を使いますね、 私の能力でふたつの空間を繋げます、 日暮さんの記憶を元に、 相手空間を想像……」


「相手空間にも同様の特段意味を成さない扉の存在を確認、 その扉とこの扉を繋ぐ、 ……バウンダー・コネクト」


その能力は決して交わるはずの無い物、 又は交わり一つの物として完成している物、 そのどちらにも強制的に接点を作り出す


決して交わるはずの無い距離の離れた位置に有るふたつの空間、 それぞれをふたつのドアを介して接点を作り、 接点を起点に流れる力


その力は離れた空間どうしすら繋げてしまう、 この世界と異世界すらも繋げたこの力は……


ガチャッ


フーリカが物置のドアノブを捻る、 そしてゆっくりと内開きのドアを開くと……


「……は?」



『…………嘘………』


驚いたふたつの声、 だが奇妙だ、 無線機越しに聞こえた木葉鉢さんの声が、 開いたドアの向こう側から、 もっと近くから聞こえた……


「ふたつの空間、 この会議室と、 相手方の会議室を繋げました、 どうぞ無線機ではなく面と向かってお話をしてください」


ドア越しに驚きで固まった双方、 全く仕方ないな……


日暮はフーリカの開けたドアへどんどんと進んで行く、 そのままドアを潜り抜けた


「ちゃっす、 ご無沙汰です~ すげえ、 まじで繋がってるじゃん、 数日前に来た甘樹シェルターの会議室」


日暮は窓から外を覗くとそこには一昨日までいた甘樹駅前の街並みがちらりと見えた


「驚きました…… こんにちは明山日暮さん」



「これはどういう事? ……まあ、 何にせよ久しぶり…… でも無いわね、 日暮くん」


部屋に居た木葉鉢さんと、 菜代さんが苦笑いを浮かべながらこちらに挨拶をしてくる


そのやり取りを向こう側から覗いていた藍木シェルターの面々が恐る恐るといった様子でこちらへやって来る


「……なんという事だ、 本当にここは甘樹シェルターなのか? あっ、 外に甘樹ビルが見えるぞ」



「すげぇ! これって要するに瞬間移動じゃん!」


驚きを顔に貼り付けて目を瞬いている土飼のおっさんと、 はしゃぐ威鳴さん


「はははっ、 突然押しかけて悪いね朱練君、 少々お邪魔するよ」



「はい、 正直未だに幻覚かと思ってますが、 問題ありません、 そして確かに、 これが可能なら我々は直ぐにでも交流を開始できる」


そういう事だ、 フーリカさえ居ればこのドアからこっちと向こうを行き来し放題なのだから


「あの、 力を使うのでずっと繋いだままには出来ませんので、 戻る用が無ければ一旦閉じてしまいますが」



「ああ、 構わないよ、 ありがとうフーリカ君、 君の力は素晴らしいよ、 君はまさに希望の架け橋だ」


フーリカが嬉しさに頬を緩め、 しかし直ぐに俯いて見せる、 また色々考えてんな?


「良かったな、 実際この交流は俺達この世界の人間の大きな一歩になった、 これで近い未来多くの人が救われる事になる、 それは素直に誇れば良い」



「はい…… そうですね、 余り悲観的な事ばかり考えて居ても仕方ありませんからね」


そう言ってフーリカは扉に手を触れると次の瞬間そこは薄暗い物置に変わっていた


「さて、 皆さんどうぞご自由に掛けて下さい、 お茶を用意させるので有意義な時間にいたしましょうか」


木葉鉢さんの一声で皆それぞれ席に着く、 今この世界で戦い前へ進む者達の会議始まった………

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