第六十六話…… 『前進の一歩・13』
『バトアニ・ほーばっく!!』
世界的に人気な作品、 可愛らしいデザイン、 多種多様の種族、 野生のバトルアニマル、 通称バトアニを捕縛しながら冒険の旅に出る物語
ゲームとして人気を博し、 その後アニメ化、 続作も次々ヒット、 その度に追加されるバトアニは可愛く、 かっこよく
男の子にも女の子にも、 大人も子供も誰しも一度はハマった作品と言えるだろう
そのバトアニの中でも特に『カミアニ』と呼ばれる、 設定上の神話時代のバトアニ達はかっこいい見た目であり
男達は憧れた、 宝石をモチーフにしたカミアニが大暴れする作品、 日暮は小学生時代、 最盛期の世代だった
日暮も誕生日に親にお願いし、 ゲームカセットを買って貰った、 同級生でもやって居ない人は居ないといったレベルで皆冒険に出ている奴ばかりだった
友達と放課後に一緒に遊んだ、 正直楽しかった、 日暮はレベル上げが苦手だったので、 初めからレベルの高い『カミア二』を手に入れたら
そいつ特有の高火力攻撃で、 大して強くない敵を無双したりしていた、 それ以外だとスロットのミニゲームばかりしていた
学校で皆していた事といえばもう1つ、 お絵描きだ、 晴れていれば外に遊びに行く生徒は多い
だが、 日暮はお絵描きが好きだったので、 休み時間はお絵描き帳に絵を書き込んでいた
別に上手くない、 でも楽しかったし、 好きだった、 周りの奴らはお絵描きと言えば、 やはりもっぱら、 『バトアニ』の絵を描いていた
日暮は違った、 日暮は『バトアニ』を描けなかった、 苦手だった、 日暮が描いていたのはオリジナルの物ばかりだった
モンスターも、 剣や武器も、 全部オリジナルだった、 日暮はオリジナルの絵しか描けなかった
既存の物を描いて形にするのは難しい、 少しでも形が歪めば、 もう元のそれであると証明する事は難しい
輪郭や、 色合いに至っても再現性が重要なのだ、 誰だってそれを平気でやってのける
何で? 何で描けるんだ? 俺が描くと余りにも形が歪んで見える、 全く別物になってしまう……
オリジナルの絵を描くのは楽だった、 適当に引いた線からだってどんな形にも繋げる事が出来る
そんな生き物は存在しない? そんな形は有り得ない? 非対称?
だから何? こいつはこういう物だし、 そういう風に描いたんだけど?
日暮の口癖だった
オリジナルの絵を描ける方が凄いと言う奴も居た、 でも俺の絵が誰かの心を動かした事はそうそう無い
絵が上手いやつが居て、 そいつの描く迫力のある『バトアニ』の絵の方が大いに盛り上がった
俺は思えば、 昔から1人で楽しんで、 1人で盛り上がっていた、 あの時まで……
『日暮君の絵かっこいいね、 新しいバトアニ?』
話しかけてきたの誰だっけ? あんま思い出せない……
『ううん、 オリジナル、 別に適当に描いただけだよ』
『凄い! オリジナル何だ! わ~、 この背中から生えた剣は何なの?』
背中から剣が生えて、 しっぽはハンマー、 体の一部が武器になったドラゴンを描くのが当時の日暮の流行りだった
『あぁ…… 適当だよ、 かっこいいから』
『まじか! あれだよね! 丸まって背中の剣を地面に突き刺しながら転がって来たりするんだよね!』
えっ…… そこまで考えてなかった……
『あははっ、 でも俺の絵は所詮、 大したもんじゃ無いから』
日暮はクラスの中で人だかりになっている、 バトアニの絵が上手いやつの席の方を見て言う
『そんな事無いと思うけどな、 僕はバトアニやった事無いしさ、 全然分からないんだよね』
へ~
『そうなんだ、 ゲームなら何するの?』
『あははっ、 ゲームを持ってないんだ、 家厳しいからさ、 ゲームやった事無いし』
まじか……
『え? じゃあ帰って何するの?』
『普通に勉強だけど?』
嘘だろ…… ゲームをしないで勉強? 都市伝説の域じゃん、 当時日暮はそう思った
『だったら、 放課後とかどっかの公園で一緒に遊ぶ?』
しかし首を横に振られてしまう
『無理だよ、 許されてないんだそう言うの、 真っ直ぐ家に帰らなきゃ』
困ったな~
この時日暮は不思議な位、 一緒に遊ぶ方法が無いか考えた、 もしかしたら絵を褒められて内心嬉しかったのかもしれない
『ならさ、 一緒に描こうよ絵、 二人でモンスター描きあって、 どっちが強いか戦わせようぜ』
日暮はそう言う遊びが大好きだった、 モンスターの下にヒットポイントのバーを描いて、棒人間と戦わせるのだ
『え? 僕も良いの? 上手く描けるか分からないけど……』
『あははっ、 楽しけりゃ良いでしょ!』
日暮はまた別のドラゴンを描いた
『コイツはものすごい威力のブレスを吐くことができるんだ! 空気だけで車が吹き飛ぶくらい!』
確かそいつは、 奇妙な形のモンスターを描いたな……
『こっちのはね、 体を自由自在に操って、 別の形にフォルムチェンジする事が出来るんだ!』
フォルムチェンジ、 そんな設定考えたこと無かった、 いっつも日暮はドカーン、 バコーンな威力重視男だった
かっけぇ………
悔しかったからもう一体描いてやった
『巨大なサメだ! 大きな牙が口の中からせり出す様に出ているんだ!』
でもなーんか物足りないな……
『おっ、 良いな~、 でもサメなら、 これが必要でしょ?』
そう言って俺の描いたサメの頭の部分に三日月状の切り込みを描く
『エラだよ』
『それだ! ゴツイエラがカッコイイんだよサメは!』
面白い奴だな、 いやほんとに面白い、 あんまり話したこと無かったけど楽しいな
その時から日暮とその子はしょっちゅう絵を描いて遊ぶようになった、 どっちがカッコイイ恐竜を描くか競った
どっちの方が強いモンスターを描き、 倒せるか競い合った
ノートや教科書は落書きだらけになった、 笑いあって、 ペンを走らせた
……今でも絵を描くのは好きだ、 そう思うのは一重にあの時の、 あの日の思い出があったからだ
でも…… そう言えば、 あいつどうしたんだっけ?
頭が良くて、 勉強が出来て、 少し猫背気味で、 そう言えば特徴的な痣があったな
いつからか学校に来なくなった、 何でか分からないけど、 少し寂しかった思い出もある
俺、 あの頃からあんま変わってないのかも、 もう一回一緒に絵を描きたいな………
………………………
…………
……
喉が熱い、 大きな声で叫んだからだ、 だが何だがよく分からないけど、 楽しい、 楽しくなってくる
「深谷離井!! 俺とお前! 第二ラウンドだぁ!!!」
ボロッ…… スタッ
離井は叩きつけられた壁を押して地面に飛び降りる、 明山日暮の能力、 ブレイング・バーストの威力はとてつもない
数千張った糸は全て断ち切られた、 それは人質と相手を仕留める仕掛けとして、 避難民に掛けていた糸だった
(……まあ、 それはどうとでもなる事だ……)
それよりも、 明山日暮、 こいついきなり動きが良くなりやがった、 何なんだ?
離井は右手を上に向ける
「パラサス・ダイブ」
能力を唱えると、 糸が形を成す、 長く先を尖らす、 あっという間に一本の槍が出来上がる
「おっらァ!!」
それを構えて、 槍投げの様に投擲した、 肉体操作の能力で離井は自身の筋力を底上げしている
超人の投げた豪速の槍、 それが日暮へと迫る………
日暮は……
ナタを縦に構える、 真っ直ぐ向かって来る肉の槍、 その威力を殺す様に
ジィッ!
槍が日暮のナタにぶつかり擦れ合う音が響く、 その槍はとても肉から出来たとは思えない程硬質な音を響かせる
が、 日暮はそのままにナタを横へと押す、 槍は弾かれる様に日暮の後方へと……
「パラサス・ダイブ、 芯状拘尺!! 槍よねじ曲がれ!!」
ぐにぁっ
威力を逃がし後方へと飛んでいくはずだった槍が、 引かれる様にその力の向きを変え、 それによりさらに長く変形、 日暮をぐるっと囲む様に形を変える
グッ!!
紐状に形を変えた肉の槍はそのまま日暮を縛り上げるように硬く引かれる
バキッ
「っ、 てぇ……」
肉の紐がくい込み骨が軋む、 それぐらいの力で拘束された様だ、 抜け出せない
「そのままそうしてろよ、 明山日暮!!」
グイッ
又しても離井の手に槍が作り出される、 しかし投擲では無い、 今度は自分から向かって来る様だ
バッ!!
離井の踏み込む音、 速い、 強化された脚力が瞬足の力を発揮させる、 あっという間に距離を詰めた離井が槍を構える
「死ねぇ!!」
横凪に振られる槍、 ならば……
「おらあっ!」
声を出して勇気を溜める、 向かって来る槍に対してこっちから近づく
!?
離井が一瞬驚いた様に感じた、 だが別に、 死にたがりな訳じゃねぇぜ……
ガキィンッ!!
相手の狙いを逸らす、 離井の槍が日暮に当たる、 しかし当たったのは俺を縛っているこれまた敵の肉の紐
バチッ!
槍の一撃が肉の紐を断ち切る、 槍がぶつかった衝撃が体を揺するが気にするな!
これで体は自由になった!
右足を上げる
「らぁっ!!」
バキッ!!
ローキックが離井に当たる、 だがこれも離井は体を糸状にほぐして威力を殺す
「効かねぇよ! てめぇのチンケな蹴りなんてよォ!」
だがそれでも良い、 これはそういうもの何だ、 格闘技でもそう、 蹴りを当てるために先にパンチをを当てる
人間の反射神経を上下に振ることによって、 反応速度を遅らせる、 つまり、 今の蹴りは囮、 狙いは……
左拳を握る、 パンチだ! しかもただのパンチじゃねぇぜ!!
「ブレイング・ブースト!!」
加速パンチ、 それを敵に叩き込む!
能力名を聞いて回避する敵、 だが……
遅い…… よくやる奴だ、 こっちがなんの為に毎度毎度でかい声で能力名叫んでると思ってんだ、 ただ叫んだだけ
能力は発動してない……
「遅い、 フェイントか!」
!
離井は拳の遅さに直ぐに気が付き反応する、 だが必要な事は知れたわけだ……
さっき作戦室で威鳴さんが言っていた、 自分の戦った敵は肉人形、 肉の糸を編んで作り出した存在
だから最後に糸を止める玉留めの部分があり、 それが弱点だったと
だが目の前のこいつは本体、 肉人形ならば肉体の内側は適当な作りをしても問題ないだろうが
こいつは生きた人間、 人間の基礎、 骨や内臓等があるこいつ自身がある筈だ、 こいつはその上に肉の鎧を着込んで居るはずだ
そして、 俺の一撃目のナタによる攻撃は避け無かった、 削った肉体が真の意味で傷つくことは無く、 すぐに再生した
それは奴の能力で作られた肉の鎧を切っただけに過ぎないからだ、 そして今のブーストによるパンチを避けようと過剰に回避した
それはブーストの加速した物体の衝突はこいつの本体としての肉体にダメージが通るとこいつ本人が認識、 または警戒しているからだ
それはつまり、 俺の認識、 こいつには本体としての、 この深谷離井としての肉体の基礎があると言う課程の裏付けになる
なら、 本体に届く様に、 今みたいな表面だけの打撃や、 斬撃はダメ、 内側に響く、 又は深い傷を入れなくてはダメージにならない訳だ
そう考えながら次の行動に移す……
左拳を引っ込める、 その連携で今度は右、 握ったナタを敵に向けて振るう
フュンッ!
敵は軽い動作で避ける、 でももう一撃! 更に連撃!
フュンッ! シュンッ! ビシアャッ!!
「チッ」
ナタがヒット、 離井が舌打ちをする
「大した事ねぇんだよ!! パラサス・ダイブ! 編作……」
パラサス・ダイブ、 『編作』それは離井の能力の真骨頂、 肉糸を編み、 意志を持った傀儡さえ形作る
例えばそれは、 この世には存在しない、 全く異形の存在でも、 離井の思い描いた様に……
「十頭生蘭獣!!」
ネチネチッ! ビチビチッ!
肉糸が高密度に硬く編み込まれ、 形を成す、 十の頭を持つ獣、 その頭全てが違う形、 違う特徴を有する
頭から刃を生やすもの、 牙が鋭いもの、 口から煙を吐くもの、 多種多様だ、 そしてこの手数も……
バッ!!
「おらおら! そいつばっかに意識が向いてると! 死んじまうぜ明山日暮!!」
そう言って笑う男、 さっきまで何か知らない恨み辛みを吐かれていたんだけどな、 何だよしっかり楽しんでるじゃん
戦いを!
「あははっ ブレイング・ブースト・シンキング!!」
思考速度の加速、 脳が限界を超えたフル回転をして、 周囲の動きの起動を演算し、 動きの最適解を導き出す
内側の獣、 それを認識した日暮は自身の肉体の使い方を百パーセント理解する、 普段ならば不可能な動き……
それでも
「見えた、 最適解!!」
バッ!
踏み込む、 それに合わせて十頭獣の首が向かってくる、 頭から刃を生やした首……
ガキンッ!
ナタを当てて弾きながら自身は更に前へ、 目の前には紫色の首、 その口から盛れ出したヨダレが地面を焦がしている
(……毒系だな、 先ずはこいつからぶった斬る)
側面から殺気、 横目で確認……
首がひだの様にブヨブヨの首、 分からん、 こいつは何をしてくる?
更に別の方向から別の首が口を開く、 その口から煙が出る……
「っ、 炎だろ!」
バッ! サイドステップで回避……
ボオォォンッ!!
っ!
予想道り、 吐き出される炎、 っても想像以上の火力、 ここまで火傷しそうな程の熱気が届く
更に間髪入れず首が突進してくる、 これはさっきのブヨブヨのよくわからん奴、 取り敢えずバックステップで射程圏外へと回避……
ブヨンッ ブヨンッ!
そんな音を立てて、 その首は……
「伸びたッ!?」
ブヨブヨのひだの分、 首が更に伸びる、 まじか、 それは想定できてなかった、 獣が大きく口を開く
(……噛みつき攻撃、 ならギリ回避間に合う……)
ウッ ボワァッ
何かが吐き出される、 それは黄ばんだ汚いモヤの様な、 ガスッ……
「うえっ!?」
本の一瞬、 吸い込んだかどうかの本の一瞬だけで猛烈な吐き気、 これはやばい……
タッタッタッタッ!!
足音、 敵本体、 槍を構えた離井が踏み込んでくる
「おらぁっ!!」
グシャッ!
「いったぇ!? っそが!!」
何とか身を逸らした体の横腹付近を相手の槍が抉る、 くっそ、 バカ痛いな
チリチリッ
炎を吐く首、 炎…… ガス……
ボオンッ!!
吐き出される炎、 それは俺には当たらない、 だが、 その炎はボヨボヨの首が吐いたガスへと……
引火!
ドガアアアアアンッ!!
「うっ!?」
爆風で目が閉じられる、 やばい……
ザクッ!!
「っ! 痛いっ!?」
クッソ! 刃持ちの首か! こんのっ!
クジャッ!!
首筋に痛み
「っ!?」
牙の生えた首が、 俺の首筋に噛み付いている、 くっそだ……
ドンッ!!
「うげっ!?」
硬質な感覚、 背中に、 頭突きか? そう言えば頭の硬そうなやつが……
多手続きの被弾、 ああくそっ…… いっつもそうだ、 いっつもこんな状態になるんだ
追い詰められて、 ボコボコにされて、 俺は……
俺は初めて……
あははっ!!
「喰らえ牙龍!!」
3本の首が俺に攻撃を入れた、 その距離、 この首を持つ本体のずんぐりむっくりなきっしょい手抜きの体がある
首がメインだから、 体なんかどうでもよかったんだろうが……
クジャッ!!
音を立てて、 ナタがその体に食い込む、 この首が全部繋がっている体を喰らい取ってやれば!!
バシャアアアンッ!!
ナタが食らう様にその体を抉り飛ばす、 それによって10本の首が宙に置き去りにされ、 ボトボトと首が落ちる
全く嫌になる……
「ここまで被弾して、 近ずいて! その体を抉り飛ばすのが最適解だなんて導き出しやがるんだからな!!」
バタッ バタッ……
死んだ首が地面へと落ちていく、 これで十頭獣はお終いだ!
っ!
シャキィンッ!!
そう呑気もしていられない、 離井の槍がギリギリ回避した日暮のすぐ横を過ぎ去る
「パラサス・ダイブ! 芯状拘尺!!」
又しても槍が変形、 ねじ曲がって紐のように……
でも、 遅いんだよ!
バッ!!
恐れは無い、 逆に踏み込んで前に出る!
「オラァッ!!」
グシャッ!!
振るったナタが敵の槍を持つ手に食い込む、 敵の手を喰らい飛ばす!
「あがっ!? クソが!!」
ボコボコ……
腹、 敵の腹が膨れる
「パラサス・ダイブ! 編作・丁張蟲鋏!!」
グシャッ グシャッ!!
敵の腹を破って、 ハサミのような刃を持った虫、 クソでかいクワガタムシが頭を出す
日暮は、 既に踏み込んで敵に接近している、 ここから回避は……
踏み込む足に力を入れて、 腰を軸に上半身を後方へと捻る、 そのまま体を沈め、 低く、 敵におしりを向けた状態で地面に手を着く
ジャキィンッ!!
深く沈んだ体、 日暮の背中のすぐ上で鋏の閉じられる音が聞こえた、 やっぱり、 硬そうな見た目、 首の可動域は狭いと思った
そして、 日暮はその体制から、 回転方向に、 足をあげ、 蹴りを放つ
「ハボジアハイアッ!!」
日本の裏側から、 日暮の感性を刺激したくっそカッコイイ蹴りだ……
だが……
「っ! その蹴り! 知ってるぜ!」
顔面を狙った蹴り、 しかし離井は後方に上体を逸らし、 スウェーで避ける
っ! 知ってんの?
「さっき威鳴の奴も使って来やがったからな! 肉人形と俺は繋がってんだ! よ!」
体制の悪い俺に今度は離井の蹴り、 その足からは刃が生えている
ジャキィンッ!!
グシャッ!
「ってぇ!? なぁ!!」
腕を出してガード、 と言っても刃が骨まで達する感覚がする
だが……
悪くない、 悪くないんだ、 今敵の蹴り足が上がって俺のあげた腕にくい込んでいる
相手は一時的に体制が悪いんだ、 よかった、 どこで使おうかと思ってたんだ……
さっき作戦室に落ちていたから拾っておいたんだ、 結構短い物だったから、 今履いてるカーゴのデカ目のポケットに入ったんだよな……
それは先端が尖っている、 打ち出される道具である、 先端は足先に向かって入っている、 その数は五本
「おらぁッ!!」
右手でナタを振るう…… 動きをする、 敵は反応し、 蹴り足を戻す動作を……
グッ!
更に踏み込む、 足を上げる、 前蹴り、 持ち上げ溜めたテンションを打ち出す!
「っ! 蹴りか! てめぇはそればっかだ!!」
バシッ!!
早い反応、 まだ加速仕切ってない蹴り足を掴まれる、 これで俺の方がまた体制が悪くなった、 良いんだよそれで、 狙ってやったんだから
わざわざてめぇの方を向いてる俺の蹴り足を掴んで、 固定してくれたんだからな
この蹴り足、 そのズボンのポケットに入ってるんだからな!
「ブレイング・ブースト!!」
加速、 空気圧による加速、 それがスボンのポケットの中で膨れ上がり、 押し出されたそれは、 前方に勢い良く打ち出される!
バシュンッ!! バシュンッ!!
グシャッ グシャッ!!
「っがァ!! あああっ!?」
「あははっ! 土飼のおっさん達がバカスカ無駄打ちしたって言う、 クロスボウの矢だ!!」
何か使えるかもと思って拾ってたんだよ、 矢は敵を貫通して向こうの景色が見える状態つまり……
「うっ! あああっ!?」
「あははっ! 内蔵系がぶっ壊れたか? だが! まだだ!!」
ナタを握る
「おらぁ!!」
グシャアアアッ!!
「ああ!?」
間髪いれない攻撃、 予想外のダメージは相手の判断速度を鈍らせる、 つまり叩き込むならここしかない!!
もう一撃!
ビシュルッ!
糸を巻く音、 奴の手が肉の糸を引く、 それに引かれ糸の斬撃……
カッ!
足音を立てて踏み込む、 前へ!
ビシャンッ!
「っ! んなもん!!」
糸による斬撃は軽い、 その程度じゃ全く引く気にはならねぇ!!
「オッラァアアッ!!」
グションッ!!
「ぎゃああああっ!?」
もう一撃、 今度のはもろに入った!
でも止まらねぇぞ!!
足を上げる、 今なら当たるだろ……
「っ! だからテメェの蹴りは……」
見ている、 離井はよく見ている、 反応する俺の蹴りに、 俺の蹴りに意識が向きすぎている
だから……
どすっ!
「うっ!?」
顔面に軽い衝撃、 俺の右手拳が硬く握られている、 さっきまでナタを握っていた筈だが、 そのナタは無い
軽いパンチ、 ほんとにジャブにも満たないその程度のパンチ、 だが確かに当たった
蹴り、 下を意識させて、 更にさっきまで自身へとダメージを入れていたナタが握られている筈の右手によるパンチ
それは離井の想定を上回った……
だが、 だからなんだって言うのか? この弱いパンチが当たったからってなんだと言うのか?
そんなものが当たったからって、 なんのダメージも無い……
でもこれで良いんだよ、 これはまだ見せてなかったからな!
ボンっ!
拳が膨れ上がる、 これは握った拳の中に空気圧を溜めて、 その威力のまま拳を相手へと打ち出す攻撃!
「ブレイング・ブラスト!!」
ドッ!!!
「うげぇあっ!?」
バジャアアアンッ!!!
ベキッ!
「ぎゃああああああああっ!!?」
手応え、 そのパンチによる衝撃は、 敵の肉の鎧を容易に通過し、 その内側の離井本体へとダメージを与える
衝撃により、 首が強引にねじ切れ、 血潮を上げる、 首の骨がバキバキに折れ、 今にも飛んで行きそうになった
内で響いた衝撃は頭蓋骨まで到達し、 ひび割れ、 脳に亀裂が入った
大ダメージ!
あがあ…………
……
あははっ!
「あははははははっ!! 今の手応え! 最高に気分いいぞ!!」
良い、 気分が良い、 普通なら死ぬ一撃、 でも回復してくる、 きっと回復してくる
なら……
パシッ!
フェイントで殴る為に空中へと投げていたナタをキャッチする、 そのまま……
「らぁっ!!」
ぐしゃあっ!!
吹っ飛ばした顔面の付け根、 肉の断面が除く首へとナタを叩きつける
「あははっ! まだまだ!! じゃあっ!!」
びしゃっ! ぐしゃあっ!!
あははっ!!
「終わんねぇぞ!!!」
らぁっ!!
グシャアッ!!
ナタを打ち付ける程に、 ナタが敵の肉を喰らって、 その傷を徐々に大きく、 惨たらしく血肉を撒き散らす
いいね! 楽しいね!!
「あはははははっ!! あと何回! てめぇが消えて無くなるまで!!」
ビシャンッ!! ビシュッ!! ジギィンッ!!
「全部抉り取ってやる!!」
ああ~ 楽しい! 楽しい! 楽しい!!
「あはははっ! 楽しい!!」
脳が痺れる、 なぁそうだろ! 俺が手を停めれば直ぐにでも再生してくるんだろ?
だったら!
「ここで殺し切る!! あはははっ!!」
勝つ為だ、 勝つ! 勝つ!!
絶対に……………
日暮は最高に楽しかった、 目の前の敵を殺すことばかりで既に周りの事何か頭に無かった
ここが何処で、 どう言った状況なのか、 忘れていた……
ナタを更に握って……
バシッ!
「やめろ日暮! もうやめてくれ!!」
っ
「あ?」
誰だコイツ? ああ……
「日暮…… お前こんな事、 人殺しだぞ! なんて事を……」
「馬鹿か、 お前、 離せよ」
俺の振り上げた手を掴んで止めたのは、 父親だ、 そうだったシェルターか、 見れば俺の家族や、 他のやつも呑気に見ている
「離さない、 日暮、 俺は決めたんだ、 もう離さない、 お前だけが戦うなんてダメだ、 なんだって皆で解決しよう」
「母さんも、 茜も、 親父もお袋も、 別の所で待ってる、 皆で戦おう」
……………は?
「何いってん? 戦うって、 ならお前も殺せよ、 敵が目の前に居て、 何もしないだろ、 何時までここにいんだよ邪魔くせぇ」
こいつら……
「さっさと消えろ、 ゴミカス、 こっちは今最高に楽しんでんだよ、 死にたくなかったらどっか行け!」
ドスッ
何だか必死こいた顔で訴える父親、 コイツが手を離す前に俺が突き放す、 呑気に見てる他の家族や、 知らん奴らを睨みつける
はあ……
「ったく、 邪魔しやがって、 引きこもりのクズの癖に、 ゴミみたいなタイミングで出しゃばってくんな………」
ペシンッ!!
言い切る前にかわいた音が鳴る、 その音はこの広い広間に妙に大きく響いた
「いい加減にしろ! 日暮!! 何があったか知らないが! 俺は父親だ!! お前を守るんだよ!!」
?
「俺は! お前を止めるぞ! お前の罪は俺も背負う! それが父親だ! お前を何度でも殴って止める!」
………………………………………
………………………………………………
殴る?
……………
……
「もう良い、 つまり敵か、 殺す」
平気でその殺意を向ける、 家族、 だから何? どうでも良い……
そのナタを平気で父親に向ける
あ~あっ
「後悔しろ、 てめぇ自身の下らない心がてめぇを殺すんだ、 後悔しろ……」
敵に向ける殺意で、 目の前の父親が状況を理解するよりも早く、 ナタを打ち付け……
…………
……
ドグシャアアッ!!
うっ……
?
「うっ…… えぇっあああ!?」
「……………は? 日暮?」
目の前の父親が困惑の声を上げる、 腹が熱い、 えっ?
「うっ、 ああああああ!!」
父親の手、 それがこちらに向けて伸ばされ、 歪に形を変えて俺の腹を貫いている
は?
何が? は?
……………………………
……………
「………パラサス・ダイブ」
背後から声がする、 いやそうだよな、 もう回復しやがってたよな……
「ありがとう、 さっきまで俺の親をやっていただけあるね、 父さん?」
「あ? え? 何で俺の腕が……」
父親は困惑の声を上げる
「俺はさ、 あんたらの事、 偽物の家族でも本物の家族より好きだった、 だからあんた達には生きていて欲しかった」
「保険だった、 俺の体の一部を能力で切除して、 明山家族に埋め込んでいたんだ」
「俺が近くにいれば、 こんな風に攻撃して守ってやれるって、 そんな程度の保険さ」
「だから近ずいてくれてありがとう、 明山日暮を挟んで、 俺と直線上の位置に立ってくれてありがとう」
「お陰で、 あんたに埋め込んだ肉片と、 俺が繋がった、 あんたの腕を介して、 本体の俺に繋がった!」
「明山日暮! お前の腹を貫けた!!」
ああ、 そういう事ね、 成程、 準備があったのね、 知らねぇよそんなの……
って言うか……
「あははっ、 ああっ、 腹貫かれるのはこれで三回目……」
街で二回……
「そうかよ! でもッ!」
腹を貫抜かれた日暮の背後で、 離井は笑う
「あははっ! 死ぬのは初めてだろ!! パラサス・ダイブ!! 編作・偽郭縁劣像!!」
質量任せに作られた槍を持つ巨像の様な腕が現れ、 日暮に向かって打ち出される
ドズッ!!
「っ! ぅがあっ!?」
槍が胸を貫いて、 そのままの勢いで体を引っ張り全部外に漏れ出そうな……
ごしゃあっ!!
?
槍が柄まで貫通し、 その勢いのまま巨像の腕に殴られる
「そのままぶっ飛べ!!」
ドンッ!!
離井がそう叫ぶと巨像の腕が勢いに任せて打ち出される、 わけも分からないまま……
ガシャアアアッンッ!!!
壁に叩きつけられた、 巨像の腕がどいた時にあったのは、 潰れた死体
梅雨の時期に不運にも道路へ飛び出し、 タイヤに押しつぶされて死んだカエルのように
赤黒いシミになった日暮が落ちていた
「あはははっ! 明山日暮! 楽しいよ! 戦いは! 最高だぜ!! 運も実力の内だよなぁ!!」
追い詰められて、 死の淵で掴んだ幸運
「お前の敗因は! 呑気すぎる家族の元に産まれた事だ! てめぇは家族に殺されたんだよ!!」
あはははっ!!
もう、 さっきまでの一方的に抱いていた日暮への嫉妬心は死んだ、 純粋に戦いを楽しんだ
最高に脳が痺れる
誰もが理解出来ていないこの空間で、 今本当に自身の息子や、 兄を目の前で失って
それでも涙よりも、 先に疑問が頭に浮かんでくる愚かな馬鹿ども、 そいつらは一様に潰れて死んだ、 明山日暮の事を見ている
なぁ、 明山日暮……
「わかった気がしたよ、 お前が戦いの時何でそんなに楽しそうに笑うのか……」
昔、 小学生のあの事件よりも前、 懐かしい記憶だけど楽しい何かがあった気がする
あまり覚えてない、 だけど学校だ、 誰かと笑いあって過ごした様な
あんまり笑うのが上手くない俺がつられて笑ってしまうような、 そんな誰かがいた気がする
よく覚えてない
だけど……
少なくとも今は……
「俺は最高に楽しいぜ」
そう言って離井は勝利の感覚に魂の震えと共に笑った




