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代六十三話…… 『前進の一歩・11』

猿帝血族は去った、 当初の計画とは大幅にずれている、 こんな事は過ぎた後だから言える事だが、 これで良かったのかも知れない


俺の復讐なんだ、 俺自身の、 他の何者も関係ない、 俺の恨みなんだ、 だから俺1人でやるべきなんだ


十分出来るはずだ、 俺の能力なら、 現代に現れた魔王として、 他の誰もの頂点に立つ


殺すんだ、 俺が、 俺が殺すんだ、 この手で…………


「悪いね君、 手伝って貰って、 そう言えば名前を聞いていなかった、 私の名前は深谷智みやさとる、 君は?」


藍木シェルターの薄暗い倉庫、 そこに2人の人物、 目の前の人物は自身をそう名乗った


この生活で疲れ痩せている様だが、 元々はどっかの会社の社長だ、 まだたったの一ヶ月ちょい、 この程度大した事ないだろ


心が裕福な奴はこんな状況でもにこにことしていて、 その顔に作り物らしさは感じない


見ていてムカついてくる、 だがそれで良い、 それで良いんだ、 だからこそ良い


「俺は、 明山日暮です、 これくらいの事は手伝います、 皆大変なんですから、 俺も何かしなくては」


勿論ここに居るのは深谷離井みやはないだ、 この時離井は本物の明山日暮が既にこの建物の隣、 作戦室の方に帰って来ている事を知らない


そして離井にとって目の前の男は実の父親だ、 2人きりになれる機会を作り出してここに呼び出した


この男は幼い頃から俺に厳しい言い付けと過大な学習時間を押し付けて、 ろくに親としての義務も果たさず、 ただ俺を締め付けた


俺はそれをキッチリ守った、 期待に応えて来た、 だが……


『離井、 お前今日女の子の着替えを覗いたらしいな、 担任の先生から電話があったぞ』


俺は、 俺の事を一方的に嫌っているクラスメイトの女子に陥れられた、 そしてその女子や、 担任の言うことをこの男は疑いもせず信じた


俺を叱責し、 罰を与え、 母親と揃って俺を軽蔑し、 勝手に失望して、 俺を捨てた


捨てられた、 その先で俺は絶望を知った、 世界を更に深く、 深く恨んだ、 この恨みを忘れては行けない


そんな離井の心を知らない男は質の良い笑顔で笑いかけて見せた


「そうか、 日暮君か、 いい名前だ、 素晴らしい、 やっぱり若者には敵わないな、 年はいくつだね?」


確か……


「21です」


明山日暮の情報を多く集め、 完璧な明山日暮を演じている、 本人の家族すら俺に違和感を抱かない


もはや俺が明山日暮として過ごしても良いが、 それは平穏の道だ、 復讐心を忘れた愚かな道だ


「21…… か、 そうかそうか、 そう言えば、 私の息子も同い年なんだ」


そうしみじみ呟く、 良くもまぁ、 不肖の息子扱いした俺の年齢を覚えてやがっあなぁ


「へ~ そうなんですか」


適当な相槌を打つ、 さて、 そろそろだな


ガサリッ


倉庫の奥で音がする、 男にも聞こえた様だ


「なんの音でしょう? 確認しに行ってみましょう」



「うっ、 うんそうだね」


有無を言う暇を与えない、 引っ張るように連れていく、 薄暗い倉庫で男はそれを見つける


「っ! 綾香あやか! どうしてこんな所に……」


深谷綾香、 離井の母親、 男の妻になる、 綾香は倉庫の壁に背を着いてヘタリ込み眠っているかの様だ


男、 智は綾香へと駆け寄っていく、 その肩に触れて揺する


「どうした綾香! 起きろ!」


少しすると小さく唸って綾香は目を覚ます


「あなた……」


彼女は智の腕を掴む、 顔は泣き崩した様にベチャベチャで、 智は彼女を抱きしめる


「どうしたんだこんな所で、 トイレに行くと言ってたのに、 何があったんだ? 道に迷ったのか?」


智はとても動揺していた、 ただでさえ10年前のあの日から彼女の心は弱っているのに


「あなた…… 私は、 私達は間違っていたのよ、 私達が間違っていたの」



「? なっ何を…… 言って」


グッ


綾香が智の腕を掴む手に力が入る、 その力は弱った女性の力では無い、 すごく強い力だ


「っ!? いっ、 痛いよ綾香、 そんなに強く握らなくても、 俺は何処にも……」



「ごめんなさい、 ごめんなさい……」


何だ?


「何に謝っているんだ?」



「違うのよ、 大切な物をもう既に置いて、 私達は何処かへ行ってしまったのよ、 彼を、 離井を置いて……」


離井……


「綾香…… あの日以来君は離井が居なくなって事実を受け入れられず、 目を背けようとしていた」


どうして今になって……


タンッ タンッ タンッ


足音が響く、 この倉庫の中に、 軽やかな足音が響く


「……君は、 日暮君、 何故、 何故笑っているんだ?」


笑わずに居られるか


「あははっ、 なぁ、 それ人違いだぜ? 俺は明山日暮じゃねえ、まあ分かんねぇだろうな」


「そこの女も忘れてしな、 だから思い出させてやった」



「お前が! お前はじゃあ誰なんだ!!」


離井は笑う


「パラサス・ダイブ、 能力全解除」


ベチャッ ベチャチャチャッ!!


離井に張り付いた肉の外面が落ちていく、 その本体が顔を晒す


俺は昔から散々人に忌避された、 それもこれもこの見た目のせいだ


猫背気味な体幹、 弱い視力による睨むような目、 ボサボサに癖の付いた髪、 生まれつきの大きな痣


「っ!? まっ、 まさか!」



「てめぇの息子、 離井だよ、 てめぇらの捨てた息子さ!!」


「パラサス・ダイブ、 連緬鋼糸切断鑚れんめんこうしせつだんきり!!」


能力を発動すると落ちた肉が疼いて鋭利な幾何学模様を描くブレードが形を成す


「てめぇらを!! ぶっ殺す為の力だ!!」


離井が刃を構える


「やっ、 やめろ! 綾香逃げるぞ! 早く立て! 何やってっ!」


タンッ タンッ


「気が付かねぇのかぁ? その女はもう二度と立ち上がれない様に、 両足の腱をぶった切ってある」


「そしててめぇは、 その女に掴まれて動けねぇだろ!!」


タンッ タンッ


「っ、 綾香! まず私の手を離すんだ!!」



「……もうダメなのよ!! もう駄目なの……」


タンッ タンッ


「あははははっ、 いい気味だぜ、 その女の体は! 俺の能力の支配下何だよ!!」


笑える、 最高に笑える、 だけど俺はこいつらを嘲笑する為にこんな事を始めた訳じゃない


「っ! お前の目的は何だ離井ぃ!!」


はぁ……………


「分かるだろ、 復讐だよ、 ……殺す」


グッ


ブレードを強く握り込む


「やめろ…… やめろ! 悪かった! 後悔してるんだ! 私が間違っていた! だからやめっ………」


グシャアッ!!


一閃、 鋭すぎる刃は、 男の胴を両断し、 そのままの勢で、 女の顔面と、 その後ろの壁まで到達する切断痕を残した程だった


ベチャッ! バチャッ!


最後はあっけなく、 ふたつの死体は地にへばり付いた、 復讐は呆気ないくらいが良い


「………さてと、 あとは俺を嵌めやがった元凶の女、 あいつ、 後、 手始めにシェルターの人間を全員殺す、 出来るだろ俺なら」


「パラサス・ダイブ………」


そうして離井はもう一度肉の皮を被る、 明山日暮、 とことん利用させてもらう


そう言えば……


「こいつ、 俺と同い年だってな、 あははっ、 にしてはあんまりにも老けたやろうだ、 やりたい事は何一つない」


夢も無い、 希望も無い、 下ばっか見て、 他人との会話も無い、 人から話を聞いただけの明山日暮の姿は余りにも


「年寄りくせぇ」


だが、 聞いた所によるとこの世界になって彼はすこし笑える様になったらしい


「狂った戦闘狂、 生まれる時代を間違えた、 お前も、 俺も、 本物の明山日暮よ」


あははっ


「お前は今どうだ? あの街で死んだんだろうが、 あの世で笑えてるか? 俺は笑ってるよ、 勿論あの世でも笑える」


今が最高に……


「最高にいい気分だぁ!! あははははっ!」


そんな彼の陽気な声は薄暗い倉庫の闇に段々と溶けて行った


………………………………


……………………


………


ん?


「あっ! ちょいっ、 雪ちゃんどこ行くの?」


作戦室の二階、 会議スペースに女性職員達が臨時の休憩スペースを作ってくれたと言う


そこに向けて階段を登っていたが、 その途中で突然雪ちゃんが階段を降りて走って行ってしまった


奥能おくののおっさん、 先行ってて」



「えっ? おいっ! ったく……」


そんな声を後ろに浴びて走り出す、 雪ちゃんを追いかけて


正面玄関から外に出る、 死臭漂う作戦室を飛び出て、 外の空気を浴びた時、 確かな開放感を感じた


雪ちゃんの歩幅なら流石に追い付く


「っ、 雪ちゃんさん! 今度は何を?」


シェルターの敷地は鉄作で周囲を囲まれている、 そして敷地内に入るにはゲートを通る必要が有る


「うわっ!?」


ゲートは破壊されて吹き飛んでいた、 日暮は知らないがこれは肉人形の深が破壊した物だ


ゲートの隣には管理人小屋が有るが勿論中に人は居ない


そして…………


「また死体だ……」


肉人形の深に殺された五人だ、 雪ちゃんは彼らの手前で止まる


魔国式結界まこくしきけっかい炳霊咖彩へいれいかいろ


雪ちゃんから光が溢れ死体に群がる、 何が起きているかは分からない、 ただそれだけで……


「うっ…… 何が……」


声を上げて起き上がる、 死者蘇生、 その景色は、 どこか現実味が無く、 馬鹿馬鹿しいB級映画を見ている様だった


雪ちゃんの隣に立って彼女の頭に手を置く、 彼女は不思議そうに俺を見上げた


俺は彼女の前に出る


「皆さん無事ですか? 皆さんが戦ってくれたから戦いは終わりました、 シェルターは無事です、 お疲れ様でした!」


シェルターが無事かどうかなんか知らないけど


「終わったのか…… あれ? でも俺達って……」



「皆さんの家族が待ってます!! しかし一旦状況の整理を、 作戦室に向かいましょう!!」


有無を言わせない


5人の隊員は皆わけも分からずと言った感じで、 しかし戦いの終わりを喜び、 頷いた


「君、 日暮君だよね、 君がここに居るってことは、 本当にシェルターは無事なようだ」



「シェルターの中はどうだ? 皆やっぱり怖がって居たかな? 私の子供達は……」


???


まるで俺がシェルターの内情を知っているかの様な言い方だ、 俺は今帰ってきた所で勿論そんな事は知らない


まあ良いや


「……俺も、 自分の事で精一杯だったから、 周りに目が行ってませんでした、 ごめんなさい、 でも皆無事です、 皆さんのお陰で」


誰もがその言葉に深々の頷く


「そうか、 まあ、 日暮も大変だったよな、 俺は君の事どうとも思ってない、 君はまだ若いんだ」



「俺の息子と同じくらいだしな」


そんな事を話始める男たち、 何だ? 話が噛み合わない、 まあなんにせよ


「皆さん作戦室に向かいましょう、 仲間たちも皆待ってますよ」


隊員達は今度こそ作戦室に向けて歩き出した、 俺はもう一度雪ちゃんの手を引いた


…………………


…………


ガチャリッ


ドアノブを捻ると全員分の視線が俺達を指した


「……おう日暮、 来たか」


奥能さんだ、 そして俺に続いて、 雪ちゃんと、 5人の隊員が入ってくる


「関さん、 それに皆も無事だったか!」


その声は土飼つちかいの物だった、 よく見ると土飼は目に大粒の涙を浮かべて鼻水を垂らしている


(……そう言えば前に冬夜と行った雀公園の調査の時も、 帰りが遅くなっただけであんな感じだったな)


日暮は呑気にそんな事を思った矢先、 土飼の視線がこちらを向く


「日暮君!!」


ドス! ドス!


そんな足音を立てて土飼がこっちに向かって来る、 俺に近づくとガシッと肩を掴み声を出す


「ありがとう!! 君のお陰で皆助かったんだ! 本当にありがとう!!」


え?


その後小声で土飼が呟く


「こう言う事にしておけば良いんだね…… 後で詳しく説明を頼むよ」


俺は小さく頷く


「それじゃあ、 日暮君疲れたろ、 皆も少しだけ休んでくれ」


その言葉を合図に皆腰掛けたり、 話を始めたり、 きっと本当はすぐにでも会議を行いたい所だろうが、 みな疲弊しているのだ


「日暮くん、 お疲れ様!」


そんな声が聞こえてそちらを振り返る、 そこには同級生で、 今は作戦室の事務員をしている女の子、 菊野和沙きくのなぎさが居た


「よっ、 菊野、 無事だったか?」



「うん! 日暮くんが助けてくれたお陰だよ、 私あの時は本当にどうなるかと……」


菊野は猿帝血族の邪馬蘭やばらに襲われかなりギリギリだったからな


「今ピンピンしてんだから大した奴だよ、……頑張ったな」



「っ!? ……急に、 そういう事真剣に言わないで」



「ううん、 なんでも無い、 それより日暮くん、 凄いことになってるけど良いの?」



「何が?」


菊野は呆れた様に首を振る


「全身血だらけで真っ赤だよ、 大丈夫なの?」


あ~、 服は着替えてもそりゃそうか


「拭きたいけどな……」



「待ってて」


彼女は水と清潔なタオル、 後桶を持ってくる


「あんまり無駄遣いは出来ないけど、 はいっ」


水で絞ったタオルを渡してくれる、 それを受け取り、 顔を拭くだけでもだいぶ良い、 マシになった


「相変わらず物怖じしないなお前は」



「舐めないでよね、 友達をさ」


互いに笑う、 学生の頃だったら互に自身の気持ちを誰かに見せようとはしなかっただろう


グイグイ


すると服の裾が引っ張られる


「お兄さん、 この人誰なの」


え?


「ああ、 俺の友達だよ」



「そうそう、 日暮くんの友達の菊野だよ」


そう言って柔らかい笑顔で菊野は雪ちゃんに笑いかけてみせる


「ふ~ん、 ただの友達ね、 なら関係無いね、 私とお兄さんはもう家族みたいな物だし」


は?


「えっ……」


菊野がこの世のドブを煮詰めた様な物を見る目で俺を見てきた、 おいふざけんな


と言うか……


「雪ちゃん何か機嫌良いの? さっきからえらい饒舌じゃん、 向こうに居た時は静かなイメージだったのに」


何となく聴いただけだった、 だが一瞬何かよく分からない不安に掻き立てられる様なそんな気配がして、 雪ちゃんがこっちを見た


「……そうかな? お兄さんとの外出が楽しいの♪」


にこりっ、 と笑う顔は少女の顔だ、 だが何処か底知れぬ圧力の様な物を感じる


「そっ、 なら良いんだけど」


でも俺はこの時それ以上に特に何かを思う事はしなかった


……………………


「さて、 皆そろそろ話を始めたい、 一旦集まってくれるか」


五分程休憩すると土飼が皆に声をかけた、 皆の視線が土飼に向く


「改めて皆お疲れ様、 皆の奮闘のお陰で猿型モンスターの撃退に成功した、 よく頑張ってくれた」


「だが見ての通り被害が全く無い訳では無い、 その為この後は今回の戦いの事後処理を行う事になる」


そう説明する土飼、 すると


「あの土飼さん、 俺はその前に家族に会いたいんですが……」


まあ当然の意見なんだろうな、 だが土飼は首を横に振る


「おそらくシェルター側には何の被害も無かった筈だが、 それでも皆緊張感の中で心が磨り減っているだろう」


「そこに皆でドカドカと入って行けばどうなるか? 皆さんの家族は皆さんを見て戦いの終わりを理解するかもしれない」


「だがそれ以外の者、 実際にこのシェルターも人が多く、 情報の伝達が上手く行き届いていない方も何人か居ると聞く」


「だからこそ、 シェルター避難民全員の事を考えればまずは少ない人数で向かうべきだろう」


「そうだな、 大望たいほうさんに話を聞いてみよう、 大望さんはシェルターのリーダーだし適任だろう」


「こちらで対応してくれと言われればもちろん俺が向かう、 自分で言うのも何だが少なくない人から支持されている自覚はある」


皆がうんうんと頷いている、 こういう所は流石だな土飼のおっさんは


「あとシェルターの内情を知っている日暮君も来てくれると助かる」


ふぁ!?


内情………………… ?


知るわけない、 ってか家族を避けて行ったことすらない、 街から帰ってきたばかりの俺に?


だが土飼の目を見て理解した、 よく分からないけれど何か意図がある様だ


俺は大きく頷く、 その後話は纏まり、奥能さんが指揮をとりこの作戦室の問題を


そして俺と土飼さんは大望さんが居る部屋へと向かっていた


コンコンッ


ノックをする、 流石だ俺だったら何も考えずに蹴破るかもしれない


しばらくすると人が近寄ってくるような音がしてガチャリとドアが開かれる


金色


金色の美しい髪が特徴だった、 あまり見かけないから、 それに宝石の様な翡翠色よ瞳も綺麗だと感じた


それに……


「え? メイドさん?」


ドアを内側から開け、 俺達を迎えたのは優雅なメイドさんだった


「……………異世界?」


彼女は微笑み、 その後俺達に部屋に入れと指示を出した


「………大望議員、 居りますか?」


土飼はそう声を出す


「ああ、 土飼君か、 入ってくれ」


そうして初めて入ったその部屋はとてもシェルターのリーダーであり、 元議員が仕事を行う部屋とは思えない程質素な物だった


大望議員はパイプ椅子から腰を上げるとソファーを勧めてくる、 よくある感じの偉い人の部屋っぽさはある


腰を下ろすとメイドさんがお茶を入れてくれているのが見えた


「……………あの大望議員、 ひとつ聴きたいのですが、 彼女は?」



「ああ、 そうだったね、 彼女はメイド長の幽霊、 レイリアだ、 私の能力でね、 死んだ魂を呼び、 生命定義を与える事が出来る」


大望議員にも能力があったのか


「鉢倉…… 化け物を倒した剣士が居たろ、 彼も私が呼んだんだ」



「ああ、 あの強い剣士も」


剣士ね、 さっきの剣士がそうなのか


「彼女は大望議員とはどう言った関係で? いや、 めったな事を聞く気は無いのですが……」


はぁ……


「土飼のおっさん、 んな事は今大事じゃねぇ、 そのメイドさんは見方だろ」



「……その通りだ日暮君、 君とは初めて話をするが、 聞いていた通りの人間らしい」


どういう事やねん、 だがまあんな事は良い


「色々話さなくちゃ行けない事は有る、 でも一つだけ俺は聞きたい事がある」


土飼は頷く


「さっきから俺は変な事ばかり言われる、 俺はシェルターに行ってないし、 さっき帰ってきた所だ、 内情も知らない」


「でも、 俺がまるでずっとここ、 しかもシェルターにいたかのように言われるんだが? なんか知ってます?」


土飼は息を吐く


「君からしたら信じられない話だろうが、 これは大事な話だ良く聞いてくれ」


「我々の認識の話だ、 君、 明山日暮は一週間程前にこの藍木あいきシェルターから、 甘樹あまたつ駅前へと遠征へと出発した」


「だが、 その同日、 夕方頃、 君はここに帰ってきたんだ、 理由はモンスターや、 それらとの戦闘への恐怖だそうだ」


は? 俺には全く理解できない気持ちだな、 怖くなきゃ面白く無いだろ


「……続けるぞ、 俺達はそのまま日暮君を受け入れた、 彼は、 その足でシェルターに向かった、 家族に会いたいと」


「それから俺達は何も言えなくてな、 違和感はあったが、 その…… シェルターに居る君は凄く家族らしかったんだ」


あっそ……


「気を悪くしないで欲しい、 きっとそうある様に演技していたんだろう」



「家族も気が付かなかった訳?」


おそらく…… と土飼は頷く、そのタイミングで、 ガチャリッ、 とこの部屋のドアが開いた


「それに対して俺も言う事があります、

っと失礼します~ 威鳴です」


威鳴千早季いなりちさきだ、 そう言えば彼は冬夜と共に藍木山に向かったはずだが


「俺は冬夜君と藍木山に向かってないんだ、 不覚で申し訳無いけど、 当日の朝ぶっ殺されてね、 能力で何とかなったけど」


え?


「しかし、 私達は君が冬夜君と共に出発したのを確認して…… いやまさか、 今シェルターに居るのはそいつなのか?」


土飼は顎に手を当てる


「でしょうね、 肉体を改造…… とは違うな、 肉を糸状に変えて、 それを自身へと編み込んでいるんだ、 それを操る能力か」


「さっきね、 奥能さんと戦ったので、 肉の人形みたいな、 殆ど人間何ですけど、 作り物だった」


そう言えば……


「この作戦室を襲ってきた化け物、 あの剣士が倒した化け物も体を自由自在に操って居た」


土飼の言葉に威鳴は頷く


「何方も本体に生み出された肉人形なんだと思う、 そして今本体はシェルターで日暮君に化けている」


成程ね……


「冬夜はどうなったか分からないんですよね?」



「そうだね、 彼も未だに藍木山から帰ってこないんだ」


一瞬最悪の想定をしようとして首を振りったくる、 無いな


「まあ、 冬夜は大丈夫だな、 あいつは色んな意味で強い」



「我々も彼を信じている」


なら良い、 勝手に諦められていたら悲しいしな、 あいつはそう言う人の期待を力に頑張れる奴だから


そして理解した


「俺は今からシェルターに乗り込んで、 その偽物ぶっ殺してくれば言い訳ね」


皆がこちらを見る


「日暮君、 君の怒りも分かるが、 それでも恐らく相手は人間だ、 モンスターじゃ無い、 殺せば人殺しになる」



「……だから何?」


…………


「……日暮君、 君、 遠征先の甘樹の街で………」


おいおい……


「んな訳ねぇでしょ、 殺されそうにはなったけどな、 そいつを殺そうともした、 でも無理だった、 強かった」


はぁ…………


でかいため息が聞こえて来る


「いいか日暮君、 身を守る事は大切だ、 生きる為ならば手段を選ばない、 といった考え方も私は肯定する」


「だが、 今一度言う、 社会は滅んで居ない、 いつかその時が来た時、 君は裁きを受けるぞ」


「復興した後の世界で、 君は自身の身を守る術を失ってしまう、 線引きを誤るなよ」


ちっ、 はぁ……


「わってまよ、 俺だって人殺しがしたいんじゃないんだ、 ただ、 何者なのか其れによってはボコボコにしますよ」



「それなら良い」


いいんかい


「そう言えばシェルターに居る日暮君が偽物であると最初に気が付いたのは菊野さん何だ、 何か言っておくと良い」


鋭いな菊野


「おっけぇ、 じゃあちょっとしたら乗り込もうぜ」


…………………………


…………


「あっ、 雪ちゃん、 俺ちょいシェルターまで行ってくるから皆とここに居てよ」



「えーっ」


状況を理解して、 シェルターに向かう前にもう一度菊野に会わなくては行けない理由があった


「菊野、 少しの間雪ちゃんを見ててくれないかな?」


菊野は首を傾げる


「……シェルターに向かうって言うのは?」



「……菊野が気がついてくれたんだろ? ありがとな、 ちょっと様子を見てくる事にしたよ」


菊野が頷く


「うん、 でもシェルターに向かうって事は、 ……いやいい事なんだと思うけど、 日暮くんの嫌がってた? 再開になると思うけど……」


日暮は笑う


「んな気を使った様な言い方しなくていいよ、 街に行って思ったんだよ、 家族について……」


菊野が目を見開いてはにかむ、 そうさ……


「例え家族が俺の戦いを忌避して、 俺を束縛しようとしたとする、 でも? その縛りと俺、 どっちが強いかって話しよ」



「えぇ……」


あはははっ


「俺は、 自由だ! あはははっ!」


ぷっ


「ふふっ、 何それっ!」


笑う菊野、 やっぱ良い奴だなこいつ


「それで? この子はどこの子?」


菊野に注目されて、 話に着いていけず不貞腐れていた雪ちゃんが顔を上げる


「あ~、 その…… 訳ありで……」


俺の言葉を聞いて何かを察したのか菊野はそれ以上聞くのを止めて、 その場にかがみ雪ちゃんと目を合わせる


「日暮くんは好き?」


雪ちゃんが目を合わせる


「……うん、 お兄さんは特別だよ」


日暮は2人のやり取りから無意識に目をそらす


「そっか、 なら日暮くんの昔話聞きたい? と言っても中学生の頃の話だけど」


おい!


「聴きたい!」


はぁ…… まあ良いか


「じゃあ行ってくるね、 菊野頼んだ」



「うん、 行ってらっしゃい」


その顔は優しく笑っている、 何でいちいちそんな顔で見送るかな、 街へ経ったあの日も、 ミサンガまで用意して……


「あっ、 そう言えば」


菊野がこちらを見る、 俺はリュックを漁ってそれを取り出す


「ミサンガ取れちゃった、 これってもう一回付けれんの?」



「え? 何でわっこのまま取れたの? そんなに緩くつけてなかったのに……」


まあ、 腹の穴塞ぐ為に左腕を犠牲にしたからな、 その時にポロッと落ちた何て言えねー


「あ~ 訳ありで」



「はぁ…… 聞きたくない」


その後器用な手先で結び目を解いてもう一度左腕に付け直してくれた


「じゃ、 今度こそ行ってくるわ」


もう一度二人に見送られて俺は作戦室を後にする、 外に出ると土飼のおっさんが待っていた


「大望議員は先にシェルターに向かっている、 我々はその様子を見て行動に出るぞ」


日暮は頷く、 さっき土飼は俺に怒りが有ると言った、 俺に化けて好き勝手やってる奴に対して怒っていると


だが俺にそんな気持ちは無い、 俺にあるのは戦いの興奮と、 高揚、 生死の結果だけだ


目の前にどっしり構える藍木シェルターを見上げる、 この中に家族が居る、 ひと月以上会っていなかった家族が


だが、 そんな事は関係ない、 俺には関係ない、 俺はただ楽しいから戦うだけだ、 俺はただ……


グッ……


無意識に拳を強く握り込む、 妙だな……


「うざい……」


さっきから頭の中でグルングルン、 グワングワン、 何かがジリジリと音を立てて、 けたたましく何かが巡っている


常に冷静に……


「うざい……」


頭に手を当てる、 深呼吸を繰り返す


「どうした? 具合でも悪いか?」


首を横に振る


「んな訳無い、 何も変わらない、 俺は何も変わらないんだよ」


土飼は小さく笑う


「やっぱり、 家族の為に怒れる、 意外と人想い何だな、 君は………」


俺はもう何も反応を示さなかった


ただ、 シェルターの入口、 その手前まで来て、 俺はもう一度深呼吸をした


大丈夫…… 戦える

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