第六十話…… 『前進の一歩・8』
詰め込みすぎて話が長くなりました、 休み休み読んで頂けると幸いです
黄金の光が溢れたシェルターの作戦室の一室、 シェルターの総リーダを務める男、 元地方議員の大望吉照が使用する事務室
光が収まったその後には一人の男が立っていた
「鉢倉なのか? お前………」
あまりの驚きに息が詰まるが
ドガァンッ!!
下の階から物音が響き渡る、 破壊音だ、 敵が建物の中まで侵入した証拠だ
「鉢倉…… 頼む! あの日お前を否定した事は謝る、 だから力を貸してくれ!」
まさかこんな形で再開する事になるとは夢にも思わなかった
…………………………
………
高校生の時、 異世界に迷い込んだ大望達は、 記された手記を元に街道を目指した
先頭を行く鉢倉の腰には一振の剣が添えられて居た
「その剣どうしたんだよ?」
大望はなんて事ない様に聞いてみる
「これか? 矢口の居た洞窟にあった、 多分矢口のだろうな」
森の木々を避けて縫うように歩き、 そうしながら考える、 そもそも矢口は何者だろう?
「矢口はエバシ=キョウカなる人物が地球への戻り方を知っていると分かりながらなんで未だにこの世界に居たんだ?」
「矢口の死に方だって変だ、 既に白骨化してたけど荒らされた形跡は無い、 飢えて死んだか、 冬を越せなくて死んだか分からないが」
「剣ぶる下げてるならもしかしたら戦いの知識もあったのかも知れない、 ますます矢口という人間が不可解だ」
大望は頭を悩ませる、 謎は揚げ出せばキリが無い、 そもそもこの世界自体が謎なのだから
「う~ん、 確かに不可解だけど考えても分からねぇよ、 街に行って聞いてみるしかねぇぜ」
鉢倉は何だか朝からご機嫌で余りこの状況を深く考えようとはしていない
そのまま進むと情報にあった様に街道に出た、 広い道に出る、 その道を下に下って行くと景色は山から徐々に小川の流れる草原の様な物になる
とても気分が良くて昼寝をしたくなる様な、 そんな気持ちになった
そのまま更に更に歩いて行くと正面から馬車が向かってきた
「避けよう」
端に避けると馬車は徐行になりすぐ側で停止した
馬を操る男がこちらを見る
「~~~~~~~(不明瞭)」
聞きなれない言葉だった、 それはそうか見た目は人間だが、 世界そのものが違うなら根底も変わってくる
「あ〜、 ハロー? ボンジュール? ニーハオ? ……こんにちは、 街はあっち?」
鉢倉は指を道の先に向ける
「~~~~~~~~~~~(不明瞭)」
その後も互いに身振り手振りで伝え合おうとするが一向に伝わる気配は無く、 このままやっていても拉致があかない
何か相手にも伝わる言葉は……
そうだ
「エバシ=キョウカ?」
あの手記にあった名前だけだ、 こちらの人でも分かる可能性があるのは
大望はその人名を出しながら街道の先を指さす
「! ~~! ~~~~!(不明瞭)」
男性はその名前を聞くや激しく頷き、 同じ方角を指さした、 その後興奮した様に何かを言ったみたいだがやはり聞き取れない
だが、 この反応は要するに
「当たりって事だな」
大望は男性にキッチリと頭を下げると男性は手を振って馬車を逆方向へと進んで行った
「……なんだったんだあのおっさん?」
「いや、 わからん、 でも向かうべき街の方角はあってるらしいぞ」
更に歩き、 歩き、 歩き、 流石にのどか過ぎる景色に飽きてきた頃街は見えてきた
街の前方には大きな川が流れており、 後は海、 川は海へと流れ込んでいて、 立派な橋がかかっている
側面には小高い山が連なっていて自然の城塞である
橋を渡る
「下は結構綺麗な水が流れているよ、 下流だから流れも緩やかだし、 なかなかいい所だ」
そのまま進んでいくと3m程の壁が左右に伸び、 正面に門が見えて来た
「~~~!!(不明瞭)」
明らかに門番の様な男、 甲冑を身に包んだ騎士である、 その男が俺達に向かって何かを叫ぶのでさすがに驚く
「止まれって事かな?」
「そんな雰囲気だな」
男が近づいてきて何かを言う、 しかしやはり分からない
「あ~、 エバシ=キョウカ」
手記にあった様に街の門番にその人名を伝える、 すると男はやはり驚いた顔をして手をこちらに向けた
恐らく待っていろと言った感じだ、 男はそのまま駆けて脇の建物に入っていく
「歓迎されると言いけど」
「……もしあいつらが何かして来る様だったら大望は逃げろ、 俺は戦う」
は?
「んだよ、 急に、 お前鉢倉、 さっきからその剣を確認して、 そわそわしているみたいだが、 お前まさか……」
「っ、 最悪の状況を考えているだけだ」
……………
「戦うって、 ……殺すって意味か?」
大望は少し語気を強めて聞いてみる
「そんなつもり無ぇよ、 悪かったさっきのは忘れてくれ、 でも一応何があってもいい様に覚悟しとけよ」
それもそうか
「逃げる時は一緒に逃げるぞ、 絶対に二人で元の世界に戻ろう」
「……あぁ」
何だか反応が鈍い鉢倉の事が大望は気になった、 だが声が聞こえる
「~~~!!!(不明瞭)」
さっきの門番の男の声で正面を見る、 門番の男はこちらが気がつくと手を仰いだ
「着いて来いってか?」
素直に門番の後に付いていく、 その間鉢倉はやはり落ち着きなく剣を触ったり、 撫でたりしていた
(……鉢倉の奴、 何か変だな? 頼むからおかしな事はしでかすなよ?)
そんな事を思っている位なら素直に言葉に出して、 変だ、 と伝えてやれば良かったのかもしれない
だがそんな事を思うのは何時だって後の後だ
門番は脇の建物に俺達を招くと、 そのまま歩いて通路を抜け、 別の出口から外へ出た
脇の建物は中と繋がっていたようで、 そこは門の中、 街の入口だった
「開門するまでも無いって事ね」
更に男の後を着いて行くとある一軒の建物の前で男は止まった
コンコン
男はその建物のドアをノックする、 暫くすると中から一人の男が顔を覗かせた
「~~~?(不明瞭)」
「~~~~~!(不明瞭)」
二人は何かやり取りすると話を終えた様で、 門番の男は分からない言葉で大望達になにか言うとその場から去って行った
「~~~(不明瞭)」
建物から出てきた男性が穏やかな声音で手招きする
「入れって事だよな? とって食われたりしないだろうな?」
「俺昔から、 注文の多い猫の絵本に出てくるミルクのクリーム、 1回舐めて見たかったんだよね」
鉢倉の呑気な言葉に少し嫌気が差してくる
男性の家と思われるその屋内に入って行くと、 その男は入ってすぐの広間にあるテーブルを指差した
椅子を引いて2人でと乗り合わせに座る
男性は湯を沸かし出した、 茶でも入れてくれるのか?
「このままで良いのかな? 俺達わけも分からない街で、 わけも分からない状況にただ指図されるばかりだ」
「そうするしか無いだろ? 他にほうほうは無いんだから」
確かに鉢倉の言う通りだ、 それ以外今取れる選択肢は無い、 だが鉢倉の言い方は何処か楽観的だ
「悪かったな心配性で」
言われても居ない嫌味を、 嫌味ったらしく返してしまう当たり、 この時の大望には心の余裕がなかったのかも知れない
鉢倉は何も返さなかった
チョロロロロッ
男がカップに何かを注いでいる、 カップからは湯気がたっていて、 季節感が夏の終わりと言う気分の大望には喉を通したくない類の飲み物だった
男性は4人分のカップを用意していて2つを大望達二人の前に置いた
余り口をつける気になれない、 その雰囲気を察してか男は立ち上がりそばの本棚を漁る
白い表紙の1冊の本を持ってきて本を広げる
「えっ!?」
驚く事にその本は日本語で書かれていた
男はページを捲り、 見つけた単語に指を刺した、 その単語は
「こんにちは?」
「~~! コン…… ニチハ……!」
男が片言で挨拶を返して見せる、 更に別のページを開いて
「……チャ、 ノム」
茶を飲めって?
鉢倉が茶に口をつける
「おっ、 美味い」
「本当かよ?」
男は更にページを捲る
「クル…… キョウカ、 クル」
その言葉に顔を上げる
「エバシ=キョウカがここに来る?」
大望はこの空間を指さす、 すると男は笑いながら頷いた
大望は全てが解決する様な浮かれた気持ちで暫く待った、 気づけば茶にも口をつけていた、 確かに美味しいお茶だ
そうこうしているとドアノブを捻る音がして女が一人入って来た
「~~! ~~~(不明瞭)」
男が女に一言二言話をすると、 女は分からない言葉で返した
女がやってきて向かいの席に座る
「待たせて悪かったね、 初めましてエバシ=キョウカと言うか、 江橋鏡佳よ、 よろしく」
日本語だ
「っ、 はっ、 初めまして、 大望吉照です」
「鉢倉辿です」
目の前には理解出来る言葉を話す純日本人、 赤の他人のはずなのに異常なくらい心が落ち着く、 吊り橋効果か、 ある種のストックホルム症候群か
「うんうん、 2人とも良いね日本人らしく礼儀正しい、 懐かしいね」
そう言って頷くエバシ=キョウカ
「あの、 エバシさん、 俺達突然この世界にやってきて、 元の世界に戻りたいんです!」
大望の言葉にエバシは頷き、 一口お茶を飲むと話を始めた
「うん、 わかっているよ大変だったね、 すぐに帰りたいだろうけど、 ごめんね最低でも3日は必要だ」
早い! そう思った
「っ、 ありがとうございます!」
大望は深く感謝した、 だが鉢倉は違った様だ
「おい待てよ大望、 そんなにほいほいと進めるか、 俺はまだエバシさんあんたを信用出来ない」
鉢倉こいつ!
「鉢倉! お前何かこの世界に来てから変だぞ! エバシさんは俺達の唯一の希望なんだ!」
「……大望、 お前の方が変だ、 お前今この状況に疑問を抱かないのか? お前だって知りたかった事が山程ある筈だ?」
「それを知らない内に話を進める? で帰って終わりか? 質問タイムが必要だろ何よりも先に」
大望はこの時、 確かにそうだと思った
「質問タイムね、 それはそうかも、 答えられることなら答えを出すわ」
「助かります、 大望、 洞窟で拾った手記持ってるよな? 出してくれ」
大望はよく分からないまま指示に従って手記を出す、 その間鉢倉は自分のバックを漁って今回の依頼書を出した
それらを机に並べる
「俺達は今高校の部活でボランティア活動をしている、 これはその依頼書で歩道橋で行方不明になる怪事件の調査依頼だ」
「行方不明になった人数はここにあるだけで7人、 そしてこっちの手記はこの中の一人、 矢口と言う男の物だ、 1つ目の質問だ、 エバシさんはここにある名前を知っているのか?」
エバシ=キョウカは資料を見て頷く
「全員知っているわ、 なんなら同じ仕事場で働く仲の人や度々お茶を一緒する人なんかも居る」
その言葉に大望も違和感を感じる
鉢倉は今度手記を指差し、 腰の県を強調する
「俺達はその調査中ここに来た、 ミイラ取りがミイラになるって奴だ、 そして俺らの居た森の中にあった洞窟で矢口は死んでいた」
「あんたはあそこで矢口が死んでいる事を知っていたか?」
エバシは首を横に振り否定した
「知らなかった、 まさか矢口君が亡くなっていたなんて、 でも確かにこの手記もその剣も彼の持ち物だわ」
「彼は三月程前ここを飛び出し行方が知れなかったけど、 そうなのね……」
鉢倉は茶を口に含むと一番大切な質問をした
「なんで矢口はこうなった? いや、 何で矢口や他の人達は日本に帰ろうとしない? この世界に留まり続ける? あんたも含めて……」
エバシは考える素振りを見せる
「私は帰る理由が無かったから、 あとここでやるべき事が出来たから、 他の人達も理由はそれぞれ、 帰りたくないのよ」
「矢口はどうなんだ? 矢口には夢があった、 それは帰る理由にならなかったのか?」
エバシは首を横に振る
「矢口君には残って貰ったの、 彼には知識と才能と、 それに力があった」
「そもそもこの世界に人がやって来る理由はいつか訪れる災いに対抗するべく未知の知識や力を求めているためよ」
訪れる災い?
「この世界には魔王が居るの、 貴方たちはさしずめ勇者って言うわけ、 魔王が起こす災いを対処して貰うべく矢口君にはこちらに残ってもらいました」
「……矢口に何ができたって言うんだよ?」
………
「世界に漂う目に見えない力、『ミクロノイズ』その力が生物に影響を与えると、 普通では考えられない様な力を得る」
?
「そういう力が確かに有るって事、 向こうで言う超能力とか、 魔法だと変わってくる魔法はこの世界では一般的だから」
「超能力や魔法……」
つまり矢口はそう言った力が使えたから戦力としてこの世界に残された
「その結果あの死に方かよ」
「何が原因かは分からない、 彼を知らない内に追い詰めたのかも知れない」
大望は何だか胸が苦しくなってくる
「あっ、 あの、 俺は帰りたいですからね、 引き止められたって帰りますからね!」
「構わないよ、 矢口君だって彼に選択肢を与えたんだよ? そしたら彼はこちらに残った、 まあ、 残ってもらう様試行錯誤したけどね」
「それで、 質問は以上かな?」
煮え切らない所はある、 だが質問に対する答えは用意された
「ならさっき言った様に3日程待ってくれ、 その間この家を使って、 ここは私の家だ、 そこの男は旦那」
出迎えた男を指さすエバシ
そういえば……
「質問もう1つ良いですか?」
大望が切り出す
「何?」
「エバシさんは有名人何ですよね? 何でエバシさんの名前を言っただけで俺達が向こうの世界から来たって分かったんですか?」
エバシは頷く
「発音の問題よ、 旦那に名前を呼ばせてみるわね」
そうして男性が頷いてエバシの名前を呼ぶ、 とても聞き取れない
「呪文みたいだな」
「発音できないのよ、貴方たちは日本人の名前だから勝手に江橋鏡佳に変換して呼んでるでしょ?」
成程な、 その上未知の言葉、 服装も普通じゃない、 それだけで判断できるか
「それじゃあ、 私は仕事に戻るから、 2人は休んで、 あっ、 あと2人にはお付を頼んであるから」
そう言ってヒラヒラと手を振り去っていくエバシ
朝山から経ってお昼は過ぎている頃か、 意味もわからない状況で腹も空かない
椅子から立ち上がれないまま茶を飲んで暫く時が経った、 その間2人は余り会話をして居ない
トントン、 ドアをノックする音
エバシの旦那が出ると、 外から女の子が二人入って来た、 どちらもメイドの様な服を着ている
「~~~~(不明瞭)」
「~~~(不明瞭)」
???
「ごほん、 失礼しました、 エバシ様の故郷からいらっしゃったお客様、 私達はお二人のお付をエバシ様から頼まれております、 カノンと申します」
「レイリアです」
2人は礼儀正しく頭を下げる、 その仕草にこちらまで頭を下げてしまう
「あっ、 いえどうもご丁寧に、 大望吉照です」
「鉢倉辿、 って言うか日本語喋れんの?」
2人はくすりと愛らしく笑うと頷いた
「ヨシテル様、 私達に敬語は必要ありませんよ、 それと日本語はエバシ様から叩き込まれましたので」
カノンさんが笑う
「私達はお2人があちらの世界に帰還される間、 主に通訳や身の回りのお世話を担当させて頂きます」
身の回りのお世話…… 大望は頭をブンブン振って雑念を飛ばす
「ふん、 良くやるよ、 大望向こうも仕事だ、 んな構える事ねぇよ、 こっちは自然体で居れば良いんだ」
相変わらずなーなーの性格だな鉢倉は……
その後大望にはレイリアさんが付いて、 鉢倉にはカノンさんが付いた
鉢倉はせっかくだから出掛けてくると言ってカノンさんを引き連れ去っていった
…………
「ヨシテル様お茶をお飲みになりますか?」
「あっ、 ありがとうございます……」
笑ってお茶をついでくれるレイリアさんに大望は返事をするので精一杯だ、 元々女性と話をするのは苦手
初対面で距離感も慣れない、 大望は心の中で悶え、 鉢倉の楽観視をこの時ばかりは羨んだ
ズズッ
「……美味しいです」
「良かったです!」
にこっ
気がつくと彼女に目が言ってしまう、 違う違う、 鉢倉も言ってたろ、 これは仕事で……
ぐるるるっ…… 腹が鳴る、 恥ずかしい
「あははっ、 実は昨日の夜から何にも食べてないんですよね!」
何言ってんだよ
するとレイリアさんが真剣な顔になる
「それは良くありませんね、 急いで何か用意致します」
その動きには鬼気迫る物があり口出しする事が拒まれた、 テキパキとした動きで物の数分の間にサンドイッチを用意した
「どうぞおめしあがしください」
「えっ、 うん、 頂きます」
ふわっ、 シャキッ
美味い
「美味い! 美味しい! 凄いよ、 レイリアさんこんな短時間で完璧だよ!!」
本当に美味い、 とても感動して彼女にそれを伝える、 すると彼女は笑顔の花を咲かせた
「あっ、 ありがとうございます、 料理には自信があるので……」
「ほんとにこれなら何処でもやってけるよ、 レイリアさんはきっといいお嫁さんになるね!」
なんてこと無く言った言葉だったが彼女は固まる
(……流石にキモかったな今の)
大望はかなり後悔してきたが、 彼女は逆に顔を紅く染めて伏せ目がちになる
「そっ、 そうでしょうか、 私の様な……」
「っ、 当たり前じゃん、 料理が上手で、 それにとっても可愛いし!」
レイリアは更に紅くなる
「かっ、 かわいい!?」
「あっ、 言っちゃった……」
こっちまで恥ずかしくなってくる、 だが、 優雅な立ち姿、 目を引く美しい翡翠色の瞳、 優しい色合いの金髪
美少女だ……
「そっ、 その様な事を言われたのは初めてです…… ヨシテル様ならもしかしたら……」
?
最後の方は上手く聞き取れなかった、 そのまま気まずい会話を度々して時は少し過ぎた
エバシの家には風呂があったので心も体も休まった、 晩御飯は又してもレイリアさんが腕を振るった
とても美味しく俺は早速彼女の事を目で追ってばかりだった
……その晩鉢倉は帰らなかった、 かなり心配したがカノンさんも付いているから大丈夫だろうと仕事から帰ってきたエバシさんは言った
夜も老けて眠くなってきた頃、 宛てがわれた部屋にてそれは起こった……
「私もこの部屋で共に過ごす事になっておりますので……」
レイリアさんも同じ、 大して広くもない、 とか言ったらエバシさんに失礼だが、 何にせよ同じ部屋?
「いやいやいやいや、 女性と同じ部屋ってのはマズイですよ!」
「……何か私に至らぬ点があるのでしょうか? それとも私が所詮半人前のメイドであるから……」
不味いことになった
「違うよ! レイリアさんは凄いよ! ただ、 俺は……」
「いいえ、 大丈夫です、 その辺は弁えております、 二度は申し付けられずとも了解致しました、 それではごゆるりとおやすみ下さい」
彼女はヒラリと踵を返して部屋を後にする、 何だか胸が苦しい
「いや、 だって、 俺は間違ってないだろ……」
眠って忘れようとした、 灯りを消してベッドに横になった
眠れなかった、 ゴロゴロとして三十分程時が経った頃体を起こす
「はぁ…… 水でも貰おう」
立ち上がって部屋のドアノブを捻る
ガチャっ
部屋を出て、 不意にすぐ隣に気配を感じ、 そちらを反射的に振り返る
「っ!? うわ!」
「っ! ヨシテル様…… 眠れませんか…… ぐすっ」
レイリアさんだ、 彼女は部屋の前で立ち呆けて居た、 その上泣いている
「え? どっ、 どうしたの? レイリアさんこそ眠れないの?」
「ぐすっ、 はい、 不甲斐ありません、 私は立ったまま眠れないのです」
立ったまま? えっ!?
「ずっとここに立っていたの?」
「ヨシテル様のお傍に仕えるのが私の仕事ですから、 部屋の中がダメなら、 扉のすぐ側で……」
嘘だ、 何でそこまで……
てっきり他の部屋を使っていると思っていたのでかなり面食らった、 そして自分が嫌になってくる
「……入ってよ、 さっさと寝よう」
「ヨシテル様…… ご無理はしなくても……」
大望は首を横に首を振る
「良いから、 寝よう」
「……はい」
勿論部屋にベットは二つ用意されている、 俺も考えすぎだな
「………………ヨシテル様」
「……なに?」
……
「……ありがとうございます」
「俺もごめん、 慣れないんだ、 女の子と話すのですら、 どうして良いか分からないんだ」
……
「……私も、 余り男性と話す機会は無いんです、 女性ばかりの職場ですから」
「………でも普通に話出来てるよ、 俺とは比べ物に成らない、 凄いよレイリアさんは」
…………………
「……私なんて、 本当に何でもありません、 凄いのはヨシテル様の方です」
そんな事は無いだろ……
「どうしてそんなに自分を卑下するんですか? 俺は知ってますよレイリアさんがすごい事」
………………………
「私は産まれた時から死ぬまで侍女ですから、 私にはこの仕事をしている以外に何にも無いんです」
そんな事……
「そういう物ですから……」
何か、 何か無いのかよ
「……方法は無いんですか? 自分のやりたい事を選べる、 レイリアさんだって当然それが出来て当たり前何だ」
「何か無いんですか? 俺が助けになるならどんな事だってしますよ」
少し無言の時間が流れた、 暗闇の中時は進む
「……………1つだけ」
「何ですか?」
……
「見受けです、 私の事をお見受けして下さる御仁がいらっしゃった時、 わたしはメイドを辞め普通の生活を送るでしょうね」
なんだよそれ……
大望は何も答えず瞼を閉じた、 とても『俺が……』等とは言えるわけが無い
「………ひどい人」
小声で何か聞こえた気がした、 大望は頭から布団を被って何も聞こえないようにした
………………………………
……………
夢を見た、 日本や地球とは全く別の世界で俺は夢だった政治家になっていた、 家に帰ると恋人が待っている
……
大望は目が覚めた瞬間将来を決めるには早すぎるだろと思った、 でも決して早い訳では無いとも知っている
もしかしたら……
大望の夢はこちらの世界でも叶うのかも知れない、 寝ぼけた頭で起き上がると隣のベットにレイリアさんはもう居なかった
ほのかに朝飯の匂いがして空腹を感じる、 用意された衣服に袖を通しリビングスペースに向かった
レイリアさんが朝ごはんを作って居る、 もしかしたらまだ夢の続きなのかもしれない
「あっ、 おはようございます、 もうすぐ出来上がりますので座ってお待ちください」
大望は頷いて先に顔を洗った、 何度も何度も何度も洗った、 朝飯を食べると2人で少し出かけた
通訳をしてもらいながらこの街を見て回った、 お昼はオススメの料理やを紹介して貰った、 なかなか美味しかった
夕日が落ちる頃、 すごく景色の良い高台で2人で変わり行く美しい景色を見た
帰りは屋台で買い食いをして帰った、 レイリアさんは買い食いは初めてだと喜んだ
俺は一日彼女の隣で、 彼女の色んな顔を見た、 その中でもやっぱり笑っている顔が綺麗だ、 彼女には笑っていて欲しい
夜、 夕飯を食べお風呂に入り、 眠る準備をする
今晩も鉢倉は家に帰らなかった
大望はベッドに寝転がり目をつぶった、 隣からレイリアさんの規則正しい寝息が聞こえてきた頃、 起き上がって部屋から出た
リビングスペースに行くと予想どうりエバシさんが居た
「どうしたの? 眠れない?」
「いいえ、 ただ聞きたい事があって」
そう言うとエバシはカップを1つ出して自身のと同じ茶を注いだ
「どうぞ、 それで聞きたい事って?」
「鉢倉が帰って来ないんです、 もしかしてエバシさんあいつが何処行っているか知ってるんじゃないかって」
そこでようやくお茶を飲む
「知ってるよ、 彼は今色々動き回ってるみたいで忙しそうだ、 だが心配する様な事は無い、 カノンが付いているからね」
「………そうですか、 因みに色々って?」
エバシは頭に手を当てる
「えーっと、 確か、 賃貸の契約やら生活必需品の購入、 その他諸々だね」
チッ、 無意識に舌打ちが出た
「鉢倉、 あいつこの世界に残るつもりですか?」
「そうじゃないかな? でも選択は人それぞれだよ、 戻る事だけが最適解じゃない」
大望は思っていた事を口に出す
「わざとやってますよね? 全部そうなるってわかっててやってますよね?」
エバシは顎に手を当てる
「……何を?」
「俺がこの世界に残る様に、 未練を残そうとしてるって言ってるんですよ、 枷を作ってますよね?」
大望はたった一日判程でレイリアから目が離せなくなっていた、 こんな事は初めてだった
ずっと彼女の隣に居たい
「……だとして、 居れば良いじゃない、 それもひとつの選択よ、 君は何故か戻る事が当たり前に思う節がある様だね」
「選択肢があるんだよ、 今までは無かった、 それがここに来て選べる様になった、 もう少し考えても良いんじゃない?」
「帰ろうと思うのは固定概念じゃないかな? 偶然でも君は選ばれたんだ、 君は元の世界がそんなに魅力的かい?」
「帰りに最低3日、 でも延ばすことは可能だ、 何時でも帰れる、 でも戻って来る事は出来ない、 こちらの世界か、 元の世界か」
「選択肢はハーフアンドハーフ、 でもそこに乗っかった意味は、 もしかしたらこの世界に住むことの方が大きいかも……」
「っ、 うるっせぇよ! ペラペラ、 帰るって言ってんだ、 有り得ない物はたとえ有り得ても、 常識的には有り得ないんだよ!」
「俺は政治家になりたいんだ! 俺はここに居る、 でも俺の居るべき場所はここじゃない、 俺は人を導きたい、 人を守りたい、 元の世界で」
エバシはペンを手に取る、 その行為に意味は無いのかも知れない、 クルクルとペンを回す姿は彼女の心の冷静さを表しているのかも知れない
「少しトーンを落とそう、 わざわざこの時間、 彼女が眠ったのを確認してから話に来たのはこの話を聴かれたく無かったからだろ?」
大望はいつの間にか持ち上げていた腰をもう一度椅子に下ろして表情を隠すように下を向く
「君はとても彼女を気遣って居るようだね、 それは単純に優しさだろう、 だが国が違えば常識も変わる、 その優しさはレイリアには酷だ」
「この国で侍女に望んでなる女は居ない、 なぜなら侍女とは昔から決まった血統の物がする仕事だからだ」
「産まれた時から侍女以外の道は無い、 徹底的な教育の果に最高のメイドは生まれる、 何処の貴族、 はたまた王族の元に仕えても恥ずかしくない」
「彼女、 レイリアは今まだ教育期間中だ、 普段は私の仕事場で働くメイドさ、 でも来年は違う」
そこでエバシのペン回しの回転が逆回転になる
「彼女は優秀だ、 来年にはとある有力貴族の屋敷で仕える話になっている、 因みに鉢倉君に付いているカノンも同じだ」
「カノンも片田舎の金持ち辺境伯の家に迎えられる、 その辺境伯は変わったジジイでね、 侍女はその家に入ったら一生外に出させて貰えないのさ」
「あえて窓の少ない構造で、 外出は禁止、 お天道様の光が届かなくなって、 人は段々おかしくなる」
「そのジジイの変わった所はここからで、 おかしくなって壊れたメイドが大好物なんだ、 そうして初めて手をつける」
大望は話を聞いているうちにオチがイメージ出来てしまう、 エバシの話し方はそう言った嫌に拍車のかかった様だった
気持ちが悪くなって、 お茶を一気に飲み干す
「鉢倉君はね、 その事実を知ったんだ、 だから今必死になって駆け回っている、 鉢倉君はカノンを見受けするつもりだ」
「正直私もあの変態ジジイにカノンをやる気は無い、 だからできる限り援助しているよ」
大望は空のカップに残った茶っぱのカスをぼーっと見ながら言う
「……そんな、 そんな話しをしたからなんだって言うんですか? それは鉢倉の話だ、 別に俺には関係無いでしょ」
「ふ~ん、 そんな風に言うんだね、 別に関係なく無いでしょ?」
エバシは俺のカップに茶を注いで言い放つ
「好きなんだろ? レイリアの事が」
ドキリッ 胸が高鳴った
「……単純だって言いたいんですか? まだ出会ったばかりで、 向こうは仕事で、 気なんか無い、 わかってますよ……」
「単純だなんて笑ったりはしないよ、 それに余り彼女の気持ちを勝手に決めつけて他人を否定させるな」
「それにね、 私はただひとつの事実を知って欲しいだけなんだ、 君は元の世界に戻る理由がある」
「でも、 残る理由も、 もうあると思わないかい?」
エバシはペン回しを止めると適当な紙切れに文字を書き始める
「どちらを選んでも君の選択だ、 そしてどちらを選んでも意味がある、 それが選択肢だ、 あと2日間良く考えなさい」
エバシは癖のある日本語で文字を書き終える
「これ、 鉢倉君が明日訪れると思われる場所の住所一覧だ、 私も逐一観察はして居ない、 だがこの中な何処かには居る」
「きっと彼は明後日までには帰らない、 彼は初めから決めて居たんだと思うよ、 ここに残る事を」
「一度話をするべきじゃないかな? どちらを選んでも迷わない様に」
大望はそのメモ用紙を受け取ると再度注がれたお茶に口を付けないまま床に着いた
………………
……
その建物は街から少し外れた山間にあった
朝エバシの家を後にし、 馬車に乗り、 馬に乗り、 最後は歩いて、 時間にして2時間程でその建物に着いた
決して新しくない木造の建物は、 それでも立派な作りで、 人家族が暮らす家としては丁度いい
その建物の玄関の前に立ちノッカーを掴み軽く打ち付けた
ゴンゴン
暫くしてドアが開いた
「どちら様で? ………大望様、 それにレイリアも」
カノンさんが顔を覗かせる
「カノンさんお客様? ……って大望じゃん」
「よお、 おはよう」
大望は朝街で買った果実ジュースの土産を掲げて挨拶した
……
昨晩エバシとの会話で、 大望は鉢倉に会いに行くことを決めた
朝早くに目を覚ますと、 朝食を取っていたエバシから、 昼まではこの建物に居るだろうと言われ早々に尋ねたのだ
「まさか山奥の空き家とはね」
「今は空き家で元の持ち主とも連絡とったんだ、 そしたら安い家賃で貸してくれるって、 ボロだけどな」
通されたリビングスペースで土産のジュースをグラスに注ぐ
「2人も飲んでよ、 その為に2本も買ったんだからさ」
「いただきます」
メイドさんは食事すら一緒に取ろうとはしないが折角なら4人で話がしたい
「美味しいです、 流石市場でも有名どころの果物屋さんの果実ジュースは違いますね」
「美味いけど…… これ何てフルーツ?」
メイドさん2人は絶賛だが、 味わった事の無い甘みの酸味に胃がびっくりして居る
「これは『ミミンカ』ですね、 酸味が特徴的な果物で、 その中に深い甘さがあります」
「柑橘系だな、 知らんけど」
大望も口に含んでグラスを置く、 今日ここに来たのはこんな話をする為じゃない
「鉢倉、 トイレ借りていいか?」
俺は鉢倉に視線を送る
「ん? ああ、 あ、 でも少しでも節水したいから小便なら外……… いや、 俺も行くわ」
二人で立ち上がる
「っ、 私も!」
「いやいや、 そこまでは着いてこなくて良いから」
笑いながらその場を後にする
………………
「………」
「大丈夫よ、 すぐ戻ってくるわ」
カノンの言葉にレイリアは浮いた腰を下ろす
「おふたりは何か大切なお話をしに行ったのでは? 少なくとも大望様は何かを決断するでしょう」
「もし、 大望様が元の世界にお戻りになられるなら、 私は……」
「どうかしら? 2人はただ友達同士話をしに行っただけかもしれない」
カノンはまるで鉢倉にどくされたみたいに楽観的な性格の発言をする
(……貴方は良いでしょうね、 見受けして貰えるんですから)
そのどす黒い気持ちをもちろん言葉には出来なかった
……………………
………
「中々いい所見つけたな、 街に少し遠いのがネックだけど」
「だろ? お眼鏡にかかったんだ、 ビビッとさ、 電撃が走ったみたいに決断しちまった」
……………
「だからって、 決断が電光石火過ぎないか? ……まさか1人で決めちまうとはな、 何も告げず家飛び出てさ」
「わりぃ、 もう俺の中では決まってた事だったから、 迷う事じゃなかったよ」
……………………
「確認するぞ、 鉢倉お前はこの意味わかんない世界に残る、 そういう事か?」
「あぁ、 残る」
…………
「一応聴くぞ、 何でだ? 何がそんなに魅力的なんだ? 何だって十何年生きた世界を捨てられる?」
鉢倉は切り株の椅子に腰掛ける、 勧められるが俺は座らない
「歩道橋で話しただろ? 俺の夢、 俺の夢はここじゃないどこかで何かでかい事をしたい、 それで見つけた、 ここなんだよ」
「そんな曖昧な言い方じゃなかったろ、 海外じゃ無かったのか?」
鉢倉が笑う
「海外以上なら何でもとにかくあの場所が俺は嫌だったんだ、 あの場所じゃ俺は腐ってくだけだった」
「……何でそんなに、 嫌だったんだ?」
…………
「………俺、 家族の話した事有るっけ?」
大望は横に首を振る、 聞いた事は無い
「俺が今一緒に暮らしている父母姉弟、 皆と俺は血が繋がって無いんだ、 俺は12の時両親と死別して引き取られたんだ」
初めて聞いた話だ、 そんな事はちっとも聞いた事が無かった
「12って言えばもう中学生、 時期的にはその前で勿論結構覚えてる、 そんなに前じゃ無いからな」
そうだろう、 今が高校2年生で16歳、 本当に最近の事である
「あっ、 言っとくけど今の家族は俺に優しくしてくれたからね、 本当の家族みたいに受け入れてくれた、 本当はなんの不満も無ければそんな物を抱く権利すら無いんだけどよ……」
「ちっさいんだ、 今の家族はとにかくちっさいんだよ」
小さい? 何が?
「考え方のスケールがさ、 俺の本当の両親はさ、 バカ笑い優先の大雑把もいい所の性格でさ、 物差しを作らないんだ」
「唐揚げの夜は鶏もも肉を3枚買うんだ、 高かろうが、 半額だろうが決まって、 言っとくけど食べきれない、 ただお皿山盛りの唐揚げが見たいだけ」
「旅行と言ったら泊まりで最低3泊4日、 旅館は必ず最高級だ、 別に金持ちじゃ無い、 普通だったけどドカンと一発でかい事が好きだったんだ」
「俺はそういう所が実は結構すきでさ、 でも12の時、 両親が世界一周をするって言い出してさ、 俺も誘われた」
「だけどもう少しで中学生、 学校もあるし、 部活もしたいし、 友達とも会えなくなるって馬鹿げた話だろ? 世界一周なんて誰でも出来る経験じゃ無い」
「でも、 あの時は義務教育とか市営プールで遊ぶとか、 そう言うのが大事な気がして断った、 両親も特に驚かなくて……」
「俺が中学生になって一段落経った頃両親はまず四川中華を食べ尽くすって中国に飛んだ、 俺は何も思わなかった」
鉢倉はその後深いため息を付いて話を続けた
「両親は本場中華が口に合わなかった、 それと俺の事がやっぱり心配だったらしくて世界一周をやめて帰ってくると言った」
「俺はまあ、 嬉しかったかもな、 だけど…… 両親は帰らなかった、 向こうで事故にあったらしい、 どっちが悪いのか知らないけど正面衝突で即死だと」
「俺はその後引き取られた、 で今の家族だが、 皆良い人たちだけどな…… 文句言う立場じゃ無いけど、 飯は少ないし、 逐一細かいし、 肌に合わないってよ」
「んで、 もっかい周り見渡してみたらさ、 皆、 ご近所も、 友達も年をとる度にちっさくなった、 派手な両親は変わり者だったって知ったよ」
鉢倉の話し方が悲愴感を帯びてくる、 もう戻れない日々を想ってか
「俺の居場所なんてあそこには無い、 俺はずっと孤独で縮こまって生きるんだって、 誰とも違って、 つまらない……」
……………なんだよそれ
大望は拳を強く握る
「なんだよそれ!! そんな事知らなかった…… けど! そんな事ばっか考えて生きてたのかよ! 何やってる時もどんなときも!」
「……そうだよ」
……ふざけんな
「俺と居る時はどうだったんだよ、 俺は、 面倒臭いボランティアも、 行きたくも無い…… ボランティアも、 何だかんだ今思えば楽しかった!」
「鉢倉、 お前が居たからな! 汚ねえ倉庫の掃除押し付けられた時も、 誰も見てないのをいい事にボードゲーム持ち込んでやったよな!」
「帰り道も、 つまらん授業も、 一緒にやったろ! 笑いあったろ! 俺は、 楽しかった! お前は違うのかよ……」
言っててこっちが泣きそうになる、 クッソ、 何なんだよこれ……
「楽しかったさ、 ずっと退屈で、 家に帰っても休まらない俺にとって、 お前とバカ笑いできる時間は、 学校も部活も最高に楽しかった」
「っ、 なら!」
………
「でも、 大望、 お前はいつまで俺の友達だ? 何時まで俺の隣で一緒にバカ笑いしてくれる?」
は? 何言って……
「きっと、 この楽しい時間はそう長くは続かない、 時立って、 青い青春何て言われる頃には俺はまた……」
「勝手に決めんなよ! 友達は友達だろ! 切ろうとしなきゃ縁なんて、 早々切れないんだよ!」
鉢倉が切り株のイスから立ち上がる、 同じ高さで目が合う
「俺が、 言いたいのはそんな事じゃない、 俺は聞いたんだ、 いつまで隣でバカ笑いしてくれるかって」
は?
「分からないなら代わりに答えてやる、 もう隣にいても笑えない、 笑ってない、 そうだろ?」
は?
「今の、 今の事を言ってんのか?」
「違うよ、 この先ずっとさ、 だってお前はもう……」
……
「俺の隣に立っていない…… だろ?」
は? は?
「あの歩道橋で、 俺は見たよ、 大望、 お前の踏み出す姿、 前に向かって進む、 その前進の一歩を」
「俺は、 きっと元の世界じゃ踏み出せない、 その一歩をお前は踏み出した、 進み出した、 もう、 お前がずっと先に居るんだ」
大望は震える、 怒りか、 悲しみか、 よく分からない感情に震える
何なんだよ……
「何なんだよ!! 勝手決めつけんなよ! 諦めんなよ! 俺は、 あの歩道橋のアホくさい依頼、 お前が勧めてくれなきゃ夢を思い出せなかった、 踏み出せなかった」
「あの歩道橋登りきって、 お前が隣に立って、 互いに夢を叫んだ時、 俺は勝手に想像したよ、 俺は政治家、 お前は海外で互いにでっかくなって」
「今とは少し違うけど、 あの時みたいだなって、 一緒に笑うんだよ! っのに! なのに! お前は……」
ギリッ
正面から強く歯を噛み合せる音が聞こえて、 鉢倉が叫ぶ
「っ、 だから! この世界に残るって言ってんだろ!! 元の世界じゃ俺は進めねぇ、 お前に追いつけねぇ、 隣に立てねぇ!」
「どうやってもその未来は来ねぇから、 俺はこの世界に残るんだよ! この世界で俺はビックになってやるんだ!」
っ、 そんな事……
出来ないとか、 現実的じゃないとか、 言おうと思えば言えたと思う、 でも目の前でそう叫ぶ鉢倉の見据えるその目は
確かに、 前進の一歩を踏み出していた、 その力強い目を、 決意を、 覚悟を見て大望は言葉を失った
そして想像した、 違った世界で二人でビックになる、 それは巨山を登る事だとしたら、 互に遠く離れた巨山を上り詰めて
互いに巨山の頂きで手を振り合うんだ、 同じ目線、 同じ空気、 その時思う
『今とは違うけど、 あの時みたいだなって』
笑える気がする
…………………
「……もういい、 俺は帰る」
「ああ、 またな」
また、 笑い合えるように……
……
玄関まで戻るとレイリアさんが外で待っていた
「話は終わった、 帰ろうか」
「……はい」
山道を下っていく、 その歩みを進める
「……あの、 その…… どんなお話をされたんですか?」
木々の木漏れ日を受けながら、 彼女の歩幅に合わせてゆっくりと歩く
「色々話したよ、 友達だから」
「…………っ、 …………………帰りますっ……よね?」
同じ歩幅
「帰るよ」
違う道
……………………………
……………
……
「……そうか、 鉢倉と話出来たか」
「ええ」
その夜中、 またエバシの入れたお茶を飲み話をした
「ならもうやる事は無いね、 明日には準備を終える、 明後日には帰れるよ」
………
「……別に、 これは予想ですけど、 別にいつだって帰れたんでしょ? 特に準備なんて要らない」
「この世界に来たのは偶然だけど、 帰るのは、 あなたの脳力何だから」
エバシは何も言わない
「別にそれはいいです、 楽しかったです、 いいリフレッシュに成りました、 3泊4日の旅行みたいな物ですよ」
「そう、 ……特に理由は無いけど、 準備を頑張れば明日でも帰れるかもしれないわ、 そうする?」
…………
鉢倉は首を横に振る
「一日、 時間を下さい」
エバシは驚いた顔をする
「……一日と言わず幾らでも、 で? 何をするつもり?」
もう一度、 自分を誇って、 笑うには大切な事が残っている
「レイリアさんの移動先の貴族と話をさせて下さい」
「……話をして、 どうするつもり?」
大望はお茶を一口飲む
「分かりません、 でもとにかく話がしたいんです」
エバシは顎に手を当てて考える
「……分かったわ、 私が早急に連絡を入れてあげる、 大丈夫、 彼はきっと明日でも断らないわ」
?
「……よく分からないけど、 よろしくお願いします」
その晩は良く眠れた、 明日に備えろと自分の中の何かが訴えている
そう思った
…………………………
……………
朝目が覚めて、 俺は1人その貴族領を目指して旅立った、 レイリアさんは連れて来なかった
『……住所と行き方をここに書いて置いたから、 そんなに遠く無いわ』
今朝、 エバシはそう言って1枚の紙切れと、 話ができる時間が出来た事を俺に伝えると仕事に出た
あと、 こうも言っていた
『……大丈夫、 彼話の分かる人だから、 上手くいくわ』
馬車を乗り継いで、 歩いて、 歩いて、 何か最近ずっと歩いている
お昼前、 目の前に豪邸が見えて来た
警備の門番に話しかけて驚いた
「お待ちしておりました、 大望様ですね、 お入りください」
なんと日本語が通じるのだ、 多少の引っかかりを感じる時もあるが十分流暢である
通された部屋で緊張しながら待つと、 十分ほどで彼はやってきた
「またせたね、 えっと、 大望君だったかな?」
「え? はい、 大望吉照です、 今日はお忙しい所、 急遽この様な話の場を作って頂いてありがとうございます」
高校の面接と同じだ、 部屋に入る動作から、 お辞儀の角度や言葉遣いを練習しながらここに来た
「ははっ、 まあ、 そんなに固くならずとも良い、 っと、 自己紹介が遅れたね、 ハイネスだ、 インロキ・ハイネス、 宜しく」
彼は完璧な動作と言葉で挨拶をして見せた
「驚いたろ? 君の国の言葉はペラペラ何だ、 初めは難しくて意味不明だったがね」
「私の妻が、 向こうの出身でね、 それにエバシさんは恩人何だ、 そう言った関係から少なくとも家の者は皆日本語が話せるんだよ」
なるほど、 本当に驚いたが、 それならばもう日本語をマスターしているレイリアさんが雇われるのも頷ける
「………所で、 今日は一体どの様な話があって来たのかな?」
突然威圧感のある声だ
「ひとつ、 お願いしたい事があって来ました」
ハイネスさんが続きを促す
「俺…… 私は、 レイリアさんが好きです! 彼女の笑顔をずっと隣で見ていたい」
「でも、 それは出来ないんです、 隣で一緒に笑う事は出来ない、 だからどうか、 彼女の笑顔を大切にして下さい! よろしくお願いいたします」
そう言って頭を下げる、 ハイネスは……
「頭を上げなさい」
彼の顔を見る
「不合格だ、 私にそんな事を言って何になる? 言葉で言って聞かせて何になる? 君の彼女を尊ぶ気持ちだが少しも伝わらない」
え?
「他に出来ることは幾らでもあったはずだ、 誠意が伝わって来ない、 だから不合格だ、 彼女をどうするかはまだ決めていない、 だが少なくとも君の望む通りにはならないかもね」
は?
この野郎………
……誠意?
バッ!
大望は力強く立ち上がる
「この部屋、 窓からの景色が最高ですね、 庭が一望出来て」
ハイネスは首を傾げる
「突然なんだ?」
大望は窓際を指差す
「ちょっとここで見ててくれ」
そう言うと部屋を飛び出した
その姿を見てハイネスは思った
(……はぁ、 なんで日本人は変な奴しか居ないんだ?)
暫く待っていると下から声がした
「ハイネスさん! 見えますか!」
庭から手を振る大望の姿はこの二階の部屋からよく見える
「何をするつもりだい!」
「見てて下さい、 これが俺の誠意です!」
大望は後ろ手に組んで、 大股を開き腹に力を入れる、 まるで応援団の様な格好
「俺には! 夢があります!! 人の上に立ち人を導く! 俺は政治家に成りたいです!!」
大望が政治家になりたいと思ったのは、 単純だ、 心の中で、 自分ならもっと上手く人を導ける、 そう思ったからだった
「俺には! 好きな人が居ます! 彼女の隣で! 本当は! 彼女…… レイリアさんの隣に居たいけど!! 俺は! この世界の人間じゃ無い!」
「俺は! 俺の世界で両足着いて、 地に立って! 俺の導くべき世界の先頭に立ちたい!!」
俺は……
「夢を選びたいっ!!!!」
言った、 覚悟を叫んでしまった、 もう彼女の隣には立てない
だから……
ドサッ
崩れる様に両膝を地面に付く、 新しく貰った服に土をつけて汚れても、 それでも彼女の俺を想う気持ちに泥は塗らない
そのまま、 両手に地面をつけ、 額が冷たい土の感触を感じるまで頭を下げる
土下座
「っ、 俺の大好きなレイリアさんをよろしくお願いしますっ!!!」
叫びながら勝手に涙が出てきた、 託してしまった、 彼女の未来を
少し沈黙が流れる、 ハイネスは……
「少し、 待っていなさい」
暫くするとハイネスは2振りの剣を持って庭へやってきた、 片方を投げて寄越す
「しっかりと誠意を見せてもらった、 君の気持ち、 今度は届いたよ、 だが」
ハイネスは剣を抜いて構える
「この国ではこの国のルールーで、 決闘で誠意を見せて見なさい」
大望は震えながら剣をを握る
ズシッ……
重い、 すごく重い、 だが……
「全部乗っけてぶち込んでやる!!」
剣を大上段に構えて、 不格好に走る
「うらあああああああぁっ!!」
不格好だが、 迷いの無い一撃がハイネスに振り下ろされ
ガッ カキィンッ!!
綺麗に弾かれた、 その勢いで剣をは宙を舞い、 大望は尻もちを着いた
スッ!
首元に剣が当てられる
「馬鹿正直、 二の手も考えず真っ直ぐ過ぎる、 それだけでは政治家にはなれないぞ、 ふっ、 だが……」
ハイネスが剣を下げる
「見事だ、 私はうじうじした人間が苦手でね、 君の真っ直ぐでぶれない意思その剣から確かに伝わったよ」
「合格だ、 その馬鹿正直さ、 好きな娘を遠くの国に置き去りにして夢を追う馬鹿な男として充分に足りている」
「……安心しなさい、 家は男ばかりで女っ気が無くてね、 君に言われずともレイリア君は家族同様、 本当の娘の様に迎えるつもりだ」
その言葉を聴いて安心する、 良かった……
「ん? おや、 噂をすればなんとやらだな、 どうやらお迎えが来ているみたいだよ?」
ハイネスさんの示す方を見ると、 そこには遠くからこちらを静かに見つめるレイリアさんの姿があった
「レイリアさん!」
彼女は軽く頭を下げる、 俺は彼女の方へ向かおうとするが……
「待ちたまえ大望君、 今の君は焦がれた女性の前に立つには少々汚れ過ぎだ、 彼女は私が対応しておくから、 君は先に湯を浴びなさい」
言われるまま俺は湯を浴びた、 ここ数日疲れ過ぎだ、 体を使い過ぎている
心も、 満たされて、 すり減って、 また満たされて
湯から上がると先程の応接室に案内された、 部屋からは明るい話し声が聞こえてくる
ガチャリッ
「……ははっ、 おや? レイリア君王子様が迎えに来たようだよ?」
王子様?
「っ、 ハイネス様! そう言った言い方はお控え下さい……」
「はははっ! 今の今まで大望君、 君の話をしていたんだ、 彼女が君の話を沢山したがるからね」
そう言って笑うハイネスさんと恥ずかしがるレイリアさん
あれ?
「……おふたり、 仲良いですね?」
「おや、 言ってなかったかな? レイリア君はこ~んな小さい頃から知っているよ、 彼女の父親とは旧知の仲でね」
そう言って自身の座る椅子の高さ程に手の高さを示して見せる
「この頃はまだ侍女修行の前で、 『ハイネス! 肩車しろ!』なんてタメ口もいい所でね、 可愛かったねぇ」
えっ? そんな頃が……
「ハイネス様! 昔の話を掘り起こさないでください!」
2人は昔からの知り合いだったのか…… 俺が必死こいて来訪しなくても彼女は幸せになっていたんだな……
はぁ……
小さくため息が漏れる
「ん? なに、 大望君、 君の気持ちは無駄では無かった、 改めて彼女を尊ぶ気持ちを認識できたよ、 それに」
?
「彼女には届いたんじゃないかな? 君の気持ち全部」
ん? そう言えば、 レイリアさんはいつからあそこに居たんだ? まさか……
「……全部、 聴こえてました?」
「…………はい」
少し紅くなった彼女が小さく呟く、 こっちが恥ずかしい
「ふふっ、 青いな」
ハイネスさんが小さく笑う、 その顔は本当に恋する娘とそのボーイフレンドを見る父親の優しい顔だった
その後お昼を頂いて、 屋敷を後にした
…………
「まさか私がエバシ様からのお使いを頼まれている間に出てしまうとは思いませんでした」
レイリアさんは少し怒った風に見せる
「その間に行けって言うからさ」
「やっぱりエバシ様が1枚噛んでましたか、 ふふっ」
…………
帰り道を歩く、 今は同じ道を進む
「……あの、 大望様、 あの、 さっきの…… は本当でしょうか?」
さっき?
「ハイネス様に叫んでいた…… あれです」
うっ……
「………本当だよ、 その、 あー、 ………俺は、 レイリアさんが……… 好きです」
最後は声が小さくなる、 心臓がドクンドクンとうるさい
「……私もです、 私も大望様が好きです」
っ!?
レイリアさんが立ち止まる、 俺もそれに合わせて止まる
「………帰ってしまうのも、 ……本当ですか?」
「………本当だよ」
………………
「私、 大望様が好きです、 ずっと好きです」
「俺も」
レイリアさんが思い切った様にグイッと俺に寄る、 彼女の匂いが花の香りのようにふわりと広がる
「…………行かないで下さい」
「…………………ごめん」
彼女を抱き寄せる
「……酷い人、 ……なら、 残して下さい、 言ってしまうなら、 離れて居ても好きで居られる様に、 私に貴方を残して下さい」
傍に感じる彼女の吐息に熱を感じる、 俺は彼女の耳に、 心に届くようにしっかりと言う
「……ダメだ、 それは出来ない」
彼女が震える
「……どうして?」
当たり前だろ
「本当に好きだから…… だよ」
……
「俺たちはまだ出会って数日でしかない、 俺はこの世界に来て、 焦って、 優しくされて、 でも……」
「まだ、 俺の気持ちは真正面から向き合えている気がしないんだ、 だから、 大人になってもう一度向き合えたら、 もう一度レイリアさんを抱きしめるよ」
「………二度と逢えないのに?」
…………………
「そうかな? 俺はそうは思わない、 だって元々別々の世界の、 会うはずじゃなかった2人が、 今こうして出逢えたんだ」
「それを思えば、 叶わないはずの再開が、 現実になる、 そんなこともあると思わない?」
それって……
「少し、 無茶苦茶すぎません?」
「端から無茶苦茶なんだよ、 俺たちの出会いは、 だからさ、 約束しよう、 2人で、 指切りしよう」
抱きしめる彼女を離して、 小指を出す
「……指切り?」
「そこからか…… 指切りは互いの小指を結んで約束する、 俺の世界の縛りかな」
レイリアさんが笑って小指を出す、 互いの小指が結ばれる
「行くよ、 指切りげんまん♪ 嘘ついたら針1000本の~ます♪」
「えっ!? 怖い」
彼女が驚いて、 俺は笑う、 それにつられて彼女も笑う
「指切った!」
「……指切った!」
そこに確かに約束が結ばれた、 もう一度逢いたい、 再開したい、 その瞬間、 大望の気持ちは、 世界に漂うエネルギー『ミクロノイズ』に干渉した
「何だか本当に逢える気がしてきました! さあ、 帰りましょうか」
「うん、 帰ろう、 ゆっくりね」
まだ高い日が時間を掛けて落ちて行く、 今は一緒に進む2人の背中を優しく見守った
………………………
……………
……
時流れ、 朝日が昇る、 変わった物、 変わらぬ物、 選択の日々で世の中の流れは日々うつろう
旅先に焦がれ永住を決める者もいれば、 旅の経験を生かし故郷を発展させる者も居る
そのどちらの選択も、 互に、 辛く、 苦しい時がやってくるに違いない
でも忘れては行けない、 全ては積み重ね、 昨日があるから、 今日進める様に
笑いも、 諍いも、 悲しき別れも、 その青春のアルバムの一ページが、 人生のどんな瞬間の、 前進の一歩を踏み出す糧になる
踏み出せ、 前へ前へ、 信じた道をひた進め、 その道を進み険しい山の頂きに立った時
今まで捨てて来た物、 後悔してきた事柄、 その全てが、 自分の足に、 手に、 心臓に、 頭に
血液の様に流れ、 意思を持った力の様に、 ここまで自分を高め上げたと理解する
今、 前に進む者は……
………
「忘れ物は無いかな? 大望君」
「はい、 全部持ちました、 何も忘れていません」
その声は覚悟の決まった人間の強い意志が篭っていた
「……そうか、 では、 開くよ」
そう言うとエバシは虚空に掌を向ける
「……セルスナ・ゲート、 開門」
グワァンッ
音を立てて空間が歪む、 まるで作り物のブラックホールの様にバックリと口を開けたそれは、 元の世界へと戻る為の道だ
「……大望君、 レイリアにはしっかり挨拶出来たかな?」
「……はい、 昨日沢山、 悲しくなるから眠っている間に言ってくれと言われました」
エバシは何かを思案してやめる
「本当は最後にもう一度止めるつもりだったが、 止めた、 しつこい女は嫌いだろ?、 だが………」
エバシは真剣な顔でこちらを見る
「ひとつだけ忠告をさせて欲しい、 これは大事な、 話だ」
何だ?
「君達が家に来た日、 私は君達の存在と、 更にこの世界に悪を齎す、 魔王の存在を話したよね?」
確かに、 ちらっと聞いた記憶はある
「この世界には勇者も居れば、 魔王も居る、 そして、 魔王が目覚めればこの世界には正しく災いが降りかかる」
それって……
「だが、 それを倒すのが勇者の仕事、 まあ、 つまり私の仕事って訳だ」
え?
「安心して、 私の代で、 二十八第魔王、 二十九第魔王、 三十第魔王、 続けて三十九第魔王は全部殺してきた」
「でもね、 予兆があるんだ、 次の四十第魔王は、 何かが違う、 その周辺の動きがどうもおかしい」
「何か仕掛けてくる、 勿論、 わたしは何も起きない様に準備を進めている、 大規模な軍を発足して備えている所さ」
「でもね、 何か、 本当に何かがおかしい、 未知の何か、 それが何かは分からない、 だけど今回は違うんだ」
「もしかしたら魔王は、 何かを知ったのかも知れない、 例えば、 この世界とは違う、 別の世界、 地球の存在を知った、 とかね」
え?
「今回の戦いの余波は地球にまで及ぶかも知れない、 ……こんな事を言うのは君だからだよ大望君」
「君が真っ直ぐ自分の道を進み、 人の上に立って、 民衆を導く事が出来ると信じているから託すんだ」
「……嫌な事ばかりだったけど、 まあ、 あそこも一応私の故郷だからね」
エバシは遠くを見るような目をする
「この事を忘れないで欲しい、 頼んだよ」
「……わかりました、 それじゃあ、 エバシさん、 短い間たでしたがお世話になりました」
エバシに頭を下げる
「ああ、 元気にやるんだよ」
俺は頷いて、 ゲートに使って一歩踏み出す、 そのゲートは俺の存在いを受け入れ、 あった物を元どうりにするが如く、 俺を受け入れた
その無彩色の方向感覚すら狂った道、 それでも背後と確かに分かる方角から息切れした声が向かってきた
「はぁはぁ、 大望様! お元気で! はぁ、 また! また会いましょ!」
ふっ、 悲しくなるから来ないんじゃ無かったのかよ
俺は答えようとしたけど、 意味がわからない空間の中でとろける様に、 何も分からなくなって居た、 だけど大丈夫、 結んだ約束が繋いでくれる
俺は多分、 何とか小指を立てた
………
転移に使った一室でレイリアは結ぶ様に小指を立てていた
「以外に早起きだったわね」
「眠れませんでしたからね」
繋がった世界の門はその口を閉じる、 今は互に進むべき道を進む
……………………
……
その後大望は地球に戻ると行方不明者の発見により世間は喜びに満ちた
鉢倉の事を聴かれたが大望は答えられなかった、 知らない、 分からない、 そうとしか答えられない事が悔しかった
大望の慌ただしい日々が時の移ろいで収まり、 平凡な日常に戻ると、 大望はボランティア部の活動に力を入れた
やる気の無かった大望だが、 社会や企業に認知される活動を沢山行い、 人を助け、 街を助け、 多くの人にその存在をしらす事が出来た
その経験を布石に、 猛勉強の末、 夢見ていたS大学に進み、 多くの活動による実績を残す
その後然るべき時を経て、 大望吉照は自身の名を掲げ、 無事政治家へと上り詰めた
大望は忘れらない、 最後にエバシが伝えた言葉が、 人を救わなくてはならない
彼は災害用シェルターの建設、 避難用インフラの整備などもしもの時の対策に力を入れた
いつの日か、 いつの日か…………
………………………………
……………………
……
確かにその日はやってきた、 モンスターがこの世界にやってきた
さあ、 大望、 人を救え
………
目の前に嘗ての友人が立っている、 その手に握られた剣はあの時の、 矢口が持っていた剣だ
「鉢倉頼む、 力を貸してくれ、 俺は人を救いたい、 多くの人の笑顔を守りたい!」
大望はその男に頭を下げる、 下の階から激しい破壊音が聴こえた、 状況は一刻を争う
「頼む、 お前の力を、 貸してくれ、 この通りだ……」
大望は頭を下げる
ガンッ
目の前の男が剣で床を叩く
目が合う
「~~~~~(不明瞭)」
聞き取れない、 向こうの世界の言葉だ、 鉢倉があの世界で日々生きてきた証だ
鉢倉が剣を更に振り上げて、 床へ振り下ろす
ドガアアアンッ!!
床がバキバキに壊れて鉢倉が一階へと降り立つ
馬鹿野郎……
「扉から出てけってんだよ」
そう言い終わる前に降り立った鉢倉は強く踏み込み戦闘の場へと向かって行った
ああくそ……
「俺も見てくる! メイド長の幽霊、 Mr・レイリア、 できるなら片付けをしておいてくれ!」
大望は部屋を飛び出して言った
……
その後の部屋で壁にぶら下がった箒がひとりでに持ち上がる、 彼女には何故か実態と言う存在定義を与えられなかった
だが、 メイド長は笑って埃をはき始める
メイド長にはさっきの鉢倉の言葉が勿論理解出来ていた
『友達に頭下げんな、 馬鹿』
慌ただしいシェルター内部、 その一室ででメイド長レイリアはご機嫌に鼻歌を歌った