第六話……『さあ…強い火をともせ』
主人公と戦っているモンスター……鳥の頭に、 小学生位の体が着いたモンスター、 丸まったくちばしの口角は上がっている、 目は黒色の丸く小さいものだが、 そこに被る様綺麗な『へ』の形に黒く羽毛が変色しているため、 ニッコリしている様な不気味な印象を持たせる、 基本的に知性は低く獰猛、 主に鋭い爪を使った引っ掻き攻撃を行う
背中を殴打された衝撃で意識が保てない…………
痛みと恐怖が今一度瞼を閉じさせる………
もう何も考えられない…………………………
………………
………
どうして……………………………………
「どうして冬になると暗くなるのが早くなるの?」
少し冷える外の空気、 畦道は寒くなるにつれ殺風景な印象をより強くする
冷たい手を擦りながら、 祖父との散歩が日課だった幼い頃の俺は自宅の庭まで帰ってきたタイミングで隣を歩く祖父にそう尋ねた
「う~ん」と唸った祖父はきっと子供の自分にも理解出来るよう考えてくれていたのだろう
「それはね、 夏と冬とでは太陽の昇る位置が少し違うからなんだよ………」
俺は全然何を言われているか分からなかった………
それが顔に出ていたのだろう、 祖父はさらに長考して……………
ガチャッ!
そのタイミングで玄関の扉が不意に開いて祖母が顔を覗かせた
「あら、帰ってきてたの、 寒かったでしょう?、 早く中に入って温まりな」
続けて、 母も顔を覗かせた
「帰ってきてるの?、 そうだ、 お父さん今日大漁だったみたいで、 こ~んな大きなタイ釣ってきたわよ」
そう行って母は肩幅まで手を広げて見せた
俺の意識は既に大きなタイへと移っていて、 祖父を置いて駆け足でキッチンへと走った……………
だから知らない、 なぜ暗くなるのが早いのか?、 授業では習った、 だから知ってる…………でも知らないのだ……………あの時祖父が何と答えようとしてくれていたのか…………その時どんな顔をして……どんな事を思ったのかも………知らない
人の気を知らない………人の事は分からない…………何を考えてるかも予想できない……………
俺は昔からそうゆう人間だった………でも……それで良いとも思った
どんな状況でも、 俺は……少なくとも俺は……
たった1人でも生きていける…………………
…………………
……………
あの日…………ひと月前…………どうしようも無く世界は変わった
世界にモンスターが溢れ、 人々は皆恐怖を塗り固めた様な顔をした
俺の家族もそうだ、 テレビの報道が現実なのだと理解した瞬間、 恐怖し、 慌てふためいて、 しかし………どこか同じ動きをした
そこには確かに家族の団結が鑑みえ、 俺は他人事のように感心した
……………どこまで行っても他人事だった、 そして………
皆が恐怖するなか、 俺だけ…………笑ってた………
大いに待ち望んだファンタジー世界、 戦いに溢れた日々で剣と魔法もあるかも知れねぇ、誰だって1度は望むだろ
こんな世界があったらなぁ~って
根本的に人とは違う…………人が人の事を考える社会で、 俺はずっとそれが億劫だった……だがそれでも家族は………俺と共に生きようとしてくれた………
相反する気持ち…………
戦いに生き、 戦いの中で死ぬ………それを望む本質と、これからも人と生き、人の中で死ぬ………そうしなくてはと思う……ただの薄っぺらい気持ち
悩む事なく戦いの世界で行きたいと思った、 本質はねじ曲げられない、 今まではただ、 目の前に無かっただけだ、 それが酷く申し訳なくて……
あの日、 防災用のシェルターに避難する際に車は使用できなかった、 既に現れていたモンスターは走行中の車を次々と襲い、 道路は大混雑の中停止していた……
家族は酷く落胆したが、 俺はあるいは好機だと思った
モンスターと戦えるチャンスかも………と
逃げる最中モンスターが現れた……俺は何も考えず殿を務めると言った
当然怒られたが、 俺はもうする選択肢以外を持っていなかった、 圧倒的な興奮が脳を麻痺させ、 湧き上がる高揚が、 体全体を刺激した
祖父や、祖母を逃がすには、 誰かがやるしかない、 俺がこの中で1番動けると矢継ぎ早に言葉を放つと、 皆涙を流しながら、 謝りながら、 走っていった
やった………と思った
目の前には鳥頭の奇妙なモンスターがいた、 そいつをぶち殺してやった時、 俺はやっと初めて息をした、 その後、 目の前に現れ次第殺して、 殺して、 殺しまくった、 気分が良かった
戻らない俺は死んだと思われ、 家族は人の中で今まで通り生き、 俺は晴れて人の社会から解放され戦いに溢れる世界で戦う、 完璧なシナリオ
このまま殺し、 いつかは殺され、 生の実感を恣に進んでゆくのだと思った…………
………
ただ………少しだけ………家族に対する罪悪感が俺の中に燻っていた
戦いの最中に、 周辺の散策中に、 コンビニを漁ってる時に
逃げた家族がどうなったか、 逃げきれた保証だってねぇのに、 俺だけ今笑ってる、 人として行きたいように生きていると願っている、 俺が今そうしているように……でも俺だけかもしれない、今を充実して生きている居るのは………
それを思うと、 いつからか家族は死んでいると、 悪い方向に考えるようになった、 罪悪感にとうとう火がつき、 自分だけ生きていては行けないように感じた………
だから、 魔窟とかしたホームセンターに向かう事にした………
それが最適解だろ?、 自分の欲望を満たして死んで、 その後家族の所に行くのだと……そんな気がした
………どこからか声がする………
…………これでいいじゃないか…………
…………これが自分の望んだ事なら……………
………
…………
…………………………
…………望んだ事なら…………ね……………
……………………なんか違う、 俺は……………
俺は………………こんな負け方望んでない…………
このまま死んだって、 何も………
…………………何も楽しくねぇ…………
ドクリッ……止まっていた何かが動くのを感じる
普通に悔しい………俺は負けたくない…………
いや………………
火がつく……自分の中で燻っていたのは罪悪感だけでは無い、 それは彼の本質に近い部分………
俺は………まだ………負けてねぇ
ドクンっ今度は確かな躍動、 熱いものが彼の内側の燻っているそれを、 勢い良く煽る
まだ…………俺は死んでねぇだろ!!…………戦えるだろ!!
終わってねぇ、 まだ終わってねぇ!!俺の戦いはまだ終わってねぇんだよ!!
その瞬間燻って居たそれは、 確かな熱量を持って強く燃えがる
…………………ぶっ殺す…………モンスター共は全部俺がぶっ殺す!!
十分な量の薪に火は着いたのだ………その火の正体は
………闘争心………
またしても声が聞こえる、 今度はもっと近くで
…………………そうだよね………それが君の真に望んだ、 君自身の歩んでいく道だよね……………
…………さあ、 火は灯った、 進むべき道は今照らされた、 もう迷う事は無い…………
…………君には力がある、 戦う為の力が…………
………君はそれをもう知っているよ、 あとは、 そうだな………
………その燃えたぎる思いを込めて、 全力で叫ぶだけさ…………
………
………………
………………………………
………相手を打ち倒す、その気持ちを……その力の名前を………………
………今……全力で………この世に叫べ!!!
「ブレイング………バーースト!!!!!!!!!」
……さあ瞼を開けて…………世界はまた加速を始めるよ…………………
……頑張って、 明山日暮……………………