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第五十話…… 『地下シェルター』

朝日が昇る、 世界を当然の様に太陽は照らす、 あの太陽には見えているのか?


自分が照らす、 地球という太陽系の星が今、 本の少し前と全く状況が変わってしまっているという事を


いや、 知りはしないだろう、 地球に住むものが何者だろうと、 その星は青く、 薄く白く、 緑と茶色く


何も変わらないんだから…………


窓から差し込んだ日差し顔に当たって目を覚ます、 と同時にすぐ近くに足音が聞こえる


「お兄ちゃん、 起きてる?」


その声を聞く度に、 ありもしない記憶が湧き出てくる、 俺は明山日暮で、 今俺を起こしに来た茜は俺の妹だと


だがすぐに頭を振る、 違う、 俺は深谷離井みや はないだ、 ムカつく人間共の世界を破壊する現代の魔王だ


俺の怒りは溶岩の様に熱く、 執拗に絡み付き…………


「もう、 お兄ちゃん、 起きてるの? それとも2度寝?」


怒りに震える、 知らずの内に握っていた拳を解く、 度々こうして思い出さないと自分が何をしているのか分からなくなる


「おはよう茜、 今起きたよ」


優しい声音で話し掛ける、 自分で出しておいてだが、 背中にムカデでも這ったみたいに気持ち悪い声だ


「ふふっ、 おはよう、 朝ごはんだよ」



「ああ直ぐに行くよ」


食事場所になっている小ホールで、 食事の配膳が始まったんだ


俺を起こして先に向かう茜の後ろ姿を見送る、 愛おしい


本当の家族には裏切られて、 捨てられた


だから俺は、 もしかしたら今のままなら満足なのかもしれない、 俺を愛してくれる家族と、 守りたいと思える妹も


いっその事俺がこのまま明山日暮になるか、 どうせ本物は今頃あの魔境でモンスター共の餌になってる頃だしな


それに奴ら、 ブラック・スモーカー共も居る、 骨も残ってないだろうし


このまま………


パシンッ!


乾いた音が鳴る、 頬がヒリヒリとする、 自分で自分の頬をビンタしたのだ


「何、 寝ぼけた事考えてやがる…… そうじゃねぇ、 そんなんじゃねぇだろ、 俺の怒りは」


思い出せ、 貶められて、 裏切られて、 捨てられて、 その後俺は酷い身体的、 精神的侮辱を受けた


世界を憎んだ、 そうだろ?


「そんなもんで満足する訳無いだろ、 終わりじゃねぇ、 終わりじゃねぇぞ、 始まりだ」


「てめぇらの耳元で鳴る、 デスマーチだ、 ここから地獄が始まるんだ……」



『お兄ちゃん』


呼ばれた気がして顔を上げる、 茜はもう居ない、 くっそ


「うるせぇ! うるせぇぞ!」


その後1、 2分頭を抱えたが、 何とか立ち上がって離井は食堂へ向かった


今日中には準備が終わる、 明日にはここは死屍累々、 鮮血の浮上地獄と化すだろう


全てはこの日の為に………


明日殺してやる憎い人間共を殺す方法を考えながら歩くと不思議と頭が落ち着いた……………………………



………………………



……………


朝日は……………


「眩しい…………」


差し込む朝日が眩しくて目を覚ます、 ここは甘樹ビル、 甘樹駅の目の前に立つこのビルの一室で男は目を覚ます


「……ん? 今何時?」


朝日が高い


「もしかして、 かなり寝てた?」


昨日は聖樹と戦って、 韋刈いかりという男と戦って


その前にも色々戦って、 俺はようやく昨日、 この街で特別危険調査を終えた


その疲れからか、 昨日は早めに寝ると一度も目を覚まさず、 今起きたらすっかり太陽は登りきっていた


俺はダラダラと布団から起き上がる、 その時不意に懐かしさを感じた


それは1週間仕事をしてようやく迎えた週末、 何もしない一日のおそような朝


柔らかい布団の質感を気慣れたパジャマの上から感じる、 妙に暖かくて、 眠くて気だるくて


蹴り飛ばした布団も、 外れて朝日を遮らないカーテンも、 懐かしい


いや……


「ちょっと前まで、 俺一人で居た時もこんな生活だったわ、 戦いに出るのは昼からだったし」


「朝はゆっくり寝てた、 はぁ~わわっ」


床の質感を感じる薄い敷布団、 明らかに安い掛け布団、 枕は無い


あぁ~


「実家のベットで寝たい」


そう言いながら起き上がる、 腹がぐるぐる鳴って、 お腹がすいたと思う


寝癖? 鏡を見るまでは寝癖は無い、 パジャマ何て無い、 飯食ったら着替えるけど


そのまま飯を食いに共用の部屋のドアノブを捻る


ガチャリッ


し~~ん


誰も居ない、 まぁ皆それぞれ自分の部屋が与えられてるからな


乾パンを皿にカラカラ出す、 多分明日にはここを経つだろうから、 あんまし食いもんは消費しない様にしよう


カリッ カリッ


子気味いい音が口の中で鳴って、 頭が冴えてくる


「ごちそうさま」


伸びをして、 部屋に戻って、 気替えの服を着て、 頭を適当に振りったくる


「寝癖直しよし」


水溜場兼、 洗面所で少しの水で顔を洗う、 歯を磨く、 少し、 少しだぞ?


じゃばっ


水が手の中から零れる


「あぁ…… はぁ……」


寝起きよりも頭は冴えてる方だけど、 それでも体がダルい、 昨日の戦いで……


グシャッ!!


腹に大穴が空く、 その生々しい感覚と痛みを、 神経が覚えていてそれがフラッシュバックする


「うえっ……」


腹に穴何か空いていない、 折れた手首も、 足の骨も、 潰された喉も、 えぐり飛ばされた耳も、 全部治った


感覚神経が記憶の書庫を無造作に荒らして、 まだ新しい感覚を忘れまいと思い出させる


えずいても、 何も出てこない、 これは俺の意思じゃない、 みっともなく這い蹲るのをやめろ


立ち上がれ、 口元を抑えても何も出ない、 無駄なことはするな、 その痛みも感覚も今となってはまやかしだ


本物の痛みを思い出せば、 偽物などなんて事などない、 大切なのは今それでも生きていること


俺はその死の感覚すら乗り越えて、 今を生きている


そうだ………


あの時も、 思えば、 俺の初めての大探索、 ホームセンター『ココメリコ』で、 蛮鳥族の長、 暗低公狼狽あんていこうろうばいと戦った時


俺はあの戦いで何度も死にかけた、 大切なのは乗り越えて生きる事、 互いに進むべき道とその障害


跳ね除けて、 更に自分の道を進む事こそ勝利の意味だ


あの時、 奴より圧倒的に弱い俺が、 あいつを倒した下した時、 例え死んでもそこには大きな意味があると思った


その先にまだ自分の進むべき道は続いている、 死の先にもだ


なら死ぬとか、 生きるとかは二の次で、 1番大切なのは勝利する事だと、 あの時思った


今はどうだ?


あの時も、 今も、 死にそうになって、 でも生きてる、 あの時は死んでも勝ちに意味を感じた


今は過ぎた苦痛に身を悶えて地に付している


弱い


あの時俺は一人だった、 いや…………


「忘れるな、 今だって一人だ、 根本的に人は一人で生きていると忘れるな」


「心臓は、 他の誰が居なくても動く、 これは単一生命の躍動だ、 忘れるな……」


はぁ…………


軽く深呼吸をすると何事も無かった様に落ち着く


感覚神経が思い出させるのは乗り越えさせる為だ、 その苦痛を忘れず克服しろと言っているのだ


乗り越えて強くなる、 自分から湧いて出てくるものは、 恐怖も、 痛みも敵じゃない


生存本能の意思だ、 それを超えた先に生命としての強さが見出される


それを知っているから


「はぁ、 もういい、 無駄な事はやめて、 明日の準備でもするか」


何事も無かった、 そう思える程簡単に立ち上がれる、 進める


例え死んでも、 勝利に意味がある、 進むべき道……


亜炎天あえんてんか……」


戦士が行き着く終着点、 真の最強を決める場所


口角が上がる


「良いなぁ、 行きたい、 楽しそうだ」


完全に目が覚めた、 今はただ前に進みたい


伸びをする、 今日はしばしの別れの挨拶をしなくては…………


………………


……


ガチャリッ


屋上の扉を開けると、 驚く事にこのビルで生活する皆が屋上に出ていた、 成程下の共用スペースに誰も居ない訳だ


俺の存在に気づくと子供達が駆け寄ってくる


「日暮にいちゃん! こっち来てよ!」


凄い興奮した様子の子供達、 それに他の皆も一様に期待の顔を浮かべている


「どうしたんですか? 皆さん」


皆で同じ方向を見つめている、 あの方向は昨日まで巨大化した楼さんが居た地点


聖樹をぶっ殺した辺りの破壊が酷いので、 そこだけぽっかりと殺風景になっていた事を思い出す


その方角だ


子供達が更が指を指す


「あぁ、 酷い有様だろ?」



「違うよ、 もっと奥!」


奥と言われても分からない、 戦闘地点だって、 屋上から見てるから分かるだけで結構離れているのだ


それより奥なんて……


「居るんだって! 俺達以外にも生きてる人達が、 それもいっぱい!」


ん?


言葉足らずの子供達、 菜代さんが補足してくれる


「向こうにね地下シェルターがあるの、 上の建物は楼の軌道上だったから半壊しているけど」


「あそこのシェルターは地下にこれでもかってくらいの高機能設備が詰まってるから」


ん? つまり………


「地下シェルターに避難している人たちが少なくない数居るみたいよ」


「ちょうど楼の影になっていて今まで見えなかったのだけど、 見晴らしが良くなって………」


心から喜んで居るのだろうが、 今の言い方は不味かったかと菜代さんは櫓さんを見る


櫓さんは構わないといった様に首を振る


「……今朝早朝の事何だけど、 調査の人がいっぱい武装して見に来たのよ、 戦闘の現場を」


「彼らも色々悩まされて居ただろうから、 楼が居なくなっていて、 その…… 喜んでいたみたいよ」


言葉を選びながら話す菜代さん、 まあ成程状況はわかった


「この街に俺達以外に生きている人が居たって事ですね、 なら早速会いにでも行ってきますか?」



「うーん、 相変わらず話が早いわね、 でも分かっているだろうけど、 味方とは限らないわよ?」


最後の方は小声になって菜代さんが言う、 確かに


昨日戦闘になった男、 あいつが何者なのか、 どこかの組織に所属しているのか、 そして


今朝見つけた団体は、 そことは違うのか? それは大切だ、 今もう一度会ってもきっと勝てない


「でも昨日のあいつ、 ないしあいつらならシェルターに隠れているって事は無いんじゃないですか? 強かったし」



「さあ?」


まあここで話していても仕方ない……


「日暮にいちゃん、 行くの? 俺も連れてってよ!」


5人兄妹の次男、 洋汰が食い掛かるように言う


「洋汰やめろ、 にぃちゃんもギリギリ何だ、 俺達を守りながらってのは厳しいだろ」



「えー、 だって、 あそこにお母さん居るかもしれないじゃん!」


洋汰を長男の秀介が諌めるが、 洋汰の言葉にドキリとした様に秀介がこっちを見る


どうするか、 俺が赴き、 実態を知ってから連れてくる方が圧倒的に安全だ


でも、 そのやり取りでこの街を出立する日が少し遅れるには遅れる、 皆で行って皆で見てくる方が時短………


そこまで考えて首を横に振る、 誰かが死んだらそんなもん、 何千時間貰っても足りないだろ


「だめ…… だよな? にいちゃん……」



「ダメだ、 危険すぎる」


はぁ、 速攻行って速攻話して来るか? 気付けば皆が皆俺の事を見ていた、 期待を込める様な目で


いや、 だから無理だって……


「どうかしら? もしかしたら今が一番安全かもしれないわよ?」


そう言う菜代さんは周りをぐるっと見渡して続ける


「日暮くんがこの街の危険をあらかた片付けてくれたでしょ? きっとこの後別の奴らが入ってくる、 なら……」


逆に今が一番安全だと……


「っても、 その辺の雑魚は俺なら別にって感じですけど、 みんなを連れてってなると……」


にやりっ、 と菜代さんは笑う


「地上は危険でしょう、 でも空中なら?」


確かに……… は?


「空中? どうやって? 快活サンダーの背中にでも乗せてくれるって?」


快活サンダーこと、 菜代さんお付のサンダーバードは羽を広げて1メートル程、 とても無理、 その他に方法は……


呼ばれ方がかんに触った様で雷鳥は俺をベシベシと叩いた


それを気にも止めず菜代は話す


「このビルの屋上から櫓の能力で柱を伸ばす、 その上を歩いて、 どうにか降りる、 どう?」


俺は想像する、 ビルの屋上からまっすぐ横に柱が伸びて、 遠くの地下シェルターの真上付近まで伸びる風景を


その上をトコトコ歩く、 いやいや


「マイ〇ラじゃないんだから」


でもどうにかすれば行けそうとも思えた


「軽くんじゃ危険です、 どこまで応用が効くか分からないけれど、 やるなら」


俺は櫓さんと会った時を思い出す、 櫓さんは巨大幼虫の胃液に溶かされないよう、 頑丈な箱の中に居た


その時の……


「その時の箱を皆が入れる大きさで作る、 その箱の上の方に穴開けて、 伸ばす柱に通す」


「若干傾斜を付ければ、 スーっと、 横エレベーターみたいな」


言いながらかなり不安になる、 絶対途中で落ちる


「それは…… でも歩くのも現実的じゃないわね……」


うーん、 と2人で頭を悩ます、 それを周りで皆が期待の顔をして見ていた


行くことはほぼ確定の雰囲気になってしまった、 問題は生き方なんだが……


「あー、 そのひとつ提案がある」


櫓さんだ、 確かに櫓さんの能力なんだ、 櫓さんなら現実的な方法を思いつくはず……


「まず言っとくと私の能力を勝つようする方法は現実的では無い、 安全を保証できないからやめた方がいい」


あー、 やっぱり


「それで提案なんだが、 地上もだめ、

空中もだめ、 ならば地下を行けば良いだろう」


地下?


「下水道だ、 子供達もそこでこの間まで隠れ生きていた筈だ、 つまり下はかなり安全何じゃないか?」


まあ確かに……


「えぇ、 下水道~ やだ~ 勘弁して~」



「うるさ、 文句言ってないで案だしたら?」


若い女性2人がぎゃあぎゃあ言い出す


「ワシは構わん、 そういえば地下シェルターにも緊急時の為に下水道と繋がるドアがあると聞いた事がある」



「私も行きますよ、 もしかしたらあの子達も……」


老夫婦が同意を示す、 それに有益な情報だ、 地上に出ずシェルターに出れる


男性が前に出る、 確か彼女を亡くしてしまった人だ


「それなら、 自分が分かります、 自分の仕事は下水関係で、 管轄は違ったけど地図は頭に入っています」



「……大丈夫ですか?」


控えめに尋ねる、 彼の会いたい人はもう……


「……彼女の家族に会えたら、 しっかり謝るつもりです、 許して欲しい訳じゃ無いですけど、 ただそうしなくては……」


「それに、 両親や兄弟とも会いたいですし……」


成程


「それじゃお願いします、 その代わり皆さんの安全は俺が絶対に守ります」


その他最近来た人達も頷く、 言ったからにはしっかりしなくては行けない


その後準備をそれぞれ済ませると、 このビルの地下施設から行けると言うので、 出発した


「え~ 暗い、 怖い、 それに…… うっ」


皆集まった所で改めて自己紹介をした、 連携を取りやすくする為だ


元気な女性、 もとい、 優香ゆうかはそう言う


確かに……


「まぁ、 確かにひと月は流れが無いですからね……」


案内をしてくれる男性、 嶺鳥場みねとばさんが言った途端、 あっ、 と口を塞いだ


優香がそれを聞いてゾッとした顔をする、 子供達、 特に女の子達も嫌だろうな


「はぁ、 もうこのめんどくさい女はここに置いて先行っちゃいましょう」


やれやれと首を振る女性、 優香の友達で、美里みさと と言う


「ひどーい、 みーちゃん、 ひどーい!」



「うるさいって」


そのやり取りに、 周囲はあはは、 と笑いが漏れる


「私らはまだいいでしょ、 日暮くんが、 非常用のカッパとシューズのカバー見つけてくれたんだから」


探せばもっとあったのかもしれない、 けどぱぱっと見つかった数はあまり多くない


何とか女性と子供達、 あと優先させるべき人達には配れた


「日暮くん、 ありがとうだよ~、 でもね、 女の子的にはね……」


笑ったりはしない、 俺だって普通に嫌だし、 でも何事にも踏み出す勇気は必要か……


「ごめんね、 私迷惑だよ………」



「大丈夫、 ゆっくりで良いから進みましょう、 俺が着いてますから」


下を向く優香の言葉を遮って、 彼女に手を差し出す


優香はぽか~ん、 とした顔をする


え?、 ミスった?


そんな事を思っていると、 一拍置いてから優香が俺の手に手を重ねた


柔らかく微笑みながら……


「ありがとう」


その言葉に、 心の内側の知らない何かが音を立てた気がする


でも………


振り返って暗い道の先を睨む、 今は未知への挑戦をするのが楽しいんだ、 戦うのが


自分の心に釘を刺す用に思案してから、 道を歩き出した………………


……………………………



………………



……


この扉は何の扉なのだろう?


その疑問はずっとあった、 この甘樹地下シェルターの管理職員として務めだしてからそう時を要してない


最初に説明された気もするけど、 忘れてしまった、 ここは広すぎる


今更聞くのもはばかられ、 分からずじまいだ


「はぁ……」


自然とため息が出る、 この地下シェルターをフル稼働して使う激動の毎日に少し疲れたのだ


本当にこんな日が来るなんて、 災害が起こる、 いつかその時なんて、 一生来ないと思っていたのに……


私は今、 地下シェルターの備品の在庫を取りに来ているのだが、 誰も見ていない事をいい事にぼーっとしていた


それもこれも、 何の意味かも分からないドアがこんな所に有るせいだ、 そのドアに……


「お前は良いよな、 無意味の癖に、 意味があるんだろ? 怒られないし、 私以外は愚痴も言わないよ」


明らかに馬鹿だ、 無益、 こんな事をしても鬱憤ばらしにもならない


23歳、 一般女性、 ドアに話しかける奇行


シェルター機関紙にそんな見出しが載ることを想像して憂鬱になる


やめよう


「はぁ……」


もういや……


「会いたいなぁ、 ゆう、 みさ、 どこに居るの……」


あの日以来合って居ない親友を思って……


ガンッ!!


突然鈍い音が鳴って、 驚いて体を震わす


え? 何?


ガンッ ガンッ


鉄製のドアに音が響いて居る、 ノック?


その音をあげているのは、 なんの意味も無い、 愚痴を履いてやったドアだ


もしかして……


「モンスター…… ひっ」


自分で言って震える、 ひと月前に見た化け物、 恐ろしくて毎晩の様に震える


ガンッ!


また音がなった、 私は恐ろしくて動けない、 あぁ…… 終わった


しかし音に混じって声の様な物も聞こえる様な……


「あれぇ? どうやって空くの?」



「あ~ もしかして、 内側からしか開かないのか?」


開ける? このドアを? というか、 人?


ドアを見ると、 閂とかいう古風なロック画かかっていて、 それを外さない事には開かないだろう


どうしよう…… 近づこうとして……


「ふっとばすか、 皆離れて~」


え? 吹っ飛ばす?


「行くぞ、 ブレイング・バー……」


だめだめ!


「ストップ!! ストップ!! 開けるから!!」


慌てて声を張り上げてしまう、 あぁ良かったのかな?


「……そっち側に誰かいます?」


向こう側から声が聞こえた


「はい…… あの何用ですか? と言うか誰ですか?」


流石に警戒心が湧き出して……


「あれ? この声、 にっちじゃない?」


懐かしい声がする


「私も思った、 新那にいな? じゃない?」


え? 嘘……


「ゆう! 美里! ……なの?」


そんな事を言いながら私はなんの迷いも無く閂を抜く、 重いし……


ドアも……


「重い、 開かない……」


だめだ、 焦れば焦るほど力が入らない……


「落ち着いて、 このドアはもう空く状態なのかな? それならこっちで押すよ」


最初の男性の声


「はい、 閂は抜いて、 もう開きます!」



「わかった、 ありがとう、 一応離れてて」


そういうと向こうでドアを押す音が聞こえる、 かなり重たそうなドアはそれでも少しづつその口を開けた


「はぁ…… はぁ……」


若い、 同い年くらいの男の子だ、 彼がドアを押しながら真っ先に入ってくる


「あの、 ゆう、 優香と、 美里は……」


言い切る前にその後ろからふたりが姿を現した、 ああ……


「にっち、 おひさ…… ぐすっ」



「新那、 良かった……」


2人だ、 ずっと会いたかった……


私は気付けば泣いていた、 2人も泣いていたからだ


「ゆう! みさ!!」


ずっと会いたかった2人に抱きついて……


「うっ、 臭くない!?」



「あー、 忠告しようと思ってたのに、 下水道歩いて来たから……」


下水……


服を見る、 あはは、 なんか濡れたかも……


「にっちぃ!!」


優香が泣きながら抱きついて来る、 臭い!


「ちょっ、 あんた離れなさいよ!」



「うわぁん、 なんでー!」


きっとこれはこの3人の何時もの日時、 その風景何だ


微笑ましく思う、 でも……


「あの、 すいません」


ドアを押した男の子が控えめに声を上げる


「再開を喜ん出る所ごめんなさい、 でも大切な事だから、 どうかここの責任者と話をさせてくれませんか?」


その男の子の目は覚悟を決めた様な強い目をしていた…………


………………………


…………


……


紅茶を口にする、 落ち着く


「それで? お客人達は喜んでらした?」


執務室で書類仕事を行っている最中、 報告に来てくれた事務の子に状況を聞く


状況と言うのはついさっきの事、 他の事務の子、 名前は確か新那ちゃん


彼女がこの部屋に飛び込んできて……


『外からの客人です! どうしましょう!!』


ってまくし立てるから、 どういう事か分からず……


でもその後状況を何とか理解したから……


『厚くもてなしなさい』


と指示を出したが………………


「はい、 皆様には特別に浴場を解放いたしました、 この度の疲れを癒して頂くため小浴槽の方に湯も張らせて頂きました」


「新那も突然の状況に疲れが出た様だったので一緒に休ませました」


うん、 いいわね、 このシェルターは地下水を浄水して使っている


浄水装置の電気は太陽光発電と、 随分アナログな自転車式、 男達が総出で頑張って居るが、 行かんともしがたい状況だ


だがそれらをふんだんに使いもてなして余る程、 彼らが今日ここに来た事は大きな意味を感じる


「食事の方は?」



「皆さんご飯をあまり食べていない様だったので準備させていただいております」


「入浴の後、 食事を、 ですので面会は3時頃の予定です」


何とか動く乾電池式の時計を見る、 私の持っている高機能で高級な腕時計ちゃんに針を合わせている


「わかったわ、 面会の時はいいお茶を出しなさい? どうせこんな時くらいしか飲まないわ」



「承知しました」


頭を下げて事務の子が出ていく、 さて……


確かリーダーの子は男の子、 名前は明山日暮くんね


頭に指を当てて思案する


「流石に思い当たらないわね」


地下道を通ってここまで人を何人も連れてきた子、 リーダーシップがある、 と思えばどこかで名前の出ている子の可能性もある


例えば地方新聞の見出しを飾ったとか、 何かの部活で県大会に出て部長としてインタビューを受けたとか


地域を盛り上げる活動をしたとか、 地方紙ならその程度簡単な事で載れる物だ


そういった物をファイリングして置くのは趣味だった、 あいにくそのファイルは自宅だけど、 記憶にはあらかた焼き付いている


「全く知らないって事は、 そういった機会の無かった子ね、 まあ良いわ、 会って確かめましょう」


自分しか居ない部屋で、 女はにこりと笑う


「さて、 明山日暮くん、 君は何を成して、 どう私の役に立ってくれるかな」


その呟きに返す声なし、 女はもう一度時計を見ると、 仕事を再開した


…………………………


……………


……


あぁ~ 気持ちが良い、 気分が凄く良い


「最高……」


最高だった、 久しぶりの風呂


シャワーは出ないが、 桶に貯めた湯と、 それにボディソープや、 シャンプーまで用意されて居て、 体は綺麗に


そしてなんと言っても


「風呂につかれるのはいいねぇ~」



「ね~」


かなり広い浴場で、 普段ここに避難している人達も使っていると聞いた、 湯を沸かすことは珍しい様でとてもありがたい


ここは男湯、 人数的にも皆入れたのが幸いだ、 待たせる事になるとゆっくり入れないから


「腰の痛みが引いていく様だ」


老夫婦の夫、 名前を鉄次てつじと言うようだ、 昔は名前に負けない程強い肉体をしていたと笑った


妻である、 桜花おうかさんとの出会いを誰に聴かれずと話始めたが、 話上手でかなり面白かった


実際笑えたので、 鉄次さんなりに場を華やかせようとしてくれた様だ


つまり流れが産まれてしまった……


「俺の馴れ初めはよぉ!」


声のでかいおじさん、 最近危険なモンスターを倒しながら助けた家族だ、 少し声がでかい


おじさんがそれは大層な事があったと恋の武勇伝を語る、 めんどくさいおじさんと化しだ彼は若者に突っかかってくる


「坊主! 好きな女の子居ないのか?」


秀介と洋汰がおじさんに絡まれる


「べっ別に、 居ないし」


秀介が露骨に目を逸らしたので更に面倒臭いおじさんが絡んでいく、 俺も昔散々絡まれたよ父親とかに


秀介が小声で


「菜代…… さん……………」


と答えた事でめどおじが更に大盛り上がり


洋汰は元気に


「かなちゃん!」


と同じクラスの女の子らしい、 の名前を叫んでいた


「兄ちゃんは!」


あっ、 と思う、 めどおじが彼女を亡くした男性、 嶺鳥場さんに絡む、 知らなかったか……


「俺の好きな人は、 そのもう居ないんです」


その声を聞いてめどおじは何かを察した様だった


「そうかわりぃな…… 俺も日暮君に命助けられて無かったたら家族を失ってたかもしれねぇ」



「いえ、 ここに彼女の家族が居るかもしれ知れなくて、 その事を言わなくちゃ……」


嶺鳥場さんは強い目をして言う


「無意識に考えない様にしてました、 だからありがとうございました、 今は前を向かなくちゃ」


めどおじが涙を流しながらその話を聞いた


裸の付き合い、 どうして人は、 肌を晒さだけで、 自分の心まで晒してしまうのだろう?


身を衣で隠すのと同じで、 普段心にも衣を纏わせて居るのかもしれない


こういったやり取りは懐かしい、 あまり思い出したくない記憶をありありと甦らせる


皆素直だ、 素直に思った自分の心を晒す、 俺もある意味そうしたのだろう


懐かしいあの時……


俺の頭は、 恋心何て理解する前に、 剣や魔法、 ファンタジーやバトル、 勇者に魔王、 ドラゴン


今の闘争心を形作ったもの達でいっぱいになってしまった、 心に間を与えず来る日も来るしも冒険譚を考えた


そんなもんが世界に無いと知ってもなお、 俺はもう考えずにはいられなかった


将来の夢? やりたい仕事? あるよ、 異世界の冒険者


でもとてもそんな事は言えない、 だから無いって言い続けたら親に怒られた


中学になって、 冬夜と友達になったあの日、 俺は水の神秘体を見て、 全身が興奮した


戦って思った、 やっぱりこの道が良い、 ほかは有り得ないと


そんな事ばかり考えていのだ、 父親はよく俺に好きな人は居ないか? と今目の前で起きている様な話をした


俺は頭の片隅にも無いので、 俺は恋愛何てどうでも良いと素直に答えたが、 何故か誰も理解しない


神秘体との戦いで興奮仕切った脳をぶら下げて居るような浮き足立った時、 また父親はその質問をした


もううんざりだった、 自分に興味の無い話をされるのは


俺はいつも道理軽く受け流す、 そのつもりだったのに


にやりと相変わらず変な顔で笑う父親を見た瞬間、 俺の脳血管が全てはち切れたと思う程頭が熱くなり


明らかにそれとは違う何かも、 プチリと切れた


俺は自分でも驚く程に、 腹から出た声を張り上げて叫んでいた……


『うるっせぇなぁ! んなしょうもないもん、 興味無いって言ってんだろ! 何回言ったら分かんだよ!』


酒でほろ酔いだった父親は完全に酔いが冷めただろう、 団欒だった母も、 妹も祖父母もギョッとしていた


俺は正直すぎたかもな………………


………………


暖かい湯が脳を溶かして、 凝り固まったどうでもいい記憶の味を思い出させる


最悪だ


「……そんで? 日暮のにぃちゃんや? 俺が一番知りたいのはあんちゃんの事よ」


めどおじ…… じゃねぇわ、 確か船路ふなじさん


船路さんが聞いてくる、 話の流れ的に恋の話か? めんどくせぇ……


俺は早速もう湯から上がりたかった、 最近そうだ、 穏和な心と、 怒りが交互に、 いや頭の中でごっちゃになって


何考えてんだか分からない


「あぁ、 俺は、 居ないんですよね、 好きってのが分からなくって」



「なにぃ!? 日暮君いくつだっけ?」


めんどい


「21です」



「ならよぉ、 これからだ!!」


ねぇよ、 その道にこれから先何て


「あの子達どうよ? 優香ちゃんとか元気で可愛らしいじゃねぇか? 今日だって手を引いてやってただろ?」


「もしかしたら、 脈アリ……」


ドンッ


肘を浴槽にぶつける、 船路さんがおどけた様な顔をする


「すいません、 ぶつかっちゃった、 壊れてないよな?」


白々しく浴槽の心配をするのはやめろ、 素直にうるせぇと言ってやれば良いんだ、 あの日の様に……


「俺、 のぼせて頭ぼーっとしてきたんで先上がりますね」



「おお、 倒れないように気をつけろよ、 水飲めよ」


気を使うのそこかよ…… くっそ……


だらだらと支度をして風呂場から出ると、 のぼせても居ない、 その上誰も見ていないのに


演技っぽく水を一口飲んだ


何やってんだ俺……………………

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