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第四十九話…… 『魔境の街の黄昏時』

血を浴びるのは初めてじゃない、 あの時もそうだ


元々イラつく野郎だったが、 クソ親父をやたらめったらボコボコにぶっ殺してやった時


クソ親父の返り血で俺は真っ赤に染まった、 ひしゃげた体や、 踏み抜いて開けた腹のデカ穴も


そこから吹き出た血液を浴びた、 湧き上がった報復の気持ちを晴らす、 最高の気分だった


ずっとこうしたかった………………


……………………………


………………


「うっげぇぇええっ!?」


拳で腹を貫いた、 この男名前も知らないが、 かなり楽しかったぜ


そのまま貫いた腕を勢いよく振ると、 男の体は数メートル吹き飛んで地面に打ち付けられる


身体中震わせて、 痙攣しているそいつを見ると、 少し冷めてくる


ああ、 こいつももう終わりだな、 どんなに戦って食らいついても、 死に様が無様ならそいつは雑魚だ


戦士たちの終着点、 真の最強を決める地、 亜炎天あえんてんにこいつは行けない、 雑魚はあの地に招かれない


それにしても……


「ああ、 酷い有様だなぁ、 見慣れた街が、 通い慣れた道も全て破壊されて」


「守るべき奴らの怠慢だなぁこれは、 本当にやる気の無い奴らだ、 どいつもこいつも自分の命すら守れない」


「雑魚ばっか、 本当にこの世界に生きる奴らは雑魚ばっかだ」


周囲を見渡す、 え~っと、 聖樹の苗木は……


「ありゃ、 追いつめられてらぁ、 あのカタツムリモドキ、 聖樹を殺すだろうなぁ」


「助けるか、 バカ聖樹、 これから必要になるって、 あいつも言っていたし」


約ひと月程前、 突然俺の前に現れた、 知らねぇ奴、 そいつが聖樹の力はいつか必要になると言っていた


「仕方ねぇ、 足が少し痛いが、 行くかぁ………」


そう言いながら、 特に理由もなく首を横に傾けた、 後にそれはある種の虫の知らせだったと理解した


傾けた顔のすぐ隣を……


ビュゥンンッ!!! バシャアアアンッ!!!


何かが高速で通り過ぎた



余りに唐突で少し固まったが、 かすった頬の肉がえぐれて骨が出ているだろうことは瞬時に理解した


あ?


背後を振り返る………


「……あぁ、 お前、 まだ生きてたのか」


そこにはほんの少し前まで生々しい戦闘を繰り広げた男が居た


さっきまで惨めに痙攣を繰り返していた体を満身創痍で持ち上げ、 息も絶え絶えで立ち上がっている


俺の身体中を真っ赤に染め上げた男、 血を浴びるのは初めてじゃないが……


「はははっ、 嘘だろ生きてんのかよ」


実感を持ってぶっ殺してやった奴が起き上がるのは初めてだった


立ち上がった男はこちらを睨みつけるばかりで笑いもしないが、 あの空気圧による加速技で石でも投げたな


頬を血が伝う、 しかし……


「何でまだ立ってんだ? 腹の穴塞がってんのか?」


俺の予想ではやつの再生能力は無限じゃない、 何か予め貯めておいたエネルギーを使用して回復している感じだった


その証拠に戦いの最中、 小さい傷よりも、 大きい傷が優先されて再生されていたし


傷を負えば負う程、 再生速度と精度が落ちていた様に見えた


だからえぐった左目横の肉と耳、 肘で潰した鼻がほぼ再生してないのを見て、 今度の腹パンは再生出来ないと思っていたが……


いや……


よく見れば、 立っているのが不思議な程だが、 身体中傷だらけで、 血が止まっていない


相変わらず再生していないんだ、 そして印象的なのが


「おいどうしたそれ、 左腕どこにやっちまったんだ?」


左腕が肩関節から無くなっていた、 俺の攻撃によるものじゃ無いが……


ならば、 いやそうか……


「てめぇ、 そのナタで、 自分の左腕を切ってそれを養分に、 腹の穴を塞いだな?」


立ち上がるのに両足は必要、 ナタを持つのに右手は必要、 今失えるのは左手だけだった


日暮は、 ナタに左腕を食わせて、 エネルギーに変換、 死に際に腹の傷の再生に回していた


惨めったらしく転がって、 ビクビク痙攣して、 白目むいて死にそうだった、 確かにダサい


それでも、 大切なのは……


「……はぁ、 死んで、 ねぇぞまだ、 俺は死んでねぇ! 俺はまだ生きてるぞ!!」


日暮が生命を叫ぶ、 左腕からの出血は止めている、 もう一歩も本当は動けない


でも、 去勢でも、 カッコつけの嘘でも、 生きる為に吐ける奴はどれだけ泥臭くても、 それでも強い


「ファイナルラウンドだ!」


何とか腕を持ち上げて、 敵にナタを向ける、 確かな殺意を男に向ける


「っあははは! てめぇ、 もう本当はそうやって叫ぶのもキツイんだろ、 分かるぜぇ?」


「だが、 ダサくみっともなく死ぬよりは100億倍マシだ」


男が日暮に向けて歩き出す、 次の攻撃をくらえば本当に今度こそおしまいだ


でも、 準備はできている、 自信満々に、 言え


近づく男を睨みつける


「俺のナタの能力は、 再生じゃない」


短く言い放つ


男は首を傾げる


「は? 何を言って……」



「俺のナタの能力は、 ナタの喰らった細胞を全く別の物にする能力、 再生は俺の細胞に変えているだけだ」


「全く別の物に変えられるんだ、 そして例え俺の細胞に変換していても、 喰らった細胞は根本的には元のままなんだ」


話を聞いていた男は更に首を傾げるが、 思いついた様に驚きに口を開ける


「俺の細胞を別の物に変換できるんだ、 それは俺の中にあろうが、 外に飛び出ていようが関係ない」


「俺の血液だって変換できる、 全く別の物に、 変換できるんだぜ?」


精一杯笑う、 もうどうしようも無いから精一杯笑う


目の前の男は、 俺の返り血を浴びまくって真っ赤だ!


男は慌てて身体中の血液を拭っている、

良い、 これは賭けだ


男の更に置くを見る、 櫓さんと目が合う、 わかってる


「行くぜ! 覚悟しろ!!」


それらしくナタを構える


「俺の体外に出た血液を、 危険バクテリアに変換する!!」



「っ! んだとっ!?」


男が目を剥いて焦りだした、 良いね、 乗ったね、 掛かったねぇ


全部でまかせだ、 ナタの回復能力はただ一定の肉片や細胞を取り込んで、 自分の物に作り替えるだけ


全く知らない、 バクテリアやウイルスなんかに変換何か出来ない、 土壇場のブラフ何だよ


時間を稼ぐから……


「細胞変換、 バクテリー・ブレイク……」



「やっぱり嘘だなぁ、 口からでまかせ、 てめぇのナタにそんな能力はねぇ!!」


!?


何で? いや確かに名前や設定も適当だったけど……


「へへっ、 てめぇの今の同様、 図星か?」


ちっ、 カマかけかよ、 顔に出やすいんだ俺


「つまり、 時間稼ぎって訳だ! てめぇを無視して、 カタツムリモドキをぶっ殺しに……… ?」


やばい、 そう思ったが、 男が固まった、 何だ?


「っ!? 痛ってぇ!? うぇっ……」


男が突然体を、 特に脇腹と頬を抑え出す、 そこは俺が傷をつけた所だが?


「……てめぇ、 何しやがった、 何を、 っ!」


苦しみ出す男、 確かに、 何か、 俺の体をおかしい様な……


明らかに傷が、 ぷくぷくと音を立てて、 血とは違う液が吹きでている


見た目は、 キモイ


男を見ると、 男もキズのある頬や、 脇腹が同じ様になって居るみたいだった


「……てめぇのナタ能力、 本当にあったのか?」


いやいやいや……


「無いよ、 あっ、 無いって言っちゃった」


そんなくだらない話してる場合じゃない、 これはあれだ、 何か体の不調だ、 明らかにおかしい


傷口から吹き出た透明な液体は、 キラキラと妙に光を輝からせる


何か、 どっかで見た気がする、 このぬめぬめキラキラ………


「あっ、 さっき侵入した楼さんの殻の中、 同じ様なのが付いてた……」


俺の声が聞こえたのか男が目を見張る


ああ、 そういえば櫓さんと少しその話したなぁ……


これは………


「楼さんの殻の中に住む、 寄生虫の類、 傷から侵入して……」



「ちっ、 厄介なもんを……」


体がちくりちくりと痛む


恐らくこれは傷口から侵入するんだろうが、 俺が殻の中で触れた


男は楼さんの心臓を破壊してトドメを刺した疑いがある、 というかほぼ確定だろう


ほんのちょこっとの接触で、 数千、 いや下手すれば数万と体に付着していたのだ


そいつらは服に染み、 汗と共に体を履い、 傷口から侵入する


俺は幾らでも傷を受けたけど、 さっきまでその都度再生させていた


だが、 ここに来て傷が治って居ないので、 今頃侵入された


男は脇腹をさっき切って、 今頬を怪我した、 そして今侵入した


少しの時間差や不明な点もあるが、 体温等も関係してくるだろう、 しかしそんな事よりも……


ビリッ ビリリッ


「痛ってぇ!?」


まるで電撃が走る様な痛みに身をかがめる、 せっかく立ち上がったのに……


だが良い、 男の方もそうだ、 身体中を抑えしゃがみこんでいる


地球の外からもたらされた、 全く不明の謎の寄生虫、 根本的にこの体に合ってない


だが、 だが、 良いね、 こんな状況でも……


確かにわかる


「今、 俺たちに流れが来ている、 てめぇの足止め、 それが俺の狙いだったからなぁ!」



「ちっ、 うるせぇ、 想定外だった癖に、 イキるなよなぁ」


男が何とか立ち上がる、 でももう遅い


俺は男の後方を指さす、 その指の指す方を男は見た、 まぁだいたい予想ついてんだろうな


ドガラッ ドガガッラッ!


地響きの様な音が鳴って地面から何かがせり出す、 それは大きな手だ、 アスファルトで作られた大きな手が2本


片手には槍が、 もう片手には聖樹の苗木が握られている


聖樹の苗木は最後と抵抗とばかりにジタバタとしているが、 明らかに力が足りていない


聖樹は握られたまま、 高く掲げられると、 もう片方の手が、 強く握る槍をそちらに向けた


「やれ、 迅甲手じんこうしゅ!」


櫓さんの声が聞こえてくる、 槍を持った手は櫓さんの指示に従い、 槍を突き上げた


グザッッツツッ!!


クソ苗木を握るもう片方の手を破壊しながら、 そのまま空中高くに槍が掲げられる


その槍先にはクソ苗木がしっかりと突き刺さっていた、 だがまだ破壊できていない


「あのバカ聖樹は、 しぶといぜ? あんなんじゃまだ復活す………」



「終わりじゃないさ」


まるで男の声が聞こえたように、 櫓さんが言う、 櫓さんの声も不思議とこの空間に通った


「周囲を囲う巨壁、 楼を囲った段高壁だんこうへきが無駄になってしまうのでね、 再利用しよう」


築工作書本ちくこうさくしょぼん段高壁、 変築、 攻城杭こうじょうくい貫け!!」


周囲を囲う壁のそこらじゅうが突然伸びるみたいに突き出して、 それが全て超高速でクソ聖樹に向かう


グサッ! グサリッ!! グシャッ!!


数百本を超える杭がクソ聖樹を突き刺し蜂の巣に変える、 その様はまさにハリセンボンだった


これで死んだのか?


不意に櫓さんと目が合う、 その思いが不思議と伝わってきた


まだだ……


そして俺のするべきことも、 理解した


背負ったリュック、 ボロボロのそれに手を何とか突っ込んで目的の物を出す


それは…………


ピガガッ……


「菜代さん……」



「待ちくたびれたは、 任せて」


次の瞬間、 世界が照らされる


ピカッ!! ドゴオォォォォンッ!!


落雷、 空は夕焼けの手前、 暗さを感じる空を、 大閃光が照らした


クソ聖樹を貫いた杭が消滅する、 櫓さんが消したのだ


雷は、 クソ聖樹を未だ空中へと縫い付ける長槍へと、 吸い込まれる様に落ちた


バッチイイイイィンッ!!!!


凄まじい音が周囲を焦がす、 数秒後目を閉じていた事に気が付き、 まぶたを開ける


クソ聖樹は……………


じゅぅ………………


煙を出して、 そしてルビーの様に真紅の体液を漏らしながら、 明らかに死んでいた


あぁ……


ふははっ


「いよっしゃあ!!!」


声を漏らす、 その声に反応して、 上を見あげていた櫓さんが振り返る


櫓さんが確かに、 力強く頷いた


ピガガッ……


「終わったみたいね、 それで?」


喜びを感じる菜代さんの声、 しかしまだ安堵はしていないだろう


「そっちの男も打てば良いのかしら?」


その無線機を通した声は、 男にも聴こえたのだろう


「おいおい、 おいおいおい、 てめぇ、 甘樹ビルの落雷野郎と仲間かよ」



「野郎じゃないわ、 それに無駄な問答みたい、 食らいなさい」


無慈悲に放たれる冷たい言葉


「ちっ、 くそが!」


男は何とか服を漁ると、 見たことも無い石の様な物を取り出す


「おい、 てめぇとは今度決着をつけてやる、 俺の名前は柳木刄韋刈やぎばいかり、 覚えとけよ!」


男が取り出した石を手で握り潰して割る、 すると男の体が少し光った


しばし別れになる、 でもいつかまた合う、 決着はその時、 なら……


「俺は日暮、 明山日暮! そっちこそ忘れん………………」


ピカッ! ドガガッンンッ!!


落雷が放たれる


その瞬間、 男の体がぶれて……


バヂイイインッ!!


雷が落ちる、 目を開けるとそこに男の姿は無かった、 雷は恐らく当たらなかった


それより一瞬早く男は何らかの方法で離脱した、 俺には見えた、 あの瞬間、 俺の名前を聞いて


男は心底楽しそうに笑った………


ピガガッ


「逃がしたわ」


菜代さんの声


「安心してください、 あの男は今度、 確実に俺が殺します」


無線が切れる


周りを見渡す、 あぁ、 終わったんだ……


聖樹に宿られて、 エネルギーを貯める為に無理に巨大化させられた楼さんの遺体


その体は力を失って地面に伏せっている、 結局櫓さんは生きたままの再会が出来なかったんだ


楼さんの体に潰された建物、 聖樹の蔦に破壊された街は、 復興が難しい程の爪痕を残している


その聖樹が今死んだ、 櫓さんは積年の恨みを晴らし、 菜代さんとの共闘関係もこれで固くなる


得て、 失って、 また得て、 でも得た物では、 失った物の代わりにならないことはままあるだろう


それでも、 この破壊痕の残る、 モンスターが蔓延る、 魔境街で、 前を向いて歩け、 立ち止まらず歩け


進め、 進み続ける事こそ、 失った痛みを乗り越え、 新たな力を得る


生きると言うことなのだ…………


ズキリッ、 体のそこら中が痛む、 地面を見る


「あぶねぇ………」


地面に落ちたミサンガ、 シェルターの作戦室にいる同級生の菊野和紗きくのなぎさがくれた物だ


左手に付けていたけど、 左手を犠牲に腹の穴を塞いだので、 そのまま地面に落ちていたのだ


大切な物だ


ミサンガを拾う、 さて後は……


「や、 櫓さーん、 寄生虫が、 痛い、 助けて!」



「待っていろ、 今行く!」


そう答えた櫓さんがゆっくりと、 それでも確かな足取りで歩き出す


双子の兄弟を失った櫓さん、 それでもその姿は堂々と、 力強く、 とても美しい


その後、 櫓さんの能力、 『築工作書本』の古書と呼ばれる本に載っている


全治葉魔術機ぜんちようまじゅつき精製』という項目を櫓さんが唱えると、 何か傀儡の手の様な物


それが現れて俺の体から寄生虫を排除した、 さしずめUFOの中の診察台に寝転がって、 未知の手術を受けた様な感覚だった


この力は対価を求める、 そいつは死んだ楼さんの体を対価に求めると、 櫓さんは間を置いて頷いた


「断る選択肢は無い、 そういった代物だ、 それに供養するにも大きすぎる……」


諦めのような声を出す櫓さんだったが、 楼さんの遺体を回収した傀儡の手は何かを渡してきた


「これは、 楼の殻の破片か……」


傀儡の手はそれをこちらに渡すと、 去っていった


「まさかあれに、 こんな配慮が出来たとは、 私はこの力を使う時いつも悪魔に魂を売る事と同義だと思っていた」


櫓さん自体、 古書と呼ばれる物の内容は理解出来ていない、 それは自分の能力の枠の範疇を外れていると言う


俺は少し休むと、 フラフラと立ち上がった、 さっきまでの体を蝕む様な痛みは消えた


櫓さんをリュックに入れると帰路に着いた


現場には破壊痕以外何も残らない、 楼さんの遺体を対価に払ったので、 きょだいな体ももう無い


本当に破壊の痕と、 所々に点々とする赤々しいアスファルトのシミだけだ


「すまないが日暮、 私は何だかとても疲れてしまって……」



「おっけぇですよ、 少し休んでて下さい、 ビルに着いたら起こすので」


長い1日、 だった、 今朝は随分早起きだった、 昨日ビルで皆でおはぎを作った


そうしたら人の思いを多く受け取って、 それが実は気だるくて、 嫌になったから早々誰にも合わないうちに出かけた


焦燥感に背中を押されて、 危険モンスター達を倒すと、 心配する櫓さんを他所に俺は探索を続けた


洞窟を見つけて、 雪ちゃんと大蛇さんに合って、 聖樹との本格合戦がっ始まって


さっきの男が現れて、 思い出すだけで全身が震える様な戦いをして……


そして、 俺が藍木の町を経って今日で5日目、 目的だった光の矢の調査


及び、 その者との共闘関係を結ぶミッションは、 聖樹を倒した事により約束されただろう


ようやくこの街での、 特別危険調査を終えた、 恐らく、 明日か、 明後日俺は藍木の町に帰る


その前にしなくちゃいけない事は山ほど有るな……


ボロボロで、 血まみれで、 傷だらけで、 片腕がない男、 最悪だ……


キャンプ地の甘樹ビルに着くと、 少し驚いた


「お疲れ様、 おかえりなさい」


何と、 いつも屋上に引きこもっている菜代がわざわざ外で出迎えてくれたのだ


「珍しいですね……」



「まあね、 そんな見た目で避難者に合われたら、 パニックになって敵わないからね」


そう言って菜代さんは、 指を指す、 その方角には、 でかいカエルの様なモンスターの死体が落ちていた


俺は糸を汲んでナタを巨大カエルに打ち付ける、 ナタがカエルを喰らって、 エネルギーに変換、 傷を回復させる


「足りた?」



「ええ、 バッチリですよ、 本の少しエネルギーを溜め込んだので、 不意の攻撃には耐えれます、 ありがとうごさいます」


菜代さんがヒラヒラと手を振る


「良いのよ、 あなたは良くやってくれたわ、 これくらいしなきゃね」


菜代さんがビルに入って行く


「そこのカウンターに予備の服あるから、 適当に見繕っといたわよ」


見るとカウンターの上には畳まれた服が置いてある


「ありがとう! ございます!!」


菜代さんは少し笑って階段を登り始めた


新しい服に身を通す、 非常用に用意されていた服は、 シンプルなものだったけど


5分袖の大きめのTシャツも、 少しダボッとしたズボンも、 かなり好ましく思えた


「まじでありがとう、 菜代さん」


俺もそう言いながら階段を上る、 高層ビルの階段、 非常階段を昇り降りするのも慣れてきた


途中の踊り場で菜代に追いつく


「……私引きこもりだから、 ね」


そう言って笑う菜代さんの事を笑ったらどつかれたが、 一緒に階段を昇った


櫓さんも目を覚ました、 ここに今回の戦いの三銃士が揃って階段を昇った


階段を最上階まで登りきり、 広い部屋の扉を捻る


3人を待っていた物は………


「あ! 日暮にぃおかえり!」



「菜代おねぇちゃん!」



「櫓のおじさんも、 帰ってきた!」


元気な子供達の声と……


「おかえりなさい」



「おかえりね~」



「日暮くん、 おっかえり~」



「おかえりなさい、 あとゆう、 抱きつくな」



別に多くはない、 ここに居るのは10数人だ、 その皆が俺達を迎えた


はぁ…… 仕方ない、 もっかい背負うか、 人の思いを、 だって何か皆の顔を見てると


柄じゃない、 柄じゃないけど、 守りたい……


それに………


「ふっ、 皆、 ただいま」


そうやって言葉を返すのも、 懐かしくって、 別に嫌いじゃないかもな


日暮は、 一歩踏み出して部屋の中に入ると、 その夜、 少しだけ久しぶりに人と心から笑いあった…………


……………………………………



………………………



……………


気づくと薄暗い部屋にいた、 この感覚も慣れないな……


目が慣れてくると部屋の輪郭が見えてくる、 と同時に声が聞こえる


韋刈いかり、 お疲れ様、 緊急離脱してくるなんて珍しいね」


聞きなれた声だ、 ひと月程前に出会った、 父親を殺して刑務所に居た俺を檻から出した男だ


「あ~、 その事何だけど、 わりぃ、 聖樹守れなかったわ、 死んだぜあのバカ聖樹」


何とか声を出す、 体の傷と、 寄生虫による蝕む痛みが全身を駆け巡っている


暗闇が動いて別の声がする


「なにぃ!? 聖樹が死んだ? それでは作戦失敗では無いか! なんの為に貴様は出向いたのだ!!」


でけぇ声だ、 この闇の中で存在感ありすぎ


その声に更に別の声が反応する


「違う、 聖樹はただ使えるから生かせといっただけだったはず、 聖樹の力は作戦の完全成功の有無には関係ない」


落ち着いた声がでかい声に言う


「ん!? わからん、 何が違うんだ!!」


でかい声の奴は馬鹿だから大抵の事は間違って理解するし、 単純に理解力が無い


「はぁ…… 説明するのが面倒くさい、 とにかくもうこれ以上その議論を続けるなよ」



「わからん!!」


うるせぇ……


「皆、 静かにして、 聖樹の事はついでだから、 別に死んだなら死んだで良いんだよ」


最初の声が響く、 よく通る不思議な声だ


その声の主は立ち上がると部屋に置いてある棚から怪しく光る空の瓶を取り出す


「インビコール・ムーブ」


そう呟くと、 体を蝕む様な痛みが消え、 瓶の中には無数のキラキラが閉じ込められる


座標変換、 この男の能力は座標変換だ、 俺の体内の寄生虫の座標を、 瓶の中に固定した


さっき離脱に使った石も、 破壊する事で能力が発動し、 予め設定されたこの部屋に座標が変換された


ふぅ……


体から寄生虫が消えてひとまず息を着く


「後は、 傷の手当をして、 安静にしててね、 傷はすぐ治るだろうけど……」


「足の骨折の方は経過観察を怠らない事、 絶対安静ね」


諭す様な声、 他の奴に言われればイラつく様な喋り方だが、 不思議とこの男にキレようとは思わない


「ああ、 助かったぜ、 今はかなり機嫌が良い、 明山日暮、 あいつとあったのも運命か?」


「だったら、 今度こそ殺してやる……」


そう言って笑う


「ふふっ、 楽しそうだね、 良かったら韋刈、 何があったか夕飯の時に話してくれよ」


頷く


他に仲間が数人居るが、 今ここに居るのはこの4人だけだ


「仲間が生きて帰ってきただけで、 それは最高の祝い事だ、 だから……」


「さてさて、 それじゃあディナーにしよう、僕たち 『ブラック・スモーカー』の祝杯を祝って」


暗い部屋にロウソクの光が灯った、 彼らの暗き夜はこれこらだ……

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