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第四十六話…… 『魔境街・4』

目の前にそびえる白い大蛇、 その大蛇を取り巻くように多数の中蛇、 子蛇が群れをなす


大蛇のそびえる麓には、 雪のように白い髪を持つ女の子と、 一人の男が立っていた


「……すずめ」



「めるるーさ」


女の子が頭を抱える


「……さ…… サザエ」


えっと………


「えんかば?」



「……何それ? カバじゃ無いの?」


……………


「カバだよ、 異世界のカバ」



「むっ…… 私そんなの知らない」


メルルーサは知ってるのか……


「生き物しりとり何だから、 モンスターも有りだろ?」


選択肢の幅が広がるぜ


「ふ~ん、 じゃあ、 ばんとうだいこ」


……何それ?


万灯提呼ばんとうだいこか、 主にシュネーゼ地方に生息していた、 太古の族帝の名だ」


櫓さんの解説


「それ、 どこで知る機会あったんだよ」



「余が教えたぞ、 よく覚えていたな雪」


大蛇が女の子を褒めると女の子は嬉しそうにはにかんだ


まぁ、 それはいいとしても


「コブダイ、 なんで俺たちしりとりしてんだ?」



「いんとうたいし、 楽しいから?」


この洞窟に入り、 女の子と話をする事になった、 でも何を話して良いかと考えていたら、 始まったのがしりとりだ


「ほう、 韻灯泰詞いんとうたいしか、 先程の万灯提呼と族帝の座を競ったとされるこちらも太古の強者」



「櫓さん、 あんたも詳しいな」


和気あいあいとした空間、 いや情報量が多い………


「ん? って言うかそれ固有名詞じゃ無いの?」



「こゆうめいし? 何それ、 次は『し』だよ」


にこにこ顔の女の子、 あー


「シバヤギ」



「ぎじかくらい!」



「い…… インド象?」



「うっこうかんじょ!」



「え? よ? よもぎ?」



「ぎゃんぐーら!!」



「ら? ……ライオン………… あっ」


はっ! とした顔で女の子が嬉しそうに口に手を当てる


「お兄さん、 んって言った! 私の勝ち、 いひひっ♪」


満面の笑みだ、 ちょっと悔しいよ


「あーもう、 負けたよ、 ってか知らん名前多すぎだろ、 絶対固有名詞だし」



擬似殼來ぎじかくらい虚江官序うっこうかんじょ衹楊偶羅ぎゃんぐーらか、 どれも嘗ての最強達だ」


「この知識を授けたのが、 白蛇殿だと言うなら、 貴方は何者か?」


櫓さんが大蛇を見上げながら問いかけた


「うむ、 余名は白従腱挺邪はくじゅうけんていや、 太古より聖樹の護り手を担う白従の者よ」


「今は理由あり、 雪のそばに居る」


櫓さんはその言葉を聴き目を見開く


「あっ! では貴方は、 畏れ多きかな、 白神様!?」



「その名も懐かしき」


うわー すっげぇ! みたいなテンションで盛り上がる櫓さん


俺と、 雪ちゃんもぽかーんだ


「有名なんですか?」



「有名なんて物じゃ無い!!」


「我らの世界の地上神、 その一方なのだ!!」


テンション高ぇな


「っても、 櫓さん、 大蛇さんが凄いのは分かったけどよ、 良いのかよ?」



「何がだ? 日暮?」


だって……


「この大蛇さんは聖樹の護り手なんだろ? 俺達の目的は聖樹の破壊だぜ?」



「…………………うむ」


櫓さんが何とも言えない顔になる、 と言うか大蛇さんが敵になるならこの話はここで言うべき事じゃ無いな?


「……お前ら、 聖樹の破壊を行う気か?」


大蛇さんの声、 周囲の蛇達にも緊張が走る


仕方ねぇな……


「破壊します、 ちょっと理由があって、 そこでなんだけど、 大蛇さん、 あんたは俺らの敵になるのか?」


敵って答えたなら、 どうする?


最悪仕方ないここで…………


「えー! やだ! けんかはダメ!」


女の子の声が響く


「けんかは良くないの! パパもママも知らない男の人とけんかになって…………」


「………え? あれ、 なんだっけ?」


けんか…… そうか、 けんか何かじゃ無い、 両親は虐殺されたんだ、 でもこの子にはそんな事分からない


「……心配するな雪、 我々は戦いはしない、 そやつらの目的は余とは無関係だ」


あれ? そうなのか?


「お前達の言う聖樹は、 少し先にあるまだ小さき苗木の事であろう?」


大蛇が向く方角、 確かにそれの事だ


「ならばあれは余が護る聖樹では無い、 我々は明確にどの聖樹を護るのかを決めている」


「余が護るべき聖樹は、 余の故郷の地にあり、 ここには無いのだ」


「そもそも、 聖樹はこの地に本来無いもの、 異質な物を余は嫌う、 破壊してくれるならば好都合」


あっけらんかと言う大蛇、 そうなんだ


「おっけぇ! じゃあ雪ちゃん、 けんかは無し、 仲良く行こう」



「やったぁ!!」


にっこり笑う女の子、 やっぱり子供は笑ってる姿が似合ってる


「……不躾な事を聞くが、 ではこの洞窟は何なのでしょうか? こちらの聖樹は苗木ならばこの洞窟はまだ出来ないはず」


櫓さんが大蛇に問いかける


「この洞窟は元々我が居た洞窟だ、 洞窟ごとこちらの世界に飛ばされたと言えば良いか」


やっぱり、 この世界に来たのはモンスターだけじゃ無い、 と思えばココメリコの地下もここと同じ


各所にモンスターの巣穴が点在しているのか、 まるでゲームで言う所の、 ダンジョン


大蛇はさらに話を続ける


「何者かが操って居るのだろうな、 そ奴はこの洞窟の、 余の護る聖樹が蓄えたエネルギーをこちらの苗木に与え」


「成木へと急激に成長させるつもりの様だ、 もしかしたら余に鞍替えさせ、 こちらを護れと言うのかもしれない」


「だがそれは無駄だ、 こちらも護るには理由がある、 ただ何でもかんでも護るのでは無い」


「余の護る聖樹が無き今、 余の使命は、 雪を護る事だ、 余がそう決めた」


強く言い放つ大蛇、 そうなのか


「雪を護る為協力は出来ないが、 聖樹の破壊は余の思う所でもある、 頼んだぞ」


なら……


「ひとつ不安が無くなったな、 雪ちゃんもここにいれば安心だろうし」


「やっぱり不安があるとすれば、 聖樹本体…… と言うかなんと言うかの攻撃と」


あと、 雪ちゃんを攫い、 その両親を惨殺した男の事か、 やっぱり早めに動かなくては


不意に雪ちゃんの視線を感じる


「……お兄さん、 どこかに行っちゃうの?」


どこか不安に震える様な声だ


「別に、 まあ俺はちょっとやる事あるから、 また来るよ」


そうやって手をヒラヒラと振る、 余計な心配を与えない為に


「……あのね、 分からないんだけどね、 凄く胸がぎゅって苦しくなるの」


「誰だっけ、 好きな人達が、 居なくなって、 寂しくて」


「お兄さんとはねさっきあったばかりだけどね、 しりとりしてね楽しかったから……」


そんな暗い顔するなよ、 子供は笑顔で居るのが一番良いんだ


「雪ちゃん、 これ」


ポケットから小鳥の髪留めを取り出す、 雪ちゃんとお揃いの、 雪ちゃんのお母さんの物だ


「君の、 大好きな人の物だ、 君に渡すね」


俺に出来ることはそうそう無いかも知れない、 でもこれを渡す事は出来る、 これはお守りになるだろう


日暮も母から貰ったお守りに助けられた事がある、 気持ちは力だ、 思いやりは盾だ、 彼女を守るだろう


「……分からない、 思い出せない、 でも暖かい、 ありがとう」


ありがとう、 か……


昨日もたくさんその言葉を聴いた、 思いは力だ、 俺を縛り付ける力がある


でも、 今は……


櫓さん、 菜代さん、 雷鳥さん、 秀介達、 今を確かに生きる避難者達……


家族や、 シェルターの人達、 冬夜や、 同じ調査隊のメンバー


そして、 俺なんかに気持ちを託して旅立った雪ちゃんの両親と、 目の前の雪ちゃん


柄じゃない、 柄じゃないけど……


仕方ねぇ……


今は、 今はこの思いを背負って戦ってやる、 柄じゃねぇけど、 一人の大人として、 目の前の命は救ってやる


雪ちゃんが自分の髪から髪留めを外す、 お母さんの髪留めで再び髪を留めた


そして小さな手をこちらに向けた


「代わりに私の髪留めあげる」


え?


「いやいや、 何で? 大切な物でしょ……」



「返しに来て欲しいから、 大切だから、 返しに来て」


思いは力だ……


リュックのお守りに触れる


『はい、 厄除け』


左手の、 経つ前に菊野から貰ったミサンガに触れる


『……いってらっしゃい』


手を伸ばして、 雪ちゃんの髪留めに触れる


「約束だよ」


思いは色んな形の力なるんだ、 今はそれに背中押してもらうか……


「ありがとう、 雪ちゃん、 必ず返しに戻って来るよ」



「うん!」


はにかむ女の子、 この笑顔を守りたい、 そう思う気持ちは確かに自分の中にあるんだ


だから俺は…………………………………





…………………ひゅーん…………………………


ん?


突然小さな音を立てて、 洞窟全体が少しだけ暗くなった様に感じた


その変化には櫓さんや、 大蛇さん、 雪ちゃんも気付いたようだ


「これは、 まさか……」


大蛇さんが驚きの声を出す、 周囲の蛇たちも反応したようだ


洞窟全体に謎の緊張が走る


「何が起こったのですか?」


櫓さんが大蛇さんに問いかける、 嫌な予感、 その予兆にも感じられる


「……あまりに予想より早い、 いや違うのか、 まさか狙いは……」


何だ?


「何があったんだよ? 説明してくれ」


大蛇さんがこちらを見る


「この洞窟に満ちる光は、 すなわち聖樹の貯めたエネルギーその一端なのだ、 そして今この光は少し弱まった」


「膨大なエネルギーなのだ、 百年でも、 千年でも聖樹が生きる為のエネルギーなのだ」


「この光はこの洞窟を照らし続けるならば、 それは聖樹が生きる間、 同じ光量で照らされるはずなのだ」


……つまり何が言いたいんだ?


「洞窟全体はまだ明るく、 今もここを照らしているが、 光が弱まるという事自体本来有り得ないこのなのだ」


ん?


「……だから、 どういう……」



「つまり、 それが有り得る状況とは、 この膨大なエネルギーが一時的に何者かに使用されたという事だ!!」


「エネルギー回路が、 別の物に接続されたと言うことなのだ!!」


状況を理解してくる、 成程確かに予想よりずっと早い……


「それって、 聖樹の苗木にエネルギーが送られ出したって事?」



「……おそらく」


くっそどうして突然…………




……………ドォォンッ!!



何か大きな音が遠くで聞こえた、 外からだ……


始まったんだ、 聖樹の暴走が……


「何者かが聖樹の宿命に危害を与えた、 聖樹は自身を守る為に周囲を全て焼け野原にするぞ」


「もしかしたら、 犯人の狙いはこの街の破壊かも知れない」


そうだ櫓さんも言っていた聖樹を倒そうとした者たちが国ごと滅ぼされたと


そうならない為に櫓さんの能力で聖樹の周辺を覆う作戦を立て、 その為の準備をして来たのに


出鼻をくじかれた


「楼……」


櫓さんは宿命になった弟の事を案じている、 これから聖樹破壊の為に殺すのにな……


しかし……


「ここでぼんやりしていても仕方ありません、 すぐに行動に移りましょう、 今からでも壁を作るんです」


「その為の準備は出来ているんだ」


櫓さんが頷く


「そうだな、 これ以上楼に苦しませるつもりは無い、 急ごう日暮」


持ち物は特段ない、 勇気と気力と暴力だ


「聖樹の苗木の破壊、 それ自体今まで何度か行われた行為だ、 気張れやり遂げる可能性は確かにある」


大蛇さんの言葉、 いいねそう言うの聴きたかった


女の子の視線を感じる


「……帰ってきてね」


短い言葉、 これもきっと力だ


「ああ、 無事に帰ってくるから! じゃあ行ってくるよ」



「いってらっしゃい」


日暮は洞窟の出口へと駆け出した………


………………………………………


……………………………


……………


……………ピガガッ………………


洞窟の外に出ると安心する、 先程大きな音がしたが、 1面焼け野原とかでは無さそうだ


急いで路地を駆け抜ける


「菜代さん、 状況分かります?」



「……ええ、 通信が繋がって良かった、 櫓の兄弟が、 いえ聖樹が暴走したようよ」


「廃ビルが伸びてきた鞭の様な物で破壊されたわ、 櫓の兄弟自体に動きは無いけど、 鞭は暴れ周囲を破壊している」


「近づくのは危険よ」


なるほどね


「じゃあ、 いつも道理援護お願いします」



「……話が聞こえて無いのかしら、 はぁ…… 任せなさい、 櫓の兄弟までは私が導く」


「気をつけなさい」



「はい、 お願いします」


駆ける、 全速力で駆ける、 やはりだ、 前よりも格段に体力が持つ、 息切れも遅い


走ると筋肉が硬直し疲れると聞いた事があるから、 その硬直を回復能力が直してくれているのだろう、 息切れの方はコツか


走り方、 体の動かし方、 効率の善し悪し、 どう言った場合の最適の動き


「うん、 調子良いね、 っても流石にダッシュしても時間かかりすぎるぞ……」


どっかにチャリでも……




ワオーーン


遠吠えが聞こえた、 この街向かう途中、 巨大幼虫を倒すのに一時的に共闘した狼


その姿が背後から、 迫って、 一瞬で俺に追いつく


え?


「……何か用?」



「ワン!」


俺の背後に居た個体におしりを鼻でこずかれる


こずく?


「うわっ!?」


俺よりも大きな体で持ち上げるようにこずかれ、 俺の体は一瞬宙を舞う


そして、 ボフンッ


「うわ、 ゴワゴワだ、 固くは無いけど」


狼の背に乗る、 狼はそれを確認するとさらに加速を速めた


「はっ、 はやっ! なんなんだぁ!」


俺を背に乗せたまま狼の群れは目的地の聖樹の苗木まで駆け抜ける


「……おそらくだが、 協力してくれるのだろう、 彼らにとってもここはもう生活の為の第2の故郷なのだろうからな」


「それに以前の面識もある、 お前を連れていけばどうにかしてくれると頼られているのかもな」


そういう櫓さんはリュックからこぼれ無いようにしっかりと捕まっていた


「まあ、 何にせよ、 ありがとなぁ!!」


駆ける、 とんでもないスピードで駆ける


すぐに元凶が見えてくる


そこは既に周囲の建物や地面を蔦の様な物が這い、 緑地化した様に一面緑色だ


中程でへし折れたビルが地面に転がっている、 それの原因……


「まあ、 向こうも迎え撃って来るって訳だ」


這っている蔦と同じ物か、 しかし明らかに太く編み込まれた様な見た目、 鞭の様にしならせ周囲を穿っている


それが俺達を認識した


バシュンッ!!


音をきり、 張った空気が先に耳に届いて、 蔦の鞭は俺達に振り落とされる


ギラリッ!


何かが光った様に見えて横を向く、 狼の仲間が一歩前に踏み出し、 蔦目掛けて駆け出した


彼らの種は………


刃薙狼やなぎおおかみ、 自らの肉体の一部を刃物の様にしなやかに硬質化させ切り裂く」


乗っている狼の毛並み、 手触りは弾力がありコシの強い印象、 そして脂気が強い


「しなやかさは時に切断力を生む、 刃薙狼は体毛に独自の脂をワックスの様に纏わせ瞬時に指定箇所に体毛の厚い箇所を作り出す」


「それは全体的に湾曲し、 表面に体毛の起伏による微小な凹凸を作るのだ」


「それが刃になる、 脂には切断の際に引っかかりが出来ないようにする効果と、 それに伴い摩擦力の向上を目的ともしている」


走り出した狼の背中の体毛が纏まった様に見えた、 向かってくる蔦に回転する様にアタック


ズバリッ!


蔦が切れ落ちる


「まあそれもこれも、 狼達の速さと機動力、 あとは切断の際の機微なコツが無くてはなし得ない技だ」



「凄っ!」


向かってくる蔦を次々に狼達が走り出し切りつけ落として行く


狼達の言葉は分からない、 でもやっぱりだ、 思いは力、 今俺はまた託されている


狼達が切り開いた道の先に……


「うおっ、 やっぱりデカイな、 こないだの巨大幼虫よりデカイか?」



「いや、 こないだの治然頭蛾じぜんずがの幼虫は横にデカかった、 こちらの採寸で三百メートル程だったが……」


「しかし楼、 既にこれ程まで巨大化していたか」


目の前に櫓さんの弟にして元凶の聖樹の苗木、 その宿命となった者の大きさ


「まじでドームだな」


高さは目測で50メートル強、 奥行は150メートル前後くらい、 四足歩行のサザエ、 その殻から首が生える


櫓さんとは瓜二つだ


「巨大サザエだな」



「……私はサザエという貝類では無い、 すまないな何時もの調子で居てくれるのは助かる」


「これから肉親に手をかけるのは、 決意を持ってしても払拭出来ない、 胸焼けに似た感覚がある」


そういう櫓さんの入ったリュックを今一度しっかりと背負い直す


「狼さん、 この辺で良いよ、 ありがとう」


距離にして200メートル程か、 流石にこの先は狼さん達も危険だろ


俺を乗せた狼は素直に聞き入れ停止する


「よしよし、 いい子、 まじで助かった」


狼から降りて、 頭を撫でる


ドスッ


さっさと行けとばかりにまた小突かれる


周囲を見ると散り散りに戦っていた狼達も帰ってきていて、 近い蔦は全て切り落とされていた


200メートルくらい走って直ぐだ


狼達がこちらを見て頷き後方へと去っていった、 本当に助かった


「櫓さん、 今から壁で覆える?」



「ふん、 楼を覆うサイズだ、 準備に時間がかかる…… だが、 この作戦はあらかじめ決まっていた」


「既に準備出来ている、 コンクリートの地面を基本原料として金属も混ぜながら壁を作る」


「材料に触れていなければいけないから、 一旦私を地面に置いてくれ」


櫓さんをリュックから出し地面に置く


「準備は出来ているが、 阻止しようとしてくるだろう、 何時でも動ける準備をして置いてくれ」


築工作書本ちくこうさくしょぼん62ページ、 段高壁だんこうへき、 サイズしてい300メートル四方」


「高さ100メートル、 厚さ80センチ、 像設イメージ、 『強固』、 築工開始!」


ゴゴゴッ!!


周囲に地鳴りの様な音が響く、 地面からコンクリートのいた様な物がせり上って行く


それは櫓さんのイメージ道理、 聖樹の宿命をまるっと覆い、 多少俺達の避難のための余裕がある


壁が1m程の一部分だけいつまでたってもせり上って来ない


「ここは入口であり、 出口だ、 常にこの場所も頭に入れつつ立ち回れ」



「おっけぇ」


その隙間から壁の内側に侵入する、 天井を作らなかったのは光の確保だろうが、 成長していない聖樹はまだ苗木


宿命がどれだけ大きくても、 蔦はまだ苗木の聖樹由来の物、 上には伸ばしずらい


壁がせり上がりきって、 四方が壁に覆われる、 ます升の中に入ったらこんな気持だろう


突然周囲を壁で覆われたにも関わらず、 聖樹は特段変わった反応は示さない様だったが


「まあ、 なるはやで決めないと、 櫓さん、 あの巨体、 トドメはどうさす?」



「構造は私と同じ、 殻を破って心臓を破壊するぞ、 そここら声明エネルギーを吸い取っているはずだからな」


ならまず正面より後ろに回り込むか……


櫓さんをリュックに戻して一気に駆ける、 ぐんぐん近付いて……


パシュンッ!


こちらを認識した様だ、 鞭のようにしなった蔦が俺を目掛けて打ち付けてくる


俺の機動力は狼とは違う、 避けるには力が必要だ


「ブレイング・ブースト!!」


前傾姿勢で体全体を加速させる、 打ち付けてくる複数本の蔦も加速した動きには瞬時に対応出来ない


後ろで蔦が接触した破壊音が聴こえる、 当たればひとたまりもないだろう


パシュンッ!


目の前から一直線に蔦が向かってくる


体重を右前方に流し低い体制で転がり回避する


パシュンッ! パシュンッ!!


左右から挟み込むように迫る蔦


深く沈んで、 しゃがみより更に低く、 寝転がるような体制で回避


自分の上を蔦がクロスして通り過ぎていく


パシュンッ!


体制の悪い俺を目掛けて一直線に蔦が向かって……


「任せろ、 日暮が低い体制だから私も地面に触れている! 築工作書本、 78ページ、 攻城杭、 サイズ指定、 5メートル!」


杭が下から突き上げるように蔦を突き刺し、 その場に縫い止める、 良いね


「ふっ! ほっ」


起き上がり更に駆ける


目の前、 既に100メートルまで迫っている、 本当に直ぐ目の前だ


パシュンッ! パシュンッ!!


流石に危機を感じたか、 近付けないという意志を感じる、 蔦が何本も放たれる


「ブレイング・ブースト!!」


さっきと同じ、 自分を加速させ蔦を避けていく


はっ!


前方に5本、 絶対に仕留めるように複雑な動きで迫って来る、 その後ろにも何十本も控えているようだ


ナタを抜く、 残り40メートル、 ふぅ、 8秒経過……


「ブレイング・ブースト……」


加速の技


「シンキング」


ブレイング・ブースト・シンキング、 これは思考速度を爆発的に加速させ、 想定による最適解を導く力


見える、 駆け出して蔦に叩き潰される自分の想定の未来が、 避ける未来が


複数の動き、 複数のパターン、 全てを想定してその中で最適解の動きを導き出す


見えた!


「最適解、 聖樹破壊の正規ルートだ!!」


蔦に向かって……


サイドステップで左に避ける、 一番先に到達する蔦が俺の右側を過ぎていく


次を頭を下げて回避、 紙一重だ、 本の数センチ上をすぎている


その次は避けきれない、 覚悟を決めてナタを構える


「うらぁ!」


ナタを横から打ち付ける、 刃が蔦に食い込む事を利用して、 その部分を支店にして体を蔦の迫るのと逆に半回転


そのままの勢で左手を握り蔦を殴りつけ、 弾かれる勢で右手のナタを引き抜きつつ前方へ飛び出す


触れた左拳が多少傷ついたが気にする程じゃない、 ツタはこれも後方へと行った


さらに次々に向かって来るが、 どれも当たらない、 紙一重で回避出来る


こっちは想定しまくってる


「読めてんだよ! てめぇの動きは!」


駆け抜けて櫓さんの兄弟の足元まで来た、 高さは六十メートル程だが、 内臓系の入った殻


そのどの辺が心臓か?


「心臓は下だ、 はい出た胴と殻の入口程にある、 先ずは楼を転ばせて体制を低くしよう!」



「分かった!」


太く強靭な前足まで駆ける、 イメージがある、 この大木程の足も俺の能力なら……


深く沈み込み右手でナタを握り、 左手で右手首と柄のおしりを固定する様に握る


「牙龍!! おらぁっ!!」


全てを喰らうナタ、 それがアギトを向ける、 全力の大振りを横方向から前足首の腱を目掛けて打ち付ける


刃が食らいついて、 肉体を喰らうい刃薙よりも大きな傷が出来上がる、 そして仕上げ


傷口に向けて


「ブレイング・バースト!!」


圧縮した空気がバックリ空いた傷口の中で膨張、 爆発する


バッシャアアアアアンッ!!


血肉が内側で弾けて前足首が吹き飛び、 体制を崩したように前方に倒れた


ドッスゥンッ!!!


ゆっくりとした速度で、 それでいて確かな衝撃と揺れ


あらかじめ物に捕まっていた俺も吹き飛ばされそうになる程だった


グッシャッりと吹き飛んだ前足からは以外に血が出ない、 そりゃそうか、 元々は櫓さんと同じ大きさ、 足りてないんだ


崩れ落ちたその姿は妙に悲壮感を漂わせる……


「……良いんだ、 日暮私には気を使うな、 苦しいが仕方ない、 私は楼を殺すんだ」


何も言っていないが、 分かってるよ、 不必要な遠慮なんかしない、 全力で潰す


同対の後ろ足に駆ける


蔦がまた迫ってやがる


「段高壁!! 私達を囲め!」


足元に着くと、 櫓さんの能力でドーム状の壁が作られる


そうか、 止まってるだけなら壁で囲っちまえば攻撃は届かない


ガンガン!!


叩く音が聴こえる、 時間は掛けない


「牙龍!! うらぁっ!!」


先程と同じ様にナタを打ち付け、 バッサリ、 大きな傷口を作り出す


「ブレイング・バースト!!」


空気圧が傷口を押し広げ、 またもや爆発、 前足同様に弾き飛び今度は後も地面へと落ちる


ドッスンッ!!


完全に傾いた、 そのおかげで目標の位置は大分低くなった、 あとは殻を破壊するだけだ


「攻城杭、 十メートル!!」


櫓さんの作り出した杭が殻に突き立ち、 橋を掛ける


バランスはそこまで悪くない、 杭の上を走り抜ける、 蔦が迫って居るが、 流石に俺の方が早い


拳を握る


「ブレイング・ブラスト!!」


杭が突き立ち周囲にビビが入っている、 この殻も元のサイズよりも遥かに脆いだろう


空気の圧により膨張した拳を殻に殴りつける


バッキンッ!


陶器でも割れる様な鈍い音がして、 衝撃が広範囲に伝わる


バリバリ、 パキンパキン


剥がれて、 剥がれて、 外敵から内臓系を守る為の殻は、 今破壊された


バリッンッ!!!


最後に大きな破片が割れ落ちて収まった


殻の中は差し込む光以外は無く、 薄暗く、 ジメジメとしていて臭い、 流石内臓系の集まりだ


「殻を回りながら下っていけ、 このサイズだやはりいくらでも歩く余裕がある」


リュックから懐中電灯を取り出して進む、 蔦は殻の中まで追ってこない、 俺の位置が特定出来ないのか?


足元がヌメって、 殻の壁に手を着く


「……前に櫓さん言ってたよね? 未知のものにはやたら触るなって」


「こっちの世界のでんでん虫には大変危険な寄生虫が住んでる奴が居て、 素手で触れないんだ」


手のひらにヌメ~っとした粘液が着く


「……前にカバを倒した時、 毒ガスに犯された秀介を助けた力」


「築工作書本の『古書』に記された道具には万病を治す物がある、 この間は後ろ足を、 と少し高い対価が求められるが」


「日暮の力でその後ろ足を直した為、 もしかしたら古書の魔人に快く思われないかもしれないが……」


「まあ、 何にせよ大丈夫だ、 何とか治せると思う」


ダメって事じゃん


「まあ、 良いよ、 大丈夫、 気にならない……」


ベチャッ


……なんだ? 今度は何を踏んだ? よく分からん血溜まりの、 炎症を起こして膨らんだ血袋みたいなの……


バシャッ!


「ひぃぃぃぃっ」


弾けて身体中にかかる


「すまない、 日暮、 すまない………」



「もう、 良い、 何にも気にしないから」


そうやって話している内に空洞の様な所に出る、 天井部から吊り下がった肉塊が地面部と太い血管に繋がって伸びる


血液のバイパス、 その始まりの地点、 心臓


「……何か妙に静かだね、 もっとドクンドクンしてんじゃねぇの?」



「わからん、 流石に心臓は見た事ないが………」


だろうな


「まあどっちにしろ、 破壊するよ櫓さん」



「………ああ、 頼んだ、 流石に周囲の物質、 肉の杭では破壊できまい」


時間は8秒経過している、 何時でも叩き壊せる、 狙いをすませ………


「ブレイング!!」


やるならブーストだ、 ブーストの加速したナタで切断斬り飛ばす、 肉塊ならば余裕だろう…………


「ブース………………………?」


力を放とうと力んだ、 その不意に思った心臓からドバドバと何かが出ているような気がする


…………………………


「………どうした日暮? 何かあったか?」


突然硬直した俺を櫓さんは不思議なように尋ねた、 櫓さんも肉親にトドメが刺されるならば一瞬を望んでいるだろう


だが………


「なんか、 やっぱり妙だ」



「妙?」


体の構えを解いて懐中電灯で空間を良く照らす


と言うか……


懐中電灯を消す


「光、 どっかから入ってるよね? ここ、 歩いてきた殻の通路は真っ暗だったのに」


少し視覚的に見えずらい位置に目を向ける、 割と地面の方に人が通れる程の穴が空いていた


もう一度懐中電灯をつけて心臓をよく確認する


ドバドバ


何かがこぼれ続けている、 それが地面を流れ俺の足を汚していく、 真っ赤に汚していく……


そう言えば違和感があった、 ここに来て蔦は幾度となく向かってきた、 でも蔦は聖樹由来の物だ


先程から櫓さんの兄弟はここに立ち尽くしているだけで逃げようとか、 踏み潰そうとか一切しなかった


楼と言うこの個体自体は何もしなかった、 足首を破壊して転ばしても、 鳴き声ひとつ上げなかった


これは………


「櫓さん、 もう死んでるよ、 俺がトドメを刺す前に、 もう誰かに心臓を破壊されてる」



「…………………その様だな、 楼……」


櫓さんはショックを受けたようだ、 そうだよな、 ただでさえ肉親を殺そうとしたのに


その肉親は知らない所で何者かに殺されていた


しかし本当に妙なのは……


「なんで聖樹の苗木は元気なんだ? そもそも聖樹は宿命に寄生してエネルギーを吸い取って生きてるんだろ?」


「だから宿命の楼さんを殺そうとしたんだ、 でも楼さんは死んでて、 聖樹は元気…… 話違くない?」


明らかに不測の事態だ


「………………………」


ショックを受け、 黙る櫓さん、 俺が何とかするしかない


周囲を見渡す、 聖樹の苗木は何処だ? 今は違うとしても少し前まではこの心臓とも繋がっていたはずだ


その痕跡を……


地面を照らす、 血が流れ出続けている


ごぽっ ごぽっ


何処かに流れ行っている様な、 排水溝に水が流れて行くような音がする


よく見ると血液が吸い込まれて渦が出来ている箇所がある、 それはいくつかある様だった


もう気にせず手を突っ込む、 肉壁に穴が空いて居るようだ、 その穴は何かが奥からこの空間に伸びていた様に感じる


何かの通路のように奥まで続いている様だ、 もう長い事そうだった様で肉もそのトンネルの分浮き上がり固定されている


そのトンネルの浮き上がりは振れればわかる


例えばこのトンネルを通っていたのが聖樹の蔦もしくは根っこだったら、 この心臓間に繋がっているのも頷ける


そして、 このトンネルの先には聖樹の苗木がある筈だ……


なら


そのトンネルの痕跡を手で触りながら奥へと進んでいく、 位置的には体内の何処に向かっているのか分からないが


向かって、 走る、 平気で自分を育てた宿命を切り捨てる存在、 それが聖なる樹木?


いいや、 極悪非道で自分勝手な悪獣だ、 勝手な運命、 櫓さんの怒りもわかる


走って、 走って、 光が差し込んで……


「あれ? 眩しい……」


外だ、 外に出た、 後ろを向くと巨大な顔があった


口から出てきた


外に出てしまった………


「聖樹は外に出ているのか?」


すぐに蔦が向かって来る、 と言うかそれならこちらが見えている?


蔦が迫って……


「攻城杭、 サイズ指定5メートル」


地面から杭が伸びて向かい来る蔦を貫く、 食いに貫かれ蔦が縫い止められる


「……櫓さん」



「この蔦が本体から伸びているなら、 この蔦の先が聖樹本体だ」


確かにな


駆ける、 お騒がせな迷惑樹木を倒す為に……


大きな岩が落ちている、 その影から蔦が伸びている、 その岩は楼さんの体で調度死角になる位置にあった


もしかして、 体外に出て、 初めからこの位置で隠れて俺達を叩いてやがったのか?


だんだんイラついてきた


「ブレイング・ブースト!!」


一気に加速して岩まで距離を詰め、 足に力を入れてジャンプ、 岩に両手を着いて背面跳びをして岩を乗り越える


飛びながら横目で下を見る、 あれ? どこ?


「段高壁、 2メートル!! 日暮、 右手の方だ、 危機を察知して既に逃げている!!」


着地してそちらを向く、 そもそも苗木がどうやって移動を……


てってって


何かが走っている、 子供くらいのサイズ、 小太りした様に見えるそれ、 いや気だガジュマル見たいな幹が太いタイプの


太い根っこが足となって不格好な走り方、 似た様な手、 体中から蔦が長々と伸びている、 バカにした様な見た目


櫓さんの能力で壁が目の前に作られ、 驚いた様に尻もちを着いた、 その動作ひとつとってもバカバカしい


嘘だろ……


「あんな奴に、 楼さんは寄生されて、 養分にされて、 街も破壊されて……」



「だから言ったろう、 下らん聖樹の思惑なんだ、 自分勝手な者共なのだ、 馬鹿でかいだけの、 悪しき樹木なのだ」


櫓さんの声には怒りが籠る、 俺も睨みつけてナタを強く握る


「ナタは小枝払う道具だ、 あいつぶっ殺すには調度良いって訳だ」



「あんな下らん奴に使う時間も惜しい、 さっさとケリをつけよう」


櫓さんと共に歩き出す、 同じ怒りを抱いて、 同じ敵を打つために、 数日で様になってきた


俺と、 櫓さんで……


「最強のタッグバトルだ、 てめぇは蔦の数合わせてハンデで一人だけどなぁ!」


未だに尻もちを着いた聖樹の苗木に最強のタッグが歩みを進めた


チェックメイトを打つために


……………………………………


………………………


…………


「お?」


混沌の戦場とかした場所に呑気に歩く人影があった


「この周囲を囲う壁、 そして崩されて倒れる巨体巻貝の死体、 誰か来てるな?」


そいつは助走をつけると走り出した、 速い


沈み込み、 ジャンプ、 あまりに高い、 とんでもない身体能力


一瞬にして楼と呼ばれた悪しき宿命になり命を奪われた者の背中まで飛び乗る


「流石に見晴らし良いなぁ、 でけぇだけ有る、 まあ、 どんだけでかくても死んだら意味ねぇけどな」


「だってなぁ、 俺みたいなちっこい人間に、 一発で殻割られて、 内側で心臓を一突き、 それでくたばったからなぁ」


「弱かったなぁ…… んで、 苗木のほうはどこ行った?」


男は手で日差しを作ると周囲をぐるっと見渡す


「おや? いたぜ苗木、 と、 人間が一人、 人間が苗木を追い詰めてるなぁ……」


「面白ぇなぁ…… でもちょこっと席外した間位で追い詰められてんじゃねぇよ、 てめぇそれでも聖樹かよ」


「まあ、 名前だけ大層でも、 ただの樹木だもんな、 でもあの苗木も生かさなきゃ行けねぇ、 ちょっくらあの人間殺してくるか……」


そう言いながらも反対にしゃがみこむ男


「まあ、 もうちょっと見てても良いなぁ、 能力持ちみたいだし、 手の内知っておいた方がやり易いならな」


「まぁ、 何にせよ、 せっかくの終末だ、 この世界よぉ、 もっと俺を楽しませてくれよ」


男はそう言ってニヤリと笑った………

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