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第四十五話…… 『魔境街・3』

お腹すいたな……


ガチャリ


お腹を擦りながらドアノブを捻る……


「ん? あっ! 日暮にぃちゃん!」


十数人程が集まっている空間に入ると、 男の子が俺を迎える、 その他にも4人小さい子が集まってくる


それにしても……


「にぃちゃんね……」


弟がいる訳じゃない、 妹も藍木のシェルターに居る茜だけだが


「にぃちゃん話して、 冒険譚! 今日はどんな敵倒して来たんだよ!」



「櫓のおじさん遊ぼー!」


わいわいと盛り上がる子供達、 この子達は昨日毒ガスを吐くカバから助けた子達だ


ここは甘樹ビル最上階の一室、 他にも助けた数人の大人が居て、 ここは食堂や談笑室になっている


大きなビルだから色々な部屋を活用して現在は広々と使わせてもらっている状況だ


菜代さんは常に屋上に居る、 この街を見下ろして状況を見ている


「先ずは飯だ飯、 お前ら飯食ったか?」



「まだだよ、 一緒に食べるって約束だったでしょ?」


あぁ、 そうか……


このビルは街のランドマークだから、 一時避難場所としても設定されていたはずだ


災害時の非常食や衣類なども完備している、 ここに初めから他の避難者が居ないのはここが危険地帯だったかららしい


菜代さんによれば、 雷鳥を攻撃し、 その後怒りを買った雷鳥に種ごと根絶やしにされた大型の鳥モンスター


そいつらがこの甘樹ビルを巣として占拠していた、 その上駅前には当時危険なモンスターが複数争っていた為


元々居た人たちも追い出され、 来る人も居ないと言う事だった


適当なカップ麺をとる、 ガスで沸かしたお湯を入れる


「ねぇ、 今日はどんなモンスターを倒してきたの?」


さっきから色々聴いてくるのは2男の洋汰、 好奇心旺盛な子らしい


「でかいアリクイ? 強かったよ」


カップ麺を食いながら軽く話しをする、 こうやって話をする事で少しでもこんな生活の苦しさが紛れると良いけど


「洋汰、 あんまがっついて聴くな、 にぃちゃんも疲れてんだろ」



「えー」


最年長の長男、 カバから兄弟を守ろうと戦ってた子だ、 秀助と言う名前だ、 年は14らしく唯一の中学生だ


小さなカップ麺を直ぐに食い終わる、 最近少食になってきたのか別にこんなもんで良い


「俺屋上行ってくるから、 大人しくしてろよ」



「「はーい」」


2人分の返事、 他は櫓さんと遊んでいた


「ちょっと櫓さん連れてくよ、 話があるもんで」


渋ったのは女の子2人とまだ小さい男の子


その子達を最年長の秀助がなだめてようやく櫓さんが開放された


部屋を出て通路を進み、 屋上への階段を上がっていく


この世界になってずっと一人で戦ってた、 だけど不思議だ、 自分は何も変わらないまま周りに人が増えていく


人と人の輪が大きくなって、 いつかは家族ともまた再開する時が来るかもしれない


その時俺はどうする、 止められたら、 戦うことをやめろと言われたら


振り切って飛び出していく自信しか無い


屋上に出る扉の前まで来る、 ドアノブを捻る


さっき日が落ちた、 世界は既にかなり薄暗い、 ランタンの光が1箇所周囲を照らしている


「菜代さん、 おつかれで~す」



「えぇ、 お疲れ様、 ご飯は食べた?」


菜代さんがスナック菓子をつまみながらこちらを振り返る


「食べました、 菜代さんは相変わらず少食ですね?」



「動かないからね」


そのお菓子で足りるのかよ、 と言いたくなる、 不健康とも言いたくなるが俺もまともなもの食ってないな


ごくり


ペットボトルの水を一口飲んだ菜代さん、 良く見ればその少し奥で雷鳥がてってと地面を跳ねている、 小鳥か


「それで? 何か報告に来たのかしら? それとも質問? ただお話しに来てくれたって事もあるかしら?」



「いや聴きたい事があって、 別に雑談もしても良いですけどね」


ふっ、 と無言で微笑んだ菜代さんはとりあえず座れと言った感じに、 自身の正面を顎でクイッ、 と指す


別に椅子や座布団がある訳じゃないけどね、 どっこらしょ……


「まず、 今日は助かりました、 これは直接言いたかったので言わせてください」


アリクイの様な見た目のモンスターは日暮の意表を付き不意打ちで攻撃を仕掛けてきた、 知能が高い獰猛なモンスターだった


対処出来たのは菜代さんが無線で教えてくれたからだ


「それは本当に気にしないで、 怪我は治っている様だけど、 あなたは今無茶をしているの」


「勿論止めない、 寧ろその無茶を全力で手助けするのが私の仕事、 無事で良かったわ」


いい人だな


「……で、 本題ですけど、 聞きたい事がふたつあります」


「一つ目、 これは櫓さんにも聴くけど、 さっきの家で俺はかなり不思議な体験をした」


「その時の様子を教えて欲しいです」


菜代さんは特に考えた風もなく即答する


「それって家の中ででしょ? 流石に中は見れない、 分からないわ」


まあそうだろうな


「櫓さんは?」



「……日暮がその、 初めおかしくなったかと思った、 あの時のお前は虚空に話しかける変質者さながらだった」


……心にダメージをおった


「だが、 その後状況を理解した、 お前が話していたのは残影ざんかだとな」


残影ざんかとは我々の能力発現に似ている、 死んだ生き物の魂があの世に経つほんの前に……」


「ミクロノイズが魂に力を与えるのだ、 我々との違いは生命に宿る魂の能力か、 死して解き放たれた魂の能力かだ」


「あの家族の残影だったのだろう?」


日暮が頷く


「残影は誰もが認識出来るわけでは無いし、 残影自体全てを認識出来ない、 日暮何を言われたのだ?」


櫓さんは残影という物に詳しいのか、 菜代さんはともかく、 雷鳥もへーと言った感じだ


「それなんだけど、 娘を探してくれと頼まれた、 行方不明の連れ去られた娘らしい」


その時の事を詳しく説明した


「……そう、 亡くなっていたのね、 それに殺害したのは人間の男……」


菜代さんは俯きながら、 怒りと驚きを混ぜた様な声を出した、 彼女自身生きるのに精一杯


助ける事はできなくても、 存在を知っている以上相当気にかけて居たのだろう


「だから菜代さん、 見てないかなって思って、 その男や娘さんの事」


菜代さんは思い出すように頭を抱えたが……


「ごめんなさい、 分からない、 私もずっと同じ所を見ている訳じゃないから、 でも探してみるわ」



「そうですか、 俺も明日街に出たら手がかりを探して見たいと思ってます、 なにかあったら教えて下さい」


頷く菜代さん、 櫓さんも頷いた


「それで、 もうひとつの要件は何?」



「それなんですが…… 菜代さん、 ……おはぎの作り方って知ってますか?」



「…………おはぎ?」


………………………………


……………………


………


「たららったらったった♪ たらららったたらったった♪ たたたららたたらっ?」


ん? あれどんな感じだったっけ? まあいいや


「えー、 おはぎを作ります、 いえぃ」



「え? 突然どうしたのにぃちゃん?」


甘樹ビルに入って居る会社の社員食堂のキッチンに立つ日暮


子供達と菜代さんを呼び出し料理講座だ、 時刻は6時30、 今から? と思うけどまあ大丈夫だろ


「秀助、 お前おはぎ食べたいって言ってたろ?」


おはぎ、 その言葉に秀助が反応する


「えー、 非常食の中にもち米、 この食堂に黒ごま等を見つけました」



「あんこは?」


菜代さんが問いかける、 まあそうだよね


「よく思い出したら持ってた」


リュックを漁り少し大きめの缶詰を取り出す、 ラベルには茹で済み小豆と書いてある


俺の始まりの探索、 ホームセンター『ココメリコ』には同じ小豆の缶詰がいくつかあった


流石に要らないと思い1缶だけ持ってきたが、 ここで役に経つとはな


「まずは、もち米を炊くところからね……」


やる事は多い、 米を洗ったら水に付ける


その間に茹でてある小豆を鍋に入れ、 砂糖だとかを入れてあんこを作っていく……


「そういえば菜代さん、 聴いといてあれですけど、 良くおはぎの作り方知ってましたね?」


菜代さんは腕を捲り、 長い髪を後ろでしばっている


「まあね、 訳あって料理はよくしていたから、 それに私も好きだったわ、 おはぎ」


そういって菜代さんは秀助に笑いかける、 秀助は照れたようにそっぽを向いた


「お姉ちゃん、 私も何かしたい!」



「教えて!」


秀助の妹2人は菜代さんにくっついている、 人望あるな


「私も弟が居るからね、 こう言うのは慣れているの」



「あははっ、 俺も妹居ますけどね、 仲は普通でしたね」



「そんなものよ、 男と女の兄妹って、 あっ、 そろそろ良いわね」


「日暮くん、 もち米を今度は火にかけてくれる?」


10分程水につけたもち米を鍋に入れる、 適量の水を入れる


「なんだっけ? こういう時って、 何たらぱっぱみたいな……」


秀助は一緒に炊く準備をしながら、 そんな事を言う


「あぁ…… はじめちょろちょろ中ぱっぱね」



「にぃちゃん、 どういう意味?」



「わからん」


とりあえず蓋をして沸騰を待つ


「大丈夫よ、 ある程度したら確認するから」


菜代さんの方を見ると秀助の妹二人が代わりばんこで小豆をまぜ、 あんこにしていた


「火傷に気をつけてね、 日暮くん達も」


流石、 随分と周りに気が回る様だ


キッチンから食堂の方を見る、 避難者皆、 と言っても多い訳じゃないが、 参加している


秀助の弟の洋汰は、 一番下のまだ幼い弟と、 あと櫓さんと一緒に机で待っている


そのほかの人達も各々話などをしている様だ


この後自分達の分を自分達で丸め作って楽しんで貰うのも良いかも知れない


この人達は今の所櫓さんを恐れては居ない、 兄弟達以外は話はしないが……


そもそも俺と櫓さんで救助に向かっている、 その際きちんと説明しているし、 櫓さん自体言葉も話せて、 常識もある


おまけに子供達に人気なのだから自ずと気を許している様だった


菜代の指示で米の方の火力を落とす、 鍋は適度にクツクツと音を立ている、 横を見るとあんこの方は完成した様だ


「あんこは熱が取れたらOK、 もち米の方はあと10分も煮て、 その後10分程蒸らせば良いわ」



「了解です」


つまり、 一時的に手が空く、 料理って大変だな


「鍋は見ているから、 そこの布巾で使う机を拭いてきてくれる? 水を使ってしっかりね」


頷いて新しい布巾を出す、 水で濡らし絞る、 食堂へと出ていき使うだろう机を拭いていく


「机拭きますね、 あと20分程でできると思います、 時間かかってしまってすいません」


拭いている机を使っている老夫婦が顔を上げる


「いえいえ、 何から何まで悪いね、 甘い物が食べれるならいくらでも我慢するよ」



「ははっ、 この人甘い物には目が無いんです、 糖尿病に引っかかりそうって焦って居るほどなのに」


楽しそうに談笑する老夫婦、 この老夫婦は一昨日、 そして初めてこのビルに来た避難者だ


「本当に君には助けられている、 こんな未曾有の大災害、 君みたいに若い子が先頭に立っていると私達は心に希望を持てる」


「ありがとう」


目を見て話すその声に台を拭いていた手が止まる


あれ? 別にこんな事の為に戦ってた訳じゃないのに……


頭を下げて次の机、 男性が一人で座っている、 詳しくは聴いていないけれど大切な人を失った様だった


「時間かかってすみません、 後20分程かかってしまいますけど、 その後は皆で一緒におはぎ作りましょう」


そう言って机を拭く、 男性は活力を失った様に下を向いていた


その空気感から逃げる様に机を拭く手の速さが増してしまう、 拭き終わりその場を離れようと……


「……彼女を亡くしました」


ポツリ、 その言葉に足を止める


「……ずっと独身だったけど、 一年前彼女が出来て、 幸せだったのに……」


「俺が彼女の家に向かった頃にはもう、 彼女は…… 俺は遅すぎた……」


「俺は、 どうすれば良かったんだ……」


俺は何も言えない、 何か……


「……ありがとう」


こちらが何か答える前に男性が口を開く


「分からないけど、 分かりたい、 彼女に対して何が出来るのか、 それを分かってから彼女に会いたい」


「だから、 ありがとう、 ……ずっと伝えたかったんだ、 今はただその答えを探す為に」


「生きたいから」


男性と目が合って、 その力強さに、 背中に鳥肌が立つ、 俺とは違う、 これは目的を持った人間の強さだ


夢を、 希望を、 愛を、 目的を持って進む、 人間の強さだ


俺は男性の目をしっかりと見て慎重に口を開く


「……俺も、 もっと頑張ります」


男性は頷いた、 俺は頭を下げて次の机へ向かった……


……………


……


「……うん、 時間ね」


火を止めたあと10分程蒸らして、 もち米は完成だ、 その間に食器類や、 おはぎを丸める為のボウル等を用意した


奈代さんが鍋の蓋を外しもち米の様子を確認する


明らかに、 もちっとしたそのお米を一口奈代さんが口に運ぶ……


「……うん、 美味しい、 もちもちだわ」


俺と秀助はハイタッチする


「やったぁ! 鍋でお米炊くの初めてだし、 やったぜ!」


俺の言葉に秀助は喜びを顔に出しながら


「俺は小学校の家庭科の授業でやったよ? もち米じゃ無かったけどね」


え? そうだっけ、 まあいいや


奈代さんが慣れた手つきでもち米をほぐし、 その後広げたラップの上に薄く広げていく


「熱すぎると火傷するから、 粗熱を取ってからね」


3分程置いてから大きなボウルに移し替え、 食堂の机へと持っていく


「さぁ皆さんもち米を配るのでボウルを持って集まって下さい」


皆が集まってくる、 老夫婦や、 さっきの男性も


その他にも……


「日暮くん、 作り方教えて欲しいな!」


二つ年上の女性が話しかけてくる、 この人は昨日、 秀助達の後に救助した人だ


「あぁ、 いや俺そんなに詳しい訳じゃ無いから、 教わるのは菜代に……」



「えぇ、 それなら私が教えて上げる!」



「え? いや、 知ってるんかい」



「あったりまえでしょ、 私料理は得意だから」


胸を張って得意げな彼女、 何か凄い絡んで来るんだよな


「ゆう、 絡みウザイって思われるよ」


彼女の後ろから別の女性が出て来て、 ゆうと呼ばれた彼女を止める


「は? みーちゃん酷くない? そんな事無いよね、 日暮くん?」


上目遣いで聴いてくる彼女、 いや、 どうすりゃ良いんだよ


「はぁ…… ごめんね日暮くん、 無視して良いから」


その言葉に歯を見せて、 イーっと威嚇する彼女、 それを何処吹く風で受け流すもう1人の女性


2人とも元から友達同士だった様で、 2人で隠れるように生きていた


彼女達の分にもち米をとる


「ごまと、 あんこはあるから、 適量で使って下さい」



「はーい、 ありがとう日暮くん」


軽いそのままの調子でお礼を伝え、 もう1人の女性と自分達の机へと戻っていく


みーちゃんと呼ばれていた女性から聴いた、 彼女は元から明るい性格だった


だけど今は明らかに無理をしている、 空元気を出していると


この催しで少しは心がほぐれると良いけど…………


………


「……先ずはもち米を丸めてね」



「はーい」


菜代さんの言葉に元気に反応した子供達が各々好きな大きさにもち米を丸めていく


上の子が下の子をしっかり手伝っていて微笑ましい様な光景だ


かくゆう俺も丸めて行く、 不格好だ、 子供達は苦戦しながらも上手く行っている様だ


他の席の人達も数人で集まって談笑しながら丸めている


「そしたらあんこをつけて形を整えていくよ、 欲張ってたくさんつけないようにね」


皆で丸めて行く、 ごまの方も丸めて、 お皿にもって……


それで完成、 シンプルなんだ、 みんな思い思いに作っていく


不格好でも、 構わない、 大切なのは……


「美味しい!!」


子供達が喜ぶ顔を見せる、 あんこは甘過ぎず、 でも強ばった顔も綻ぶ様な美味しさだ、 もち米も、 もちもちで美味しい


子供達だけじゃ無い、 老夫婦が、 男性が、 女性たちが喜ぶ顔が目に焼き付いて離れない


この人達が少しでも苦しみから逃れられる様に、 この人達だけじゃ無い、 もっと多くの人が、 そして


シェルターで今も苦しみに耐える様に生きているであろう家族を………


あれ?


どっしり………………


肩が、 腕が、 足が、 腹が、 臓物が、 心が………


ずっしり…………………


重い


はぁ…… はぁ………


重い、 重い、 重い………………


違う、 俺の戦う理由は…… ただ……………


…………………………


「にぃちゃん、 ありがとな」


秀助の声で引き戻される、 なんだっけ?


「洋汰達の前じゃ言えないけど、 約束だったんだ……」


周りを見ると他の子達は皆それぞれ行きたい所に行き、 自由気ままに話をしておはぎを食べている


俺の隣にいるのは秀助だけだ


「……母さんとの約束だったんだ、 洋汰達を守れって、 そうしたらおはぎを作ってくれるって」


「俺の大好物だから」


ポツリと話す秀助の目線は先程自分達で作ったおはぎに固定されている


「母さんは行方不明だ、 それで俺、 母さんとの約束を果たせても、 約束のおはぎは永遠に食べれないと思ってた」


…………………


「……このおはぎが、 その約束のおはぎになったのか?」


少し声が震えた、 何だどうして今の俺はこんなにも弱いんだ?


秀助は俺の質問に首を振る


「ごめん、 それは母さんのおはぎだから………」


秀助の目線がおはぎからこちらを向く


「でもね、 すごい力が溢れてくるんだよ、 もしかしたら、 だって約束したんだ」


「洋汰達は今元気で、 俺も生きてる、 なら、 俺の母さんなら約束を守ってくれる、 信じたいんだ」


「このおはぎはね、 この皆で作ったおはぎは、 もう一度、 いやもう何度でも約束を果たして」


「母さんのおはぎをその分だけ、 いっぱい食べようって、 勇気をくれた、 そんなおはぎだよ」


真っ直ぐ見る目を、 そらせない、 心が無意識に躍動する


違う、 俺は………………


秀助の目は少しだけ赤く腫れている、 だから……


ガラッ


立ち上がる


「にぃちゃん?」


秀助が首を傾げる


「……………安心しろ、 俺もそう思うよ、 俺が見つけ出すから」


そう言って秀助の頭に手を置く


秀助は下を向いた、 その頬には涙が流れていた


……また、 背負ってしまった


「すまん、 流石に疲れてきた、 俺先に休むよ、 俺のも食ってくれ」


そう言って俺の皿を秀助に渡し、 背を向けて歩き出す


「………うん、 ありがとう、 にぃちゃん」


その声が背中に聞こえた………


……………………


地面を見て廊下を歩いた、 壁に肩を擦りながら階段を登った


唇を噛んで、 痙攣する下瞼を抑えることも無く、 髪の毛を雑に掻き乱し


怒りに震える様な声がはい出た


「……これで満足か?」


やがて目の前にドアが見えた、 俺の部屋だ


ドアノブを捻り部屋へ入る、 暗闇の中でなにかを蹴飛ばした


気にすることも無く、 壁に近づいた


拳を握った


「ちっ!」


ドスッ!


壁はびくともしなかったろう、 逆に拳を痛めたかもしれない


でも、 だからなんだ……


「……これで満足なのか? 戦いが世に溢れ、 その世界で笑う、 その楽しさが生きる指針だろ? 生きる全てだろ?」


「そうだ、 違くない、 その通りなのに…… なぜ、 なぜそれでも人との繋がりを求める」


思っていた、 人と惹かれ合うのは俺の意思じゃない、 弱さを埋めようとする生存本能の意思、 弱い意思だ


俺には不要、 常に強靭な精神で打ち倒れず、 押されど形を変えない


幾らでも立ち上がり、 睨みつける目は、 刃の様に鋭く、 戦いの意思は……


なのに


「まだ背負うのか? なぜ胸が痛む、 望んでもいないのに、 なぜこの胸が痛むのか」


涙を見て、 人を見て、 苦しむ顔を見て


強く揺るがぬ筈の精神が、 なぜ自分の意思とは違う動きをするのか?


ギギッ


歯ぎしりの音が部屋にこだました


………………………


「………………はぁ」


それでも…………………


「仕方ねぇ、 仕方ねぇからな……」


布団に寝転がる頃には、 もう心は落ち着いていた


まるで一瞬で寝たかのように思う、 明日になればこの怒りすら消えるだろう


だから先ずは疲れを癒すのだ……


………………………………………………


…………………………………


………………


「アギャ!!」



「ぶっ飛べ!! ブレイング・ブースト!!」


二足歩行のトカゲの様なモンスターは逃れようと………


築工作書本ちくこうさくしょぼん、 62ページ、 段高壁だんこうへき


囲み込む様に地面からせり上った壁に行き場を失ったトカゲ、 死ね!


ばっさりっ!


首を切り飛ばす、 当たり前のようにそれで死んだ


「よし、 えーっと、 おっこれ危険モンスターのリストの最後の敵だな」


菜代さんがリスト化した危険モンスターにチェックを付ける


今日の朝は早かった、 日の出と同時に目が覚め、 朝飯を食べると子供達も起きてくる前にビルを出た


既に老夫婦が起きていた事には驚いたが……


「……日暮、 何をそんなに急いで居るんだ? 今朝から休むことも無く、 昼過ぎの時点で残りの5体を倒すとは」


「無理は良くないぞ、 体は資本だからな」


……まあ、 確かに疲れた、 と言っても


「一体は寝てる所を不意打ち、 一体は飯食ってる所を不意打ち、 二体は櫓さんの力で固定して殺して」


「このトカゲもこの通り倒したからな」


確かに急ぎ足な事は俺も理解しているが、 今回の聖樹討伐作戦やはり時間をかけ過ぎるのは得策では無い


それに元々知っている街だが、 今日は街の探索を初めて四日目、 勝手もわかってきた


今日は3人助けて居る、 その人達は既に甘樹ビルまで送り届けていた


菜代さんが認識していた避難対象者もこれで最後だ、 つまり


「本格的に聖樹討伐作戦を開始できる」


いよいよ、 聖樹討伐、 櫓さんの兄弟を殺す準備ができるわけだ


「……なぁ、 日暮、 今日はもう帰らないか? 流石に疲れているだろう」



「………え? 別に、 それとも櫓さん疲れた?」


なんだよ急に、 まだ日は高い、 今日はこれからだ


「いや、 私は随分楽をさせてもらっているから、 だが今日の日暮はどこか焦って見える」


何も……………


「何も変わらないけど?」



「……そうか、 なら良いんだ、 お節介だったな」


と言っても、 これで準備を始められるが、 何から始めるべきか………


思案をする為不意に瞼を閉じた




ふわっ………




一瞬視界を何かが通り過ぎた、 それは雪のように白い…………


「……え?」


ちゃんと目を見開いてももう見えなかった、 でも何となく……


「今、 人みたいなの通り過ぎなかった?」


一瞬見えた、 風を受け、 ふわりと白い髪が視界の隅になびいて見えた気が………


「櫓さん、 今誰か居なかった?」




「……すまない、 見てなかった」


なら仕方ないか


視線を動かす、 感覚的に路地の方に進んで行った様に見えた


………………………


路地の方に足を進める


「日暮? 何か見えたのか?」



「………いや、 なんだろ、 何か分かんないけど、 行ってみます」



「………大丈夫か?」


日暮は路地に入って行く、 狭い路地だ、室外機を避けて、 薄暗いさらに置くに……


ひゅ~~


風の音が聞こえる、 しかも洞窟等で聴こえる風穴と言うやつだ


そして……………


「え?」



「これは………」


目の前には………………


「あれ? 路地裏の先に、 ……洞窟だ」


一部建物を破壊して、 しかし初めからそこにあったという程の存在感


大きな岩が露出し、 背の高い草まで生えた、 絵に書く洞窟といった見た目の物が……


「こんなに街の路地裏に…… なんだよこれ」


ひゅおおぉぉぉっ………


まるで吸い込まれる様な洞窟のデカさは上に5メートル程か、 入口だけかも知れないが


大口を開けた洞窟はこちらを誘う様である


「……行く気か? 日暮」


……………………………


~♪


~~~♪


…………………



「……何か? 声聞こえるよね? 気のせい? もし気のせいじゃ無かったら、 可能性あると思わないか?」



「? 何がだ、 何が言いたい?」


要は……


「探している最中の女の子、 昨日の家族の娘だよ、 もしくは家族を殺した奴か」


「どちらにせよ、 この洞窟は明らかな未知、 だったら……」


櫓はリュックから頭を伸ばし日暮の顔を見る……


「面白ぇ、 探索しない手は無いよなぁ」


笑っていた


「……まぁ、 この洞窟が聖樹討伐作戦にどう関わってくるとも分からん、 不安要素の払拭にはなるな」


「だが、 無理だけはするなよ」


ふっ……


「わーってますよ、 行くぜ」


暗い洞窟を進んでいく、 リュックに……


カチッ


懐中電灯で暗闇を照らす、 岩壁の洞窟、 ココメリコの地下にあった、 雰囲気的には巨鳥の巣に似ている


コツン…… コツン……


足音がどうしても反響してしまう、 喋る気にはなれず俺も、 櫓さんも黙ったままだ


照らした足元が突然光を放つ


「まぶっ……」


目を凝らして見ると、 岩の地面が突如透明なクリスタルのようになっている、 岩壁も同じだ


「……クリスタル洞窟、 明らかに見慣れない空間だけど?」



「………………バカな………」


驚いていると櫓さんの唖然とした声が聴こえてくる、 なんだ?


「櫓さん、 どうした?」


櫓さんは空いた口を閉じると、 深呼吸をして語り出した


「この洞窟、 私は見覚えがある、 光に見覚えが無いのは当然だろう」


「この洞窟は、 私達が本来住む世界のにしかない、 日暮達から言えば、 異世界の洞窟なのだ」


え?


「……つまり、 この世界に現れたのはモンスターだけじゃ無い?」



「それは何とも言えない、 この洞窟が我々の世界にしかない理由がある」


「それは、 忌々しい聖樹だ、 聖樹の麓にはこれと同じ様な洞窟があるのだ」


「……このクリスタルは、 聖樹の宿命となった者の蓄えた膨大なエネルギーの塊だと言われている」


「そして…… この洞窟が現れるのは性格が成長仕切った後、 宿命の者が息絶えた後だ…… ばかな……………」


なるほどなこの洞窟があるという事は、 つまり櫓さんの兄弟は……


「? でも、 聖樹はまだ成長しきって無いんだよね? 何故この洞窟があるの?」



「………それは、 分からん」


なら


「進んで見ましょう」


光が反射を繰り返す、 あまりに美しい空間に奇妙ながら感銘を受ける程だ


道は狭くなるどころが、 徐々にその幅を広げ、 奥行もあまりに大きい、 この洞窟を菜代さんが見つけて居ないとは考えづらい


暗低公狼狽あんていこうろうばいの住処も、 物理的な広さ無視の異空間だったし、 ここもそうか?」


不意に光が一瞬闇に溶けたように見えて、 洞窟が終わり広い空間、 その入り口が見えたとわかった


慎重に進む、 ナタを抜いて、 広い空間へと1歩踏み出して……


っ、 あれ?


「明るい」


光でも満ちている様に、 陽の光が差し込むように、 明るい空間だった


よく見える空間で、 目の前に……


「……日暮、 ひとつ忘れていた、 この洞窟に好んで住むモンスターが居るのだった、 すまん……」


蛇だ、 巨大な蛇、 大蛇、 見上げるほどの、 どうの長さも俺なんか2~3人分位のでかさ


雪のように白い蛇だ


「あぁ……… まだ来ちゃいけないステージだった?」


ギョロリッ



巨大な白蛇に見下ろされる、 ん?


それだけじゃない、 周囲に体力に、 とんでもない数の子蛇、 俺くらいのサイズからもっとでかいヤツ


そいつらが全部俺を見た


「ひっ、 卑怯ぅ~」


まぁ、 逃げる……


「あっ……」


気づけば足元に、 足に絡みつきがっちりと固められる、 え?


「動けなくて、 動けないんだけど」



「日暮、 どうする、 流石にこの数、 逃げ出す事なら出来そうだが……」


確かに、 バーストで蹴散らすか、 ブーストで逃げ切れるか………


………ふわっ


また、 雪が舞ったように見えた……


「……皆どうかしたの? 誰かお客さんかな?」


透き通った声が聞こえた、 まだ幼い様な声は、 それでもこの空間を支配するように耳に届いた


動きを止めて目をこらす、 蛇達は声のした方を向く、 そっちか………


見つけた、 最初に目に入った山のような大蛇、 その麓に女の子が一人


蛇に囲まれ、 同化してしまうのではと思う程白い髪をしている


「……どうしよう、 お兄さん誰? 何をしにここに?」


俺、 だよな? はぁ…… めんどくせぇ


「探索」



「へぇ…… 良いよね、 雪もおさんぽ好き」


いや散歩じゃねぇ…… いや、 それよりも


「雪…… ちゃん? が君の名前かな?」



「そうだよ、 雪は、 冬に産まれたから雪だよ」


雪ちゃんね……


昨日の家族の言っていた、 娘の名前もたしか雪だった


しかし…… あれ? 何て聴けば良いんだ? 死んだ家族が探してる? 馬鹿か……


「どうしたの? 雪がどうかした?」


こちらの思案などまるで知らないと言わんばかりに、 少し間の抜けた声が帰って来る


「……話をしたい、 そっちに行っても……」


うぐっ! 苦しい、 喉に蛇が絡まっている、 左右に楽しそうに揺れる雪ちゃんとは違いこの蛇達は俺を警戒してる


体に巻き付く、 一体が大きいので、 耐えられず体が崩れる


不意に1番大きな大蛇が首をもたげた


「……濃い、 瘴気の匂いがする、 人間、 貴様、 今までに多くの者を殺した様だな」


殺し?


「モンスター共をか? 弱肉強食だろ?」



「その通りだ、 なかなかに戦いを好む様だな、 さて、 人間ここに何をしに来た」


正直に話すか……


大蛇は明らかに上位者だ、 でも不思議と気圧されない、 この状況にも動じない


この街に来て戦った経験達が、 日暮を大幅に成長させていた


蛇に絞められた体を何とか捻って、 上着のポケットに手を入れる


「……あった、 これ、 小鳥の髪留め、 君のお母さんのだろ?」


よく見ると女の子の髪にも同じ様な髪留めが着いている


「………………?」


女の子は首を傾げる、 あれ?


「そうなのかな? お母さん? ……思い出せない」


女の子は下を向く、 思い出せない? 記憶が無い?


「記憶が無いのか?」



「…………分からない」


そうか…… でも、 何にせよ


「ここから、 出よう!」


この子も避難対象者だ……


「……嫌」


…………………………


嫌って言った? 嫌なの? 嫌なのね


「……なら良いよ、 強制じゃ無いからね」



「何? 良いのか? 日暮?」


櫓さんが驚いた声を出す、 そりゃそうだろ


「俺もね、 人からああしろこうしろ言われるのは嫌いなんだよね」


「特に自分の生き方に関わる部分は特に、 あっ、 特にって2回言っちゃった」



「はぁ…… 何をバカな事を言っている」


櫓さんは呆れたと言うような声を出す


「って事で、 用事は済んだし俺帰るので、 蛇さん達拘束解いて貰っていい?」



「言い訳ないだろぅ」


大蛇が冷たく言い放つ


「そもそも、 ならばお前、 本当になにをしにここに来たのだ?」


いや、 だから……


「探索だよ、 見慣れない洞窟があって、 今日はもう暇だったし、 楽しそうだったから」


………………………


「はぁ?」


大蛇の反応はやはり冷たい、 あれね、 やっぱりめっちゃ警戒してるのね……


なんでそんなに警戒してんだ?


「こちらに危害を加えるつもりは無いと言うのなら、 武器を下ろせ」


大蛇の言葉、 武器?


「……あぁ、 ナタか」


ナタを鞘に仕舞う


「これで良いか?」



「……お前、 本当に何をしに」


おい呆れた様な声を出すな


「だから、 楽しそうだったから探索に来たの! それだけ! 捜し物とか確かにあったし、 見つけたりもしたけど!」


「それだけだよ、 帰れって言うなら帰るよ! 帰らせろ!」


馬鹿みたいに叫んでみる、 大蛇は哀れな者を見るみたいに見下ろして、 は? といった感じに首を傾げた……


………………


「お兄さん、 雪を連れて行くんじゃないの?」


連れてく?


「しねぇよ、 ここに居たいんだろ?」


女の子は首を傾げる


「どうしてそう思うの?」


いやだって……


「居心地良さそうだし、 鼻歌が外まで聴こえて来たぜ、 蛇達とも仲良くやってんだろ?」


……………………


……


「ふふっ♪ そう! 皆優しくて好きなの!」


家族を褒められて喜ぶ様に笑みを浮かべる女の子、 なんだ、 良かった


絶望みたいな顔で生きるのは辛い、 こうして笑っているのはいい事だ


「ふふふっ、 お兄さん変だね!」



「変って何やねん!」



「ふふっ♪ あははっ」


楽しそうに笑う女の子、 子供の時って変な所にツボが有るんだよね


「……はぁっ、 皆お兄さんを離してあげて」


蛇達が素直に俺から離れていく、 体が随分軽くなった


「良いよ」


ん? 何が?


「さっき、 雪とお話に来たって言ったよね? 良いよ、 お話しよう?」


にこりと笑う女の子


「ふっ、 まぁ良いか」



「ふふふっ♪」


女の子の元へ歩いていく、 今度は蛇達はそれを邪魔しない


この出会いはいい出会い、 そうだと良いな~ と思った…………………

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