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第四十四話…… 『魔境街・2』

甘樹あまたつの街には今日もモンスターの声が響く


あとこいつの声も……


「おっしゃ!! トドメだぁ!! へはははっ!!」



「ブフォオオオッ!?」


こっちで言うアリクイみたいな顔の敵を打ち倒す、 粘液を纏った長い舌が刃物の様だった


「痛ってぇ…… だから服ダメになるんだよ、 こういうタイプは」


服が数箇所切れ血の滲んだ肌が見える


「まあ良いや、 喰らえ牙龍」


敵の死体にナタを打ち付けると、 ナタは血肉を喰らう、 それをエネルギーに変換、 回復出来る


小さな傷が治って行く、 服まで直してくれないかな……


「あと櫓さん、 その足治療しますよ」


リュックの中の櫓さんに声をかける


「そうだなお願いする、 足を失うのは大いに惜しい」


カバモンスターを倒し子供達を避難させたのは昨日の事、 あの後ガスの治療を櫓に頼みに行ったのだが……


『この治療には大きな代償を求められるのだ、 その子を救うために私は左後ろ足を捧げた』


そう言う櫓さんの足は片方無く不安定だった


幸い俺はタオルを巻いて口や鼻を覆っていたので時間経過で体の症状は消えた


………………


「牙龍、 櫓さんの足を治せ」


ナタに絡み付いた骨が伸びて櫓に突き刺さる、 数秒後には突き刺さった痛みと共に失った足が再生する


「助かった、 足は遅いが無いのは困るからな」


そりゃそうだろう、 っとそうだった……


日暮はリュックから紙の挟まったクリップボードを取り出す


挟まれた紙は数枚あり、 そこには手書きで文字が書いてある


大まかに区切ると避難民の避難場所と数、 それと危険なモンスターの特徴と所在


モンスターの紙を捲る


「えっと、 アリクイ顔のモンスター討伐…… っと」


そう言いながらチェックを付ける、 複数体居るものは正の字も書いている


「このモンスターは昨日のカバと一緒で基本単体と」


単体危険モンスターと書かれた紙に今回のアリクイと昨日カバ、 その他数匹にチェックが付けられている


「あ~ これでようやっと半分か、 っても5匹だけど」



「ここに名前の乗っている個体達は厄介で強力な物ばかり、 優先して倒しているとはいえ……」


「三日間弱で五体盗伐ならば大した物だと思うがね」


日暮は櫓の話を聴きながら一昨日からの日々を思い出す


一昨日、 甘樹ビルの屋上で菜代さんと会った日だ、 菜代さんとは、 櫓さんの兄弟を打倒する為の協力関係を結べた


その後善は急げという事で早速俺は街に出た、 一昨日はその時点で昼間際だったのでモンスターを一体討伐して終わり


そして昨日、 子供達を助け、 カバと、 さらに別の敵をゴリゴリの不意打ちで殺した


避難場所は甘樹ビルだ、 高層で敵も来づらく、 場所も広い、 近づく敵は菜代さんの的だし、 ある程度安全だ


今日はこのアリクイが二体目、 一体目は櫓さんの能力で閉じ込めた所をバーストで殺したので楽だった


不意打ちは楽、 でもアリクイは、 一体目の討伐後に逆に不意打ちで襲われた


菜代さんが連絡をくれなかったら、 一瞬早く動けてなかったろう、 逆に襲われる、 当たり前だが忘れがち


気をつけよう、 まじで死ぬかと思った


そして、 連絡、 昨日カバとの戦いの最中もしたが……


ビガガッ


「っす、 菜代さんまじで助かりました、 今倒し終わった所です」



「お疲れ様、 良いのよ無事で良かった」


無線機、 櫓さんとした初めての会話の時、 巨体幼虫に追いかけられた時に使った物だ


俺のは建築途中のビルから拝借した物だが、 菜代さんの方は……


「この櫓の作った無線機凄いわね、 ノイズも少ないし、 何時でもしっかり繋がる」


櫓さんの物を作り出す能力、 その能力で作り出した無線機を菜代さんが持っていて素早い連絡を可能にしている


アリクイを倒してもう時間で言えば15時過ぎくらい、 昼も程々だから少し腹の減る時間だが


この数日は激動で時の流れが早い……


日暮の住む町、 藍木あいきを出てから今日で四日目、 一週間も帰らなければ流石に心配されるかな?


冬夜と威鳴さんは藍木山の調査から帰って居るだろうな


まあ、 しみじみ考える様な事じゃねぇ……


「えっと、 赤い屋根の建物ね…… おっ、 あったあった」



「そう、 そこが家族3人程で避難しているお家よ、 無事だと良いけど……」


無線機の向こうの菜代さんの声は少し不安そうだ、 この家族はここ3日程家から出る所を見ていないと言う


こんこんっ


ドアを叩く、 応答無し、 はぁ…… 仕方ねぇ


ガチャリッ、 ドアをひねる


「おじゃまし……」



「うああああっ!! 入ってくるなあ!!」


叫び声とともに何かが振り下ろされ


グシャッ!


……え?


咄嗟に掲げた腕に手斧が食い込む、 素人の振り、 骨で止まる


斧を振り下ろしたのは…… 男性だ、 かなり興奮している様で、 よく見ると玄関通路の奥から女性と子供が見える


って言うか、 それよりも……


「いったぁ!? めっちゃ、 めっちゃ痛いんだけど!??」


腕を熱される程の痛み、 ああ回復が、 回復が追い付いてくる……


「はぁ…… はぁ……」


斧を振り下ろした男性を見る、 呆然として固まっているようだ、 しかし直ぐに……


「え? あっ? あっ!? ごっ、 ごめんなさい! ああっ、 俺はなんて事を……」


相当焦ってるな…… 誤魔化すか


腕を見る、 既に回復した、 まあ観られてないだろ


「あの! 安心して、 ほら、 無傷で~す」


腕を大袈裟に観せる


「え? だって当たった感覚が……」



「気のせいです」



「あんたさっき痛いって……」



「この通り無傷です」


男性が手に持った斧を見る、 血が滴っている……


「うあああっ!? 斧に血が!?」



「あわわわっ、 気のせいだって言ってんだろ! 本人が!!」


その後10分程問答をして、 男性はようやく落ち着いてくれた


「……すいません、 まさか助けに来て頂いたなんて、 そんな方とは露知らず」



「あぁ、 いえいえ気にしないで、 ほんとに何とも無いし、 判断としては間違って無いと思います」


こんな世界だからな


一旦家にあげてもらった、 客間に通される


お茶を出して貰えた、 緑茶だ、 凄く嬉しい


お茶を一口飲むと、 状況を説明する


「先ずは俺の事を、 俺は明山日暮です、 年は22、 藍木出身です」



「……どうも私は眉葉賢まゆばけんと言います、 こっちは妻の奈幸なきと、 娘のゆきです」


そういって賢さんは自己紹介と、 奥さんと娘さんの紹介もした


「一応言っとくと、 別にこんな若造に敬語要りませんからね」


これは言っとかないと、 俺は人から凄い人って思われたりしたい訳じゃないし、 実際この人達には何もしていない


「俺は今この街に居る凶悪なモンスターの討伐と、 あなた達の様なひっそりと隠れて生きている方たちを助けたりしてます」


「でもひとつ勘違いしないで欲しい、 俺は別に国に準ずる組織の隊員とかじゃ無いです」


「それに、 残酷な現実ですが、 恐らくこの国はほぼ復旧して居ません」


俺の言葉を聴いて目を見開いて驚く家族、 そりゃ自衛隊とかの助け待ってるよな……


大きな期待はさせられない、 実際そうだから


「……私たちはずっと助けを待ってました、 この子を助けてくれるのをずっと待っていたんです……」


「その希望だけを持って生きていたのに、 どうしてそんな絶望をすり込むような事言うんですか!」


父親はまだ幼い自分の娘の頭を撫でた後、 こっちを向き怒りを向ける


「それにあなたの言う事だって正解な訳じゃ無いんだろ? 自衛隊や警察組織が今だって着々と準備を……」



「……またそうやって人任せか?」


父親の言葉を遮るように言う、 俺って何でこんなやり方しか出来ないのか


「は? 何ですって?」


父親は唖然としたように、 でも少しづつ理解して怒りに震えた様に声を出す


でも、 必要な事だ


「自衛隊が、 警察組織が、 国が、 助けてくれて守ってくれたらあんたらの戦いはお終いか?」


「壁に囲われた様な世界で、 モンスターから隔離されただけの社会で、 脅威を忘れて今まで道理生きるのか?」


日暮は人と接するのは苦手だ、 でもいまはしっかり父親の目を見る


「あんたの言う通り俺は今この世界の状況を知らない、 復旧してる街のひとつやふたつぐらいあるかも知れねぇ」


「でもそんなの全然関係ない、 何故なら俺達の住むこの街は、 この甘樹の地は全く復興なんてしてないからだ」


「俺が言いたいのは、 希望はある、 ダがその希望は何処かの誰かが持つ希望じゃない」


「俺が、 あんたが、 奥さんが、 娘さんが、 一人一人が持つ希望だ、 誰かの希望の光じゃない」


「自分自身の希望の光を見つめろよ! 自分自身の希望の光で自分達の進む道を、 その足元を照らせよ!」


一瞬部屋に静寂が立ち込める、 父親は下を向いた


「俺たちにあのモンスターと戦えって言うのか……」


その声は震えている、 モンスターが恐ろしいんだな


俺はただ楽しくて、 戦う理由はそれだけで良い、 守るものも要らない、 ただそれだけでいくらでも戦える


でも……


「違う、 あんらは今も戦ってる、 俺みたいなのに言われなくても、 確かな希望を持って戦っている」


父親は首を振る


「私達に戦いなんて無理なんです、 私たちに出来ることはこの子を守る事だけで……」


ほらやっぱりな……


「ならやっぱり戦ってるよ、 未来に託す希望の光を胸に、 戦ってるんだよ」


「その子の笑顔があんたらの希望だ、 その子の持つ明るい希望が、 あんたらの戦う理由だろ」


「だから、 どれだけこの街が悲惨でも、 モンスターが恐ろしくても、 その希望だけは捨てるな」


「その希望を胸に抱く誇り高い戦いを、 いつ何時も他人任せにするな」


言いたいことはそれだけだった……


「それじゃあ、 これからの事を……」



「ありがとう……」


ん? ……え?


父親が俺の言葉を遮って礼を言う、 でも何にだ?


「私たちは諦めかけていた、 もう絶望の縁で諦めかけていたんだ、 でも…… 日暮くんと言ったか」


「君は私達がまだ戦ってると言った、 今それがとても嬉しい、 自分を誇りに思える」


「だから、 ありがとう……」



「……いや、 そんな礼を言われる事じゃ……」


父親は首を振る


「もう一度未来に託して希望を持てた、 だから、 君に伝えたい事が有るんだ」



そう言えば、 今更かもしれないけれど奥さんや娘は微動だにしない、 話す事も無い……


窓から太陽光がこの部屋に差し込む……


「……あれ?」


何かおかしい…… 光で少し父親の輪郭がぼやけて……


「……お恥ずかしい所をお見せした、 伝えたい事と言うのは娘の事なんだ」


え? 父親と母親も何だか透けて見える…… え?


「3日前、 この家で私達は死んだ…… 私と妻です、 まだ幼い娘を遺して、 私供は死にました、 不甲斐ないです」


「ですから誰かに娘をお願いする他無かったのです、 私達に出来ることはもう無かったのですから」


状況が全然分からない、 分かるようで、 分からない


「じゃああなた達は、 その…… 幽霊?」



「その様な物ですかね、 心残りが形になってしまったのかもしれません、 それ程にこの世界は変わってしまった」


あぁ、 もしかしてこれも


「ミクロノイズか、 世界に溢れる不可思議なエネルギー」


俺らの能力もまたミクロノイズが引き起こした事象だ


「3日前、 私供は隠れるように何とか生きていました、 しかし一人の男が現れました」


3日前、 俺がこの街に来た頃か、 それに男……


「男、 人間の男です、 私は助けが来たと思い、 玄関を開けました…… そして次の瞬間、 殴られました」


「顔を殴られて衝撃で首が一回転しました、 私はそれで殺された、 妻も同様に一撃で殺されたのでしょう」


「霊として形はあっても、 彼女は私と違い話せません、 そしてなんと言っても」


「その男は、 私共の娘を…… 連れ去ったのです、 何処か遠くに」


え? 娘はここに……


よく見ると、 何だか変だ、 ……人形?


「娘の好きだった人形です、 娘に似せてあります、 娘はこの様な見た目です、 とお伝えしたく」


「探して欲しいのです、 生きている、 私達の希望は生きている」


「どうか、 どうか娘を助けてあげてぐださい、 どうか……」


そういって畳に頭を付ける父親、 母親も同様に、 土下座だ


拳を握る


「俺の知り合いのおっさんが言ってた、 こんな世界でも、 人と人が手を取り合う限り人の社会は終わらない」


「俺は社会人として…… 土下座なんかされなくたって子供くらい助ける、 義務だからだ」


「……任せてくれ、 あんたらの希望の光は消させない、 必ず娘は健康に長生きさせてからあんた達に逢うようにさせる」


その言葉聴くと父親と母親が頭をあげる、 徐々にその輪郭が薄くなっていく


「あなたはさっき私達は戦ったと言ってくれた…… しかし私達は結局娘を守れて居ない」


そんな事言うな……


「戦ったって言ってんだ、 それにあんたらが伝えた俺が守るよ」


光になって消えて行くように輪郭がなくなって朧気に……


「……ありがとう、 ありがとう……」


消えて行くほんの最後に母親方の光が揺れた


「……棚から2番目…… あの娘とお揃いの小鳥の髪留め…… あの娘のお気に入り…… いつも身に付けて……」


言い切らないうちに光になって消えた、 差し込む太陽光に解ける様に……


圧倒的な静寂が部屋を包んだ、 ほんの一分程日暮はその場から動けなかった


ふぅ……


深呼吸して首を動かす、 人形が目に入る


可愛らしい人形、 お人形さんと言うやつだ、 その娘の物なら持って行ってあげたいが少し大きめだ


「わりぃ、 持ってけないな」


誰に対しての言葉なのか…… それにしても……


荒れている、 さっきまで違和感ないほど普通の客室だった、 でも荒れに荒れている


リュックを見る、 あれ? 櫓さんは?


立ち上がってリュックを背負う、 そうだ棚はどの棚だ?


「櫓さ~ん」



「……こっちだ、 日暮」


ややあって声が帰ってくる、 リビングの様な空間からだった


日暮さんが何かを見つめている


「あっ、 これ奥さんか……」



「玄関には男性の遺体もあった、 日暮このままには出来ない、 どうにかして弔わせて欲しい」


話に聞いていた通りだった、 何が正しいのか分からない、 でも


「俺もそうしたいよ、 櫓さんも手伝ってくれ」


二人の遺体を櫓さんの能力で作り出した釜に入れ、 仏壇にあったマッチで火をつけた


立ち上る煙に手を合わせた……


「あんたらの希望は俺が助けるから、 待っててくれよ」


日暮はリビングで見つけた小鳥の髪留めをポケットにしまう


「行こう櫓さん、 大切なやる事が出来た、 後で奈代さんにも一緒に説明する」



「構わない、 君は私の事を仲間だと言ってくれた、 私もそう思う、 協力する」


気づけば既に夕方の空、 落ちそうな太陽に背を向けて日暮と櫓は聳える甘樹ビルへと帰って行った


…………………………………


…………………………


…………………


……


「……日暮! そっち持ってくれ」


そう声を出した男、 名は明山壱道あかやまかずみち、 日暮の父親だ


「あぁ、 えっとこう?」


フランクな感じで返すのは明山日暮、 壱道の息子だ


少し長い棒の端と端を2人で持ち上げ、 引っ掛かりに乗せる


「ふぅ、 よし、 洗濯干す場所が足りないからどうにかしろって母さん達から言われてたんだ」


「そしたら専用じゃねぇんだけど、 テントのポールとか、 物干し竿に使えそうな物あるって土飼つちかいさん達が見つけて来てくれて」


「これで洗濯は共用の物干しじゃなくてある程度家族事に分けられるぞ」


周囲を見渡すとどこの家族も同じようなポールを適当な物に引っ掛け物干しにしていた


「場所だけは広いからな、 これで少しはシェルターも快適になるな、 な、 日暮!」


息子に語り掛ける父親、 何処でもある光景、 息子もその後父親に笑いかけた


……そんな光景を少し遠くから見つめる女性がいた


その女性はその後自身の持ち場に戻ると……


「はぁぁぁっっっ………」


深く大きなため息をついた


その姿を見て隣に居る別の女性がやれやれと言った感じで話しかける


「またため息? 和沙なぎさちゃん、 顔くらいぞ」


そういってちょっかいをかける女性を和沙は見る


「……だって、 だって…… はぁぁぁっっっ………」



「こりゃ重症だね」


菊野和沙きくのなぎさは日暮と冬夜の中学の同級生で友達だ、 普段は手作業で鬼の事務作業をしているが


危険調査隊として活動する日暮と冬夜を実はかなり心配している、 しかし数日前、 勇気を持って2人を送り出した所だった


「まあ、 日暮君、 無事に戻ってきたんだから良かったじゃない」



「いや、 まあ、 それは、 そうなんですけど……」


和沙に話しかけるのはこの事務作業をともし行う、 少し年上のお姉さん綿縞朝乃わたしまあさのさんだ


「何か不満があるの?」



「むぅ、 意地悪な言い方しないで下さいよ朝乃さん、 ある訳無いじゃないですか」


「……でも」



『……俺達は別に死にに行くんじゃ無い、 その逆生きる為に向かうんだ……』


別れが怖くて怯えてた私に日暮君が言った言葉だ、 私は希望を感じて送り出した


少し、 いやかなり痛む胸を押さえつけて、 行ってらっしゃいを伝えた


でも、 その日の夕方……


『あぁ…… 恐ろしい、 ごめんなさい、 俺怖くなって、 家族に会いたくなって……』


涙目で帰ってきた日暮君を私達は迎え入れるしか無かった


あの時私が感じたのは、 帰ってきた安心よりも…… がっかりという気持ちだった


今もそれを少し感じていて……


「はぁぁぁっっっ…… 私って本当に最低です」



「えぇ、 ちょ、 元気出しなよ和沙ちゃん!」


ひたすらに暗い私を朝乃さんが励ましてくれる


「そのうち全部良くなるよ、 だって冬夜君や、 威鳴君の結果がすごく良いかもしれないしさ」


冬夜君と威鳴千早季いなりちさきさんは私達が住む藍木の裏山、 藍木山へ調査へ出かけた


でもあれから今日で四日目、 そんな今日だって別にもう早い時間じゃない


私達もそろそろ仕事を終える時間だ


距離で言えばそう遠くない、 車で10分程か、 それが今日で四日目


そっちもそっちで不安しか無い、 あまりに帰りが遅すぎはしないだろうか?


「はぁぁぁっっっ……」


和沙の不安はただ増すばかり、 そして所変わって……


……………


「はぁぁぁっっっっ………………」


これまた深いため息をつくおっさんがいた


「どうした? 土飼」


土飼笹尾つちかいささおは日暮達が活動する危険調査隊の実質的リーダーだ


「いやね、 何だかすごく苦しいと言うか、 嫌な予感、 蛇の口の中に向かっている様な、 そんな感がして」


奥能おくのさんはどう思います?」


奥能谷弦おくのやづるは土飼よりも年上だが、 2人に上下関係がはっきりと存在しないのは一重に土飼の人望のおかげだろう


「どうってのは、 威鳴と村宿の帰りが遅い事か?」



「そうです、 距離的には遠く無いので、 調査の目安は多く見積っても3日と思って居ました」


「彼等は能力を持っているからたとえどんな状況でも切り抜けられると思って……」



「おい土飼、 送り出したなら信じて待て、 お前がそんなんでどうすんだ」


「最悪の状況なんて、 まだ考えんじゃねえ」


土飼は反省する、 確かにその通りだ、 私は彼等の上に立つ人間、 その私が信じなくてどうする


「すみません奥能さん、 気張ります」



「おう、 そうしとけ」


そう返した奥能は窓から外を見る、 シェルターに避難している方たちが一様に物干し竿を準備している


その中でせっせと働く一人の若造


「……明山日暮、 お前、 本当にあの明山日暮かよ、 全然別人みたいだ」


土飼も隣に来てそれを見る


「今でも違和感を感じますか?」


奥能は少し黙る、 その後口を開く


「あの日、 会議の日、 日暮は俺の目を見て、 全く気圧されることなく、 堂々としてた」


「俺はあいつの目の中に、 何か強大で、 強く躍動する様な、 鮮烈な光を見た」


「常人には出せないオーラだ、 あのオーラを今はまるで感じ無い、 あの光は今見えねぇ」


「不思議だぜ、 人はこんなに変われるもんか? 違和感だと? 散々感じてるわ」



「……やはり、 私もあれが平気で人の指を切り飛ばす日暮君だとは思えない」


「本当に不思議な話です」


日暮のナタの力で今は再生した指を撫でながら土飼はそう言った


「まあ、 今は見守るしかありません」


その土飼の言葉に奥能もしぶしぶと頷いた


…………………………


……………………


………


……本当に………


「バカ共が」


ニセ日暮、 深谷離井みやはないは一人闇の中で笑う


「見つけた、 何だよちゃんと避難してんじゃねぇか、 良かった良かった、 モンスターに殺されてたら復讐になんねぇからな」



『離井君さっき、 女子の着替え覗いてたよね?』


ギリッ


音が鳴るほど歯ぎしりをする


「あの女を百年分の後悔に沈め殺す…… あいつだけじゃねぇ……」


俺を好き勝手に罵った、 有象無象共は血祭りだ……


そして……



『離井お前には失望した、 お前には罰を与える』


『………』


これを言ったのは父親だ、 馬鹿みたいに信じきって俺を軽蔑の目で見てきた


母親も同じだ、 母親は何も言わなかった、 全く俺に不干渉と言った感じだった


夕方の時間、 シェルターの裏には勿論他に人は居ない


ここは威鳴千早季いなりちさきを殺してやった所だ


俺の能力は肉体操作、 威鳴の知り合いに化けて呼び出して殺した


威鳴は能力者ノウムテラスだと聴いていたが能力を使う前に死んだ


そして俺の能力で操れるのは自分の肉体だけじゃ無い、 他人の肉体でも操る事ができる


肉体に触れれば、 能力で肉は解れ、 糸のように出来る、 肉の糸だ、 それを強靭に編み込めば鋼の肉体になる


殺したモンスターや人間の肉体を糸にして何重にも肉体に被せ圧縮する、 上手く操作すれば今の様に他人の見た目を再現出来る


「あの雑魚ども殺すだけならこんな力は要らねぇ、 だがもうそれじゃ収まらねぇ、 全てを破壊してぇ」


「俺こそが現代の魔王になる、 ほかの誰でもねぇ……」


「そうすりゃ街に居るアイツらも俺の力を認めるだろ、 あははっ」


独り言を話す離井、 いや、 気づけば2人に、 いや3人に……


「肉体には編み方のコツがある、 手には手の、 足には足の、 命には命の……」


「似姿を再現するのと同じ、 人間の編み方で形を作って編めば……」



「人間同様に動かせる、 だね」


いつの間にか増えていた人影は離井が能力で肉を編み作り出したもの、 それが言葉を離す


「楽しみだなぁ、 破壊し尽くすの」


3つ目の人影も言葉を話す


互いにみな何処かに居そうで、 居ない適当な見た目、 でも問題ない


「俺は今まで道理、 明山日暮として生きる」


そう言いながら片方に指を指す


「お前は調査隊のメンバーの誰かに入れ替わって潜伏しろ」


もう1人に指を指す


「お前はあの猿共に話をしてこい、 準備は出来たってな」


編み出されたふたつの人影は頷く


「作戦開始は三日後だ、 派手に破壊しよう、 祭りは派手に楽しく」


そういって笑うとふたつの肉体は動き出す、 片方は作戦室のプレハブ小屋の方へ


もう1つは敷地の外へ


さてと……


「そろそろ戻るか、 あかねが心配するからな……」


歩き出す、 絶望の破壊が進み出す


……………………


…………


その背中を見送る存在があった、 シェルターの裏手にひっそりと伸びる背の高い草だ


その草は雑草の様に力強く、 それでいて小さく地味だが花がついている


その草は威鳴が殺された地面から生えていた


草が、 風もなく左右に揺れた……


これから始まる戦いにまるで備える様だった………

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