第四十二話…… 『甘樹の街』
聞き慣れない声で目を覚ました、 設定のされていない目覚まし時計に目を向ける、 時刻は15時半前
「……う~ん」
唸って寝返りを打つともう一度瞼を閉じる
ぎゃぁあああああ!!
ぎょわああああ!!
げフェああああ!!
……うるさい……
「……何だ、 近所のガキ共か? お主らと違ってお姉さんは今がすやすやタイムだってのに……」
夜に出かけ、 朝に帰る、 そして寝る
天体観測が趣味だった、 暗い山道を車で走るのは時々怖いけど、 空を見上げればもう暗さなんて感じない
昨晩は晴天で、 その上新月、 星を見るには絶好の機会だった
今でも瞼の裏に、 煌めく綺羅星が無数に……
あぎゃぎゃぎゃああ!!
「ああ、 もう! うるっさいわねぇ!」
夢が完全に醒めてしまった、 夢のプラネタリウムももうおしまい
遊びはしゃぐ子供達に迷惑だと怒り散らす様な非常識な人間では無い、 遊びと学びは子供達の仕事だからだ
それに20代半ばで仕事をしてない私が何の文句を言えよう、 言葉が荒っぽくなってしまったが寝起きのぼーっとしたテンションなので許して欲しい
それに子供達だって、 興奮してるからってこんな化け物みたいな声で叫ぶのが悪い、 これじゃあ発狂だ
ぎゃあああららあああ!!
「何? 怪獣ごっこ? 学校は終わって帰ってくる頃? 学校って何時に終わるのか知らないけど、 まずは帰って宿題でしょうが」
とは言うが子供の頃宿題なんて後回しだった、 人の事は言えない
「はぁ、 まあいいや、 ……あっ、 洗濯、 寄せないとまたお母さんに文句言われるや……」
よっこらしょとベットから起き上がるとベランダに向かう
家の中は静かだ、 そりゃそうだ、 ニートの私と違って親は仕事、 弟も仕事だ
不意に頭をよぎる自分の無力さ、 はぁ…… 私って……
そう思いながらベランダへの扉を開け、 外の空気をいっぱいに浴びる
寝起きと寝不足の体に優しい風が癒すようにタッチする
「ふわぁ…… 寄せたら散歩がてら買い物にでも行って、 夕飯も何か作らなきゃ……」
親は心配しながらも、 私の社会復帰を急かす事も無く見守ってくれている
始められない、 でも何もしない訳には行かなくて、 せめて家事を母とかわりばんこでしている
今日は私が夕飯を作る日だ
視界を遮るバスタオルから洗濯バサミを外しとりあえず腕にかけていく……
アギあああ!!
「おお、 やってる、 やってる、 怪獣はどこのガキだ?」
ん?
叫んでいるのは大人? 背が高めの……
「大の大人が何を……」
やっているんだ、 と呆れの声を出そうとした時、 空から何かが飛来した
ビギィヤアアアア!!
甲高い声と共に降りてきたのは巨大な鳥、 その大きさは尋常じゃない
私の知っている限りであのサイズの鳥は居ない
「何…… え? 何あれ……」
あがあああああ!!
大人の人、 いや、 よく見たら人なの?
ともかくその人が鳥に向かって大声で叫ぶ、 まるで威嚇する様に
「何なの…… 夢、 あぁ、 夢か」
ぎゃあああああああ!!
びぎゃあああああ!!
2つの生命の叫び、 鮮烈過ぎる命の存在証明、 ぶつかる生命の輝き
どさっ
「あれ? 足に力入らなくなっちゃった……」
自分が威圧された訳では無いのに、 怖気ずいてへたりこんだ、 そもそも一体何が起こってるの?
私は終始その2つの生命の戦いを見ていた、 人型が飛びかかり、 振り落とされ、 爪で引き裂かれ、 連れ去られた
「……映画の撮影、 きっとそう、 きっと……、 あっ」
不意に空を飛ぶ巨大な鳥が振り返り、 コチラをちらりと見た
目が合った……
ぴぎゃあああああ!!
「あっ、 えっ、 あ……」
うそ、 こっち、 と言うか私?
足に全く力が入らない、 その間にも鳥はベランダを通り過ぎ一瞬見えなくなる
どさっ!
上、 屋根だ、 日が遮られ影ができる
ぬら~り
屋根の上から鳥の顔が覗き込む、 獲物を探す様に……
「びゅる?」
目をギョロりと回し探す、 居ない、 さっきは確かに見えたはずと鳥は思った
はぁ…… はぁ……
私は何とか部屋に転がるように入って死角になる棚の影に身を潜める
大したことはしてないのに切れる息を潜めるように手を口に当て小さく呼吸する
こういう時、 取り乱して大声をあげて逃げ出す様なイメージがあるけど自分は隠れる事が出来た、 だいたい死んじゃうからね、 あれ
すぐ側の小物入れに小さな手鏡があるのを思い出し、 ゆっくりとした動作で取り出す
その手鏡を隠れている棚から少し出し背後のベランダを確認する
居ない…… 良かった………
バゴォォンッ!!
上方からとんでもない破壊音が響く、 メキメキ、 ミシミシと軋む音は……
バガァァォッンンッ!!
もう一度大きな音がして埃が大量に落ちてくる
え? は? 一体何が……
音のした方、 天井を見た
居た
「ビギャャアアアッ!!」
「うわああああっ!?」
鳥が、 屋根の上の鳥が天井を破壊、 突き破って顔を覗かせた、 目が合った
「ピギィアアアァッ!!」
興奮したように暴れ回る、 この鳥の大きさはどれくらいだろう、 三、 四メートル程か、 それが暴れ……
メキメキ、 バキバキ
空いた穴から天井が破壊され、 徐々に広がり、 遂に
ボトリッ
部屋の中に落ちて来るようにその巨大な鳥は、 この鳥にとっては狭いだろう我が家の一室に侵入してきた
目が合っている、 ほんの数メートル、 目と鼻の先だ
相手に躊躇いは無い、 大口を開けると私に向かってその首を伸ばして来た
恐怖で、 突然の状況で、 思考が追いつかない、 何? どうすれば良いだろう
捕食者を前に獲物は為す術なく殺される、 獲物、 私だ
わたしは声をあげることも出来ないまま、 鳥のいかつい顔が私を丸呑みする距離まで近づいた
何も出来ないし、 それが当たり前、 だから一つ以外だった
私は止まった思考の中、 一つだけ思った、 大きな鳥、 この鳥は今この部屋に閉じ込められた様なものだと……
羽ばたいて飛び立つには部屋が狭い為時間がかかる、 余裕が無ければ壁やらを更に破壊するのは至難の技だ
逆に敵を追い詰めているのは、 私って言う事もある?
何を思っているのか、 こんな私が…… でも
傾きつつある太陽が窓からさし、 この部屋を照らす、 私は手鏡を確かに握り、 陽の光を反射させた
鳥の顔に……
「ビギッ!?」
眩しさに鳥は瞼を閉じる、 怯んだ
口をグッと結んで、 立ち上がる、 もう意地だ、 こんな意味の分からない、 夢かもしれない様な状況で
それでも死ねない、 絶対に生きたい
こんな所で負けられない!
「ビギャアアアッ!!」
鳥は獲物からの姑息な反撃に苛立ち叫ぶ
その家全体を揺らすような声を背に受けながら私は今いる部屋を飛び出す
それを追いかけるように鳥は突っ込んでくるが……
ガンッ!!
「ビギャッ!?」
相当に頭に血が登っているようだ、 その巨体でドア枠に突っ込み体ごとハマった様だ
以外だ、 それは思い描いた展開だった、 さっきからそうだ、 私はこんな状況で冷静に動けている
ベランダに繋がる部屋を飛び出した私は吹き抜けを挟んで向かい、 私の部屋に向かった
目的の物を手に取る、 それは弓道の弓だ、 もちろん矢もある
高校生の時部活で使った物、 良くも悪くも思い出のある物だ
勿論この弓を的以外に向けて射る事など許されていない、 それが競技ならばだ
「関係ない、 私分かった、 死を前にして何で動けたのか、 どうして冷静になれたのか」
「私怒ってるんだ、 大切な家族の家を壊されて、 殺されそうになっているこの状況に」
「何も出来ない私が、 死を前にしてすら動けない現実に抗いたかったんだ」
未だドア枠にその巨体を捉えられ暴れ回る鳥、 その鳥から吹き抜けを挟んだ向かって正面に立ち、弓を構える
矢をつがえる、 数年ぶりの感覚、 鋭い矢のように研ぎ澄まされた感覚が真っ直ぐ敵の急所を狙い付ける
県大会、 優勝、 因縁、 失格処分、 免罪、 その後の止まった時と倦怠感も徒労感も全部この矢に乗せる!
「今回ばかりは譲らない! 全力で抗わせて!!」
ばしゅんっ!!
張り詰めた空気が鞭を打たれ弾ける様な音が響き、 矢は敵の喉元に吸い込まれた
ぐしゃあっ!!
「ビギャアアアアア!?」
バタンッ!! ガタンッ!!
痛みで更に暴れる、 仕留めきれない!
もう一本直ぐにつがえる、 全能感とも思える程の絶対的な集中力が狙うべき急所を指し示す
ばしゅんっ!!
吸い込まれる様に敵の左眼球に突き刺さる矢
更につがえる、 痛みに悶え開け放たれた口、 その一瞬の隙間を狙い射出
ばしゅんっ!!
口の中に吸い込まれた矢は喉の奥から首の後ろへ貫通、 脊髄を破壊する
さらにつがえ……
「びぎゃああああ!?」
バタンッ!
敵は痙攣を起こしてやがて止まった、 見るからに死んだ
ばしゅんっ!!
一応確認で矢を放つ、 突き刺さった矢にピクリとも反応を示さない
「やった…… 勝った」
家は破壊された、 でも死ななかった、 今大切なのはそれだ、 今はとにかく家族に会いたい……
…………………………………
………………………
……………
その後結局まだ家族には会えていない、 あれからひと月がたった今私がしている事は……
引きこもりだった……
頬を撫でる風、 今日は昨日よりかは落ち着いているかな
周囲の街を見渡せる高さ、 甘樹駅前にそびえる高層ビル、 甘樹ビルの屋上に引きこもる私は、 給水塔の足場に寄りかかり目を瞑っていた
眠っては居ない、 瞑想に近い、 これからここにお客さんが来るだろう、 どうしたものか……
バチンッ!!
そう思っているうちに電撃の様な音が鳴り、 電気をまとったタカ位の鳥が現れる
「姉さん、 指示どうり2名様をご案内して来たよ、 もうちょいしたら着くと思う」
そう言葉を放つこの子は今や私の相棒とも言える存在だ
「ありがとうサンちゃん、 でも置いて来ちゃったら案内って言わないんじゃないかな?」
「またまた姉さん、 それだと構える時間がないじゃないですか、 僕が先に戻って来て万全に向かい打てる状態で2名様を迎えないと」
はぁ……
「別に争う気は無いんだけど……」
「いえ、 それぐらいの気持ちでいて下さいって言ってるんですよ、 油断大敵ですよ」
それもそうか、 あぁ、 人と争うのは嫌だな、 面倒臭い
よっこらせと立ち上がると屋上への扉の前に5メートルの距離を取って立つ
「サンちゃん、 近接射撃で」
「はーい」
バチンッ!
光が弾けて私の手元に集まって来る、 その光が弓の形を成していく
雷鳥の出力次第で短弓から大弓まで用途に合わせて調整できる
今は短弓、 矢も雷鳥の力なので尽きない限り無限、 そして自動装填だ
やがて非常階段を登る音が聞こえてくる
ふぅ……
ゆっくりと息を吐いて矢をつがえた
ガチャリッ、 扉を開ける音、 その音で意識を切り替えた
ひと月近く、 人と会う事を避けてきた、 この出会いは鬼と出るか、 蛇と出るか……
「お願いよ、 面倒臭いのだけはやめてね……」
その声は風に流されて消えていった……
…………………………………………………
………………………………
…………………
はぁ…… はぁ……
「はぁ…… 階段が…… きつい……」
甘樹ビルの非常階段を上りに上り数十分、 ようやっと、 ようやっと屋上へと扉が現れた
「我々人類は…… 電気とかそういった…… エネルギーに頼りすぎたのだ…… はぁ…… ぎついっ!」
汗だくで階段を登りきった日暮、 その背に背負われたリュックから顔を出した巻貝モンスターの櫓さんは申し訳なさそうな声を出す
「済まないな、 私が不甲斐ないばかりに、 変わってやれれば本来良いのだが……」
「力のない私ではこの階段を登りきる事でさえ今日中には終わるまい」
日暮は体が動く方、 体力もある方だと思っているが、 流石に階段をビル丸ごと分登るのは骨が折れる
疲労で空回りする頭で息を切らしながら答える
「まあ…… 適材適所だよ、 気にしないでください、 それぞれの出来ることを、 それぞれやってれば……」
「櫓さんは必要な物を必要な時に作り出す、 それでいいじゃ…… ん? あれ?」
回らない頭を無理に回した障害か、 不意にとんでもない事を思いつく
「櫓さん、 能力で柱を作って俺を押し上げて上まで、 こう…… エレベーターみたいに運んでくれれば良かったのでは?」
「……エレベーターという物は分からないが、 言いたい事は分かった、 そしてその質問への答えは……」
「可能だ、 可能性だった、 すまない、 思い付かなかった、 確かに言われれば……」
「あぁ、 まあ、 今更な事考えても仕方ねぇや、 運動になったって事で良しにします」
「常々すまない、 今度私の能力の応用について考えてみようと思うよ……」
そうするべきだろう、 日暮もそうだ自身の能力について考えるべきだ
何はともあれ、 こんな話をしている間に屋上への扉の前までやってきた
ガチャリッ
躊躇うことも無くドアノブを開く、 薄暗い非常階段から陽の差し込む屋上へ……
明順応、 薄暗い空間から、 光溢れる場所へ出るとやんごとなき理由から一瞬視界が遮られる
眩しっ!
って奴だ……
「よく来たわねぇ! ……」
「眩しいっ!!! うっわめっちゃくちゃ明るいじゃん!!」
あまりの眩しさに目を閉じ手でひさしを作る、 ん? 今何か……
瞼を少し開け薄目で確認する、 正面に弓をつがえた女性が一人
………………?
「え? そういう状況?」
自分に向けられた弓矢、 え? 戦いになるのかな?
「日暮君、 彼女さっき何やら言っていたぞ、 君が眩しいと叫んだから遮ってしまった様だがな」
リュックの中から顔を覗かせた櫓さんがそう言う
「えっ? まじ? やっべぇ俺最悪じゃん、 人は第一印象が七~八割大事みたいな話聞いたことあるし」
「む? そうなのか? その話詳しく聞いてみたいな」
「いいよ確かね、 中学の時高校の面接練習で教師に教えて貰って、 何か懐かしいなぁ……」
「へぇ…… そうなのか…… あぁ所で日暮君、 私達は今彼女を無視する形になってしまっている……」
しまった、 そう思い矢をつがえた女性の方を向く
彼女は堂々とした構えだが無視された怒りからか少し震えている様だ
これはまずい
「あのっ、 すいません、 話遮っちゃって、 その言葉続けて下さい、 ほんとにすいません……」
ぎゅっと唇を噛んだ女性は口を開いた
「……よく………… たわ……」
ん?
「よく、 き…… ね……」
へ?
「よく! …………たわねぇ!」
?
「何ですって?」
女性の弓を握る手に力が入った様に見えて……
「良く来たわねぇ!! ってカッコつけて言ったのよ!!」
ばしゅんっ!!
矢がはたなれる、 え?
バッヂィィィィンッ!!
光の矢が俺をギリギリ避けて背後の屋上轟音を立てて扉に突き刺さる
あっぶなぁ!?
「……え? 何でいきなりキレてんの?」
「あんたのせいだよ!! 何でそんなにマイペースなの? 敵かもしれないのよ? 私、 めちゃくちゃ武器構えててさぁ!」
「それに少しは緊張感もって警戒しながら出て来なさいよ!」
えっ? 説教?
「え…… だって眩しい鳥に妙な事はするなって釘刺されてたし、 それに前に、 いやさっきも助けて貰ったし」
「ねぇ?」
「確かに、 お嬢さん我々は貴方を害す様なことはしない、 どうかその武器を下ろして貰えないか……」
………………
「……サンちゃん、 私馬鹿みたい、 私だって全然争う気は無いんだよ? 仲良くしたいのに凄い警戒されちゃってるじゃん?」
「やっぱり私人付き合い苦手だ……」
そう言うと女性の持っている光の弓が弾けて雷鳥に戻る
「ちょっとちょっと、 姉さんそんなんじゃダメだよ! この厳しい世界で生きていけないよ!」
「ははっ…… 別に私引きこもりだし…… 私なんて別に………」
そう言ってペタリとその場にしゃがみこむ女性
「ちょっ!? 姉さん立って立って! あいつらが敵だったら殺されてるよ!!
自分を鼓舞して! 姉さんならできる!!」
「無理ぃ~!!!」
………………………
「……え? 何これ?」
日暮は目の前で繰り広げられる女性と雷鳥のやり取りに困惑する
「ふむ、 何にせよ彼女も私達を害すつもりは無いようだ、 弓を構えていたのは警戒の為だろう」
「それは大切な事だ責める事などしない、 しかし彼女はそう言った事には慣れていないみたいだね」
確かに雷鳥の言っている事は正しく、 女性を思っての事何だろうが、 当の女性本人はそれを嫌がっている様だ
「まぁ、 単純にいい人って事だな……」
なら……
「もう一回やりましょう、 今の相対するやり取りやり直しましょう」
「へ?」
俯いて居た女性が顔を上げてこちらを見る
「俺1回建物の中入るので、 堂々と待ち構えてて下さい」
女性は首を傾げる
「何でわざわざもう一回? 私の黒歴史を増やそうって訳?」
日暮は首を横に振る
「いえ、 ただ俺も漫画とか読んで憧れてるんですよ、 謎に包まれていた協力者と初めて相見える展開とか……」
「──!?」
女性は目を見開いた、 自分も漫画やアニメを見る方、 現実で言わない様なセリフ、 有り得ない展開
でも今この世界でなら言っても違和感無いかも……
日暮が踵を返し屋上のドアノブを捻る
「名演技、 期待してますよ!」
その言葉に強くうなづいた
………………………………
……………
………
━『ある時世界は突如終わりを迎える、 世界は混沌と静寂に包まれ人々は夜に溢れる魑魅魍魎に日々恐れおののいていた……』
『しかしこんな世界で刃をもって戦いに赴く戦士が2人、 互いに存在は認知しているが会ったことは無い』
『だが今日遂に、 その2人が運命の甘樹ビル屋上にて相見える!』━
ガチャリッ、 ドアノブが回され一人の青年が堂々とやってくる
ならば私も……
弓など要らない、 私は仁王立ちで腕を組み、 負けないくらい堂々とキメキメの顔で青年を迎える
「良く来たわねぇ!! 地上の闘争者!!」
青年は口角を上げる
「初めましてだなぁ!! 空の狙撃手!!」
………………………
互いの目が合う、 一瞬の静寂……
あれ? つぎ何言うんだっけ、 あぁそう言えば考えて無かった、 それにしても……
「ぷっ」
「ぶふっ」
「ふっ、 あはっ、 あはははっ!!」
「ぶはぁっ! いひひひひっ!! あははっ!!」
2人してお腹を抱えて笑い転げる
「あははっ! あなた何であんなにキメッキメの表情で出てくんのよっ、 思わず笑いそうになっちゃったわっ!」
「ぶははっ! そう言うあんたこそ、 仁王立ちって、 いひひっ! それに何だよ地上の闘争者って!! 」
「あはははっ! そんなん言ったらだいたい地上の闘争者だろ! あははっ!」
「あーっ! 言ったわねぇ!! あなただっておかしいじゃない、 空の…… ぷふっ! 空の狙撃手っ! あははっ!」
「ははっ! 中学生みたいなネーミングよ!!」
笑い合う2人を唖然として見るふたつの生命
雷鳥がリュックから這い出してきた櫓に語りかける
「え? めっちゃ仲良いじゃん? 姉さんこんな笑ってる所初めて見たなぁ」
雷鳥を見上げた櫓はその言葉に返す
「まぁ同じ人同士分かり合える所も有るのでしょう、 鳥帝士族である貴方様も同じ空を統べる者とは息が合うでしょう?」
「灰甲種の君ぃ~ 色々言いたい事は有るけど、 まぁ僕も警戒し過ぎたかな、 その彼は闘争心が強そうだからさ」
「いや、 確かに彼は少し危うい、 自身の限界を分かっているのか……」
未だ笑い転げる2人を見ながら2匹のモンスター達は、 この彼らにとっての異世界の空気をしばし浴びた……
………………………
「ごほんっ、 じゃあ改めて自己紹介しよう!」
ひとしきり笑い終えた2人は体制を直すと話を始めた
「まずは私ね、 私の名前は『菜代望野』、暇な時間にアニメや漫画みたり、 でも一番の趣味はなんと言っても天体観測かな」
そう語る望野さんはまだ明るい空を見上げてうっとりと星の魅力を解説してくれた
確かにわかる、 夜の空を見あげる時妙に心が落ち着く、 詳しくは無いが星座の配置には意味すら感じる
「そしてこっちが私と一緒に戦ってくれる仲間のサンちゃん」
呼ばれた雷鳥は頷いてから話し出す
「改めてよろしく、 サンちゃんこと、 鳥帝士族である、 名を『金轟全王落弩』だよ」
「次期鳥帝の座を得ようと空の覇者を目指してて、 今は少し療養の為、 あと姉さんに恩があるから一緒にいるだよ」
話を聞く所によると雷鳥がこの世界に来て直ぐは自身の能力が上手く制御出来ず他のモンスター達との戦いに苦労したそうで
追い詰められていた所を助けたのが彼女菜代さんだった様だ、 助けた理由は普通の動物かと思った、 いじめられて可哀想だと思っただそう
ちなみにサンちゃん呼びなのは電気属性だかららしい
「今はまだましになって僕を追い詰めたあいつらは種ごと根絶やしにしてやったよ」
「おっ、 まじで敵にしちゃいけないタイプ」
雷鳥はにやりと笑う、 怖……
「まあいいや、 今度は俺だな、 明山日暮って言います、 藍木から来ました」
「藍木のシェルターの隣に危険調査隊っていうこの世界で闘う人達の組織を作って色々世のため人のため日や活動してします、 いやらしいです」
「俺は新参だから詳しくは知らないけど、 まあここには調査に」
一通り話して巻貝の櫓さんにバトンをパスする
「どうも私は灰甲種と呼ばれる種族、 その一体で名を櫓と言う」
「私も彼、 日暮に助けられて今は共に行動している、 まぁ昨日の今日だがな、 私は生き別れの兄弟を探している最中だ」
菜代と雷鳥は、 日暮と櫓の話を聞き終えるといくつか質問をして来た
「えーっと、 日暮君って呼ぶね、 藍木のシェルターやその調査員達はその、 どれくらい生きているの?」
うーん……
「あぁ、 実はシェルターの方は全然知らないですね、 でも少ない数では無いそうです」
「調査員達と言うか、 非戦闘員の事務員達も入れれば20人ちょっと位かな」
それから調査員のやる事、 自分は他の人と違い能力持ちで特別調査と言う名目でこの街に来たこと……
光の矢、 その正体調べる為に来た事を伝えた、 あと改めて……
「その、 前はありがとうございました、 菜代さんに助けて貰わなかったら、 俺はあのココメリコ上空で確実に死んでましたから……」
暗低公狼狽との空中戦で光の矢に助けられた、 その感謝を伝えた
「あぁ~、 あの時ね、 気にしないで、 私もお節介焼いちゃって、 でもあなたはその後自分の力で勝利した、 凄いってお姉さん思っちゃった」
そのやり取りに雷鳥が反応する
「いやいや、 確かに、 あの鳥もどきを打ち倒したのは僕も賛称するよ、 良くぞ『族帝殺し』を倒してくれた」
族帝殺し? よく分からず首を傾げると、 次に反応したのは櫓さんだった
「なるほどな、 もしやと思っていたが日暮君、 かの『族帝殺し』の暗低公狼狽を倒したのか、 それは確かに凄いことだ!」
そんなに有名だったのか?
雷鳥が頷いて補足してくれる、 その話を菜代さんも興味深そうに聴いた
「我ら鳥の王、 鳥帝の様に、 その種族の頂点に君臨する者を、 その族の帝王、 族帝と呼ぶ」
「百千、 下手すれば万の兵を従える正しく王なのだ、 つまり族帝とはそれぞれ、 その者らを率いる最強の存在、 打倒すことは容易では無い」
「のだか、 暗低公狼狽は当時族帝であった両親を打ち倒し、 それを皮切りに次々に族帝を殺害」
「その絶対的な経験値と力が奴の『族帝殺し』の異名を持った所以さ、 まあ元々異質な存在ではあったが……」
「絶対的な力を手にしてからは歯止めが効かず僕達の世界の厄介者だったね」
「それに僕自身困っていた、 何故なら力的に言えばどれだけ不格好でも奴は正しく空の王だったしね」
せいせいしたよ、 と続ける雷鳥、 奴に勝てた事、 俺だって運が良かったんだと思う
「……そう言えば日暮くん、 私の調査に来たって言ったけど、 私はどうすれば良いのかな?」
いや光の矢の調査に来たんだけど、 と言おうとしたが大して変わらんかと思い止めた
「あー、 そうですね、 敵じゃ無いって分かったし、 あぁ、 あれか協力しましょう的な? 多分……」
原因が分かったら終わりだと思っていた、 多分これで良いんだよな……
「ふぅーん、 協力ね、 良いよ協力してあげる」
良かった……
「ただし、 協力関係だって言うなら、 こっちにも協力してくれるんだよね?」
勝手な事言っていいのかな? まあ良いか……
「分かりました、 それで大丈夫です、 何すれば良いですか?」
菜代は、 え? と言う顔をして笑う
「ふふっ、 勝手に即答しちゃっていいの? どんな無理難題吹っかけられるか分からないのに」
別に問題ないだろ
「殴る蹴る、 斬る殺す、 これは得意ですよ、 その中で済む範囲だと良いんだけど……」
「……えぇ、 正しく求めているのはそれよ、 良かったわ」
呆れた様な声で答えが帰ってきた、 しかし何だろうその協力とは……
不意に視線をずらすと櫓さんがある方向を向いて固まっていた
それと同時に菜代さんが一点を指さす、 それは櫓さんの見つめる方向と同じだった
「あれをどうにかして欲しいの、 ほら見える? あそこの大きいの……」
ん?
展望スペースになっている甘樹ビルの屋上、 そこから街の中心部、 大きな体育館がある辺りを観る
ん? 何か……
「日暮君すまない、 私の背の低さでは余り見ずらい、 持ち上げてくれないか……」
そう言う櫓さんを両手で抱え持ち上げる
「やはり…… あれは……」
櫓さんが強ばった様な声を出す
菜代さんが指を指したまま続ける
「あれよ、 この街で今一番やばい惨状、 その根源的要因……」
体育館じゃない、 まるでドームだ、 都心の大きなドーム、 雑多な街の中で一際目を引く大きな建物
見た時同じ様な事を思った、 ドームの様な大きな何か、 本来この街には無かった物がそこにあった
デカイ!
「何あれ……」
ん? って言うかどっかで見た様な……
「そこに居たのか…… 楼、 我が兄弟よ……」
え?
「やっぱりそうだったのね、 灰甲種と言う種族である事はサンちゃんから聴いていた」
「超巨大なのは能力なのかしら? 灰甲種は血の繋がりでからの形に差が出る」
「やっぱり、 櫓って言ったかしらあなたの名前、 あれがあなたの探している兄弟って言う事……」
少し空気に緊張感が漂い出す
「日暮くん、 私はあなたやその他の仲間達に協力してもいい、 でもさっきも言ったようにこっちにも協力して欲しい」
「あの巨大な灰甲種は今も更に巨大化を続けている、 奴の甲羅は少なくとも私の攻撃を通さない程に強靭」
「巨大化に伴い街を少しずつ飲み込んで行っているわ、 このままじゃいずれこの街もおしまいよ」
「だからあなたに協力して欲しい事、 それは……」
何となく予想がつく、 菜代さんは一瞬櫓さんを観て、 逸らし次に俺の目を観る
櫓さん、 どうすれば良いかな? 聴いてどうするだろうか……
「協力してほしい事は……、 あの巨大な灰甲種、 その櫓の兄弟を……」
「殺してほしい」
ひゅ~
風が呑気に吹き抜ける、 くっそ、 俺はどうするべきだ……
きっと長考している時間は無い
ひゅ~
呑気すぎる風を今はただ羨ましく思った




