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第三十九話……『流れの変わり目』

今回ちょっとごちゃごちゃして読みずらい所あるかもしれません、 よく分からなかったら聞いて下さい!

ざわめきの音が周囲を騒がす、 音は鳴れど場は不思議と静寂を感じさせる


それは何億年も前からこの世界に常に存在していた音だからだろう


風の音、 葉の擦れる音、 森林の中


藍木あいきの地に堂々構える山、 藍木山はいつもと変わらぬ静寂さに満ちていた


その土を踏みしめ、 足跡を刻む人影が2つ、 前後に並んだ人影は2メートル程距離を空け歩んでいる


不意にその静寂さが破られる


「……威鳴さん、 いい加減何考えてるか教えて下さい、 正直に言うとあんた怪しいですよ」


冬夜は歩みを止めて前方を歩く威鳴に言葉を放つ


その言葉を背に威鳴も歩みを止める


「突然なに? 冬夜君、 いきなり何を言い出すんだい?」


言葉ではそう言うがニコニコと不自然に張り付いた顔は疑ってくれと言っているようなものだ


その威鳴に対して不信感をもう隠す事もせず冬夜は疑いの目を向ける


「もう良いだろ、 あんたどこに向かって歩いてる? 歩き方に迷いが無さすぎる、 探る為に何も言わず着いてきたが……」


「あんたは調査に来たとは思えない程、 落ち着いているし、 警戒もしていない」


その言葉を聞いても威鳴は顔色一つ変えない


「嫌だな冬夜君、 年下の子にそんな怯えた姿は見せられないよ、 堂々として無きゃダメだろ?」


そう返す、 大切な質問には一切応えない


でも問題無いと冬夜は思う、 この質問ははなから時間稼ぎだからだ、 しかしそれももう終わりだ


「……そうかマリー、 分かった」


そう呟くと冬夜は一気に威圧感を強め威鳴を睨みつける、 いや……


「お前誰だ? 威鳴さんをどうした? それに何が目的だ、 全部応えろ」


空気が少し震える、 冬夜の周りで光が不自然に屈折する


それでも威鳴の表情は崩れない、 まるで表情筋が硬直しているようだ


「……何を言ってっ……」


ピシュッ!


軽い風きり音、 目にも見えない速度で冬夜の手がぶれる、 気づけばホルスターからナイフが抜かれている


首元にきらり、 鋭く光を反射するナイフが当てられている事に遅れて気づく


「もういいって言ってるだろ、 お前が威鳴さんじゃないってのは理解してる、 首が飛ぶ前に質問に応えろ」


冬夜の目の前、 威鳴の見た目をしている人影、 しかし冬夜はそれが威鳴で無いと言う


その人物の表情がやっと変化する、 つり上がった頬が緩み落ちる


「……はぁ、 分かったよ、 質問ね、 答えるよ」


諦めのような顔をする威鳴の見た目の人物、 しかし首元にナイフを当てられて尚恐怖や焦りの様なものは感じられない


「僕の名前は深谷みや 離井はない、 威鳴千早季は早い話殺したよ」


「他の質問も答えるつもりだけど、 こっちもひとつだけ聴いていい?」


ぐしゃりっ!


ナイフがぶれ首に突き刺さる


「威鳴さんを殺した罪は裁かなくてはいけない、 でもそれをするのは俺じゃない、 社会が復興した時、 お前は拒否権無しに罪人になる……」


「罪を償い投降しろ、 その為に必要な質問なら許す」


首元から血が流れて居るがやはり動揺を見せない男、 その様に逆に冬夜が動揺しそうになる


「へいへい、 必要な質問ですよ、 何で俺が威鳴千早季じゃないって分かった?」


その言葉に冬夜は威圧感を更に強める


「はぁ、 答える気は無いって事ね、 じゃあ今のはノーカン、 じゃあ何でここなんだ?」


「もっと早く気づけなかったの? こんな敵陣の中で……」


グサリ、 更に深くナイフが刺さる


「このナイフじゃ足りないか?」


敵の質問、 この質問にも答えない、 しかし場所は大事だった


周囲に乱立する木、 その木の位置がある程度四方を囲み、 遠すぎてはいけない


冬夜の友達、 水の少女マリー、 彼女が既に水を糸状にし地面を潜り、 周囲を囲む木の表面に侵入している


つまり脅しはナイフだけでは無い、 周囲を囲む木から水の攻撃を仕掛ける、 この地点は言わば狩場なのだ


そして前の質問、 目の前の男が威鳴の偽物だと思ったのは単純に怪しかった事、

それと男の体内の水分


汗や涙、 そう言った物は人によって一人一人全く異なるのだと水の少女は言う


冬夜は潜入感を持つタイプだ、 昨日の時点で威鳴本人の汗からその特性を密かに調べた


そして今目の前の男のも、 水の少女マリーは全く別物だったと教えてくれた


事実は明確、 証言も取り、 場も状況も有利、 ナイフを握る手に力が籠る


「さあ、 他に質問は……」


………………………………


……………


「いや、 そうじゃなくってさぁ…… 敵陣のど真ん中でよくこんな悠長してるよなって話してんの、 脅しならナイフ一本で足りる場合は足りるよ」


「まあ、 それも届いて居ればの話だけど……」


……………?


え?


「え? は?」


そう言えば目の前の男、 ナイフが突き刺さっているのに痛みの声を出さない


その上流れていた血が既に止まっている、 止まっている?、 いや


「初めから刺さっていない……?」


何故だ、 捉えていたはず、 なのに急にその感覚は消えて行く、 何故?


男を見る、 男の顔はまた貼り付けたような笑顔に戻っている、 いや初めから変わっていない?


変わったように感じていただけ……


不意に空気が動く様な感覚、 周囲の景色が歪んで見えて、 何かがこちらに……


「5対の足、 灰色の体、 鱗、 大きくトカゲを思わせる見た目、 頭としっぽに花が生える」


花見丈虫はなみじょうちゅう、 と言う巨大生物の総称だ」


ぼや~、 と人影がこちらに向かってくる


「そいつの花の甘い香りには錯乱効果があり、 抽出し散布する事で敵は知らずの内に錯乱、 幻覚を見る」


「後は儂ら共の思うつぼという訳だ」


何だ、 何かやばい……


冬夜は自身の手の感覚、 ナイフの感覚を確認すると自分の左手へ向けた


グサリッ


痛み、 脳が痛みに反応し、 活性、 幻覚作用を薄める


モヤがかかったように不鮮明だった周囲の景色がはっきりとしてくる


周囲は……


「思い切った事をするじゃないか、 人間君」


そう言ってこちらの顔を覗き込む顔、 人では無い、 こいつらは


「っ! 猿帝血族!!」


猿型モンスターだ、 こんな近くまで、 それに、 それだけじゃない


「ギャア!」「ギャアギャッ!!」「ギャア!」「ギギギギャ!!」


周囲は四方八方を既に猿型モンスターに囲まれている、 その数はどれくらいだろう、 40か、 50程か


それらが全てこちらを見ている、 攻撃をしてこない所を見ると統制が取れている様だ


そして今しがた語り掛けてくる個体、 他とは違う雰囲気を漂わす、 年寄りのように腰が曲がっている


「猿帝血族という呼び名、 ふほほっ、 誰から聞いた?」


質問してくるこの個体、 まさかコイツが


「……お前が猿帝か?」


その個体は口角を上げる


「ふぅん、 違う、 我らが猿帝はここには来て居ない、 それはそうだろう、 帝君自ら赴く必要はあるまい、 私はただの小間使い」


「血族の中では幹部の一人と言った所か……」


幹部だと、 つまり


「5人の幹部の一人でお前も能力者ノウムテラスって言う事か」


公園での敵、 皇乞始天宗のうこつしてんしゅうとの会話で得た情報だ


冬夜の言葉に目の前の猿型モンスターは顎に手を当て考えるように


「やはり儂らの事なんか知ってる? ……何故、 いや、 成程、 宗の奴か、 あの若造……」


頭の回転の早い奴らしい


「まあ良い、 その話は後でゆっくり聞くとするよ、 着いてきてくれるかな? 人間君?」


その問、 そんなの決まってると冬夜は思う


「着いて行く訳無いだろ」


敵を睨みつけて…… あれそういえば……


目の前の老人の様な猿型モンスターはまたしても頬を上げる


「その意気、 抵抗する意思があるのは良いが、 なら何故止まったまま行動しない?」


あれ? やっぱり、 あれ?


老人の様な猿型モンスターは笑う


「違う、 動けないのだ、 私の能力で」


ドサッ


音を立てて崩れ落ちる、 いつの間にか手も足も力が入らない


「全く、 儂の能力は時間がかかって行けん、 まあ今回の様に花見丈虫の蜜の香をたき予め思考能力を欠けさせればイチコロだがね」


そうだ、 さっきから頭も働かない


よく分からない、 威鳴さんの偽物は?


居る、 木にうつかって欠伸をして居る


でもその木は、 さっき既にマリーの力が仕込まれている木だ


発動するなら、 ここか? ……


……………


「能力の発動の瞬間、 微妙なミクロノイズの揺らぎが発生する、 能力の使用が未熟な者ほどその揺らぎは大きい」


「そしてワシくらい熟練になってくると、 その揺らぎが感覚として分かる、 人間君、 止めておきなさい」


スタッ!


軽い動きで手刀が首筋に当てられる、 その手刀、 死の実感


「まだ殺す訳には行かないのだから」


村宿冬夜は少しだけ恐怖した、 力と、 背中を合わせられる友人、 油断はして無かった、 戦いにも慣れてきた


それでも……


「まだまだ、 若いの」


ドスッ


そのまま手刀が振るわれる、 殺す気は無い、 それは意識を遠のかせる


ガクリッ、 首が落ちる


村宿冬夜は敵陣にて気絶した……


…………………


老人の様猿型モンスターは気絶した冬夜を見下ろし少し疲れた顔をする


そして威鳴の偽物、 深谷離井みやはないへと語りかける


「この人間君も気の毒に、 まさか同じ人間に裏切られるなどとは思いもしなかったろうさ」


「しかし離井君、 君は何故、 我々に協力を? 我々は我々の為に戦っている、 君は同じ仲間の為には戦わないのか?」


それはおおいな疑問だった、 猿帝は離井の存在を認められた、 だから従っている


しかし、 深谷離井は本来我々を憎む側、 何故か


その質問に離井は人差し指を立て顎に当てる、 考える様な風をして、 理由は単純


「俺は人間だけど、 人間を憎んでる、 俺には俺の目的がある、 でもそれは結果的にあんたらの目的の途中か先くらいにある」


「目的に着くまで楽したいんだよ、 それだけ」


離井はそう言うともう一度欠伸をして歩き出す


「離井君、 シェルターとやらにまた向かうのかね?」


離井は歩みを止めずに答える


「ああ、 そうだよ、 今度は人間わんさか連れて来てやるよ、 今度はそうだな……」


ぐしゃり、 ぐしゃり


肉が崩れる様な音がして離井の体の輪郭が変形していく


「威鳴と村宿は調査先で死亡って事にしたいから、 あれだな、 明山日暮、 あいつにするか」


容姿を思い浮かべる、 それだけでいい、 後は能力が肉体をこねあげ形作る


肉体操作と肉体変化


「俺の能力は生物を形作る創造の能力、パラサス・ダイブ」


「疑いもしねぇ脳死の人間共に対しては正に最強だ」


そう呟き終わる頃には見た目が完全に日暮へと変わっていた


「街に向かったけどやっぱビビって帰ってきたって迫真の顔で伝えりゃ誰も何も思わねぇだろ」


勢い良く送り出したってずっと早く、 無事に帰ってくることばかり考えているんだから、 責める何て奴らにはできない


「それに明山日暮、 てめぇが向かった方向、 街の方はまじの魔境、 こっちなんてもんじゃねぇぞ、 へへっ」


「どっちにしろ生きて帰って来れる筈がねぇんだからな」


離井は不気味にヘラヘラと笑うと、 藍木山を下山するべく足を進めた


村宿冬夜は気絶し敵の手中に


離井は明山日暮に化け人々の暮らすシェルターに


不安定な要素は糸のようにたぐられ絡み合う、 それを操る者は笑う


「さぁ、 終末パーティの幕開けだぜ」


そう言って笑う声だけが藍木山の静寂に響いていた


………………………………


「ガウガウッ!!」 「ワグワグッ!!」


大きな犬、 いや狼か、 体長2メートル程、 基本黒色、 偶に白色、 更に偶に茶色


初めて見るモンスターだ


かなりの群れを成して居て、 一斉にこちらを警戒する、 狩る気満々だ


ならこっちだって……


「っ、 何て言ってる場合じゃねぇ!!」


大声で叫ぶ、 その声に更に警戒した狼はこちらを群れに指示を出す為遠吠えを……


ドッガアアアアアンッ!!!


巨大な音と共に地面が弾ける


「クラアアアアアァアアァッ!!!」


その声の主、 巨大な幼虫の様な見た目のモンスターが顔を出す、 そのでかさ、 気色の悪い顔だけでも高さ50メートルはあろうか


体長は200、 いや300か?


分からん、 とにかくでかい、 デカすぎる


それが、 地面潜り、 その地を穿ち、 地に跡を刻み、 追いかける、 何を?


「もう、 追いかけて来んな!! キモイんだよ!!」


自転車に跨り、 全力でペダルを漕ぐ、 明山日暮をだ


「犬共!! 食われなくなかったらてめぇらも逃げろ!!」


そう叫ぶと、 狼の様モンスターの一匹がいち早く遠吠え、 指示を出し群れ全体で駆け出す


横には逃げれない、 きっと突進速度と幅で横に逃げては巻き込まれる


直角に曲がるか、 真っ直ぐ進むしかないのだ、 つまり


「ワブッ、 ワブッ!!」「ハッハァッ!!」


犬共と並走していた、 その後を幼虫のようなモンスターが迫ってくる


甘樹駅前あまたつえきまえ方面に向かう日暮、 目的地までは後1キロ無い程まで迫っている


ずっと逃げ続けてここまで来たのだ、 その間幼虫のようなモンスターは懲りずに俺を追いかけ続てけていた


街に近づく程建物が増える、 建物ごと破壊して向かって来るが少しの避けにはなる


「俺のせいで街破壊しすぎかな? まあ、 今更だろ!!」


幼虫は体格的に距離を詰めてくるが、 足が特別早い訳でも無い


倒す事を考えたいが突進の威力を考えれば今では無い、 一度その動きを止めるのがベストである


その為には一旦奴の目から離れ、 隠れ忍びたい


だから走り続けたのだ


まあ、 何処でも良かったのだが


「とにかく広い所に! ここは!!」


建設途中の工事現場、 その建物に飛ぶ!!


「ブレイング・ブースト!!」


空気の圧が自転車ごと俺を吹き飛ばし加速させる


そのまま建物に突っ込む


ガッシャアアンッ!!


きっとこの建物、 あと数ヶ月後には建設が終わり日の目を浴びていたろう


ピカピカ光を反射する新品のガラスをバキバキ叩き割って建物内に侵入する


「失礼します~」


そう言いながら颯爽と壁に背をつけ身を隠す


ちらりと奴を見る


奴はやはり目が悪い様だ、 併走していた狼モンスターを俺と勘違いしてかそのまま真っ直ぐ進む


しかし何かを感じて急ブレーキをかけ停止する


やはり匂いか、 奴は俺がトカゲの花から取った琥珀のような物の匂いを探知していたに違いない


俺は建物の中に散乱している何かの紙やらビニールやらをかき集め、 リュックの中の琥珀のようなものに何重にも巻き付けていく


これで少しは匂いが漏れるのを防げるだろう


奴は止まった、 トカゲモンスターのように飛び乗って少しずつ削るか……


日暮はぐるぐるに巻き付けた琥珀の様な物をリュックの奥に押し込み、 着替えの服を取り出しさっさと着る


花トカゲを倒した火炎戦法でボロボロの酷い見た目だったが、 傷は全て治っているため着るだけでしっかりする


「どうせまた直ぐにダメになる……、 とか言うの止めよう」


幼虫モンは周辺を低速で動き回りながら周囲をくまなく探している様だ、 それ程奴にとってリュックの中の琥珀の様な物は大切なのか


「さて、 どうやって奴を……」



『……おい! 誰か聴こえるか!!』


突然建物内に木霊する声、 かなり驚く


『そこに居るなら応えてくれ! 頼むもうあまり時間が無いのだ!!』


焦った様に響く声、 誰か居るのか? いやこの声の感じ……


無線機、 トランシーバーか?


「鬼蛇問題…… まあ良いや」


声のする方に向かうと無線機はまだむき出しのベニヤの壁に固定されぶる下がっていた


迷わず手を伸ばし応答する


「はいこんにちは、 どうしました?」


こういう時どうやって受け答えするのが正解なのか……


しかし相手は特段気にせず反応を見せる


『!? 居るんだなすぐ近くに、 腹の中では無く、 外に居るんだな?』


質問の内容が分からない


「よく分からんけど、 建物の中ではあるけど…… 腹? それって何処から見て外な訳?」


無線機の向こうで、 ふぅ…… と息を吐く音が聞こえる


『良いか、 良く聞いてくれ、 私は今『治然頭蛾じぜんずが』と言う巨大な蛾の幼虫、 その腹の中に居る』


『それはこれに食われたからだ、 幸いこれは咀嚼しないので今は無事だが、 そのうち体内溶液が滲み出すだろう』


『そうなれば私は終わりだ、 私は死ぬ訳には行かないのだ、 方法はある、 私を助けてくれまいか?』


助けてくれね……


「あんたが誰なのか、 どういった状況なのか……、 まあ普通なら気になる所だが

、 俺は別に興味無い、 良いぜ」


「助けるも何も、 あいつは殺すつもりだった、 方法はいまいち思いつかないけどさ」


あっけらんかと返答する、 しかし頭は冷静に、 今の状況を理解しようとする


声の主は何者か……


声の主はそれを知ってか、 あるいは知らずか、 話を続ける、 その声音は無線機を通しても焦りが伝わる


『助かる、 方法は考えてある、 おそらくこれを倒せる、 その為に協力して欲しい事を言う……』


『助けてくれるのだ、 誠意に感謝し予め言うが、 私はある能力を持っている』


『その能力は物を作るだ、 私はその能力を使いこれの腹の中から巨大な杭を作り奴を内側から破壊しようと思っている』


物作りの能力…… その全容は?


そんな疑問が頭に浮かぶ、 声の主はその事を予め踏まえて居るようで……


『簡素に説明するならある程度の条件に則って色々な物を瞬時に作り出せる、 杭、 木箱、 衣服、 サイズは指定できる』


『今回はこれを仕留めるサイズの巨大な杭を作る、 条件はシンプルだが相応の素材が必要だ』


『頼みたいのはそれ、 コイツにとにかく沢山の、 鉄、 岩、 コンクリートの様な物でも何でも良い、 とにかく沢山食わせろ』


『そうすればそれらを使い腹の中からこれを殺す杭が作れる』


謎の声の主は質より量、 強固な素材を食わせて、 自分の所にそれを届けろと、 要はそう言っている様だ


まああれだ、 なるようになれだ


「良いぜ、 囮になって走り回ってたらふく食わせるね」


確かにさっきまで逃げ回っていた際、 破壊した建物や、 掘り進めた土をそのままの勢いでガブガブしていたようだった


ならやる事は簡単だ


「今から散々駆け巡ってやつの腹に多くの資材をぶち込む、 後は仕上げ、 頼んだぜ、 謎の声の主さん」



『任せてくれ、 それと無線機、 それは君の物か? 何時でも繋がる状態にしておいて欲しい』


これは勿論どっかの建設会社の物だ、 けど今更気にもしない


「あぁ、 問題ない、 覚悟も決まったし始めるか」


侵入したガラスから外に出る、 幼虫モンは……


何処だ?


不意に気づく、 空は快晴なのに周辺には影が落ちている、 陽の光を遮る巨大な影


それは既に背後に、 影が傾いて……


「ブレイング・ブースト!!」


自転車に飛び乗り力を発動する、 空気の圧が自転車ごと体を強く押し出す


その背後で……


ドッガアアアアアァッッン!!


破壊音が響く、 背後をちらりと見る、 先程まで居た建設途中の建物が丸ごと消えている


大口を開いて地面ごと食らった見たいだ、 どうしても俺…… いや、 俺の持っている琥珀を食らいたいらしい


琥珀さえ食らえれば後はどうでもと言った感じだ、 つまりこれは好都合だ


「こんな感じでいっぱい食わせてけば良いのな」


幼虫モンは捉えてないとわかるや追いかけてくる、 ああ、 また追いかけっこか……


「結構楽しいかもな、 これ!」


強くペダルを漕ぐ、 迫る幼虫モン、 幼虫モンは触脚を持ち上げ俺に狙いを定める


捉えられたら終わり……



ワオオオオォンッ!!


遠吠えだ、 よく見ると先程の狼モンが群れでこちらに突撃してくる


立ち向かうつもりか?


無理があるだろ……


そう思って居ると、 先頭の一匹が飛び出し沈み込むと、 そのまま高々とジャンプした


そこから触脚に向けて体を一回転する、 その後華麗に着地


バックリ


何と触脚がズバリと切り傷ができる、 何故?


その他の個体も俺には目もくれず駆け、 幼虫モンにすれ違うように体当たりをする


ズバッ! バサッ!


刃物だ、 何故かは分からないが、 あの狼たちの体は刃物のように触れた物を切断するんだ


こちらを狙っていた触脚は動きを止める、 何にせよ助かった


「サンキュー! 狼さん達!!」


ピガガ


そのタイミングで無線機が反応する


『今の状況はどんな感じだ、 頼む急いで欲しい、 どうやら溶液が出てきた様だ』


その声は焦りが出ている


「ああってますよ!! 今向かってんだ敵の腹を満たす道を!!」


「あと、 狼みたいな奴らが突然共闘してくれてて、 仲良しにでもなった気分!! 何言ってるか分からないだろうけど!」


今の状況、 と言ってもごちゃごちゃし過ぎだ、 意味不明な敵に襲われて、 敵か味方かわからん奴と無線機越しに会話して


敵同士の狼だって今は俺を攻撃しない、 一気に色々あり過ぎだ


『狼…… もしかして、 その狼、 自身の体を刃にして戦う刃薙狼やなぎおおかみ達では無いか?』



「んな事言われても知らねぇ! でもそうかも!」


日暮は叫びながら目の前三百メートル程にある背の高いビルを目指す、 そろそろ駅前にも近くなってきた


『成程そういう事か……』


勝手に納得する無線機の声、 なんなんだ?


『虫の腹の中には色々な物が落ちている、 そしてここに…… 可愛らしい子供の狼が居てな、 どうやらこの子も食われた様だ』


『外の狼達はこの虫に食われた我が子を助ける為戦って居るのだろう……』


そうか、 俺がここに幼虫モンを連れてきちまったんだよな……


「……その子供狼は生きてんのか?」



『生きている、 特に問題も無く元気だが、 急げ! もう溶液がすぐそこまで!』


はぁ………


「おっけぇ!! 行くぜ!!」


足に力を込める、 踏み込むペダルが車輪の回転を力強く加速させる


顔を上げる、 目の前まで迫ったビル、 そのてっぺん、 屋上まで届け!


「ブレイング・ブースト!!」


自転車ごと体は宙を舞う、 圧縮された空気の圧は上方へと使用者を打ち出す


自転車による加速速度も上乗せされその高度を……


屋上まで届かせる


「はっははは!! 俺いっつも飛んでるな!!」


ガッシャァン!!


不格好に自転車ごと屋上に降り立つ、 ぶっ壊れてねぇだろうな


だがそんな確認をしている暇は無い


急いでリュックを漁り目的の物を取り出す、 グルグル巻にしたビニールだとかを剥いでいく


「さっきは隠したけど、 今度はひけらかす」


花トカゲの琥珀、 幼虫モンが心から欲している物だ


それを高く掲げる、 日光を反射してキラリと光る、 その輝き……


「グラアアアァアアアッ!!!!」


反応する、 ほらこれが欲しいんだろ?


「欲しかったら、 ここまで飛んでこいや!!」


幼虫はその突撃の勢いを増しながら地面に潜る、 そうだコイツ地面から飛び出す時は高々とジャンプするんだ


足元の地面が膨張する


「グアアアララララアアアアアアッ!!!」


ああ、 巨大な生命の圧倒的な躍動、 巨大幼虫は地面から飛び出すと咆哮と共にジャンプ


その体を、 80メートルはある高層ビルより更に高く持ち上げる


その巨体が大口を開けビルごと琥珀を持つ日暮を食おうと真っ直ぐ落下する


でかい……


「あれ? このビルだけじゃこの巨体を倒すには足りなく無い? 考え無しだったかな?」



『案ずる事は無い、 状況は何となく分かった、 その建物だけでは足りなくても繋がって入れば良いんだ……』


『その建物と繋がってている、 コンクリートの地面、 それも同時に操れる!!』


そうかなら……


余りに大口がもう数十メートル上まで迫っている


そろそろだ……


地面に琥珀を置く


「ほらてめぇの欲しくて欲しくて止まなかった物だぜ、 でもその巨体そんなちっぽけな物だけじゃ腹減るだろ!」


「だから、 付け合せにてめぇを殺すファイナルディナーだ!! 存分に食らえ!!」


そう言いながら駆け出すそして


「八秒、 ブレイング・ブースト!!」


体を加速させる……


「あ、 チャリ……」



「グラアアアアアアアアアァッ!!」


ブーストの加速でビルの屋上を飛び出す、 空中で振り返ってその光景を見る


巨大幼虫は琥珀とそのビルを頭から地面まで丸ごと……


バックン!!


食らった………


巨大な幼虫は思った


やった、 やっと手に入った、 花トカゲ、 花見丈中はなみじょうちゅうの琥珀


この小さな琥珀に含まれる膨大なエネルギーは、 この私を強大に進化させる


成長し羽ばたく時、 その時何者をも超えた空の覇者へとなる


「グラアアアアアアアァッ!!」


そしたら、 まずは私を散々コケにしたあの小さい二足歩行のあいつを真っ先に殺して……


ピガガ……


日暮の無線機が反応する


『よくやった、 ビルのてっぺんが確かに俺の元まで届いたぞ……』


築工作書本ちくこうさくしょぼん、 参照、 七十八ページ、 攻城杭こうじょうくい


『サイズ指定、 四百メートル、 ……築工始め!!』



グゴゴゴゴゴッ!!!!


地響き、 足元から地響き木霊する


ビルから落下した俺は適当な建物の屋根に乗る


「えっ…… 能力、 スケールデカ過ぎない?」


先程まで居たビルに地面が吸い込まれる様に膨張しせり上っていく


そして……


「グラアガガアアッ!?」


ビルを支柱として幼虫よりも更に背の高い1本の杭として完成し


幼虫を丸ごと串刺しにする


ドッバッシヤアアァッ!


ものすごい量の汚い体液が溢れ出し杭を伝って落ちて行く


ピガガ……


『どうだ私の能力で作り出した杭はこれを確実に仕留めたか?』


落ち着いた声が聞こえてくる


「あっ、 ああ…… 多分、 あれで生きてたらびっくりだけど、 多分死んだよ」


巨大な杭に突き刺され持ち上げられた幼虫はピクリとも動かない


『それならば良かった、 今この杭を消す、 すまないが私達を回収しに来てくれないか?』



「ああ、 良いぜ」



『助かる、 攻城杭こうじょうつい壊築かいちく


パシャァァァァンッ!


その言葉で音を立てて杭は姿を消す、 突然支えを無くした幼虫の体は地面に打ち付けられる


べちゃっ!


その体は体から体液が出すぎた為か幾分かしぼんだようだった


『これで近ずけるだろうが、 足元には十分気を付けてくれ』



「おっけ」


その忠告を聴きながら適当な足場から地面へ降り、 幼虫の死体まで駆け付ける


その死体のすぐ側まで来た


「うわ、 きったな」


地面は汚い色の体液でべちゃべちゃだ、 最悪だよ


「すぐ側までまで来たんだけど、 あんたらこの幼虫の腹の中の何処に居んの?」



『ちょっと待ってくれ、 築工作書本ちくこうさくしょぼん、 攻城杭』


『サイズ指定、 十メートル』


グシャッ!


一本の杭が幼虫の体から頭を出す


『見えるか?、 この杭の出ている辺りだ』



「おっけぇ」


腰からナタを抜く


「喰らえ牙龍!」


上段から切りつけ、 ナタに絡みついた骨が敵の肉を自身の能力で大きく抉る


更にその流れで下から振り上げ、 連撃で大きく、 深く傷がつく


「最後、 ブレイング・バースト!!」


肉を抉って薄くなった外皮に圧縮した空気の塊をを打ち出す


バッシャアアンッ!!


派手な音を立てて肉壁が破られる、 幼虫の常闇の体内に光がさす


『外皮を破った様だな、 ここだ、 杭の立っている下だ』


リュックから懐中電灯を出し照らす


『おお、 光だ、 光が見えているすぐ近くだ、 そっちじゃない右だ!』


まくし立てるように言う声の主、 見つけた


「って、 何だこれ?」


四角い金属の箱が無造作に落ちている


ワンワンッ!


箱の中、 いや無線機を通しても子犬の様な鳴き声が聞こえる、 ああ、 さっき言ってた


金属の箱をノックする


『すまない今開ける、 鉄網箱てつあみばこ壊築』


パシャァァン


音を立てて消えた金属の箱の中から


「ワンワン!!」


元気な子狼が出てくる


「かわいい~」


屈んで撫でると子狼は目を細めた


「未知の生物にやったらめったら触る物じゃ無いぞ、 少なくとも我々はこの世界の生き物では無いのだからな人間君」


低い声が聞こえる、 声の方を向く、 え?


「え? サザエ?」



「違う、 サザエと言う貝類の生き物では無い」


即刻否定された、 えっ…… ったって……


見た目は巻貝だ、 サザエの様な立派な殻を担いでいる、 そこから顔と4足の足が出て地面にたっている


4足のカタツムリ見たいな奴だ、 え……


「あんたが、 無線機の声の主?」


声が少し引きつった


『そうだ、 この度は本当にありがとう、 勇敢な君のお陰で助かったよ、 その上で何だが私を外まで連れてってくれまいか』


『この体では移動に時間がかかりすぎるものでな』


確かに動きは鈍そうだ


「良いぜ」


特に警戒もせず持ち上げる


「……自分で頼んでおいて何だが、 未知の物には触れるなと忠告したのを忘れるな、 何があるか分からんからな」


真面目な声で語られる、 確かにいい教訓だ、 未知の物には軽い気持ちで触れるなね


「まあ、 あんたは信用してるよ、 さっきまで一緒に戦った仲何だしさ」



「ふっ、 出会ったばかりだが、 変わった奴だな、 ……名前を聞いても……」



ワンワン!!


外から大人狼の声が聞こえる、 その声に反応して子供狼も反応する


「……いつまでもこんな陰気臭い所にいても仕方ない、 人間君、 話は外に出てからにするか」


手元で巻貝さんが言う


「ああ、 そうだな、 どっか落ち着いて休める所でな」


そう返すと、 急かす子狼に先行されて幼虫の体内を出るため歩き出す


道中でボロボロになった自転車を発見して唖然とする


琥珀の大体の位置も巻貝さんが知っていた


「この琥珀はとても力のある物だ、 この幼虫が求めるのも理解出来る、 大切に保管しなさい」


そう言われリュックに詰める


そうして光が差し込む出口、 バーストでこじ開けた穴から外へ出る


外に出ると火が落ちかけていた、 今日いろいろとあって意識してなかったけど、 もうすぐ夜が来るのか


すぐ側では子狼が親狼とその群れの中で戯れている、 いい光景だ


狼たちは一様にこちらを見る


「どうやら感謝を伝えたい様だ」


と巻貝さん


いやでも……


「元はと言えば俺が奴を連れて来たんだ、 悪かった、 子供が無事で本当に良かったよ、 あと一緒に戦ってくれてありがとな!」


そう言って手を上げる


こちらの言葉を理解したかは知らない、 でもリーダーの様な狼がひとつ遠吠えをすると、 それだけで狼の群れはその場を立ち去る


戦いにならなくて良かった、 子狼も可愛かったしね


静寂に包まれる、 吹き抜ける風、 戦いの終わり、 そして一日の終わり


失った物、 新たに得た物、 出会い


これから始まる未知への探索、 無意識に力が篭もる


しかしだからこそ今は休息だ


「つっかれた、 取り敢えず適当な建物入るか~」


そう言って歩き出す、 調査目的地であった甘樹駅前あまたつえきまえはもう目と鼻の先だ


「ふっ、 今日はゆっくりと休むと良いさ」


手もとからのその声を聞きながら夕日の沈みそうな街を静かに歩いた……


…………………………………


…………………………


……………


ずっと憂うつだった……


『じいちゃんばあちゃんを逃がすには誰かが戦うしかないだろ!!』


ひと月前のあの日の出来事


シェルターまでの避難中に化け物が出てきて


兄はそう言って立ち向かった


私からは見えた、 兄は化け物を前にして笑ってた


それから兄はシェルターには来ず、 行方不明、 お母さんは俯いたままだし、 お父さんも空元気で動いてる


おじいちゃんおばあちゃんはあんまり喋らなくなったし


でもこのシェルターの中じゃ珍しくない、 みんなそうだ、 私だってそうだ……


そうだった……


お兄ちゃん、 お兄ちゃん……


「お兄ちゃん……」




……「どうした? あかね


嬉しい…… 今は呼んでも声が帰ってくるんだから……


嬉しい


私の名前は明山茜、 私に優しく話しかけてくれたのは……


「お兄ちゃん………」


行方不明になって居たお兄ちゃん


明山日暮だ……


嬉しい、 私達を家族の元に、 お兄ちゃんが帰ってきた!

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