第三十八話…… 『旅路』
俺達が住んでいる町、 甘樹市、 藍木には大きな川がある
その為、甘樹駅前方面に向かうには橋を渡る事になる
「はぁ…… はぁ…… クッソ漕いだわ……、 何で橋落ちてんだよ、 やばすぎだろ」
何にせよ橋を渡らない事には目的地にはつかない、 対岸へ渡る為の橋は幾つか有るが、 近い物は2つ
それ以外はかなり先になるし行き方としてもかなり非効率になる、 まだどうにかして川を泳いでいく方が賢明である
しかし2本あると言っても片方はシェルターから3キロ強程の所にある下流の橋、 もう一本は藍木山とは別方向の山に向けて登ること約5キロ
「はぁ…… 近くとは? 近くねぇよ!! 1時間近くもチャリ漕いで…… まだ藍木出てねぇ……」
日暮は自転車に乗りシェルターの敷地を後にして20分程、 敵に襲われ停止した車やら障害物を避けて道を進み、 橋に到着すると
なんと橋は中腹からへし折れる様に落ちていた
あれ程の破壊をした現象はなんだろう?
ともかく橋を渡る為にそこからだらだら40分程かけて自転車を漕ぎもう一本の橋にようやく着いた
「……道中で3体、 猿モンぶっ殺したけど……、 めちゃくちゃ群れれてたな……、 追いかけられたけどチャリめちゃ漕いだらつっ離せたな……」
息が切れて言葉が途切れ途切れだ、 しかし自転車は凄いな、 確かに早い
自転車のカゴに転がしたペットボトルのお茶を取り、 蓋を開けると1口飲む
「っはぁ、 お茶もまあ美味いな、 疲れてるからか何か甘い、 でも炭酸飲みたい、 これはまじ」
サイダーがあればな…… まあいいや
肩が疲れてきたのでリュックを下ろしカゴに置く、 ペットボトルはリュックに入れた
一呼吸置いてペダルの位置を調整、 強く漕ぎ出し、 橋を渡る
「そう言えばさっきの方の橋は何故落ちたのか……?」
ガタガタッ!
……
「ん? 何か地面がガタガタで走りずらい……」
春の様な清々しい気分だ、 花のように甘い香りが鼻腔を撫でる
……?
「……あれ? 景色が…… 進まない……
ん? おや? いつからペダルを漕ぐのを止めていた?」
勢いよく漕ぎ出して橋を渡っていた筈なのに橋の中腹辺りでいつの間にか足が止まり停止していた
……?
甘い香りがする、 頭がぼーとする、 春のせいだ……
「……今は、 春じゃねぇ……な?」
甘い香りが強くなる、 周りは花畑……?
「…………………? へ?」
………………………………………………………
…………………………………………
………………………
……れっ! 日暮!!………明山日暮!!
……力を、 前へ飛んで!!………
…………………………
……………………………………
………………………………………………………
……力? 飛ぶ……
「……ブレイング…… ブースト……」
よく分からない、 頭が回らない、 浮遊感……
……浮遊感?
「……ん? 俺何して…… えぇ!? 浮いて!! ってかもう落ちる!! 受けみぃ!!」
腕を前で組んで地面に衝突する
「痛ってぇ!! 何だまじで!?」
何があった? 頭が重い
痛みで頭が回り出す
(何だ、何してた? 橋に着いて、 お茶を飲んだ、 それで? 橋を渡ってて……)
甘い香りがする……
ズキリッ、 ぶつけた体が痛む
「痛ってぇ…… 体が、 ってかさっきから何だこの強烈な甘ったるい匂い、 どっから……」
そう言いながら体を起こす、 目で見てすぐに理解する
「まじか…… なんだコイツ、 ワニ? いやトカゲ?」
デカイ、 でかくてゴツゴツした灰色の肌の爬虫類がのっそりとこちらを向く、 その背中には自転車が置き去りにされている、 嘘だろ……
「これもしかして…… 俺さっきまであいつの背中の上を…… 橋と間違えて?」
甘い香りで錯乱していた?
爬虫類は立ち上がる、 え? 立ち上がるとは?
この爬虫類は足が何本もある、 上体を持ち上げ対で4本の前足が地面から離れている、 でも足が6本ほど地面に着いている
「魔改造ケンタウロスみたいな?」
胴長の体に5対の足、 の爬虫類、 極めつけは……
「頭としっぽからデカイ花が生えてる、 あれかこの甘い匂い…… この匂い頭がぼーとする」
拳を握って体の打った部分をあえて殴りつける
「痛ってぇ、 でも痛みで頭はっきりするわ……」
動きは遅い、 デカイからか、 ゆっくりこっちに体を向き直している、 その過程で自転車が落ちて何処かに消えていく
「いつもさぁ…… 無くすの早すぎだろ、 まだ藍木出てねぇ…… いや出てんのか」
周りを見る、 橋だと思ってたやつの背中、 奴はそういう狩り方をしてるとして、 俺は前方に吹き飛ぶ様にブーストを打った
ここは奴の背中の上じゃない、 俺の体はブーストで吹き飛んで橋を渡り切っていた
「このまま真っ直ぐ進んで行きゃいつかは街に着く、 でも、 こいつ何とかすべきか……」
完全に向き直りかなり上から大きな顔が見下ろして来る
ここの橋は上流の方にかかっているので下流の方より長さ的には短い
100メートル行かないくらいか、 つまり奴の全長もそれくらいって事だ
「デカすぎだろ……」
数十メートルの高さから威圧を受ける、 いや普通にやばいな
「グガワァァァァァアアアッ!!」
爬虫類が吠える、 流石に煩い
指が4本、 つめが生えている、 その前足を広げこちらを捕まえる為に伸ばして来た
大型モンスターのキルはダメージの蓄積だ、 どれだけ大きくても体力や血液にも限界がある
前足が狙いを定め一直線に向かって来る、 大切なのはタイミングだ
3…… 2……
1……
手のひらが覆うように握られる瞬間、 ここっ!
「ブレイング・バースト!!」
圧縮した空気が前方に向けて爆発する、 その威力は迫ってきていたその手のひらを止め、 少し押し返す程だ
その上手のひらは握る段階であったので撃ち出された空気は逃げづらい、 つまり荒れ狂い手のひらや指をボロボロに傷つけるのだ
1番素晴らしいのはこの能力が使用者を傷つけないことだ
「ギギャァァァアアッ!?」
手のひらの痛みに驚き手を引っ込める爬虫類の化け物
少し立った土煙が晴れるとそこには自身の獲物が居ない……
「へへっ! 大物キルって言ったら体に乗っかるのが鉄板だ!!」
ようやっと爬虫類は獲物を見つける、 そいつは引っ込めた自身の腕にしがみつき、 登ってきていた
「アガガギャ! ギャ!」
腕を振り回す爬虫類、 揺れて落ちそうでも……
「何時ぞやの! 鳥野郎の旋回、 程じゃねぇなあ!!」
このモンスターの肌は硬い鱗で覆われている、 鱗に手を引っ掛け必死に捕まる
「でも鬱陶しい!! これでも食らって大人しくしろっ!!」
右手を離し腰のナタを抜く、 振り上げ打ち付ける
ガキッ!
硬い音がする、 鱗は硬い、 その上体勢が悪い為あまり刃が通らない、 でも十分
「牙龍!! 喰らえ!」
ナタは打ち付けた物を取り込み自身のエネルギーとして変換する
この爬虫類の腕は大きく長い、 取り込むと言ってもその為の時間も必要
今回は1メートル程の多さに腕を食いちぎった
「あぎゃぎゃああ!?」
「うるせぇ! 今のエネルギーを回復パワーに変換! とりあえず転がった傷を治す」
ナタに巻き付いた骨が日暮の腕に突き刺さる、 これで一つになる
打ち付けた腕も転がった擦り傷も消えて完全復活した
「さぁ、 こっからバシバシ行くぜぇ!」
痛みでか腕の振りが弱まる、 ここが攻めどき
しがみついた状態から腰を浮かせ片足を張る、 クラウチングスタートの様に構え
一気に走り出す、 腕の上は不安定、 体制を落とし駆け抜ける
「っあぎゃぎゃぎゃ!!」
まるで、 来るな!! と言っているようである、 コイツは……
「ただデカいだけだな、 戦略も作戦も技術も無い、 ただ力任せに暴れるだけ、 デカイだけの雑魚だ」
別の腕が捕まえようと向かってくる、 目的地は奴の頭、 そこまでは既に10メートル程か
怒り狂って居るようだ、 生け捕りにするつもりは無いらしく最悪潰れても良いと言った捕まえ方だ
またしても手が横から迫る、 今回も大切なのはタイミングだ
「……今!ジャンプ!!」
踏み込んで飛ぶ、 その際高飛びのように自身の体を下に残さない様に飛ぶ
横から迫った手のひらより少し高く飛び上がった、 そのまま迫ってきた手に着地、 そして
「ブレイング・ブースト!!」
足裏から斜め上方に加速する、 踏み込んだ手が半作用で下に吹き飛ぶ、 登ってきた腕も巻き込んで一緒に吹き飛んだ
その勢いで爬虫類モンスターの体全体が少し前方に体勢を崩す
逆に俺はそのまま真っ直ぐ吹き飛んで爬虫類モンスターの頭上に飛ぶ
「こういうタイプは…… 」
甘い香りを放つ頭の大きな花、 頭がクラクラする、 左手で口と鼻を覆い、 右手にナタを構える、 3…… 2……
1……
「花!! これが弱点だろ!! ブレイング・ブースト!!」
チョウチンアンコウみたいに頭から茎が生えその上に葉と花が生えている、 ならばその茎を断ち切れば
「死ね、 クソトカゲ!!」
ザクッ!!
水を多く含んだ野菜を切った様な感覚、 吹き飛んだ花は地面へと落ちて行く
「ガギギャギヤギャギギギャァァアア!!!?」
爬虫モンの悲鳴の様な絶叫が周囲に響く、 切り飛ばした茎からはドロっとした半透明の液が大量に溢れ出す
「何かきもい、 これ血じゃねぇよな? 何か甘い香りが消えないし、 花蜜みたいな?」
そう言っている間にこちらを捕まえようと手が向かってくる、 あれ? ピンピンしてんじゃん
「逃げる…… え!? この蜜に足取られて動きずら!! え、 やばい?」
(ふぅ、 もうすぐ8秒……)
迫る手、 そんなに痛い目見たいか
「ムカついてきた、 何だこいつ、 旅始まって一瞬で敵とのバトルはまあいいけど、 コイツは俺の事を獲物としか見てない」
「こいつは闘争者じゃない、 でかくて力があるだけで強くも無い、 いちいちそんな奴に構ってられるか、 ここで確実にぶっ殺す」
向かってくる手、 それを屈んで避ける、 そこから屈伸運動で起き上がり
「うおらぁっ!!」
グッシャ!!
ナタを下から打ち付ける、 打ち付けたのは手首の内側、 その為鱗も柔軟になっていて歯が上手く通る
そのままの推進力で進む爬虫モンの手に打ち付けたナタごと引っ張られ花蜜から上手く足が抜ける
「よっし、 機動力確保、 そしたら……」
次は左手の拳を握る、 空気の圧を拳に溜めて打ち出す
「ブレイング・ブラスト!!」
狙うのはナタを打ち込んで出来た傷口、 そこにブラストを叩き込む
ぱっくりと開いたに傷口に体を捻りながら持ち上げて渾身の一撃を打ち込む
ぐしゃりっ!
血を吹き出しながら拳が傷口を捉え、 その中で空気の圧が勢い良く爆発する!
バッシャッンッ!!
柔らかい血管と肉が内側から膨張し破裂する、 それに加え手首の前へと進む推進力とブラストの爆発で起きた前後へ押し出す力
空気圧で手首は強く引っ張られ傷口は更に肥大、 結果……
「アギャアアアアアア!!?」
手首の血肉がバックリ半分程吹き飛び、 吹き出す血はその勢いを止まない、 悶絶する痛みで爬虫モンは絶叫する
「へへっ、 楽しくなってきた、 っても、 手首が吹き飛んだなら……」
彼は落ちるだけだ
「今更数十メートル!! すぐだ!!、 あっ?」
落下する体が宙に浮いたように…… 違うついに捕まったのだ
別の手が既に向かってきていた、 指から生えた長い爪、 2本で服を摘まれていた
「離せよ、 気に入ってるしダメにしたくな…… っえ!?」
爬虫モンは手首を捻ると掴んだ俺を離し、 ぶん投げた、 あれだもう食う為の獲物じゃない
俺を殺す対象として見ている、 良い
「良いぞ、 本気で俺を殺しにこいクソトカゲ!!」
ぶん投げられた勢いで宙を舞う、 地面衝突の瞬間
「フンッ!!」
カツンッ!
ナタを地面に打ち付け体を一回転体勢を整え着地、 そのままの勢いで後ろにバク転をして威力を殺す
「あっぶねぇ、 でも力は温存できたな」
闘争心が湧き上がり気分がハイになっている時は体がよく動く、 限界や恐怖を感じずらいからだ
しかしそういった時こそ冷静に頭を冷やして物を考える努力をする
まずは敵を観る
「アギャアアアアア!!!!!」
手を頭の上に乗せそこに自身の花が生えていない事をひっきりなく確認して絶叫しているようだった
日暮は知る由もない事だが、 あの花はこのモンスターにとって一生物の器官である
甘い香りを出し敵を翻弄するが、 本来は番となるメスなどのアピールに使うものであり、 この個体は自身の花にとても誇りを持っていた
今や切り飛ばされ地面に落ちた花を涙を流し惜しむ、 しかしそれも束の間
爬虫モンは自身の敵を睨む、 もう食う為の獲物だとかはどうでもいい、 殺す、 確実に殺す
互いに同じ思い、 同じ殺意、 睨みつける目が合う、 貼り詰められる空気が……
今弾ける
「アギャアアアア!!!」
咆哮と共に全長100メートル弱の巨体が、 川の堤防をよじ登ると一直線で日暮に突っ込む
その距離70メートル、 爬虫モンの巨体ならば一瞬の距離だ
日暮は……
足元に穴が空いている、 綺麗な円だ、 それは普段蓋が閉まっている
マンホールだ、 日暮が居るのは道路の上、 爬虫モンも川から這い出して同じ道に
先程爬虫モンの覚悟が決まるまでの間にマンホールまで移動し蓋を外しておいた
蓋を両手で持つ、 腰に力を入れる、 息を吸って力を込めると体を一気に捻って、 持ち上げ、 体を一回転、 二回転
まだまだ、 三回、 四回、 まだまだ
遠心力、 重さ約四十キロの円盤を遠心力を使ってぶん回す、 物体の移動力で回転が増すほど重さを感じずらくなる
目をより目にすると、 目が回りずらいと聞いた事がある
タイミングは? 喑低公狼狽と戦った時、 そしてさっきも、 無意識下で認識している、 自身の中で教えてくれる声が……
……………………………
……3 ……2…………
………1、 今!!
………………………………………
聞こえた
「ブレイング・ブースト!! おっらぁっ!!!」
能力の発動と共に勢い良く手を離す、 確かな質量と加速率、 イコール破壊
ドッグッシァ!!
肉が吹き飛ぶそんな音と
「ギヤアアアアア!?」
悲鳴が聞こえる、 命中……
したのか? いつの間にか倒れてた、 おい、 普通に目が回ってるぞ…… それもかなり
超気持ち悪い……
少しづつ目の回転が弱くなって行く、 でも聞こえる近づいてくる音が……
空を見ていた、 ぶっ倒れて、 そこに影が出来る、 爬虫モンはマンホールで死んでない
偶然か、 それとも必然か、 マンホールは奴の頭部を捉えた、 爬虫モンの顔は一部派手に吹き飛んで片目も潰れている
それでも死んでない
俺は今立てない……
爬虫モンはこちらを見下げると、 怒りのこもった力強い目でこちらを睨む
こちらも負けじと睨もうとしたけど世界が回って視界がぼやける
爬虫モンは手を伸ばし爪をこちらに向けると、 看護師が注射針を指すように正確にこちらを捉え、 突き刺した
「うっげぇああっ!!」
突き刺さる爪の痛みよりも一点に押し付けられる圧力で体が潰れそうだ、 それでも……
体は破壊されると同時に回復する、 今俺とエネルギーを蓄えたナタが一つに繋がっているからだ
だから……
「世界の…… 衝撃映像…… マンホールに、 花火って知ってる? まあ知る訳無いわな……」
蓋が何処かに飛んでたマンホールの口が綺麗な円型にガッポリと口を開く
それはちょうど爬虫モンの真下、 コイツは見た目的に思いっきり爬虫類だ、 聞いた事がある
爬虫類は低音動物、 熱に弱い……
「目が回ってても、 爪で貫かれてても、 マッチくらい擦れる…… へへっ、 俺と暑さ我慢対決しようや!!」
ポッケから取り出したマッチ箱、マッチ棒をヤスリに強く擦らせる、 一瞬煙がたち、 すぐに、 力強い火を灯らせる
親指と人差し指で持ち、 大口開いた穴目掛けて投げ入れた
「さあ、 根をあげた方の負けだ、 気張れよ花トカゲ!」
(……ああ~、 誰かがこの道をもう一度整備するんだ 、 ちょっと悪い事したな……)
左手に巻かれたミサンガを右手で覆いながらそう思う
マンホールの下にはガスが溜まるのだ、 マッチの火なんて入れたら
着火
ドッッ!!
ガガガアアアアアッンッ!!!!!!!
アスファルトの地面を爆発が穿ち、 高温の炎が勢い良く吹き出す
その地に立つ生命を悉く焼き尽くす
「ギャアアアアアアアア!?」
「ぎゃあああ!? あっ、 ちぃっ!!!」
焼かれふたつの生命が悲鳴をあげる、 周辺の空気は瞬く間に温度をあげ、 空気を欲しがり喘げば
喉は焼き付く様に、 地獄の景色だ
……………………
何も分からな…… い、
キィーーン……
え?
キィーーーーン……
?
……………………………………
体がじわり暑くなる、 それは炎による熱とは別、 この感覚は体が再生している時の物だ
初めは音、 鮮明に聞こえる、 次に視界、 目が開いてさっきと同じ綺麗な空
疲れ以外の立ち上がれない要因、 怪我だとかをエネルギーが変換され再生する
数秒後、 体の異常を感じ無い、 立ち上がる、 服も靴も焼け焦げている、 大丈夫着替えの入ったリュックは自転車と共にどっかに落ちてる
ミサンガも何とか無事だ、 自分で切ったら意味無いらしいし菊野に悪いしな
気力で体を動かす
よく見るとさっきといる場所が違う、 爆発の衝撃で結構吹き飛ばされたようだ
辺りを見る、 ああ爆心地は地面が派手に陥没し黒い煙が虚空を焦がしている
敵は……
魔女が作るトカゲの料理みたいに煙がたち黒ずんだ死体が落ちている
……
「…………………やった……」
懐かしい感覚、 体の疲れと
「勝った」
勝利の実感、 興奮する
「よっしゃぁぁぁ!! うああああッ!!」
敵の骸に叫ぶ、 自身の生命を叫ぶ、 そして勝利の報酬
「喰らえ、 牙龍」
近ずきナタを打ち付ける、 余りの巨体は吸収するのに時間がかかる
暫く地面に座り勝利の余韻に浸かる、 楽しい、 この感覚がこれから毎日続くのだ
「最高だ…… ははっ、 はははっ……」
………………
「クアアアアアアアラァ!!!!」
…………え?
何かの鳴き声、 打ち倒した敵では無い、 トカゲはナタに喰われその肉を徐々に減らしている
ドッガッアァン!!
少し遠くの山の斜面が盛り上がって弾けた、 地響きと共に見るからに巨大な何かが跳ね上がる
何かやばいかも……
そう思ったらすぐに行動するべきだ
ナタを敵から引き抜くと立ち上がり川の方まで走る、 そこには自転車とリュックがある
ドッガァァアン!!
音が近づく、 まさにここを目指すように近づく、 やばい……
地響きが強くなってきた、 もう河川はすぐ手前、 飛び込む!!
「おらっ!!」
軽くジャンプをして崖のような河川敷に飛び込む、 上流の方なので岩、 木の根が雑多に飛び出ている、 その為一直線に水にドボンという事は無い
ドッガァアアアァアンッ!!!!
とても近くで地響きが聞こえる、 一体何が…… 好奇心で少しだけ顔を覗かせる
「えっ、 でかっ、 ってかきっしょ」
見てしまった、 それはさっきの巨大なトカゲを下から持ち上げ食らいついている、 トカゲよりもデカイ
更にデカイ、 そしてそいつのデザインは
「体中目玉だらけだ……」
瞬きなどしない所を見るときっとそれは毛皮の模様なのだろう、 風になびいて絶えず動き続けるように見える
そいつの体は何かの幼虫の様な見た目で、 大きく開いた口でトカゲに食らいつき腹側から伸びた触脚で下から持ち上げている
やばい、 周囲を見渡す、 あった川に打ち捨てられた自転車とその中にリュック、 濡れては居るけどこの際問題ない
早めにこの場所から離れるべきか……
ふと蝶の様な虫が視界を横切って上流の方へ飛んでいく、 2匹、 3匹
違う虫から何やら、 蜂に小鳥、 皆同じ方向へ向かっていく
「ギャア、 ギャア!!」
鳴き声、 対岸俺の住む藍木の方だ、 猿型モンスターが何匹も対岸からこちらに向かって鳴いている
余り大きな声を出すな……
不意に何かが大きな影を作る、 見上げる、 さっきの幼虫の様なモンスターだ、 角度的に俺は見えていな様だが
この川の堤防のすぐ側まで来て居て対岸を見つめている
心臓がバクバク音を立てる
巨大幼虫は触脚を岸に向けた、 その触脚を
バシュンッ! バシュンッ!
打ち出す、 対岸だよく分からないけど猿型モンスターを突き刺して殺した? 捉えたのか?
騒いだからか、 はたまた獲物か、 見た目俺と猿型モンスターは二足歩行だしそんなに違いない
見つかれば俺も獲物だ
ゴゴゴゴッ
上に聳えるように佇む巨大幼虫、 その触脚が河川の中、 何かを探すように何本も降りてくる
俺か?
しかし違う、 それが探しているものは上流から来た、 虫が大量に飛び交うそれ
花トカゲの切り飛ばした花がどんぶらことゆっくり流れてくる、 蜜の匂いに誘われ虫たちの憩いの場所に早くもなっている
触脚はそれを目掛けて伸ばしている、 花が俺のすぐ側で引っかかって動きを止める
巨大幼虫も花の蜜が欲しいのか?
きらり
何かが光る
花の中できらりと光る宝石の様なもの、 あれは、 何だろう、 きっと巨大幼虫は蜜よりもこれを求めているのか?
俺には必要ない、 無いのに
触脚が伸びるよりも早く手を伸ばし、 きらり光るそれを掴み取る
見た事がある、 何か琥珀の様な硬い材質、 それを手に持ちながら歩きずらい地面を駆け抜ける
何やってんだ俺、 巨大幼虫は目が良くないのかこちらには気付かずまだ触脚を花に伸ばしている
自転車まで走ると起き上がらせる、 とてもこんな所では漕げないが、 最近の自転車はとても軽量だ、 持ち上げてえいさほいさと走る
簡素な階段を登ると堤防上の砂利道に出る、 道なんて最悪全部繋がってるんだ、 どっからでも行ける
琥珀の様な石をリュックに入れる、 着替えなんて後で良い
不意に後ろを見る
「あっ……」
明らかにこっちを見てる、 見えてないにしても音か、 匂いかやばい
自転車に跨り一気に漕ぎ出す、 走りずらい砂利道、 でも漕げ、 必死に漕げ!
「クァアアアア!!」
巨大幼虫は絶叫すると体を倒しよく見るあおむしの様にうねうねと向かってくる、 でもそんなに可愛くない
「やばいやばいって、 キモすぎだろ!!」
でかい巨体が足を素早く動かし近づいてくる、 有名なアニメ映画の巨大な虫、 あれみたいな
とんでもない突撃で巨大幼虫が迫る、 でももう砂利道も終わり、 そして交差するように舗装された道路が伸びている
この道もまたまっすぐ進めば駅前の方に続いている
減速を最小限に一気に道を曲がる、 砂利道のガタガタが無くなり、 漕ぎやすくなる
そこから立ち漕ぎに切りかえ全力で漕ぎ出す、 道に障害物は少ない
対して巨大幼虫は曲がるのが苦手なのか、 いきなりの方向転換に対応できず真っ直ぐ突っ込んでいく
良いぞこれで距離を離せる……
ゴゴゴゴッ
地響き…… これ地面を掘ってる音だ、 まさか……
ドガッァアアンッ!!
少し後ろで地面が膨張し弾けた、 ここまで潜ってきたのか
「卑怯だろ!!」
叫びつつも更に足に力を入れる、 死になくなかったら漕ぎ続けろ
街まで約10キロ!!
「うらあああ!!」
………………………………………………………
………………………………………………………………
自転車に乗ったのは何時ぶりだろう、 問題なく乗れた
自転車で藍木山の山道まで登っていく
「さっきの地響きと大きな音なんだったんでしょうね? 威鳴さん」
村宿冬夜は同じく自転車に乗り隣を走る威鳴千早季に声をかける
「さぁ、 何だろうね検討もつかないなぁ~」
やはり違和感を覚える、 昨日、 いやその前からも、 そうだが威鳴とは歳も近い為よく話した
何だか感じが違う、 こんなに落ち着いた性格の人だったろうか?
「それよりも冬夜君、 連携を取りやすくする為に聴きたいんだけど、 君の力について聞いても良いかな?」
この質問は二回目だ、 さっき聞かれたけど地響きがした事で話題は一旦中止された
そしてまた、 何だろう変な感じだ……
「俺も、 威鳴さんの能力知らないな、 どう説明したら良いかな、 威鳴さん先教えて下さいよ……」
そう言葉をかけてみる、 威鳴は一瞬考えて……
「おっと、 山道、 山道が見えてきたよ、 どっかその辺に自転車を止めようか」
と提案してくる、 明らかに話題を逸らした
藍木山は道の整備されて居ない箇所が多く自転車では進めないが、 ハイキングコースはある、 今回はその周辺の調査だ
自転車を止め先を歩く威鳴、 何だろうこの嫌な感じは
冬夜は蚊のなく程の小さな声でつぶやく
「マリー、 威鳴さんが怪しい、 警戒してくれ」
それでも水の少女は聞き逃さず警戒を始める
ピタリ、 前を歩く威鳴が足を止める
「冬夜君、 今何か言った?」
その顔は不気味な笑顔が張り付いている
「いいえ、 特には、 気のせいでは?」
冬夜は務めて平常な声を出す
「……そうか、 ところで……」
また前を見て歩き出す
「さっきの話何だけど……」
二人は藍木山の山道を行く、 互いにに警戒を怠らない
怪しい空気の中山には2人の足跡が確かに刻まれて行った……
威鳴千早季
所謂ストリート系と呼ばれる服装を好む、 大きめのパーカーだったり帽子だったり
チャラく見えるし実際チャラいけど凄く良いお兄さん
能力者であるが体はかなり動く方なので戦いの際に実際に能力に頼っている事は少なく
威鳴の能力を知っている人はかなり少ない