第三十七話…… 『作戦会議その2、 そしてその先へ』
この物語はフィクションです、 名前だとか場所だとかは実在する物とは全然関係ありません、 適当に考え付いたものをそれっぽく書いています、 一応同じ地名、 名前の有無を検索し確認はしていますが、 どうしても気になる部分があれば報告をしていただけると嬉しいです
会議は続く、 その後冬夜が更に雀公園での昨日の調査報告をして報告は終了
次に話すのはこれからの事だ
「……それではこれから本格的な藍木山の調査に向けての作戦について考えて行きたいと思います」
猿型の敵猿帝血族は南側にある、 町の人達が裏山と呼ぶ山、 藍木山を根城にしている
藍木山から猿型モンスターは溢れ町を跋扈している、 これが今わかっている情報である
「この度特別危険調査隊を発足した為藍木山への調査を行う事が可能になりました」
「藍木山は現在最重要奪還ポイントの一つであります、 これは藍木山から更に奥へと続く道を確保する為であり、 その道の先にある水力発電所のダム施設を復旧させたい為です」
シェルターから南に四キロ程進むと藍木山へと上っていく道があり、 その道を更に進んでいくと藍木ダムと言う水力発電所がある
街の復旧にはどうしても電気の復旧が必要不可欠である
「現在藍木山の中腹から山頂にかけて猿型モンスターがコロニーを形成していると思われます、 しかしその情報は推測であり目で見た確かな情報ではありません」
「今回はその調査を特別危険調査して欲しいと思っております」
土飼の話す次項に皆首を傾げる、 その中で奥能が代表となって声を上げる
「ちょっと待て、 その特別危険調査ってののメンバーはそこの明山日暮だろ? でも明山日暮はこれから街に遠征に行くってさっき言ったよな?」
「まさか一人にそこまでやれって言うのかよ?」
土飼は「いいえそうではありません」と首を横に振る
すると待ってましたとばかりに二人の人物が席を立つ
1人は冬夜だ、 もう1人は……
「まあ、 俺たちの出番って訳ね」
威鳴である
土飼は二人を見ると一度頷いから説明を行う
「威鳴君は知っての通り能力を持っている、 そして冬夜君もまた力を有しています」
「特別な力を持った者、 日暮君、 冬夜君、 威鳴君、 私はこの三人の力を惜しみなく借りようと思っています」
「つまりこの2人も特別危険調査隊のメンバーとして迎え入れる事が決定しております、 そして2人にはまず藍木山の調査に出向いてもらいたい」
冬夜は「分かりました、 全力で任務に当たります」と短く
威鳴は「了解です~、 さっきの日暮君の言葉じゃ無いけど敵をバシバシ殺して行きたいと思います!!」とした
2人とも既に覚悟は決まっている、 前進する覚悟、 先の景色を見る覚悟
力を持つ物とはこうなのかと土飼含め他のメンバー達は思った
「……すげぇなぁ、 俺は今を生き抜く事しか感がぇれねぇのによ、 この若造三人はこんな世界で未来を見てやがる」
奥能は無責任と知りつつも三人に期待せざるを得なかった
その後必要事項やその他諸々の確認をした
「……では今回の会議もここらで終わりにしようと思います」
「日暮君は街への遠征と調査、 隣接する街の現状や光の矢の正体を知る事は確実にこれから進む未来に役立つ、 期待している頑張ってくれ」
土飼から激励の言葉が送られる、 日暮は態度にこそ出ないもののまだ見ぬ景色にドキドキだった
「冬夜君、 威鳴君、 君たちには藍木山の調査を頼む、 この調査はこの先の未来へ進む為の絶対的な力に繋がる、 分かる通り危険地帯だ、 消して無理をするな、……」
「そして我々は期待している、 三人とも必ず帰って来てくれ、 ここは既に君達の帰る場所だ」
冬夜は身の引き締まる様な感覚で返事をする、 威鳴は相変わらず軽快な返事をした
「そして、 危険調査隊の諸君もまた共に未来を切り開き、 ここに帰って来る事を誓ってくれ」
他のメンバー達も力強く頷く
この激励は土飼が大切にしているものだ、 強い団結の力はなかなか崩れない
「では今日の会議は終了とする、 今日は各自明日に備え英気を養ってくれ」
危険調査は疲れを引き摺る程生存率が下がる、 効率を目指す仕事では無い、 そのため休養は多めに取れる様に設定している
3日に一度の会議、 その会議の後は半日程休みになる、 また明日から危険調査を行う為だ
皆ばらばらと立ち上がり会議室を後にして行く
半日間の自由時間だ、 シェルターの家族にあう、 限られた趣味をする、 体を動かす、 寝る、 なんでもすればいい
日暮は特にする事ねぇなぁ~と考えていると奥能が近づいてきた
「おい明山日暮、 ちょっといいか?」
日暮は奥能を見る、 先程と違いあまり圧は無い
「さっきは悪かったな、 妙な絡み方して」
奥能は謝罪をしてきた、 日暮もこれには謝るしかない
「いや、 こっちもごめんなさい、 何か最近すぐカッとなって良くないんだけど、 忠告無駄にはしないです」
死ぬ気は無い
その目を見て頷くと奥能は日暮の肩に手を置いた、 何だか大きな手だ
「うん、 頑張れよ、 それと何かあったらすぐ頼れ、 そっちの二人もだ」
話をしていた冬夜と威鳴にも声をかける
「三人とも、 さっきの土飼の激励程じゃねぇが、 俺はもうお前達に希望を感じちまった、 だが俺から言わせりゃ三人ともまだまだ若僧だ」
「何かあったらすぐ言え、 大人を頼れ…… それだけだ、 じゃあまたな」
それだけ伝えて会議室を後にしていった
「あのおっさん結構いい人だったなやっぱり」
他人を怒れる人は、 他人を気に掛けれる人だ、 そういった人はグループの中で大切な人物だ
時刻は11時、 会議は2時間程で終わり、 長かった
昼には少し早い様な……
「二人はこの後やる事決めてんの?」
質問したのは威鳴、 威鳴は27歳、 日暮や、 冬夜より6つ上だ
「俺は今回の会議の内容を纏めたら早めに昼食を取って、 その後はシェルターで家族と会ってきます」
冬夜はそういう、 相変わらず真面目な奴だ
「俺は決めてません、 散歩するか、 ダラダラするか…… 寝るか」
日暮は思いつかない、 休日の過ごし方聞かれた時と答えが全く同じだった
「ふ~ん、 成程ね、 俺も飯食ってトレーニングルームで体動かすかな~」
トレーニング……
「トレーニングは置いといて他に何かあるんです? その暇潰す場所」
う~ん、 と威鳴は悩んだ後
「図書館? シェルターにあるよ」
と言った、 シェルターか……
そこで冬夜の視線に気づく、 何だよ行かねぇぞ俺は……
「まあ良いや、 やっぱ飯食ってゴロゴロします、 じゃあまた」
適当な所で話を切り上げると逃げ出すように会議室を出る
呼び止められることも無く後ろからはため息だけが聞こえて来た
まだだ、 いずれ再開する、 でも今じゃない
家族にあってしまえば、 勿論何も変わらないかもしれない、 でも変わるかもしれないリスクはとても負えない
「ようやく楽しくなってきたんだ…… 明日に備えるか」
一旦寝床に戻っても誰も居ない、 そりゃそうか
布団に入る、 真昼から布団で寝る感覚は嫌いじゃない
「……流石に寝れないや」
そう思ったので自分の獲物に手を伸ばす、 寝転がりながら鞘を抜く
敵の骨が歪に絡みつき湾曲している、 刀身は美しい輝きを放つ
「刃こぼれひとつ無い、 このナタ自体も生きている見たいに回復してるのか」
年代物のナタだ、 それに最近はお世辞にも丁寧な扱いをしていたとは言えない程荒々しく扱っていた
刃こぼれだってあったと思う、 それが消えている、 俺自身の肉体もダメージを受けてもこのナタが吸い取ったエネルギーを変換して回復する
「1番怖いのはこれが突然出来なくなった時だよな、 感覚が傷を治すことに慣れちまってるから」
「初心に戻らなきゃ、 ダメージは極力負わない……」
暗低公狼狽との戦いで体をほぼダメにした、 皇乞始点宗が作り出した的に手首を切り飛ばされた
「……俺元来特攻してダメージ貰うタイプだったなゲームとかでも、 良くないな」
一人の空間で自分自身について考える、 日暮はこの時間を昔から大切にしていた
人と居るとその人の事ばかり気にしてしまう、 自分の事が気薄になるのは視覚的にも他人より自分の方が捉えずらいからだろう
しかし自分自身が資本だ、 大切なのはまず自分がここに居るということ、 そして次に自分が何をするかだ
自分を見失うと、 自分何をするのかも分からなくなる、 それは大きなミスに繋がる
日暮は座り込んでぼーっと壁を眺めつつ自分の事を考える、 それは一種の瞑想である
「……俺は何がしたかったんだっけ?」
「殺すのは楽しいけど、 殺し屋になりたい訳じゃない、 殺しは過程だ、 命をかけた戦いだから礼儀だ」
「俺がしたいのは戦いだ……」
考え事をしていると妙に眠くなる、 意識がぼーっとしてよく分からない事を考え出す
「戦って……、 最強になって……」
瞼が落ちる、 無意識のうちに首の力が抜け頭は下を向く
「………あの地へ………亜炎天へ……………」
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……………………………………
……………………
ガクンッ!
「はっ! 寝てない、 寝てないよ! 寝てたけど……」
船を漕いだ事で目を覚ます
「ん? 何処に行くって? 何か眠る前って意味わからん事考え出すよな」
まあいいや
立ち上がる、 時計を確認する、 11時30分前
「確か昼飯は45分ぐらいかは食えるんだっけ? ならそろそろ行くか」
歩くゆっくり歩く、 不意にプレハブ小屋の窓から外を覗く、 少し離れた場所に大きなドーム型のシェルターが一部見える
あそこに家族が居る、 一ヶ月あっていない家族が、 きっと今からでもあそこに向かえば家族は喜ぶだろう
でも向かう気にはならない、 俺は別に家族を嫌っていない、 いい人達だこんな事言ったこと無いけど結構好きだ
それでも想像出来る、 俺だけが喜べない
「やっぱ今じゃねぇな、 ……それにしてもお腹空いたな~」
食堂に着く、 やはり人はまばらだ、 昼には少し早いたらだ
食堂ではご飯を食べるだけじゃなくドリンクを飲んだりして落ち着く事も出来る
カウンターに行き忙しそうな料理のおばさんに話しかける
「すいません、 ココアください」
「ああ、 はいよ、 ちょっと待っててね」
そのやり取りの後1分程でココアが提供される
「おじさん達はココア飲まないからいっぱい有るんだよね、 沢山飲んでくれよ」
そう言うとまた忙しそうに料理を作りに戻る
マグカップを持つと適当な席を探す、 不意に一人と目が合う
細い縁のメガネをかけた少女菊野だ
雰囲気的に他の席に行きずらくなってしまったが別に良いだろう
「今朝ぶりだな~ 休暇時間?」
「日暮君今朝ぶり、 後今日は私達も休みだよ、 基本的にはね」
そう挨拶してマグカップを机に置くと席に座る
「へー、 因みに菊野達の仕事ってどんな事してるの?」
菊野は手を顎に当てると
「事務仕事かな」
と言う、 成程つまり縁下のなんたらな訳だ
「事務って大変そうだよね、 パソコンカタカタ…… あれ電気来てないのにパソコン? ……もしかして手作業?」
「……あはは、 そうだよ、 目も肩も痛くなっちゃうよね」
一日に何千文字も記入してファイリングして行く未来への投資だ
「助かってる訳だ、 大切な事をやって貰ってる」
ココアを飲みながら呟くと菊野は飲んでいるお茶を机に置いて真っ直ぐこっちを見た
「それはこっちのセリフだよ、 皆が戦ってくれてるから私達の生活はある、 これくらいの事はしなきゃ」
日暮は思う
「……助け合って、 支えあってるんだな世界がこんなでも、 かなり馬鹿にしてたけど人って結構上手くやってるよね」
相変わらず変な事ばかり言う人だと菊野は思った
「そういえば日暮君、 会議の内容はどうだった? 」
事務員る会議室の準備や、 お茶等を出したを会議中は行っている物の会議の内容を知れる訳では無い
その後事務員やその他の人またはシェルターの避難者に土飼だったり大望なりがそれぞれに代表として説明する場を設けている
「あ~ 内容ね、 まあ報告とこれからの事って感じか、 次のやる事も出来たし」
「へー、 まあいつも道理だね、 次って言うのは次の調査って事だよね?」
「そうそう、 遠征ってやつ……」
え?
「遠征? って少し遠くに行く調査だったよね、 この間冬夜君も行ってた……」
3キロ圏内だ、 すぐそこみたいな物だ……
「あぁ、 いや、 それとは違うよ、 行く所は隣街、 甘樹駅前の辺りかな?」
へ?
「……隣街? なっ、 何でそんな所に……」
え? へ?
「そもそもそんな所行っていいの? 危険だよ……」
「心配すんなよ、 許可は出てる、 大切な事だって、 まあ行くのは俺が行きたいからだけどな」
ほ、 本当に行く気だ、 本当の話なんだ、 隣街がどうなっているのかは分からない
分からない事と言うのはそれだけで恐怖を煽る
嫌だ……
「2人ともここ席良いかな?」
不意に声が聞こえる、 冬夜だ
「どうしかした? 暗い顔して?」
「……うん、 その日暮君の遠征の話を聞いて……」
(成程な…… 日暮の事だ説明もなくただ伝えただけだろうな、 しっかり伝えなくては……)
「詳しく話すよ、 でもその前に、 もうお昼受け取れるよ、 ほら」
冬夜が指さす方向にはカウンターに並んだ昼ごはんと数人の列がすでに出来ていた
三人で立ち上がり昼ごはんを受け取りに行く、 お昼のメニューはきゅうりとツナの和えたものとご飯味噌汁
トレーに乗せて席に着く
「こんな事言っちゃ悪いけど量少ないよね、 食えるだけ良いんだろうけどさ」
日暮の言葉に冬夜が反応する
「まあな、 基本的に物資はシェルターの避難者に提供される、 だからといって避難者一人一人が多く貰っている訳じゃない、 皆同じ位の塩梅に今の所落ち着いているけどな」
「そう言えば日暮は自分の家で何食って生活してたんだよ?」
そう言えば聞いてなかったなと冬夜
「あ~ パスタかご飯、 あと実家で取れたじゃがいもが沢山あったしその他野菜も、 キャンプ用にガスは買ってあったからな」
「一人ならどうとでもなる物………」
バン!
小さく机を叩く音が聴こえる、 少し膨れた顔の菊野がこちらを見ていた
「……説明は?」
短い言葉なのに妙に圧がある、 男二人顔を見合わせるも苦笑いしか出なかった
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「え? じゃあ冬夜君もその特別危険調査隊のメンバーで、 二人して遠くに言っちゃうって事?」
不安そうな顔をする菊野、 焦ったように冬夜は補足する
「心配しないで遠くって程じゃない、 それに俺はすぐそこの藍木山に行くだけで……」
「藍木山って敵の根城じゃん、 それくらい知ってる心配だよ、 それにこんな世界で隣街は十分遠いし……」
「やっと再開出来たのに……」
菊野の消え入りそうな声、 困った事に日暮はそういった物を解決する事はしたことが無い
冬夜の方を見る
(……おい冬夜何とかしろ)
と視線を送ってみる
冬夜は少し考えて……
「日暮、 言いたいことがあるなら自分の口で言ったらどうだ」
と振ってくる、 おい!
「菊野俺たちは別に死にに行く訳じゃない、 その逆、 生きる為に向かうんだ……」
「……それ何が違うの?」
日暮は何が言おうと思ったけど思いつかない
「危険な場所に行くんでしょ? 死んじゃうかもしれないんでしょ? それがどれだけ意味のある事で未来の為だって言われても……」
「死んじゃったら、 もう会うことも出来ないんだよ…… そんなの私嫌だよ、 私二人には行って欲しくない……」
やばい、 なんて返せばいいか分からない……
「……でも2人は行っちゃう、 そういう人達だから……」
「本当は嫌だけど、 私二人の事知ってるつもりだから、 止められない、 2人はいつもどんどん進んで行っちゃう」
「多分、 止まれないんだよね……」
…………………………………
菊野和沙は中学1年生の時この地に来た
理由は親の転勤、 本当にそんな事あるのかと思ったが、 慣れない土地に環境の変化、 昔からの友人とも日に日に連絡を取らなくなり
辛かった、 1年の時のクラスは何とも言えない、 昔からの友人として結束のあるだろう同級達に何処か壁を感じて
友達は少なく、 少し会話する程度で、 何も感じないまま一年を過ごした……
2年のクラスは少し変わっていた、 皆が皆何処か壁を感じているような雰囲気で、 休み時間は他クラスに行く子が多く静か
聞くところによると仲のいい人とクラスが別になってしまった、 偶然なのか何なのか、 そういった生徒が多く集まったクラスらしい
私としては距離が少ない分居心地は良かった
そのままクラスの人と話したり、 話さなかったり、 そのまま数ヶ月が経ってある日……
「……皆席替えをするぞ、 因みに今度の登山宿泊旅行の際のハイキングコースと飯盒炊飯は今回の席替えの班で行ってもらうぞ」
「それじゃ行っていくが、 その前に先ずは視力の問題で前の席がいい人は手を挙げて」
私は昔から眼鏡をかけている、 視力はあまり良くないので手を挙げる、 私の他に2人ほど挙げた
「こっちの箱に予め前の席の番号を入れたから引いてくれ」
三人で適当に引くと番号を元に教師が黒板にそれを記入して行く
私達が席に戻ると名簿番号順にくじ引きが始まった
「……26番、 日暮は26番」
一番の明山日暮が私の隣の席に決まった
「壁際か、 悪くないな……」
そういった彼は隣が誰かなんてどうでも良さそうだった
暫く進んで
「……冬夜は22だな」
私の後ろだ……
皆引き終わると一斉に席を変える、 隣の席の明山君は斜め後ろを向く、 私の後ろだ
「よぉ、 冬夜、 やったな」
声をかけられた私の後ろの席の村宿君
「まぁな、 何となく分かるんだよ、 こういうの」
と言ってから
「菊野さん、 彩瀬さん、 もよろしくね」
と声をかける、 本来5人班だがもう一人はずっと学校には来ていなかった
ともかくこの班になった事がきっかけで私の中学校の残り二年間弱は楽しいものとなった
…………………………………
「……二人はあのハイキングの時だって行っちゃいけないルートにズカズカ入って行って先生に怒られたし、 私は置いて行かれて……」
私はいいって言ったのに、 二人に迷いは無かった……
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「なあ、 冬夜どう思う? さっきの場所から落としたならあっちの方に落ちてんじゃね?」
「有り得るな、 ちょうど下って感じだ」
ズカズカ薮の中に入っていく2人
「ねぇ! 2人とももう本当に良いから、 危ないよ!」
明山君がこっちを向く
「可能性はある、 落とした帽子は大切な物なんだろ、 菊野はそこで待ってろ」
地元の友達とお揃いで買った帽子を登山中に落とした、 かなりショックを受けた
諦めるしかない普通は、 でも2人は違った
「菊野さん安心して、 すぐ戻ってくるから」
この日元々4人しか居ないうちの班のもう一人、 彩瀬さんは風の為欠席だった、 私は薮の中に見えなくなった2人をただ待った
自分が落としたから、 先生に怒られる、 2人が怪我するかも
色んな事を考えて不安になって待った
十分程たった頃か、 薮が揺れて2人が姿を現した
「危なかったわ、 イノシシ突進神回避したわ、 俺ローリングとか初めてやったかも」
「クダバスやっといて良かったな、 突撃要塞ボーンバフと動きほぼ一緒だったじゃん」
何の話してるのか、 不安でいっぱいだった私には全然分からなかった、 でも手に持っているそれは……
「あっと、 そうだ、 ほら菊野、 帽子あったぜ」
そう言って帽子を私に渡す、 私は唖然として固まった
「……え? 確かそれだよね? 違ったっけ? 俺間違えた?」
明山君の言葉でハッとする、 そして改めて気づく
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「……和沙ちゃん、 お揃い!」
……………………
無くしたと思った物が一度手を離れて、 戻ってきて実感する、 無くなってない確かにそこにある
涙が頬をつたう、 2人を見る
「なっ、 なななっ、 泣くなよ、 何? お腹でも痛い?」
「……日暮焦るな、 こんな時は彼女の気持ちが落ち着くまで待つんだ…… 多分……」
あわあわしだす男士二人に今度は笑いが溢れる
「ふふっ、 2人とも焦りすぎ、 これはただ、 嬉しくて……」
「2人とも、 ありがとう!」
涙で晴れた目なのに笑顔になる
2人はそれを見てハイタッチ、 ああ、 私この2人と過ごすの好きだ
その後何事も無い事を装って集合場所に着くも他の班に目撃されたり、 2人とも汚れまみれだったりですぐにばれて
私も同罪で3人で怒られた
飯盒炊飯も馬鹿やってる2人と作ると私料理出来る方だった筈なのに、 下手になったみたい
笑いすぎて鍋焦がして、 失敗したのにそれが面白くて
今一緒に過ごす2人と居たら、 地元のあの子と話したくなって、 家に帰ってから久しぶりに電話した
あの2人のおかげ、 どんどん前に進んで、 私を不安にさせるのに
私はどうしようもなく期待してしまう、 帽子を握っていたあの手の様に
だから…………………………………
………………………………………
………………………
「不安なのに、 行って欲しくないのに……、 私2人には期待しちゃう、 これから2人が進んでいく道の先に何があるのか……」
「……私、 ここで待つから、 あの時みたいに待つから」
「だから、 その手で未来を、 希望を、 光を掴んできて……」
言葉が、 言いたくないのに、 この2人と居ると言葉がぽつり、 ぽつりと溢れ出て
涙まで出てきたのに、 笑顔になっちゃう
2人は顔を見合わせると、 口角を上げる
「こんな事言われたら簡単にはくたばれないな、 日暮、 まじで俺達で人類の希望になろうぜ!」
「はなから死ぬ気なんざ無いって、 でも帰る場所あった方が良いよね、 野宿はキツいし」
軽口を叩いて2人はハイタッチをした、 ああ前に進むんだ、 2人は……
でも私は2人を追いかけないよ、 私には私の道があるし、 そっちには進めない
それでもいい、 2人がくれた希望は私の心をいつだって温めるから、 勇気をくれるから
「帰ってきてね!」
私の言葉に2人は堂々と首を縦に振った
………………………………………
……………………
こんな世界でも時間は進んで、 みんな進んで、 太陽は登って落ちて、 夜になってまた登る
時間が経てば状況も変わる、 気分も変わる
作戦室にも朝が来た
私はぼーとする頭を抱え、 身支度を済ませ、 少し涼しい朝の空気を体全身に浴びる
そこには既に幾人かの人が集まっていた
「荷物は持ったか? 忘れもんないか?」
「土飼のおっさん、 しつこいな、 あんたは心配性の親か」
明山君が数人に囲まれている、 私もそこに近づく
「おはよう明山君、 ほんとにこんな早くから出ていくんだね」
朝の気持ちのいい風が私の髪を揺らす
明山君がこっちを見る
「よう菊野、 おはよう、 まあな道中どうなってるか分からんし早めに出た方が良いだろ?」
彼の顔に悲愴も曇りも無い、 今朝の空みたいに清々しい、 彼は期待しているんだこれから待ち受ける未知に
だからこれはほんのおまじない
「日暮君、 これミサンガ、 その…… 編んだの、 うっ、 受け取って?」
何で、 人に物を渡すだけなのにこんなに緊張するんだ
「おっ、 ありがとう菊野、 俺初めて貰ったわ、 付けたことないしな」
「……そうなの? じゃあ結んであげるね」
自分で言っといて手が震える、 彼に近づいて、 差し出された腕に結ぶ
結ぶのってこんなに難しかったっけ、 自分のは簡単だったのに
私の腕にもお揃いのものを結んでいる、 我ながら少し大胆か
何とか結び終えると1歩後ろに下がる、 日暮君は着け心地を確かめる用に腕を上げたり下げたりしている
「うん、 良いな、 まじでサンキューな菊野」
「うん、 どういたしまして……」
長くつけていて欲しい、 でも願いが早く叶っても欲しい
「ったくやるじゃねぇか日暮ぇ!!」
確か調査隊の奥能さんに背中をバシバシ叩かれる明山君
誰の顔にも影は出来ていない、 だから私も不安という心の影は今は表に出さない
「わりぃ日暮! 遅くなった!」
冬夜がかけてくる
「マリーが機嫌悪くするから遅くなったよ」
「ちょっと冬夜! 私のせいにするつもり?」
冬夜とその隣に浮かぶ水の少女、 昨日初めてみた時はビックリしたけど2人とも嬉しそうだ
「日暮ぇ、 準備出来たぜ! これが街までの移動手段だ!」
バーン!! といった感じて奥能は手を広げる、 そこには……
「チャリ? チャリかよ!!」
自転車だ、 スポーツタイプよりだが便利にもカゴが着いている
「あ? 文句言うな、 まさか歩いて行く訳じゃあるまいし、 はえーぞ」
「そういう事じゃ無いけど…… まあ静かだし、 風を切るのも好きだ、 良いぜ気に入った」
日暮は早速サドルに跨り高さを調整する
あっという間に準備完了、 未練もなしにリュックを背負うとヘルメットを装着する
「日暮ぇ、 派手に暴れて来い!」
「日暮君、 無茶だけはしないでくれ、 健闘を祈る」
奥能さんと、 土飼さんが声をかける
「日暮! 俺と威鳴さんも昼頃には出発する、 お前馬鹿は程々にしろよ、 そしてまたここで会おうぜ」
「明山日暮、 あんたの事は今でも気に食わないけど、 冬夜が悲しむ様な事になったら例え死んでても殺しに行くから」
冬夜と水の少女が声をかける、 日暮は軽口を言い合い冬夜とハイタッチをする
水の少女にも手をヒラヒラして返していた
皆気持ちを伝えている、 なら私が言う言葉は……
「明山君!」
日暮がこっちを見る、 私が伝える言葉は……
「いってらっしゃい!」
なるたけ笑顔で伝えたい、 じゃなきゃまた涙が出ちゃうから
そんな私を日暮君は真っ直ぐ見つめて、 手を挙げて……
「行ってきます!」
彼はペダルの位置を調整し、 一気に力強く漕ぎ出した
皆が手を振る、 彼はもう振り返らない
門をくぐって敷地の外へと飛び出していく、 その様は解き放たれた蝶の様に軽やかで、 鳥のように自由に羽ばたいて
あれが明山日暮だ……
進む道は違う、 でも私も止まらないよ、 私が信じてる道をどんどん進むから
「……よーし、 きょうも張り切って仕事…… ちょっとぼーとしようかな」
皆がプレハブ小屋へと入っていく
私も、 大きく背伸びをして、 深呼吸をしてから私達の作戦室へと歩き出した……
……………
………………………………
…………………………………………………
…………
…………………………
日陰になっている薄暗い建物裏、 冷たく冷えた土を液体が赤く染めていく
倒れた1人の人物を見下ろす人物が居た
「……今度はお前の肉体を借りるとするかな、 へっへへ、 へははは……」
次の瞬間倒れていた人物の肉体は姿を消す、 そこには初めから1人だけだったような不気味な静けさが立ち込める
「……楽しみだなぁ、 どうすっかなぁ……」
その人物はそう呟くとのろのろと歩き出した、 その静かな空間には既に
小さく目を出した葉っぱが弱々しく生えて居るのみだった…………
今更ファッションショー、 村宿冬夜
冬夜は陽キャ属性を持っているので流行りやトレンドを意識つつ自分の好みの服を選ぶタイプ
筆者は陰キャなのでオシャレさんがどう言った服を着るか知らんが
オシャレっぽい服を思い浮かべて下さい、 それが冬夜の服装です
(嘘です、 頑張って考えてみます!)
終わり