第三十六話…… 『作戦会議』
ちゅんちゅん、 ちゅんちゅん
小鳥たちの鳴き声で目を覚ます、 朝日が登った、 午前6時30分頃私は目を覚ます
ぼーとして思い出す、 夢じゃないのか、 やっぱり現実なのかと
早速毎朝のルーティンだ
その後身支度を済ませ7時に朝食、 食堂には既に数人の人がご飯を食べたり、趣向品を嗜んだりしていた
食堂は広めの空間で机と椅子が幾つか並んでおりどこに座るかは自由
今日の朝食は、 鯖の水煮とモヤシの和え物、キュウリの漬物、 豆腐の味噌汁、 そして白米だ
私は窓際の空いている席に座る、 斜め前のおじさんが物凄い速度で朝食を平らげるが何処か物足りなさそうにも見える、 私からしたら十分だが働き盛りの男性からしたら物足りないのかも
朝食を食べていると 向いに同僚の女性が座る、 彼女は朝だと言うのに明るい声で話しかけてくる
「和沙ちゃんおはよう、 昨日は良く眠れた?」
菊野和沙21歳、 細い縁の眼鏡が似合う…… と思われていると良いな~と思う、 そんな私の事だ
「おはようございます朝乃さん、 ……普通に眠れましたけど昨日って何かありましたっけ?」
向かいに座る女性、 綿縞朝乃さん、 年は知らないが優しくて笑顔が似合う少し年上のお姉さんだ
「あれ? 和沙ちゃん知らない? 昨日若い男子2人が危険調査から帰らなかったって、 ほら冬夜君と、 後最近来た日暮君だっけ?」
「冬夜君何か女性陣に人気だし心配で眠れないって皆…… あっ、 噂をすれば……」
食堂に男子が二人入ってくる、 1人は慣れた様子でご飯を受け取っている、 もう1人は様子を見ながらといった感じだ
私はすぐに2人から目を離し朝乃さんに質問する
「と言うか心配で寝れなかったのか? って質問ですか、 私は早くても10時までは寝ないので彼らが無事帰ってきたって報告を受けてから眠りましたよ」
勿論帰還報告の有無等関係なく寝たい時に何の心配もなく寝れる自信があるがその事は言わない
「帰ってきたって報告は勿論聴いてから寝たよ? でも怪我とかあったらって心配で…… 寝不足気味……」
相変わらず朝乃はお人好しだ、 人から好かれるのも分かる
そう思っている内に男子2人が朝食を持ってすぐ隣のテーブルに座る
朝乃は横目で2人を確認したあとひそひそ気味になった声で
「2人とも無事みたいだね…… 良かった」
と言った
私も横目で2人を見る、 明山日暮、 村宿冬夜、 実は私からしたら2人は見知った顔だ
「和沙ちゃん、 確か冬夜君とは同い歳だったよね? 日暮君とも?」
まさに今考えていた事を質問されて少し驚く
「えっ、 あぁそうですね、 同級ですよ、 って言うか同じクラスでしたね最後は」
「ふ~ん、 じゃあ仲良かったんだ?」
朝乃は少しにやりとした顔で聴いてくる
「……そんな事ありませんよ、 ただのクラスメイトです、 普通でしたよ普通」
朝乃は「成程……」と短く呟き小さく頷く、 正直どう受け取ったのかは不明だ
その話は続かず朝乃は新たな話題を繰り出す
「そう言えば今日は戦略会議だからまた会議室に配膳しなきゃ、 世界がこんなでもやる事は変わらないのって、 よく考えると変な感じよね……」
そう話す朝乃、 彼女の言う通り世界が一変しても私達の仕事は事務作業で電気の乏しい環境での事務作業は全て手作業
ただでさえ忙しいのだ茶くらい自分で入れろと思ってしまうが
「まあ彼等が戦ってくれるから私達はこうして今までと余り変わらない生活を続けて居られるんだけどね、 本当は自分の身は自分で守らなきゃ行けないんだけど」
「戦えなんて言われても無理だしね」
それはそうだと思った、 ついこの間まで私は何処にでもいる大学生、 夢は図書館の司書か古本屋の店員
本が好きで、 あの静かな空間をいつか私の世界にしたい、 そんな事を思っていた
「まあ弱音ばっかり吐いてても仕方ないからね、 今日も頑張ろうね和沙ちゃん!」
そう言うと朝乃は立ち上がる、 見ると食事はキュウリの漬物を残し食べ終わっている
「これキュウリあげるわ、 私今ダイエット中だから、 じゃあまた後でね」
そう言ってキュウリの入った小鉢を私の前に置いて行く、 朝乃はああ言ったがきっと自分より若い私に気を使って譲ってくれたのだろう
真相は不明だが凄く嬉しい、 しかし同時に申し訳なくなる、 と言うのも……
「私もう苦しいんだよな、 おなかいっぱい」
元来少食の私の目の前には朝乃から貰ったキュウリの漬物とは別に自分用のキュウリの漬物も手をつけずじまいで置かれている
「どうしよう、 食べ切れないよ……」
ふと隣を見る、 男子二人は私の後に朝食を食べ始めたにも関わらず既にあらかた食べ終わっている
(……男子からしたら少ないのかな?)
自分の机を見る、 手付かずのキュウリの漬物の小鉢が2つ
(せっかくのご飯残す訳にはいかない、 ちょうど2つで2人に食べてもらえばちょうど良い…… けど……)
それには話しかけなくては
この二人とはクラスの男子の中でも話をする方だった、 村宿冬夜の方は言わずもがな誰にでもフレンドリーで話しやすかった
明山日暮の方は何とも言えないけど不思議と話をしていても緊張しなかった
緊張……
(緊張するな、 男子にいきなり話しかけるの……)
私が躊躇する理由はそんなありふれた理由からだった
時間を確認する、 時刻は8時前もたもたはして居られない
この後は仕事がある
急かされる、 自分自身に急かされる
緊張はするが昔の自分よりよっぽど良い、 昔の私は
「仕方ない行くか……」
そう言って2つの小鉢を手に持ち立ち上がる
決心が着く、 昔の私ならあと一時間悶々としていても立ち上がれなかった、 少しは他人に対して度胸が着いたのは昔より大人になったからだと思う
すぐ隣の席まで向かっていくと先に冬夜がこちらを向いた
「ん? おはよう、 菊野さんどうかした?」
人当たりのいい声と目が向けられる、 朝乃といい冬夜といい何故に朝からこんなにもしっかりしているのか
私なら朝は基本的に、 ぼーっとしているのに
「あぁ、 村宿君おはよう、 あと明山君も…… 」
おはようか? その前に久しぶりか? いやそれより……
「こっ、 これ食べ切れないから良かったら食べて!」
2つの小鉢を机に置く、 ダメだテンパってる
2人の顔を見る、 冬夜は驚きと嬉しさを表現したような顔をしている
日暮は、 表情の無い顔でコチラを見上げる
(え? 何だろう…… もしかして私の事分からない?)
少し胸が痛い、 別に特別な何かなんて無いけど、 他の女子ならまだしも私の事忘れるはずないでしょ……
? と言う空気を感じてか冬夜が日暮に話しかける
「おい日暮、 無視は無いだろ、 おはよう、 久しぶり、 ありがとう、 きっちり挨拶はしろよ」
日暮は手を顔に当て「あぁぁ……」
と唸る
その後更にあくびをした後ようやく口を開く
「わりぃ、 めっちゃぼーっとしてたわ、 俺朝はぼーっとしてないと…… っとそうだった」
日暮の言葉に内心 (分かるな~)と思いながら次の言葉を待つ
「おはよう、 久しぶりだな菊野、 あ、 あとありがとー」
全部を一気に言い終わると私が持ってきたきゅうりの漬物に手を伸ばす
少し心が温かい、 このマイペースさも懐かしい
「うんどうぞ、 ……あ~、 そのこんな事言うのも変だけど、 ……明山君生きてたんだね、 その凄く良かった……」
私何言ってんだろ
「何回も死にそうになったけどな、 んでもそう簡単に死なねぇよ、 あ、 良かったら座れよ」
彼も平気そうに何を言っているのか
時間を確認する、 まだ余裕があるか……
私はさっきまで座っていた椅子を2人の座るテーブルにくっつける
椅子に腰をかけ終わるタイミングを見て冬夜が口を開く
「こいつまじで変わってると言うか、 変わってないと言うか、 こんな世界でも図太く生きてたよ、 まあ俺も普通に嬉しかったぜ」
何となく分かる、 明山日暮ならそうだろう
「私も嬉しいよ、 その…… まだ会えてない人も結構居るし……」
不安だ、 シェルターの中で再開した友人、 知人、 そして未だ行方の分からないこれまた友人、 知人、 皆どうしているのか
一昨日の夕方頃明山日暮がこの作戦室の一員として来た話は聞いていた、 しかし昨日は早い時間から出かけ帰ってきたのは夜
まともに話すのも、 それで安心するのも今が初めてだ
「そう言えば噂で聴いたんだけど、 日暮君シェルターには行ってないんだって? 家族に会わなくていいの?」
なんて事ない事を聴いたつもりだった
村宿君はギョッとした目で見てきた、 明山君は静かに箸を置いた
「行ってないよシェルターには、 勿論家族にも会ってない、 理由はあるにはあるけど気にしないでくれ……」
少し声のトーンが下がった聴いちゃ行けない事だったかな? 確かに家族に会いに行かないのは変だけど
私は (そうなんだ……)としか思わないのに
「そうなんだ、 まあ理由は色々だよね、 私もシェルターは居心地悪くてね、 毎日家族の顔見に行くんだけど皆苦しそうで私も苦しいし」
あぁ何故だろう、 中学の時もそうだった、 この二人と話していると次から次に言葉がポロポロとこぼれてしまう
そんな私を2人は顔を見合せて苦笑いした
日暮は言う
「そうだったな、 こっちの事情とか対して気にしない奴だったな、 冬夜と違って」
冬夜は返す
「はい? 日暮君や何でそんな嫌味な言い方しか出来ないかな? 言っとくけど常識的におかしいのはお前の方だからな? これは絶対にそう」
それを見て私は笑う
「はははっ、 二人とも全然変わらないね、 それにその言い方私まで嫌な奴みたいじゃん」
懐かしい、 紡がれた絆は時が経っても確かに変わらないんだ
その後20分程3人で話した
日暮は現在の外の世界の話
冬夜は昨日起こった戦いの話
私はシェルターと作戦室での話を
「あっ、 そうだ今日はこの後9時から作戦会議だから忘れない様にね」
私がそう言うと明山君は明らかにめんどくさいと言う顔をする、 予想どうりだ
「成程じゃあ昨日の報告も今日の会議でまとめて報告するんだろうな、 それと日暮の正式な調査隊への入隊もここで行うだろうな」
危険調査隊、 その仕事は文字道り危険なのだ、 実際に帰ってこなかった人も居る、 この2人もそんな調査隊のメンバーだと思うと胸が痛い
「めんどくせぇ」、 「しっかり報告しろよ」
そんな風に言い合う2人に悲壮感は無い、 最前線で立ち向かう人だ、 力強さを感じる
凄いな……
「私はここで帰りを待つしか出来ない……」
あぁまた、 ポツリと言葉が溢れてしまう
2人はどう思うかな、 村宿君は優しい言葉をかけてくれるかも、 明山君はどうかな……
「別にそれでいいんじゃねぇの? 帰りを待っててくれる人が居るってことは、 その人がいる限り自分には帰る場所があるって感じるんだから」
「帰ろうって強く思えるなら簡単には負けないだろ、 それは力になるよ」
え? 優しい言葉が来た、 言ったのは明山日暮だ
「日暮…… お前もそんな事思うんだな」
と冬夜が言う、 私も言おうとしたけど言葉より目頭が熱くなり、 涙が出てきた
「明山君って昔から偶に凄く優しいよね……」
偶に、 偶に凄く優しくて嫌になっちゃう
「いっ、 いやそうゆんじゃねぇから、 ほら冬とか皆出掛けてて帰ったら暖房ついてませんでしたってなると嫌になるだろ?」
「ああゆうのだから、 帰ってきて家暖かい方が良いよね見たいな意味だから」
早口でよく分からない例えをする彼は何処にでもいる普通の人にも見える
「うんうん、 そうだよな日暮、 それが家族の温かみだぞ、 大切なのはそれだ日暮君や」
突然変な口調で日暮にちょっかいかけ始める冬夜、 仲が良い
「……私ずっとここで待つから、二人の帰り、 だから何事もなく無事に帰ってきてね」
言ってしまう、 こんな言葉を言ってしまう
「うん、 ありがとう菊野さん、 どこに行っても必ず帰って…… あっ」
言葉の途切れた冬夜の方を見ると水が浮いている
「冬夜、 さっきから何デレデレしてるのよ」
水が声を発する、 え? どういう事
日暮の方を見ると同じく冬夜を見て苦笑いを浮かべている
「べっ、 別にそんな事ないから怒るなよ、 あぁ、 2人とも俺先行くから、 日暮遅刻するなよ!!」
そう言って食器を重ね焦ったように足早に食堂を後にした冬夜、 嵐のようにあっという間だった
「え? どういう事? ……まあ良いや、 私達も片付けて行かなきゃだね」
そう日暮に言う、 日暮は頷いて食器を重ね返却口に返すと共に会議室へと向かった……
……………………………………………………………
あぁ、 薄暗い
薄暗い空間で足元に気をつけて歩く
不自然に光る小さな光が幾つかあるが空間を照らす事になんの役にもたっていない
「おい……、 お前ら居るのか?」
その質問に答えるものは居ない、 あぁまたか私はこの時間がとても嫌いだった
またなのかといつも思う
ぼぅ!
不意にロウソクがつき少し部屋の輪郭を捉える
黒いフードを被った何者かとほか数人が既にこの部屋にいた
フードを被った者が口を開く
「遅かったな土飼殿よ…… 他の者は皆集まっている、 早速始めようでは無いか、 我らの行く末を決める作戦会議を」
くぐもった声だ、 私は震える手を固く握る
「あぁ、 始めよう、 だがその前に……」
私は知り尽くした部屋の壁まで早歩きで進む、 そこには光を遮断する布、 つまりカーテンがかかっている
そのカーテンを掴むと勢いよく開け放つ
「貴様ら!! 限りない備品であるロウソクをこんな下らない事の為に使うなと何度言わせる気だ!!」
部屋中に怒鳴り声と強い陽の光が一気に差し込む
「うわっ、 眩し!?」
そう言うのはフードを被った若者、 差し込む日差しに目を細めている
「眩しいじゃない!! 何故会議の度に色々とめんどくさい仕掛けをするんだお前らは!!」
そう怒鳴る私は危険調査隊の実質的隊長を任されている、 元市役所職員の土飼笹尾だ
私の前には並べられた長机とセットで置かれたパイプ椅子に腰掛ける十数人の男女が居た
その中のフードを被った男がそのフードを頭から外し顔を見せる
「いやだって作戦会議ですよ? 作戦会議って言ったら暗い部屋と少しの明かり、 くぐもった声で会話する数人の男女でしょうが?」
ヘラヘラとした顔でそう言う男、 いつもの事だ
「全く、 アニメや漫画の見すぎだ、 遊びじゃないんだぞ威鳴君」
フードをとった人物の名は威鳴千早季27歳、 危険調査隊のメンバーのひとりだ
彼はこちらの言葉をまともに聞く気は無いと言った感じで手をヒラヒラとやった
不真面目な態度をとる男だが戦闘において彼の実力は確かなものだった
(はぁぁ……)
内心ため息をついて切り替える
「では皆揃っているようだし作戦会議を始めようと思う、 先ずは皆もう知っているだろうが新人を紹介したい」
危険調査隊の新メンバー、 早々に一悶着あった彼、 冬夜君と共に昨日任務に出かけ帰り時間が遅くなりこの私を散々心配させた彼だ
彼の方を見る、 彼はのっそりと立ち上がると私の指示に従い前に出た
「危険調査に勇気を持って参加してくれる新たな戦友、 明山日暮君だ、 いろいろと噂がたっているだろうが私は彼を信用している」
共に戦うのだ大切なのは信用だ
「では自己紹介をしてくれ日暮君」
私がそう促すと、 彼は大きく口を開いた
「はぁ~ わぁ~ ぁぁ」
大きく口を開きあくびをした、 もう一度言おう大切なのは信用だ、 そしてその信用とは何処まで言っても社会的な信用だ
会議の最中にあくびをするなどありえないだろう
しかし……
「あぁ…… すんません部屋が暗かった物で、 明山日暮です、 歳は21、 皆さんよろしくお願いします」
やる気の無さそうに頭を下げる日暮
その姿に眉を顰める者もいた
「おい兄ちゃん、 覇気がねぇなぁ、 本当に大丈夫か? そんなんじゃてめぇ…… 死ぬぜ?」
席の後ろの方にどかりと座る体格のいいおっさんが圧をかけながら話しかける
周りに腰掛ける他の人も眼力を強め頷き同調する
めんどくせぇ……
「忠告どうもありがとう、 俺も死なねぇ様に全力で生きてるつもりだよ」
そう言っておっさんを睨みつける
「なってねぇなぁ、 どんな奴かと思っていたら、 おい土飼、 信用だぁ? こいつを? 無理だろ、 こいつ全然なってねぇ」
そういうおっさんは席を立ちこちらへ向かって来る、 目を合わせて威圧するように
不思議だ何故それだけで気圧される様に感じるのか、 少し前の社会人として仕事してた頃の自分ならきっと一歩退いていただろう
グイッ! っと逆にこちらから近づく、 目もそらさない
浅い、 おっさんのその目は浅い、 その圧も仮初の物だ、 経験は社会で培われた物だ、 その目は威圧しているが、 ただそれだけだ……
目を細め睨みつける、 その目に籠るのは殺意、 殺意とは意識して出すものでは無い、 無意識に出るものだ
殺すと本能が、 理性が考える前に決めているのだ、 だから睨みつける目に、 オーラに無意識的に殺意は宿る
明山日暮、 上位者を一度下している、 乗り越えたものの見る景色、 その目には映る、 まだ見ぬ前進のその先の光景
余りに大きく強大な世界の光景、 踏み出して間もない物には余りにリアルで鮮烈な刺激、 それが彼のオーラとして既に染み付いている
彼の目の前のおっさん、 名を奥能谷弦、 歳は52、 職業は建設業、 ガラの悪い若者も彼にはついて行く、 そんな大きな存在だと評価されていた
大きい物は気圧されない、 前進あるのみ……
彼はこの時初めて……
「あぁ……」
自分から後退した、 そして最近危険調査でよく感じる、 死の匂いを初めて人から感じた
「二人共そこまでだ、 我々は敵同士では無い」
その声はやはり響く、 土飼の声だ
「奥能さん、 最近の子は皆こうですよ? 始まる前は皆眠たげでそれでも始めればやる気に溢れるんです」
「あと日暮君も、 人間関係は大事にしなさい、 前も言ったが人の社会は現存している、 節度を持って生活するべきだ」
土飼は少し大袈裟な言い方とよく通る声で話しかける、 得意の演説だ
「……おい土飼、 一応てめぇが俺たちのリーダーだ、 てめぇが信用しろってんならするさ」
「だがこの若者が俺らに牙向けた時は責任もっててめぇが何とかしろよ」
そう言って自分の席へ戻る奥能、 静まり返った会議室、 その空気を変えようと土飼は会議を進行させる
「自己紹介ありがとう日暮君、 席に戻ってくれ」
日暮が席に戻ると隣に座る冬夜に小声で何か言われているようだった、 説教でも受けているのか、 面倒くさそうな日暮の顔に先程の威圧感は無い
(ふぅ……)と内心深呼吸する、 日暮のトリガーが分からない、 凡そ人の感性を振り切っているようにも思うからだ……
「ではいつも道理南区から時計回りで報告してくれ」
危険調査隊の構成メンバーは加入したばかりの日暮君を除けば十七人
調査範囲をシェルターから半径3キロ圏内、 東西南北を大まかに4区画、 一区画 4人編成プラス一人で必要に応じ人数を調整して調査を行っている
変わり行く状況を鑑みて現在3日に一度のペースで報告の為に会議を開いている
因みに3日前土飼は日暮の家がある北西方面に遠征をしていた為会議に出席していない
南区の代表の男が立ち上がる
「南区は以前変わりなく、 避難者の必要必需品を家まで取りに行くなどの依頼を行っておりました、 特段報告する事もありません」
平坦な声で伝えられる報告に頷く、 南区は山へと向かって行く方向であり、 件の猿型モンスターはこの山を根城にしている
その為危険を考慮し南区の調査範囲は半径一キロほど先までと狭く限定している
それに比例して他区に較べ内容が無いが、 何も無いに越したことは無いだろう
次に東区の代表が席を立つ
「東区も同じ様な内容です、 ただ例の光の矢のようなものを再度確認しました、 この間土飼さんが遠征に出ていた頃ですね、 やはり更に東の街の方から飛んで来ているようで」
「その光の向かった先も西区の方だったかと」
土飼はその話に頷く
「うむ、 確かに遠征先で私もその光を確認している、 後で詳しく話すが遠征先であったココメリコの方に向かって行った様に思った」
日暮はこの話を聴いてようやく思い出す、 暗低公狼狽との空中戦を行っている際に突然東の空から飛んで来て敵を撃ち抜いた光の矢
(あれか…………)
あれは何だったのだろう、 敵なのか、 それとも……
考えている内に東区の報告は終わり北区の代表が立ち上がる、 さっきのおっさん奥能だ
「北区だが予定道理スーパーマーケットの『みどり』に行ってみた、 気をつけて中を見てみたが荒れに荒れていた、 漁られた後って感じで腐臭も酷かった」
「缶ずめや水、 生活の備品はあるにはあったのでまた明日にでも入ってみるつもりだ」
そう言って席を着く奥能、 奥能はさあ次だ言わんばかりに目で急かしてくる、 そうだ西区の代表は私土飼だ
「えー、 西区ですが、 皆さんも既にご存知かも知れませんが色々な事がありまして、 少々長くなりますが順序を追って話しますのでお願いします」
先ずはココメリコを目指した遠征の話から、 この間に起きていた日暮の戦いは後程当人に話してもらうつもりだが報告の内容は昨日議員の大望に報告したものと大まか同じである
「……という事でココメリコは調査不可能、 周辺は広範囲が陥没している為近づく事は危険と判断しました」
私の報告をここに居る全員が息を飲んで聞いている、 噂としては流れていただろうがこんな世界になってもあれ程の破壊は未だに無い
その報告を鋭い目をして聞いていた奥能は腕を組んで意見する
「自分の目で見なきゃ信用出来ねぇ様な話だな、 まあそれは置いといて土飼、 おめぇの話が本当ならそこの生意気なガキが戦った影響でそうなったんだよな?」
「……奥能さん彼が戦ったのは……」
「土飼勘違いすんじゃねぇ戦ったのもその影響で大穴が空いた事も悪い様に言いたいんじゃねぇ、 ただそこの詳しい話は是非本人から聴きてぇなぁ、 そいつももう危険調査隊の一員なんだからな」
確かに、 何があったのかその報告は受けたが細かく何があったのかを土飼自信日暮から聞いていない、 あの日ココメリコでの出来事を
「日暮君、 良かったら何があったかもう一度詳しく話してはくれないか?」
私がそう言うと彼は素直に立ち上がり口を開いた
「俺話すの苦手だからそこは文句言わないで下さいね」
「ココメリコに向かったのは生活品の調達、 こっちは鳥頭のガキみたいな敵が湧いててそいつらをボコボコに殺すのが好きだったからちょっと怖かったけど向かったんだ……」
語るのはホームセンター『ココメリコ』での戦い、 要点を絞って話す
「……で鳥頭の親玉『暗低公狼狽』に出会った、 奴は確か『暗観望測世行百手』と言う自在に伸縮できる百本の手を持っていた」
「恐らくそれが奴の能力だったんだと思う、 でもそれ以外に全てを取り込み自分へと作り替える身体中の細胞と風を操る力、 それに択一した戦略、 よく俺勝てたなって感じです」
見事奴を地に沈めた事を報告する
それを怪訝な顔で聞いていた奥能はでかいため息をついて質問した
「その話は作りもんじゃ無ぇだろうな?
にわかには信じられん、 能力を持った化け物を倒した? てめぇ自信が能力を持ってなきゃ無理な話だ」
そう言う奥野に日暮は面倒くさそうに訂正する
「ああ言ってませんでしたね、 持ってるんですよ能力、 それが無ければ負けてましたね」
日暮の言葉に一瞬驚いた奥能、 目を見て少し考えた後……
「嘘じゃねぇみたいだな、 さっきと同じで全然揺らがねぇ、 人はこんなにまっすぐ嘘はつかねぇ、 信じられないのはこっちの度量が低いからか……」
そう呟く
「話はわかった、 だがひとつ聞かせてくれ、 おめぇが能力を持ってるって言うならな……、 実際なんなんだその能力ってのは?」
奥能は日暮に対して質問するがきっとその質問はこの危険調査隊のメンバーの誰もが抱いている疑問だろう
日暮は顎に手を当てるが実はそんな事は自分が誰かに聞きたい程だ、 答えなんて知る訳が無い
「あー、 すいません分かんないです、 突然使える様になった物で、 ただひとつ言えるのは初めての感覚じゃないと言うか……」
「もっと言えば初めから実は自分の中にあった物? みたいな、 それが目に見えて表に発言しただけみたいな感覚なんですよ」
どうしたものかと頭を抱える日暮に対して奥能は肩を落とす
「やっぱそうなのかよ、 使ってる奴でも分かんねぇもんなのか、 その能力が俺にもありゃ…… 俺だってもっと……」
落ち込んだ奥能を見て日暮は思う、 この人も力を望む人だ、 この奥能と自分は何が違うのか
「だから言ったでしょ奥能さん、 能力者本にもにも分からない現象何ですよ?」
そう言葉をかけたのはさっきロウソク会議事件を仕掛けた威鳴である
「日暮君や、 俺威鳴ね、 実は俺も能力者何だよ、 だから君の言ってる事分かるよ?」
何だか妙に軽いノリだ、 そしてこの威鳴も何か能力を持っているのかと日暮は思う
「いや~、 能力って本当に分からない事だらけだ………」
「その事についてですが良いですか?」
威鳴が軽快な言葉を言い切るのを遮ってある人物が立ち上がり意見する
村宿冬夜である
「雀公園の報告で話すつもりでしたが話題に上がったので、 件の能力について少し知った事があります」
その言葉に周囲が驚きのような雰囲気を出す
それは昨日の戦いで敵であった皇乞始点宗の言葉
「敵の言う事が本当ならこの世界にはミクロノイズと呼ばれる力があってそれが生物に干渉して能力を発言させると」
「彼らは能力者の事を総称してノウムテラスと呼んでいました、 人それぞれの望みが能力として形を成すとも」
村宿冬夜は聞き逃さない
「敵の言う事だ何処までほんとか知らねぇが、 望みか……」
奥能にも望みがある
「はぁ~、 望んだ力ねぇ~」
威鳴も強く望んだ
日暮も、 冬夜も、 暗低公狼狽も、 皇乞始点宗も、 望んだ、 確かに望んだ力だ
「……あっ、 そうだ、 話変わるけどさっきの光の矢の話、 俺も見ましたよ」
日暮の声に調査隊のメンバー達は反応する
「俺その光の矢に助けられたんですよ、 あれは何だったのか、 もしかしたらあれも誰かの能力だったのかも」
「気になって仕方ないので良かったら俺調査して来ましょうか?」
街の方から来た光、 街は外はどうなっているのか、 この目でみたい、 そしてまだ見ぬ敵と戦いたい
「おい、 そんな事簡単に決めれる訳ねぇだろ、 調査範囲外の危険調査は許されてねぇ」
その言葉は奥能だ、 しかし妙だな?
「ん? そもそも俺は……」
普通の危険調査隊員とは違い、 リスクの高い超危険範囲や未開探索が主だったはず……
土飼の方を見る、 土飼は決心したように何度か頷くと口を開く
「あぁ、 いや明山日暮君、 君の希望なら是非調査に行ってくれ、 特別に君の調査範囲を街まで拡大する」
調査員達がざわめく、 なんだ?
「おい土飼待てよ、 調査範囲は現在半径3キロ圏内、 それより外の調査は禁じているはずだ、 それは範囲外は全く未知の状況だと判断したからだろ」
「そんな所に若者一人大手を振って行ってこいだぁ? おめぇどういうつもりだ?」
日暮は何となく理解する、 土飼から少し説明されていた、 危険調査隊とは別の組織を結成すると
その組織の存在はまだ調査隊にも発表されて居なかったのだろう
「奥能さんご意見ごもっともです、 しかし危険とリスクを承知で前に進む力がある、 その力を無駄には出来ません、 皆さん聞いて下さい……」
「この度最高管理者である大望議員との話し合いにより危険調査の更に先、 調査範囲外やリスクの高いとされる場所へと進む者たちを有する組織」
「特別危険調査隊を結成する事を決定しました、 日暮君は特別危険調査隊のメンバーである為街に赴く事に何の異常もありません」
淡々の告げられる報告に奥能は震える
「ふざけるなよ、 こんな若造を真っ先に死地に送り込むのかよ、 このガキは気に入らねぇでも大人が体張って守る、 当たり前だよな?」
「許される訳ねぇ、 俺は認めねぇぞ」
圧がある、 奥能には圧があるが土飼は揺るがない
「奥能さん、 では貴方が行きますか? 勿論私は強制出来ません、 それは誰でもです、 危険調査だって本人の意思で行って貰っている」
「しかし世界はこの直径6キロメートルの範囲ではありません、 誰かがこの狭い世界を前へ前へと進めなくては……」
奥能は圧を強め食い下がる
「……それがこの若造だってのか? こいつがやる事だってのか? その責任をこいつに託すのか?」
奥能そう言って日暮を指さす
「いいえ、 託しません、 日暮君が我々に託すのです、 彼は最前線で壁を砕く、 彼がするのはそれだけ、 我々は彼の後を進み地を固めます」
「奥能さんの言う事は分かる、 私自身も死ぬ確率の高い場所へ未来ある若者、 いえ誰でも迎えと命令は出来ません」
「しかしこれは彼自身の強い希望であり、 それが我々の希望に繋がるのです、 誰かやる気のあるものが進まなくては行けないのです」
奥能は唇を噛む、 建設業は死と隣り合わせだ、 若者はすぐに無理をするので大人がそれを止めなくてはならない
それを伝えなくては、 なのに、 何故揺るがない、 さっきの日暮も、 この土飼も、 威圧も言葉も届かない、 消して揺るがないのに不動では無い
「……やる気が何だ、 生きてなきゃやる気も何もねぇだろ」
言葉が弱くなる、 でも押される訳には行かない大人として……
「おいおっさん、 いや奥能さん? だったか、 あんたいい人だよな……」
日暮だ、 やめてくれ
「ありがとな、 正直前とか後ろとかどうでも良いけど、 俺の意思であるのは確かだ、 俺はどうしてもこの目でみたい、 酷く望んだ世界の日の出を……」
「前とか後ろとかは知らないけど、 俺の進みたい方に進まずには居られない、 もう始まったんだ、 今は止まる気分じゃない」
「だから気にしないでくれよ」
本人の意思だ、 それを止める権限があるのか、 いや無い、 振り切ってしまえば簡単に解けるような拘束だ、 人の情なんて
奥能自身そういった物を振り切って進んできた、 目を向けてみればなんて事ない、 自分に似ている、 否定は出来ないのだ……
「奥能さん、 さっき見たでしょ日暮の目が見つめる先の世界を、 彼は進みますよそれを求めて、 やる気がある、 我々が止める事はどちらにとっても正しくない」
「もう一度言います、 日暮君、 特別危険調査に向かってくれ、 君の希望は、 この世界の希望なのだから」
やったぜ! と喜ぶ日暮、 希望か……
「まあ奥能さんや、 心配しないでくれよ、 俺は死にに行くんじゃねぇ、 逆に生きる為に向かうんだ」
生きるため、 その言葉には力がある、 生きる為の前進だ
「……ふっ、 はははぁ!、 若造ならてめぇ絶対死ぬなよ! そんで全力で生きてみろ!」
送り出すしかない、 奥能はそう思った
前進、 前進するしかないのだ、 前へただ前へ……
今更人物ファッションショー・その1
明山日暮
日暮はファッションや身だしなみには疎い、 服装は無地のTシャツにダボッと感のあるカーゴパンツを履き
その上にヨーロッパ発祥の大手アウトドアブランドの少し値の張る防水ウェアを年中羽織っている
季節の変化にTシャツを半袖から長袖に変えるだけの対応をしている
靴は同ブランドの防水シューズを履いている、 運動やトレッキングを主とした動きやすくも丈夫な物を購入した
暗低公狼狽との戦いでほぼダメになったが同じ様なものをいつくか持っていたので現在も似た様なかっこをしている
雀公園の戦いで既にボロく成りつつある
腰に鞘に入ったナタを装備している、 このナタは昔から明山家の物置に置いてある年代物だが祖父が手入れを欠かさなかったのでまだまだ現役
暗低公狼狽に一度取り込まれたが体の一部として完成する前に回収したため敵の骨が絡み付き、 歪に湾曲した見た目に変化した
暗低公狼狽の全てを自分へと作り替える細胞が絡み付いている為このナタも又打ち付けた敵を喰らう様に自身へ変換し、 そのエネルギーを日暮へと渡している
銘を『牙龍』と日暮はつけた
終わり




