第三十五話……『思い出を乗り越えて』
暗い公園、 夜では無い星や月は無く、 もちろん街灯だって機能していない、 ここはもはや普通の空間では無い
異常な空間で人は正常では居られない、 恐れ、 緊張、 体はこわばり
飲まれるのだ、 空気に……
恐ろしい時、 だからこそ
「ブレイング・バースト!! はははっ、 派手にぶっ飛べデカたぬき!!」
笑い、 叫び、 殺すのだ
弱かった、 タヌキの化け物
「タヌキ良く出たしな、 タヌキも危険だって言われてビビってた奴いたな、 あいつのせいだな」
今しがたタヌキの化け物の首を飛ばした男、 明山日暮である
「明らかにおかしい、 さっきまでと世界その物が違う様な、 それにな~んか異様だな」
それは日暮の見つめる先、 黒い霧が立ちこめるように覆われた一箇所
「もしかしてこん中に居るんかよ、 冬夜と猿野郎もよ」
ふぅ……
深く息を吐くそれだけで心構えを終える
「行くか」
深く暗い霧の中、 明山日暮は躊躇いなく足を進めた
そして、 その中では既に……
…………………………………………………
「宗、 すまない……」
謝るな父よ……
「宗、 ごめんなさい……」
泣くな母よ……
それは父と母の最後の光景、 罪人として猿帝自ら首をはねた
それを目の前で見ていた私よ……
動け…… 頼む動け!!
何度思い出を参照しても変わらない、 弱い私は、 戦士でない私は無力で戦い方も知らないのだ
戦いを知った今なら分かる、 強い戦士であった父が何故掟を破り一族から家族を連れ逃げ出したのか
そもそも我々の個体値は弱い、 我々は勿論自分達より弱い個体を狩るが、 それは我々だけでは無い、 我々より強い種は我らを狩るのだ
団結し、 道具を使い、 それでも撃退するか、 もし倒せてもこちらは半分以上の死者を出す
奴らとまともにやり合えるのはノウムテラス(能力者)か猿帝のみだ、 他はいつ敵の胃袋に入るかも分からない
父は母と子である私がとても愛おしくなり、 そして戦いが恐ろしくなったのだ
だから今の私ならわかる、 戦いを知っても尚弱い私は逃げ出した父の気持ちがよく分かる
謝る父に、 父は強くいつも誇らしかったと伝えたい
泣く母に、 優しさを教えてくれてありがとうと伝えたい
「宗お前の能力は……」
父の言葉
「宗貴方の能力は……」
母の言葉
「素晴らしい」
だからこそ………
……………………………………………
「私の、 私の能力を侮辱するなぁ!!」
猿帝にさえ認められれば、 家族の思い出は地に落ちない
弱い能力で無くなれば侮辱された家族の汚名もはらせよう
その姿を見て水の少女はクスクスと笑う
「負け犬の遠吠えはでかいな~ あぁ、 負け猿だったか、 はははっ」
「こんな自分じゃ戦えない様な能力温い以外に言う事無いでしょ、 弱すぎ何だよ!!」
そう上機嫌に言う水の少女、 彼女を中心に水の糸が全域に張り巡らされている、 それにより歪に光が屈折していた
皇乞始点宗は心の中で思う
(そうか、 あの水の糸か、 投擲したナイフを回収したのは、 攻撃、 ガード、 束縛、 感知、 回収、 何でも出来る……だが私の能力だって……)
皇乞始点宗は自身の能力の凄さを改めて叫ぼうとした……
「マリー……」
冬夜の声がやけに大きく聞こえる、 どこかその声は怒って居るような……
「他者を強く侮辱しちゃ行けない」
冬夜の言葉に水の少女は「え?」と短く言葉を漏らす
「他者を侮辱する事はその者を下に見る事だ、 本来俺たちに上も下もない、 誰かを下に見るという事は自分自身が誰かより下に居ると感じているという事だ」
「自分自身を下に見ている、 つまり他者を侮辱する事は同時に自分を侮辱する事だと言うのを忘れないで欲しい」
少し怒気を含んだ声で静かに語る冬夜その姿に水の少女は少し怯む
「ごっ、 ごめんなさい…… もうしません……」
水の少女は素直に謝った、 嫌われたと思ったからだ
「分かってくれたなら良いよ、 好きな人が怖い言葉を使ってると驚いちゃうからね」
そう言って水の少女を撫でる
「なんだぁ? 随分甘っちょろい事言うじゃねぇか冬夜ぁ君、 道徳何か解いて指導者にでもなったつもりか? このガキが」
「お前もだよ皇乞始点宗、 自分を下に見るな、 自分が凄いと思うのなら周りの事何か気にせず堂々と誇れ」
(何言ってんだぁ? このガキ分かった様なことを言いやが…………)
「少なくとも俺はお前の能力を認めるぜ、 すげぇ能力だ、 まさに俺たち人間からしたら脅威の能力だよ皇乞始点宗……」
(何を…………………)
「………何を……言っている……」
まさかそんな事を言われる何て、 そして
「何故…… 不思議と怒りが消えて行くんだ……」
(認められたのか? こんなガキに認められたからって何だってんだ…… なのに……)
「ふっ、 はははっ、 あはははははっ、 ばっかかお前、 馬鹿だな冬夜ぁ君、 敵の事褒める奴なんて居ねぇよ、 はははっ!!」
「はぁ…… 何かもう良くなってきたな、 誰かに認めさせるとか、 そう言うの」
「父も母も、 こんなの望んでない、 きっと今を全力で強く生きる事を望んでんだ、 だから」
ボコボコと更に恐ろしい思い出達が湧いて出る
「えははは、 おめェらァそこのガキ血祭りに………」
パシャン
弾けるような音がして今湧いた思い出がフィルムの様に形を変える
そいつだけじゃない、 全ての湧き上がる思い出達がフィルムの様な形になり皇乞始点宗に向かって行く
「ああ、 やめだやめ、 こんなつまらない思い出を幾ら出しても仕方ない」
「全く監督自ら出演するとは、 それも面白いか」
フィルムが淡く光り皇乞始点宗に巻き付いていく、 それは……
「古夢中現、 夢現編集、 タイトル……『懐旧・雀公園管理帳』」
「……………纏衣」
その瞬間、 フラッシュを焚いたように辺りが白く光り、 冬夜は目を細める
……光が収まった後には……
「全く禍々しいものがこの公園に集まった物だな…… それを纏う私もまた禍々しい存在か……」
暗い、 暗いのに淡い光を放つ、 黒曜石の様な鎧を纏った……
「だが気分は悪くない…………」
皇乞始点宗だ、 鬼を思わせる怖顔の面を着け手には同じ黒曜石の様な素材の矛を持っている
矛を両手で大上段に構える、 深く沈み込み
ドガッ!!
激しい音が鳴る程の強い踏み込みで、 冬夜に迫った
冬夜の目の水分が波打ち、 動きを捉える
右手の警棒を無駄のない動作で構え……
「冬夜!! 受けちゃだめ!!」
ズッシリッッ!!!
余りに重い矛の一撃が振り下ろされる、 強化された筋肉も抗えない
ミシッ
右腕から、 いや体全体から軋む様な音が聞こえた
「っ!、 左手借りるよ!!」
水の少女が糸のように細い水を左手に巻き付ける、 左手が動かされる
高圧の水を纏ったナイフを矛と警棒の接地面に斜めに差し込む、 冬夜は意図を汲んで右手の警棒でその向きに押し込んだ
「むっ!?」
矛の力の向きが斜め下方向に流される
矛が地面に叩き付けられ、 地面にヒビが入った
冬夜は体を傾けされ蹴りを一撃、 そのままの体の向きで後ろにバク転、 距離を取った
ズキリッ
右腕が傷んだ
その上
バキッ……
「警棒が折れた……」
それは危険調査をするにあたって護身用にと市役所職員土飼に渡された物だった
「冬夜、 腕大丈夫? 水で腕は守ったけど、 警棒の方は……」
折れた警棒を見つめる冬夜、 水の少女が心配そうに話しかける
「いやマリーありがとう、 助かったよ、 警棒はまた貰えばいいから、 帰ってね」
「それに腕の方も大したことは無い」
左手のナイフを右手に持ち替える、 このナイフはあの日、 水の少女に襲われた後購入した物だ、 戦う為の術が欲しかったから
「その折れた棒より、 そのナイフの方が堂に入って居るように見えるぞ冬夜ぁ君」
皇乞始点宗は矛を肩に担ぎ再度構える
「こんな日の為に独学で練習したんだ、 準備してたのは日暮だけじゃ無い……」
警棒を使っていたのは恐れがあったからだ、 殺す事への恐れが
でも今は、 それは本来当たり前の気持ちだ
「死なない為に、 マリーとこれからも生きて、 必ずこの公園で綺麗な桜を観る」
死にたくない、 その強い気持ちで敵を……
「お前を殺す」
ナイフのグリップを強く握る
「冬夜…… 肩に力入り過ぎ、 私も居るから」
無言で冬夜は頷く
暗闇だ、 以前薄暗闇で黒曜石の様な鎧を纏った皇乞始点宗を捉えずらい
明かりが有れば……
「冬夜!!」
声だ、 この声は日暮の
「鮮明に思い出して強く挑め!! この世界はそれで実現するんだ!!」
思い出の世界、 本来それを作り出すのだ皇乞始点宗の能力、 その中で起きる現象は誰かの思い出
強く思い出せば再現出来る
薄暗闇の中日暮は見えない、 けどこっちに向かって来ているんだ
突拍子も無いけど、 そうだなって実感がある、 信じるって決めたから……
はらり、 ひらり
光が舞った、 ひとつふたつ
「雀公園七不思議、 月明かりの夜桜」
……………………………
「月明かりを受けた桜が、 淡い光を放ちます、 この地の桜が光るのは水神様のお陰です、 水神様の恩恵がこの美しい桜を育み、 我ら人を見守るのです」
………………………………
ぱぁん
気づけば力強い桜の木が何本も立ち並び、 音を鳴らして蕾が開花した
花びらは淡く光って大地を照らした
舞う花びらから声が聞こえる……
………………………
「水神様ありがとう……」「美しい桜……」
「良ければこの手紙を……」「ずっと一緒にいましょう……」「手…… 繋いでも?………」
「タッチお前鬼ね!!……」「パスパス!!……」「わたあめ下さい!……」
「わりそっち敵行ったわ……」
「嘘だろ? まだこっちも倒しきってないし……」
「日暮なら2体同時に楽勝だろ?」
「いや出来るが…… やっぱ無理、 回復してんじゃねぇ冬夜!!」
………………………………………………
声、 喜びに満ちた声
咲き誇った桜を見て皇乞始点宗は思った
「そうか、 ここは公園だ、 嫌な事怖い事はあれど、 本来喜びに溢れた、 楽しい思い出の溢れる場所」
「その上この場所には昔からこの美しい花が咲き誇った人々の憩いの場、 そして思い出を読んで分かった、 この桜という木を、 そして人々を育んだ水神様とは……」
花びらが集まって水の少女へと集まって行く、 優しく包み込む様に、 感謝を伝える様に
花びらが重量を思い出した様に落ちて行く、 その中から……
「思い出した、 私はこの地の水を司る神様だった、 桜が思い出させてくれた」
美しい薄ピンク色の髪を結い、 美しい着物を着飾った可憐な少女が姿を現す
その姿は人の少女と身長や肌の色等も何も変わらない様に見える
しかし神々しさと地に足が付かず優雅に浮遊している様はまさに女神であると実感させる
戦いの最中であるにも関わらず見とれてしまうその姿
少女は細い手を冬夜の肩に置いて話しかける
「冬夜、 敵を見て、 私たちの敵を」
冬夜は今一度皇乞始点宗を見る
皇乞始点宗は咲き誇る満開の桜に目を奪われていたが視線を感じ同じく冬夜を見る
「私の力を冬夜に渡すから……」
そう言うと右手に力が宿る、 淡く桜と同じ薄ピンク色の光が冬夜から湧き上がる
少女が今度はナイフを握る手の上から更に手を重ねる
「一緒に打ち倒しましょう、 私たち2人の決着を」
少女はそう言うと水となってナイフに集まる、 美しい光をまとってナイフの刀身が伸びる、 この地から湧き出た豊富な水が何トンにも圧縮され、 圧倒的な力を蓄える
皇乞始点宗は禍々しい鎧鳴らし、 打ち倒す敵を睨みつけ矛を大上段に構える
この公園に染み付いた負の思い出達が立ちこめる闇のように渦巻く
冬夜は美しい光を纏い、 ナイフを構える
古よりこの地に溢れた人々の喜びと、 これから先互いに歩んでゆく少女との互いの想いを一撃に乗せて
淡い光を放つ桜の花びらが睨み合う2つの視線を通過し地に落ちて光を散らした………
ドガァァ!!
圧倒的力から湧き上がる爆発的な踏み込み、 皇乞始点宗は自身の全てをこの一撃にかけた
「うらああぁぁっ!! 死ねぇい冬夜ぁ君!!!」
振り下ろされる矛には大地を震わせる程の力が込められている
対する冬夜は……
血管が浮き出る程目を見開き、 タイミングを見逃さなかった……
「っ!! ここだぁ!! はぁぁあ!!」
それは遠心力と更に振り下ろしで重力により力が最高潮に達した点
力の溜まって居る点に更に圧縮した力を押し出す、 相手の力を利用する
水が圧縮されたナイフ、 その刃が淡い光を散らして最高の角度、 タイミングで……
ガキンッ!!
振り当てられる
「うあああああぁ!?」
まるで激しい大海の大波を受けた様な衝撃が真正面から皇乞始点宗にぶつかる、 体全体が吹き飛ぶように押し出され
バッキン、 バッキ!
矛が、 鎧が、 面が粉々に砕かれる、 負の思い出が打ち消され世界を覆う闇の霧が強風に煽られたように四散した
桜が咲き誇る真っ白な世界へ……
その瞬間、 咲き誇る桜の下にふたつの人影が皇乞始点宗には見えた
顔は見えない、 泣いているような、 笑っている様な、 申し訳なさそうな、 分からない分からないのに
「……父上…… 母上………」
目の前に迫る冬夜と目が合う、 何て強い目をしているのだろうろ
握られたナイフに力が込められるのが分かる
それが
ビシャァッ!!!
確かな殺傷性を持って振り上げられた……
「うぎゃぁぁ!?」
鎌鼬にあったように胸が裂け、 血が否応無しに吹き出す
体を支えられず皇乞始点宗は地に倒れる、 2つの影は未だに消えず、 しかしその顔はどちらも申し訳無さそうに 下を向いていた
(あぁ…… それじゃぁ前と同じだ……)
(私ぁ全力でぶつかったんだ、 息子が全力で戦ったんだから…… 今度こそ笑ってくれよ……)
そう思うとふたつの顔は微笑んだ、 鳴る程そうか…… 今見てる両親も私の能力が作り出した思い出か……
思い道理に笑ったり、 怒ったり
ならずっと笑っててくれ……
白く眩しい世界の中で冬夜は倒れる皇乞始点宗に歩み寄る
「……皇乞始点宗、 あの二人はお前の両親か……」
同じ方を向いて冬夜が話しかける
「……冬夜ぁ君にも見えているのかぁ、 どうだ二人は笑っているか? 俺には良く見えなくなって来た……」
そう言う皇乞始点宗、 その目は閉じられている
「いや、 笑っては無いよ」
「……ならば泣いているか、 怒っているか、 酷く悲しんでいるか」
「いいや、 申し訳なさそうな顔をしているよ……」
「そうか…… またさせてしまったなその顔に……」
彼らの死に際に、 そして私の死に際に……
「私が申し訳ない気分でいっぱいだよ……」
そう呟く皇乞始点宗に冬夜は首を振る
「勘違いしてるぜ、 申し訳なさそうなに見えるけど、 あれが親の顔だよ、 怒るのも笑うのも悲しむのも違って」
「自分の子への強い責任感がある親の顔だ、 きっと心配してたのさ、 息子を……」
「でも、 向こうでもう一度会えた、 今度は笑えるさ」
あぁそうなのか……
しかしこの冬夜ぁ君の言葉、 さっきまで敵で居たのに何てあとぐされなく優しいのか……
まさか…… そうか
「その優しさが…… 人の強みか……」
バラバラ
白く眩しい世界が音を立てて崩れ出す
ひらひら
散る桜は徐々に薄く空気に解けるように消えてゆく
消えゆく桜の樹の下で、 立っていたふたつの人影にもうひとつ、 新しく人影がそばに立っていた
そいつはこちらに手を振った、 初めから立っていたふたつの影は頭を下げた、 そして共に歩き出し消えていった
ピシャァァン!!
世界に音が反響して冬夜は目を瞑る
音が止んで目を開ける
キリリリリッ 、 ゲコゲコ
よく聴く生き物達の鳴き声だ
ホーホー
ミミズクの鳴き声が闇に響く
…………夜だ
でも懐かしくて、 よく知っている田舎の夜だ
「やったんだよな……… はっ、 マリーは!! 」
ぴちゃ、 頬に冷たい温度がして横を見る
「ふふ、 ここに居るよ冬夜」
妖精の様な小さいサイズに戻った水の少女は冬夜の肩に座っていた
「終わったね……」
その言葉で実感する
「終わったんだな、 戦いは……」
そう実感すると体全体にずしりと重さがかかる
「疲れた……」
冬夜はそのまま倒れるように地面に寝転がった
「危なっ! 大丈夫冬夜? 寝ちゃダメだよ?」
心配そうな水の少女に冬夜は微笑みかける
「今寝たら絶対気分良いけど、 やめとくよ…… 星すげぇ綺麗だな……」
街灯や家の光が夜の闇を遮らない今の世界、 星々は一層輝いて見えた
「うんそうだね…… 本当はこのまま冬夜と2人きりで星を眺めていたいんだけど……」
え?
その少女の言葉にビビる、 まさか……
「お別れ何て言わないよな……」
勝手に頬に涙が伝う
「冬夜……」
少女は…………
「冬夜の涙もーらい!」
そうはしゃぐと頬を伝う涙を掬い取り込んだ
突然の行動に驚く冬夜、 その顔を見て少女はクスクスと笑う
「もう、 冬夜は馬鹿だなあ~、 一緒にお祭りに行くって約束したでしょ、 それにこれからもずっと一緒って、 だから居なくなる訳無いじゃん、 心配性だな~」
冬夜はその言葉を聞いて深く息をはいて胸を撫で下ろした
「ん? でもそれならさっきの言葉はどういう……」
「おーい冬夜!! 生きてるか!!」
言い終わる前に声が聞こえた、 うるさい声だ
「はぁ、 つまりあのムカつく明山日暮が来たってこと……」
少女は嫌だな~ と言う顔を隠しもせず悪態をつく
光で照らされる、 日暮が懐中電灯を付けたのだろう
「生きてんのか? ……死んだか、 お前の勇姿は俺がきっちり語り継いでやるよ…… まあ何があったか知らねぇから適当にだけど」
へらへらと適当な事を言う日暮
「っち、 生きてるっつうの、 こっちは疲れてんだ、 言い返す気力も湧かねぇよ」
そう返す冬夜に日暮が手を差し伸べる
「夏空の下に地べたで寝る趣味がねぇなら帰るぜ、 俺は布団で寝たい」
冬夜はその手を取り日暮の力を借りて立ち上がる
「帰るわ、 飯食って、 体洗って、 歯磨いて、 布団で寝る、 あ、 あと報告もしなきゃだ……」
夜空を見上げる、 遅くても夕方には帰る予定だったのに
「やべぇ、 怒られるかなこれ……」
凄く焦った顔になる冬夜、 それとは逆に日暮は大きなあくびをした
「苦労するねぇ、 仕事でもねぇのに……」
そう言う日暮に冬夜は呆れた顔を向ける
「仕事だよ、 責任がある、 それと自分は関係ないみたいな雰囲気出してるが、 日暮お前も一緒に報告して怒られて貰うからな?」
その言葉に、 え? と思う日暮
「めんどくせぇ……」
その言葉以外に出てこない、 そう日暮が思っていると
「ちょっと、 近くない? 明山日暮、 冬夜から離れてよ暑苦しい!」
険悪な声が響く、 水の少女マリーだ
「あ? 誰だよお前……… あ~、 あれだ中二の時の水饅頭、 また悪巧みか?」
日暮は変な所で察しが良い、 その存在の正体にすぐに気づく
「あぁ??! 誰が水饅頭よ!! ぶっ殺すわよ!!」
震える水の少女、 その言葉に対して日暮は疑問を持つ
「いや寧ろ何でそうしないのか疑問だな、 結構恨んでると思ってたよ」
素朴な疑問
「ふん、 当たり前にかなりムカついてるけど、 だけど更にムカつく事に貴方を殺したら冬夜に嫌われちゃうもの」
そう言うとぷんすか怒りながら冬夜に近づく、 冬夜も少女を優しく撫でた
「ふ~ん、 何だちゃんと仲直りしたんだな、 良かったよ友達になれたなら」
「ぶっぶー、 残念友達以上でーす、 カレカノなのよ私たち!!」
「はははっ、 言い方古いな、 でもまじで良かったな冬夜」
日暮が屈託なく言う
冬夜は……
「カレカノ…… まっまずは、 順番的にとっ、友達からお願いします!!」
上ずって、 裏声が出てしまう冬夜、 日暮は冬夜の顔を懐中電灯で照らすと頬が真っ赤になっていた
「ひゅ~ それ結局告白じゃん」
茶化す日暮だが、 どちらも何も言わない
ん? と思い少女の方を見ると
「こっ、 こっ、 告白されちゃった…… はい、 私で良ければ……」
と呟いていた
何か気まずいな~ と思う日暮だったが、 ぎこち無いやり取りをする2人を見て、 自分には必要ない物だと思った
それでもどこか微笑ましい光景だとも思った
その後報告のために公園を一周した、 公園は遊具も、 バスケットコート等も見事に破壊されていた
依頼内容であった雀公園の異音はこの破壊音であったと見てわかる物だった
その光景を見て再度警戒を強め帰路に着いた
帰る途中幾つもの破壊後と、 猿型のモンスターに出会った
動きも早いし厄介だがそれだけだ、 能力など持たない
「あと5体、 私の感知に引っかかってるよ」
水の糸を張り巡らせ少女は言う
「分かった、 角を曲がった所だ待ち伏せされてる、 二体、 その奥に三体」
冬夜が言いながら駆け出し
「マリー」
そう言うと少女が水の糸を民家に伸ばし圧縮、 その勢いで冬夜の体が中を浮く
「はははっ、 すげぇな、 ワイヤーアクションかよ」
日暮は関心しながら自身は正面から角を曲がる
日暮を見つけた猿のモンスター、 2体いるそのうちの一体が反射的に突撃してくる
「ブレイング・バースト!!」
迫る敵に力を放つ、 全く恐怖は無いから近距離でぶちかます
一体が吹き飛んで死に絶える
もう一体は恐れたようだが向かってくる
「でかい猿だな」
ナタを振りかぶり上を意識させ、 膝を蹴り抜く、 怯んだ胴にナタを打ち付ける
「喰らえ」
それだけで強者の細胞が絡みつく歪なナタが猿を喰らう
あっという間に2体の敵を倒した
「鳥頭の方が小柄な分動き良かったか?」
そう思っていると道の先から声が聞こえる
「終わったみたいだな日暮、 これで日暮の実力の証明にもなったな」
そう言う冬夜も疲れては居るが三体の敵を確かに倒したらしい
「……いやお前もな冬夜、 お前の強さも報告しといてやるよ」
その後警戒しながら更に道を進む、 2キロほど先のシェルターその敷地内にあるプレハブ小屋に
道のりが長く感じるそれでも前へ、 それぞその思いを胸に前へ
疲れもどこか心地よい
何とかシェルターの検問所に着くと見張りの警備員とは別に市役所職員土飼が待っていた
土飼は二人を見ると我を忘れて泣きながら喜んだ
不思議とその暑苦しさが帰ってきたと言う実感を与えた
軽く状況を説明して報告は明日行う事になり、 二人の危険調査はひとまず幕を閉じる
決して多いと言えない食料を食べ、 少ない水で体を洗う、 歯を磨いて宛てがわれた空間で眠りにつく
プレハブ小屋は決して広くないので冬夜や他の男たちと部屋は一緒だ
電池式の時計は時刻を9時を指している
ひと月前ならまだ起きていた時間だ、 でももう部屋は暗い、 することも無いので2人とも床に入る
「こんな男臭い部屋で寝るなんて私的には許せないわ、 でも冬夜とは離れられないし」
と水の少女が愚痴をはくが冬夜は目瞑り彼女を撫でただけで宥めた
冬夜も疲れてもう眠いのだろう、 日暮は既に寝ている、 相変わらず早い
冬夜は重い瞼を閉じたまま今日の事を振り返ろうとしたが気づけば眠っていた……
これからの戦いに備え皆眠りに着く、 静かな夜は更に更けていった……




