第三十四話……『思い出の世界・5』
会話間での『……』を無くしました
誰かの思い出の世界、 その世界で睨み合う2つの生命
片方はこの思い出の世界を作り上げた存在、 猿帝血族の名を皇乞始点宗
「我ら猿帝血族は長い時代の中100以上の近縁種が血の争いそして征服交わり生まれた、 知恵を絞り強者跋扈するアマガライドの大陸で最強の一族の一種であると多くの者が恐れた」
「残忍さも脳の大きさも群の個体数も多くの点で他の種を超越し、 我らが指導者も嘗より力ある者に与えられる十二帝の一角猿帝の称号を得た」
皇乞始点宗は、語る自身の種族の強さを、 その存在をそして……
「その群れの中で私、 皇乞始点宗は猿帝を除けば最上位、 分かりやすく言えば幹部の様な存在だ」
「ミクロノイズと我らは呼んでいる不思議な力がこの世界にはありそれが時に物理の法則や生命の進化を無視し不思議な力を一個体に与える事がある」
「ある者は火や風など自然を操り、 ある者は肉体の限界を超えたりなどその個体に合わせ力は発現する 」
「そして私の力は思い出の参照と再生、 能力を持つ者が幹部へと成れる我がコロニーの掟に乗っ取り私はそうなったが、 五人居る幹部の中で最弱と呼ばれている……」
未だ語り続ける皇乞始点宗に対し目の前に立つ村宿冬夜は不気味な感想を抱いた
その上確かな活路を導き出せない、 考える時間が欲しかったのも事実、 敵の長話を聴きながら戦い方を冬夜は考えていた
「考えながらで構わない、 なぜ私は最弱だと思う? 答えを言うと私が暮らしていた地は日々変わり続ける魔境でありそこに暮らす敵対種に思い出など気にする奴は居なかったからだ」
「無能だったんだ私は、 能力の性質は本人の意思であるとされている、 この力は弱い私自身が望んだ事なのだ…… 許せん、 弱い私も、 私を下に見る他の仲間達も……」
「この地に来た理由は知らない我らは突如故郷の地を追われたのだ、 瞬きをしたその瞬間ほどの時間で気づけばこの見知らぬ地へとやって来ていたのさ」
「しかし見つけた、 人間種お前らは如何にしてこの星で頂点を取っている? 弱い個体が何故? それを知る為に私は戦っている」
「冬夜ぁくん君はどうかね、 君達の強みは何かね?」
問いかけられ冬夜は考える、 正解など有るのだろうか
ただ一つだけ言えることが有る
「おい猿野郎、 お前一つ勘違いしてるよ、 この世界で人間は頂点になったんじゃない、 他が誰も何も競おうだなんて思ってないだけだ」
「俺たち人間は個体差はあれど生物全体じゃかなり弱い方なんだぜ? 、お前が思ってる人間の強さってのは所詮不戦勝の結果なんだよ」
そう語るのは人間、 村宿冬夜である
「分からねぇかも知れないがテレビとか観てるとゾッとするよ自然界に生きる生命の強さを、 スプリンターの5倍の速さで走る奴が平気で南瓜割ったりすんだぜ? しかも動物園で飼われてる奴が」
「でもそれでも足りなくて更に力のあるやつに吹き飛ばされたり、 体格的に全く適わなかったり、 その中で人間なんて生きてけない、 生きてけないから人の為の社会を作ったんだ」
「その上他の生物が俺らなんかに興味を示してないってだけ、 好き勝手やってんだよ俺たち人間は」
冬夜の言葉を黙って聞いていた皇乞始点宗は顎に手を当て考える、 そして慎重に口を開いた
「成程…… そうなんだろうなぁよく分かったよ、 それも正しいのだろう、 でもガッカリはしないよ、 だってそれだけじゃないだろう? 人にも確かな強みがある」
「人は気づいたのだろう? 頭が良かったから、 他の種が競い合おうなどとしていない事に、 今ならば競わずとも頂点に立てると気づいた、 逃げ隠れ、 攻める時に攻める、 狡猾……」
「その狡猾な気づきを人間種だけが持てたと言うのは確かな強みなのでは? それなんだその人にしか無い何かが知りたいのだ…… が……」
「今の答えからすると知らんのだろう、 そういう物だ、 俺だって自分の種の事でも知らない事がある、 だからもう問たりせん」
「それに日暮ぇ君も近づいて居るのだろう、 先ずは君を倒す、 心構えを始めてくれ………」
そういうと皇乞始点宗の雰囲気が変わる、 本気で戦うと決めたのだろう
緊張感に全身が痺れながらも冬夜も構えを取る、 しかしついぞ目の前の敵を倒すビジョンが浮かばなかった
でももう引けない、 打撃用の警棒を右手に構え、 左手で太もものホルスターからナイフを抜き構える、 訓練はしていた、 でも冬夜からしてみればぶっつけ本番だ
「構えがど素人だぁ~ でも常に可能性はある、 本気でこいよ冬夜ぁ君、 本気で殺しに来い……」
タイマンの殺し合いなんて冬夜には初めて、 いや……
「マリーと対峙した時の緊張感程じゃないかもな…… 今の俺の全力をお前にぶつけるよ猿野郎、 いや皇乞始点宗だったか?」
思い出の世界の中で流れる雲で傾いた日が陰り、 一瞬の暗さの中で互いに無言で睨み合う
そして遂に雲が切れ陽光が地面を照らした……
それを合図に、 互いが思う最適解をぶつける
先ず動いたのは冬夜の方だった
「勝つ為だなんでもやるぜ!!」
地面の砂を対峙する皇乞始点宗の顔に思いっきり蹴り上げる
即ち目眩し、 こんな汚い手を日暮はまだしも冬夜が使う事を考えて居なかった皇乞始点宗は蹴り上げられた砂を諸に食らってしまう
目を開けようとするも左目が痛みで開けられない、 この時皇乞始点宗は素直にまずいと思った
その上……
「左目は開けられないか? なら……」
冬夜は皇乞始点宗の開かない左目の死角側に回り込む、 冬夜はどう倒すか考えて居た
皇乞始点宗はなんとか目を開け冬夜を睨む、 そして向かってくる冬夜に対して左腕を薙ぎ払い攻撃する
「いい気になるなぁ!! ……あ?」
しかし気づく、 冬夜に焦りは無い、 慎重に観察されている、 そして……
「左腕、 大方予想どうりだ……」
そう言うと、 右手の警棒で皇乞始点宗の薙ぎ払いをいなしつつやや横方向に前身、 脇の下を潜りまたも死角へ
そこから素早く向き直り……
「一撃…… はぁ!!」
短く呟きながら左手のナイフを背中を目掛け差し込んだ
ザクッ!!
確かな手応えしかし浅い、 皇乞始点宗もまた冬夜に向き直る動きをしていたので半身の様な体制で横腹を抉られた呑みで済んでいた
冬夜の手に嫌な感覚が使わる、 しかしお構い無しに引き抜く、 そうしなくては次の動きに対応できない
一方横腹を抑える皇乞始点宗もまた1人の戦士である、 痛みに対しても消して大袈裟に声を出さず、 ブリージングと言われる呼吸法で痛みを和らげる、 と同時に目を擦り涙で砂を洗い出す
「ふぅ…… はぁ、 やるじゃないか…… 正直驚きだ……」
「でも君も驚くよ、 君には見せていなかったよな!!」
「古夢中現!! 思い出顕現!! 」
「雀公園七不思議、 若人攫い黒髪女将!! ってなんだそりゃ~」
……………
「雀公園は呪われてるよ、 若い子が行方不明になったんだと…… 噂じゃ昔この近くで宿屋やってた女将さんが性別に関わらず若者が大好きだったとか何とか……」
婦人達のお茶会で噂好きのおばさんが話した噂話は瞬く間に広まった、 事件性もあったからだ
特に雀公園を利用する子供たちは強く恐れた
………………
影の濃い木陰に1人の着物の女性が突如現れる、 黒髪を結ったキレイな印象を受ける
その女は口を開く
「君…… 年は幾つかな?……」
それは誰への問いかけだろう、 きっと自分であっても答えるギリは無い、 そう冬夜は思った、 思ったのに……
「21になります……今年で……???」
あれ? と思った
女は更に問いかける
「まだまだ可愛い年頃…… 名前は?」
背筋が冷えてくる、 異常だ、 敵は皇乞始点宗だ敵から目を逸らすなんて戦いの素人である冬夜でも愚策だと分かる
のに……
目が合う、 いや合わされる、 口が開く……
「村宿…… 冬夜…… なんで??」
女は顎に手を当て考える、 何か考えたあと無造作に近付いてきた、 その歩きは上品で無駄が無い
あっという間に息遣いが聞こえる程近くに、 女の冷たい手が冬夜の顔に触れた、
その時初めて冬夜は自分の体が動かない事に気づく
「冬夜くん…… はぁ~ 媚香を焚いてるのに、 この香を嗅ぐだけで疑問なんて持たずに頭が馬鹿になって聞かれた事だけ答える素直な子になるのに……」
「……あぁ、 なる程ね抵抗力があるの、 血筋なのね陰陽師ね、 本当に居たんだって感じだけど」
冬夜は思った……
(何でそんな事まで分かるんだ?)……
「何でそんな事が分かるかって、 無意識のうちに全部自分で喋ってるわよ、 頭の方は徐々に回らなくなって来てるわねぇ……」
冬夜は酷く恐れた、 そう言えば小さい頃もこの噂を聞いて恐れた
何もできない………
「貴方は私の物よ……」
……………………………………………………………
その光景を眺めるもの、 皇乞始点宗は腕を組んで思案した、 次の行動を、 と言うのも思い出顕現させた存在が自分の味方であるとは限らない
先程のクマ同様、 言葉の通じないものや、 目の前の女の様に自分の目的を第一とする者とは連携は取れない
「だがまぁいい、 あの女は確実に冬夜ぁ君を戦闘不能にするだろう、 警戒は解かないが……」
「先程一撃食らったのは慢心ではなく、 思い出を読んでいたため動きが鈍くなっただけさ、 本当ならかすりもしない」
「私は決して弱くない、 そう何故なら私はミクロノイズの適合者、 選ばれしノウムテラス(能力者)なのだから!!」
「はぁっはっはっはっ!!! ……んあ?」
ピシュン!!
上機嫌な皇乞始点宗の視界を音を立てて何かが通り過ぎたように感じた
何か温い液体が頬を伝う、 笑いすぎて涙でも出たか?
そう思い手を当てて赤い、 血
「血ぃ? 何で? 」
(冬夜ぁ君か? いや何故?)
皇乞始点宗には疑問があった、 とても不思議だ、 地面を見るとナイフ、 冬夜の持っていたナイフだ
冬夜は何らかの方法であの女の呪縛を解きナイフを投擲してきたのだと考察出来る
不思議なのはそれが全く見えなかった事、 と言うかそもそも見てなかった……
警戒を解かず冬夜ぁ君を見てた筈なのに……
「何で、 冬夜ぁ君じゃ無くて全然違ぇ遊具の方向いてんだ俺?」
皇乞始点宗は敵を前にして呑気によそ見をしていた事になる、 しかしいつの間に、 全然無意識だ……
そもそも、 こうやって考えてる間も冬夜の居るであろう方を向けてない……
「ふぅ………」
深呼吸をして、 務めて意識、 ゆっくり首を回して、 皇乞始点宗は冬夜の方を振り返った
そこには……
「わりぃな女将さん、 あんたがどんな人で敵かどうかも判断できない、 けど」
「少なくとも俺は俺で俺の物だ、 あんたもあんたであんたの物はあんたしか無い、 その上今はそこの皇乞始点宗とのタイマン何だよ、 大切な戦いなんだ、 邪魔しないでくれよ」
そう言う冬夜は右手の警棒を振り切っ体制である
その先に土煙が上がっている、 まさかさっきの女を吹き飛ばしたのか? どうやって
冬夜の左手がキラリと光る…… ナイフ?
「ナイフ何故!?」
地面を見ると先程自分の頬を切ったナイフは無い、 傷はあるので幻覚では無い、 どうにかして戻ったのだあの左手に……
屈折している、 明らかに光が冬夜の周りで屈折している
冬夜が皇乞始点宗を睨めつける、 何かやばい皇乞始点宗はそう思った
皇乞始点宗は拳を握る、 己を鼓舞し走り出す
「今の内にくたばっておけぇ!! 冬夜ぁ君!!」
一瞬で距離を詰めその拳を冬夜へ……
冬夜は観察する、 注意深く観察し、 首を少し傾ける
それだけで皇乞始点宗の拳は空を切った
続いてボディにアッパーを打つ、 しかしそれも警棒を打ち付けながら逆回転をし、 カウンターでナイフを一閃
ピシャッ!!
皇乞始点宗の皮膚から血が滲む……
簡単な動作でいなされてしまった
突然動きが良くなった、 それ以前に全く別の相手と戦っているようだと皇乞始点宗は思った
不意に冬夜が後ろを振り返る
後ろの土煙から声が聞こえる
「うふふ…… 嫌われちゃったかしら、 元気があってやっぱり若い子は良いわねぇ、 貴方が私のものになる気が無いなら……」
「強引に私の物にしちゃおうかしら~」
黒髪の女が土煙から出てくる、 少し汚れて居るが上品さは無くならず、 結ってあった髪は解けているが
簪を手に持っている事から自分で解いたのだと分かる
手に持った簪が怪しく光る、 その光が目に入り冬夜と皇乞始点宗は互いに瞬きをした……
「いただきます!!」
ピシュンッ!!
小さな風きり音がなって簪が振られたのだと気づいた、 その後あまりに早く一瞬で距離を詰めたのだと皇乞始点宗は理解した
そして更にそのあと、 目にも止まらない女の攻撃を
「あらぁ~ 見えているのねぇ、 凄いわ避けられちゃった」
冬夜が回避したのだと分かった
さらに女はニ撃、 三撃と簪を振るが冬夜は全て無駄のない動きで交わす
「敵は私も居るぞ!!」
それを傍から見ていた皇乞始点宗も冬夜へ攻撃する
バシィ!!
拳が冬夜に当たった、 しかし不思議だまるで効いた気がしない
その上
ドザッ!!
冬夜に足を踏まれる、 その力は強く、 まるで振り払えない
冬夜が警棒を構え……
次の瞬間とんでもない衝撃を体に受け、 既に警棒を持った右手を振り切っていた事に気づいた
強すぎる衝撃で踏まれていた足が抜け皇乞始点宗は数メートル吹き飛び地面を転がった
何が起きたか分からん
起き上がろうとして
ズキリ
「肋が数本折れてやがる……うぅ」
立ち上がれない
冬夜の方を見る
冬夜の手が女将の白い腕を掴んでいる
「凄い力こんなに強い力で女性を掴んじゃいけないわ……」
そう言う女将だが本当に強い力なのだろう遂に簪をその手から落とした
「私の負けかしら? 貴方は私をどうする気?」
女将は攫った若者をどうしていたのだろう、 彼女は他人すら自分の物にしたいと言っていた
「俺は俺で、 あんたはあんただ、 でも負かして奪うならきっと他人でもあんたの物だ、 それは報酬だからだ」
「なら俺はあんたに勝った、 今度はあんたが俺の報酬だ……」
冬夜そう言うと左手のナイフを女将に突き立てる
そうすると瞬く間に女将は液体の様に崩れ集まり、 1粒の雫になる
冬夜それを躊躇いもなく呑み込んだ
それだけだ、 それだけで冬夜は女将を屠って見せた、 冬夜は皇乞始点宗に振り返る
「さあ邪魔者は居なくなったな、 これでタイマン再開だ、 ……………じゃない、 冬夜? 俺…… の記憶を勝手に見て危害を加えようとした事、 許せない」
「でもそのお陰で思い出した、 強く思い出した、 私を…… 」
その雰囲気で皇乞始点宗は悟った、 冬夜の突然の変化、 今冬夜を動かしているのはあの神秘体だ……
「私の冬夜!! を? じゃないだろ? マリー俺は俺だって」
………………………
「*ありゃ? やっぱり奪いきれないか……」
「そりゃそうだろ俺はそんな事させない、 でも助かったよ、 俺一人じゃ普通に厳しかった」
「*……あんまり驚かないんだね、 私がこうして冬夜の中に居る事に」
傍から見れば独り言を呟く青年、 しかし皇乞始点宗は何となく理解する
(やはり歳月を経てあの神秘体は冬夜ぁ君の内側に入り込んだか……)
そして今表に顕現した、 皇乞始点宗は思案する、 それを気にする素振りもなく冬夜はさらに言葉を喋る
「まあマリーが中で機会を見てるのは知ってたし、 その為に色々準備してたしね、 まあ今思えばそれも必要だったのか? って感じ、 日暮には悪いけどさ」
「*日暮…… 嫌い、 でもどういう事かな? 私と1つになる決心が着いたってこと?」
冬夜は首を横に振る
「違うよ、 そうじゃなくて今のままでいいんじゃない? って事、 俺は俺のままでその中にマリーはマリーのままで存在してる、 一緒に居たい気持ちはあるんだ未だに好きだから……」
「*そうかな? ひとつになる方が良くない? 何が違うの?」
「全然違うよ、 だって俺たちがひとつになったらさ、 一人の人間って事なんだし、 そうなったらさ……」
「*そうなったら?」
冬夜はずっと考えていた、 大好きな彼女とどうすれば一緒に居られるか、 違ったんだ何時も通り、 大切なのは自分がどうしたいかなんだ
「そうなったら、 もう一緒に手も繋げないよ……」
冬夜の内側に潜む神秘体は一瞬何を言われたか分からずキョトンとした
冬夜は続ける
「そうなったら…… その、 でっデートとか行けないし、 あ~んとかも出来ないし…… って俺何言ってんだ、 つまり2人で出来ることが出来なくなって……」
21歳男性、 村宿冬夜、 片想い歴15年以上、 恋愛経験無し
かなり恥ずかしい事を言ったと思った、 でもこの想いは事実なんだ
冬夜の内側で潜む神秘体は……
「ふぇぇぇぇ!? どっ、 どうしよう、 私たちまだそんな関係じゃ! でも嬉しいしあわわわわ」
水の神秘体、 通称マリー、 片想い歴15年以上、 心理的感情本来無し
冬夜の言葉を受けて同じくらい恥ずかしさの中慌てふためいた
「……知ってるかもだけど春にさ、 このスズメ公園で毎年お祭りをやるんだ、 この公園桜の名所でさ……」
「*うっ、 うん……」
「屋台も出て一緒に手を繋いで周ったりさ、 それでお花見したりとか、 楽しい事を2人でしたいんだ……」
「それに、 桜の花びらが鮮やかに美しい薄ピンクで、 きっと透明なマリーに良く似合うんだ…… もう一度その姿を見たいんだ……」
「ダメかな?」
神秘体は想像してしまった、 2人で歩くその道を、 四季折々の色づく景色を共に歩いて、 匂いも味も音も全て楽しんで
そして手を繋いでどこまでも、 互いの温度に触れて歩んでいく……
「冬夜は本質的には自分の事しか見てないから…… だからひとつになろうと思ったの」
声が聞こえた、 それは冬夜の声帯を使って話すのでは無く、 確かに彼女の声で
冬夜の右目が突然熱くなり涙が蛇口を捻ったように流れ出す
冬夜は両手でお皿を作り一滴もこぼれ落ちないように丁寧に受け止めた
目から落ちる涙の最後の一滴が小さく透明な結晶になり手の中の涙溜りに落ちる
声が聴こえる
「私の事好きになって貰うためにいろいろ考えてたのに、 ちゃんと私のままの私事好きになるなんて、 冬夜は欲深だね」
涙溜りが逆巻き形を作っていく、 手のひらサイズの精霊を思わせる少女の姿に……
「じゃ~ん、 冬夜の涙から登場! ふふ、 久しぶり冬夜!」
にこりと笑う水の少女
冬夜は……
「かっわぃ! うわかっわぃい!! ……久しぶりマリー、 ……可愛いな」
「……冬夜ってやっぱり変な所あるよね…… まあそこが好きなんだけど、 それでこれからどうする?」
冬夜はっとしたように皇乞始点宗の方を見る、 皇乞始点宗はその視線に気づくとやれやれと言った感じで屈んで居た体制から立ち上がる
冬夜は疑問に思う
(……まさかとは思うが俺たちの話が終わるまで待っていたのか?)
「まあ、 何にせよだ、 マリー奴は俺達の敵だ、 一緒に戦ってくれ」
冬夜の言葉に……
「もちろん、 任せて!」
そう行ってはにかむ少女も次の瞬間敵を睨見つける
ひゅ~ぉ
風が吹く
皇乞始点宗が口を開く
「待ったのは…… 勝利の為だ、 この公園の思い出を一冊のアルバムに纏め、 全てを読み終わった」
「ミクロノイズが引き起こす現象は能力の権限だけでは無い、 その本質を理解すればさらにその先の景色を見る事が出来る」
「まあ容易では無いがな、 だから時間が必要だったのさ……」
皇乞始点宗は両手の人差し指と親指を立て、 互いに合わせカメラのシャッターを切るように構えた
「古夢中現……」
それは能力の名前
厄介な能力の発動を阻止しようと冬夜は思いっきり踏み込む
冬夜は驚いた、 バネに弾かれたように体が飛び出し一瞬で距離を詰めたからだ
「私が体内の水分を操り瞬発的に膨張収縮をさせ筋肉の力を増大させているよ」
(右手の警棒を握る手が熱い、 最高の一撃が繰り出せる……)
え?
冬夜はその瞬間困惑した、 一瞬で詰めた距離が余りに……
遠く感じたからだ
皇乞始点宗が口を開く
「……思い出上映、 タイトル『雀公園炎獄魔界珍道中』」
「……放映、 開始」
カチッ!!
何かが切り替わる、 いや内容が切り替わる、 切り替わったのは……
冬夜は自身が目を瞑っていた事に気づき、 瞼を開ける
「……夜だ、 夜になってる」
辺りが暗い、 先程間では昼から夕方にかけての空模様だった公園の景色が異様に暗い
「冬夜違うよ、 夜じゃ無い、 それにすごく異様な気配を感じるよ気を付けて」
その言葉を受けて冬夜は辺りを見回す、 これを行った現況はどこに……
「私ならここだ…… 冬夜ぁ君」
ぼうっ! と音がなり炎が地面から吹き上がる、 それは連続して複数の箇所から幾つも吹き出て暗闇の世界を煌々と照らした
明らかに世界のあり方が先程までと違う
「不思議そうな顔をしているが、 大した事はしてないよ、 さっきまでの世界は公園の思い出の世界をただそのまま再現しただけだ、 限定してないので安定せず少しづつ感性の差で世界の形が変化してしまう」
「こっちは限定した、 恐怖の感情、 嫌だった事、 事件事故、 この公園に絡まった負の思い出その数218、 それらが湧き続ける、 そしてそいつらは私を攻撃しなーーーい」
「君は物量差で敗北する」
またか
またなのか皇乞始点宗……
冬夜は思う、 またなのかと
「自分で戦わないのは自力で勝てないと悟ったからか? それとも散々能力の弱さを語っておきながら、 それでも自身の能力を優れた物だと信じているからか?」
皇乞始点宗は腕を組んでこう答える
「これは私の能力なんだぜ? 私の力だ別に他人の力で勝ってるわけじゃない、
分からんのか?」
そういう皇乞始点宗の隣からは早くもハイエナの様な何かが出現する
…………
『児童が野犬に襲われ負傷、 腹を空かせていた為かハイエナの様だったと語る』
…………
四足獣ならではの瞬発力で一気に距離詰める野犬の思い出
その大口が冬夜に食らいつこうと迫る
「なるほどな……」
グジャァッ!!
冬夜は右手の警棒をカウンターで振り下ろす、 それだけで四足獣は熟れた果実のように弾け飛ぶ
それがひとつの雫になり水の神秘体マリーが自身の物として吸収する
「お前凄いって言われたいんだろ、 自分の能力を見せびらかして、 自分は凄いんだと、 感じている劣等感を吹き飛ばそうとしているんだろ」
…………
「……何を言っている、 俺は自分の能力でただ闘っているだけだ、 何もおかしい事はして居ない……」
「勝手な事を言うな」
周囲に10体を超える影が現れる、 それだけじゃ無い、 小さい物から大きいものまで、 幾つも幾つも湧いてでる
怪人、 狂人、 熊に猪、 野犬に野鳥、 暴力団やら暴走族やら、 男やら女やら、 何かも分からない異形やら
ボコボコと出るわ出るわ怪奇郡
それらが統一性をもって一斉に襲ってくる……
「無駄だよ、 私と冬夜のコンビは最強なんだから」
警棒を振り、 ナイフを薙、 無駄のない動きで一瞬の内に数十体の敵を消し飛ばす、 そのいずれも雫となり水の少女が回収していく
またか……
能力のポテンシャルの高さ故に敵をバッタバタと倒していく冬夜を見て皇乞始点宗は思う
またなのか……と
劣等感、 自身は能力保持者であり、 一族の中でも最上位の戦士であるのに、 何にも勝てない
自身の本質に絡みつく弱さ、 それは何故培われたのか
…………………………
「宗、 貴方のその能力は素晴らしいですよ、 私たち家族の思い出は何時までだって未来永劫、消えることの無いものなのですから、 そうだあなたの好きなクルコの果実をお食べ……」
…………………………………
「昔の事だ…… 今の私とは関係ない……」
車輪に棘が着いたバイクと一体化した巨漢を派手に吹き飛ばした冬夜、 強い、 凄い、 それにあの神秘体も……
「さっきから思ってたけどやっぱりこの思い出の能力は大したものじゃないね、 正直温いわ」
水の少女は何気なく言った、 それで気づいた
「わっ…… 私の能力を、 私の思い出を侮辱するなぁ!!!」
私は家族の為に戦っているのかも知れない
一族から逃れ見つかり殺された、 私の家族の為に……