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第三十三話…… 『思い出の景色・4』

これは数年前、 日暮がまだ中学2年生に上がった時の事……


夕暮れの帰り道を日暮は一人歩く、 決して友達の少く無くない日暮だが今に限ってはその場に友人は居らずただ一人の下校となっていた


「あいつら部活で忙しいのはいつもの事だけど、 そうじゃねえ奴らまで新しいクラスの親睦会だ?」


「だいたい小学校から顔ぶれも変わってねぇのにご苦労な野郎だぜ、 うちのクラスはやんねぇみたいで安心したな」


愚痴を呟いては居るが元来日暮は一人の時間が好きだ、 今の状況も何処かワクワクする様な、 何か特別な事が起きるようなそう言った感覚がするからだ


「っても不安だ、 仲良いやつ皆別々のクラスになりやがった、 教師共どういう振り分けやねん、 俺がボッチになったら…… まあどうでも良いか」


先の事は考えても仕方ない、 中二の始業式、 クラス替えを行ったばかりだが他のクラスはでは早くも親睦会だのを行うらしい


元々仲の良かった奴らは不思議と皆他クラスへ、 うちのクラスで親睦会が行われないのはそう言った奴らが皆集まったらしいからだろう


これから暫くはうちのクラスは他クラスからの出入りの激しいクラスになるだろう、 だが日暮と仲の良かった奴らとの関係がこれからも続くとは思えなかった


何故なら日暮は別れに対して未練なく、 出会いに対しての受け入れはとても簡単だった、 こういったクラス替えが行われる度にこの間までの友とは口数が減り、 新たなクラスで友達ができると言った事を自然と繰り返してきたからだ


心から笑いあった事なんて少ない、 友人の知らない趣味話よりも転がる箸の方がまだ面白い


「はぁ…… 俺も大概だな、 ……ってかぼーっと歩いてたら普通に道間違えてておもろい」


何も面白くなかった、 曲がるべき道を曲がらずに直進していた、 このまま真っ直ぐ歩いていくと雀アスレチック場に着く


「雀公園でノスタルジーにでも浸りに行くかな~」


特に考える事も無い、 趣味が合うとかでも無い奴らだったしな


「ゴーブレ推しの奴らは分かってない、 本当におもろいのはクダバス何だからよ」


モンスター討伐ゲームの巨塔、 この時既に3作目であったゴーブレこと『ゴースト/ブレイク3』は学生の間でも大ブレイクした大人気ゲームだ


多種多様なゴーストを広大なマップの中、 これまた多種多様な武器で討伐するゲームで当時オンライン対戦が流行った


打って変わってクダバスこと『喰堕羅バスターズ』は喰堕羅クダラと呼ばれる人類の敵が現れた現実世界が舞台、 基本的に武器はブレードとガンナーの切り替え主体


その他に特殊能力やジャンプや回避のアクションによるスタイリッシュ戦闘が人気を呼んだゲームだ


「廃墟探索もクダバスの醍醐味で独特な雰囲気が俺好み何だけど、 アイツらは皆ゴーブレ民だから、 話合わなかったぜ」


「そーいや、 よく考えたらよぉ、 操作感が遅いだとか、 ストーリーが微妙だとか、 いろいろ言ってくれやがったなぁアイツら!! ……はぁまあ良いけど……」


そんな事を言っているうちに雀公園に到着する、 何だか今日は人払いでもされているみたいに静かだ


人も見当たらない皆帰ったのだろう


「…………………俺も帰ろうかな…………?」


???


「なんで?」


突然帰りたくなって来た、 何故だろう突然帰らなくては行けない気がしてきた、 これ以上雀公園へ近づいては行けない


近づいたら………………死ぬ?


激しい鳥肌が立つ、 突然何なんだよ、 尋常ではない程冷や汗をかく、 恐怖心


恐ろしい、 怖い、 恐怖恐怖恐怖………


「恐ぅ怖ぅ~!? くっだらねぇ、 何で俺が訳も分からん状況にただ恐れっきゃいけねぇんだよ、 ふざけやがって……」


「俺が雀公園に行くって言ったら行くんだよ、 恐怖なんぞ知るかってんだよ」


怖気を震わせながらも前に進む、 それをする必要すら本来無いが、 これは意地だ、 何者かにねじ曲げられそうならば抗ってやろうと思う心の問題だ


「へへへっ、 別にとんでも生物だとかやばめの実験だとかが行われてる訳じゃねぇさ、 いつも道り何もねぇんだよ」


ズカズカと公園へ侵入して行く知ってる、 何も変わらない、 変わった場所なんて無い


誰も居ない公園……


「ん? いや誰か一人居るな、 水飲み場の前で何やってんだ?」


その人物は水飲み場の前にしゃがみこみ水飲み場へと手を伸ばしていた


「喉でも渇いてんのか? ……いや何か様子変だな?」


伸ばした手はじたばたと激しく動いていると言うより……


「もがいてる? 水中で溺れないよう必死こいてもがいてる働きアリみてぇだな」


「ってかよく見りゃあれ村宿冬夜じゃねぇか」


日暮はたいして中の良くない人間はフルネームで呼ぶ習慣があった


「水飲み場の水で溺れる? ……普通じゃあねぇな……」


「ってか透明だが見えたぜ、 水の塊が逆巻いて村宿冬夜を覆っている、 ……そんなこと有り得んのか? 何かやばい」


日暮はダッシュで一度公園の外に出ると公園の道を挟んで隣接する老人宅の庭に不法侵入する


目的は……


「あったぜ破壊用の大槌、 ぶっ壊しハンマーよ!!」


この家に住む老人は昔解体業を営んでおりこのハンマーはその時購入した物であると前に説明してくれた


「耳の遠くなった爺さんに説明しても時間かかるだけだからよ、 人助けの為だ借りてくぜ!!」


ハンマーを肩に担いで公園へと駆ける、水飲み場でもがく村宿冬夜まだ生きている、 だが心無しか先程よりぐったりしている


「水中で息止めてられる時間が長いってのもかなり重要なスキルだよな、 村宿冬夜てめぇはそのおかげで助かったようだな」


そう言いながら一気に水飲み場まで詰めて蛇口目掛けてハンマーをフルスイングする、 その日暮の顔は口角が上がっている


どうしても笑ってしまう、 目の前で起きた不思議な現象に対して、 諦めかけたこの世界でのファンタジーは存在するのかもと


バキンッ!!


甲高い音と鈍い破壊音が混じりあった様な音が響いた


ハンマーが当り蛇口がねじ曲がって水の出がかなり弱くなる、 それによって空中に逆巻いている水の塊も勢いを無くし大半が重力に従い落下する


地面が一気にびしょ濡れになる


しかしその地面よりもびしょ濡れの村宿冬夜はようやく吸えた空気を呼吸を荒くして歓迎していた


「おい村宿冬夜大丈夫か? 何があったか知らねぇがこんな所で溺れ死んだら奇怪すぎて七不思議に入っちまうぜ」


そう語り掛けても直ぐには答えが帰ってこない荒い息が落ち着くまで1分程を要した


村宿冬夜はこちらを見るとようやくと言った感じに口を開いた


……


「はぁ…… 日暮か…… 明山日暮…… ありがとう…… 死ぬかと思っていた所だった…… けど」


「俺は死ぬのはごめんだ……」


危機的状況を脱した村宿冬夜はたどたどしく礼を伝えるが、 何処かその言葉には悲壮感のような物が漂う


そしてたまらずと言ったように小声で呟いた


「……マリー ……マリー ……本当にごめん……」


神秘、 その存在は奇跡だ、 予め力を持った者が誰かの信仰でさらに力を持つ


冬夜と水の塊の関係は神と信者の関係のそれでは無い、 もっと互いに優しく接するように、 もっと肩の荷がほぐれるような、 友達の様な、いや友達に……


「友達になりたかったはずだったのに…… 俺がマリーを変えてしまったんだね…… ごめんマリー……」


真に心の通う友達が欲しかった、 だからこの公園の水飲み場にもう何年も通った、 そのうち冬夜は神秘の存在に魅せられ自分の想いを告げるようになった


それが神秘性を歪め、 その神秘もまた冬夜を欲する、 その綱渡りの様に不安定な関係はまさしく今日のさっき崩れた


バケツに溜まった水が溢れ出すように、 神秘性の歪みは冬夜の想いで動き出すのだ……


「……本当にごめんマリー……」


…………………………


「……謝らないで…… 冬夜……」


…………………………


ぼこりぼこり


膨れ上がって宙を舞う、 透明のそれ


水の塊が噴き上がる


「冬夜…… あぁ冬夜…… 好きよ…… この気持ちは私の本心なの、 冬夜がずっと私を好きでいてくれたから……」


「だからずっと一緒に居たいだけなの、 私をたらふく取り込んで…… 人の半分程が水だから、 半分が私になればずっと一緒……ふふっ……」


水の力は石をも砕く、 蛇口がひしゃげねじ曲がった為に噴き出すのを止めていた水だったが、 コンクリートの水飲み場を破壊し横からドバドバと漏れ出していた


「冬夜は透明で何も無い私に色をくれた、 目には見えなくても心が温まるようなそんな色を、 冷たく冷えきった私を冬夜の温かい言葉と手で触れてくれたからそう思える」


漏れ出る水が逆巻き塊はどんどんと大きくなっていく、 その塊は一定以上のサイズを超えるとさらに形を変える


「どんな形にもなれる、 私は冬夜にもっと好きになって欲しいから可愛くなりたい、 かわいい子は冬夜も好きでしょ?」


水が形作って行く、 それは手、 それは足、 それは顔の輪郭


「髪は長くて、 服装は和服がかわいいよね振袖とか、 100年もっと前の綺麗な娘はこんな格好してたかも」


透明な天女を思わせる姿へと形を変えた、 冬夜は今しがた自身を苦しめたその存在だが美しいと思い見とれてしまった


「苦しいよね、 でも好きな気持ちって時にそういう物だよね? 冬夜の中の水を全部私にするには時間がどうしても掛かっちゃうけど、 けど愛があれば大丈夫!」


この時冬夜は初めて、 自分が接して居た存在が本来関わるはずの無いまさに神々の様な神秘の存在であったと認識した


その瞬間先程の苦しみも相まって激しく……


恐怖した……


「……もしかして、 私の事怖い?」


冬夜はいつもの様に語りかけようとしたが声が出なかった、 恐怖よりもさらに先に理解が追い付いていない


「やっぱりそうなんだ、 冬夜は私の事怖いんだ……」


そう言うと水の神秘は手を冬夜へと向ける、 その手が少しずつ解けた糸のようになり、 何本もの細い水の糸を伸ばした


水の糸は動けない冬夜へと絡みつく


「ふふっ、 でも怖いと嫌いは違うもんね? 嫌いになった訳じゃないもんね? 私に言った言葉は嘘じゃないもんね?」


冬夜に顔を近づけて神秘は話す、 顔は恐ろしい程整った形をしている


「と言うか私がもう冬夜の事好きだからそんなのは関係ないよ、 糸で体中を細かく傷つけてそこから血管を通って冬夜の中に入ってあげる、 これなら溺れる苦しみは無いしね」


糸の締めがきつくなる、 ピアノ線のように鋭い痛みが体のそこら中からした


冬夜は思う、 何をしても何を言っても止まらない、 この存在は自分の中の半分を占める水に置き換わり死ぬまで内側で生きるつもりだと


自分が思っていた存在では無かった


もう自分の心の拠り所では無くなった


それなら……


……


「マリー、 君の事は今でもきっと好きだ、 けどね見た目の可愛さだとか恋人の様な愛だとか、 そう言うんじゃ無いんだよ君に求めていたものは……」


「勝手な事を言うようだけど、 俺が欲しかったのは日々の癒しだ、 君と話している時だけ心が癒えたから、 それだから君と居たんだ」


「俺は俺自身の為に君と居たんだ、 他人に対する行動も全て自分の為に、 もし自分を損ねる様な状況を誰かが作ったなら、 その人とはもう一緒には居られない」


「自分の半分も持ってかれる何て例えマリー君でも許せない、 俺は俺なんだ」


「もう一度勝手な事を言わせてもらうとそんな君とはもう今まで通りの関係では居られない、 場合によってはサヨナラだ……」


村宿冬夜の人間性の方向は多くの人の為になり、 多くの人を助けるが、 それはそれをする自分が好きであるからできる事だし、 強要せずとも見返りは帰ってくる


誰も損をしないで自分を最も自分らしく有る事が出来る行き方、 全ては自分の為なのだ……


一方的な物言い、 しかし対する神秘は動揺ひとつせず


それどころか……


……


「ふふっ、 冬夜の内側、 人に見せない暗い部分…… やっぱりゾクゾクする」


「私は傷つかないしサヨナラもしないよ、 だってそこなんだから私が冬夜を好きなのは……」


小さい頃からずっと見てきた、 人に隠した裏側のその暗さだけを見てきていた、 冬夜のそこを知っているから


「私も私の為に冬夜が好きだから、 何も変わらないよ、 ふふっ、 私達って本当に似たもの同士……」


両者はそれきり何も話さない、 だが目線も離さない、 互いに目を見て離さない


神秘の存在、 彼女のやる事は明白、 既に準備段階をほぼ終えている


冬夜はこれからどうするのか、 全力で足掻くのだろう


どちらにせよこれは2つの存在の戦いだ、 互いに自分の為に勝敗を付けなくてはならないのだろう


部外者の入る余地のない、 人に見せる事の出来ない戦いなのだ……


なのだが……


……


「あの~ あのなんかすみません…… 解決したって事で良いんですかね? 俺もう必要ない? 帰った方が良い感じですかね?」


あまりに場違いな声が静寂を埋める、 派手に登場した割には存在が完全に気薄になっていた男


クラス替えでボッチ気味になった男明山日暮が場の空気に耐えれず声をかける


ギロリッ


双方から睨まれる、 片方は計り知れない秘の目、 もう片方は底知れない深い闇の目


きっと気圧されるのだろう、 普通は……、 だが目の前の2人の様に規格外の者の威圧など本来不要だ、 そんなものが無くとも怖気ず食らいつく闘争心それが……


「あ? てめぇら何睨んでんだ? ムカつく目で見てんじゃねぇぞ……」


日暮の数少ない長所はそこなんだから……


「そこの水道みたいにてめぇらのムカつく顔、 ハンマーでひしゃげさせてやろうか? あ?」


戦いに大層な理由など要らない食らいつく事はいつだってできる事だ


そして日暮は今、 ハンマーと言う武器を持った事によって強くなった気分でいる、 昔から長い物と武器のような物を持つと調子に乗る、 しかも今は絶賛中学2年生、 脳内がちょっとガキなのだ


日暮に対してまず口を開いたのは神秘体の方だった


……


「うるさいなぁ、 お前誰なの? 突然割り込んできて、 これは私達の問題なんだけど」


確かにそうである


「ムカついてるのはこっちの方よ、 お前が邪魔しなければ今頃私は冬夜とひとつになっていたのに、 腹が立ってきたから死んで……」


容赦や躊躇いの無い殺意、 水が圧縮され杭の様な形をとる、 そしてそれは射出された


「マリー止めろ!! 日暮は関係ない!!」と言う冬夜の切実な声が響くがそれは余りにも遅く、 そして神秘体に止まる気は無い


「派手にぶちまけて……」


バッキィィ!!


硬いものに衝突した様な音が響く


「ちっ、 普通の感覚じゃ無いわね、 今生きてる多くの人は怯えて動けないか逃げ出すもの」


「まさか私の水の杭をその大槌で真っ向から打ち砕くとは、 やっぱりイカれたガキみたいね」


「その勇気だけは褒めてあげる、 でもこの話はあんたには関係の無い事、 消えてもらうから……」


その殺意は消えない、 攻撃はさらに激しくなるだろう、 きっと日暮はそれを防げない、 と冬夜は思った


……


「日暮、 もういいマリーとは俺が決着をつける、 お前は帰ってくれ……」


冬夜は半ば諦めの心を表に出さないようにしつつそう言葉を捻り出す


日暮が戦って解決してくれるならそれでも良いかと一瞬思った事も無かったことにしたい


「俺がやらなくちゃ、 マリーそれでいいだろ、 その水の攻撃は俺にだけ向けるべきだ」


また静かに睨み合う2つの視線、 しかしやはり次に言葉を発するのはその2つのどちらでも無い


……


「ごちゃごちゃうるせえなぁ…… やる気が有るんだか無いんだか」


またしても睨まれるしかし日暮は恐れない


「さっきもそう、 気を使って帰っていいか聞いたらそうやって睨みつけやがったからムカついてややこしくなってんのによ」


「それに村宿冬夜、 決着をつけるのはお前だよ、 でも俺は自分が自分らしく生きる為にここまでするお前にちょっと興味が湧いた、 だから手を貸すことは出来るぜ」


そう言いながら日暮はハンマーを構える


……


「ふふふ…… 馬鹿なガキもう何をやっても無駄なのよ!!」


今度は水の杭が5本射出される、 これを捌けるのだろうか


これは殺す為の攻撃だ、 大切なのはそこだ当たれば死んでしまうのだ


向かってくる5本の杭、 だが大切な部分を分かっていれば敵の意表をつくことが出来る


ガシリッ


日暮は肩と右手でハンマーを支えながらすぐ近くの冬夜を思いっきり引き寄せる


つまり……


……


「村宿バリアー!!」


突然の身代わりに冬夜も神秘体も「えっ!?」と驚いた声を出す


水の杭は人を殺せる力がある、 身代わりにした冬夜に当たれば冬夜は死ぬだろう


「派手にぶちまけろってよ、 村宿冬夜ぁ!!」


水の杭が冬夜にぶつかる、 それよりも前に焦った声が響く


……


「ちっ、 曲がれ!! 冬夜を避けて!!」


水杭は途中でグイッと折れ曲がり冬夜を回り込んで日暮へと迫る


「私は水を思い通りに操れるんですぅ!! それが分からないわけ?」


「私を一瞬びびらせやがって、 もうそろそろ死んで!!」


水の杭が迫ってくる、 例えばどれ程の距離追ってくるのだろう、 そして


地面が濡れている、 この地面を濡らしている水、 ペットボトルの水、 俺の体内の水、 それらとこの水の神秘体の操る水何が違うのだろう


きらり、 きらり


空中で何かが反射して光る、 それは水の杭のおしり側から空中に、 糸のように細い水線が神秘体から杭へと伸びているのが見えた


やっぱりそうだ


ふぅ…… 日暮は息を吐いて集中すると


体制を低く、 冬夜の背から前へ駆け出した


……


「そこらにある水とてめぇが操る水、 その違いはこの水の糸でてめぇと繋がってるかどうかって事だな!!」


円を描くようにハンマーを振るう、 水の糸は操るためのパワーの供給をしている物、 ならばそれを断ち切るか一瞬でも遮れば……


バシャバシャ……


水の杭は推進力を失い地面へと落ちていった


そしてもうひとつ違いがある、 それは浮遊している水の塊、 何がそれを神秘体たらしめているか


つまり神秘性の核の様な物があって、 それに繋がっている水は神秘体の塊として形を作っている


核自身への水の供給も断ってしまえればきっと動きを止めるかもしれない


「戦いは賭けの要素を含むとぐ~んと面白くなんだよ、 ぶっ殺してやる水女!!」


その時神秘は自身が怖気を震わせた事を理解した


目の前に向かってくる明山日暮は心底楽しんで居る様で酷い顔で笑っていた


……


「気持ち悪い…… あんたみたいな人間がまだ居るなんて、 私に近寄らないで……」


接近しハンマーを振り上げた日暮、 そのハンマーが握られた手に鋭い痛みが走った


ピッシャァァ


「杭は落としても杭に伸ばしていた水の糸は消えないのよ、 この水の糸も圧縮しカッターの様に鋭く切り付けることが出来るってのに」


「状況が見えてないわね、 汚らしい戦闘狂の狂ったガキめ、 これから散々痛めつけて殺すけど、 どうかあなたの汚い血を私に飛ばさないでよね!!」


5本分の糸が高速で回転しているのが見えた、 その瞬間……


ピシャリ ピシャリ


目に見えない軌道で確かに切りつけられる、 血が飛び散って確かな痛みを実感させる


1本が絡むように右手をえぐってハンマーを落とす


「あははっ、 これでもう終わり、 終わりよ!!」


「あははははは……あ?」


気づき、 神秘体は気づいた、 明山日暮は何かを見ている、 何を……?


紅い美しい夕焼けが神秘体の背に煌めいている


……


「血が吹き出すのも、 痛みが走るのもよぉ、 こうやって戦いの場に立ってるのは俺からしたら新鮮な事だよ」


「ずっと望んでた戦い、 だから死への恐怖何ぞどうだっていい事だ、 俺は見てたんだ変化を」


「痛みなんて気にならんから初めての戦いで冷静に観察したんだよ、 透明なてめぇを沈む夕日に透かしてな」


それは日暮の気づきだ、 近づいて初めてわかった、 透かして初めて気づいた、 透明な内側にはほんの小さな石のような何かが入っていた


石自体宝石の様に透明だが


「光の屈折の仕方と、 うっすら影が出来ている、 それがお前の核だ!!」


その言葉に明らかに驚いた顔をする神秘体


落としたハンマーの柄を蹴りあげて掴む、 あとはフルスイングでぶっ壊すだけだ


ピィーーン


透明な音が鳴って体の動きが鈍くなった


よく見ると水の糸は全身に絡みついて強く張られていた


……


「黙って狙えばいい物を、 せっかく正解だったのにカッコつけてんじゃ無いわよ、 そもそも私の体自体かなりの水圧がかかっている、 人間の体だって取り込めばぺしゃんこに出来るんだから」


「まあ貴方のことは嫌いだから、 切り刻みながら締め上げてバラバラ死体にしてあげる」


聴こえるようにぺらぺら喋った事、 よかったやっぱ結構信用出来る奴だ


「ふふふふっ、 死ねぇ!! ……ん? え? あれ冬夜? どこいっ……… べけぇっ!?」


死角、 日暮の事に意識が行き過ぎて本当に見なくては行けないものを失念していた


「あれ? 冬夜の手光ってる、 私の中に…… 私の核を握って…… 何で手は何とも無いの……」


驚き、 そして悔み、 好きなはずの冬夜の目は敵意に染っている


……


「おー その手光るヤツ、 まじだったんだな~、 村宿冬夜てめぇが不思議な力を使えるって噂は昔からあったけど、 俺もネタにしてた」


村宿冬夜は真面目で良い奴で、 そして……


「祖先が陰陽師だったんだっけ? 信じてるやつ1人も居なかったけどな」


そういう噂があった、 日暮も知ってた、 そして、 それに掛けた


「触れる事の出来ないものに触れる手、 すげぇな」


神秘に対抗する術、 日暮は素直に感心した


……


「そんな大層な物じゃないよ、 それにしても誰も信じてなかったって言う割にはよくこの力に掛けたな…… 明山日暮」


そう言いながら冬夜は神秘体の核、 水の様に透明な石を引く抜く


……


「賭けの要素含むとおもろくなるって言ったろ、 戦いはよ」


村宿冬夜の言葉に明山日暮が答える、 そのやり取りにぎこちなさは既にない


神秘体の方を見ると水の塊が形を保てず地面へと落下した、 その水量は見た目の比では無い程多かった


それと同時に冬夜と日暮を縛っていた水の糸も流れて消えて行く、 傷は消えないが終わったのだ


日暮は冬夜の方を見る、 冬夜は声を出さないものの涙を流して居た


涙の雫が手の中の石へと落ちる


すると小さく声が聞こえた


……


「……冬夜…… 私負けちゃった…… でも冬夜の手、 温かいよ……」


「これから、 この先もずっと私は…… 冬夜の事が好きだから、 私……小さくなっちゃったけど……」


「……冬夜と一緒にいるからね、 ふふっ!」


じゅっわ!


突然持っていた核の石が水蒸気になり、 冬夜の体に侵入した


「ふふふっ、 これからはずっと一緒だよ! 私の事いっぱい考えてね!」


そんな声を残して全て冬夜の中へ


しかし冬夜は特段変わった様子は無い、 それどころか少し微笑んでかなりいい顔をしている


……


「え? 大丈夫なんです?」


日暮は一応問いかける、 すると冬夜はこちらを向いて言った


……


「この程度なら問題無いみたいだ、 さっきみたいに大きな力はもう無い、 でもさっきはやばかった、 日暮お前が来てくれたから俺は今笑ってられる、 まじでありがとな」


「マリーの事は俺も好きだからさ、 好きなままで居られるのは本当は嬉しいんだ、 でも1つ約束してくれ」


「今日の事は俺とお前2人だけの秘密で口外しないで欲しい、 と言うのも陰陽の書物によれば想いは力になる」


「俺がマリーの事を考える程マリーはまた今日の様に暴走するんだ、 俺がマリーの事を好きで居られるよう協力してくれ、 極力二人だけでもこの話はNGだ」


冬夜はそう語る、 話によれば先祖が書き残した書物がありそれを読み解いたため冬夜も知識が有るそうだ


せっかく出会えたファンタジー、 こころが踊る戦いに出会えたが……


……


「まあいいぜ、 俺からしたらこの出会いは奇跡みたいなもんだ、 俺の人生に希望を与えた、 異世界とかもあるかも、 ファンタジーは存在するってわかっただけでもな、 はい終わり!!」


それだけだ、 大切なのはこの胸の高鳴りだ、 今回の戦いは本来俺は関係の無いもの


いつか戦いが起きる時、 その時の為の高鳴りだ


その時が来るまでまたいつも道理の日々だ、 明日からまた適当に生きるのだ


クラスで一人くらい話の合うやつが居れば良いのに……


日暮はそんな事を考えていた


……


冬夜は堪らずと言ったようにポツリと呟いた


「俺は友達が欲しかっただけなのに、 ダメにしちまった、 心の通う気の合う友達が欲しかった……」


その言葉を聞いて日暮は(俺もそうだよな~ わかるは)と思った……


思った…… 思いついた


……


「なあ村宿冬夜、 お前確かそう言えば同じクラスになったんだよな?」


冬夜は日暮の方を向くと頷いた


なるほど……


「大切な質問何だけど、 お前ゴーブレ派? それともクダバス派? 因みに俺はクダバス派、 クダバスの方が面白い異論は認めない」


冬夜は突然何だよ、 と言った顔でこちらを見る、 しかししばらく考えて口を開いた


……


「操作性ならゴーブレ一択……でも」


「世界観、 デザイン、 コンセプト、 大切な部分が完璧なのは断然クダバス、 普通にクダバス派だよ、 うちの学校じゃ珍しいみたいだけど」


日暮は思った、 大切なのは何をするかでも誰といるかでも無い、 結局自分が笑えるかだ


きっと楽しく笑いあえそうだと日暮は思った


……


「冬夜君や、 つい先週クダバスの弐が発売になったのはご存知かな? もう買った?」


冬夜は勿論知っていると答えた、しかし

「まだ買えてないよ…… 早くプレイしたい」と言った


なら……


「俺とさ、 一緒にやらない? もし良かったらだけど……」


日暮はおずおずと言葉を出す


冬夜の顔を見る、 どういう顔だ


……


「初めて言われたよ一緒にクダバスやろうって、 勿論やろうぜ、 やべぇ今回もソロだと思ってたから嬉しいぜ!!」


冬夜はそう答えた、 日暮もテンション上がってきた


……


「俺もまだ買ってないんだよね、 良かったら今から行こうぜ!! 南七電気ならまだ全然間に合うぜ!!」


大手の電気屋、 南七電気走れば10分程である


……


「え? 今からか?」


と冬夜は驚くが


「良いね、 せっかくだから競走しようぜ、 負けた方は自販のアイス奢りでどうだよ」


とのりのりである、 その後互いに頷いて公園を後にし一斉に走り出した


汗をかいて、 叫びながら、 じゃれあって妨害し合ったり、 近道勝負仕掛けたり、 しリとりしたり


南七電気に着いた頃には辺りは暗くなっていた、 互いに初めて小遣いをはたき同じゲームを買った


明日の放課後雀公園で一緒にプレイする事を約束して別れた


その頃には互いに疲れていたけど、 楽しく充実した放課後であったと思った


日暮は家に帰ると無連絡である事を親に怒られた、冬夜もそう、 怪我をした事を正直にそして偽りながら説明した


日暮はその後物置にぶる下がっているナタの所在を確認した


冬夜は後日親戚で現在も自称霊媒師として実績をあげている人の元を訪れ素直に説明し対策を練った


それから2人はあの出来事を通して出会い、 しかしその事は胸の内にしまい


毎日好きなゲームの話で盛り上がった


2人の絆は確かな物になったのだ……

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