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第三十二話……『思い出の景色・3』

村宿冬夜は小さい頃から所謂優等生の半面があった、 勉強は出来るし、 それとは違った部分の閃きなどもあり、 その上責任感もあったので、 クラス、 委員会などでその長を任される事はしばしば


運動も動ける方でありもう何でもござれと言った感じだった、 昔から出る杭は打たれると言われるがそれでも冬夜が打たれる所を見たものは居ないだろう


何故なら冬夜はそれらが出来る事をひけらかさず、 また流行りのアニメやゲームにも触れ友達も多く、 何より問題の種を作らず育てさせない、 小さいながら生きやすい打算的な考え方を持ち、 それでも友達と笑い、 勉学を行い、 元気に遊ぶ事は心の底から楽しいと思っていた


しかしそんな冬夜にもある日突然嫌に感じる時があった、 周囲から真面目と言われる姿が自分の偽り、 演じている姿ではなく自分の進みたい方へ進む本心であると冬夜自身思っていたし、 その本心に対し不満も無かったはずだ


そういった時冬夜は一人雀アスレチック公園へと来た、 そこには冬夜の一番心許せる時間がある


夕方の朱色と黄金色が混じり合う時間帯、 風の揺らす広葉樹の葉音、 それに混じり合うように透明で冷たい鈴の音の様な綺麗な水音が聴こえる


その水音を聴く時冬夜は心が安らぎ、 また日々を頑張ろうと思えた、 その水音さえあればどれだけの責務も負えるし、 そこに生じる苦をそれでもそれ含めて楽しいと思える気持ちに出来る


その水音の事を自分以外の誰かに話しても不思議な顔をされる事を知っている冬夜はその安らぎの時間をただ自分一人の心地よい物としていた


……


ペラリ、 ペラリ、 紙をめくる音が鳴る


「ふぅ~ん、 真面目な人間なんだなぁ冬夜ぁ~君は、 もうちょと手を抜いて生きても誰も文句言わないと思うけどね」


流れる思い出の背景とそれが纏められたアルバム、 この世界へと誘われた者の思い出も自由に知る事が出来る、 それが猿帝血族が一人、 皇乞始天宗のうこつしてんしゅうの能力


「しかし冬夜ぁ君の場合そんな自分と言う人間をしっかりと好きになれている、 素晴らしい事だね、 自分を形作る物は自分の生き方」


「自分とは? と言う疑問を常に自分自身に投げかけ変わり行く自分の自身の輪郭、 その形を知っているんだ」


「自身の輪郭は自分が自分でいる為に掛けているある種のリミッターであり、 それを認識せず簡単に超えたり必要未満でしか力を出さないなどすると何処かに無理が生じる」


「それは積み重ねで一つの失敗になり自分の事が嫌いになったりもする、 大切なのは自分とは常に変化して居る、 そして問いかけによりその時その時の自分を知って行く事が良い生き方ねぇ~」


パタンッ アルバムを閉じ思い出の景色を見る、 少し時間が飛んで公園の水飲み場の蛇口へと近づいて行く冬夜の姿を見る


「さあさあとっても人間らしい冬夜ぁ君よぉ、 我々に人とは何かを教えてぇな、 そしてその水飲み場やっぱり何かあるんだね?」


「それも気になる教えてぇくれぇ~」


……


冬夜はこの公園に来るといつも同じことを思う、 四季折々の生み出す色合いが、 日毎に変わる環境変化が、 多くの要因が生み出す美しさは全て綺麗なドレスの様だ


冬夜は明らかに手入れのされていない水飲み場へと近づくと蛇口を捻り水を一口口に含む、 その後蛇口を絞めずただ吹き出す水を眺めている


夏は終わり少し涼しい秋の景色、 優しい彩りの絨毯を透明な水を通して見てみれば……


……


「はぁ~? 何やってんだ? 冬夜ぁ君のこの行動、 水を出しっぱでボートしてやがる? 冬夜ぁ君ってもしかして変な所ある?」


「まあ良いけどさ、 ……ってか何かボソボソ喋っているぞ? 何言ってんだ?」


確かに冬夜は水を見つめながら小さく口を動かしている


「もうちょい近づいて聞いてみるか」


重い腰を上げ皇乞始天宗は冬夜のすぐ近くまで移動する、 この思い出の景色はただの記憶のリピートだ、 この時起こった事以上の出来事は決して起こらない


記憶の住人が観測者を捉えることは決してないそれがこの能力『古夢中現コムチュウゲン』の効果


「その代わり私もまた彼に何も出来んがね」


能力名『古夢中現』、 多くの人間の思い出の集合世界に誘い込む事が出来る、 日暮れは今そこで戦っている


その上でさらに能力を発動するとその個人の記憶すらありのままに使える、 今の冬夜の様に、 しかしこちらでは双方何も出来ない、 当の皇乞始天宗ですら出来るのはただ見て知るのみ、 しかしそれでいいのだ


「それよりブツブツ何言ってんだ?、 もっと近くで聞かせろ」


冬夜の顔のすぐ近くまで耳を近づける、 1字1句聞き逃さないよう、 耳に手を当てて……


……


「……イだ……キレイだキレイだキレイだキレイだキレイだキレイだ、 あぁ君は本当に綺麗で美しい!!」


冬夜は吹き出す水を見詰めながら狂ったように呟いている


……


「あ? 大丈夫かこいつ、 イカれた野郎だったか? 日暮ぇ君の方が良かったか? いやあの野蛮人間ではダメだ、 だが冬夜ぁ君、 君もおかしいの? 人間ってどっかおかしくなる物なの?」


人間らしくない闘争心、 殺しへの躊躇いのなさ、 そんな物は要らない、 だから日暮は放置してる


冬夜は人間らしい部分がとっても素晴らしいので教えて貰おうと思ったが、 目の前でブツブツ続ける彼を見ると見ては行けない様な物を見ている気分になる


「人には表と裏があって表が裏を、 裏が表を支えている、 表の冬夜ぁ君は真面目でなんでも出来るが、 この裏あっての事であったか」


「逆に感心して来た所だが日暮の方でも見に行こうか……」


そう思った時だった


……


「落ち葉の優しい色合いも、 淡い秋草の色もキレイだよ、 良く似合うでも一番は……」


冬夜がイチョウの葉を1枚拾い水に重ねる


「鮮やかなイチョウの黄色が透明な君にはとっても美しいドレスアップだよ、 美しいね……」


「本当に綺麗だ……」


………………………………………


………………………………………………………


……………


……「ありがとう……冬夜……」……


…………………………


………………………………………


水が、 吹き出す水が重力を無視して逆巻いている、 それは徐々に質量を持った塊の姿へと形を変えて行く


そしてそれは今言葉まで発して冬夜に語りかけたではないか


……


皇乞始天宗はそれを見て興奮した、 自分の今だ知らない神秘に触れた様に思ったからだ


「おほほ~ 何だこれは、 何か不思議な力が働いているぞ、 しかも人間の記憶を元によればこの世界がこういったスピリチュアル的存在を認識したのは一月程前、 この冬夜ぁ君の思い出はもっとずっと前の記憶だぁ」


「つまりこの水の何かは我々がこちらに来る前からひっそりと存在していたこの世界の真の神秘なのだ、 人の進化に信仰は欠かせない、 その神秘性が人の心を動かす、 ならばその神秘を知る事で人の事をもっとよく知れると言う事」


皇乞始天宗は喜んだ、 この神秘体の思い出の記憶も読めたなら、 きっと今よりもっと多くの事を知るだろう、 それを我らが猿帝に伝える事、 それは大変名誉な事であった


「よぉーし、 よぉーし、 さあ思い出を覗かしてくれ、 私に教えてくれ、 覗かせろ古夢中現!! 発どっ………………?」


皇乞始天宗が能力を発動しようとした時、 目が合った気がした


水の塊と目があった気がした……


……


「ねぇ冬夜…… この人は冬夜のお友達?」


その質問に冬夜は答えない、 この質問は思い出にないからだ、 本来この時こんな質問は存在し無かったから冬夜の記憶にないのだ


決して交わることの無い記憶と観測者の関係、 そのはずなのに


「……違うみたいね、 思い出、 冬夜の記憶なるほどね」


皇乞始天宗は困惑していた、 この世界に初めからある神秘、 今まで人が存在すら感じれなかった者達


目の前の水の塊、 それは自分の想像をぶっちぎりで予測不能な存在、 皇乞始天宗がまだ知り得ない存在だった


「冬夜の敵…… 許せない……」


「死んで………」


……


ピシャッ!!


体が無数に切り裂かれた、 見えない不可視の攻撃、 いや見える水だ、 水が物理法則を無視して空中に滞在、 うねり水圧カッターのような鋭さで切り刻んでいるのだ


「何なんだよ!! 有り得んだろうがぁ!!」


左右から挟みこむ様に迫る水圧カッター、 その速度は異常、 何とか反応し腕で防御する


腕を切りつけられながらも水の塊を観察する、 見る事は知る事、 皇乞始天宗もまた五感に頼り情報を得ている


だが、 遅い、 目の前の異常に対してそれは余りに遅い


足に冷たい感覚がする、 水が紐のように伸び足を締め付ける、 相当な水圧が掛かっているようでまるで動けない


更に大量の水がビー玉程の大きさまで圧縮される、 やばい、 それはやばい


打ち出される力の塊、 これを喰らえば体が滅多やたらに破壊され私は私は死に絶える


……


「派手にぶちまけて……」


冬夜の記憶に存在する謎の神秘体、 知らなかった油断していた、 どうしようも出来ない存在


……


「だが!! 知っているぞこの場合は逃げる事も戦略のひとーつ!!」


「古夢中現、 記憶再生を一時解除する!!」


ばぁぁぁぁぁぁんっ~~~


世界が歪に歪んで崩れてい行く、 今日暮の居る公園の思い出の世界に戻ってしまうが、 日暮もとっくに死んだ頃だろう


ぱりぃぃぃぃんっ!!


激しい音がなって気付く目をつぶっていた事に、 目を開ければそこには所々おかしい公園


戻ってきたこの公園、 我らが猿帝に命じられ人間の観察の為に山を降りてきた


そこで巨大な鳥の超越者に襲われ仲間を失いながらも逃げ込んだのがこの公園


既に一月近くこの公園を拠点に私は一人人間の秘密を探っている


「はははっ、 ははははっ!! 逃げ切ってやったぞ、 死ぬかと思ったが、 なんなのだあれは、 あの神秘体、 そしてそれと触れ合っていた冬夜ぁ君よぉ!!」


「知りたいぞもっと多くを知りたい!!

はははっ!!」


猿帝血族、 皇乞始天宗は今上機嫌だった、 知り得ない物を発見した時知りたいと思う、 知る事は楽しい事だから


「はっはっはっはははは!!!」


今とても機嫌が良くって……


だからそんな声聴きたくない


……


「どけどけどけどけ!! 」


え?「ん?」と皇乞始天宗は思った


声のした方向に振り返った


そして驚いた


「くっそ猿野郎!! てめぇこれどうにかしろボケ!!」


明山日暮だ、 生きていたのかと思った


しかしそれよりも


……


「え? 何あれ?」


クマだ、 でも自信が無い、 多分クマだ


ああそうか、 多くの人間の思い出が全て集約してしまったんだ、 なるほど


……


「この化けもんを早くどうにかしやがれ!!」


………………………………………


「唸り声で大地が震えたらしいぜ!!」


ぐきゃぁぁああぁぁぁあああ!!


世界が揺れた


「すげえでかかったらしいよ、 トラックくらいって言ってた!!」


大型トラックと同じ大きさのそれ


「頭は双頭で、 羽が生えてて、 しっぽの先端にはブレードが付いてんだ!!」


「なら爪も鋼鉄製で、 牙も付いてるよな!!」


「あったりまえじゃん!! 背中に大砲も背負ってるぜ!!」


クマの顔が一つの胴に2つ、 一対のドラゴンのような羽も生えている、 しっぽの先端は勇者の剣のような物が着いている


爪は鈍く光り地面を穿っているし大きな牙も生えている


その上巨大な大砲を背負っている、 馬鹿だ、本当に馬鹿な想像をするガキどもだ


「炎も口から吐いたらかっけぇよな!!」


ほんとに馬鹿だ、 因みにこれを言ったのは


「日暮、 クマが炎吐くなんて、 最高だな馬鹿日暮!!」


俺だった……


……


ぐがぁぁぁぁああああ!!


恐ろしい想像から生まれた化け物の咆哮で思い出世界の遊具が激しく揺れる


その後翼をはためかせ、 何とその巨体は浮遊する


口内に炎が揺れる


……


「くっそまた来るぞ!! ふざけやがって!!」


そう叫ぶ日暮を尻目に皇乞始天宗は辺りを見回す、 よく見ると思い出の世界の至る所から煙が立ち込めている


既に何度も炎攻撃をしているのだろう


貯め、 口を大きく開け、 炎を吐き出す、 その熱を肌に感じたタイミング


「ブレイング・バースト!!」


空気の圧が正面に打ち出され、 向かって来る炎と衝突、 吹き荒れる暴風が大質量の炎を渦まかせ、 一帯の気温が一気に上がる


大き過ぎる炎が皇乞始天宗にまで向かってゆく


……


「馬鹿!! 俺は敵じゃないぞ!! 古夢中現、 思い出顕現、 公園での水浴び!!」


子供達がはしゃいで水を各々持参した道具で水を掛け合う


「水水水!! 襲ってこない水は素晴らしい!!」


炎が消化され水蒸気が立ち込める


そこへ……


……


「呑気なこと言ってんじゃねぇ!!」


皇乞始天宗に対し日暮が飛び蹴りをかます


皇乞始天宗は「ぐぎゃぁ!!」と情けない声を出す、 成程な


「てめぇヒィジカルは対して強くねぇみてぇだな、 能力に頼りすぎ何だよ!!」


猿野郎を倒せば全部解決だ……


くがぁぁぁぁああああ!!!


大地の震え、 そうも言ってられないか


猿野郎を警戒しつつクマの化け物を見る、 手を上げて爪による引っ掻き攻撃


「今!! おらぁぁ!!」


タイミングを見切って全力回避、 回避は早くても遅くてもいけない


そして、 多分次はしっぽ、 クマとは思えない長いしっぽに勇者の剣が着いている


しっぽ剣による刺突、 それが打ち出される、 だが


「ふっ、 っしゃぁ!! 見切れんだよ!!」


何故なら


「鳥野郎の手刀陣ってのの方がダンチで速かったからな!!」


暗低公狼狽の手刀陣の速さに比べればなんて事は無い


そして…… 誘っていたのだ、 この場所に連れて来たかったのだ


「終わりだぜ!! この何でもありの思い出世界、 誰かの想像すらかなってしまうってんならよ!!」


クマ野郎の手の下には小さい子が遊ぶ砂場があった


「雀公園七不思議!! 砂場の巨大流砂!!」


…………………


「ねぇ知ってる? 砂場で大きな山を作って帰った子が次の日公園に行ったら、 その山は跡形もなく無くなってて、 変わりに渦巻く砂の形が残ってたんだって」


「きっと地底の王が飲み込むんだ、 きとっとそうだ、 地底の王が引き起こす全てを飲み込む、 大流砂だ」


…………………


ゴォォォォォォォォッオオオオオ!!


飲み込む、 地底の王の大流砂が発動する


それでも大き過ぎるクマを飲み込むまでは時間がかかるだが、 固定出来ればそれでいい


ぐがぁぁぁぁああああ!?


クマは既に前足をとられ体勢が悪く突然の自体に対応出来ていないようだ、 ならばここが狙い目


「ブレイング・ブースト!!」


この巨体を打ち倒すには手っ取り早く首の骨を破壊する事だ


ブーストでジャンプ、 軽くクマの頭上の遥か上まで飛ぶ、 ナタを構える


2つある顔のひとつがこちらを向く口内には炎がチラついている、 その上しっぽの剣は今にも向かってきそうである


「ちぃ!! ここが正念場!!」


まず先にしっぽ剣が向かって来るコチラを目指して一直線


それに対してナタを斜めに、 しっぽ剣の肌をナタで滑るように受け、 力を逃がす


勢いそのまま俺を通り過ぎるしっぽ剣を手で掴み、 そのしっぽ剣としっぽ部分に狙いをつけナタを振る


「牙龍!!」


しっぽが断ち切れるとクマは短い悲鳴を挙げる


だが終わりじゃねぇぞ


「勇者の剣!! 良いもんGETしたぜ、 だが元々はよぉこの剣のデザイン落書き帳に描いたのは俺なんだよクマ野郎」


クマはこちらの話など聞く気なしとばかりに口をがっぽり開け


ゴォォォォォォォォ!!!


そこから大質量の炎を吹き出す、 だがそんな事はもう関係ないぜ


「てめぇは知らねぇ、 友達も知らねぇ、 俺はこの剣描いた時設定も考えたんだよ……」


「叫ぶんだぜ、 こんなふうによ!!」


「勇姿電雷の大剣よ!! 我が眼前に立ちはだかりし敵を打ち砕け!!」


「サンダー・ビクトリー・トルネード!!」


大声で叫ぶ、 もうとにかく叫ぶ、 インターネットで難しい言葉ちまちま調べて考えた、 技名も詠唱も…… だせぇ……


だがその最強の剣は使用者の呼び掛けに応える


暗黒の雲海が空を多い、 吹き付ける風が質量をもって塊となり、 巨大な渦巻きになる時、 空より降りし雷その地に落ちる、 されば巨敵を砕く力ここに現る


そういう設定道理、 雷渦巻く竜巻が発生しクマの体を破壊、 炎をも消し飛ばす勢いに俺自身ビビった


そして、 その後にはズタボロのクマと、 その2本の首の生える所、 そこに立つ日暮の姿


「さよならだぜ、 とんでも生物、 思い出の中に消えな」


片手に勇者の剣、 もう片手にナタを構える


「ブレイング・ブースト!! 加速しろ勇者の剣!!」


「そして喰らい尽くせ牙龍!!」


片方の首を絶対的な力を有した剣が断ち切る、 もう片方を信頼と実績のナタが敵の首を丸ごと喰らう


悲鳴も無かった、 巨大なクマの化け物は静かに思い出の中に散った、 それは誰かの思い出だ、 強く願ってそれでも現実になる事は叶わない


そういったものなんだ、 それが正しい


握られた勇者の剣が消える、 そうだったな確かこの剣はあのクマの一部で倒したら消えてしまう、 そういった設定だったな


「あ~ちくしょう、 でもよぉクマは敵だったが本当はよぉ、 自分で考えたモンスターってのは倒すんじゃなくて」


「背中乗ったり、 友達になって話したり、 そういう事考えて想像すんだよ、 なのにこの俺に、よくも猿野郎、 俺自身の想像を破壊させたな!!」


「散々コケにしやがって、 ぜってぇぶっ殺してやる!!」


想像とは実現しないから美しいままで居られる、 現実にしてしまえばなんて事ないと思うだろう、 想像だから素晴らしい、 素晴らしいままで居たかった


それに対する怒りでボルテージが振り切られる、 だが戦闘の思考は怒りを逆に冷静さへと変える事が出来る


先程まで猿野郎がいた所を見る、 居ない、 俺が戦いに気を取られている事をいい事に逃げやがった、 だが近くにいる


ここはクマから逃げ回ったせいでアスレチック場からバスケット場を挟んだ小さな池のあるエリアだ


そこから周囲を見渡すと見つけた、 猿野郎は既にアスレチック場がある辺まで戻っている


だが、 あの動き迷いが感じられない、 目的のある動きだ、 何かある


「行方のわかってねぇ冬夜と関係あんのか?」


猿野郎は出てきた、 だが冬夜は……


とにかく猿野郎を追いかけ走り出す


「無事で居てくれよ、 冬夜……」


……


はぁ…… はぁ……


やばいやばい、 恐ろしい、 あの日暮とか言う人間のガキ


「あのバケモンのクマを倒しやがった、 それにその前に犯罪者君も倒しているみたいだし、 闘争心が強すぎて叶わんわ」


「だが距離は取ったぞ、 それに見つけた」


皇乞始天宗は日暮から距離をとると同時に目的の為に全力で走っていた


その目的、 目の前数メートルの地点には冬夜が倒れている


(まだ意識を取り戻していない、 深く覗きすぎたか、 まあ良い)


近づいて見てみる


「さっきの冬夜君の世界が崩れる瞬間、 あの神秘体の声が小さく聞こえた、 水飲み場で会おうと、 微かにそんな事を言っていた事を私だけが知っている」


「そして水飲み場はもう無いが、 思い出顕現!!」


あるはずのない水飲み場が姿を表す


「この世界ならば可能だ、 神秘とは知らないからこそ神秘、 1度知ってしまえば、 理解してしまえば力として扱う事も難しくない」


「神秘とは世界のシステム、 使い方が分かれば利用できるぞ、 あの透明の力是非欲しい」


皇乞始天宗は力を欲していた、 思い出の力は猿帝血族の中では最弱の力であるとみなに言われた


猿帝血族以外の生物たちは過去に拘るものは少ない、 彼らの育った環境は日々変化する強者の世界、 誰も思い出など持っていないのだ


皇乞始天宗は劣等感の中で生きていた


「だが!! この力を持てばもう完璧よ、 誰も私を見下せない、 猿帝のお役にも立てるだろう」


「さあさあ、 冬夜ぁ君とその水に住まう神秘体よ、 思い出を私に見せてくれ、 教えてくれ!!」


未来が明るい様に、 上機嫌な皇乞始天宗、 彼の生は今ここから始まるのだ……


……


「……さっきから聞いてりゃ…… 誰の思い出を見るだってバケモンが……」


冬夜が立ち上がる、 何とか意識を取り戻した、 冬夜の目、 敵を睨みつける目だ


「くっそ…… せっかく日暮と約束して記憶にタガ掛けてたのに、 鮮明に思い出しちまったじゃねぇか……」


「やってくれたなぁバケモンが!!」


冬夜が自分を鼓舞する、 思い出を軽く見られたんだ、 もう怒るしかない


……


「日暮ぇ君みたいな怒り方をしないでくれ、 もっと理性的になってくれると凄く君の事をもっと好きになれそうだのに」


その言葉、 一方的な物言いに冬夜ももう躊躇わないと心に決める、 大切な自分の気持ちのために戦う、 今なら日暮の戦う理由も理解出来ると冬夜も思った


……


「覚悟しろよなぁバケモン……」


両者が睨み合いながら構える、 その瞳、 冬夜の瞳が一瞬波打た事に気付いた物はまだ誰も居ないだろう……

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