第三十一話…… 『思い出の景色・2』
人間の進化の過程はなかなかに面白い、 初めは我々のように猿であったと言われているらしい
人間は動物の強さを語る時、 それぞれの特出した能力を語るだろう、 鳥はその羽で空を飛び、 サバンナのチーターは時速100kmを超える速さで駆ける、 甲殻類や亀、 アルマジロなんかは硬い甲羅を持ち、 虫は多彩な能力を兼ね揃えている
しかし人間は普段子供たちにこう教えを説くという、 「人間の強さは団結して皆で強力出来る事、 共に戦える事」だと
違うだろう、 きっとそうでは無い、 生物には進化の過程で強みが生まれるものだ、 何者かが共に居なくては強みが無いなどあるものか
それに団結と言うならば、 蜂や蟻の様な超個体と言われる支配系の頂点がいる
であれば人間の強みは、 それは手の器用さだ二足歩行で立ち道具を活用して来た、 指を動かす事は脳への刺激になり、 それは思考能力の向上を意味する
人が考える生き物になったのも手の器用さがもたらした、 二足歩行だからこそ齎された進化の過程なのだろう
ならば、 二足で立ち道具を使う我々も人間の様にいつか生命のぶっちぎり頂点態に君臨できる
その為の秘訣を人間共から学ばなくては、 それを知った時我等が猿帝もさぞ御喜びになるだろう
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「日暮!! キサマキサマキサマ!! ブチブチってころころにしてやる!! へぇへへへぇへ!!」
冬夜がナイフで斬りかかってくる、 躊躇いのない連撃は確かに急所を狙った攻撃だと分かる
日暮は考える、 目の前の親友を見て、 まるで別人になったようだ
「へへぇへへ!! 覚えているかぁあの時!!」
「中二の時、 お前とこの公園で会った時の出来事!! 俺はあの時!! ………? あの時……?」
「俺は確か…… あの時…… 誰かを…… これから日暮、 おめぇを殺るように…… ??? ?」
「思い出せねぇし、 分からねぇ、 見えねぇ…… あの時の様にィ!!」
……
「……てめぇ…… やっぱ冬夜じゃねぇな、 いやそうだったとしてももう手遅れだ、 約束は守るぜ」
「……ブレイング・ブースト!!」
急激な加速と共にナタを振り下ろし冬夜を袈裟斬りにする、 いや……
……
「ギギャァアア!!」
紫がかった様な血が全身から吹き出し徐々に猿の様な顔が浮き出てくる
……
「俺を騙すならもっと上手くやれ、 っても何かこれどういう状況……」
そう呟く、 しかし言い切らない内に目眩の様な感覚がしてその場に伏せる、 直ぐに収まり顔を上げると
……
「あぁ…… 気分悪いぜ、 友人を殺しちまった……」
そう言いながら虚ろな顔で下を向く冬夜の姿があった、 よく見ると先程殺した冬夜、 その形を取っていた猿は消えている
意味が分からない、 ただひとつ言えるのは
……
「お前、 冬夜、 それ俺のセリフ、 お前を殺したのは俺のはずだろ……」
その日暮れの声にようやく冬夜は顔を上げ「うわっ! え??」と驚いた声を上げる
……
「お前、 生きてる……? 俺がお前を」
冬夜は訳が分からないといった様で困惑している、 日暮もそうだが少し状況を照らし合わせる
日暮は冬夜を、 冬夜は日暮を殺したと思っている、 だが日暮の場合その後変貌する死体とその死体が消える所を見ている
何となく分かったな
……
「落ち着けよ冬夜、 お前が殺したのは多分俺じゃない、 俺たちは何かを見せられてた、 何時からかは分からないが、 俺たちは今何者かに既に攻撃されてる」
「俺も狂ったお前を殺した、 だがそれはその後形を崩して猿みたいな顔になったんだ、 そして消えた」
「奇妙だが幻覚に近い何かだったと思う」
その言葉を聞いた冬夜はまだ動揺しつつも冷静になり始める
……
「幻覚…… 日暮も見ていた、 なんでそんな事お前に分かんだ?」
日暮は一時的な結論を付けるのが早い、 主観的な判断で適当な答えを出してしまう、 それは次の行動を取りやすくするが、 間違っていた場合はおおきく道が逸れる結果になる
冬夜は考えに考えて最も適切に近い選択を選ぶ努力をする性格だ、 その性格は間違いが少なく、 また頭の良い人間は新しい要素を発見する事で新たな選択をも生み出せる
冬夜の性格上擦り合わせに時間が必要なので既に落ち着いた結論を出す日暮を疑問に思ってしまう
しかし2人の付き合いは長い、 無論互いの性格は理解している、 日暮は冬夜の疑問に答え信頼を得なくてはならない、 日暮は脳を回し、 考え……
……
「俺がお前に負けるわけないだろ冬夜、 俺の方が強い、 例え本当に殺し合いになったって俺が勝つ、 これは絶対」
考えてない…… もう思ったことを言うだけだ、 日暮は昔からそうだった
冬夜は日暮の目をみて……
……
「はぁ…… いや俺はそんな事どうでもいいぜ日暮君よぉ、 そんな事ばっか気にすんの本物ぽいし、 はぁこんな状況で、 だいたい俺の方が強いかも知んねぇだろ、 試してもみねぇで……」
心底呆れたような声、 しかしどこか落ち着いた声になっている
……
「お? 試すか? 試しちゃう?」
日暮は勝手に挑発と受け取りそう言うが冬夜はさらに呆れた顔で「しねぇよバカ」と言ってため息を吐く
……
そして考える様に、 そして試すようにこういう
「日暮、 約束覚えてるよな?」
冬夜の問、 約束……
……
「言えねぇなぁ、 それは……」
日暮は答えられない、 沈黙が流れる
……
「ふっ…… やっぱ日暮だなお前、 言えねぇ事だからな」
それは約束だ、 あの日のあの出来事を何があっても二度と口にしては行けない、 それは2人しか知らない事で例え2人しかいない場所だろうがそれを口にしようとすれば一人が殺してでも阻止する、 それが約束
日暮が「約束だからな……」 と答えると冬夜も「約束だから……な」と答えた
これは二人以外知る由のない事で……
……
「な~~んか、 あるねぇ、 知りたい、 知りたい、 教えて欲しいなぁ~~」
声が響く、 上を見ると猿の様な何かがアスレチックの屋根に胡座をかいている
「約束ってなんだい? 君達の思い出の中でもついぞ形に出来なかった、 精神力が強くその記憶を押さてえいるんだねぇ、 いや凄い、 これは凄い」
「人間の精神力の凄みだね、 そういうのなんだ、 そういう事が人間性を作っている、 知りたいねぇ」
喋り続ける猿、 大声で喋ってる訳では無いだろうにその声はよく通る
「私は知りたいだけなんだ、 人の心を知りたい、 君達は今この状況がどうなっているのか、 それを考えるだけで頭がいっぱいだ、 あと私を倒す事かな」
「それじゃ知れない、 大切な部分は人間の思い付き、 トリッキーな閃き、 だから私の能力を予め教えておこうと思っている」
「もう既に予めじゃねぇだろ」と小声で冬夜が呟くそんな事が言えるくらい頭は冷えた様だ
「私はある力を持っている、 能力と言ってもいい、 それは、 相手をその相手自身の思い出の世界に誘う事、 君達は自分の記憶の世界で戦ったんだ」
「日暮ぇ君? 君は実は最近ここに来てる、 一瞬通り過ぎただけかもだけど、 だから遊具が変わっていた事を知っていた、 だから思い出に遊具の変化は無かった」
「冬夜ぁ君…… の記憶は面白い、 あの水飲み場はもう無いらしいじゃないか、 撤去されてしまった、 しかし思い出に強く残っていたからあそこにあった」
「2人共別々の景色を見てた、 冬夜君は日暮君が既に存在しない水飲み場に疑問を抱かなかった事、 それと例の記憶、 日暮君の方は分かりやすかったね、
冬夜君が明らかに別人のようだった」
日暮は考える、 この能力は景色を見せるだけの物? それともあの中で負けていたら死んでいたのか?
……
「思い出の景色を見せるだけなんて、 大した能力には感じないぜ、 本体を攻撃して倒そう、 日暮あそこから奴を落とせるか?」
冬夜はアスレチックの屋根を指差す
……
「いや、 この距離じゃ少し遠い、 アスレチックに登って攻撃しなくちゃ俺のバーストの有効射程じゃねぇ」
バーストの射程は最大でも8メートル程、 アスレチックの下からでは障害になる縄などが多い、アスレチックごとなぎ倒すのも時間が掛かる
「だが敵に近づくのは怖くねぇから、 ちょい行ってくる」
日暮は歩き出す、 一歩前へ…… その時少しだけ目眩に似た感覚が起こった
……
「ふぅ~ん、 人を信じ安心してしまうと言う心の動きは心に安心を齎すが、 その反面何処かに落とし穴があるものよ」
その声の意味は分からなかっただが、 何かおかしい
(アスレチックの遊具がおかしい、 滑り台が二つ、 古い物と新しい物が、 混じりあっている)
日暮の視線の先にはゲームのバグが起ったように今と昔が入り交じって居た
……
「おい冬夜、 気を付けろ何かおかし……いっっ!!」
背中に鋭い痛みが走る、 振り返るとナイフを持った男が腕を伸ばし背を突き刺している
痛ってぇ、 だがもっと気になるのは
「てめぇ、 誰だ、 冬夜は何処に……」
男は「へへぇへぇ」と何かに酔っ払ったように震えた笑い声でこちらを見ているだけだ、 その代わりに猿の敵が答えを言う
……
「見りゃ分かるよな、 この世界も思い出の世界何だよ、 冬夜ぁ君とはまた別々にさせてもらったよ、 その代わり君にはその男で我慢してもらおう」
「彼が分かるかな? 思い出を読むと内容が分かる、 その男は約10年程前このアスレチックに出た不審者、 酒に酔ってナイフを振り回し数人を切り付けた犯罪者さ、 この公園自体の記憶なんだ」
何時からそうだったのか、 さっきと同じで術の発動の感じが無かった、 何にせよまた冬夜とはバラバラにされたらしい、 冬夜は大丈夫だろうか
……
予測不可能の能力、 何が起こっているのかいつそれは起こされるのか、 分からないだが、 予測不可能である事は過去では無い
この思い出を見せる能力は過去の産物、 本当に予測出来ないのは未来の軌道、 それに進み続けることが猿達が求める人間の強さ、 人間性だ
「ちぇっ!! 何にせよぶっ殺してやら良いだろ、 不審者だあ? 確かに居たなぁ俺がまだガキの時か、 あの話聞いた時俺はてめぇみたいな無法者を合法的にボコボコにする想像ばっかしてたぜ」
「ブレイング・ブースト!!」
加速したナタを不審者に振り下ろす、 その速度敵を討ち取る決定打、 歪に歪んだナタは敵の肉体を穿ち食い尽くす
…………はずだった
……
へへへぇ……
にやりと笑う不審者男、 俺の直線の振り下ろしに対して体の軸を意識した回転で回避、 カウンターでナイフを振り下ろして来た
ピシャ!!
皮膚が裂ける感覚がして血が滲む、 痛ぇ…… 反応しやがったブーストの速さに、 公園に出ただけの不審者の割には強すぎる
更に2撃、 3撃と連撃を繰り出され、体に傷がついて行く、 今の間合いでは一向に体が反応出来ていない
……
「日暮君~ 彼は強いかね? きっと予想より遥かに強いだろう、 それは彼が思い出の住人だからさ」
「モンスターを倒す事と同じ、 例え人間だろうと殺す事ができると思っていたかね? あぁ出来るさ日暮君本気で戦い給えよ」
「つまりさ、 公園の思い出ってのは利用した人々の思い出で公園自体は何かを思う事は無い、 そして、 不審者が出て人を傷付けたって情報で人々は恐怖し、 頭の中で恐ろしく強い不審者像をこの公園の思い出の中に加えてしまう」
「彼が強いのはそんな人々の想像が作り上げた強さであり、 昔君が彼に恐怖心だとかを感じていたならそれを乗り越えない限り彼には勝てん」
「さて、 私はそろそろ冬夜君の方を見てこようっかな~ 君より冬夜君の方が約束の思い出とやらの景色を見てくれそうだ、 いやや見ている、 見ているぞ、 何だそれは、 気になる!!」
勝ちを確信した猿野郎はハイテンションで騒ぎ出す、 話を聞く限りでは冬夜はあの景色をどうにか見るよう誘われていて、 猿野郎の狙い通りあの日の景色を見始めて居るらしい
「それではねっ!! その犯罪者君と束の間のダンスを楽しみ給え!! あっそうだ、 5年前この公園に体長2メートル超の熊が出たらしいじゃないかぁ、 そのクマさんも思い出として出しておくよ、 確実に君には死んでもらう」
「じゃあっ!!」
ポフン……
それだけ言って猿野郎は消えた、 何だよそれタヌキじゃねぇんだぞ、 ってかなんつった今
熊……?
『雀アスレチックパーク 巨大クマ出現!! 周囲騒然危うくクマアスレチックパークに!!』
新聞にはそんな見出しで取り上げられた、 まだ人も居る夕方頃、 それは公園の東側駐車場からのっそりと現れた
東側駐車場、 俺の今いるアスレチック周辺のすぐ隣、 ここからでも見える距離だ
そこに確かに居た、 のそりのそりと、 いや2メートルなんてもんじゃない、 もっとでかくて見たことも無いクマだ
あのクマも色んな人の想像で作られた存在なんだ
何にせよ2対1はまずい
……
「ブレイング・ブースト!!」
ナタを振り下ろす、 反応され躱される、 しかしブーストを掛けたのはナタではなく体全体
体が急激に加速しその勢いで距離をとる
(クダバスやってた時も敵が2体のクエストは2体の距離を離して一体ずつ倒したぜ)
狙い通りナイフ男は俺を追いかけ着いてくるが、 クマの方はまだ俺に気付いていない
アスレチックから走る事50メートル、 距離は大した事が無いが、 ごちゃごちゃした公園の置物達がクマからの視線の通らない場所、 色のくすんだバスケットのゴールが立ったエリアまで駆け抜けた
大切なのはここからだ、 クマがこちらに気付く前にナイフの男を倒さなくては意味が無い
「ふぅ…… しぇい!! こいや犯罪者…… 今度こそぶっ殺してやる」
追い付いたナイフ男が間合いを測るように向かってくる
戦いのスタイルは人それぞれであり、 培われて来た経験が今の戦い方を作る、 しかし自分より力量の高い者と戦う時は敵に対して戦い方を変える必要がある
この間戦った鳥野郎には一撃の大きさを主体にした戦い方をした、 奴を地に沈める為には万力が必要だったからだ
しかしこの敵、 ナイフ男に必要なのは小回りの効いた正確で迅速な動きだ、 一撃で倒す事は考えず正確な急所攻撃で確かにダメージを刻め
「打ち倒す……」
勝つ、 その強い意志言葉に出す、 それがスイッチ
ゆっくりと近付いてくる敵、 重心を軽くして柔軟に構える日暮、 その距離が徐々に縮まり互いの間合いに敵が侵入するその瞬間
思い出の景色の中で風が吹き、 その風は木の葉を揺らし、 折れ絡まっていた枝が地面へと吸い込まれるように落ち乾いた音を鳴らす
パキリッ…………………
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バッ!!
一瞬早く動いたのは日暮、 ナタを横凪に振るう
その動きに対してナイフ男は左腕を伸ばしナタを振るった日暮の右の前腕部をバシリと弾く、 と同時にナイフを持った右手を直角に押し出し直線の突きを繰り出してくる
日暮は右腕を弾かれたまま体制を低くしナイフを躱す、 ナイフが頭の上を通過したのを肌で感じながら、 左足を半歩前、 左手をナイフ男の顔面に覆わせるよう広げる
ナイフ男は戻した左手で、 日暮れの左手を掴みもう一度ナイフを突き立てる様構える
接触、 近距離戦、 日暮れはまだ自身の近接格闘をナイフ男に見せていない
「ふっ…… せいぃ!!」
左足を半歩前に出している開いた構え、 そこから右足を上げローキックをナイフ男の側面から叩き付ける
肉の体に強靭な脛骨が突き刺さる、 ナイフ男もこれには怯むが、 左手を掴む力を緩めず構え直した右手でナイフを横凪に振るう、 その軌道は明らかに首筋を狙っている
心構えだ、 大切なのはここからだ、 敵のナイフを避けようとするんじゃない、 逆だ自分から向かって行く
「うらァっ!!」
不格好な体制から横に体重移動をする様に沈む、 その方向はナイフの向かって来る方、 当てるのは頭突き、 首筋を狙った物だから頭突きは少し高い位置からナイフの側面を叩く
ピシャ
皮膚が少しだけ切れる、 だがそんな事はいい、 ここが狙い目、 俺のナタを握った右手を今度はナイフ男の首筋に当ててやる
「っ死ねぇ!!」
ナイフ男は右手を頭突きで弾かれ、 日暮れの薙を左手で防御するしか無いと判断し、 日暮の左手をようやく離す、 しかし
「おい、 いきなり離すなよ、 寂しくなるだろ……」
日暮は離された左手で逆に敵の左手を掴む、 全て整った、 これでオールライトだ
「吹っ飛べ!!」
振るわれたナタ、 それを握る右手がナイフ男の首筋に吸い込まれる、 ナイフ男は防御も出来ず首を断ち切られる流れ……
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「日暮れはよぉ、 雀公園に出た不審者どんなやつだと思う、 俺はよぉやっぱり未来から来たキラーマシンみたいなやつ、 死に際がかっけぇ奴、 ああいうのだと思うんだよね!!」
小学校の頃一人の友達が言ったその言葉を不意に思い出した
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ウィーーン
そんな間延びした音が鳴って、 ナイフ野郎のナイフを持った右手が肩関節から絶対に有り得ない動きで一周を描き
首筋に迫った日暮れの右手を、 ばさり、 切り離された手首が宙を舞いナイフ男の後方に飛んで行く
猿野郎は言っていた、 このナイフ男はこの公園に染み付いた誰かの思い出の集合体だと、 未来から来たキラーマシン、そんな突拍子も無い妄想でも強くそう思ったなら、 この世界では実現してしまうのだ
一瞬遅れてくる痛み、 それよりも先にナイフ男は口を開く、 喉奥からメカメカしい砲台が姿を現し、 明らかに力を貯め始めた
もう何でもありだ
思い出と言う物は知らずの内に誇張されて行くもの、 この能力、 誰かの妄想さえ実現させてしまう
熱が貯まり紅くなってゆく砲台を見ながら日暮れは思う……
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……………
……
(予想道理だな……予想通りバスケットボールを投げてくれた……)
ニヤリ、 笑う日暮れの顔、 その顔を見てナイフ男は人間には真似出来ない動作で眼球に後方を向かせる
ナイフ男は見た……
場違いなバスケットの練習をする若者と、 その若者が今投げたバスケットボール、 そしてボールにぶつかってくるくると落下する日暮れのナタと右手
「俺は間合いに入る前に既にシンキングを発動させ動作を読んでいたぜ、 そして、 この間の鳥野郎との戦いで1度経験した!!」
くるくると落ちながら回る右手とと握られたナタ、 その向きがこちら、 ナイフ男の背後に向く
「切り離された手にも空気を込めて、 発動出来るってな!! ブレイング・ブースト!!」
切り離された右手が血を吹き出しながら超加速してナイフ男の背にナタを突き立てる、 そして……
「終わりじゃねぇぜ、 喰らえ牙龍!!」
牙龍、 それは鳥野郎の細胞で全てを喰らい取り込む日暮れの獲物の名前
ぐしぁんっっ!!
日暮れには一瞬、 大口を開けた様に斬撃が発生し敵を丸呑みにしたように見えた
「この世界は誰かの思い出、 猿野郎の能力はこの世界を作ることとその思い出を読む事、 それを実際に形に変えるのは誰の思い出でもいい」
「猿野郎の読み取った誰かの思い出でも、 昔ここで遊んでた俺の思い出でもな…… それに気づけば後はどうとでも出来るぜ」
日暮れのこのバスケット場での記憶、 大学生くらいの数人が集まって遊んでいた、 ゴールに向けてボールを投げる時の軌道、 その思い出を少し誇張させた
日暮れの思い出でも問題なく再現出来たのだ、 これに気づけたのはやはり大きかった
いつの間にか消えていた大学生達、 しかしそれよりもクマだ、 次はクマをどうにかして一刻も早く冬夜の元へ向かわなくては
やり方も猿野郎を倒せるのかも未だ未知数だがやるしかない
クマは暗殺するのが一番良いだろう
そう考えていた、 だがそうは行かなかったようだ
……
「グルゥァアアゥ!!」
のそり薮の影から姿を表す巨大なクマ、 誰の記憶なのか、 目の前で口から小さい火を吹いた
日暮れは深呼吸して身構える
……
「一筋縄には行かねぇが…… 目の前に敵として現れたなら、 ぶっ殺しして俺の踏み台、 糧としてその生涯を無駄なく終えろよ」
日暮れもクマも間合いを測るように慎重に近づいた……