表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/164

第二十六話……『暗観望測世行百手』

ココメリコの駐車場、 その上方に大きな鳥のような何かが今はもう電気の来ていない電波塔をバックに同じ高さで飛行している


伸びる手、 飛んでいる鳥野郎の体から推定百本、 さっきまでとは違う、 1本1本生き生きと、 その全てを支配しているやつの脳は人間の物とは明らかに異なる、 真に化け物


「初めから単体で戦った方が強かったんじゃねぇの?」


それはもう疑問じゃない、 そんな事はどうでも良くなっている、 目の前の脅威に対して生存本能は痺れるように警戒している


と言うか……


「どうやって戦おう……」


敵は上方を飛行している、 先程のポールを見る、 投擲で落とすのが現状最適だが、 さっきの奴が穴から出てきた時の事を思い出す


「当たらなかったんじゃねぇ、 受け止められた?、 あの轟速に反応したのか?」


だとしたら投げても無駄か? でも現状出来ることは他には……


考える……………考え…………


……


「そっちから来ないならこっちから行くね~、 もう躊躇わず殺すからね」


軽快な言葉、 それに見合わない殺気が放たれる、 戦いを楽しむのと長引かせるのは違う、 楽しい事は長くは続かない、 寧ろ本気で戦いをしたいなら一撃必殺は当たり前、 全てがこちらを一撃で殺せる力で向かってくる


必要な対話はした、 だからもう後は躊躇いもなくこちらを殺しにかかってくるのだろう


「先ずは君との距離を測る」


「第一手、手刀陣・ 深淵測量」


数本の手が絡みつき人差し指をこちらに向けた


……


やばい!! そう思って盛大に回避、 瞬間さっき居た場所から大きな音がした、 すぐに体勢を直して確認


「っえ、 あっぶねぇ、 手が地面に突き刺さってやがる……」


数本、 正確には5本だったらしい腕がロープのように1本になっている、 5本の人差し指がとんでもない出力で打ち出されアスファルトの地面を穿っていた


「普通に死ぬわ、 初めからジリ貧かよ」


目の前の破壊、 圧倒的力、 どうする……


……


「避けたか、 不格好だが反応できたようだね、 今ので殺せても良かったと思ったけど、 まあ良いや測量成功、 目標までの距離推定100メートル、 間合いとしてはかなり戦いやすいね」


「これならいつも通り、 やり方は出来てる」


微かにそんな声が聞こえた次の瞬間、 推定20本程の手が日暮を囲うように扇状に放たれる、 全て手刀の形を取っている


「手刀陣・囲い扇形、 加えて手刀陣・刺突八連槍」


16本の腕が2本ずつ絡まり、 8本の槍が生成される


「射出、 手刀陣・這いずり底攫い」


地面スレスレの手が5本足元を掬う様に向かってくる


物量がものを言う破壊、 これに巻き込まれればきっと一溜りも無いだろう


この攻撃は正に出鼻を挫く、 今までの多くの戦いでチェクメイトを取ってきた、 即撃必勝のコンボだった


だが暗底甲狼狽は安心しない、 地の底で羽を休めている間の腕による猛攻、 あの時点でも物量差に押され最後には力尽きると思っていた人間


しかしそうはなら無かった、 突然に動きを正確に予想し順応したのだ、 その訳が知りたい、 あの人間にはきっとそういった力があるのだ


ドシャァァァン!!


手が直線にまたは弧を描き、 地面へと今叩き付けられたようだ、 当たったのなら確実に死んだか


だが叩きつけられる瞬間かすかに聞こえた、 人間の叫びが……


「シンキ……ング……? 考える?」


……


「ブレイング・ブースト・シンキングだ、 まだ呑気に着弾点を見つめてる、 これは予想どうりだぜ、 既にてめえの真下に来てんのによ……」


「8秒……ここが狙い目、 ブレイング・ブースト!!」


……


「むっ? 手指展開、 防御陣形円鏡型!!」


20本の手が掌をこちらに向け盾を作る、 しかし何も飛んでこない、 そうか考えたな


……


「だから!! フェイント叫んだだけだっつうの!! ここまで予想出来てんだよ!! ブレイング・ブースト!!」


さっきの金属のポールを構えブースト加速で投げつける、 フェイントで防御貼らせて防ぎに来る手の数を減らす


コイツだけは絶対に当てる!!


……


「ふっ、 避ければ良いだけだ」


鳥野郎の旋回、 回避された、 ポールは鳥野郎に当たらなかった


……


「えっ、 外したやん」


旋回を終えこちらを向き直る鳥野郎、 上位者、 こちらの攻撃をいとも簡単にいなし、 まるで何事も無かったかの様、数十メートル上からの見下し、 鳥野郎が上、 俺は下


上から冷たい殺意を持つ声が聞こえる


……


「終わりだ、 手刀陣・螺旋剣」


10本の腕が螺旋状に敵を包囲し、 時間差を着けた多段攻撃


「手刀陣・八剣交差、 刺突八連槍」


八本の交差する手刀、 その間を縫うように八本の刺突攻撃


「手刀陣・囲い籠型」


編み込まれた手が逃げ場を無くす


「これで終局、 手刀陣・盤壊王手」


残りの全ての手が1本の巨大な手を作り地面を叩きつける


破壊破壊破壊、 ただただ破壊、 轟音と土煙、 それを受けた者など形も残らないだろう


土煙が晴れてゆく、 暗底甲狼狽は風の操作も得意だ、 きっとその破壊跡、 惨劇を見たいと思う心があるのだろう


この地一体の地面は既に脆い、 所々に穴が開き地底へと繋がっている、 今しがたの破壊跡にもボッカリ穴が出来ていた


「しまった…… これでは倒せたかどうかが確認できない…… 手応えはあったような気したけど……」


「しかし、 面白いな、 良く考えれば嘗ての我ではこれ程までの合理性を持った攻撃は出来なかった、 どちらかと言えば物量によるゴリ押しの面も強かったが……」


「人間達の思考能力を手にした今の私はこれ程まで多彩な攻撃を可能とするのか、 考え行動する、 今までもしてきた事のように思っていたが、 本能とは別、 脳が生を司る、 これだ、 圧倒的力と思考能力、 上位者の更に先……」


「最強への道を進む事が出来る……ハハハッ ヒハハハハ」


「シュミ~ヨふぁや~」


今は最高の気分で……


……


「上機嫌だな? ブレイング・ブースト!!」


声が聞こえる、 声がした方そこには人間、 手には先程とは違うポールが1本握られていた


叫び声と共に射出されるポール今度こそ当たれ……


……


「手指展開・防御陣形円鏡型」


瞬時に反応、 手が開き飛んできたポール弾き飛ばす


「我、 倒したかの確認が出来てない内は安心出来ないタイプなんだ~」


にまぁ 鳥野郎が笑う


「驚いた? まあ分かるよ君の気持ち、 でも我も戦いは経験長いからさ分かるんだよ」


「さっき君が叫んだ『 ここまで予想出来てんだよ』って言葉あれはブラフで、 君はもうちょこっと先まで予想できていたんだ、 我の連撃の最初の方まで位かな?」


「君はひび割れがとても大きい地面の上に立っていた、 そこは下が既に空洞になっていると予想したからだ、 そして我の初撃をかわし、 その影響で穴の空いた地面に落ちていったんだ、 この周辺の下はほとんどの穴が繋がっている程空洞だからね、 どうやって浮いてるかは我も知らないが……」


「普通の人間だったら落ちるだけだろう、 だが君はその空気の力で指定方向に飛ぶ事が出来たね、 君はその力で我の視覚の別の穴に飛んで出てきた、 君の近くに穴があるそれだね……こんなとこかな?」


……


「ごっ、 御明答……え? 強敵? やん……どうしよう……」


必死で考えたことが完全に明かされた、 闘争者としてずっと鳥野郎は上手


……


「ヒハハッ、 予想に予想を重ねるってのはこういう事を言うんだ、 覚えておきなよ」


「それともう1つ、 気づいた事がある、 君のそのシンキングは何を元に予想をしているのか、 まあ人間はほとんどこれ、 目で見て考えている、つまり……」


……


風が肌を撫でる、 柔い風のはず……


ピシャッ…… 風の撫でた肌が刃物で切られた様に鋭く口を開ける、 血が滲む


頬、 首筋、 服と二の腕、 脇腹、 足を数箇所、 満遍なく切りつけられた、 風の刃


「全く見えなかった……」


不可視の攻撃


……


「見えない、 聞こえない、 触れない、 五感を使った予想だと言うなら、 この風の攻撃が最適だろうね、 分からないだろう? どこから来るのか」


ここに来て新しい攻撃、 バリエーションの豊富さ、 ひとつの命に出来ることは決してひとつでは無い、 多くの選択肢を持つ者は物事に対する対応の幅も広い


「わざわざ撫切りしたのは知ってもらう為さ、 突然終わりじゃ詰まらないし、 この場合の何故死ぬのか? の答えに辿り着かないまま死ぬ事になる、 さっきの質問タイムの意に反する」


「因みにこの風を操る能力は見せるの初めてじゃ無いよ、 君が初め大穴に落下した時に君の落下威力を殺して上げたことがあったりしたし、 あの時は体の方も落下死ではぬるいって思ってくれたから発動してくれたんだ、 良かったよ」


「まあ何が言いたいかって、 次が確実な死だ…… って何回目かねぇ」


既に風は放たれている、 止まらない


……


風、 当たり前のように不可視、 当たってからでは遅い、 終わった……


ふわっ……


不思議だ何故そうなったのか、腰に着けていたお守り、 風に煽られてふわりと宙を舞った


………………………………


「はいこれ、 厄除け…………」


………………………………


咄嗟にお守りの靡いた方と逆に飛び込む、 次の瞬間鋭い痛み、 先程とは違う鋭利な刃物、 確かな殺傷性を持った風の斬撃が体を刻むが、 致命傷を避けている


まだ生きている


痛みを堪え鳥野郎を睨み見上げる、 今度の今度は本当に驚いた顔をしていた


……


「君……今の何故避けれた、当てずっぽうで偶然? 何にせよこれは予想外だ 」


「でも状況は良くなった訳じゃない、 次だトドメは次……」


ピキピキ、 パキパキ……


どこからかそんな音が聞こえた


……


「偶然だ……全部偶然、 本当に偶然にもてめえと同じ高度で場所も悪くないし、 さっき投げたポールが狙い通りに命中して崩れてくれたんだ…… でもこれも全てこのお守りのお陰だったなら……」


「こりゃ必然なんだよ!!」


バキバキ、 ガラガラ


少し傾き始めた太陽が万物の影を彩る、 長い長い影が少し傾いている、 いや倒れてきている


「投げてやったポールは命中してたんだぜ、 てめぇの後ろにおっ立ってる大手携帯会社の電波塔によ!!」


……


傾いた影が巨鳥の影に重なってゆく、

そうか初めからこれを、 この塔を倒して我に当てる為にか……


「だが!! 避ければ良かろう!!」


……


「そうだろうな!! だが!! ブレイング・ブースト!! これはどうする!!」


金属のポールがまた一本宙を飛ぶ


……


「っ!! 何故もう一本!! いや初めから持っていて隠していたな」


どちらにしても避ければ……横目で確認する、 崩れ倒れてくる塔、 塔は電線を巻き込んで倒れていた


(塔と金属のポールどちらも避けたとしても共に倒れてくる電線までは避け切れるか?、 スペースの無い場所で戦う際、 我は100本の手を短くし風の攻撃で戦う、 だが手を引っ込めれば奴に再度何か投げられたり咄嗟の時に対処ができない……)


「ならば…… 受け止めるまで!!」


ギョロリ、 左右の目が極限まで見開かれる、 倒れる塔に手を50本、 飛んでくるポールと奴に対して30本、 他は防御


これで十分対処出来る……


ガシリ…… 50本の手が倒れる塔を押し返す、 そして……


「遅い!!」


パシ!!


投げたポールはたった1本の手で掴まれる


後は他の腕で奴を攻撃する……


……


「掴んでくれたか、 やった」


……


グサ!! 何かが横腹の辺りに深々と突き刺さる


(なんだ?、 ポールは掴んだはず…… そういえば奴の手に握られていたはずの……)


……


「シャベルだぜ、 ポールはよぉこっちの穴から向こうの景色が見える完全空洞の作りなんだよ、 その穴の太さ的にシャベルの柄がすっぽりハマりそうだって思ってよ、 まあちょっとスカったけど入ったぜ、 で槍みたいな形状にしたんだよ」


「それで投げりゃよ、 やり投げみたいに飛んでくが、 ポールの部分を掴んで止めちまったらよ、 慣性の法則で先端のシャベルだけ飛んでくよなぁ」


「賭けだったけどてめぇの余裕削がねぇと当たんねぇからなぁ」


……


力が……抜け……


ガラガラ、 ガラガラ


電波塔が再度崩れ出す、 あの人間、 あの人間、 あの人間!!


……


「強者感出してもったいぶってるからこんなんなるんだぜ鳥野郎!!」


……


………


……………


「クソガキがァァァァァァァ!!! 良い気になるなよ雑魚種族がァ!!」


「手刀陣・旋定輪廻!!」


支える事も防御する事も止めた100本の腕が高低差を付け捻じるように回転、 周囲の物を全て薙ぎ払う


崩れてきた塔、 周囲の建物、 電線、 ここまで伸びた手が地面を抉る


子供が腕を振り回して攻撃してくる、 そんな感じだ怒りに任せた、 破壊の代償にぶつかった手は徐々に壊れ血が周囲に飛び散っている


瓦礫がぶつかっても、 手が折れても止まらない、 きっとさっきまでの戦いは鳥野郎なりの美学があったのだろう


でももう消えた、 力によるゴリ押し、 だがイコール破壊である事は否めない


回転が止まった時、 周囲の物は全て破壊されていた、 血だらけの手を気にする素振りもなく自分を馬鹿にした人間を睨みつける……


「どこに行った? 吹き飛んだか? まあもう良い、 疲れた寝よう……」


拘りがあった、 でももう気にならない目の前から消えたのなら良いと思った


…………


……………………………


「っぶねぇ、 目ぇ回る、 ようやく止まりやがったか」


鳥野郎の睨み上げる視線を感じる


「塔ぼろぼろの瓦礫じゃん、 初めっからやれよな、 まあ良いや、 煽ったのは正解だったな、 飛び乗ってやったのに気づかねぇんだからな」


「空飛んでる敵倒すってったらやっぱ背中に飛び乗るだよな、 まあ乗ったの2回目だけど」


巨鳥の背中に中腰で立つ姿が1つ、 怒りに我を忘れている間にブーストで飛んで飛び乗っていたのだ


「まあ簡単じゃ無かったけど……な、 足折れてるぞこれ、 腹も瓦礫ぶつかって何かやばいし……」


巨鳥は怒りで頭が働かなかった、 強者だったが最近は満足に戦っていなかった、 記憶の強く居たままの自分とのギャップ、 自分と戦える敵が居なかったからこそ戦いの基本を忘れていた


戦いは感情を昂らされてはいけないのだ


「身体痛ぇ、 8秒…… 堕ちろよ鳥野郎!!」


拳を握る、 拳の中に空気の圧がかかる


「さっきもやったなぁ!! ブレイング・ブラスト!!」


そのまま拳を背中に叩きつける、 ぶっ飛ばしパンチ


小さき人だが、 上位種を何度も落とすのだ、 それこそが人だ


人の力は確かに空飛ぶ巨鳥を叩き落としたのだ


……………………………………………………………


2つの生命がぶつかり合っている様をはるか遠くから眺める者が居た


彼らが居る小さな町の隣、 アクセスも良く栄えた街の駅前、 そこに立つ高層ビル、 その屋上に長い髪を靡かせるひとつの影があった


「サンちゃん、 超遠狙撃モードんなってくれる?」


その人影の隣に浮かぶ何かは一瞬落雷の様に迸り大弓の形になる


「大きな鳥、 と人? 厳しそうねぇちょっとお節介焼いちゃおっか……」


弓の元を引く、 すると雷の如き矢が装填される、 そして……


「サンダルフォン・ショット」


ドゴォォォォン!!


轟音と共に打ち出される矢は、 傍から見れば何処を狙ったかすら分からない、 だかその人影は呟く


「目標命中……」


次の瞬間街には静寂が漂っていた……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ