第二十二話……『思考』
体に走る激痛は生の実感を思い出させる、 強くなる、 自分で望んだ事だが最近は退屈だった
強くなりすぎた、 皮肉な話だが強くなって初めて自分の弱さを知った、 それは弱さを望んだ事
強い者にどれだけ勝っても退屈だ、 私の「手」はどんな相手であっても命に触れる事が出来る、 私の最強の武器
戦いに退屈したからと言って、 あれを自分から引き剥がすなんて、 だが今あの「手」が必要だ、 今だからこそ「手」の力を使い、 全力で対峙しなければ…………………………………………………………
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無数の手が襲い来る、 次から次へと手を伸ばし来る
「どんだけあんだよ!! 卑怯だろ!!」
そう叫ぶ彼は今全力でその手から逃げていた、 地面に空いた無数の穴から、 また新たに突き破って這い出てくる、 手だ鋭い爪の着いた手が今まさに彼を捉えようとして……
「駐車場見えた…… ブレイング・ブースト!!!」
彼の靴底から空気の圧が噴き出し、 彼の体を前に強く押し出す、 そして遮蔽物の少ない田舎の広すぎ駐車場へと
「狭いところの方が良いかもと思ったけど、 地面も壁も、 あと目に見えない様な所からも出て来やがるからな、 …………どっちにしろやべえぞ……」
周囲は既に手手手、 手に囲まれている、 伸びた腕が地面から生えている、 手が風で揺れる稲穂の様に、 俺に向かって頭を垂れているように見える、 でも
「普通に殺意高いだろ、 こいつら」
全ての手が一様に爪を向けてくる、 引き裂かれるか串刺しか……
「俺が全部ぶっ潰してやるか……だな」
その呟きを挑発と受け取ったように手が俺に向かって振り下ろされる
「オジギソウかよ」
輪切りコースだ………そう思った、 虚勢だ、 言葉が全てはったり見たいに内容がない、 無数の手、 噴き出す強風、 これに対して打ち勝つ力を持っていない…………
(まただ…………………)
それは力の無さを再び実感させられたことに関してか………
それとも、 世界の流れがまた遅くなった様に感じることか………
止まって見える世界で、 加速した思考が思い出させる、 先程暗い洞窟内を抜ける時引き起こした現象
まるで止まったままの世界で自分の体だけ自由に動き、 自分の取るべき行動の最適解を体全てで想定出来た、 思考だやはり、 全ては思考速度の成す技か……
(後ろの3本、と左右1本づつ、 正面2本、 今すぐにでも俺を攻撃して来るのはこの7本、 その中で正面の左よりとほぼ真後ろが1番早く俺を刺す……)
(その次は左と後ろ右より………次に左と正面にあと順次と……)
止まって見える程遅い世界で全てを見渡せる、 緻密な分析が出来る……
(ここからどう動く……右斜めに回避その後、 更に右に……いやそれでは全ての腕が俺に追いつく、 その時その時のいる場所を作る、 それなら回避した後近くの敵を攻撃する、 所詮腕だ、 大樹の様に太く根を張っているわけではない)
腕をよく見る、 浮き出た太い血管が見える
(あれをつき破ればどうだ、 噛み付いて犬歯を突き立てて血を吹き出させる、 そうすれば腕は止まらなくても鳥野郎全体の体力を減らして行くことができるし、 そのうち止まるかも……いや蹴りを当ててなぎ倒すか?)
いくら考えても余裕がある様に感じる、 いくらでも想定が出来る、 幾つも自分の影が駆け出しやられ、 時に回避し、 またやられ、 全ての想定で既に行動を始めている多くの選択肢を選び続ける自分の姿が見える
早すぎる思考、 それの使い方を、 それすらもこの状況で考え導き出せる
思考の加速……加速……ブースト
(これは……………ブレイング・ブーストだ………)
圧倒的思考速度の加速
(ブレイング・ブースト・シンキング)
最適解を導き出し、 さあ動け