二十話……『大穴』
何処までも広がる美しい世界の輪郭、 それが陽光に照らされ煌びやかに装飾されている、 一瞬見えたのはそんなうつくしい景色…………
「またっ! 落ちてるぅ!!」
「じゅみいいい!?」
拳に溜めた、 空気の圧をパンチと共に打ち出す、 ブレイング・ブラスト、 その力を受け鳥頭は落ちてゆく、 それに捕まっていた自分もまた落ちてゆく
地面衝突はほんのすぐだ、 落ちたら死ぬ
「最近落ちすぎぃ~!!」
鳥頭の方が先に落ちてゆく、 助かるには鳥頭をクッションにするか…………
「時間もそろそろだ、 結構高い所に居たんだな…………」
そんな事を考えている内に、 鳥頭が地面に落ちる、 みしり…… 地面にヒビが入った
(この下も空洞? まじどうやって支えてんだ?)
そんな思考は直ぐに掻き消える、 俺の体も落ち、
鳥頭の体の上に着地………いやただ落下した、 このままでは身体中がバキバキになってしまう、 しかし彼には力がある…………
「ブレイング・ブースト!!!」
「じゅゅゅゆうっ!!!?」
体の向きを反転させ鳥頭に足から着地、 そこから例の如く上方向若干斜めよりにブーストを足から出す、 ヒビの入った地面にさらに鳥頭が押し込まれ、 耐えきれず地面に大穴が開き始める
「グッパイだぜ鳥頭のボス!! そのまま更に落ちてゆきな!!」
自分の体は斜め上に5メートル程上昇し、 数秒後落下……
「うおらっ!! うぶげらっぷげ!?」
前屈で腕を前に出し、 前腕で着地同時に肘関節を開き、 更に1回飛び、 ながら回転、 和らいだ衝撃に対して受身を取る
いつも通りイメージは出来ても、 実際はそうじゃない、 前腕をかなり痛めただけで、 何回転も転がり体全体が果てしなく痛い
何とか生きてるけど……………
「何も、 いえねぇわ」
もう、 動きたくない、 目を閉じそうになるのを必死で堪える、 嵐の後の様な静けさ、 深い暗闇も、 鳥野郎の鳴き声も聴こえない………
「勝った………………勝ったんだよな………ふふふっ」
(ならこのまま此処で、 ちょっとくらい寝てても良いかもな………)
言葉にも出せなくなって瞼も閉じかける、 眠い、 湿ったアスファルトの上でも今なら充分寝れる……………
「…………………よっと!!」
危ない危ない、 寝る訳には行かない、 まだやる事はいくらでもある、 勢いよく立ち上がって周囲の確認をする
「こりゃあ………すげぇなぁ……………」
大穴、 地面に大穴が空いている、 言わずもがな先程鳥頭が落ちていった穴だが、 更に拡がっているようだ、 下をのぞき込むと相変わらず闇が続いている
「出てきた穴も大きかったけど…… あの穴は鳥野郎のねぐらの出入口だったんだろうな」
周囲を見渡す、 たまに通る道、 ココメリコの裏の道だ
「俺さっきの暗闇でめちゃ歩いたよね? はははっ、 なんかまじで夢だったんじゃねぇの」
熱は冷め、 記憶と現実感のすり合わせが始まる、 激しい戦いと今の穏やかな時の流れ
「ほんとに俺、 さっきまで戦ってたのか?」
よく分からなくなってきた、 大きく息を吸う、 ズキリ、 身体中が痛み思い出させる、 今回はやばかった………
「良く生き残ったよ、 この感覚が堪らないんですわ」
不意に俺以外の人間の事を思う、 今もシェルター等に避難して過酷で苦しい生活を続けているのだろうか
だとしたら気の毒だ、 俺は今こんなに充実してるのに誰も楽しめないなんて、 怯えて何も出来ないのが普通だって言うなら……
「フフフッ、 そりゃやってけねぇよ、 俺は人の社会じゃ理解出来ないことばっかりだったなぁ~」
普通は正解じゃない、 自分らしく生きろ、 自分らしさは、 自分で決めろ
「フフフッ…………はぁ、 疲れた………ん?」
ふと疲れで鈍化した思考が今更な疑問を浮かばせる
(鳥頭の長と戦ってたんだよな?)
鳥頭こと蛮鳥族、 鳥の頭に子供の体、 小さな羽まで生えてた
(長が成体なんだとしたら、 そう言えば親子の癖に似てなかったな)
成長とは簡単に言葉で語れる物じゃない、 体そのまま大きくなって行く訳じゃなく、 色んなものが小進化し続けてゆく、 それが進化だ、 でもそれにしたって
「鳥頭の長って、 てかほぼただの鳥だったな」
大きな翼、 鋭い鉤爪の生えた足、 空気でのアクロバティック戦闘
良く考えたら、 子供鳥頭と何もかも違う、 大人になったら皆あんなになんの?
闇の中じゃ最初分からなかったけど、 手だって無くなってたじゃん
「あれ? あいつ考えれば考える程妙な奴だな…… まあ良いか死んだ奴なんだし」
正直もう何でもいいや、 思考がまた鈍くなる、 もう何も考えるな……………………
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「……………………やっぱ変だ…………………………」
考えてしまう、 考えずには居られない、 嫌な予感がするからだ
「俺がトイレで傷を治療してた時、 襲って来た鳥頭がいた、 そいつとは別にデカくて長い腕が俺を襲ったんだ、 だから咄嗟に床下に逃げた…………」
思い出した、 あの腕は洋式の個室から伸びていた、 あれが長の物じゃないとしたら、 一体………
「何者だったんだ?」
ひゅおぉぉぉ~~~
風が吹き始める、 台風の日の風に似ている、 何かが大きく変わりそうな、 強い風が肌を撫でる
嫌な風だ、 何で…………
「何でさっき鳥長が落ちた穴の中から吹いてきてんだよ……………………」
風がどんどん強く吹き上がってくる、 その風は誰にも止められない程に力強さを感じた………