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第十八話……『強者』

まだ幼い頃、 台風の日の夜、 虚空を裂くような鋭い音を立て風は夜闇を駆け巡る、 昼間窓を開けたまま鍵をかけ忘れられた2階の窓が激しく打ち付けられるようにガタガタと鳴る


「季節柄なので不安になることは無い」


そう語った父の言葉に家族一同皆優しく微笑み同調した、 やはり一丸となり、 同じ方向を向くことによって苦難を乗り越える、 協調性、 強い団結力が鑑みえた


それに惹かれるように、 歳の近い兄妹は笑顔を取り戻した


一方俺は、 この非日常感になんとも言えない感覚を味わった、 昼間、 外出の禁止を強く言いつけた親もまさか夜外に出る事は無いだろうと思ったか……


俺は親の目を盗んで庭先まで出た、 強く打ち付ける雨は自然界の強大な力の波動を感じさせたが、 とりわけ感動の強いものは、 やはり大地を渦巻く大風おおかぜだった


確かにこれは、 今にも飛ばされてしまいそうだ、 または俺自身も風となり共にこの地をひた駆けようじゃないか


何処までも自由で、 漲るほど圧倒的に強い、 往く先々で吹くこの風は、 いつか自分を映す鏡の様に、 そのあり方は何時も俺の心を昂らさせる


俺の憧れだ…………………………………………………………


……………………………………………


……………………


「じゅみぃぃぃぃぃいんヨォ!! ふぁヤァ!!」


絶対的強者の咆哮は質量を伴う、 強大すぎる力は自分の力との差を容易に理解させ、 戦意は喪失、 弱者はただ膝を着き頭を垂れるのみ


それが弱者の使命、 ならこいつは何だ?


…………………………………………………………


強大な力をもった者、 名を『暗底公狼狽』この生命は本来この一体呑みの存在である、 経緯不明だが全く別種同士の2体が子をなし生まれたのがちっぽけな蛮鳥だった


親は早々に彼を置いて何処かに消えたので、 彼は生存本能に従い生きる為戦い続けた、 彼は頭が良かったのでどんな手を使ってでも勝利を納めた


どんなに力を手に入れようと決して慢心せず、 貪欲に更なる力を欲した、 彼が産み落とされた深い渓谷と、 そこへ続く果ての見えない山岳と森林


絶対的な力が支配する絶強魔界を彼は割月の無鴎が7週した頃、 当時絶対王者であった両親にトドメを刺し、 その絶大な力を世に示した


1度頂点に立ったから知っている、 強者を前にした弱者は闘志を燃やせない、 ただ首が飛ぶのを虚ろな目で待つのみだ


つまらない……… 私がそうしたように諦めず最後まで足掻け、 生きたいと思うなら立ち上がって挑め、 その先の景色を掴め、 最強の力を望め


しかしそうはしない、 多くの者が私より弱者になったとき、 立ち上がり立ち向かう物は居なくなった、 これが王の見る景色か……………つまらない


つまらない………誰か立ち上がれ、 つまらない………抗って見せろ、 つまらない………


つまらない……………………………………………


………………………………………………


「ブレイング・バースト!!!」


その攻撃は私には効かない、 ただのうるさいだけの生き物、 この種族はたくさん殺した、 その殆どが闘志すら持たぬ弱者だった、 そのくせ叫んでうるさい、 所詮雑魚


まだ未熟な遺伝体生成、 この弱い種族を一度取り込み私の遺伝子を組み込ませ、 擬似的に子を成す


それによって生まれた我が子等を多く殺したこいつも、 私からしたら他と変わらぬ所詮雑魚、 頭にくるから殺すだけ…………………


なのに………………なんだコイツは………………


「フフフ、 効かねぇぞまじで、 どうやったら、 てめぇをぶっ殺せんだ!! ひひフフフッ」


笑っているじゃないか、 この劣勢の中で、 未だかつてこのような弱者は居なかった………………


いや、 ただ一人居た、 私だ、 私も幼い頃は弱く、 強者にとっての雑魚だった、 だが私は力を手にし高見へと登った


こいつも今、 あの頃の私のようにひたすらに力を求め駆け上がって居ると言うのか、 戦いを、 命の取り合いを楽しんでいると言うのか………………


ならば……………………………………


強者として、 手を抜く様なことは出来ない、 全力で殺しにかかる


さあ…………抗って見せよ、 この蛮鳥の王『暗底公狼狽』に勝って見せよ!!


……………………………………………………………………



「じゅみぃぃぃぃぃぃぃぃいいいい!!!!!」


「フフッ、 威張ってんじゃねぇぞ、 あほどりが!!!、 ブレイング・バースト!!!」


敵が羽ばたく、 暴風が空気の圧縮を四散させる、 強い風の渦が発生し、 光が宙を舞う、 ランタンだ……


ランタンだけが宙を舞っていた


カランッ……ランタンが地に落ちる音が暗闇に木霊する


彼は何処へ言ったのか、 しかし蛮鳥の聴覚は鋭い、 数メートル先の暗闇で物音がしたのを聞き逃さない


「じゅみぃ!!」


突進、 攻撃、 鋭い爪が肉体を穿つ感覚、 痛みに悶える声が聴こえる


「しゅみ!?」 「しゅ……」


我が子らだ………地面に落とされ、 虫の息だったのを奴が何らかの方法で動かさせ、 気配を発させたか


忌々しい、 私がトドメを刺してしまった、 まさに残忍な行い、 勝つ為に私の注意を逸らしたな、 では次どうする


「ブレイング・バースト!!!」


またそれか、 効かぬ!!


「じゅみぃ!!」


羽を羽ばたかせるも、 空気は来ない…………何故だ?


「だだ技名叫んだだけだぜ、 引っかかったな、 ブレイングバースト!!!」


考えたようだが、 無意味、 どのタイミングでも空気の圧なら対処出来る………………


「じゅみぃん!?」


痛み………私に当たったのは空気の圧じゃない、 小さな岩群だ………


「空気が無効化されるなら、 別のもんを飛ばせばいい、 石拾ってバーストで飛ばす投擲戦法………あれ? これブーストの範疇か?…………5!!」


…………いいぞ、 こいつやはり抗うか、 きっと今までも大きな力を前にして、 そうやって笑っていたのだろう


「7……………8!!」


石を両手で複数持って、 投擲する、 その中のどれかまたは複数が加速し敵を穿つ


「ブレイング・バースト!!!」


その瞬間敵が上方向に飛び上がる、 加速した石が宙を舞い、 何処かに飛んでゆく…………まじか


「じゅみぃ!!!」


急降下してくる敵に一瞬遅れて全力で回避行動をとる、 横方向に全力で飛び込んだ、 体が一瞬浮く…………………………………………


………………………………………………


ん?一向に体が地面に付かない


「なんで……え!? ってか浮いてるぶぅ!! 飛んでぶぅ!!」


足に掴まれ猛スピードで上昇している、 ぶつかってくる空気が身を打ち付け、 目も開けていられない


(何をする気だ?)


薄目を開いても安定の闇の中、 一瞬の囮に使うためランタンは手放したきり置いてきちまった、 いつもいつもこんなんだ


暗闇を高速移動、 鈍い思考が答えを導き出せない


(なんだ……………………………………)


……………………………………………………………………………


……………………壁衝突まで5秒……………4……………3………………


……………………………


「やばばばばば!!!」


開けた口から大量の空気が入る、 でもそんな事今はどうでもいい、 高速で岩壁に衝突したら確実にミンチだ……………………


思考が高速で回る、 足を前に出し、 つま先を上げ踵を突き出す


……………………1……………………


「ブレイング・ブースト!!!」


踵が岩壁に触れ、 安価なスポーツシューズの底を削る、 その最中でも力が足裏から体を押し出すように打ち出される


「あばばぁあ!?」


「じゅみ!?」


足に掴んでいる俺がすごい力で吹き飛ばされるので、 鳥も一瞬勢いに呑まれ体制を崩す


しかし直ぐに強く羽ばたき上昇、 その際不意に拘束を外される、 つまり落とされた


「ええええええ!? ここで離す!?」


咄嗟に伸ばした手が虚空に散る、 また落ちる……


訳には行かない、 6…………7…………


…………………8 「ブレイング・ブースト!!!」


さっきの応用、 宙で頭を振り上げ、 足を下にした体制に、 足裏からブーストで加速する、 手は頭の上で三角を作り空気抵抗を少なくする、 正に人間ロケットの様に打ち上げられた


「届け!!!」


見えないが…………………………………


………………………………


…………………………今、 掴んで……………………


…………………………………


……………パシ!!


敵の足を手で掴む、 やった!!


「じゅみぃ!?」


驚いたか、 掴んでやったぜ!!








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