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第百六十一話…… 『天閣の祝詞、 後日談・20 夢にまで見た異世界転移《六》』

ガチャ……


玄関の扉を開けると、 飛び込んで来たのは焦り顔の、 酒場の奥さんルーズさんだった、 彼女は日暮を見ると首を傾げる……


「……あんたかい、 里長とシャルルちゃんは居るかい?」


あー……


「シャルルは体調崩して寝てます、 里長は………」


……ガタッ


家の奥から音がして、 里長が杖を着いて出てくるのが見えた、 自力で出て来たか…… 日暮が慌てて支えに行き、 連れてくると里長は尋ねた


「ルーズさん、 焦ってどうした? 何か里で起こったのか? 悲鳴が聞こえたが……」



「……はっ! そうです里長っ! さっきのは私の悲鳴です! 助けて下さいっ! 夫がっ、 夫を助けて下さいっ!」


………?


「……ルーズさん、 落ち着いてくれ、 先ずは落ち着いて話をしてくれ、 そうで無くては分からない」


言った事はシンプルだった、 だが里長の声には積み上げてきた凄み、 里長としての大きさがあった、 その声にルーズさんは息を整えて話し出す……


「ついさっき、 酒場でいつも道理仕事してたら、 突然大きな音がして、 男達がふらつきながら外を見に行ったんですっ、 そしたらっ」



「……まさか魔物か? 魔物が里に迷い込んだか?」


ルーズさんは大きく首を横に振る


「魔物なんてものじゃっ、 あれはっ! ラーダーのゴーレムです! ゴーレムが里の中にっ!」


っ!?


里長が目を見開くのが分かった、 その口がワナワナと震えて居るのが分かった


「なっ…… ラーダーの里長は何をしているのだ、 取り決めを破るつもりかっ! ゴーレムが迷い込む偶然が二度も続くとは……」



「……偶然? 違いますよっ! これはラーダーの攻撃ですっ! だって、 ゴーレムが十体以上攻めて来たんですよっ!」


………なんつった?


「……一体では無いのか? 十体以上と言ったかっ!?」


これは不味い事になった、 あのゴーレムは厄介だ、 このネーヌの里人はゴーレムを恐れ、 日暮が倒した物を除けば、 歴史上ネーヌが破壊できたゴーレムは一体だけ……


(……俺が破壊していくしかないっ)


「ルーズさん、 ゴーレムは何処に居ますか? 俺がゴーレムを破壊します、 俺はこの里に恩返しをしたい、 俺は能力者です、 戦えますっ」


口を開いた日暮の方を向いたルーズさん、 本当は小言のひとつでも言おうと思ったがやめた、 目を見れば、 素人でも分かる、 潜り抜けた修羅場の数が……


「お願いしていいのかい? なら、 先ずは丘を下って行ってくれ、 夫が私を逃がす為に囮になってるんだよっ、 頼む助けて欲しいっ!」



「分かりました、 貴方は里長の家に避難して下さいっ、 それじゃあっ!」


ダッ!


日暮は足に力を込めると走り出す、 そうだ、 自分はこの里に出来る事は無いと思っていた、 貰った恩を返せないと思っていた、 でも、 戦いでなら日暮は恩を返せるっ


(……今は休んでろよシャルル、 てめぇの里の未来に対する気苦労は増やさせねぇよっ!)


……………………………


ガジャンッ! ドジャンッ!!


音が聞こえて近づいて居ると思った、 下っていた足を止める、 月明かりが痕跡を浮かばせる…… えぐれた破壊痕……


「ぎゃああっ、 やめてくれ!!」


っ、 声……


ザッ!


声のした方に走る、 すると林の中に大きな影と、 それに捕まった人影が見えた、 あれがルーズさんの旦那だろう……


日暮は駆け寄る、 ゴーレムはこちらに気が付いて居ない、 ゴーレムの背後から足音を消して近づく、 やはりでかい……


三メートル程体高が有る、 頭部は狙えない、 先ずは足を崩すか? いや……


ゴーレムの左側に木、 左腕だったら狙える、 前に倒したゴーレムの弱点、 魔力を固めたゴーレムの電池となる部分は左腕にあった


なぜ左腕なんて半端な所に置いたのかは知らないが、 全ての機体の弱点が左腕だったなら………


(……狙う価値は有る、 試してみるかっ!)


ダッ!


一気に踏み込む、 左側の木に向けて、 そうして足に力を込めて飛ぶ、 更に木を蹴って三点飛び、 ゴーレムの左側へと身を踊らせる……


グリッ! 握った拳………


「ブレイング・ブラストっ!」


ボンッ!


っ!


ゴーレムがこちらに気が付いた、 だがもう遅いっ、 どれだけ力が強くても、 コイツは初動が遅いっ


……拳がぶつかるっ



ボガァアアアアアアアンッ!!!………


ドガァッ………


日暮が地面に着地し、 酒場の旦那は尻もちをついて落下する、 ゴーレムは……


ボロボロッ………


……崩れた、 事切れた様に、 だが以前は一瞬死んだフリをして来たが……


いや……


「……体全体が崩れた、 前のゴーレムは右腕を破壊されただけなら普通にそのまま襲って来た、 左腕が無くなっただけで全身が崩れ落ちたなら、 やっぱり……」


全ての機体が同じとはまだ思わないが、 高い確率で、 ゴーレムの弱点は左腕…… 本当に何で左腕何だ……


崩れたゴーレムから視線を外し、 酒場の旦那を見る、 彼は何が起こったのか分からず放心状態だ……


「大丈夫ですか? ルーズさんが助けを求めて来たので参上しました、 貴方を追っていたゴーレムはコイツだけですか?」


日暮の声に酒場の旦那は顔をあげる


「あっ、 ああっ! そうだっ! だが頼むっ! 皆がっ! 男達はまだどうにか戦ってるかもしれねぇが、 俺達じゃどうにも適わねぇんだっ!」


…………………


酒場の旦那の話だと、 男達がゴーレムの気を引いて里の外まで誘導しようと話になったらしい、 男達は殆どが狩人だ、 酒場に来ていなかった者達も騒動を聞き付け駆け付けて居るだろう


出来るだけ民家から遠くへと誘って居るのだろう、 だが数が多い、 酒場の旦那は狩人では無いので妻と共に丘を登って逃げたが一体がそれを補足していたのだろう


妻が里長の家で避難している事を伝えると感謝の言葉を告げた後、 急いで丘を登って行った……


ダッ!


日暮は更に走る、 あちこちで音がする、 左腕が本当に弱点ならば狙いはそこで良い、 状況が分からないからどうしても近い音から対処して行かなくてはならない……


だが不便だ、 この里の夜は余りにも暗い、 背の高い木々のお陰に、 月明かりさえ疎らだ、 こんな事ならフーリカの知識にある光の魔法を練習しておけば良かった……


チッ


だが多分、 日暮は肉体的に魔法を扱える素体では無いので、 運良く使えてもしょっぼい物だろう…… まあ、 今はそんな事を嘆いても仕方が無い……


………暫く走り、 何かを打ち付ける音が大きくなって来た、 薄い月明かりに浮かぶ輪郭は小屋だ、 小さな小屋…… だが既にひしゃげ原型を留めて居ない、 そして……


ガジャンッ! ドガジャンッ!


ゴーレムが小屋を打ち付ける、 何度も何度も、 自動操作型ゴーレムの特徴として事前に組み込んだ特定の動作を淡々と行う様に出来ている


行動に意味を考えるとした時、 事前に組み込まれた動作の内容はおそらく、 ネーヌ、 若しくは視界に捉えた生物の抹殺、 その場合このゴーレムは無意味に小屋を破壊しているのではない……


(……中に誰か居るっ、 もう潰れてるかもしれねぇっ!)


時間が無い、 一発直撃で即死、 一発でも多く拳を振るった分だけ中の人間の生存率は格段に下がるっ


接近からの左に回って腕を破壊する方法は奇襲として確実だ、 だが、 そこまで周り込む間にゴーレムは三発は殴れる、 やっぱだめだ、 こちらに気を引けっ!


「おいっ!! 生きた生物なら俺が居るぞっ!! ボロ小屋より俺に向かって来いっ!!」


ゴーレムは声に反応した、 だが拳は既に一発振り上げられている、出し惜しみしてる場合じゃないっ! 加速技で攻撃しろっ!


「ッ、 ブレイング・ブーストっ!!」


ダァンッ!!


地面が弾ける、 超加速ドロップキック、 ノックバックで吹き飛ばすっ!!



ッ、 ボガァンッ!! ゴォンッ!!


足裏がゴーレムに触れ、 衝撃に体が大きく傾く、 転ぶ事も、 ましてや破壊出来る様なダメージも無かったが、 胴を押すドロップキックはゴーレムの拳の起動を逸らし、 小屋から外れ地面を打つっ


ドガァンッ!! …….………


土煙が立つ、 ゴーレムのヘイトが完全に日暮へと移った、 日暮がこれからしなくちゃいけない事は、 クールタイム八秒で優位の体制を取り、 開けで出来るだけ早くゴーレムの左腕を破壊し次へ行くこと……


(……どうする、 時間はねぇっ、 次に踏み込む足先の方向で里の未来が変わるかも知れねぇっ!)


八秒は長い様で短い、 様で長い…… 早すぎても遅すぎても行けない……



ザッ!


日暮が半歩後ろへ足を引く、 これは良かった、 敵は予め決められた動作の習性により、 敵を逃がさないと言う本能が有る、 半歩は退くと思わせつつ距離を取りすぎない最低限の歩幅、 それに敵は乗ってきたっ


ダァンッ!!


ゴーレムが踏み込む、 大きく振りかぶった拳を大きく振り下ろすっ! ……それを感覚で地面を蹴り側方に飛ぶっ


ザッ……… ドガァアアンッ!! ……


敵が出したのは左、 左の拳が地面にくい込んでいる、 沈んで居るから左腕を狙い安い…… だが…………


一秒が何倍にも感じる、 クールタイムタイム明けにはあと二秒程、 その時間で拳はまた上へ引かれ遠ざかる、 そうなったなら次にできるのは足を崩す事、 しかしそうなれば破壊出来る機会はまた更にクールタイム明け……


(……クッソ! 本当に俺の能力はっ!)


ぁぁ…… 拳が引かれ、 弱点の左腕が遠ざかって行く、 致命的な一瞬のミス……


………………………


……カツンッ ……………………


小さな音がなった、 小石がぶつかったような音だった、 別にそれがどうと言う訳じゃない、 ゴーレムを破壊する訳でも何でもない……


ただ、 ゴーレムには理解できた、 その音を立てた小石は、 半壊したボロ小屋から飛んで来て、 自分にぶつかって貧相な音を立てた、 ゴーレムにプライドがある訳では無いが


確実に殺したと思った獲物、 そして新たに現れた標的との戦いの最中、 屍と仮定義した存在から小石を飛ばされたと言う事実が、 抹殺の優先度を測ると言う行為を取らせた


それによる一瞬の硬直、 一瞬の隙…… 戦いに強い者は見逃さない者だ、 その瞬間、 日暮は既に踏み込んで居るっ


ザンッ!


拳を引く、 まだ空気圧は膨れない、 クールタイム中残り一秒、 だが硬直の一瞬がギリギリ間に合うと言う判断に拳を届かせたっ!


グッ!


踏み込んだと同時に既に引いた拳、 それが振るわれる最中、 日暮の正面、 ゴーレムの左腕に拳がぶつかる瞬間、 クールタイムは明ける、 まるで、 ボタンを連打していたように、間髪入れず空気の圧が拳の中で膨れ上がるっ


ボンッ!


「ぶっ飛べっ! ブレイング・ブラストっ!!」


ッ、 ボガァアアアアアンッ!!


ドガジャァアンッ! ………………………


………ドザンッ ……


事切れた、 ゴーレムは岩の塊を電池から流れる魔力の動線の様な物で繋げた物、 数珠繋ぎ、 電池の破壊と共に動線は消え、 岩はバラバラと崩れ落ちる……


(……倒れた、 やはり、 高い確率で左腕が弱点、 これは有益な情報だが…… それよりもっ)


「おいっ! 大丈夫か? ゴーレムは死んだっ、 誰か居るなら返事してくれっ!」


日暮は声を出しながら小屋の瓦礫を退けて行くと、 苦しそうな男が一人出て来た、 息は有る、 どうやら瓦礫同士が引っかかって上手いこと空間が出来てたらしいな……


ざっと瓦礫を退けてから日暮は腰のナタを抜くと、 柄を男に向ける、 ナタに巻き付いた骨が営利に尖り、 振り下ろすと男を突き刺した


グザッ!



一瞬の悲鳴、 しかし直ぐに男の傷は回復する、 ナタの骨の力は健在だ、 エネルギーを消費すれば日暮以外でも欠損した肉体を新たに補填して怪我を治せる……


「おいっ! 大丈夫か? 大丈夫そうなら返事をしてくれ!」



「……ぅっ、 ああっ、 俺は大丈夫だ、 助かった…… あんた凄いな、 ゴーレムを一発で…… 俺はもう良いから他の仲間の所へ行ってくれ……」


さっきの一瞬はきっと、 絶対この人が作った隙だった、 今の勝利は日暮一人の成果じゃない……


「ああ分かった、 あんたは安心してもう少し寝ててくれっ!」


言い残し立ち上がるともう一度走り出す、 更に近い音へと…………


………っ!?


ザッ……


日暮は足を止める、 ゴーレムが暴れて居るが、 その体は地面を舐めて居る、 注意深く見れば足にロープの様な物が引っかかっていた……


「上手く引っ掛けて倒したのかっ、 確かにこうすりゃ関節の硬いこいつらには解くのが難しいっ、 コイツは後だっ!」


流石、 脅威に感じて居たと言うだけ有る、 恐怖とはただ怯えるだけでは無い、 怯えるからこそ打ち勝つ方法を考える、 これは長年里の者が考えた有効方法の一つ、 そして理に適っている


そのゴーレムを見逃し更に音の方へと走る、 やがて大きな音が近付いてくる……


(……音が二つ)



「二体だっ、 これまためんどくせぇっ!」


民家のすぐ側だ、 一人の人影が俊敏に動き、 上手く二体を引き付けていなして居るが、 防戦一方、 民家へと度々向くゴーレムの視線を、 ヘイトを引き続けて居る……


よく見ろ、 タイミングを…………


右のゴーレムが拳を大きく掲げた、 叩き付けるつもりだ、右腕、 そこに被せる様に左のゴーレムが左腕を引いた、 躓いた様に一瞬止まる人影……


いや、 上手いっ


ザッ!


人影が軽いステップで後方へと飛ぶと、 ゴーレムは止まれずその拳同士をぶつけるっ


ドガジャアアアンッ!! バゴォアアアンッ!!


……右のゴーレムの腕が壊れる、 だが右ゴーレムの破壊された腕は右腕だ、 右腕が落ちても止まらない、 左ゴーレムの左腕は少し欠けた程度だ………


だが、 回り込む様に接近し左ゴーレムの引く左腕に間に合った、 闇の中から日暮が拳を握って踏み込むっ!


バンッ! ……グッ!


「ブレイング・ブラストっ!!」


ボンッ!


拳が、 ゴーレムの左腕を打つっ!


ッ!


ボガァアアアアアンッ!!!


………ドジャァンッ ……………


崩れた…… ここまで来れば確信を持てる


「ゴーレムの弱点は左腕だっ! 左腕を破壊されるとゴーレムは崩れるっ!」


傍の人影に情報を伝える、 よく見るとその人影は、 日暮が喧嘩したジェードだった


「余所者っ! なぜお前がこんな所に居るんだっ! 何故お前にそんな事がわかるっ!」



「俺はこの里の為に戦う、 受けた恩を返す為だ! 里の外で倒したゴーレムと、 ここに来るまでとコイツ含めて四体、 全部左腕を壊したら崩れる、 左腕に動力があるからだ!」


簡潔に伝える、もう一体、 右腕が破壊されて尚こちらに向けて拳を振り下ろすゴーレムの拳をサイドステップで避ける……


ドジャァン!! ………


「……それ以外の部分が壊れても向かってくるし、 逆に動力を破壊しない限り左腕だけでも襲って来るぞ! 俺の能力なら左腕を一撃で粉砕出来る! 協力して里を救おう!」


………


「…………分かった、 下らないプライドにこの状況で拘ったりはしない、 俺が囮に左を釣るから間髪入れず打ち込めっ!」


バンッ!


ジェードがゴーレムの気を引く様に走り出す、 里の男達が言っていたのがよくわかる、 確かに早い、 俊敏性や肉体の操作性が抜群だ……


「クールタイムが有る事も忘れず立ち回ってくれよっ! 八秒だからなっ! 次は三秒後!」


バッ!


日暮は回り込み、 ヘイトを自信に移さず、 それでいて離れすぎない距離を保ってゴーレムの左側へと移動する……


ザザッ!


ジェードがブレーキをかけ、 ゴーレムの接近と共に左に飛ぶ、 ゴーレムがまるで咄嗟に左腕を出した、 捕まえる様に手が追う……


助かる、 横に広がってる分狙い易いっ!


グッ!


「ブレイング・ブラストっ!! おっらぁっ!!」


ッ、 ボガァアアアアンッ!!


ドガジャンッ! ………………


………よし


「……強力な力だ、 ラーダのゴーレムをまさか一撃で倒すとはな…… このまま次へ向かおう、 位置は大体補足出来ている、 こっちだ!」


ジェードの背を追い走り出す、 足が速い、 だが落としてくれと言う訳にも行かないので必死に背を追いかける


「ゴーレムの数を照合したい、 倒したゴーレムは何体と言ったか?」



「はぁっ、 えっと、 四体っ、 それと一体は紐に足を絡めて転んでたっ! そいつは放置したぜっ、 十数体は居るって話を聞いてるっ」


ジェードは頷く、 走りながらとは思えない程足取りが軽快で相当体力が有ると思われる


「そうか、 俺は耳が良いから聞き分けて音の数で大体の敵の数が分かる、 里に入って来たゴーレムは十一体、 お前が四体倒してくれたおかげに音の反響が少なくなって精度が上がった、 その内転んで居るのが二体、 転んで居るのは音が移動しないからよく分かる……」


すげぇ…… きっと深い森の中で獲物を追う狩人だからこそ磨かれた感覚なのだろう、 ジェードは耳に手を当てると走る方向をやや右に向ける


「こっちが優先だっ、 民家に近いっ、 お前にはあと五体のゴーレムを倒して欲しいっ、 急ぐぞっ、 結構マズそうだっ!」


ダダッ!! ………………



…………………………


……ラーダーのゴーレムが恐ろしい物になったのは何時からなのだろう、 少なくとも自分が生まれた頃にはもう既に接触禁止の化け物だった


それはそうだ、 岩の巨人だぞ? 親父の代に一度だけ、 崖上から巨大な岩を男数十人で落として、 ゴーレムに当てた時、 漸く壊れたんだ、 この里の歴史で唯一破壊できたゴーレムさ……


寧ろその実績は更なる恐怖を積み重ねた、 そこまでして漸く破壊出来る、 そこまでしなきゃ勝ち目は無い、 出逢えば一撃で殺される……


怖いさ…… でも大人になって知った、 何でラーダーの里…… いや、 ネーヌもラーダも元は同じ里の人間だった、 自分達の先祖がなぜゴーレム操作の技術を確立したのか……


それは、 里の繁栄の為、 木を伐採したり、 土を興したり、 大きな物を運んだり…… この深い森の中で里人が豊かに生きて行ける為に造られたんだよな……


なのに…… 何だよ、 何で今は違うんだ? 何時からゴーレムは、 ラーダは敵になった? 何故、 元は同じ血を分けた自分達が争うんだ? 何故………………


………ガジャンッ! ガジャンッ!!


ゴーレムが向かってくる、 俺の家にだ、 家の中には妻と双子の娘が居る、 小さく縮こまって震えて居るだろう……


俺は必死に、 もう立っていられないふらつく足で精一杯両手を広げ、 血塗れの体で威嚇する、 骨も幾つも逝ってる、 立ってるのもしんどい……


それでも…………



「止まれっ! 止まれよっ! お前は人を殺す兵器何かじゃ無いだろっ! お前を作った人はそんな事思って作ってないだろっ!!」


喉が痛い、 潰れそうだ………


「ッ、 ここから先は一歩も行かせねぇっ! 死んでもっ! 家族は殺させねぇっ!!」


叫ぶ事で精一杯、 息が苦しい程に荒い、 ゴーレムが拳を握って振り上げる、 これが当たった瞬間、 自分は数メートルも吹き飛んで絶命する


無駄死にだ、 どうせ止められない、 ただの意地でこんな事をしても家族は助けられない、 もしかしたら許して欲しいだけかもしれない、 良くやったと少しでも慰めて貰いたいだけかもしれない………


そんなの……………………


「………自己満足だ、 ごめん………」


拳が、 もう眼前に………………


…………


ッ!


ギィンッ!! バァンッ!!


っ!? ………


鋭い音が聞こえて、 誰かが間に入り込んだ、 キラリと何か光ると、 その瞬間ゴーレムの拳は僅かに軌道を逸れ、 紙一重ギリギリを空振るっ


ッ、 ドジィンッ!! ………


間に入り込んだ人影が叫ぶ………


「今だっ! 叩き込めっ!」


バンッ!!


もう一人、 闇の中から躍り出てこちらへ踏み込んだ、 その拳は固く握られ、 彼が口を開く


「ブレイングっ・ブラストっ!!」


ボッ!


ッ、 ボガァアアアアンッ!!


ドジャアアアンッ!………… ドザンッ………


っ!?


思わず目を見開いた、 拳がたった一撃ぶつかっただけで、 ゴーレムが吹き飛ぶ、 崩れ壊れた…… 二度と立ち上がる気配は無い………


ゴーレムを破壊した人影、 男だ、 見た事は無い、 まさか噂の余所者か? 彼が口を開く……


「ゴーレムのパンチをナイフ二本で流す何て、 俺より凄い事してるじゃん、 ジェードお前凄いな……」



「……馬鹿言え、 まだ手が痺れている、 咄嗟に体が出ただけだ…… だがラーダーのゴーレムと戦い生き延びる練習はずっとして来た」


なるほどね…… そう言って頷く彼、 回答を返したのはジェードだ、 二人は喧嘩をしたと言っていたがそこまで険悪そうには見えなかった……


………っ


「いっ、 てぇ……… ああっ、 骨が……」


そうだ、 助けられた礼もまだだが、 もう俺はダメだ、 緊張の糸も切れてまともに立って居られない…… ああ、 せめて、 家族に言い残したい……


「……ジェード、 と余所者、 俺の人生は……」



「ん? ああ傷ね、 待ってろよ、 牙龍、 こいつの傷を直せっ」



余所者の彼が腰から抜いた奇妙な形の刃、 その柄をこちらに向ける、 何か、 骨の様な物が絡み付いて居る様だが………


バシュンッ!


っ!?


突如、 骨が伸びて射出される、 その骨がそのまま俺に突き刺さるっ


グジャッ!


「っ、 うあああっ!? いっ、 あああっ…………… あ?」


痛みは一瞬だけだった、 驚きはあったが、 不思議だったのは、 身体中の痛みが引いて行く、 血が止まり傷が治って行く、 再生能力…………


グシュッ………


骨が抜けると体はもう何とも無いように治っていた、 未だに実感が湧かない、 何者何だこの余所者は………


「さて、 次に行くぞ…… あんたは家に避難してろっ、 ジェード次だ次っ!」



「ちっ、 黙れ指図するなっ! こっちだ着いてこいっ!」


そうして、 結局感謝の言葉を言う前に二人はその場を走り去ってしまった、 残されたのは自分一人だけ…… 妙だな、 傷は治ったのに動けない………


ガチャッ!


「お父さんっ!」



「おとっ! ぁあんっ!」


ドアが勢いよく相手愛娘達が走り寄ってくる、 顔をグズグズに泣き崩して居た、 その後ろに妻が続く、 妻は昔から強い女性だ、 涙を流す所何て見た事が無い……


「あっ、 あなた…… 良かったっ、 生きてるっ! ああっ!!」


っ…………


顔をグズグズに泣き崩しだ妻が抱き着いてくる、 ああ、 自分はこの温もりを守りたくて必死に立ち向かったんだな……


無駄じゃなかった、 彼らが間に合ってくれた、 ああ、 本当に立ち向かって良かった…………


「……もう俺、 疲れたから、 家、 帰ろう…… ごめん立てない、 肩貸して……」


妻に肩を貸してもらい、 娘のひとりが手を引き、 もう一人が後ろからグイグイとお尻を押す、 今夜はきっと長い夜になる


それでも……… 家の玄関をくぐった瞬間、 自然と自分も涙が流れてきた、 止まらない、 生きてる、 本当に生きてる……


「っ、 おかえり、 なさい、 あなたっ」


あぁ………


「ただいま…… ただいまっ、 ただいまっ! 帰ってきたぁっ! うぁああっ!!」


里の一軒家に温もりの火が灯る、 涙を流し、 今確かにある幸福を噛み締める……


…………………………………………



…………………



……


「……命を救われた人達は、 それはもう心の底から嬉々とするだろうね、 改めて噛み締める幸せに、 涙を流す……」


背の高い木の上に腰掛けた人影が一人、 この里の惨劇を『悪計』した男、 は背に月明かりを受け溜息を着く……


はぁ……


「更に追加で二体、 破壊された、 暴れてるのは残り一体、 紐で転んだ個体も変わらず、 この後ゆっくり処理されるだろう」


予想以上だ………


「明山日暮、 『魔王』を倒し、 そして何より、 獄路挽ごくじびきを倒した存在…… 厄介だね、 あの女の子でどうにか止められたらって思ったけど、 どうにも『愛落』の力の馴染みが悪かったね」


愛に狂った人間は、 理性を失った様に凶行に走り続ける、 やがて行く末を見失い、 落ちた沼の中へ、 愛した者をも沈め、 苦しめる、 その命を殺してでも自分の物へしようとする……


「そういう類だったんだけど、 巫女の称号は名ばかりでは無いな、 毎日祈りを捧げて居る成果が神、 理夕りせつに届いてる、 その抵抗力、 それと、 明山日暮の持つ、 『勇者』の力か…… 相性が悪かったな」


男は肩を落として項垂れる、 自分は指示を受けてこんな事をしている、 この世に、 『混沌』と『絶望』を生み出す事、 男の『悪計』として手始めに、 こういった小さな、 腐虫に食われた様に、 徐々に蝕む予定だった


しかし、 予定が狂う時と言うのは、 何時だって予想外の存在のせいだ、 それが明山日暮だ、 獄路挽が殺された所から始まった予想外だが、 それが予定より大きく波紋の様に広がる……


第一に………


「理夕のやり方が上手かった、 あいつは自分の管轄世界である事を言い訳に情報の多くを秘匿していた、 初めから俺達を疑ってたんだろう…… 面倒臭い仕事だ……」


やっぱり………


「ここで殺しておくべきだな、 人前には出たく無かったが仕方ない…… 行くか……」


スッ………


なんと言う事の無い動作、 男は木の上から零れ落ちる様に落下していた、 体が加速し、 地面に衝突する…… そう思った時、 一陣の風が拭いて、 木の葉が攫われる様に、 男は余りにも静かに姿を消して居た………


……………………………………………



……………………



………


来たっ、 ジェードが拳を紙一重で躱し、 左腕を下に落とした、 タイミングもバッチリだっ、 コイツでっ


「ラストだっ! ブレイング・ブラストっ!! おらぁああっ!!」


ッ!


ボガァアアアアアアアンッ!!!


ドジャアアンッ! ………………


……………ふぅ


「……これで最後か?」



「………ああ、 立って居るのはそうだ、 念の為に倒れているゴーレム三体も順次破壊しに行くぞ」


ジェードの声に頷く、 暴れててうるせぇからな…… まだ終わりでは無い、 だが、 取り敢えず里人を襲うゴーレム集団は今ので全部倒した、 これからするのは後処理みたいな物だ、 そう思えば少しは肩の力が抜ける……


ジェードが耳に手を当てる、 一番付近の転んでいるゴーレムの位置を探って居るのだろう…… だが、 その目が突如開かれ驚きを示す、 警戒度が上がる……


「……しまった、 紐が解かれた、 ゴーレムが立ち上がる、 だが…… どういう事だ?」



「どうした? 解かれたならまずはそいつの所へ向かおう、 案内してくれよ」


日暮の声にジェードは首を横に振る、 その顔には困惑が浮かんで居た……


「違う、 一体じゃない、 三体全部、 しかもほぼ同時に、 急に動きが変わった…… 案内する必要は無さそうだ、 三体が全てこちらに向かって居る」


どういう事だ? そんな疑問の中、 確かに大きな足音が向かってる、 ゴォンッ! ゴォンッ! 足音が迫ってくる……


ドォンッ!! …………


ふと月明かりがこの一帯を薄らと光指す、 大きな影が三つ、 コチラを三体のゴーレムが囲んでいる、 今までのゴーレムと違うなと思ったのは目だ、 目が紅く光を放っている


まるで何者かの指示に従うが如く直立で立ち止まっている、 何者か…… 一体のゴーレムの影からその者の声がした……


「いや~ 暗い所だねこの里は……暗すぎて誰も闇の中が見えないから、 ゴーレムを配置するのもとても簡単だったなぁ~」


ゴーレムを配置? 軽薄そうな男だ、 闇に溶ける様な暗い色のローブで全身を多い、 フードの中から覗く怪しい色の眼光だけが背筋に嫌な感覚を覚えさせた…… まさかこの男が?


「……里にゴーレムを放ったのはお前なのか? お前はラーダー人間か?」


ジェードだ、 声は低く冷えていた、 聞き間違いでなければ、 いや、 そうだとしてもこの男は怪しすぎる……


「はははっ、 一つ目の質問は正解、 二つ目は不正解…… 俺はラーダってあの里危機を救う為に、 ここを滅ぼそうと思ってゴーレムをけしかけたんだ」


でも……


「ははっ…… 上手く行かない物だ、 ゴーレムはこの里の人間には脅威にだが、 そこの明山日暮には関係無い、 いっつも関係無い奴が俺の『悪計』の邪魔をする…… 計画って言うのはどうしても不測の事態に弱い…… やるせないねぇ~」


何だ? 日暮は思考を巡らせる、 目の前の男は日暮は知らない、 だがコイツは今、 日暮の名前を出した、 この世界で日暮を知る者等そう居ない


居るとしたならば、 そして、 出会ってから感じるこの独特な雰囲気、 体が勝手に硬直し固まる様な感覚…… まさかコイツは、 和蔵わくらや、 理夕りせつと同じ…………


思考を続ける日暮を、 男は指差して笑う、 心底楽しそうな、 ガラスを引っ掻いたような不快な笑い声で、 何だコイツ……


「はっ、 ひぃははっ! お姫様とのラブロマンス、 暗い一夜の熱い一幕…… どうやらお気に召さなかったみたいだねぇ? 振り切って飛び出して来たんだろ? 可哀想にねぇ……」


………一瞬、 何の話をされたのか分からなかった、 だが少し考えて合点がいった、 その瞬間内側から赤熱し、 沸騰する様な怒りが轟々と湧き上がる


コイツ、 コイツがっ!


「っ、 てめぇがぁ! シャルルに何しやがったクソ野郎っ!!」


あははははっ


「でけぇ声出すなよ、 見苦しい、 別に良いだろ? 君にはどうだっていい女何だ、 そうだろ? 彼女は君に受け入れて欲しかったのに、 君は突き放した…… 何を怒ってるんだ?」


チッ


舌打ちが出る、 腹が立って仕方ない、 この野郎がシャルルを、 進み出した彼女の足を引っ張った奴だ……


怒りが、 頭が熱くなる程、 許せないっ、 怒りが…… 頭が熱いっ …………


熱………………


「………おい、 応えろ」


……冷えていた、 先程よりも低く、 ドスが効いて、 何より冷えていた、 ドライアイスを触った様な、 痛みを伴った冷たさ………


隣だ、 声の主はジェードだ………


「今、 シャルルが何だと言った? お前らはさっきからシャルルの話をしているのか? ……応えろ、 今すぐにっ!」


ギラッ!


っ…………………


首筋に冷えた刃物を当てられた様な、 頭がキリキリと軋む感覚、 それと同時に怒りは熱の色を変え、 脳は冷静さを取り戻して行く……


日暮は、 飾らない、 ありのままを話す……


「……ついさっき里長の家に帰った時だ、 シャルルの様子がおかしかった、 目は虚ろで、 光が無くて…… それに、 急に俺を襲って来たんだ…… 完全に正気を失ってた」


だが……


「あいつを惑わした何か、 それは魔力の塊だったが、 シャルルは泣いてた…… 俺は許せない、 あいつの優しさは…… 弱さなんかじゃねぇっ、 あいつは強い奴だっ…… それを、 その男は否定しやがったっ!」


はははっ!


「いやっ、 弱さだろっ! 自分の心に殺される、 勝手に重力を掛け、 潰れ、 溺れる…… 脆弱な生命、 あの女はその代表だったろ?」


この野郎……… 散々言いやがって腹が立つ、 あいつは弱く何か……


「……シャルルは弱い、 昔からそうだ」


………?


男を否定しようとする日暮と対照的に、 ジェードはやはり冷静であり、 彼女の弱さを肯定した、 しかしその声色は何処か優しい……


「……昔からシャルルは、 暗い所を怖がって、 飛ぶ虫が大の苦手で、 苦いコーヤが嫌いで……」


それで……


「そのくせ、 もっともっと弱い俺が、 シャルルよりも暗い所が怖くて、 虫が苦手で、 コーヤを嫌ってグズるからっ、 シャルルは弱い癖に、 何時だって、 同い年なのにっ、 姉の様に振ってっ!」


「暗闇で手を引いてっ、 家に入った虫を逃がしてくれてっ! コーヤだってこっそり食べてくれたぁっ!! 俺は何時だってっ、 昔からっ! 大昔からっ!! シャルルの事がっ!」


グッ!!


最後、 何かを飲み込んだ、 しかし、 冷静さで必死に隠した怒りが滲み出る、 彼女を第一に思うジェードだからこそ、 怒って居ない訳が無い……


「シャルルが弱く無い事はっ、 余所者っ、 お前が大声で叫ばなくとも昔から分かりきった事だっ! 知っている事だっ!」


「シャルルに近づく害虫はっ、 俺が全部ぶち殺すっ! シャルルを泣かすゴミはぁっ!!」


ギラッ!


煌々と、 ギラギラと、 鋭い瞳が光を放つ、 その冷たい刃のような視線は男に向かう


「……あれ? こっちはガチ恋勢だったか、 だったら明山日暮に怒ったらどうだ? 彼女に触れた時知ったんだ、 この里にある掟の事…… コイツはな、 ははっ、 見てるんだよ、 あの子の裸をっ!」


そこには挑発があった、 シャルルの事を想うからこそ、 日暮にもヘイトが向く、 共に里の余所者、 最近も衝突し喧嘩したばかりだ……


だが……


「……くだらない事、 その程度の掟等何の効果もありはしない…… 何故なら、 俺だって子供の頃に何度も見てるからだ…… よく二人で泉に無断侵入して水遊びをしたからなぁっ! そんな程度の事でシャルルの気持ちをっ、 心をっ、 掴める筈がないだろろうがぁあああっ!!」


シャギィンッ!! シャァンッ!!


咆哮と共に、 ジェードがナイフを二本抜く、 絶妙な湾曲と上等な切れ味のナイフ、 そして、 泉の水で鍛造された魔力を含み、 魔力傷を引き起こすナイフの二刀……


「シャルルに詫びろっ、 泣き別れた首でっ! 血反吐を吐きながらっ、 地獄で詫びろっ!!」


ッ、 バァンッ!!


っ!


ジェードの踏み込み、 速い、 一瞬で距離を詰めている、 怒りに任せたようで、 その実急所二点を狙ったと同時に、 カウンターにも警戒された構え……


刃が男へと吸い込まれ……


……すっ ………


たんっ…………………


……っ!?


……日暮は驚いた、 奇妙な一瞬の攻防、 男にジェードの二本のナイフは突き刺さった様に見えたが、 見た目にも手応えは無いように見えた


ジェード本人も空振りした様な軽さ、 その次には男の体は崩れる様に、 灰の様にふわりと消え……


目を見開く日暮と、 実感の湧かないジェード…… そして、 数メートル先に初めからその位置に立って居たように、 悠々と笑う男の姿、 一歩も動いた様な、 衣服の乱れすらない……


「……いや、 速いね、 世界の水準が高いから、 才能を持った人材がこんな辺境の里にも産声をあげる…… 良く管理された世界だよ…… ああそうだ、 忘れては行けないよ? 君達の敵は私じゃない……」


男が身を翻す、 背を向ける、 逃げる…… その動作に、 一瞬引かれた思考……


っ!


「ジェードっ追うなっ!!」


叫ぶ日暮の声より早く、 二体のゴーレムが巨大な一歩を踏み出し、 左右から叩き付ける様に拳を地面へと叩き込んだっ


ドガァアアアンッ!! バゴォアアアンッ!! …………


不味い、 当たったか? 土埃が高い、 何も見えないっ………


………キランッ!


一瞬上で何かが光った、 それはナイフの反射光、 月明かりを反射した二刀…… ジェードが、 土埃よりも更に高く……


「ボサっとするなっ! 左に飛べぇっ!!」


っ! ダァンッ!


日暮は反射的に左へ重心を傾け右足で体全体を蹴り出す様に地面へと転がる……


ッ、 ドジャアアアンッ!! ……


っぶね!


直ぐさっき居た地点に拳が突き刺さる、 囲っていた三体のゴーレム、 ジェードに襲いかかった二体と別のもう一体だ……


ザァッ! ……タンッ!


転がり跳ね、 地面に立つ日暮と、 空中から地面へと降り立つジェード、 ちらりと男の方を見たがその姿はもう消えて無くなっていた……


「……あの得体の知れない男の事は一旦置いておこう…… 到底許せる気分では無いが…… シャルルは無事なのか?」



「無事…… 心の強さ次第、 ま、 つまりは大丈夫だな…… 心のケアとかしてあげたらモテるかもよ?」


ふっ……


短く笑ったジェード、 注意深く視線を動かす、 ゴーレムが三体間合いを測る様に配置し始める……


「動きが少し機敏になったか? 今までよりも速い、 ジェードお前よく避けたな?」



「確かに速度は上がったが、 俺からしたらまだまだ遅すぎる程だ…… 作戦は今までと同じ、 俺には破壊出来ないが、 注意を引く事は出来る…… だが三体は厄介…… 俺が二体を引き受ける内に、 お前は素早く一体倒せっ」


バンッ!


ジェードが地面を蹴る、 このゴーレムは何かがさっきまでと変わった、 だが体感して実際に大きく差を感じる部分は今の所速度だけ、 その証拠に、 上手く引きつける様に二体の間を走り抜けヘイトを買うジェードを反射的、 いや機械的に追う……


バッ!


そうなったならば、 日暮はもう一体のヘイトを買う、 ただ倒せば良い訳じゃない、 時間をかけずに、 それでいて変化の情報を獲ろ……


ッ、 ドジャアアアンッ!!


敵の拳、 日暮は無理なくサイドステップで避ける、 やはり速くなった、 変化している…… だが、 果たしてこの変化は強化なのか? それとも足し引きによる変郭なのか?


例えば……


(……単純に速度を上げたとして、 しかし肉体に掛かる負荷は同じ、 ゴーレムは疲労や苦痛を感じないだろうが、 決して平等な法則に逸脱している訳じゃ無い筈だ)


例えば重力、 例えば空気抵抗、 例えば同じ形、 同じ肉体のスパン、 同じ可動域、 同じ重量…… 人に例えればハンドスピードを上げる事は、 ただ腕を速く振ると言うような単純さでは無い


同じ法則上に居るなら人もゴーレムも同じ、 そして肉体の負荷を物ともしないゴーレムならば、 今まで放ってきた拳が何も制限されたパンチだったと言う事は無いだろう、 常に全力、 パワーも、 勿論速度も……


その上で速度が上がっている、 パワーを維持したまま、 パワーを犠牲にして速度が上がっているならば分かる、 でも維持したままだ、 これは一見超強化に思える……


しかし……


(……全ては足し引きだ、 よく見ろっ、 速度を上げた分、 もっと別の何かを犠牲にしている筈だっ)


………ブンッ! 左によるパンチ、 仕方ないここで破壊してしまおう、 観察はまだまだだがジェードを疲弊させる訳には行かない……


ザッ!


踏ん張るっ、 敵の振るわれた左拳に正面から迎え撃つ様に拳を握る、 速度が上がってもカウンターを叩き込む事は可能ッ


「ブレイング・ブラストッ!!!」


っ、 ボンッ!!


互いに振るった拳、 正面衝突、 以前花畑で倒したゴーレムとのバンチの強さ対決は日暮が勝利したっ、 今回もっ!


(……っ、 ぶっ壊れろっ!!)


…………………


ガチャガチャガチャッ、 ガララッ……


バギィンッ!! ……………


何か音が鳴ったと思った、 すごく機械的な音だ、 その後、 日暮は息を呑んだ、 それは………


ピタッ………


止まった、 あれだけの質量、 あれだけの勢いと速度で振るわれた拳が、 ビタっと停止する、 ものすごいエネルギーのブレーキ停止、 エネルギー…… 出力?


ドッ!!


っ!


回り込む様な右の拳の接近、 強制ブレーキによる左のフェイント、 からの固定した日暮に対して右での攻撃っ


チッ!


ドガァッ!!


拳衝突…… 日暮の拳と……


「遅せぇっ!! 取り敢えず右ぶっ飛べやっ!!」


ッ、 ボガァアアアンッ!!


ボロボロッ………


「ガギャアアアアッ!!!」


やっぱり、 右を壊したんじゃ止まらないっ、 クールタイムが……


「ガガガガッ! ギガッ! ガァ……… ギュ…… ガァァ…………………」



再度ゴーレムの咆哮、 しかし、 突如として動きが鈍く、 弱く………


「ガ………………」


ドッ、 ガラガラッ………


…………崩れた、 何でだ? 動力は左、 それを壊さない限り崩れない筈なのに、 何で右の破壊で崩れた? 何で………


キラキラキラキラ………



何か、 少し光る粒子の様なものが破壊断面から漏れ出して居る、 これは…… 魔力? しかし直ぐにそれも消えてしまう……


…………ははっ、 はははっ、 分かったっ


バッ!


日暮はジェードの方へと向き直る、 そちらに向けて走る、 ジェードが二体をどうにか躱し続けて居るが、 動きが速くなった分楽では無さそうだ……


……速くなった、 パワーをそのままに、 そしてあのブレーキ、 これは、 エネルギーの放出、 その出力の増大だ


考えれば簡単だ、 奴の動力は魔力の塊、 それは言わば電池だ、 そして現在のこれは電池の動力の放出を増大させて一時的に強めて居るんだ


本当に電池と同じならばその分寿命が短くなるだろう、 そして、 無理に上げられた出力の増大は無駄なエネルギーの放出にも繋がっている、 それがさっきの光だ


機構は元のまま、 そこに無理やり電池の出力を増大させているから、 本来なら無駄な魔力の放出何てしないが、 今は一部を破壊されただけで勝手に大量の魔力を放出して、 電池切れで崩れる……


それが、 今回の足し引きだ、 寿命と、 脆さを引き換えに、 速度を上げた……… 正直割に合っていないと思うが、 おそらくあの男もこれで日暮達を倒せるとは思って無いだろう


(……逃げる為の囮、 ゴーレムに気を引かせて…… だったら初めから出てこなけりゃ良いのに、 頭に来る様な事だけ言って消えやがった、 腹立つ……)


まあ良い………


「ジェードっ! 今のこいつらはだいたい何処を破壊しても崩れるっ! また上手く誘導してくれっ!」


一瞬の視線、 何も言わないがそれだけで理解した様に、 ジェードはゴーレムを引き付けつつ、 左のゴーレムを大きく反時計回りで誘導する


左のゴーレムがそれを体で追う所で、 ジェードは若干速度を落とした、 ゴーレムがここぞとばかりに拳を固め体勢を落とす………


タンッ!


そこで、 背を向け走るジェードと、 反対にこちらに向かう日暮がすれ違う、 ジェード狙いの視線は容易に日暮をゴーレムの懐へと侵入させた……


「っ、 ブレイング・ブラストっ!!」


ドッ! 衝突っ!!


ッ、 ドガァアアアアンッ!!


ボォンッ!! ……………


人間でいえば股関節の辺りへとヒットしたブラストは、 その威力のまま横腹の辺りまで吹き飛ばした、 そのダメージ部からやはりキラキラと魔力が漏れ出す……


ガガガッ…… ガッ!!


死に体、 それでも動力が残っている内は拳を握る、 今際最後の一撃、 振り上げられた拳が……………


……………


「うおおおおおっ!! お前らっ! 若者共に続けっ!!」


うおおおおおっ!!!


!?


突如闇の中から十人ほどの男達が現れ雄叫びをあげる、 男達はその手に幾つかの紐が括られ持ち手とした巨大な丸太を全員で持ち上げ走っており、 まるで人力の破城槌はじょうつい


それが崩れ掛けたゴーレムの左脚へと勢いそのままに衝突するっ


ドガジャァアアアンッ!!!


ドザァンッ! …………


ゴーレムが倒れた、 最後と一撃を放つ事が出来ずに、 少しもがいて最後のエネルギーを使い切った……


だがこれで……… 残り最後の一体だっ!


そちらを見ると既にジェードが引き付けて居る、 日暮は走る、 クールタイム開けまで、 後………


「三秒後っ!」


ジェードが踏み込み先を変える、 上手く左を誘導する、 何処でも良いとは言ったが、 やはり左を破壊する事が最も手っ取り早い


ゴーレムが左拳を握り込み振り上げた、 ジェードが拳を睨む、 日暮は更に踏み込んで大きな一歩でジェードを越える……


グッ!


「テメェでラストだァあっ!! ブレイング・ブラストォッ!!」


ボッ!!


空気圧の膨らみ、 強く引いた拳を、 振り下ろされたゴーレムの拳へと、 正面衝突っ!


ドッ!


この勝敗がどちらに傾くのか、 それはもう分かりきっている、 巨大な相手でも、 そこにもう恐怖は無い、 乗り越えた、 この一撃はもう、 日暮は乗り越えっ!!


「あああああっ!!!」


ッ!


ボガァアアアアアアンッ!!!


ボォオオンッ!!


…………ドザンッ …………


……ゴーレムが吹き飛び、 崩れ落ちた、 その後は、 随分と久しぶりで、 里の夜に元々降りていた、 そして何処か奇妙な静寂さだけだった……


「……こいつで終わりか?」



「ああ、 その様だな、 元々ラーダのゴーレムも十数体程だと聞いた事が有る、 ほぼ全てのゴーレムを破壊したんだろう…… 勿論音もしない、 静かな夜だ」


ほぉ………


戦いが終わり、 疲れと、 拭えない違和感と嫌な気配、 零れる溜息、 もうすぐ家に帰って眠ってしまいたい所だが、 敵を倒したからお終いと言う訳ではない事をここに居る誰もが知っている……


行こう………


そう声が聞こえた、 誰の声だったかは分からない、 ジェードか、 他の男達か、 それとも日暮が無意識的に言っていたのか……


なんにせよ、 誰が言っても不思議じゃ無かった、 誰もが同じ事を思っていた、 場所や理由は決まりきっている……


「行こう、 ラーダの里に、 ラーダの里長に今回の襲撃事件の言い訳を聞きに行こうっ!」


…………


……まだ夜は長いが、 辿り着く頃には日の出近くになるだろうとジェードは日暮に言った、 里の護衛の為の人員を残し、 少数精鋭、 七人程の男が選ばれ里へ向かう事になった


その中には、 話が上手く里の内情にも詳しい商人の旦那や、 武力担当としてジェード、 そして、 今夜、 最も力を示した余所者、 日暮も参加する事が出来た……


「……俺達は森の道に慣れて居るが、 お前は別だ、 お前は隊の真ん中に入れ、 何か不足の自体が有り隊が散る事になっても、 誰かしらの背を追え、 良いな?」


日暮は頷く、 日暮は確かに土地勘に詳しく無いし、 狩人達と比べればこの険しい森の中を進むのには慣れていない、 それでも日暮が行くのは、 ネーヌの里の者にとって、 今まで怯えてきたゴーレムと言う存在に対する最大のアタッカー


その存在と、 力こそが、 この後起きるラーダの里との話し合いにおいて最もたる力の証明になり得るからだろう……


(……俺は里に、 何よりシャルルに救われた…… 俺には俺のやり方で、 最大限恩を返してみせる)


ふぅ………


日暮は息を吐くと、 深く暗い森の中、 まだ見ぬ地、 ラーダの里を目指し、 仲間の背を追って、 足を前へと進めた……

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