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第百四十七話…… 『天閣の祝詞、 後日談・6 やりたいこと《二》』

ジジジジジッ…… ミーンミンミンミーン……


ミーンミンミンミーン……


ァッホッ アァホォッ ァッホッ アァッホォ……


チピチピッ チュチュッ……


ミーンミンミンミンミンミンミンミンミーーンッ………


……………………………………


ここは、 まあ………


「……随分な田舎だね、 ここまでこ田舎を私は初めてみたよ、 いや、 ぼ〇のなつやすみで見たかな」



「先輩…… 流石にストレート過ぎませんか? もっとのどかな場所とか、 自然豊かな場所とか言い方有るでしょう……」


森郷雨録もりさとさめろくは、 高校時代の後輩、 綺関良美穂きせきらみほの生家に代々降り注ぐ、 『呪い』を断つ為に、 彼女の故郷へと来ていた……


「うっわ~ すっげぇ田舎っ、 藍木あいきよりももっと田舎ってあったんだっ!!」



「ちょっと威鳴さん、 失礼ですよ、 藍木から、 コンビニやスーパーや飲食店何かを無くして、 家の数とインフラを取ったくらいな物で、 あまり変わりは無いですよ」


…………………


少し離れた地点から聞こえる若者二人、 村宿冬夜むらやどとうやと、 威鳴千早季いなりちさきの声が耳に届く……


雛弓は今回は現地には来ていない、 自分は行っても力になれないとの事だ、 あの変わった彼女がこの地を見たらどう思うだろうか……


まあ、 なんにせよ………


「はぁ…… そうだよね、 私の故郷って、 他と比べてもずっと田舎だよね……」



「ああ、 正に、 出そうな所だ」


………


雨録達が無事に美穂の故郷へと来れたのは、 カフェでの初対面から三日後の事だった、 カフェで話を聞き、 予定を合わせたのだが……


(……本当に、 一時はどうなるかと思った)


雨録は安堵を抱いていた、 何故なら、 雨録は元々、 甘樹街でテロリストの様に、 勇者ナハトの作戦に従い、 世界に龍を呼んだり、 モンスターを幾つか呼び出したりと


調査隊として人々の為に戦ってきた冬夜達とは反する行為であり、 シェルターの襲撃事件もあった事から、 敵対関係とも言えた


そして何故それがバレたのかといえば、 ナハト率いる『ブラック・スモーカー』と、 魔王が一時協力関係であり、 魔王は、 冬夜や威鳴にとって大切な物を危険として封印していた様だ


魔王に封印されたが、 力を駆使し、 外の光景を見る時間があった、 そこで目にしたのが『ブラック・スモーカー』の面々、 そして雨録と言う訳だった


カフェ内で一悶着起こりうる所だったが、 流石に雨録も、 そして相手も常識を持っていたし、 雨録が真実の中に嘘を隠し話した事で面倒事は回避した


勿論相手側は、 特に冬夜は今でも雨録に鋭い目を向けて警戒しているが、 今回の綺関良美穂を助けると言う調査には協力的だった


本人曰く……


『……自分も、 あと威鳴さんも、 そう言った力に一時期悩まされた同士ですから、 俺達は力になれると思いますよ』


との事……


それもこれも、 殺人さえ犯した雨録の行為が完全に露呈して居ないからこそ実現した事、 この機会を失う訳には行かない……


……………………


暫く歩くと脇にお社が見えてくる、 古ぼけた中に、 何処か真新しさも混じっていた……


「ここが話したお社です、 昔荒らされて、 村総出で直した…… やっぱりここの神様が怒っているんでしょうか?」


見た感じ何処にでもありそうな風体のお社だった、 思い浮かべていたものよりは少し大きいが、 大きな神社に比べれば敷地すら狭い物だ……


「う~ん、 変な感じはしませんけど…… まあ、 先ずは聞いてみます」


聞く?


冬夜だ、 彼は鳥居を潜ると小銭を二枚取り出し、 賽銭箱へ投げた、 二礼、 二拍手…… その後一礼


冬夜が無言で戻ってくる……


「……あの、 どうでしたか?」


冬夜は顎に手を当てる、 言葉を選んで居るのだろうか……


「まあ結果的に言えば、 ここの神様が原因と言う事は無いんだと思います、 ほら、 見てわかる通りここはお稲荷様を祀っている様ですけど、 良く代替わりするみたいで、 今はまだ若いお狐様が丸くなって寝てるだけでした、 平和な物です」



「えっ、 あっ…… えっ? じゃあ神様の祟りでは無いんですか?」


冬夜は頷く


「お稲荷様は家内安全の神様でもあります、 それに村人は誠意を見せてお社を直している訳だし、 その上で更に怒ると言う事は無いですよ、 今の神様も凄く穏やかでした…… ね? マリー」


冬夜が見た先、 水が渦巻いて小さな少女の形を取る、 水の少女マリー、 彼女は藍木の水の神様らしい……


「ええ、 可愛い小狐ちゃんだったわ、 何か大きな力を持っている訳でもないし、 凄く村のことを幸せにしてくれる訳でもない…… でも、 あの子が穏やかに暮らしていける内は、 この村も穏やかの筈よ」


ただ……


「この村じゃない所は分からないって、 この村の中に、 この村じゃない場所が有るって、 気を付けろって言われたわ」


……………


「それって姉貴が俺をぶっ殺した所見たいな場所かな? 姉貴の成木がある所……」



「違うわよ、 貴方は足を滑らせて勝手に死んで私の所に来たのよ~ 勘違いしそうな言い方はやめなさい?」


威鳴の姉を名乗る女、 こいつも神様らしい、 こっちは見た目は完全に人間だが、 急に現れるし、 急に消えるし、 人ではない事は分かっている


「……でもそうね、 気配は感じないけど、 嫌な匂いはするかしら、 草木も何処か怯えて居る、 急いだ方が良いわ」


ここじゃ無いとなると……


「やっぱり君の家の方かな? 連れて行ってくれないかい? 美穂ちゃん」



「はい、 分かりました、 皆さん付いてきて下さい」


……………………


田舎道を更に進んで行くと、 遠くに大きなお屋敷が見えてくる、 凄いお宅だ、 まさかあれが………


「あれが私の家ですね、 多分お母さんもおばあちゃんも居るはずです、 あと使用人の人も何人か…… あっ、 お母さんだ!」


美穂が弾んだ声を出す、 彼女の視線の先には、 塀で囲われた屋敷、 その門の外でこちらに手を振る彼女の母と思われる女性の姿があった


「帰ると連絡してあったのかい?」



「……う~ん、 した様なしてない様な、 でもお母さんはいっつも私が家に帰る時はああやって迎えてくれるし…… お母さぁんっ!」


美穂が手を振り返すと遠くからでも分かる、 彼女の母は人の良い笑顔を向けたのが分かった


やがて近づくと屋敷の大きさが更に目立った、 一行が近づくと彼女の母親が大きく頭を下げた、 品の有る女性だった、 見た目だって実年齢よりもずっと若く見える


「皆様ようこそお越し下さいました、 美穂から話を伺っております、 我が家の為にご助力下さり感謝致します」



「っ、 ああ、 いえ、 お気になさらず……」


何時だって大きな態度を取っている雨録ですら、 ここまで誠実に挨拶されたらかしこまってしまう


「ささっ、 暑かったでしょう? 大丈夫、 こんな見た目の家ですがしっかりとエアコンは完備されておりますし、 冷たい麦茶と、 アイスクリームも用意していますから、 さあどうぞ」


それは凄く有難い……


「さあ美穂、 おいで、 いっぱい汗をかいたわね、 中へ行きましょう」


母親が美穂の手を取り引く、 仲の良い家族だ、 子供の頃ならまだしも同じ立場だったら、 他の人の居る前でこうされたら嫌かもしれない……


……寧ろ、 この母親の様は何処か、 焦って居るような、 有無を言わせない様な、 そんな気がしないでも無いような……


……………


母が敷居を跨ぐ、 手を引かれる美穂をあと一歩で跨ぐ、 アイスクリームにつられた威鳴がそれを追いかける、 その後に雨録は続く


その更に後ろから、 水の少女マリーと、 村宿冬夜の声が聞こえた……


「……冬夜っ、 あの子の母親、 陰陽術で見てっ、 早くっ!」


急かす様な声に振り向くと、 驚いた冬夜がそれでも一瞬後には頷く……


「陰陽術・内重也うちがさなり開覚かいかく


ギョロッ!


冬夜の内側で目が開く、 逆に冬夜は目を閉じる、 五感とは違う感覚、 無意識的な力の見る世界、 それは相手の輪郭を捉え、 そして術により補完する……


敷居を跨ぎ、 庭先へと入っていく彼女の母親の姿を冬夜は内側の目で見る、 一瞬だった、 母親の腰の辺りから……


しっぽが見えた気がした…………



「美穂さん止まれっ!!」



「へ? ………」


冬夜の声に振り返った美穂が敷居を跨ぐ、 いや、 境界を跨ぐ……


ぽちゃぁんっ………


湖面が揺れた様だった、 虚空が波紋状に揺れた、 そのままの勢いで、 すぅーっと、 彼女の体は吸い込まれる様に、 消えてしまった………



「美穂ちゃんっ!」


雨録の声は自分で思う以上に焦って居た、 敷居を跨ぐ寸前だった威鳴をその姉が止める、 後ろから冬夜の舌打ちが聞こえた……


「ちっ、 やられた……」


その声がどこまでも取り返しのつかない様な自体に聞こえて仕方無かった……


………………………………



………


「……はい、 そうです、 依頼者の家の前で、 その母親の格好をした偽物…… しっぽが生えてましたが、 なんにせよ依頼者が消えてしまって」


冬夜はスマホを耳に当てる、 相手は彼の親戚で、 現役の霊媒師だと言う、 どうしてだろう、 その響きだけで胡散臭さが出るのは


だが、 彼が本物だと言うからには本物なのだろう…………


「ええ、 その後自分達も追って敷居を跨いだんですが、 美穂さんは居なくて、 普通の綺関良家のお屋敷が有るだけで、 家を尋ねたらお手伝いさんが対応してくれて」


「信じて貰えるかは分からなかったですけど本当の事を話したら、 ええ、 家の中に通して貰って、 そうしたら迎えてくれたのは、 恐らく本物の彼女のお母さんでした」


「やはり、 ほんの少しは理解が有る様で怯えて居ました…… 娘さんの事も心配してて…… その後家の中や、 庭も色々探してみたんですけど、 何の痕跡も見つけられなくて……」


ほ~ん……


電話の向こうから冬夜の焦りの声とは裏腹に、 のほほんと落ち着いた声が聞こえる、 この人はいつもこうだ……


『……それは猿かもねぇ~ 猿は人を攫うんだ、 特に女性を攫う話は良くある…… 状況から考えてもその家は関係無いよ、 多分猿は化けて罠を張っていただけだ、 背景は紛れもなくその家だった様だけどね』


『……この場合は、 敵の境界内へ入る条件を見つけ出す事、 又は、 彼女の居場所を特定して直接赴くかだね』


それはそうだろうが、 どちらにせよ簡単な事では無いだろう、 まず前者だが、 そもそも今回敵の使った境界は、 所謂領域の類では無く、 いわばトンネル


何処か隠れた場所にねぐらが有り、 そこへと通じる通り道、 その通り道の痕跡を探したとして、 ねぐらへ通じているかは、 術者の迂闊さ次第、 殆どの場合塞がれて居るか、 再び通らないのなら破棄されて居るかだろう


それも含めて後者、 敵の根城を特定することの方が確実だ、 だがこれも難しい、 闇雲に探してもそう易易とは見つからないだろう……


『……他に何か思い出せる事、 思い当たる事は何かあるかな? 些細な事でも良い、 村の事、 村に入ってからの事、 何が有るとか』



「うーん、 ここは本当に静かで、 した事と言えば、 お稲荷様の祀られたお社を訪れて……」


あっ……


「そうだ、 お稲荷様が言ってました、 この村は穏やか何ですけど、 この村じゃ無いところは分からない…… この村の中にこの村じゃない所が有るって…… 俺はてっきり綺関良家がそうなのかと……」



『……ほう、 でも違ったか、 ではそこは何処だろう、 間違いなくその場所が敵の根城だね、 君の目でも見えないとなると、 もっと別の術が必要か…… 冬夜、 そこの住所を送ってくれるかい?』


えっ……


「来てくれるんですか?」



『行くさ、 話を聞いておいて見殺しには出来ない、 だがどれだけ急いでも到着は夕方になるぞ、 それまでに出来るだけの事はやっといてくれ』


この人は…… そう、 胡散臭いし、 一見やる気は無さそうだし、 両親が嫌っているのも分かるが、 この人の心には確かに正義の心がある


優しさが有る、 冬夜はだからこそ、 この人の事を結構、 内心では好いて居るのだ……


『……今日がスケジュール的に数少ない休みで良かったね、 じゃあ早速向かいだすからよろしく~』


ブツ………


はぁ……


「最後に一言多いんだよな、 まあ、 あの人の力を求めてる人は全国にごまんといる、 本当に運が良かったか……」



「……冬夜君、 おじさんどうだって?」


冬夜は電話で今し方話された内容を伝える、 威鳴さんは唸ってるだけで殆ど理解して無さそうだったが、 マリーや、 威鳴の姉は真剣に悩んでいた


雨録にも話はよく分からなかったが、 その後の話し合いで出た単語が雨録には少しだけ引っかかった


それは……


「……こういうのは、 何か彼女との接点があれば方法はあるかもなんだけどね~」


それは水の少女の言葉だった、 殆ど蚊帳の外だった雨録がすかさず反応する


「すまない、 例えばその接点と言うのはどんな物なのだろうか? 君達で言う所の術的な物の事か?」



「ん? いいえ、 それが残せてたら困ってないわ、 ああ、 でもそうね、 貴方は彼女の知り合いなんでしょ? 例えば彼女に貸してる物とか無い? それも今も彼女が身に付けて居る物とか」


そんな物がある訳……… いや……


「……ウサギだ」


は?


「この間、 私の能力を少し説明したろ? 召喚術だよ、 私の召喚獣の一体、 ウサギ何だが、 そう言えば彼女に貸している」


ウサギ………


「いや、 貸し借り出来るものなのかは別として、 彼女がそれを普通のウサギだと思ってたら今頃彼女の家の檻の中でしょ」


いや違う……


「恐らくそうだろうが、 ウサギ自体は私の召喚獣だ、 いつでも呼び出せる、 そして、 私の力には確かに召喚獣の他人への貸し出しが可能何だよ」


「私の召喚獣だから私が呼び出せるけど、 ウサギと彼女の繋がりを私の能力が補完してくれている…… どうかな?」


…………


「……そうね、 先ずは呼び出して見てよ、 話はそれからだわ」



「分かった、 カーン・ゲルト………」


グワッ!


世界に穴が空く、 彼女の部屋で呑気に寝ているウサギにロックオンを掛け、 召喚する


ピカァンッ!!


光が放たれる、 その光が収まる頃、 世界の穴も塞がり、 同時に、 皆で囲むちゃぶ台の上にヘソ天で眠るウサギが現れた


雨録がウサギに手を伸ばす………


ピクッ…… ガブッ!!


「痛っ、 痛い痛いっ!! 何でお前は主人に噛み付くんだバカっ」


目を覚ましたウサギは雨録に噛み付くと、 ブンブン主人を振り回し、 最後には投げ飛ばした


「うわぁっ!?」


ガシャァンッ! ……………


皆唖然とする中、 当のウサギは周囲を見渡し首を捻っている様だった、 美穂を探して居るのかも知れない……


「ねえウサギさん、 貴方のご主人様…… あっ、 その人じゃなくて、 美穂ちゃんが大変な事になったの、 彼女を助けたい、 協力して欲しい」


さっきのお狐様の時もそうだったが、 いつもそうだ、 マリーは動物と会話ができるし、 心をつかむ事も出来る、 今回も上手くいった様だ……


グーグー


ウサギが鼻を鳴らす、 マリーがウサギに触れると、 雨録が言う術により補完された接点を神聖術的解釈……


水が、 流れる溝を見つけた様に、 ウサギと美穂の僅かな接点を流れ、 辿っていく……


とくとくとく…………


「……見つけた、 村の中に明らかに異常な所が一箇所有る、 案内する早く行こう!」


………


その後マリーの後ろを追い、 雨録達は村の中を走る、 すると一軒、 家が見えて来た、 周囲は荒れていて草も背を高くしている


一見、 人が住んでいる様には見えないが、 マリーはその一軒家を指差す


「あそこだね、 皆警戒して、 相手は境界による線引きの術に長けて居る、 迂闊に入らない方が良いかも……」



「……そうは言っても、 このままおじさんを待つんじゃ時間が………」



………きゃぁぁああっ!!


っ!


「悲鳴だっ! この声美穂さんのっ! あの人は出来ることはしとけっ言った、 俺はここが俺にしとける最低限とは思わないっ、 行こうマリーっ! もう目の前で人が傷つくのは見たくないっ!」



「……分かった、 行こうっ! 絶対に警戒は怠らないで、 それと皆離れないでっ! 良いねっ!」


マリーの声に、 冬夜が、 威鳴が、 その姉が、 そして雨録が頷く、 その誰も警戒は怠らない……


ザッ ザッ……


草を踏み、 その家へと入っていく……


ガチャンッ……


背後で、 独りでに鍵を掛かる音がした…………


………………………………



………はっ …………


気が付けば目を瞑っていた、 その目を開けた時、 目の前に広がっていたのは、 あの家の玄関では無かった


「……ここは、 どこだ、 畳の間?」


広い、 何畳有るのだろう、 何処までも続く畳張りと、 趣味の悪い襖、 大豪邸のお屋敷……


「いや、 これは幻覚、 又は領域術と言う奴だな、 焦らず少し頭を回せば直ぐに分かる、 どうやら屋敷の主は私達の事が怖くて仕方無いらしい……」


雨録一人だった、 冬夜や、 威鳴は居ない、 分断されたな、 また敷居を跨いだ途端、 ここへ複数のトンネルからランダム又は相手の選択で飛ばされたと考える


あの家はまたただの背景? ただ敷居と言う境界を利用しただけ?


(……いや、 違うな、 ここはあのボロ家の中だろう、 ウサギと美穂ちゃんの接点を辿り来るとは敵は思いもしない、 きっと確実に痕跡を消せて居ると思っていた筈だ)


(……綺関良家の敷居で、 敵が態々美穂ちゃんの手を引いたのは、 彼女の手を引き急かした様にも見えた、 初めから美穂ちゃんにしか興味が無い、 私達は眼中に無かった)


相手からしたらそれでいい、 確実に痕跡が消せて居るなら追う術が有ると思わないだろうし、 実際にウサギが居なかったら追えなかった


(……実はウサギの接点を知っていて、 あえて私達を誘き寄せる罠として使ったと言う線も有るが、 分断する事が出来るなら綺関良家の敷居でそう出来た筈だ)


そうなればやはり、 相手からしたらここを特定された事は予想外、 庭先まで迫っている事に気が付き、 慌てて術を発動、 分断させることに成功した……


だが……


(……私の推理が正しかったとしたら、 この奇妙な屋敷の空間の何処かにバラバラになった皆と、 美穂ちゃんは居る…… ダラダラしていても仕方ない、 こちらから行動を……)


……ガタンッ!!


っ!


大きな音を立て襖が開く、 音に釣られ振り向く雨録、 薄暗い通路の向こうから………


ギョロッ!


巨大な目が覗く、 睨みを聞かせる巨大な目玉、 しかし、 その視線を受けて雨録は普段の調子を崩さない……


「魑魅魍魎か、 なに、 あまりあの街で暮らして居た頃と代わりが無い、 いや、 それよりもずっと……」


ギョロロロッ…… バゴォンッ!!


巨体、 形はカエルに近い、 二足歩行の巨大なカエル、 目が沢山有るが、 正に魑魅魍魎か……


「さてはて、 どうしたものか…… ん?」


ごそごそ……


雨録のスーツのポケットの辺りで何かが揺れる、 何かが動いて居る……


グーグーッ…… ぴょこっ!



長い耳が覗き、 モゾモゾとそのもふもふが出てくる……


「ん? 何だ、 私の所に居たのか、 珍しいね…… 美穂ちゃんを探せ、 君の鼻なら分かるだろ?」


ぴょこんっ……


ウサギが跳ね地面に足を付ける………


グググググッ ギヂィヂヂッ!!


天跳兎てんちょうう、 その脚力は天まで届き、 一キロ先の崖まで軽く飛び越える…… ナハトが言ってたな…… あー、 カエルの妖怪君、 その軌道は彼がぶつかるよ?」


ゲコゲコゲコッ、 ゴゲゴオアァッ!!!


大口を開けたカエルが獲物を見つけた様に、 勿論雨録の忠告など効かずにウサギに飛び掛る、 しかし、 大弓を引く様な音を立てたウサギの踏み込みが解き放たれるっ


ドガァアアアアンッ!!


飛んだ、地面からカエルに向かって、 目にも見えない物体の移動、 その衝撃がカエルを貫くっ!


ッ、 ドジャアアアアアアンッ!!!!


……………


「ゲコォエァアアアッ!? ……」


ドザァアアンッ……


「凄い奴だな…… 自分の百倍もでかい化け物を見るも無惨に吹き飛ばすとは…… それに、 もう言ってしまった様だな、 踏み込みが強すぎて足跡が残されている、 これを辿って行けば良いか……」


ガタガタガタンッ!!


ゲコッ! ゲコゲコゲコッ!! ゴトンッ!


………?


周囲の襖がどんどん、 どんどん空いていく、 その度に一匹、 また一匹、 どんどん湧いて出てくる魑魅魍魎


赤い者から、 青い者、 大小様々、 溢れ返る様は正に百鬼夜行……


「ふぅ~ん、 なかなかの出迎えだ…… だが天跳兎はいい事を教えてくれた…… それはお前達が、 良くある妖怪やお化けの設定の様に、 神聖的な攻撃を必要とする訳では無く、 物理的に容易に殺せるという事だ……」


雨録は右手を横に伸ばし、 まるでチャックでも開けるように、 その手を左へと動かした……


「カーン・ゲルト…… 獲物を喰らえ、 水鏡目螭すいきょうもくち


グワッ!


ッ、 グジャアアアアッ!!!


青い螭が大口を開け、 雨録の開けた狭間から飛び出す、 カエルの化け物よりも大きい、 悠々と宙を舞い、 カエルへと噛み付く


グジャアアンッ!!


ははっ、 ははははっ!


思わず雨録は笑う


「いや、 漸くか…… ここに来てから呪いやら、 妖怪やら神様がなんやら、 知らない様な話しばかりされて退屈していたんだよ」


でも……


「要は、 ただの殺し合いって事だろ? そんなのは、 あの混沌の街で散々体感したさ、 そこに比べたら温い物だ」


ははっ


「数か? 数でどうにかなると思ってる居るなら、 こちらも、 幾らでも保存した生物を解き放てるからなぁ! 覚悟しろよっ!!」


グワワッ!!


更に、 巨大なトカゲが、 蜘蛛が、 トンボが、 狼が、 顔面の長い巨大な象に似た生き物が、 狭間からその目を光らせ覗く……


「化け物には化け物を当てる、 私の好きな混沌をここに再現しようっ! この屋敷ごと全てを吹き飛ばすっ!!」


ドゴアァアアアンッ!!!


一気に化け物、 こことは異なる世界の環境で生き抜いてきた強者、 モンスターと呼ばれる獣達が屋敷に放たれる


魑魅魍魎を抉り喰らい、 原型が無くなるほど吹き飛ばし、 建物を吹き飛ばし、 目に見える物全てを破壊し吹き飛ばし……


笑う


「良い、 良いねぇっ! 街に居た頃はこうは行かなかったんだっ! 何故なら私は所詮ナハトの駒であり、 全てが作戦だったからっ」


今は違う……


「自由にやろうっ! さぁお前達っ、 笑え! 喜べっ! 血に狂えっ!! 尽く消し飛ばして見せろっ!!」



ドガァアアアアアアアンッ!!!


………………………


屋敷が揺れる、 それは雨録の力だけでは無い、 それぞれ、 力を持った者達がそれぞれの力を使い、 それぞれの力で暴れ、 屋敷を破壊し始めた


揺れる………


ドゴォオオンッ……… バゴォアアンッ……


響く…………


チッ


「んだよっ! さっきからこの音はぁ! うるっせぇなぁッ!! 影蛙かげかわず共が暴れてんのかァっ!」


松明の炎が揺れる、 岩肌の覗く薄暗い空間、 広い、 そこに、 屋敷からの揺れが届き、 落ちる砂煙に腹が立つ


「ようやっと美穂を手に入れたってのに、 これじゃあ落ち着いて楽しめねぇじゃねぇかぁ」


猿だ、 大猿、 体躯は三メートル近い、 しっぽが頭の高さまで伸び揺れている、 まさに妖怪、 猿の妖怪だった


「……美穂、 俺は昔から、 お前が小さい頃から、 俺はお前を狙ってたぁ、 食べ頃を待ったァ、 俺は腹ぺこなんだよっ! 一途だっ! お前を好いたあの日から、 女は一人も食ってねぇっ!!」


「お前が男を連れて帰ってきたのを見て、 思わず攫っちまったぁ、 だが丁度良い、 帰って来なきゃそろそろこっちから攫いに出向く所だったからなぁ、 手間省けたァ……」


猿が目を向ける所、 美穂は硬い岩のベットに寝かされていた、 意識は無い、 ぐったりと項垂れている……


「ここはァ、 人間には瘴気が強すぎるっ、 目覚めねぇのも無理はァねぇ、 だが…… 始めちまえば、 嫌でも目を開けるだろうさァ………」


「目を開けたらァ、 胸の辺りまでぇ食われてたって状態でぇ、 どうしようも無く遅い悲鳴あげてくれねぇかなァ~ 断末魔にでけぇの聴きてぇなぁ~」


あへへっ…… へはっ


へははっ……………


……………



ドガジャァァアアアアアアアアンッ!!!


……


っ!?


揺れが、 遂にここまで届く、 何なんださっきから、 有り得ない、 どうして、 ここは、 不完全とは言え領域に近い物の中、 あいつらは腹の中に居ると行っても過言じゃない


「くそぅ、 殺すのに何時まで時間をかけているっ、 お前らには十分な数と力を与えたろうがァ、 ああっ、 ダメだっ、 静かにならん事には集中して食えんっ!!」


美穂に伸ばした手を引っ込める、 こうなったら自ら赴いて、 この手で奴らを殺して…………



ボガァアアアアアアアアアンッ!!!


っ!? ………


しゅぅぅぅぅぅ…………………


「…………何だ」


土煙が一際大きく達、 警戒感が、 この空間に何者かの侵入を許した事を示した、 土煙が晴れてくる、 そこには……


ぴょこん


(………小動物、 ウサギ?)


腹が立つ……


「畜生がァ、 ここは俺と美穂ちゃんの蜜月の聖域だァ! ネズミ一匹許されねぇんだよっ、 何入って来て……」


ッ!


……………?


……猿の妖怪には、 ウサギが消えた様に見えた、 だが一瞬後に感じる……


痛み


グジャァアアアンッ!!!


ベジャァアッ!!


っ!?


「ぅっ、 うがぁああああっ!? んだぁこれぁあああっ!?」


足だ、 痛みがあったのは足、 抉れ吹き飛んで居る、 まさかっ、 まさか……


グーグーッ!


背後、 美穂を守る様に立つ小さなウサギ、 その速さに、 返り血すら付いていない、 ウサギの踏み込み、 そして意外な程強靭な前歯と顎、 噛みつきねじ切る……


ペッ!


ウサギが口内に残った血を吐き出す、 こいつ、 こいつこいこつこいつこいつっ!!


「てめぇあああっ!! 何しやがっだぁだぁあっ!!」


まさか、 この小さなウサギが、 ぶっとい猿の太ももを丸ごと抉り喰らったとは思うまい、 猿はこの時、 僅かな理性よりも、 本能を優先した


(……捕食者っ、 食われるのは俺じゃねぇっ!! 逃げるっ! 今は逃げっ……)


思考の最中、 猿は術を組む、 それは境界を引き、 移動のトンネルを作り出す術だ、 猿の妖怪はこの術が得意だった、 この術があればどんな所にも一瞬で移動出来る……


必ず……


(……必ずいつか、 食ってやるぞ美穂っ…………………)


………っ?


……妙だった、 術の構成が遅い、 いつも目を瞑っても出来る事が、 今に限ってはどれだけ集中しても思考が振れ、 何時までたっても術が組めない……


おかしい………


何だ、 そもそもここは、 猿の領域の中、 いや、 領域と言うには未完成だが、 効果としては充分、 術の発動に補正が掛かるくらいの効果は有るのに……


有り得ない……… まるでここは、 この空間は、 既に………


(……俺の根城じゃないみたいだ)


可能性があるとすれば、 更に強力な力を持った者が、 強力な領域術を発動し、 空間の存在郭を強く固定している場合、 世界が作り変わる様に、 力のバランスが崩れる……


まさか………


(……奴らなのかっ、 油断していた、 奴らの中に大きな力を持った者が居た? 所詮人間共と召喚獣程度にしか考えて居なかった……)


猿の妖怪は思ってもみなかった、 自分の腹の中にいれたのが、 自分よりも大きい者、 八百万の神、 その二柱だと……


焦り………


(……不味い、 不味い不味い不味いっ! 逃げなくては、 どうにか、 どこからか逃げ出さなくては……)


…………


タンッ……… タンッ…………



革靴が岩の床を叩く、 音が反響して猿の妖怪が闇を睨みつける、 男が一人、 入って来た、 余裕そうな足音だ


スーツを着こなし、 手で砂煙を払う雨録だ、 猿は雨録を睨みつける、 尋常の者なら震え上がる程の威圧感……


だが………


「ん? なんだいその顔は…… 不細工顔が歪んでどうしようもなく不細工だね、 視界に入れたくないからこっちを見ないでくれよ」


猿は、 妙に頭に来た、 雨録の仕草の一つ一つに腹が立つ、 猿は拳を握り雨録に近付く……


「てめぇ、 美穂ちゃんと仲良く話してやがったカス男かァ! 美穂ちゃんをたぶらかしてんじゃねぇよなぁっ!! 美穂ちゃんはなぁ! 優しいんだよっ!! お前には分からねぇっ! ずっとずっと見てきたッ!!」



「……そうか、 うるさいからあまり叫ぶなよ、 それに、 お前見たいな気持ちの悪いゴミに好かれるくらいな、 他の男にたぶらかされた方がずっと彼女も幸せさ」


グリッ!!


「黙れぇあああっ!!」


猿が拳を握り、 雨録へと殴り掛かるっ!


「……喰え」



グジャアアアアンッ!!


闇と土煙に紛れ、 空を泳いで居た螭の牙が猿に噛み付く……


バンッ!


「ギャアアアッ!? んだァああっ! こんのバケモンはぁあっ!?」



「……腕一本、 避けられたか」


カララララッ ……バンッ!!


ゲコゲコゲコゲケッ


「影蛙っ!! こいつをぶっ殺せっ!!」


ゴトンッ!!


「またカエルか、 ひつこいね、 カエルで気を引き本人は逃げる準備か…… まあ、 逃げられないけど……」


そろそろ終わりにしようか……



「カーン・ゲルト…… 溢蟲墓淡いっちゅうぼたん


ゾワゾワゾワゾワゾワッ!!!


溢れる、 虫が溢れる、 奇妙な蟲だった、 拳大程の大きさ、 強靭な歯を揃える甲虫、 数万、 数億単位で群れを成す


「超個体という生存体が有る、 確実な統制である為、 群でありながら、 一つ、 個となる」


雨録のカーン・ゲルトは異なる世界から特定の生命体を呼び寄せる、 そしてそれを眷属化、 何度でも召喚可能の駒として何体も強力な生命が保存されている


この虫達は数百万単位の群れにも関わらず、 超個体として、 たった一つのリソースで保存出来た、 殲滅に向いた溢れ出る蟲の大軍………


ブゥーンッ! ビジャアッ!! グジャッ!!


虫が飛び、 カエルに群がり抉り食らう、 飛び交い、 直ぐさま光を遮る、 蟲の帳……


虫が猿に飛び付く、 猿が虫を叩き払う……


「何じゃっ! この虫どもはっ! どこから溢れ出やがったっ!! あっ、 何だっ、 何でこっちに大軍で向かって……」



「忠告が遅れたね、 それらは仲間意識…… いや、 外敵に対する警戒感が強く、 群れの個体を殺した者を、 群がり徹底的に食い殺す……」


ふざけるなふざけるなふざけるなっ!!


っ!


「美穂ちゃんっ!」



「……安心するといい、 君がこちらに気を取られて居るうちに、 仲間が可能を連れ出してくれている、 ここに居るのは、 私と、 君、 それだけだ……」


ブゥゥンッ!!



「あああっ!! ふざけっ! ふざけるなぁ!! やめろっ! やめろぉっ!! やめぁ………………」


グジャグジャクジャッ…………


………………


「おっと、 失礼、 訂正するよ…… ここに居るのはもう私だけだったね」


…………


ファァンッ!! …………………………


………………………………


『……怪我をして動けなかった、 そしたら通りかかった美穂ちゃんがハンカチで包帯を巻いてくれた、 動ける様になるまでそばに居てくれた………』


チリリ…… チリリ………


鈴虫の鳴くような、 そんな夜だった……


……その程度の事さ…………………………


………………………………



………



目を開けると夜だった、 日は沈んでいる、 周囲を見渡せばここはあのボロ家の玄関じゃないか……


ガララッ……


引き戸を開け外に出る、 早い鈴虫がもう鳴いて居るのか、 チリリと聞こえた……


「おっ、 森郷さん! こっちこっち」


手を振るのは、 確か威鳴とかいうチャラ男だった、 雨録はそちらへ近付くと、 そこには彼の姉も傍に居た


「もう一人の彼や、 美穂ちゃんは?」



「ああ、 冬夜君が先に美穂さん連れて、 美穂さんの家まで戻ってます、 大丈夫っす…… それにしても」



「森郷さん何者? すっごい召喚術でしたね、 化け物が次から次へと湧いて」



「……見ていたのか? あれが私の能力だよ、 最後くらいは派手にやろうと思っただけさ、 少しくらい活躍しないとね」


雨録の言葉を聞いて威鳴は苦笑いを浮かべた……


「あはは…… 姉貴が力使ってただけで、 今回俺、 まじでなんにも活躍してないや…… 面目ねぇ」


頬をかく彼を横目で見て、 雨録も今日の事を少し振り返りつつ、 自分達も綺関良家を目指し歩いた……………


………………………


結局……


「急いで来たのに事件は解決か…… いやぁ、 おじさん頑張って来たのに仕事無しぃ?」


冬夜の親戚、 現代の陰陽師、 国村流くにむらながれがこの村、 綺関良家に到着したのは、 雨録達が家に戻った三十分後程だった


「ええ、 取り敢えず美穂さんを攫った猿の妖怪は退治しました、 ですが、 そもそも、 根本の『呪い』の原因は……」



「他に有るって考えか? それは多分正しいな、 猿の妖怪は突発的に現れた物だ、 歳だって、 彼女のひいひい婆さんの年からは生きてねぇよ」


国村と話すのは冬夜だ、 冬夜はわざわざここまで赴いてくれた親戚を労りつつ今回の騒動の報告をしていた……


たっ……


「もうすぐご飯出来ますよ~ 山菜ご飯と、 村で取れたお魚、 今日はお客さんが沢山だから張り切っちゃった~」


美穂の母親だ、 一時は顔が青白くなっていた彼女だが、 無事に娘が帰ってきたのを見てみるみる体調を良くした


今晩は泊まっていく事となり、 夕飯までご馳走になる事となっている


「……まあ、 こう暗くなったらやる気もでねぇ、 明日また調査の続きをやろう、 俺も明日の午後には村を出なきゃ行けねぇが、 それまでには終わるでしょ」



「だと良いですけど…… っとそうだ、 俺も準備手伝ってきます、 国村さんは休んでてください」


背を向けて去っていく冬夜を見送りながら、 国村も立ち上がると通路へと歩き出した……


「国村さん、 ね…… 真面目なんだけど他人行儀なんだよな~ でも、 驚いたな、 少し会わない家に隠すのが上手くなった」


冬夜は、 基本的に人前では自分の内にマリーを隠している


「やっぱり才能がある奴は違うな~ 俺は祓う方にしか才が無かったから小賢しい事がどうも苦手……」


そこで不意に人とすれ違う、 確か威鳴千早季、 隣にはその姉を名乗る女も居る……


「おっ、 冬夜君のおじさん~ 小便ですか? トイレはこの通路を曲がった先っすよ~」



「おっ、 助かるぜ、 家がでかいから迷う所だった」


一言交わしすれ違う、 姉の方は終始こちらを様子見していた、 二人の距離が離れて国村は零す


「……ありゃ、 家の御先祖が封印した悪神じゃねぇか、 様子見に行かねぇ間にあんな平然としてやがる…… 威鳴君ももう殆ど人間じゃねぇな、 スカスカに見えた」


数百年前、 流の先祖、 国村家守くにむらやもりが山奥に封印した妖怪、 豊穣の神は今やたった一人に固執し、 その無限の愛情をただ一人に捧げ続けて居る


「おっそろしいね~ ……そんで、 こっちだな」


威鳴に言われた厠を通り過ぎ、 迷いなく国村は他所の家をズカズカと進んで行く、 さっき、 この家に上がって直ぐに気が付いた


この家には巨大な気配が三つあった、 ひとつはマリー、 もうひとつが威鳴の姉、 そしてもう一つ……


「ここだ……」


国村は無造作に壁へ手を伸ばし軽く叩く、 トットッ、 音が鳴る、 空洞の音では無い、 だが、 寧ろ木造の家にしては響かない


「中は土蔵か、 壁の中に土蔵が隠されてやがる…… しかも、 術が施されてるな、 徹底的に隠す術だ、 家の人間も気が付かねぇ訳だな」


少なくとも冬夜の目をかいくぐっただけは有る、 かなりの制度だ、 そして恐らくこの術を掛けたものこそ……


「『呪い』の発生源か……… 開けっ」


手に触れた時点で解析は終えている、 強引に術をこじ開け、 国村は壁に吸い込まれる様に中へと進んで行く……


どぷんっ………


深い沼にハマった様な感覚だ、 こういうのは術が濃いからだ、 まんがいち体制の無い者が中に入れば即、 昏倒だろう


タッ…… タッ……


少し歩き中へ完全に入ると、 真っ暗だった、 国村は手を上げると口を開いた……


「鬼火……」


ボウッ!


炎の玉が燃え上がり空間を照らしあげる、 強い光量は影を焼き尽くすほどに明るかった


光に浮かび上がる、 中央に人影……


「……何者だ? 何用でここへ来た……」


男か女か、 髪が伸びすぎている、 地面をへと垂れ影を落としている……


ふぅ……


国村はため息を着く……


「わかってるだろ? 君が代々この家の子に『呪い』を掛けて迷惑をかけて居る様だな、 依頼を受けて成敗しに来た」


カタカタカタカタッ


骨が揺れる様な音、 土間にて胡座をかくそいつの笑い声だと思った、 体全体で笑っているのだ……


「『呪い』か…… 違うなぁ、 呪い等掛けては居ない、 俺はただ『婿』の魂を喰ってるだけだ、 そういう契約何だよ」


契約?


「そうさ、 一番最初、 この家に来た婿の男は、 この家の繁栄の為に自身を捧げた、 だが、 どうにもそれでは足りなくてな、 腹が減って仕方ないので、 考えた」


「そして思い出した、 奴は自身を捧げる時、 名では無く、 『この家の婿だ』と名乗った、 つまり俺は『この家の婿』を喰っていいんだ、 繁栄を途切れさせない為、 妻に子だけ産ませた後にな、 子供何て女で一人で充分だからな」


そうか、 こいつも妖怪だ、 だが猿の様な弱いものでは無い、 寧ろさっきすれ違った威鳴の姉の様な、 神聖を宿す者だ


「……力を持った奴らがぞろぞろ来たから、 猿を消しかけて認識を自分から猿にズラしたか…… だがそれが寧ろ俺を呼んでしまった、 裏目に出たな」



「……くははっ、 そうでも無いさ、 いい肉体だ、 今度はその体が欲しい……」


体…… そうか……


「お前、 その体は、 美穂ちゃんのお姉さんの恋人の体か」



「そうだよぉ? 俺は捧げられた肉体に宿って延命を繰り返して居るんだぁ、 この家は良い、 くだらない縁起の為に婿をとりやがる、 分かっててやめないのはこの家の人間の愚かさだ」


はぁ……


「恋人は『婿』じゃねぇだろ?」



「あいつらは祝言の話をしていた、 しかも子も宿っていた、 同じ事だ、 繁栄させたから食った、 その後女がどうなろうと興味無い無いなぁ」


そうか………


「……やっぱてめぇはダメだな、 あの世に消えてくれ」


ザッ!


国村が手を掲げると術が陣が光る、 妖怪はそれに反応し笑う


「ハハハハハッ、 人間風情がっ、 貴様ら程度、 俺の餌っ! 小さなもがきに意味等なっ…………」


バギィンッ!! …………


妖怪に亀裂が入る、 国村が吐き捨てる様に睨みつける


「アホか、 もう終わってる、 てめぇみたいなのとベラベラ無意味にお話する訳ねぇだろ」


ぁっ…… あぁっ………


「ああああっ! 無礼っ、 無礼だっ!! 俺はっ、 俺はぁああっ! この世界の神なのにっ!!」



「……てめぇ、 最近ニュースで見た犯罪者と対して言ってる変わらねぇぞ、 クズがっ」


ギッギギッ!


亀裂が更に大きく、 妖怪を追い詰める中、 妖怪が悶えながら、 今際に叫ぶ


「くそがァ!! 俺はぁ力を付けていただけなのにぁああっ! これからっ! 世界は想像を絶する危機に見舞われるッ! 世界の神が降臨し、 この地は焦土と化すだろうッ! その時まで地獄で待ってたやっ……」


バギィイイインッ!!


…………………


完全に妖怪が砕け散る、 残されたのは国村ただ一人、 目を開ければそこは邸の通路だった……


「るっせぇ、 飯の前にギャアギャア喚くなうっとうしい…… はぁ」


ったく……


国村はぶつくさ文句を垂れながら、 最近聞いた大巫女の占いの事を考える……


「……これから世界はどうなっちまうんだか」


国村は頭をかきながら、 トイレに寄ってから美味しい山菜ご飯の香りに釣られあるく足を早めたのだった……

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