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第百三十九話…… 『最終章、 下編・25』

ぁぁ…………………


まだ、 まだ温かさが消えない、 この温かさが、 この心に届いた想いが、 永遠に消えて欲しくない


照らす様だった、 温める様だった、 抱き締める様だった、 寄り添う様だった


初めて、 彼の方から求められた繋がりは、 私の心を一杯に満たして、 暗く、 落ちていく様に、 沈む様に消えていく私の輪郭を優しく撫で、 導いてくれた


初めて出会ったあの日の様に、 あの日から変わらない、 どれだけ躓いて、 痛みに嘆いて、 膝を抱え、 苦しんでも、 あの温かさは彼のもっと深くに宿る物だから……


温かさは、 心に残る、 それでもわがままを言っていいなら………


寂しい


寂しいな……………


初めて彼が、 私の想いにお返しをくれた、 それは答えの形をして無い不完全な物だったけど、 凄く嬉しい応えだった


私の事を、 知りたい


そう、 彼は思ってくれた、 私の事を想ってくれた………


あの日彼は、 私の荷物を半分持つ代わりに、 自分の荷物を半分持ってくれと言った、 互いの肩にのしかかる重荷を分け合って隣を歩いてくれると言った


それが救いだった、 涙が出る程に嬉しくて、 独りじゃ無いって、 たった一人の私に寄り添う彼が、 彼の温もりが忘れられなくて……


それでも彼は強かった、 ずっとずっと強くて、 結局殆ど、 私は彼の隣を歩けなかった、 必死につていこうとしても、 背中が遠ざかるばかり


私の重荷をいっぱい引き受けて、 そのくせ自分の分は私に預けてくれずに、 なのに速くて、 何をしても追い付けなくて……


…………私、 甘えん坊だから、 素直に伝えて見たら、 彼は全然私の気持ちになんか気が付いて無くて、 面白い位に悪気も無くて


でも言ってみるものだ、 彼はほんの少しだけペースを落として、 私が早歩きをすれば並べる位の速さで歩き始めた


だから、 甘えるだけじゃダメだと、 彼がそうした様に、 強引に、 奪い取るみたいに、 彼の重荷を引き受けて、 強引に隣に張り付いて、 並ぶ覚悟をして……


かっこよく彼を助けるつもりだったのに、 絶望にくれる彼に、 伸ばした手は、 彼を生かしたけど、 彼をもっと悲しませてしまった


彼は私の心を救ってくれたのに、 私は彼の心を救えないって、 痛みにもがき、 暗闇で叫んで、 感じる事のできない温もりに、 その身を震わせて……


もう、 何もかもおしまいだと思った……


のに……


小さく、 ほんの僅かな抵抗の様に、 死を前にしても、 少しでも動かした心臓の、 鼓動が急に速くなる、 彼の声を聞いて………


彼が触れた手が、 凍りついた私を溶かす様に、 私の額に広がる彼の額の熱が、 凍える私を温める


彼から貰ったのは、 なけなしの想い、 それでも、 その小さな始まりの想いこそが、 彼が初めて、 自分から私に持たせてくれた彼の重荷だと、 そう思った


やっぱり好きだ、 ずっとずっと好きだ、 だから寂しい、 私はもう間も無くこの命の動きを止める、 走り出した彼は、 それでも間に合わない


彼の想いに返した私の沢山の想いは、 それでも、 きっと今の彼にとっては重しになってしまうかもしれない


知りたいと伝えてくれた彼にとって、 私が死んだ時、 間に合わなかった事を彼が、 彼自身を攻めた時、 その想いはかえって彼を苦しめてしまうかもしれない……


寂しいのは、 そんな彼に何もしてあげられない事だ、 隣に立って支えて上げられない事だ、 もっと、 すぐ側で手を差し伸べられない事だ、 希望になってあげられない事だ………


……………


私に出来ることは、 背をさする事じゃなくて、 その背を強引にでも前へ押し出すことだった、 私の想いは彼を『魔王』の元へと向かわせた


もう一度その刃を振るう理由に、 私がなれた、 今はそれが私の誇りだ、 私は何だかんだ言って、 彼のそういう所……


彼は嫌な顔をするけど、 優しくて、 それを必死に誤魔化して、 そんな彼の光、 希望有る前進に惹かれて居る、 きっと彼ならば『勇者』にだってなれる……


………………


ねぇ……


貴方の想いは本当ですか?


私の事を知りたいって、 その想いをまた今度、 面と向かって言葉で、 私の心に伝えてくれるって本当ですか?


……本当なら、 私はとても嬉しいです


ねぇ…………


日暮さん、 私、 自分で良く思うんです、 それでびっくりするんです


私達が出会ってから、 まだひと月程しか経って無いんですよ? 私は信じられません、 未来の事も考えてしまうからでしょうか?


貴方の出会った日々、 今までのどんな人生の中の一節よりも煌めいて、 ドキドキとして、 胸が苦しくて、 こんなにときめいて………


皇女として、 政略結婚の道具としての価値しか家族内で与えられて居なかった私の、 初めての淡い初恋、 そして、 一生に思える程の、 きっとこれが私の最後の恋です


泣いても笑っても、 最初で最後の、 恋物語の想い人が貴方で良かった、 あの場で私を助けてくれたのが貴方で良かった


私と繋がりをもってくれたのが貴方で良かった、 私は、 貴方に、 この全く異なる世界の、 絶対に巡り会うことのない出会いが、 初めに出会ったのが、 日暮さん、 貴方で良かった…………


………………………………


はぁ……


そうですか……………


もう、 もう時間なんですね


………


三度の共有、 私達はもう離れる事が出来ないくらい、 数を重ねる毎に一つになる、 ここで私が想いこの気持ちも貴方に届いて居るかもしれませんね……


届いているならば……


……これで、 もうお別れです……………


…………………


最後に一つだけ、 『魔王』の事です、 日暮さんは優しいから、 きっと最後の最後、 残された方法に躊躇ってしまうかもれない


でも、 きっと大丈夫です、 私達は二人で一人…… いえ、 一人で二人です


そう、 この、 私を今も押し上げる、 強く背を押す向かい風が、 日暮さんの起こす強風の様、 きっと貴方にも既に刻まれている


思い出してください、 きっと私が貴方の手助けを出来る、 きっと『私』が、 最後の最後、 貴方との強い繋がりを証明する様に、 背を押せる


だから…………


ね?


迷ったら、 私の事を思い出して下さい、 手が震えたら、 私の名前を頭に思い浮かべて下さい、 それだけで私は、 きっと貴方の為にどれだけの力もあげる事が出来ますから………


思い出してくださいね……


私を


フーリカ・サヌカを…………………………


………………


一際強い風が吹いて、 その意識が空を舞う様に高く、 背に羽でも生えたように地を蹴り飛び立つ


天使の様に優しい羽音は、 ただ一人だけを想い、 一人寂しく、 それでも心に宿す温もりを胸に、 広い空へと飛び立った…………


………………………………………………




…………………………




…………



ぁぁ………………………


………


………不思議だ、 何故か心に穴が空いて、 でもその穴の空いた所は、 不思議と温かくて、 残してくれた温もりが、 沢山の想いが、 確かに、 心に刻まれて居る


少しだけ分かった気がする、 この尊さが、 無くなって初めて気がつくなんて、 こんなに辛いんだ、 こんなに苦しいんだ……………………


ぁぁ………


瞑った、 閉じた目の裏側に焼き付いた、 彼女の笑顔が眩しい、 覚悟はしてたけど、 いつだってそれは、 覚悟を上回る物だ


もっと話をすれば良かった、 もっと何か一緒に出来る事があったはずだ、 もっと、 生きている内に傍に居たなら………


失って初めて強く思う、 もっと一緒に、 隣に居れば良かったと……………


重い、 重い、 のしかかる様に重い……


………………………………


ははっ


あははははっ!


「ぷっ、 あははははっ、 はははっ!」


遠ざかる意識をこじ開ける様な笑い声が耳を刺した、 洞窟内に反響して、 何人もの悪魔が耳元で嘲る様に聞こえて不快だった


何を笑うのか………


「ねぇっ、 今の無線、 妹ちゃんの声だったよねぇ? 私耳が良いから少し聞こえちゃったっ!」


『魔王』、 魔王少女が死に体と化した日暮を笑う、 気まぐれでもなんでも、 面白そうなら少しばかり生かして見る物だ


面白い事がわかってしまった


「ふふっ、 フーが死んだんでしょ? 獄路挽ごくじびきの魔力傷は厄介だからね、 そりゃ死ぬよねっ、 あははっ!」


でもでも……


「お兄さんっ、 あんなに必死になってたのって、 フーの為だったのっ、 なるほどね、 あはは、 そっかそっか、 『魔王わたし』を倒せば魔力傷も消えるから、 そうしたらフーの傷を治せるか~」


だとしたら……


「一刻の猶予も無かった割にはっ、 お兄さん来るの遅くな~い? ねぇねぇ、 昨日とかさぁ~ 何やってたの? もっと早くここに来てれば、 フーを助けられたんじゃないかな~」


その通りかもしれない、 日暮は戦意を喪失し立ち上がれなかった、 だがそんな事をしている間にもフーリカの命は消えかけて行った


それでも少なくとも今の今までは弱くとも生きていたのだ、 時間が無かったのは明らかに日暮が牢屋に閉じ籠って居たせいだ


失って、 彼女を助ける為に走り出した力が、 彼女が沢山託してくれた想いが、 吐き気のする程の徒労感と、 罪悪感に心が蝕まれる


嘲笑が、 ずっと心に入って、 中を綺麗に抉る、 肉体よりも先に心が死んで行く、 それが苦しかった……


……ははっ


立ち上がる事の出来ない、 瀕死の日暮へ、 魔王少女は持ち上げた腕、 伸ばした指の照準を合わせ構える


「お兄さん可哀想、 必死にここまで来たのに、 ぜ~んぶ台無し、 最後に心に残ったフーへの想いがお兄さんをここまで連れて来たのに、 その当人が死んだならもう何も残らないよ」


心に空いた穴、 確かに温もりを残したそれは、 しかし、 死後硬直の様に、 少しづつ冷め、 岩の様に冷たく……


スッ……


「……もう楽になろう? お兄さんは頑張ったよ、 私が認めて上げる、 だから今は眠ろう? そして目が覚めたら、 私が今度はお兄さんの生きる理由になってあげるから……」


魔王少女は指先に溜めた魔力の塊を、 照準を合わせた日暮へと、 その鉄よりも冷たく冷えきった、 熱の無い想いと共に打ち出す……


「閻魔弾っ!!!」


日暮は……………………………………


…………………それでも


少なくとも今はまだ、 死んでない


………………



ドガァアアアアアアアアアアンッ!!!


ボガァアアンッ!! …………………


爆音と、舞う砂煙、 衝撃に零れる瓦礫と、 その中にて巻き込まれた、 一人の男は……………………


………………



ブファンッ!! ……………


ゴロォッ………


砂煙を押して、 塊が転がる様に飛び出した、 魔王少女がそれを目で追う、 最早その視線は冷ややかになりつつあった


………


「……はぁ、 幕引きが綺麗で終わるのも一興だと思うよ? ねぇ、 このしつこさは流石に鬱陶しいって、 お兄さん」


はぁ……… はぁ………


苦しい、 息が苦しい、 全身が明らかに重い、 動きの一つ一つが制御された様に、 重り付きの鎖で縛られた様に


「……そんな姿になって、 もう一度立ち上がる理由ってあった? ここで死ぬ覚悟を決めて刃を振るうのと、 諦めて私に殺されるの何が違うの?」


ねぇ?


魔王少女の目が光る、 日暮を深い深い所まで覗き見る、 あの瀕死からもう一度立ち上がる方法は一つしかない……


「……胆嚢、 脾臓、 大腸、 胃に食道系、

その他一部臓器、 失っても直ぐには死なない部分を軒並み骨に食わせてエネルギーを補充したみたいだね……」


「でも今不要な部分を削って、 動く為に必要な手足の回復に回すそのやり方じゃ、 結局、 他所からエネルギーを得られない今のお兄さんには、 三十分程度の延命に過ぎない………」


魔王少女の言う通り、 日暮はここで死ぬ覚悟が既に決まっていた、 肉体には失っても生きていられる臓器と言う物が無くは無い


ガンや、 事故で欠損した時に摘出と言う選択肢がある様に、 肉体に対する不便さという物は現れるが、 それはあくまでこの先も長く生きる事を考えた時に起こる物だ


もうここで死ぬ、 だから、 不便さを感じる必要は無い、 ここで死んでも、 魔王を倒す覚悟を決めてここに来た


日暮は、 まだ死んで居ない……


「……しつこくても、 綺麗な勝敗を汚しても…… 」


勝利したい、 負けたくない、 そこだけは譲れないっ


「っ、 勝てれば、 良いんだよっ」


不便さが無いという事は絶対に無かった、 手術で専門医が切り繋げる訳では無いのだ、 内蔵を抉り喰らって、 その穴を塞いだだけ、 体は今も遅くない速度で死に続けて居る


「……ふ~ん、 なんで? 勘違いしてるみたいだから言っとくけど、 フーを助ける為の戦いなら、 フーが死んだ時点でお兄さんの負けだよねぇ? まさか弔い合戦だなんて冷めた事言っちゃう?」


ははっ


「それともまさか、 死んだ勇者さんの為? それか大蛇さん? 皇印龍? 死んだ両親? それとも他の誰か? あははっ、 勇者じゃないんだから、 世の為人の為なんて今更笑わせる事言わないよねぇ?」


あっ


「そうか、 雪ちゃんの為か、 この子の為でしょ? 律儀だよねぇ? どこの誰とも知らない女の子の為に、 そこまでするなんて…… ははっ、 無駄じゃない?」


ふふっ、 あはははっ


「前々から思ってたの、 大蛇さんにも言ったけど、 お兄さんも、 雪ちゃんを助ける術なんて持ってないでしょ? 言っとくけど、 『魔王わたし』を殺すイコール雪ちゃんを殺す事だからっ」


だから初めから


「お兄さんに全てを救う事は出来ないんだよっ! そして何より、 フーが死んだ今、 お兄さんはフーも救えなかった上に、 雪ちゃんも救えないっ!」


魔王少女は、 日暮の心を折る為に、 淡々と、 何より覆し様の無い事実を叫んだ、 それは確かに、 日暮にとっては苦しい事実だった


「フーも救えない、 雪ちゃんも救えない、 両親も救えないっ、 救われてばかりの、 立ち上がる力の無い弱い弱いお兄さんがっ、 もう一度小鹿みたいに震える足で立ち上がって、 一体何になるって言うのぉっ?」


はははっ、 さあ……


(……折れろ)


心が折れた時、 もう二度と立ち上がれない程に、 その時、 明山日暮は死ぬ、 勝利はもう目の前だ、 さあ、 折れろ、 跪け、 苦しめ、 さぁっ!


一興、 魔王少女はどうしても今、 日暮の顔を見たくなった、 負け犬の様な顔を晒して、 泣き崩れて欲しい、 敗北感に溺れ、 諦め、 死を懇願して欲しい


さあ、 その顔は一体どんな顔をしている? それを確かめ……………


……………


……………………違和感



それは、 ほんの小さな違和感だった、 既に死体の如き生命力の日暮を前にして、 保険としての力の使用とは言え、 今の日暮に対しては充分過ぎる程の力の差


覆す事の出来ない、 絶対に覆らないこの絶対的な状況で、 一体何故、 自分はこんなにも必死なのだろうか?


言葉で心を削り、 見下し、 立ち上がる気力を削り、 膝を付かせようと、 最後の最後まで執拗に叩き折って、 もう二度と起き上がれない、 自分から死を懇願する程に、 叩き落としたい


違和感………


力の差、 覆し様の無い、 そんな事をしなくても、 下だろう? 日暮が下で、 魔王が上、 その事が覆らない状況と言う奴だろう?


……まるで、 見下す事で、 力の差を見せ付ける事で、 叩き伏せる事で、 納得したい様な


まるで………


(……私が、 必死にお兄さんが弱くて簡単に倒せる存在だって、 確証が欲しくて仕方ないみたいじゃないか)


有り得ない、 有り得ない筈だ、 棒きれの様な、 綱渡りの様な命だ、 砂場に刺さった木の枝の様に、 根も無く、 命も無く、 足元が崩れたら倒れてしまう様な、 そんな命………


だから、 その顔を、 負け犬の顔を見て……………………


…………


ギラッ!



ぁ、 ぁぁ……………………


有り得ない……


何故だ、 何故消えない、 あの刺すようなギラついた光が、 生命の鋭い輝きが何故消えないっ


驚きと共に、 納得せざるを得無い……


ああ、 これは………


……倒れない


倒れない、 曲がらない、 揺らがない、 折れない、 ぶれない、 睨みつける目の鋭さが、 何時だったそうだ、 いつも首をヒリヒリと突き刺す


これじゃ、 まるで……


(……私は、 本当に、 お兄さんを倒せるイメージが湧かなくて、 それを必死に否定出来る材料が欲しかっただけみたいじゃないかっ)


どうして………


(……こんなに強い)


…………


はぁ…………


日暮が息を吐く、 その鋭い目には、 怒りも、 嘆きも、 苦しさも無く、 その鋭利な刃物は、 毒も無く、 洗練もされて居ない、 天然で磨かれた抉る様な牙だった


日暮が口を開く


「……俺は託された、 勇者から、 大蛇から、 皇印龍から、 両親から、 雪ちゃんの家族から、 そして、 最後の最後で、 フーリカから」


戦う理由?


「この街に暮らす人達の平穏も含めて、 それ全部、 『魔王おまえ』を倒せばまるっと解決すんだよ、 託された想いが俺をここまで連れて来た、 戦う理由には充分だろ」



何で、 何で、 どうして………


「そいつら全員もう死んだじゃんっ! 託された想い? 何を言ってるのっ! そんな物は無いよっ!」


そんな物は無い、 いや、 正確に言うならば、 感じられない物よりも、 今、 目の前にある、 この想いを……


「勇者さんも、 蛇さんも、 龍も、 フーも、 他の奴らもっ! そんな奴らなんてどうでも良いでしょっ! そんな奴らの為に戦うなんて馬鹿馬鹿しいっ! 私はっ……」


私は………………………………………


………………


………ぁ、 れ………………



日暮の、 目は、 何処を見ている? 託した想いか? 自分の心か? 助けるべき雪ちゃんか?


あれ?


日暮の目は………………


「……おい、 さっきからべちゃくちゃと、 一体誰の話をしてんだよっ」


ギラッ!



日暮の目は、 その目が突き刺すのは、 紛れも無い、 今まで誰にも目を向けられなかった、 誰も気にもし無かった、 まさか………


(……『魔王わたし』?)


日暮は、 腕を、 刃を、 牙を、 魔王少女へと向ける、 『魔王』へと向ける


「言っただろ、 託された想いは全部、 お前を倒したら達成出来る事だ、 全部一気に、 結果的に解決出来る事だ」


それは確かに戦う理由足り得る、 だが、 それは、 日暮の戦いたい理由では無かった、 別の理由を掲げ戦っても、 結果的に叶うことなら良いじゃないか


想いは消えないんだ、 だったから、 今は、 一旦それは端に置いておく、 後で、 最後に答え合わせをすれば良い


今、 日暮の戦う理由は………


「……俺はずっと、 『魔王おまえ』の事が分からなかった、 俺に固執する理由も、 両親を殺された怒りで、 考える事をしようとも思わなかった」


でも、 今は違う


「俺は大人だ、 俺には大人になって、 子供の頃よりも、 もう一歩だけ、 踏み込んだ事が出来る様になった」


考えれば簡単だ、 と言うか本人は既に、 何度も言葉で日暮に伝えている、 日暮はそれを、 自分には関係ないと目を向けなかっただけ


『魔王』は何時だって……


「……人に見て欲しくて、 誰かに見て欲しくて、 必死に気を引いてただけ何だよな、 それが俺だっただけ……」


いいや


「『魔王おまえ』は、 子供だ、 縛られて、 冷たく冷えきった、 でも他者からの温もりを、 想いを誰よりも求める迷子の子供だ」


「そんなお前が、 自分の冷えた手を温めるのに、 迷い震える足の行先を示し導く大人としての責任を負うものとして、 俺を選んでくれた」


日暮は大人だ


「迷ってる子どもを見たら、 助けて上げたいと思う、 それは当然の事何だよ、 そう思えた、 今、 ようやくな」


土飼さんが、 日暮の言葉を聞き、 その責任の一端を負ってくれようとしたように、 日暮には、 大人として、 出来る事が有る


日暮の言葉に、 魔王はある種の忌避感を感じていた、 意味が分からなかった、 枯れ果てた砂漠に突然水を見つけても、 枯れ果てた事が当然となった大地にとってそれは不純物でしか無いのだ……


「……は? な、 何言ってるの? 分かってるの? 大人とか、 子供とかじゃない、 私達の関係は違うでしょっ! 私はお兄さんの両親を殺したんだよっ、 フーも私が殺したっ、 雪ちゃんだって『魔王わたし』のせいで苦しんでる」


二人の関係に、 そんな真っ当性は存在しない、 日暮の言葉は理解不能、 意味が分からないのだ………


だが……


何だ、 なんなんだ………… この気持ちは………………


「……フーリカが死んだ時点で、 俺に残されたのは雪ちゃんを助け、 皆も助ける事だけだった」


しかし、 日暮は思い出す


「両親が夢の中に出てきて言ったんだよ、 『あの子』を助けろって、 その『あの子』は、 フーリカであり、 雪ちゃんで……」


そして……


「きっと、 俺の両親なら、 『魔王おまえ』の事を助ける、 そう思ったから、 『魔王おまえ』も、 きっと『あの子』何だと思う」


何で、 何でっ……


さっ……


「さっきまではっ、 私を本気で殺そうとしてた、 のに…… どうして、 どうして急にそんな………」



「お前の言う通りだよ、 俺は、 『魔王おまえ』を倒す方法を、 雪ちゃんを殺す以外で知らない、 フーリカを助ける為には、 雪ちゃんを殺すしか無かったんだ」


それでも、 フーリカは死んだ、 もうその理由は粉々に、 跡形も無く消えて、 崩れ去った、 根底が覆る


それに……


「……これも夢かな、 フーリカの声が聞こえた気がしたんだ、 そうしたら、 大丈夫だって、 そう思ったんだ……」


だから………


「俺も、 覚悟を決めるよ、 『魔王』、 お前と向き合うっ、 この牙がその証明だ」


ごめん、 どうしても、 向き合うやり方を、 これしか知らない、 お前に向き合う方法がこれしか思い付かない、 だったなら、 日暮の想いを、 このナタに乗せ……


「……『魔王おまえ』を、 殺すっ」



はっ………


魔王少女は息が止まる様だった、 全身が痺れた、 鳥肌立った、 まだ、 乾ききった地面が、 それでも水を求めて居たのだと、 心で理解出来てしまった


永遠に手に入らないと、 求めても、 手を伸ばしても、 心も、 想いも、 温もりも、 絶対に宿る事は無いと


自分を生み出した獄路挽は勿論、 人々を救う勇者の救いの対象にも『魔王』は入らず、 ただ深い絶望と、 破壊衝動に突き動かされ、 混沌を産んできた自分に


……まさか、 その手は、 自分に向いて居るのか?


これは、 初めての事だった、 どれだけ手を伸ばしても掴めなかった物が、 向こうから手を伸ばしてくれた


それを拒む理由は幾らでも思い付く、 だけど、 この高鳴る、 この脈打つ、 これが心ならば、 心は今、 拒まない理由を必死に探し始めて居た


ああ、 震える、 お兄さんが覚悟を決めたという事は、 だが魔王少女が負けるという事では無い、 それはある意味、 日暮が負け、 魔王少女に隷属された時に魔王少女へと寄り添う事も同時に、 イコールで受け入れての覚悟となる


だからこそ……


…………


「私はっ、 負けないっ!!」



ドガァジャアアアンッ!!!


っ!?


ドザァッ!


吹き飛ばす力、 超反発型の結界が再び火を噴く、 この結界には明確な視認が可能だが、 反発の効果は、 視覚効果範囲内のそれでは無い


水を大量に含んだ筆でインクをぼやかして行く様に、 黒い結界は、 水墨画の線の様に中心が黒く濃く、 端に行くほどぼやけた様に薄く


そして、 視覚に捉えられない範囲、 ぼんやり見える結界の直径が三メートル程とした時、 九メートル程まで反発効果が感じられる


だいたい五メートルの付近まで近ずいた状態が、 さっきの日暮が岩壁に押し付けられていた時の距離だ、 正直近接特化の日暮にとってはやりずらい相手……


日暮は今七メートル付近から押し飛ばされる様に後ろに下がった、 地面を足が削り滑った所で範囲効果を抜けその体が止まる


厄介、 どうにかしなくては行けない障害、 破壊不可の結界よりも、 日暮にとってはやりづらい戦いだった


だが、 よく見ろ、 観察しろ、 強力な力は巨大な爪痕を残すが、 爪痕は痕跡となる、 痕跡を辿れ……


事実を繋ぎ、 小さな仮定を構築しろ、 例えば………


ドガガガガガッ!!!


魔王少女の周囲が崩壊されて行く、 動く範囲数メートル、 地面が抉られ瓦礫が押し付けられる


例えば、 小さな疑問


(……あの結界は、 結界に触れる物全てを弾き、 拒む物なのか?)


日暮は考える


(……違う、 結界構築魔法の基本、 効果が付与されて居ても結界は結界、 基本の構造は同じだとすれば)


周囲と完全に隔絶する結界構築内容では、 周囲の空気までも結界内への侵入を許されない、 そして魔王にとって、 生きる為には肉体、 雪ちゃんの生が必要だとした時、 肉体を生かすために呼吸をしている


つまり、 結界は全てを反発する訳ではなく、 柔軟性を持ち、 予め設定した条件下にて受容と反発の取捨選択を行っている


岩壁が破壊された様に、 岩の床も破壊されて居る、 効果範囲内を平等に破壊している、 ぼっかりと空いた空間に、 魔王少女が浮かんでいる


ならば次に考える事は結界による反発のその取捨選択、 何を弾き、 何を受け入れるのか、 活路はそこにある………


スッ………



「閻魔弾っ!!」


グッ!


日暮は足に力を込める、 適切な回避方向、 タイミング…… いや


(……っ、 これはデカイっ!)


魔王の閻魔弾は、 純粋に魔力を圧縮した塊で、 その威力は基本的に魔力を溜めれば溜めるほど、 高圧縮され高威力となる


魔王は、 日暮が起き上がってから、 警戒し無意識的に魔力を溜めていた、 閻魔弾は最速でクールタイムが五秒、 常に同じ倍率で威力が増す訳ではないが、 この一発、 最速の閻魔の約五倍の威力を内包した



爆ぜるッ


ドッ


ガァアアアアアアアアアアアアンッ!!


ボォォンッ!!


爆発範囲に呑まれるかに思われた、 だが、 日暮は能力を使用する


「ブレイング・ブーストっ!!」


ボッ


ガァアアアアアンッ!!!


ブヮンッ!


加速した体が爆発範囲を飛び越える、 着地と同時にグリップを効かせ、 日暮は魔王を見る………


ダンッ!


っ!?


魔王が地面を蹴る、 回避した日暮の方向を読んで居たように、 まずい、 魔王が近ずけばっ……


ドッ!


肉体を押す圧力、 体が吹き飛びそうに……


いや、 それで構わないっ


グルッ


(……岩壁との距離四メートル、 反発する力を利用して、 自分から飛ぶっ!)


バッ!


蹴った、 地面を、 日暮を押す力が抵抗を失った体を強く地面へと押し出す……


ブワッ!


(……っ、 体を捻って!)



ダンッ!


まるで、 視界が九十度回転した様だ、 日暮は体を捻って、 飛ぶ体で岩壁に足裏から着地、 そこから直ぐに斜め前方に体を回転させながら飛んだっ


タッ! ………バンッ!!


(……逃げるっ!!)


ダッシュ、 とにかく魔王から距離をとる、 今の魔王では日暮に追い付けないが、 今の日暮では走るのも精一杯だ


だが距離は取れている、 チラリと振り返ると、 魔王その足の動きを緩やかにする、 日暮は止まらず距離を取りつつ更に考えた


例えば……


(……空気を取り入れられるとしても、 同じ空気を圧縮したブレイング・バーストは流石に通らないだろう)


おそらくミクロノイズを反発しているだろう、 流石にそんな初歩的な部分を失敗しないとそう思う


(……魔王は術師本人だ、 本人を結界は反発しないという事、 当然だが事実、 そしてそれは同時に、 『魔王』では無く、 雪ちゃんも反発効果の作用外という事だ)


ひらひら~


彼女の纏う服が揺れる、 そうだ……


(……肉体だけじゃない、 服もそうだ、 あれは肉体の一部として換算されているのか?)


……………………いや


よく見ろ……………………


……………



魔王の纏う服が汚れている、 それは砂汚れに見えたが、 要は細かな砂の粒子が服の繊維に絡み汚れているのだ、 しかしそこで違和感が生まれる


(……岩も砕けば石になる、 石も砕けば砂になる…… じゃあ、 結界が破壊する岩壁と、 服を汚す砂は何が違う? どちらも同じならば、 汚れも同時に反発され消える筈だろ)


服に触れているから? 服は肉体に触れて居るから? どうもその辺の線引きが曖昧で、 しかしある意味法則性の様な物を感じる気がした


そして、 日暮は今度は自分に目を向けた時、 どうしても一つだけ気になる事があった、 それは……


(……左の横腹、 その辺だけ違和感を感じる程にダメージが少なかった、 どうしてここだけ……)


日暮は羽織ったマウンテンパーカーの上から左横腹を抑える、 小さな感触が手に当たる、 マウンテンパーカーのポケットに何かが入って居る………


これは、 果たしてなんだったか………


日暮はポケットに手を入れて………


っ!


はっ!!


理解した、 瞬間的に理解した、 閃が全身を電流の様に駆け回る、 確かに、 これが、 この考えが正しいならば魔王の結界の効果、 その違和感に答えが出る


そうか、魔王の結界は…………



「閻魔弾っ!!」


ボガァアアアンッ!!


爆煙、 それによって遮られる視界、 魔王は隠れる様に日暮の視界から消える、 おそらくまた回避方向に合わせてくる


右か、 左か……


(……閻魔弾を目くらましとして使用したという事は、 恐らくこちらの動きを見ているという事、 ならば、 こちらは敢えて動かない……)


晴れる視界、 回り込む必要が無いならば、 右でも、 左でも無い、 正面から来る…………



日暮の思考は正しい部分もあった、 確かに左右から回り込む事は無かったが、 間違いもあった、 真正面にも居なかったのだ


後ろは絶対に無い、 ならば……


(……上っ!)


バッ!


見上げた地点に魔王は居た、 地面を蹴り、 天井付近まで、 上から押し付けるような圧を感じる


押し潰すつもりだ、 上から……


(……んなもん避けりゃ良いだけだろっ! まだどっちにでも動けるっ……)



ボォガァアアンッ!!


突如天井が弾ける、 その高反発領域が天井に触れたのだ、 すると、 その落下速度が瞬く間に加速した、 これは……


(……っ、 反発によって天井を強く押したっ、 その推進力が生まれるって事かよっ)


まだ回避間に合うか?


いや、 無理だ、 感覚が間に合わないと告げている、 だったならっ!


ここで決めるっ!!


ギュッ!


日暮はマウンテンパーカーのポケットを漁り、 それを手に握り込む、 日暮の考えが正しいなら、 魔王の結界、 その反発効果の選別は……


(……自分を生かす物、 又は、 自分の所有物以外を反発し、 弾く効果だ)


呼吸の為の空気や、 衣服などを自分の所有物として解釈、 衣服の汚れは、 繊維に絡みついたそれらを認識して弾く事に無駄な余力を割くことの無い様に、 衣服の情報として固定した


そして……


(……もし『魔王』が雪ちゃんの肉体を所有物と認識してい居ても、 雪ちゃんの生きる意思がそこにある以上完璧には確定出来ない筈、 つまり、 衣服なんかは雪ちゃんの所有物として設定されている筈だ)


だからこそ、 手の中に握られたこれは、 弾かれなかった、 気が付かなかったが、 これは受け入れられて居たのだ、 それは、 雪ちゃんの物だから……


…………


ッ、 ボォンッ!!


「お終いだよお兄さんっ!! ぺしゃんこに押し潰れろっ!!!」


圧が肩に掛かる、 上から舞い降りる様に落ちる魔王少女に、 日暮は握った拳を大きく振りかぶった


キランッ


指の隙間から少しだけ、 それが光を放つ、 これは、 雪ちゃんが、 御守りとして日暮に渡した、 両親を魔王に殺された日、 捨て、 壊そうとして、 出来なくて、 結局持っていた物だ、 彼女から預かった大切な物だ……


それは、 お母さんと色違いの、 青い小鳥の髪留め、 あの日くれた髪留めが日暮を最後は守ってくれたんだ


でも、 もうお別れだ、 これから自分は、 彼女とは違う、 遠い遠い道を進む、 最後まで寄り添ってあげられない事を少しだけ申し訳なく思うけど


もう、 覚悟を決めたから、 だから……


(……ありがとう雪ちゃん、 大切な髪留め、 君に返すよ)



「ははっ、 これはテメェの所有物たぜっ、 魔王っ!!」


グリッ!


乗せろ、 想いを乗せろ、 今まで積み上げてきた物を、 歩んで来た足跡を、 自分の背を押してきた多くの手が残してくれた温もりを、 彼女に……


ギランッ!


「ブレイングッ! ・ブーストッ!!!」


ボォッ!!…………



ボガァアアアアアアアアンッ!!!


ギラリンッ!!


髪留めが空気圧に押され飛び出す、 魔王少女がその目でそれを追う、 雪ちゃんにとってとても大切なそれを、 魔王は瞬間的な拒む事が出来なかった


だから………


ッ、 ビジャアアアッ! …………


結界を切り裂く、 反発する力をまるで感じさせない、 すんなり受け入れる様に、 真っ直ぐ、 加速した青い小鳥の髪留めは、 魔王の左胸へと………



ビジャアアアアアアアアンッ!!!!


っ!?


貫通したっ!


ぅ、 ああっ!?


初めて、 魔王に攻撃が通った、 空中で鮮烈な痛みに悶える、 幼い少女の肉体は痛みに対する体制が乏しい、 悶絶する


「ぅ、 ぁあああっ! あああっ!」


ブヮンッ………


っ!


結界術は高度に成程維持する力が求められる、 頭の片隅で常に結界の構築と固定情報を意識しなくては行けないが、 多くの術者が肉体に死を意識する程の痛みを抱えた時、 その意識がぶれる


この時……


(……結界が消えたっ!)


圧力が消え去る、 反発する力が消滅する、 これで近づけるっ!


ドザッ!


魔王少女は落下する、 受け身も取れない様で、 地面に叩きつけられた、 そこに向けて日暮は踏み込む、 その足音を聞いてか、 震えながら身を起こした魔王がこちらに歪んだ顔で指を向ける


「あああっ! 閻魔、 弾っ!!」


少し溜めがあった様に感じた魔力弾、 だが、 その威力は明らかにさっきの物よりも大きい、 これを作る際の溜めはそんなに無かった筈なのに……


魔王は保険に、 更に保険を掛けていた、 脳内詠唱、 一度だけどんな状況でも五段階詠唱までの威力で魔力弾を放出出来る、 それを最後の最後ここで切った


大きく避けなくてはならない、 そうすればこの千載一遇のチャンスを逃す、 今ここにしかチャンスは無い、 真正面からどうにかしたい、 能力、 能力さえ打てれば………


クールタイム、 再度能力を打つにはまだ時間がかかる、 この極限の戦いに置いて数秒はデカすぎる


もう、 このまま突っ込むしか…………


……………………


……漸く …………………………………


……………日暮、 冥府からアイツを呼んで来たよ、 たった一秒だけだけど、 それで充分だよね?


…………


脳内で、 和蔵わくらの声が聞こえて、 本の一瞬、 耳元で声が聞こえた……


「……日暮っ! 空気は、 我が集めるっ!」


っ!!


ブファアアアアンッ!!!


空気が日暮へと集まる、 日暮の能力のクールタイムタイムとはつまり、 空気を集める時間なのだ、 だが自前で空気を集められた時、 その時圧縮し打ち出す事は可能だと証明されている


藍木山攻略戦にて、 日暮が暗低公狼狽と共闘し、 能力のクールタイム無しでの使用を可能としたように、 今も聞こえた、 一言の言葉に日暮は驚く、 そして笑う


もう一度、 たった一瞬でも、 たった一発のバーストでも、 まさかそれが現実として可能となる等思いもしなかった、 ならば、 盛大に行こうっ


バーストならば正面からの相殺は可能、 大切なのはタイミング……


頼むぜ……


「和蔵っ!!」


…………………………


3……… 2……………


……………1


っ、 今っ!!


……


バッ!


日暮が踏み込む、 止まる積もりは無い、 打ち出された魔力弾、 それを打ち消す為の力、 自分の力を叫ぶっ!


あああああっ!!!!



「ブレイング・バーストォッ!!!」


高威力の魔力弾と、 日暮の能力、 ブレイング・バーストが衝突するッ!!


っ、 ドゴァァアアアアアアアアアアアアアンッ!!!!


……………………


タンッ!


爆煙の中を踏み込む、 抜けた先、 未だ現実を受け入れられ無い様な魔王へと……


パシッ!


日暮の手が触れた、 硬質な結界も、 反発する結界も、 そこには無かった、 日暮の手が初めて、 『魔王』へと届いた


『魔王』を倒す方法、 雪ちゃんと、 二人を分つ方法、 大丈夫、 言っただろ、 最後の最後、 託された想いは、 全部日暮に届いていた


フーリカ・サヌカの背を押し上げたあの強い風が、 日暮のバーストだとしたなら、 あれは、 三度目の共有で、 互いに分かちあった力、 あれはフーリカが起こしたブレイング・バーストだ


だから………


(……大丈夫、 ちゃんと分かったよ、 お前の思いが、 気持ちが、 そして……)


力が…………………


………


日暮の目が、 『魔王』と合う、 深く覗く様に、 隠れたならば探す様に、 触れたてから、 二人の境界を作り隔てる


これは………


「バウンダー・コネクト……」


能力が、 一つの肉体に宿る二つの意思、 雪ちゃんと、 『魔王』の間に強制的に接点を作り出す、 その接点に一気に力が流れ出す


『魔王』の意識を引き剥がすっ!!



ビジャアアアアアアンッ!!!!


傷は無い、 血も流れない、 だが、 確実にもっと深い所で、 力は流れた、 焦げ付いた様に張り付いて居た『魔王』と言う意識が、 分かたれ、 吹き飛ぶ感覚が日暮の手には残ったのだった………

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