第百三十四話…… 『最終章、 下編・20』
「木葉鉢さんから話は聞いています、 明山日暮さんの通行を許可します」
シェルター出口の警備員、 何時もの人じゃ無かったけど、 何にせよ出口を開けてくれる、 木葉鉢さんも仕事が早い……
タッ タッ……
出口を抜けると、 久しぶりの外気に体がフレッシュしたような気分に成る、 広い世界を見て凝り固まった物が流れ出して行く
さて……
明山日暮は、 魔王を倒す為にシェルターを飛び出す、 魔王の居場所は留置所にて、 皇印龍・セロトポムから聞いている
意外と言うか、 妥当と言うか、魔王の居場所は、 白大蛇、 白神・白従腱挺邪の根城としていた洞窟
そして、 魔王の意思が宿る肉体、 雪ちゃんと初めて出会った場所だ、 原点回帰と言うか、 どんな考えがあったのかは知らないが、 あそこに行くのも久しぶりである
だが、 その前に……
「土飼のおっさんがどうたらこうたら言ってたけど、 どうなってんだ?」
シェルターを出ると、 シェルターを囲う巨大な壁が反り立っているのが見えてくる、 確か、出て正面の壁門から外に出ると北側戦場だと言う
「詳しく話はあんま聞いてないけど、 出て見れば分かるらしいから…… 外壁の上から見下ろすか……」
タッ タッ タッ…… ダッ!
「ブレイング・ブーストっ!!」
反り立つ壁に向い走り、 強く踏み込んだ所で能力の発動、 靴底が、 圧縮し、 膨張する空気の力場を踏みつける……
ッ
ボガァアアアアアアンッ!!!
ブワァッ!
「おわっふぅっ!!!」
体が下方向から高く打ち出され、 宙を舞う、 その高度は容易に壁面上部へとその体を持ち上げる………
スタッ……………
……………
ビュゥゥゥ……………………
側面から覆う様な風は強く、 思わず閉じた目を開き、 眼下に目を向けると………
……………
ドオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!
…………
っ!
日暮は息を飲んだ、 壁から数百メートル程の距離で、 それは起こっていた
「……なんだ、 こいつら、 この大人数、 こんな人間がどっから……」
そこには、 小さめのライブ会場を埋め尽くせるだけの人がごった返していた、 陣形を組み、 その光景は明らかに異様である
その一角、 目を凝らすと、 一箇所だけ、 外れの方に円を描く様な陣形を組む箇所が見えた
まるで何かを取り囲う様に真ん中に穴が空いている、 そこの中心で……………
「……遠くてよく見えねぇけど、 あれ、 土飼のおっさんか? なら正面の奴が敵………」
敵が大きく振り上げた拳が、 土飼と思われる人物にぶち当たり、 吹き飛ぶ、 ドガッ! と言う音が聞こえそうな程の当たりだ
おいおい………
「まじかよっ、 どういう状況? あれ、 サンドバッグって奴だろっ!」
一方的に土飼が敵に殴られ続けて居る、 土飼が再び立ち上がろうとしているのが遠目からでも見えた
「おっさんが無理しやがって!」
バッ!
日暮は外壁上部を走ると、 円の地点に最も近い外壁に向けて足に力を入れる、 そろそろ八秒、 あの円の中心まで一気に飛ぶっ
っ
「ブレイング・ブーストっ!!」
ッ、 バゴォオオオオンッ!!!
放物線を描いて日暮の肉体は空へと放り出される、 敵の作る円の壁を易易と越え、 その中心部へとその体が影を作る
………………
一気に飛んだ、 真下では、 土飼が何とか、 また立ち上がっていた、 敵の拳が再度握られている………
(……最前で体張る何て、 らしくねぇ事するじゃんっ)
そのまま一気に舞い降りる、 落下の衝撃は、 丁度拳を握った………
「てめぇで相殺っ!!」
拳を握った男が、 日暮の声に反応し空を見上げる、 その無駄な反応の間に、 日暮の百メートル前後落下加速したドロップキックが、 敵顔面を……
ドッ……
ガァアアアアンッ!!!
捉えた………
「ッ!? ぶふぉわぁあああっ!?」
ドザァンッ! ………
敵が吹き飛ぶ、 エネルギーの吸収と言う奴だろうか、 日暮は、 緩くなった速度で、 戦場に降り立った……
トスッ…………
お~
目に見えるのが全部敵だとしたら、 一面、 全部敵である、 これは、 この眺めは中々…………
………
「………………日暮、 か? ……いや、 有り得ない、 日暮は、 留置所……」
小さくて弱弱しい土飼の声が耳に届く、 振り返り彼を見ると、 もう立っているのが不思議な程にボロボロのボロ雑巾の様になっていた
目も殆ど開いて居ない
「土飼さん、 無理すんなよ…… 牙龍、 土飼のおっさんを治せ」
ッ
ドクサッ!
「うっ…………………… 痛みが…… 引いて……」
日暮のナタに巻きついた骨、 それは敵の肉体を喰らいエネルギーに変換、 肉体ノ欠損部分に対する再生、 つまり肉体の回復が可能であり、 それは他人に対しても同様
骨が伸縮、 伸び土飼に突き刺さると、 蓄えられたエネルギーを消費し、 その傷を治す、 ほんの十秒ほどで………
ドシュッ………
「元通り、 派手にやってたね、 おっさん」
その闘志に健闘を称え、 日暮は土飼に対して笑いかける、 土飼の顔は驚きに染まっていた
「日暮…… 何故ここに、 まさか、 抜け出して来たのか? 何故? お前は、 ゆっくりしてれば良いんだ、 悩んで良い、 休んで良い、 俺達に任せてお前は……」
下らねえ事考えてるな………
「土飼さん、 もう大丈夫だよ、 答えは出た、 覚悟を決めたよ、 ……俺は戦える」
っ
土飼が苦虫を噛んだ様な顔をする、 せっかくゴタゴタに歪んだ顔の輪廓を元通りにしてやったのに……
「向いてないんだよ、 あんたは何時も、 俺みたいなガキの前に立って堂々と偉そうな事言ってるだけで良いんだ、 こういうのは、 初めから俺の戦いだ」
日暮は土飼に背を向け、 敵に目を向ける、 転がっていた所から砂を埃を払って立ち上がったそいつを睨みつける
ギラッ
睨み返された、 中々良い目だ、 闘志に関しては合格点かな
「……おい、 邪魔をするな、 俺は土飼と戦っていたのだぞ」
完全に一方的に土飼が殴られていて、 戦いにすらなってなかっただろ、 ただのサンドバッグ君だ
「二人の戦いはお前の勝ちだ、 おっさんは大負けだったよ」
しかし、 日暮の言葉に、 目の前の男は首を横に振る
「いいやまだだ…… 俺は土飼を再起不能に出来なかった、 執拗い奴だ、 何度でも立ち上がった、 まだ俺は勝っていない」
へー
「でも、 もう戦いは終わりだよ、 ……それならお前の負けだ、 こんなおっさん一人引っ倒すのにどんだけ時間使ってんだよ」
「違うっ!! 能力を使わないハンデを課して居たのだ! 力さえ使えればたった一撃だ、 あの男の様にっ!」
敵が指さす方向をつられて見ると、 そこには転がるよく見知った姿、 奥野谷弦が、 足を欠損し、 見るからに大怪我を負い地面に転がっていた
えっ
「っ、 奥野さん死んでんじゃねぇのかあれっ……」
日暮はナタを持って奥野の方向に向かおうと………
………
ダッ!
「余所見っ!!」
日暮の背後を狙い踏み込む敵、 握った拳が日暮の背中へと……
クルッ
日暮が上体を捻る、 まるで敵の動きを理解していた様に、 違う、 敵は日暮の動きに釣られたのだ、 日暮のカウンター……
「大振りが過ぎるんだよっ!! 喰らえっ、 牙龍っ!!」
腰を起点にした回転による振り向き、 下からかちあげる様に振り上げたナタが、 敵の伸ばした腕、 肘の当たりを捉える
ッ、 グジャァッ!!
バキッ!
「っ、 ぅがぁああああっ!?」
骨まで達したナタの刃が、 更に敵の腕を喰らい、 切り飛ばす、 グルングルンと、 敵の腕が宙を舞う
ベシャッ………
「うぉおおおっ!?」
地に膝を付き悶える敵を日暮は冷たく見下ろす、 手に持つナタを背後の土飼に投げる
カランッ……
「土飼さん、 使い方は分かるよね? 刺せば傷を治す、 奥野さんに使ってよ」
「っ、 だが、 それではお前が怪我をした時………」
怪我?
「しねぇよ、 自分より遥かに格下叩いていい気になってるこいつ程度じゃな…… おい、 早く立てよ」
ググッ
挑発する様な日暮の言葉に、 敵は歯を強く噛み合せる
「ぐぅっ!! この北将、 央田中様相手に何たる侮辱…… 後悔しろっ!」
?
敵の睨みつける怒りに染まった視線が外れる、 視線は、 下?
ゴゴゴゴッ……
地面下の微振動…………
っ
「日暮っ! 敵の能力は地面からっ………」
ッ
ドゴァアアアアアアンッ!!!
日暮の立つ地面が突如弾ける、 まるで地雷でも踏み抜いた様な衝撃、 ボッカリと空いた地面の大穴から、 それを開けた者、 敵の能力、 巨大ミミズが顔を出す
奥野は、 あれにやれら、 足を失った……
空に向け、 飛び跳ねる様に伸びた巨大ミミズ、 それに打ち上げられた明山日暮が、 奥野の様に、 足を無くし、 ゴミの様に宙を舞って居る……………
と
(……まさか、 央田中は、 思っているのかっ!?)
土飼は絶句した、 そして納得もした、 敵、 央田中は勝利を確信したように空を見上げていた
だが……
思い込みもあるが………
(……敵は気が付いて居ないのか!? )
空に向けて反り立つ巨大ミミズ、 日暮はそれを一歩引いて回避している、 そして、 巨大ミミズ出現と共に体全体を屈伸の様に深く沈んで居る
巨大ミミズの影になっている上に、 敵は上方のあらぬ方を向く、 日暮の後ろの土飼にはその動きが丸見えだったにも関わらず……
(……まさか、 敵の行動を読んで居たのかっ)
やはり、 明山日暮は戦いにおいて、 他の者を群を抜いて強い
ッ
日暮が地面に手を付き、 その低い体制から、 敵の脛狙いの蹴りを放つ
ドガァッ!!
「っ!? うわぁっ!?」
本当に予想外と言う声が、 央田中から漏れ出す、 脛を強撃され体の軸が大きくぶれ、 その体が大きく傾く
体勢を崩した………
「っ! ふぅんっ!!」
ドガッ!
っ!
敵が崩れ傾く体に、 逆方向から巨大ミミズをぶつけ体を支える、 その勢いのまま、 日暮に突進した
ッ、 バンッ!!
「こんな程度っ!!」
敵の大振り、 この敵、 全ての攻撃が大振り、 大柄な体を生かした強打のみの戦法……
(……真正面から受けたら崩される、 押されるな)
だったら、 軌道は見えてるっ!
スッ……
敵の拳に交差する様な平手の手刀形、 そこから、 敵の力の最高到達、 その点に向けて、 一気に拳を握り込む勢いで側面から叩きつける
ッ、 バァアンッ!!
「うわぁあっ!?」
力は要らない、 敵の力を利用した受け流しと、 そこからの弾き、 再度敵が体勢を崩す、 日暮は拳を握り掲げる……
それに反応し、 敵の防御が上に集中した、 やっぱり戦いのド素人、 日暮の拳は囮、 上を意識させての、 防御の無い下、 蹴りっ
(……当たるっ ……ここで終わらせるっ!)
敵のガラ空きの太もも側面に向け、 ローキック、 その蹴り足に力を込める……
「……っ、 ブレイング・ブーストっ!!」
ボッ!!
膨張する高圧力が蹴り足を吹き飛ばす様に押しだすっ
ボォオオオンッ!!
(……当たるっ)
………
ドガッ!
っ
地面が弾ける、 巨大ミミズ、 央田中の足を防御する様に出現率する……
(……ミミズごとすり潰してやるっ!)
ッ
ドジャアアアアンッ!!!!
衝突音、 水袋の様な感覚、 巨大ミミズが大きく揺らぎ…………
っ!
(……衝撃を殺されたっ)
央田中にダメージは見えない、 この巨大ミミズは、 パワーも速度も動きもほどほど、 この防御力こそが巨大ミミズの最大の武器……
グリッ!
敵が拳を握る、 この体勢の悪さでこの強打、 日暮は避けれない、 敵の拳は速い………
「ぶっ飛べっ!!」
ボォオンッ!!!
直撃、 日暮の体が浮く…………
あぁ、 確かにぶっ飛んだな…………
ははっ
土飼は横目で見た、 自分がやろうとしても出来なかった、 雷槌から教授された、 脱力による衝撃の緩和
笑う日暮、 央田中の拳に当たった感覚は軽い、 日暮はインパクトの瞬間、 ギリギリまで引き付け自ら飛んだ、 体制が悪かったからこそ、 体の軸が折れているからこそ……
究極の脱力っ
ザッ! ……バンッ!!
最終的な力を地面着地で流し、 反発する様に更に飛ぶ、 一気に詰めるっ
ダッ!
敵に接近、 対応する様に再び構えた敵に対して、 失った片腕の方へと一気に踏み込み方向を変える
っ!?
央田中は存在しない腕を伸ばそうとしてしまった、 意識では無駄だと分かって居ても、 肉体に刻まれた無意識的な反射は、 まだその有無を認知できて居ない……
無駄な一瞬、 そして、 命取りな一瞬の間、 その間だからこそ当たる……
日暮は喉を震わせるっ
「ブレイング・バーストっ!!」
土飼は驚きに目を見開く、 土飼は知っている、 日暮の能力は、 発動後、 再度発動に八秒のクールタイムが必要な事を
クールタイム開けにはまだ早い、 成長して短縮出来るように………
いや、 違う……
ドガドガドガッ!!!!
地面が弾ける、 巨大ミミズ、 複数匹、 防御の為か………
いやそうか
(……敵はクールタイムの有無を知らない、 日暮の能力を危険視していれば、 防御の為にミミズを出してくる事は予想出来る)
そして、 それ故に予め何処から出てくるか分からない巨大ミミズの軌道を防御地点に固定する事が出来る、 ブラフで不確定要素を無くす
だから、 その軌道を見てから……
ザッ!
更に踏み込む、 巨大ミミズは急激に曲がったりは出来ない、 それは見ていれば分かること
だから………
バッ!
半周周った地点で止まり、 背後に周る、 敵の目線だけが、 日暮の動きを捉えて居た……
グッ!!
拳を握る、 動きは最小限、 速さに特化したパンチ……
敵は思う
(……小さな動き、 当たった所で大したダメージには成らない)
連撃を狙う積もりならば明らかにこの攻防にそんな暇は無かった、 これは、 日暮の選択のミス、 そう思った
だが……
小さなタメで良い、 当たればそれで構わない、 日暮の拳が、 インパクトの瞬間……
ボォンッ!!
膨張する、 拳内に空気を超圧縮し、 パンチと共にその威力をぶつける攻撃……
「ブレイング・ブラストっ!!」
衝突っ!
ッ
ボガァアアアアアアンッ!!!!
っ
「っ、 うがぁあああああああっ!?」
どぉおおおんっ!!
央田中の体が吹き飛ぶ、 大きく空を飛び放物線を描き落下すら……
ドガジャァンッ!!
周囲を囲う敵を薙ぎ倒し落ちたちてんからは土煙が上がっている……
だが、 感覚で理解出来る
(……落下地点にミミズを出して、 落下ダメージを殺したな)
だがブラストが直撃したダメージは馬鹿に出来ないハズだ、 日暮は歩き、 央田中の落下地点へと歩いていく………
………
ドガッ!!
っ
地面を穿つ巨大ミミズ、 日暮の傍で地面が弾ける、 こちらが上手く見えていないせいか大雑把であるが……
土煙が晴れて来るとそこには数人を押し潰し倒れる央田中の姿があった、 ブラストのヒットポイントである腰周りが砕けて居るのか立ち上がる気配は無く、 痛みに顔を歪めて居る
そんな央田中が、 精一杯に日暮を睨む
「来るなっ! 俺は能力でお前の仲間だって自由に殺してやれるんだぞっ!」
おいおい……
「情けねえな、 脅しかよ……」
「黙れっ! ……ははっ、 もういい、 一騎打ち何て止めだ、 初めから数の理はこちらにあるっ、 お前らっ! こいつらを全員ぶち殺せっ!!」
ザザッ ザザザッ
ピタリと止まっていた敵軍が一斉に顔を上げる、 命令に忠実な奴らって事か……
でもな
「おい敵将、 多分もう遅いんだよ、 土飼のおっさんがどうして全然で体張ってサンドバッグやってたと思う? 俺が来るからじゃないぜ?」
日暮は空を見上げる、 いや、 正確には、 背の高い甘樹ビルの屋上を見上げる、 キラリと、 一瞬見えたんだよ
光の矢の、 その光が……………
…………………
「行くよサンちゃんっ ……サンダルフォン・ショットっ!!」
ビカッ!!
ッ
バジャァアアアアアアンッ!!!!
………………
っ!
世界が白く染まる様な光量、 その瞬間、 雷撃の音が止み、 チカチカする様か目が慣れてきた頃には……
「……ははっ、 すげぇな、 菜代さんは」
流石、 始まりの戦い、 あの巨鳥を落としただけは有る……
周辺の敵が、 一気に倒れ、 地面に這いつくばっていた、 それを央田中が驚愕の目を見開き叫ぶ
「何故だぁっ! まさかっ、 あの槍男が負けたのかっ! ふざけるなぁあっ!!」
だが……
「っ、 こちらにはまだ、 数千の軍勢が残っているんだ、 それに他の地点の信仰も進んで居るっ! お前らの負けは覆らないっ!!」
日暮は顎に手を当てる
「……俺は作戦知らねぇけど、 無理でしょ、 だって、 こっちには……」
ぽつ……
?
ぽつぽつぽつぽつ……………
雨?
何で……
「こんなに晴れてるのに、 雨が…… いや、 そうか、 お前なのかよ、 冬夜……」
雨じゃ無い、 落ちてくる水なんだ、 上を見上げれば、 空を悠々と舞う、 水龍がこちらを見下ろして居た……
………
ッ
ドガァアアアアアアアアアアンッ!!!
ッ、 ボジャアアアアンッ!!
………
水の塊が空から降って来る、 水の脅威、 敵がどんどん巻き込まれて行き、 倒れていく
「なっ、 何だこれはっ、 ゴボッ、 オボゴッバッボッ………」
知ってか知らずか、 敵将、 央田中も水の渦に巻き込まれて、 数秒後には白目を向いて倒れていた
圧倒的過ぎる……
………
ははは、 予想以上だ……
「日暮っ」
土飼さんの声が背後から聞こえ、 振り返ると、 そこには頭を下げる彼の姿があった
「……助かった、 お前が来てなかった俺は死んでた、 奥野さんもな」
奥野さんは目を覚まして居ない様だったが、 息をしているのが見えた
「これのお陰だ、 返すよ」
差し出されたナタを、 日暮が受け取ろう思い腕を伸ばす、 だが……
「良いの? わかってる? 俺一応脱獄して来たんだよ? このナタだって没収されてた」
土飼は笑う
「お前なぁ…… そうだろうと思っていた、 だが、 態々俺にそうやって報告するんだ、 お前が俺に対して、 その責任の一旦を預けて居る、 俺を信用してくれてる、 そうだろ?」
そんなんじゃ、 無いけど……
日暮はナタを受け取ると、 その刃を覗く、 歪んだ自分の顔が写った
「たった今、 木葉鉢さんから連絡を受けた、 ……行くんだな? 『魔王』の所に」
日暮は頷く
「……そうか、 だが、 また俺は、 お前に全てを背負わせる事になるな、 俺は、 俺では、 戦えない……」
下を向く土飼、 だが、 日暮からしたら土飼の悩みは笑える様な物だった
「ぶっ、 あははっ、 あんたそんな事考えてたの? 似合わねぇ~」
土飼が顔を上げる
「何をしても結果的にそうなる、 柳木刄韋刈の時の様に、 お前がこの戦いの全てを背負う事になる……」
日暮は首を横に振る
「いいや、 ならないね ……あのな土飼さん、 さっき茜が言ってたんだ、 『ここにはここの戦いが有る』って、 俺だけじゃない、 皆戦ってるよ」
!
「心配すんなよ、 人はさ、 手を取り合って支え合って、 強くなれるんだろ? 誰かの重しを、 誰かが支えて、 それが、 人の社会のコンセプトだって、 あんたが言っただろ?」
日暮には、 きっちり響いている、 土飼と初めてあった、 あの日の言葉が……
「土飼さんがあの時、 俺を『人』に縛ってくれたから、 俺は今、 人の持つ心に従って、 人を想って戦えるんだ、 感謝するよ」
ああ、 晴れたのか、 悩みを捨て、 ずっと先へと、 また彼は一歩を踏み出したんだ……
「……変わったな、 初めは平気で人の指を切り飛ばすイカれたガキだったのに」
そんな事もあったね……
「だが日暮、 『魔王』との戦いには、 このシェルターの、 この世界の未来が掛かっている」
「……お前が戦う以上、 やはりその締め括りとしてお前にはのしかかってしまう、 お前が俺達の進む道を切り開いて行く事になる…… 出来るのか?」
日暮は握ったナタを腰に仕舞い、 土飼にしっかりと目を合わせる、 その後笑った
「覚悟は出来てる…… でも、 土飼さん言ってただろ? 俺は最前線で壁をぶち壊すだけだ、 その後ろを皆で道を作っていくんだって、 きっと本当に大変なのは土飼さんや、 大望さん、 木葉鉢さんだと思うよ」
だから……
「あんたこそ覚悟出来てるのか? モンスターが世界に溢れてからもう二ヶ月ぐらい、 そろそろ終わりにしてやる、 そうしたら一気に世界が動くぜ、 その覚悟が出来てるか?」
日暮は聞き返し、 だが愚問だと思った、 何だかんだ言っても、 目の前の男は、 人を導く側だ、 その覚悟無しでこの地には立っていない
ボロボロになりながらそれでも立っていたあの様を思い浮かべれば、 答えは決まっていた
「ああ、 そんな事も言ったな ……そうだ、 日暮、 後ろは任せろ、 お前が帰ってくる場所は俺達で、 皆で地を固める」
ならいい
日暮は頷き、 周囲を見渡す、 光の矢が敵を穿ち、 水が畝り敵を飲み込んで居る、 もうここに自分は必要ない
「土飼さん、 俺行くから、 シェルターの事は任せたぜっ」
日暮は、 目指すあの洞窟へ足を向けた
「ああ、 分かった、 絶対に帰って来いよ、 絶対に勝てよ」
誰に言ってんだ…… 日暮は頷く
「じゃあ、 行って来ますっ!」
ザッ!
送り出す土飼の声を背に受け、 戦場を走り出す、 日暮の背を押す声が、 心を前に進める想いがまた増える
その力を確かに感じてか、 日暮の足は心做しか、 さっきまでよりも強く地面を弾くのだった……………