第十二話……『進め』
暗闇を進む……進む………進む……………………
「いや、 どこ行きゃいいんだよ」
落ちてきた空間はとても広い、 大広間って感じだ
「あ~、 俺今何処にいるんだろ、 地下……は分かるけど、 こんな所あるか?」
「まあねぇよな普通に、 そもそも店舗の真下たぞ、 謎の異空間だろこれ」
暗闇を手元のランタンで照らし今居る空間を把握する、 不足の事態が起こった時、 知ると言う行為は前に進むための大切なトリガーとなる
「ゲームなんかだとマップ表示があったりして楽なんだけど、 それがねぇのが現実ってね」
彼の探索は地道な物だ、 目的地に光の柱がたったり、 タップするだけでそこまで歩いてくれたり、 そんな機能は無い
「まあ目印つけながら歩いてるし、 分からんくなる事は無いやろ」
そう言いながら、 今しがた目印にした物に手を合わせる、 ……………それは死体だ
長袖を着た死体の袖を折ることによって目印として行く、 なんか普通に悪い事してるって感じる
進み方も工夫した、 初期位置から目印をつけつつ適当な方向に真っ直ぐ進み、 壁に突き当たったら壁沿いにぐるっと進む、 この時点でこの空間がある程度の円型になっている事に気がつく
「通路も見つけたわ、 もちろん進むつもりだけど、 先にこの空間の事を知りてえ」
今度は壁際から少しづつ距離を取りながら再度周回していく、 形で言うと蚊取り線香のように徐々に中心部へと向かって行く、 そうする事である程度この空間の把握は出来るだろ
そう思いながら歩き続ける事1時間ほどでだいたい中心と思われるところに着く
「これでこの空間の探索は終了、 思い切って通路の先を進めるぜ」
隠し通路や、 ショトカ、 勿論出口に繋がるきっかけ、 そう言った物を見逃す訳には行かない
「ダンジョン探索の基本だよね、 ゲームとかならだけど…………………ダンジョンか……………」
自分で言っておいて、 自分で気づく、 この空間は恐らく敵の根城つまりゲーム等で言えばダンジョンになる筈だ
ダンジョン……その響きに憧れを抱かない人間が居るのだろうか、 未知への挑戦、 まだ見ぬ戦い、 そして勝利の報酬
「なんか、 楽しくなってきた、 絶望みたいな顔して生きるより、 どんな状況でも楽しんじゃえば一番良いんだ…………………場合によりけりだけども」
そんな事を言いながらまた壁まで歩き、壁沿いに歩みを進める、 半周した辺りで先程見つけた通路を発見した
この空間は戦闘が無かった、 ここは敵も立ち入らない場所なのだろう、 でもこの通路を進んだ先はそうとも限らない
複数の敵に囲まれる戦いずらさ、 容易に選択してしまう命取り………間違えられない
「ふぅ……気合い入れてくぞ」
深呼吸をして足を踏み出す、 広い空間から伸びる細い通路を光が照らしていく、 じわじわと照らされるのは岩肌の荒い通路の壁のみ
その事に不安が募る、 闇の中から突然敵が飛び出してくる、 その時体が動いてくれるか……
「向こうからは俺が見えてる可能性はかなり高い、 俺はこんなに光に照らされてる訳だからね、 不平等だろ」
不安からか愚痴が零れる、 恐怖している証拠だ、 しかし恐怖とは闘争心を燃やす良質な薪となる
目の前に未だ敵は現れない、 しかし恐怖の薪に無理やり火を灯し、 闘争心を燃え上がらせる
「出てきた瞬間殺す」
明確な意思が暗闇を照らす、 前へと進む勇気が生まれる
呼吸をしっかりとする、 脳に全身に酸素を届ける、 血が滾り、 思考と肉体の躍動を促進する
それは備えだ、 その構えた刃は今にも動き出す…………………………
「しゅみぃぃヨォ!!」「しゅみぃ!!」
「うるせぇ!!死ね!!」
ナタを振りかぶって投飛する、 数回転したナタが2体現れた鳥頭の内片方の肩口を打ち付ける
「じゅじみぃ!?」
食らった方は痛みに悶え肩を抑える、もう一体は真っ直ぐ向かってきて既に目の前に来て引っ掻き攻撃…………
「うぉらァ!!」
落ち着いて、 上半身を後ろに傾け、 その勢いで右足を前方へと押し出す、 所謂前蹴り、 敵の短い腕より、 長い俺の足の方が先に届く、 あとはタイミングさえ誤らなければカウンターを取れる
「じゅん!?」
蹴りが敵の顔面を捉える、 鳥頭は息苦しそうな声を出し後方へふらふら下がって行く
そして………………
「しゅ!?」「しゅみん!?」
肩口にナタを生やした敵にぶつかり、 両方とも体制を崩し地面に転がる……………
千載一遇
今彼には2体を同時に吹き飛ばす力がある、 一気に敵との距離を詰め距離2m、 この近さがあの脅威の威力を叩き出す
さあ、 いざ叫べ、 力の名前を!!
「ブレイング・バースト!!」
圧縮された空気圧が射出され、 わけも分からずと言った感じで2体の鳥頭が吹き飛ばされる
「あっ、 ナタ……………ふふふ」
無計画全開で吹っ飛ばしてしまった、 それでも笑える、 今の戦いは凄く上手くいった、 圧倒した……楽しい
「ふふふ、 てか……やばすぎこの力」
転んでいた敵に放ったブレイング・バーストその余波で地面がひび割れている
「凄すぎんだろ」
その異常性、 理解が出来ない、 それなのに実感がある、 これは確かに俺の力だ…………
「もっと戦いてぇ」
もう何も恐怖していない、 炎が道を照らした、 彼の探索はまだ始まったばかりだ