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第百七話…… 『最終章、 上編・7』

『……日暮、 どうしてお前の攻撃が相手にとって読みやすいか分かるか?』


トレーニングルームの番人、 雷槌我観いかづちがみの言葉が頭に、 ラジオ放送のように淡々と浮かんでくる


日暮はその言葉に対して、 特に考えることも無く理由を聴いた、 客観性が欲しいと思ったからだ


『……理由は単純だ、 お前の戦闘スタイルは常に、 受け身だ、 お前は常に待ちに徹底しているからだ』



日暮は顎に指を当てて考える、 そうだったっけ? 自分から攻めるを結構意識していると思っていたが……


『……自分じゃ分からないか? なら、 ちょっと殴りかかって来い、 良いから、 ほらっ』


えぇ……


日暮はそう思いながらも躊躇いなく拳を握る、 それをあからさまに構えて雷槌に放った


バンッ


拳が弾かれる、 雷槌のカウンター、 続けろって事か? なら……


タンッ


カウンターのパンチを前に出した肘でかちあげる様に弾いて、 曲げた肘を伸ばし、 手刀、 そのままの勢いで雷槌の首へと……


グイッ!


っ!?


まるでわかって居た様に腕を掴まれた、 と、 思った時には宙に浮いていた、 雷槌さんは合気道にも精通してるらしい……


ドサンッ!


………いてぇ


天井を見上げながら日暮はマヌケな顔で考えた、 今のは、 明らかに読まれていた……


なんで?


『……お前俺に殴り掛かるのに何考えて向かって来た?』


えっと………


『……何も考えて無いな? 様子見のパンチだった訳だ、 それはさっきの話に繋がる所だ』


『……様子見の攻撃、 それに反応した敵のカウンター、 それに被せるカウンター、 それがお前の戦術だ、 受け身以外の何物でもない』


確かに…… 相手の反応を見て動いている、 相手の反応を見る為に、 放った一撃目の拳、 牽制とも言うが……


『……相手に選択肢を与える事になる、 多くの戦術を持つ者なら、 牽制に対して多くの選択肢を持つ、 そしてお前がそれに対する対抗手段を持っていなければ一方的に攻撃を貰う、 分かるか?』


日暮は立ち上がりながら何となくで頷く


『……戦いにおいて、 相手に選択肢を与えない、 又は選択肢を潰す事が勝利に近く、 お前以外の者がやってる事だ』


強い口調に思わず息を飲んだ、 客観性、 雷槌の言葉で自分が如何に愚か的な行いをして来たか理解した気がしたからだ


『……そしてお前の読みやすさだが、 受け身のカウンターが戦術だと相手にバレた時、 相手は手を出せば、 そこに被せてくると理解する』


『……つまりカウンターで合わせているつもりが、 カウンターを相手に出させられている、 こちらの手を操られて居るからだ』


えっ………


日暮は思わず口に手を当てた、 つられてるって事かよ……


『……少なくとも俺はお前と戦う時それを意識してる、 正直それに気がつけば楽だ、 例えるなら闘牛、 真っ直ぐしか進まないからいなせる』


そう言われればそうかもしれない、 深い深いため息が出てくる


『……モンスター共は基本的に本能的だ、 正に闘牛と一緒、 お前がモンスターに対して強いのは、 それでも考える頭と、 奴らをも凌ぐ強力な能力があるからだ』


常にゴリ押し、 何とか能力をねじ込む、 その為にならば頭を使えるのだ、 そして本能的なモンスターに対して、 大体の場合日暮の小さな脳の方が勝つ


って、 事ぉ?


あぁ…… 嫌になる、 雑魚、 自分は雑魚……


『……相手はお前より倍以上の事を常にしている、 自分から攻めるし、 勿論牽制も挟む、 カウンターも構えてる、 プロはそれが上手い、 ……柳木刄韋刈もな』


……………………


日暮は雷槌にこの時言われた事を理解した様に思ったが、 力の差を改めて突きつけられて、 身体に刻まれた鮮烈なダメージと共に、 真の意味で理解した


崩壊した砦、 自分が殺したモンスター共の死体に囲まれ、 月明かりが瓦礫の様な街を照らす下で日暮は思った


(……勝てねぇかもな)


毎日の追い込む様なトレーニング、 ほぼ無睡での天成鈴歌あまなりすずか護衛五日目の今日


ただでさえ疲弊する体と心に、 星之助聖夜ほしのすけせいやとの戦闘、 連続するモンスターとの戦い、 共闘関係にあった狼達の殺害


一時は、 友人の村宿冬夜と、 先輩の威鳴千早季の安否すら不明で、 それが分かった今も、 二人は変わらず重体、 精神的に来る……


もう寝たかった、 微妙な時間だがお腹も空いてきた気がする、 月明かりがただただ無機質で


疲れていた、 そこに示される様な力の差、 既に像似モンスターの大型キルで最高潮に上がったボルテージをもう一度上げる事は難しく


(……あぁ、 もう疲れた、 とにかく眠い、 ここでも良いから寝たい……)


体の痛みは引いてきた、 だが何時の様にモチベーションが湧いてこない、 以前の戦いの因縁、 その決着を付けたいのは山々である


しかし、 柳木刄韋刈に対して決定打、 勝ち筋が見えて来ない以上、 やる気も中々起こらない


そんな今の日暮だから、 雷槌の言葉の続き、 その時は鼻で笑い飛ばした事、 普段の日暮ならば考えもしないだろう言葉が、 主張する様に頭にチラついた


雷槌との会話、 一泊を置いて、 彼は最後に日暮にこう言った……


『……そもそも一人で戦う必要は無い、 勝てれば良いんだ、 もっと人を頼れ』


雷槌の目は至って真剣だった


『……これはお前一人の戦いじゃない、 ここに居る、 今を生きる皆の戦いだ、 お前が居るから生きている人間も居るし、 お前も生かされている、 組織に、 団体の輪の中に居る内はな』


どっかで聞いた様な話だ、 そうだ、 土飼のおっさんも同じ様な事を言っていたっけか


『……お前の力は、 お前だけの力じゃない、 勝てないなら、 皆で勝てば良い、 一人で戦うな、 人を頼れ』


ははっ………


………


「…………ははっ、 あはははっ……… 頼るか、 楽だし……」


日暮は無線機を出し、 その電波を相手へと繋げる、 ただ、 情けなさを抱いたまま


ビガガッ


無線機な音を発する、 その様を止める素振りを見せない柳木刄韋刈、 内心呆れているのか


それでも今は……


ガッ


「あっ、 菜代なしろさん? あの出来たらで良いんですけど、 手伝ってくれませんか? 俺一人じゃ勝てそうになくて……」


ザザッ……


妙なノイズが走る、 繋がってるはずなのにな…… 声が帰って来ない……


………


『……こちら菜代望野なしろのの、 ごめん日暮くん、 出来そうに無いわ』


へ?


あっ……


「暗くて見えないんですもんね、 援護射撃は無理ですか……」



『……いいえ、 違うの…… っ、 ごめん、 あんまり詳しく話している時間は無いけど、 今敵に追われてて』


え? 追われて?


「状況は?」



『……正体不明の敵よ、 能力を持った人なのか、 もしかしてモンスターなのか、 見た目じゃ判断出来ない』


菜代さんの声は焦りが含まれている、 これは、 まさか不味いのか?


『……腐乱臭の様な匂いがする敵で、 実際に、 死んだ魚の大群が常に這いずって流動して、 人型を作っている様な見た目なのよね』


何だそれ?


「強いんですか? 追い詰められて居るんですよね? 俺…… は、 迎えないですけど、 応援呼びましょうか?」



『……既に土飼さんに連絡したわ、 今はただ逃げ切る事だけ考えてる、 とても戦え無いわ』


あの菜代さんが? しかし菜代さんは弓使いだ、 近接戦闘になればそうもなるか……


『……サンちゃんが、 ……やられちゃったの、 奴の奇妙な技で…… 姿が消えてしまった』



「消えた?」



『……取り込まれたのよ、 腐乱死体の塊が、 カーテンみたいに開いて、 中は空洞のようだった、 捕まっちゃだめだって事は分かる…… もしかしたらサンちゃんももう……』


何が起こってるんだよ…… 日暮は菜代の居る甘樹あたまつビルの方を見る


『……ごめんね日暮くん…………』


ガガッ………


無線はそこで切れてしまう、 彼女の安否を心配する気持ちと、 助けを得ることの出来なかった虚無感が同時に襲う


あっははは


笑い声が聞こえた、 心底腹の底から溢れ出す様な笑いだ、 声の方を見る


「どうやら雷は飛んで来ないらしいな、 良かった良かった、 あ〜 良かった、 あははっ、 予め俺の仲間がビルに向かう作戦で良かったよ」


仲間?


「お前の…… 仲間が菜代さんを襲ってるのかよっ! と言うか、 このモンスターの襲撃も、 このタイミングでやって来たお前も、 お前らはっ、 この街で何をやってやがるんだよっ!!」


笑い声が更に大きくなる


「ぶはっ! あはははっ! おいおい、 まるで主人公気取りだなぁ? 何必死になってんだよ、 別に詰まらねぇ、 大した世界でも無かったろっ!」



「っ! 質問に応えろよっ! お前ら仲間集めて、 何やってんだ! この街を、 シェルターで過ごす人達を不安にさせて何がしたいんだよっ!」


何か、 日暮はとにかく必死になっていた、 普段ならそんな事はどうだっていい事だ、 でも疲れが逆に気持ちをハイにさせ、 更に妙な正義感が湧いてくる


そう、 正に少年漫画の主人公の様な……


「……はぁぁ…………」


日暮の叫びに対して帰ってきた応え、 それは大きな大きなため息、 ただそれだけだった


「つまらねぇ事でかい声で叫ぶなよ、 こっちの力まで抜けてくる、 俺が態々てめぇがもっかい向かって来るのを待ってたのによ、 傷だって既に治ってるくせに、 何で向かって来ない?」


っ………


言葉に詰まる、 勝てる気がしないから、 流石に敵に対してその言葉を放てるほど、 日暮の心は諦めきっては居ない様だった


「質問に応えろよ、 質問を質問で返してんじゃねぇ、 柳木刄韋刈てめぇは何なんだ? 何が目的なんだよ」


韋刈は大きな欠伸をしながら、 それでも日暮に対して答えを返す


「俺達はブラック・スモーカー、 この街に揺蕩う黒い煙だ、 大きな目的は魔王の幼体を、 本当の魔王にして暴れされる事、 だからもう殆ど達成されてる」



魔王………………?


その言葉、 妙な位、 逆に過敏な程に脳がその言葉、 単語をインプットしない、 何かに阻止されているかのように


「あ~ 思い出せねぇのか、 めんどくせぇな、 だがそこは重要じゃねぇから良いか、 俺達は組織だけど、 それぞれの目的は違う、 ただの力に過ぎない」


似通った方向を向いて進む推進力、 正に流れて行く煙の様に、 しかし力強く、 柳木刄韋刈、 彼の目的は……


「俺の目的は、 ただこの世界で楽しく戦いたい、 戦って、 笑って、 殺し合って、 そんな事をずっと夢見てた、 このまま強い奴と戦い続け、 進み続ける」


何処に? そんな事聞くまでも無かった


亜炎天あえんてん、 戦士が最後にたどり着く楽園、 全ての強者、 最強達が集まり、 殺し合い、 真の、 たった一人の最強を決める場所」


韋刈が上を指さす、 とてもそんな狂った世界が天界にあるとは思えない、 人によっては地獄を連想するだろう情景


でも……


ゾクッ…………


背中に鳥肌が立つ程に焦がれる、 その景色を望む、 あぁ、 そうか……


柳木刄韋刈、 こいつは……


「明山日暮、 お前は、 俺と同じだろ?」


うっ……


思わず心からか、 魂からか嗚咽に近い感情が溢れ出す、 求めて求めて、 必死に手を伸ばす様な……


「お前も、 ずっと求めてたんだろ? 平和ボケして、 脅威の存在しないこの世界で、 それでも望んで来たんだろ? 本能的に、 感情的に、 ただその牙を振るえる場所を、 戦いを」


焦がれた、 ゲームや、 創作で、 戦いへの憧れは日暮の中で大きく育っていく、 暴力性も、 闘争心も大きく


それでもこの世界に戦いは無い、 心から望むような、 戦いを当然とする日常は存在しない……


「あの時戦って分かった、 それだけは認めてやるつもりだった、 お前の闘争心、 お前が求め進む道の先、 俺達が最強へと辿り着くその道程を」


だが……


「どうやら萎えちまった様だな? 人の身の丈に収まった、 俺達の生きていた世界は下らない、 そしてそんな下らねぇことばかり考える奴が一番下らない」


日暮も、 既にその牙は折れ、 爪は丸く、 いや、 初めから勘違いしてただけなのかもしれない、 自身が弱い生き物だと知る機会が今まで無かっただけなのかも……


日暮は、 何とか立ち上がった体制から一歩も前へ踏み出す事が出来ずに居た、 完全に止まってしまった


「…………はぁ…… もう良いよ、 楽しい戦いを、 胸躍る様な殺し合いを期待した俺が馬鹿だった」


今度こそ本当に呆れた様だ、 韋刈は日暮に向けてその歩みを向ける、 一歩一歩向かってくる、 日暮は思わず一歩引いた……


ダッ!


韋刈の体がぶれる、 日暮の目がそれを追う事が出来ない………


ドジャッ!!


っ!?


ドザァアアアッ……………


また転がっていた、 気がつけばまた冷えた地面の上を這いずる、 腹が熱い、 鮮血が溢れ出す


「三度目、 お前を腹パンで腹に穴開けてやったのは、 さっきは出会い頭に不意打ちでお前は防いで見せた、 でも……」


韋刈が日暮を見下ろす、 心底つまらないと言った目だ


「もう何も言う気にならねぇよ、 諦めてるだろ? だったら無駄に傷何か回復させるんじゃねぇ、 時間が無駄にかかるだけだろうがっ!」


ドガッ!


「ぅげぇっ!? ゲホッ、 ぁ……」


踏まれた、 体重を乗せた強い踏みつけだ、 横たわる体にそのまま、 ポンプの様に押された分、 馬鹿みたいに血が溢れ出した


喉が痛い程咳き込む、 苦しい、 苦しいけど、 何か、 諦めがあるからか……


(……眠い、 寒い、 眠い……………)


咳き込む体とは裏腹に、 日暮の意思はそことは別の所に居た、 まるで浮き上がる様な感覚、 あぁ、 これは……


「もう死ね、 天国でも、 地獄でも、 好きなクソ溜めを選ぶんだなっ!」


(……死……………… やだっ)


「……ブレッ、 ブースト………」


ボンッ!


日暮の体が下から飛び跳ねる、 韋刈の攻撃を躱し、 ボロボロの体は受け身も取ることは無く、 転がる


「うぜぇな、 本能的に生を望みやがって、 でもよ? ナタ、 落としたぜ?」



強く握っていると思ってたのに、 日暮のナタは韋刈の足元に、 日暮の拳ごと落ちていた


日暮の右手がちぎれ落ちていた、 躱し切れなかったのか、 咄嗟に手を狙ったのか、 とにかくナタを手放してしまった


あぁ……


「お前の回復はナタ由来、 ナタを手放せば回復出来ない、 そしてクールタイムが有るからなっ!」


バッ!


一瞬、 八秒のクールタイム、 韋刈にとってそんな物鈍い亀の歩の様に、 これにて……


「死ねっ!」


本当の本当に、 明山日暮、 一貫の終わりである、 即ち死である、 いや……


ドシャッ!


決着はもう、 着いた様だ、 腹の穴は塞がって居なかった、 ナタによる回復が途切れた時点で、 もう日暮の目に色は無かった


まるで義務的に刺されたトドメ、 地面に転がるそれに、 韋刈は早速背を向ける


「は~ぁ、 さて次はシェルターか、 冥邏めいらの奴が先に入ってるんだったよな、 それにしても……」


韋刈は既に日暮の事を考えて居なかった


「モンスター共殆ど死んでるじゃねぇか、 これなら冥邏の能力でモンスター共シェルターに引き付けた必要あったのか?」


冥邏がどうなったかも知らない、 仲間を心配する程情に溢れた性格でも無いが、 一応作戦の体を取っていた以上全く形になって居ない事に流石に疑問が溢れる


「初めから全員で、 いや、 俺一人でもこのシェルターの人間全員殺す何て余裕だった筈だ、 一番の鬼門だと思ってた奴がこの体たらくだったんだからな」


彼らのリーダー、 ナハトが立てたこの計画、 そもそも龍をこの世界に呼び、 幼体は魔王へと成った、 ならばその後は、 今この作戦は意味が有るのか?


「まだこの組織を維持させとく意味って何かあんのか? まあ良いや、 戦えれば……」


戦い…… シェルターの中の一般人、 弱者、 ただの一方的な虐殺……


「つまらなそ」


モチベーションの低下、 真夜中の作戦で眠く、 鈍くなる頭、 内心楽しみにしていた戦いの呆気なく、 心底つまらない幕引き……


「もう帰って寝てぇな……」


この状況、 これから始まる虐殺も、 韋刈の望む状況では無い、 やる気は再燃しない、 ただ引きずる様な気持ち


そう言った時、 そんな時と言うのは何か大きな事を見逃しがちだ、 そして、 このモチベーションの低さは……


奇妙にも、 さっきまでの明山日暮と似ている…………


………


スッ………



何かが動いた気がした、 小さな動きだ、 韋刈は反射的に明山日暮の死体に振り向く


……いや違う、 変わりは無い、 そこに横たわる物体、 明山日暮だ、 日暮の着る服が夜風にパタパタとたはためく


しかし、 妙な気がした、 死体にでは無い、 なんてことの無い事に


いつの間にか月は薄い雲の中に、 闇は更に深く、 夜風は夏を前にしたこの時期の、 しかし不思議と冷たく強くなって居る


そんな、 当然の様に気にもしなかった事が、 胸騒ぎの様に、 キリキリと何かの前触れかの様に、 何か……


やがて雲間から月光が漏れ、 地を照らす、 呆れて物も言えない程の男の死体は変わらず打ち捨てられて居た、 それをしっかり確認した


安心感………


(………何だ? 何なんだ、 この気味の悪い感覚は、 確実に殺した、 奴の回復はナタ由来、 ナタは)


ナタは首を捻った先で視界の端に落ちていた、 鈍く光を反射してみせる、 それがそこに落ちている以上、 明山日暮は……


あ?


違和感を感じた、 小さな環境の変化に気が付かなかった様に、 小さな変化を見落として居たのかもしれない


…………………


グッ


足の辺りに、 引っ張られる様な感覚を不意に感じた、 大きな感覚では無い、 そう、 正に風に衣服がはためいた様な軽さ


だから、 対して気にもしなかった、 ナタを見た時に感じた違和感、 その違和感の正体の解明を優先した


その時点で、 韋刈は……………


グワッ!


!?


急激に引かれた、 それはズボンの裾、 硬めの素材で伸縮性はほとんど無い、 ブランド物のジーンズだった


それが掴まれた、 そう思った時にはそのまま上方に引かれ、 足が持ち上がる、 重力に引かれ、 呆気なく宙に浮く体


驚きのまま……


ドザンッ!


「うあっ!? ウッ!? ………」


背中から地面に落ちて、 雲間から覗く月を見上げていた、 初めてだった、 瞬時に理解した、 今自分は投げられた


荒っぽい、 相手のズボンの裾を掴んで持ち上げ、 倒す、 まるでストリートファイトの様な無法


間の抜けた様な感覚の中、月明かりを遮る、 執拗な追随、 誰がなんて疑問は瞬時に消えた


「ブレイング・ブースト!」


っ!?


ドガァアアンッ!


超加速した、 踏みつけ、 地面に転がる韋刈は咄嗟に回避行動を取るが、 判断遅く……


「うっ、 ああっ………」


左腕が捻れ吹き飛んだ、 ほんの少しかすっただけだったが、 なんにせよ失敗した、 勿論、 韋刈の怪我は回復したりしない、 折れた骨が繋がる事はあっても、 吹き飛んだ腕は回復しない


痛み堪え、 睨む、 目の前、 月下にて照らされた


「明山日暮ぇっ!!」


そう叫ぶ他無かった、 このダメージは自身の怠慢が招いた物だと既に理解出来ていたからだ


感じた違和感、 それはナタを見た時、 ナタは確かに明山日暮から離れていた


だが、 それはただのナタだった、 日暮のナタの回復は、 ナタに巻きついた骨なのだ、 地面に転がるナタに骨は巻きついて居なかったのだ


それを完全に見落としていた、 完全にやられた、 理解出来る


「一杯食わされたって訳かよ、 てめぇの無いやる気から、 諦め、 仲間の助けを得られなかった虚無感、 足を止め、 俺の攻撃を防ぐ事の出来ない無力感」


明らかに敗北の上を歩いていた、 勿論それは演技では無かった、 しかし、 事実だからこそ、 韋刈は自然とそう受け取った


「能力を使い、 ナタを失い、 もう戦えない状況にてトドメを刺させる、 俺の感情を読み、 狙って俺にもモチベーションの低さを植え付けたっ……」


だから見落とした


「ナタに巻き付いた骨、 その骨だけを外して、 てめぇが持っていればっ、 ナタ無くても回復出来るっ、 その地面に転がるナタに目を引かせた所まで、 そうなのかよ……」


それが……


「てめぇの勝ち筋って事かよっ!!」


ははっ


日暮は笑う、 少し歩いて地面に落ちるナタの柄を踏み蹴り、 ナタが宙を舞う、 それを手に掴む、 勿論既に回復した右手で


日暮の腕を這って現れた骨が、 在るべき場所に戻る様に、 もう一度ナタに巻き付いた


そうだ、 日暮は戦いを諦め、 負けを、 死を受け入れていた、 それに偽りは無かったが、 無意識的に、 韋刈の心境を操作した


そうして作った影、 見落とした大きな穴にはめた、 足元に、 暗闇の地面に紛れる様に這いずって、 低い体制から投げた


「ピンチはチャンス、 そんな百万回は聴いた言葉を思い出しただけ、 お前の攻撃に明らかに心が混じった時、 この作戦は上手くいくと確信したよ」


日暮はナタを構え立つ


「お前と俺は同じ、 なら同じ事してやるよ、 早くもっかい立て、 そうして向かって来いっ、 その不格好な体でなっ!!」


ギリッ


「あぁ? 舐めんなよ、 クソムカつくぜ、 お前にでかい攻撃貰うのはよ、 あからさまに仕掛けてある罠にハマった様な気分になる」


韋刈は立ち上がる


「左腕一本無くなった位で調子に乗るのは速ぇんだよ、 この位のハンデあって丁度良いくらいだろうが、 てめぇはよォッ!!」


スタンッ!


弾けるような踏み込み、 腕は体の重心を取る、 バランス感覚に非常に重要である、 体感は体を支える上で資本


韋刈の踏み込み、 からの右腕による、 パンチ、 その一連の流れ……


ふっ


ガギィンッ!


「ははっ、 見えてるぜ、 てめぇの攻撃っ!」


韋刈の拳をナタで弾く、 続く二撃目、 しかし、 韋刈は一瞬明らかに、 存在しない左腕を意識した……


その一瞬のスキは大きく、 しかし体の連携を無駄にしないよう、 できた流れを利用した体制から、 左足を上げ蹴りへと繋ぐ


一瞬のミスを、 一拍の間にカバーした連携、 土壇場にしては上手く、 日暮もその一拍の間に攻撃を叩き込める程では無かった


だが、 だからこそ、 日暮はその流れをある程度読む事が出来た、 出来上がっている流れの方向を見る事が出来た……


ブワッ!


風きり音が頭上を過ぎる、 胴を狙った韋刈の蹴り足を、 思い切りしゃがむ事で低い体制で回避


そこから……


ザッ!


しゃがんだ体制から前のめりに倒れる様に、 前方、 韋刈の、 左で放った蹴り脚と逆、 地面に着く右足に向けて


ブンッ!


ナタを振るう


「ちっ!」


タッ!


素早い、 そして器用、 韋刈は未だ地面に着かない左足を、 咄嗟に引き、 後ろへの力を生みつつ、 右足だけでバックステップ


「っ、 見えてるのはてめぇの遅い攻撃の方だぜっ、 明山日暮っ!!」


紙一重、 ナタの軌道上からほんの少しずらしただけの無駄のない回避、 その間に左足は地面に、 次に、 未だ前かがみにしゃがみ、 立ち上がれない日暮に、 右の蹴り


ドスッ!


確かに威力の乗った蹴り、 日暮の顔面側頭部を綺麗に捉える、 これは確実にダメージとなり得る……


ジリジリ……


左手が痛む、 確実にダメージになり得たが、 それも、 日暮がガードしていなければの話


「この蹴りも、 左腕無くて、 バランス取れないからこの程度の威力なんだろ?」


雷槌の言葉を思い出す、 韋刈の強さはミスの少なさ、 そして、 それは技術の結晶だと


だが、 どれだけ高性能なコンピュータも、 部品が欠損して居れば計算能力を落とし、 答えを誤る様に


韋刈が修行の日々で得た、 自身の肉体の研究、 研鑽による、 肉体操作の技術力の高さも、 大きく欠損し、 失われた左腕の分、 計算が大きく狂う


結果、 崩れた体幹、 バランスの変壊により、 体全体の力み、 力の適切な分散が乱れ、 無意識的に、 全ての動きに対してミスが誘発する


また、 韋刈の攻撃力の高さは、 体全体の力みを無駄にせず伝える事で、 溜め、 生まれる、 出力百二十パーセントの威力、 それも同時に消えていた


本来なら、 韋刈の蹴りを左手でガードすれば、 骨は粉々、 腕まで折れ、 衝撃は貫通する様に顔面まで届いていたろう、 つまりガードは殆ど意味を成さない


(……こいつだからこそだ、 こいつは大雑把に見えて、 知略型、 器用で、 頭が良く、 良く考え最適解を導き出す)


韋刈は戦い方が決まっているタイプの人間だ、 そして決まってからは負けを殆ど経験して居ない、 だからこそ、 その戦い方が崩れた時、 頭を悩ます


動きが鈍くなる、 ダメになったならば次の最適解を探す、 だが、 それは戦いの最中に行なう事では無い


そして、 日暮は、 勿論感覚派である、 変幻自在という強みはあるが、 失敗しやすく、間違え安い


しかしこの状況において、 有利は日暮にあった、 状況に応じて、 何となくで動ける日暮は初動が速い


しゃがんだ体制から立ち上がる動作をしつつ、 日暮が、 痺れた手で、 韋刈の蹴り脚、 右足を掴む様に手を伸ばす


「だからっ、 読めてるって………」


そうだろう、 近ずいたから手を伸ばす、 それが受けに徹していた日暮の戦術だった、 蹴り足が近いから掴む様に手を伸ばす


韋刈は予想していた、 それは今、 このバランスの取れない体で、 固定される事を極度に嫌ったからだ


だが、 あぁ、 そういう事なのか……


(……それを警戒し、 そして俺が足を掴みに来ると予想している事を、 俺も予想出来ていた……)


だからこの掴みは囮、 本当の狙いは……


バシュンッ!!


骨の射出!


ナタから鋭い骨が伸び、 韋刈へと向かう、 この狙いは……


「単純なんだよっ!!」


ガンッ!!


っ!?


早い、 掴みが囮で有ると瞬時に理解、 そこから導き出される日暮の二の手を予想し、 速い右のストレートで、 日暮のナタを握る拳を叩いた


勢いのまま仰け反る日暮、 衝撃に耐えきれず、 踏ん張った右足とは反対に、 左足が浮く


それでもこの威力、 そして腕一本でも、 近接ならば………


「オラァッ!! ラァアアアッ!!」


ドスッ! ドッ!


ドスンッ!!


っ!?


体を捻らず、 極限までテンション抜いた、 速さに特化したパンチ、 右手のみで瞬きの内に三発


「っ…… ちっ!」


日暮からは舌打ちと共に声にならない短い悲鳴が漏れる、 力が弱くとも弱点攻撃ならば充分通る


耳の下にかすらせ三半規管、 少し引いて間髪居れず脆い鼻の骨、 狙いを下げ喉仏、 三半規管は無事だが、 鼻は折れたし、 喉は詰まった様になる


だが、 意思が伝わる、 それに思わず笑う、 一歩引かず前身で攻める、 腕を失った事を大きく捉える事で、 後が無いと思っている


性格的に逃げはしない、 ならば短期決戦、 体力を使わない上の動きで止め、 最後に蹴りでトドメを指す、 そう考えている


だが、 向かって来るならっ!


グッ!


「ブレイング・ブーストッ!!」


ナタを大きく振るう、 更に深く踏み込んだ韋刈に対して、 カウンター……


「馬鹿がっ! そのカウンターが命取り何だよお前はッ!!」


フッ!


力み、 まるで接近するナタを気にもしない素振り、 まさか……


「やっぱりっ! ただ技名叫んだだけで加速してねぇっ! 前にそれで食らったからなぁっ!」


ちっ


舌打ちが漏れる、 バレてるか……… いや…………


「ははっ、 死ねっ!!」


韋刈の握られた右拳、 今更、 どれだけ力んでも腹を貫く様なパンチが再び繰り出せない事は分かっている


この宣告は真実にならない、 日暮は回復が有る、 今の韋刈に、 拳一つで日暮に致命傷与える術は無い……


キラッ



韋刈の拳で、 一瞬、 月明かりを反射して、 何やら光る、 それは小さな物だったが……


日暮は完全に油断していた、 その身一つで凶器となり得る韋刈、 彼は持ち得ないと思っていた……


グリッ!


食い込む、 速い、 正確に、 柔い鳩尾に突き刺さる、 冷たい感覚、 これは……


「っ、 ぐばっ…… す、 寸鉄っ………」



「ははっ、 モンスター共殺るんだ、 これくらいは持ってる」


仕込まれた暗器、 ネジを回し入れる感覚で、 更に押し込まれる


グジャアッ!!


うえっ!?


ドザッ!


っ…… っ……………


(……これっ、 完全に息が…………)


元々悪かった体制、 後ろ向きに倒れ背中を打ち付ける、 韋刈は寸鉄から手を離している、 鳩尾に冷たい感覚が残されたまま……


「どうだ? 見下ろされる、 これが俺のさっきの気持ちだ、 めちゃくちゃ最低だろっ!」


ドジャアンッ!


うげっ!?


突き刺さった寸鉄を踏み付ける韋刈、 恐ろしい事に十数センチのそれは完全に日暮の肉の中に消え貫通、 背中から出た寸鉄は地面に突き刺さって居る様だった


ぐっ!


体に力を入れた、 起き上がろうと、 それでも起き上がれない、 まるで引かれた様な……


「珍しいだろ? 逆側に返しの着いた使用でね、 お前は地面に縫い付けられたって訳だ、 あははっ」


本当に起き上がらねぇ……


「また…… 無駄なお喋りか? さっきはそれで腕無くしたのをっ、 ははっ、 忘れたのかよ?」


息も絶え絶え、 それでも日暮は精一杯挑発してみせる


「あぁ、 そうだな、 もう話す事は無ぇ、 あってもしねぇ、 決着だっ」


あぁ、 そうかよ……


韋刈が足を上げる、 足、 足狙いっ!


「ブレイング・ブーストっ!」


さっきのはただ叫んだだけ、 狙うはここ、今度こそ加速したナタを、 踏みつけの為に上げた韋刈の足へと……


「おっと!」


ベギィッ!!


うああっ!?


振り上げ、 加速仕切る前の腕、 その始点、 脇下から肩を分かっていた様に蹴り下ろされる


外れた肩、 そこでようやく空気圧が押し出す様な感覚を感じる、 あぁ……


基本的に、 能力は、 使用者本人を傷付けない、 だが、 そこに外部的要因が間に挟まると話は変わる


日暮の肩関節は頑強な訳では無い、 だが加速した勢いに関節がダメージを受ける事は無い、 これは能力発動の前提的な法則が体に刻まれる為であり、 日暮の体をは空気抵抗によるダメージを受けないのだ


しかし、 日暮が手に持ったナタを加速し投擲出来る様に、 その勢いのままに放つ事は可能となっている


蹴りにより外れた関節と、 引きちぎれそうな皮膚、 そのまま腕が加速した時、 ナタの投擲の勢いのまま、 日暮の腕は肩から外れ共に飛んで行く


ナタを失うのは不味いのだ、 骨を、 せめて骨を回収しなくては……


だが遅い、 それが韋刈には分かっている様だった、 間に合わない、 ナタを、 日暮を回復する骨を失えば、 その時本当に……


死ぬ


(……あぁ、 やり来るめられたよ、 色々考えて倒し方を、 それでも結局届かないのかよ……)


日暮は目を瞑る、 あぁ………


………………………



……


ピッ ピッ ピッ……… ピリリィ~♪


『あっ……』



日暮の声だ、 過去の記憶、 これは走馬灯か? 目の前にはメロディーを奏でる洗濯機がある


春先、 そろそろ毛布が要らない季節担ってきた、 最近は晴れ続きだ、 毛布を折り畳み洗濯機にぶち込んだ


が……


『やっべ、 ミスった、 《毛布》って選択有るじゃん、 《標準》じゃダメだよね? えー』


グワングワン…… グワングワン……


回り始めちゃった……


そこに妹のあかねが通りかかった、 日暮のでかい独り言が聞こえて居たらしい


『なら中止すれば良いじゃん、 キャンセルボタン有るでしょ?』


キャンセルボタン…………


……………………



………


発動中の能力の中止、 能力によっては存在する物だ、 例えば領域を作り出すタイプや、 継続的に効果を発動する能力なら、 能力解除による中止は有り得る


だが、 日暮の能力にそれは有るのか? 一瞬にぶつける力、 そこにキャンセル何て有るのか?


…………………能力の解除、 それは、 何となく、 出来る


と思う………………


…………………



………


はっ!


まだ、 能力は発動しきってきて居ない、 加速は始まりきって居ない、 ならば……


「っ! ブーストキャンセルっ!」


心で強く念じた、 記憶の中の過去で見た、 洗濯機の、 赤く光を放つ中止のボタン、 日暮は確かに能力のキャンセルボタンを押した


ぶわっ………


固まりつつある空気が四散する様な感覚、 キャンセル後、 打ち出して居ないからクールタイムは存在しないっ!


ならば再び集めるっ!


確実に当たる至近距離っ!


「ブレイング・バーストっ!!」


グワッ! ボガァアアアアンッ!!


空気圧が弾ける


「ぐわっ!? んでいきなりっ!?」


ベチャバチャ


水風船でも弾けた様に上から降り注ぐ、 鮮血だ、 気にもせず日暮は自分の胸目掛けてナタを振るう


バシャッ!!


肉が抉れ飛んで、 体を打ち付ける寸鉄が抜ける、 大丈夫、 傷は治るから


よっこら


日暮は立ち上がる、 温い鮮血が理解させた、 数メートル先、 転がる肉体


韋刈の足、 見る限り両足が吹き飛んでいた、 股下まで抉れている


「えははははっ!! もう殆ど死んでるみたいなもんだなぁっ!!」


日暮は叫ぶ、 本当に動けやしないだろう、 両足、 下半身、 左腕、 失った物が大きすぎる


日暮の胸にじんわり広がる物がある、 どんな方法でも、 以前は手も足も出なかった敵を見下す


勝利の実感が、 広がる………


「あぁ、 これは、 俺の勝ちだっ!!」


ナタを向け高らかに叫んだ、 勝利を宣言した、 そして………


グシャアッ!


次の瞬間には言葉を失った、 直ぐに日暮の頭は《?》で埋め尽くされる


なんの音だ? 韋刈の肉体からだ、 この音は、 まるで肉が疼く様な………


……………?


腕? あれ?


「無くなった筈の、 左腕が、 生えて見えるんだけど…………」


太くゴツゴツとした腕だ、 不格好に見える、 その腕が伸び、 ブラブラとした足に触れる


グシャッ! グシャッ!!


足を引っこ抜く、 絶叫が漏れたりもしない、 そしてそこから腕同様、 両足共に太くゴツゴツとした足が生えた


なっ……


「何なんだよ、 何が起こって……」


再生の能力? 自身は能力者ノウムテラスでは無いと以前語っていたが、 ここに来て目覚めた?


ブチブチブチッ


今度は右腕を掴むと、 それも同様に……


グシャアンッ!!


引っこ抜いた、 まるでカニの足でも食う見たいに、 脱皮する蛇の様に、 腕を引くとついでに胴体もボロボロと取れた、 血と骨だけが見える


ベチャベチャッ


そこに肉が疼く、 正に肉付け、 ゴツゴツとした胴体が出来上がる、 素質は起き上がる


韋刈の顔、 目はつぶられて居る、 まるで死んでいる様に、 だが、 その生命力はまるでそれでは無い


グッ


最後にそんな顔の張り付いた頭を掴む


グシャッ……


ボトッ……


っ…………………


日暮は絶句せざるを得なかった、 頭を躊躇無く引き抜いて捨てた、 最早次は理解出来た


グチャチャチャッ、 グシャァンッ

!!!


勢いよく新たな頭が生える、 黒光りする様な皮膚、 そこに生えた剛毛が体を覆う、 強靭な肉体、 丸太の様な足、 爪の生えた太い腕


大きい、 体長二メートルはある巨漢、 頭からは牛魔王を彷彿とさせる様な太い角が生え、 顔を覆うほどのボサボサの髪、 その間からギラギラと殺意を含んだ視線が注がれる


ははっ………


「おいおい、 んだよこの化け物…… これは、 まさか……」


以前の韋刈との戦い、 その時彼が語っていた、 内側の獣の存在、 内側から常に外を睨み見る、 闘争の意思、 その正体を……


あの時、 日暮には、 まるでうっすらと、 幻覚の様に、 韋刈の体に被って被ってぼんやりと巨漢の姿が見えた


そして、 目の前の獣は正にそれ、 まじかよ、 内側の獣、 殻を破って、 外に出て来た……


段順な技術的な話じゃない、 そう、 柳木刄韋刈の強さは、 そんな事で説明出来ない程の現象だった


何で忘れてた? 寧ろ、 この獣、 この姿こそ……


人の身の丈を完全に捨て、 湧き上がる闘争心を完全に受け入れた……


紛うことなき


「本当の、 柳木刄韋刈ご本人って訳かよ……」


はぁ……


日暮は、 それでも、 今にも突き刺さる様な凄みを含んだ殺意に対抗するよう、 獣を睨み、 ナタを構えた


「あははっ、 化け物殺す方が得意だぜ、 俺はっ!!」


日暮が獣に向けて、 地面を蹴った

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