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第百五話…… 『最終章、 上編・5』

ギィギャアアアアアアッ!!



ジャシャアアアアッ!!


……………


モンスター、 異世界からの来訪者、 強者犇めく地で、 命を奪い、 喰らい、 生存する者達


生存の為に進化し、 強化された肉体、 それぞれが持つ特化した能力、 それらが、 この世界にて解き放たれた


彼等にとって、 突如現れた新境地、 そこに住まう者達は弱種、 どれだけ頭数揃えようと変わらない、 彼等からして弱者は弱者


弱者はただ奪われるのみ……


………


タンッ タンッ……


足音が響く、 弱種を喰らう、 強者跋扈するこの地に、 彼らの物で無い足音が確かに世界に響く


その足音は………


「それで? 俺は何処で何をすれば良いって?」


夜風がぶつかる、 少し冷たい、 久しぶりにシェルターの外に出た、 光が消えた街の空は怖いくらいの満点の空だった


明山日暮は隣を歩く男、 土飼笹尾つちかいささおと共にシェルターの外に出る、 シェルターの外はぐるっと壁で覆われ要塞と化して居る


シェルターの出口から、 要塞の壁までは二十メートル、 その間の間に手短に聴いておきたい


「あぁ、 奴らの声を聞いてわかると思うが、 多くのモンスターがこの壁の外側まで来ている事が分かるな?」



「あぁ、 数も、 種類も、 しかも大分興奮してるみたいだ、 こんな事って今まで無かったよね?」


土飼は大きく頷く


「あってたまるか、 シェルターの中まで鳴き声が響いているんだぞ、 突然こうなったと言うのは大きな疑問だが……」


そう……


「それで? どんな作戦だって?」



「突然の自体だ、 悪いが作戦は無い、 これから考えると言っても良い、 だからこその、 日暮、 お前だ、 藍木の特別危険調査隊の大きな出番だ」


成程ね、 それは珍しく大きく踏み切った物だ……


「とにかく時間が欲しい、 だから外の敵を倒して倒して倒しまくれ、 シェルターへの侵入を防げれば何でも良い……」


………


ビギャアアアアッ!!!


……


空を割き、 耳をつんざく様な声、 羽ばたき音と、 急襲


おっ………


「来たっ!? 来た来た来たっ!! 日暮っ! 来たぞ大きな鳥だっ!!」


鳥型のモンスター、 大型だ、 悠々と砦の壁を越え、 侵入を果たす


(……デケェ的)


ははっ……


ガラッ


足元から拳大の石を拾う、 それを何度か手のひらの上で転がす……


「タイミングは………」


日暮の中、 彼の中に、 ずっと昔から居る、 彼女の正体、 日暮は結局それを知らないまま、 それでも……


………


………5、 4………


3、 ………2、 ……………………


……1


………今っ!


……


和藏わくらと名乗る彼女の声はタイミングを教えてくれる、 始まりのココメリコの戦いや、 その後も何度も助けられた


「っ、 ブレイング・ブーストッ!!」


ギリッ!


ッ、 バゴォオオオオオオオンッ!!!


………


キラッ


グジャアアアアンッ!!


ギャァアアアアッ!?


…………


石が飛ぶ、 空気を切り裂く音と、 鳥モンスターが臓物をぶち撒ける際に放った断末魔が夜空を震わせる


ガッシャアアアンッ!!


「っんなに大げさに騒ぐ程じゃ無かったな、 雑魚鳥程度によ、 さてさて、 次は……」


ビギャアアアッ!! ギギャアアアッ!! ピギギャアアアッ!!


バサンッ バサンッ!! バサッ、 バサンッ!!


え?


同じ様な大きな翼を持つ鳥たちが月光に反射する、 あぁ、 群れだ……


「っ! 日暮っ! 次が来たぞっ!! 次だ早くしろっ!!」



「いやっ、 無理無理っ! 俺の能力はクールタイムが必要なんだよっ! 知ってるでしょッ!」


まずいまずい、 あの数は予想外……


……


ビジジィッ!!


ッ、 バジジィイイイイインッ!!!


夜空を照らす、 雷鳴、 これは……


ビガガッ


『……日暮くん? 見えたわよ、 やっぱり強力ね、 日暮くんの力は、 でも空は私に任せてくれる?』


菜代望野なしろののさんだ、 彼女の放つ光の矢は、 普段彼女が居る、 甘樹駅前に聳える、 甘樹ビル屋上から放たれた


「菜代さん、 助かりましたっ! 快活バードも何時も以上に張り切ってますねっ!」


バジィイインッ!! ビジャアアアンッ!!


空で雷撃が弾ける度に田舎のコンビニの青い光にぶつかった羽虫の様に、 空を飛ぶ鳥型モンスターを尽く落として行く


『……サンちゃん、 この世界に来た時他の鳥型モンスターにいじめられたから、 絶対に許さないって、 空で私とサンちゃんに叶う敵なんて居ないわ』


サンちゃんこと、 菜代さんと行動を共にする雷鳥、 異世界のモンスターで、 鳥帝士族・金轟全王落弩こんごうぜんのうらくど


その雷撃は、 ココメリコ上空で、 暗底公狼狽あんていこうろうばいを落とした程……


「じゃあ、 空は、 空の狙撃手に任せて、 地上は、 地上の闘争者に任せて下さいよっ、 ははっ」



『ぶっ、 それっ、 その呼び方っ、 私たちが初めて会った時の茶番のっ、 あははっ、 ええ、 全部落として見せるわっ!』


覚えてくれてた、 良かった、 一人でスベる羽目にならなくて……


……


タッ タッ


「おーい、 日暮っ!」


日暮を呼ぶ声、 この声は………


「冬夜っ! それに威鳴いなりさんまで! 二人もここで戦うのかよっ!」


日暮の中学時代の親友、 村宿冬夜むらやどとうや、 そして調査隊の先輩、 威鳴千早季いなりちさきさんだ


二人を見て無意識的に胸が熱くなる、 藍木山攻略戦の時、 猿帝血族の能力者ノウムテラス相手に共闘した時の記憶が鮮明に蘇る


二人は強い、 この二人も居るなら、 このシェルターは大丈夫だ、 この三人なら、 藍木の、 特別危険調査隊のメンバー、 三人ならこのモンスターの軍勢も一掃出来るっ!


「よく来てくれた! 日暮、 冬夜、 威鳴、 お前達三人を、 俺は何よりも信頼……」



「あー、 はいはい、 おっさんそういう長々とした話は要らねぇよっ」


あははっ ははっ


「なんだとーっ!」



「いやいや、 日暮君の言う通りでしょ? ささ、 俺らがモンスターを全部倒しちゃう前に、 作戦会議しないと、 仕事無くなっちゃよ~」


威鳴さんが何時もの軽いおちょくりを入れる


「実際土飼さんはもう中に戻って下さい、 ここは俺達の様な力を持った人間の出番ですから」


冬夜の言葉、 その覚悟が伝わる


「あぁ、 それじゃ、 絶対に無理はするなよ、 やばいと思ったら引け、 それだけは最初に言う」


三人共に大きく頷く、 死ぬつもりは無い……


「お前達に、 健闘を祈るっ、 じゃあ、 行ってこいっ!」


ははっ


三人で息を合わせて拳を突き出す、 ぶつかる三つの拳、 まるで円陣の様な、 普段なら嫌いだけど、 一度背中合わせて戦った経験からか、 逆に震える


「それじゃあっ! 藍木特別危険調査隊っ! ぜってぇ勝つぞぉっ!!」


おぉ!!


はははっ………


自然と笑いがこぼれる


物見台からの報告、 最も敵が集中していると思われるエリアを中心に、 三分割、 そこを三人でひたすらに守り続ける、 空は今も電撃が走る


心強い……


指定エリアへと、 互いに背を向けて歩いていく二人の背中、 大きく強い、 それぞれの覚悟、 戦いの意思が伝わる


その背中から目を逸らして、 日暮は自分の向かうエリアへ、 その足を向け………


………………………


違和感



日暮はもう一度二人を振り返る、 光の乏しい夜闇の中、 二人の姿はもうぼんやりとしか見えない


強く、 大きく………………


「…………あれ?」


日暮は、 何か大きな違和感を感じ、 しかしモンスター達の放つ喧騒に急かされる様に、 自身の分担するエリアまで走った……………


…………………………………



………………



……


「ふふっ、 始まったみたい、 ほらほら、 あそこに居るのが日暮お兄さんだよ~」


へー


「あれが愛しの…… まあ興味無いけど、 それはそうと、 準備は済んでるのかい?」


魔王少女と、 黒い煙の勇者は、 シェルターを見下ろせる建物の屋上に立つ


「うんっ、 今この状況で、 一番厄介な力、 それは、 愛と友情でも、 団結力でも、 そして、 能力者ノウムテラスでも無いの」


それは……


「この星の神秘、 人に力を貸す、 神々の力、 これは本当に厄介なの、 向こうの世界の力とは在り方が違うから」


ふ~ん


「神秘ねぇ、 この世界にも居たんだ神って、 全然そんな気配を感じ無いけど」



「ひっそりと暮らして居たみたい、 特にこの国では全てに神が宿ってるし、 信仰の形で変わるんじゃ無いかな?」


魔王、 雪の言葉に、 勇者、 ナハトは曖昧に頷く


「神の気配を感じれなかったからかな、 向こうじゃそもそも降臨とか良くしてたし、 実際に神が居るってはっきりと目で見て理解出来た」


まあ、 そんな事より……


「星…… あっ、 そうだ、 星之助ほしのすけお兄さんは負けちゃったみたいだけど、 仕事はきっちりこなしてくれた、 あの女の子の心の闇の中に神秘が居たから、 それはもう逝ったみたい」


そして……


「日暮お兄さん以外の二人、 ほらあの二人、 あの二人がそれぞれ神秘に気に入られて居たの、 どっちも厄介だったな~」


魔王少女は、 今にも砦扉から、 外に群れるモンスターに、 何の疑いも抵抗も無く、 自信に溢れた様相で飛び出していく二人を指さす


「水の神・マリーちゃん、 慈愛の神・お姉ちゃん、 ふふっ、 二人はもうね、 私の力で封印したんだ」



「二人はその事に気が付いて居ないみたいだけど? もしかしてそんな事まで認識阻害する事出来るわけ?」


少女は頷く


「今、 皆私の事を思い出せずに忘れて居るでしょ? それと同じ、 誰も、 あの二人も、 自分の戦績は分かって自信は持てるけど、 勝利の要因が居なくなっている事に気が付けない、 それに疑問を抱けない……」



「恐ろしいねぇ~ なんの力も無しに挑んで行くなんて、 やだやだ、 だから与えられただけの力を振りかざすのは怖いんだよ、 俺の勇者も、 君の魔王もね」


はははっ


「確かにそうだね~ でも今は感謝してるよこの力に、 だって凄く楽しいもん、 だからね、 お兄さんにも楽しんで、 笑って欲しいの」


終始にこにこと笑う魔王少女を見て、 ナハトは首を横に振る


「君のやろうとしてる事全部、 彼を苦しめる事ばかりだと思うけど? まあ、 こっちはそれでも良いけどさ」


それを自覚しているのか、 純粋さなのか、 少女の笑みはただただにこにこと張り付いた仮面のように固定化された物だった


…………………………………



…………………



……


砦には壁沿いに階段があり、 中程で通路と、 外への扉が着いている、 これは簡単な突進でこじ開けられない様、 脆い扉部分を分からなくする為だ、 実際に本能的なモンスターには扉という物は認識しずらい


ガチャ……


扉を捻れば、 それはもう完全な外の世界、 外も同じ様な作りで、 四メートル程眼下には平気で唸るモンスターがのさばって居た


殺しあったのか、 濃密な死の臭いが立ち込めている、 日暮にとってはそこまで気にする臭いでは早速無かったが、 同時にその臭いをかいだ、 他二人は顔を顰めた


「酷い有様だな…… 敵は、 そもそもなんでこんな夜中に…… はぁ…… 陰陽術、 『夜鬼目よきめ』」


村宿冬夜は、 陰陽師の家系である、 親戚に現役の陰陽師がおり、 彼から多くの御業を学んでいる


夜鬼目は暗闇に適応する為の力である、 単純に夜目が効くだけでなく、 動体視力の向上や、 嘗て存在したと言う『鬼』がそうであった様に、 魂の形や色を見る事で、 敵の特性を知る事が出来る


「使い過ぎると目が疲れるから嫌だけどな、 明日は眠り通しになるなこれは……」


幸にも敵は固まって居る訳じゃない、 ここに居る敵は二メートル位の人型、 この街に多く居ると報告を受けている


自信がある、 この程度のモンスターなら倒せる……


油断はしない、 俺達ならっ!


……


グラガアアアッ!!


敵正面に立つ、 眼前の敵にナイフの切っ先を向ける、 さあっ!


「行こうっ! マっ……………… ?」


………………?


あれ?


マ…… マ………………?


冬夜は隣を見る、 不意に、 当たり前の様に隣を見る、 ただそこには虚空が有るのみ


何か…… 何か………………


「マっ………………」


あれ?


………………


ガギィギャアアアアッ!!


ドンッ!!


敵が地面を蹴る、 冬夜は動けなかった、 頭の中、 心の中、 荒れ狂うほどの違和感が頭を占める


あれ?


(……俺は、 こんなチンケなナイフ一本で、 どうして化け物共と戦えると思ったんだ………………)


あれ?


思い出せない、 あの透明な、 存在感…… その名前……………


……………


ドガンッ!!


強い衝撃が、 体を揺さぶり、 宙を舞う、 その頃には、 冬夜の意識はもう………


………………………



……


思い出せない………………


「………俺の、 隣に、 いつもしつこい位着いてきた…… 姉……… ?」


いや、 有り得ない、 威鳴は一人っ子だ、 両親と、 俺…………


昔の記憶は有る、 昔、 小さい頃、 軽登山で山道を家族で歩いたよな、 その時、 その時…… 俺は滑落して、 死んだ……


……


いやいやいや、 有り得ない、 有り得っ………


何だかっけ…………


………


ああああああっ!!!


叫んでるっ、 誰だ?


あぁ………


「ああああああっ!! ぁあああっ!!」


ドッ!!


「ッ、 ブゴギョッ!?」


霞む視界、 血が流れる寒さ、 吐き気、 本能的に体を動かし、 叩きつけた蹴り、 太った豚面の様なキモイ敵は怯む


が……


「ギャンガアァアアッ!!」


ドガンッ!


奴の突進が体を吹き飛ばす、 そろそろ、 意識が………


………


ビガァアアアンッ! バジィアアアンッ!!


時折空が光る、 雷の様な光の矢は、 確実に敵を屠っている


それに比べて……


(………あれ? 俺ってこんなに弱かったっけ? いつも、 いつも俺はどうやって戦って………)


グジャアッ!


「っ、 ああああっ!?」


敵に腹を踏まれた、 無意識的に悲鳴が漏れる、 重い、 敵の体重が刺さる……


(……これっ、 死ぬかな………)


違和感……


まるで、 何度も体験した事がある様に……


(……死ぬのって怖くねぇな…………)


威鳴は目を閉じる


………………………


村宿冬夜、 威鳴千早季、 違和感の中、 戦場にて目を閉じる、 もはや痛みも感じ無い………………………


……


ワォオオオオオンッ!!


何処か遠くで狼の遠吠えの様な物が聞こえた気がした……………


………………………



…………



……


ガキッ!


「グルガァアアアアンッ!!」



「あははっ、 うるせぇよカスっ、 ブレイング・バーストっ!!」


ボッ! ボガァアアアンッ!!


「グギャァ!?」


力を身に宿す者、 その者の叫びが敵をねじ伏せる、 眼前には人型が複数体、 街に来た時戦った奴だ


「弱くはねぇけど、 強くもねぇっ! そして俺は強いッ! あはははっ、 だからてめぇらは弱いんだよっ!!」


さぁっ


「来いっ!! ゴミ共がっ!!」


ドンッ!


敵の突進、 握られた拳が大きく引かれ、 グイッ! っと迫る、 迫る………


見えるっ



ガギッンッ!


ナタを側方からぶつけ、 力の方向を逸らす、 こいつらは単細胞、 いっつもこれだ、 最早作業的とも言える


体制を崩した敵、 急所めがけ………


「ははっ、 おらぁっ!! 喰らえ牙龍がりゅうっ!!」


グジャアアアアンッ!!


敵の肉体が抉れ飛び悶え死ぬ、 それを横目で確認………


ドンッ!!


後ろから一体………


「ブレイング・ブーストッ!!」


ボンッ!!


加速したナタ、 そのままの勢いで後ろを向き、 確実なタイミングで、 ナタの刃は敵を切りつけるっ


ビジャアアアアンッ!!


「ははっ、 二体殺したっ、 これで八体目だったかぁ? てめぇらやる気あんのかァ!」


日暮が笑う、 敵は怯む、 死んでいく仲間を見て、 その足は後ろに……


さぁっ


「次っ! 死にてぇ奴はっ!! ……」


ビガガッ


無線?


「あー、 はいはい、 何ですか?」



『日暮くん? ちょっと良い?』


菜代さん? 今このタイミングで?


「手短に」



『ええ、 あの二人、 村宿くんと、 威鳴くんって、 何か能力を持って居るのよのね?』


え?


能力………………………


「いや、 二人は能力者ノウムテラスじゃないですよ、 でも大丈夫、 二人には………… あれ? なんだっけな?」


菜代さんの焦りが伝わる、 何だ?


『じゃあ不味いわっ、 どうして、 二人ともやられちゃったわっ! 私も目を離していたし暗くて、 よく見えないけど、 姿が見えないのっ!』


は? あの二人が?


あれ? そもそも、 あの二人って、 能力者でも無いのに、 何がそんなに強かったんだっけ?


藍木山での共闘…… あの二人は………


記憶が霞む、 モヤが掛かった様に、 二人の姿が分からない、 あれぇ……


………


はっ


「助けに行かないとっ!」


日暮は取り敢えず二人の元へ向かおうと……


………


ワォオオオオオンッ!!


狼の遠吠え、 日暮には聞覚えがあった、 これは、 街に来た時や、 聖樹の苗木を倒した時にも……


暗闇の中から静かな足音と、 その姿がぬらりと現れる、 速い、 走るその速度のまま………


「ワァンッ!! ワッ!!」


跳ねる、 その向かう先、 二足歩行のモンスター、 狼が空中で体を捻り………


グジャアアッ!!


二足歩行のモンスターの体が真っ二つに切れる、 二足歩行のモンスターは狼を酷く警戒している様だ、 これは……


刃薙狼やなぎおおかみ、 確か特殊な油分の付いたしなやかな体毛が湾曲、 切断線を作り敵を切り刻む、 体を刃にする狼……」


刃薙狼は常に大きな群れで動く生体であり、 機動力の高さからかなり上位の捕食者である、 二足歩行のモンスターは刃薙狼に常に狩られる側であった


ガァアアッ!? ギャアアッ!?


悲鳴を上げ逃げ出す者も居たが、 尽く切り刻まれて死んでいく、 直ぐにそこは二足歩行のモンスターの死体まみれになった


ワォオオオオオンッ!!


戦闘を掛ける狼が遠吠えを上げると、 狼の群れはここで動きを止めた、 これって……


「あっ、 よぉ、 俺の事覚えてるか? 一緒に戦ったよな、 あの時さ、 聖樹との戦いの時は本当に助かったよ」


言葉は通じないだろう、 でも互いの利害の為に戦った過去が有る、 一瞬とはいえ心は通じあった筈だが……


クンクン


狼は鼻を動かす、 日暮の匂いにまるで気が付いた様に何処と無く警戒感が抜けた様に見える、 だが……


「なぁ? ここに何か有るのか? 皆してここを目指して来た理由は俺には分からない、 けどさ、 ちょっと悪いんだけど…… 諦めてくれない?」


先頭のボス狼と目が合う


「ここには…… そうだな、 俺の…… 仲間? そう、 仲間が居るんだ、 俺の仲間は弱くて、 本当ならさ情け無用何だけど、 そういう訳には行かない、 守らないと行けないんだ」


ボス狼はまるで理解する様に、 静かに言葉を待つ、 日暮も、 出来るだけ伝わる様に、 大事に言葉を放った


「それに、 それだけじゃない、 お前達とは一緒に戦った仲だろ? 甘えた子と言う様だけど、 俺はお前達と戦いたくない、 ここは退いてくれよ、 な?」


刃薙狼達は強い、 だが今まで彼等の種族が、 族帝の座に着いた事は一度も無い、 それは何故か……


「クルゥンッ」


ボス狼が背を向ける、 それは明らかな敵意の消滅だった、 彼等には、 モンスターとして珍しい、 種族の拡大よりも大切な事、 それは……


ボス狼が群れの中のまだ小さな個体を愛おしく思う様に触れる


彼等には、 愛が有る、 家族を、 子供を、 仲間を、 そして友人を、 尊重する心があった


「あっ、 あの子狼は、 ……そうか、 この間より少し大きくなったな……」


日暮は彼等を見て不意に笑いが零れる、 それは同時に日暮が、 彼等の心に触れたからだった


「ありがとな、 じゃあ、 俺はちょっと仲間の所に行ってくるから~」


狼達に背を向け、 冬夜や、 威鳴さんの元へ駆け出す日暮、 その背を押し出す様に彼等の暖かな視線がぶつかる


あぁ……


狼達の様に、 俺も、 仲間を……


……………


タッタッ!


ドスッ!!


!?


「うげっ!?」


ごろごろごろ……………



日暮は天を見上げていた、 転がって居た、 背中を強く押された、 いや、 物理的に押された、 何かがぶつかった……


ハッハッ……


ん?


「おいおい、 狼さんかよ、 突然どうした? じゃれるにしてはちょっと力が強すぎ……」



「ガャアアッ!!」


ガブリッ!!


っ!?


足、 足に牙が突き刺さる、 その痛みが一瞬で脳を突き刺す


「っ!? いたっ、 痛いっ!! おいおいっ、 甘噛みにしては力が強すぎっ……」


バギッ!


「っ、 ああああっ!?」


折れた、 へ? 嘘でしょ? 敵? 敵なの? 分かり合えたと勝手に思っただけ? さっきの暖かな目は………


ギラギラと、 血走った目、 荒い息、 これは…………


敵意、 狼達の目は豹変した様な殺意で真っ赤に染まって居た


そんな……………………


「なぁ! 俺はっ、 お前達を攻撃したくなっ……」


グシャッ!


いっ!?


濃厚な血と、 痛みと、 死の気配が、 揺蕩う、 風に乗って、 風に乗って揺られ………


キラキラキラ………


風に揺られ、 光の粒子の様な物が、 狼達に降り注ぐ


これで…………………………


………………………………



……………



……


「これで狼さん達も戦うよね」


魔王少女、 彼女から光の粒子は溢れて居た、 それを隣で見ていた勇者は少し笑う


「それが例の、 モンスターを強制服従させる力か、 魔王と言う存在が恐れられる所以だね」



「服従だなんて言い方は嫌いだよ、 私はただ、 皆の本性を表に出して上げるだけ、 凶暴な本性を表に出して、 お兄さんと遊んでって、 ふふふっ」


勇者は内心苦笑いを浮かべる


(……あの彼が、 魔王にとってどんな存在かは知らないけど、 徹底的に苦しめるつもりだな、 可哀想に)


それはそうと………


「モンスターと人間、 互いに心を通わせる素敵なシーンだったのに、 ちょっと台無しじゃない? まあ、 あのまま狼に去られても困ったけどさ」


初めて見た、 知能が高いモンスターとはいえ、 他種の言葉に、 心で答える姿は、 きっとあの男と狼の間にはそれを可能にするストーリーがあったに違い無いのに……


「えー? そうかな? だってさ、 こっちの方が面白くなーい? お兄さん、 どんな顔するのかな? ふふっ、 あ~ もっと近くで見た~い~っ」


はははっ……


(……予想外に、 この体の意思を強く残して居るんだな、 魔王としての意思に呑まれてしまうと思ったけど……)


まあいい……


「史上最低のクソガキだな、 流石魔王様って感じだよ」



「ん? 何か言った? あんまり頭に来るとそのまま殺しちゃうかもよ、 勇者様っ?」


はぁ……


本当に…………


「とんだ災難だよ、 彼は、 さぁ、 望み通り彼女を楽しませてあげなよ、 明山日暮君っ」


…………………………………



…………………



……


グシャッ!


っ……


「まじでっ! 殺すぞっ! 頼むからっ! やめろっ! そのまま居なくなれよっ!」


狼に体をかじられ、 痛みの中、 日暮は叫ぶ、 敵意に満ちたその目が鋭く日暮を刺す


グルルッ! ギャァアアンッ!!


グチャッ! ベキャッ!


更に二体、 執拗な位ノ攻撃、 腕に噛みつき、 その体重で踏み潰す、 あぁ……


(……分かり合えた気がしたのは、 俺だけだったのか…………)


凄く寂しくなる、 二度も共闘した仲だ、 でも、 そもそもこいつらはモンスター、 敵だ、 モンスターは殺す対象だ……


それでも、 この痛みと、 殺意を身に受けて尚………


(……俺はっ、 こいつらを殺したくな………………)


そこまで思って、 不意に日暮は見た、 今腕に噛み付く狼の、 その鋭い牙に、 何かが絡まって居た


何か、 布の様な繊維に見える、 見た事が有る、 これは、 これは………


冬夜が着てた上着の…………………


…………………


うっ


「あああああああっ!!! ブレイング・バーストッ!!」


ッ、 ボッ!


ガァアアアアアアンッ!!!


押し倒され、 上を向く日暮のすぐ上、 狼達のすぐ側で空気が圧縮、 暴力的な威力の力が弾ける


「ギャインッ!?」


ベシャッ! バチャッ!


体が熱い、 傷が治って行く、 直ぐに立ち上がる、 死に絶えた狼の骸を見下ろす


さっき、 菜代さんは言っていた……


冬夜と、 威鳴さんがモンスターにやられた後、 姿が見えなくなったって……


つまりっ


「テメェらァ!!! 冬夜をッ! 威鳴さんをッ! 食いやがったなぁっ!! くそ狼共がっ!!」


ガルルッ!


「ギャァンッ!! ギャンギャンッ!!」


ちっ


「ぶっ殺すっ!! テメェらぶっ殺してやるっ!! さぁ、 来いっ!!」


バンッ!! ドンッ!!


日暮が吠える、 それに呼応する様に、 狼達が駆ける、 その速度、 四足歩行の加速力っ!


一瞬で接近……


刃とかした体毛が、 日暮に迫って……


バギンッ!!


ナタで受ける、 純粋な殺意の起動を読む、 体が反射的に動き対応する


ドンッ!


迫る二体目


「単純なんだよっ!」


グシャッ!


飛んだ敵、 読んでいた起動に合わせる様に、 下から振り上げ


「喰らえっ!」


バグシャアアンッ!!


ナタが敵を喰らう、 大きく抉れ飛んで死に絶える敵を雑に振り払う、 更に背後に迫る敵……


ガシュッ!


肩に牙が深く突き刺さる、 そのまま体重のままに仰け反り倒されそうになるのを堪える……


「っ! どけぇ!!」


ブンッ!


腕を振るっても食い付いたまの狼、 日暮は握るナタの柄を向ける


バシュンッ!


グシャッ!!


「ギャンッ!?」


鋭い骨が伸びて肩の敵に突き刺さる、 耳元で高い悲鳴が響いて、 耳がキーンってなる


チッ


「るせえっ!」


バッ!


次は低め足元………


「せっ、 らぁ!」


低い蹴り、 ひらりと躱される、 そのまま弧を描く起動、 ついつい目で追った日暮の背後……


ドッ!


別の個体による突進、 蹴りの崩れた体制に突進、 ぐらり、 崩れる……


ドサッ!


「ってぇ…… ぅえ………」


背中を盛大に打つ、 三半規管がダメージを受けて、 視界が霞む………


ギャンッ!


グシャアアンッ!!


っ!?


倒れた所に、 畳み掛ける様に噛みつき、 痛みが痺れる


ワンッ! ワォンッ!!


ビシャッ! ドシャッ!!


血飛沫が吹き出す、 衝撃と同時に短い悲鳴が溢れる、 それでも……


っ!


「邪魔だァっ!!」


グシャッ!


キャンッ!?


寝転んだ体制から振り上げた腕、 突き立てた指が狼の目玉を抉る、 怯む個体


ドスッ!


殴りつけて半身を起こす、 足に噛み付く個体目掛けてナタを振るも空を斬る……


まだだ…… まだ…………


はぁ…… はぁ………


日暮の目がギラギラと光る、 ただ純粋に、 何処までも野性的に………


「ぁああああああああっ!!!」


叫ぶ、 人間の物とは思えない程、 腹の底から湧く、 殺意


殺意と殺意のぶつかり合い、 重い体を持ち上げて立ち上がる、 拳が壊れそうな程強くナタを握る


「あああああっ!! 次っ! 次来いっ!! 来ねぇならっ!」


タッ タッ……


「ブレイング・ブーストっ!!」


バゴンッ!!


日暮の体が加速、 前進する、 そのままの勢い、 大きくナタを振りかぶるっ


「ラァッ!!」


ビシャアアンッ!!


目の前に居た狼、 一体の頭部を破壊しながら、 隣に居た個体の首をそのままの勢いで吹き飛ばす


「こっちから行くぞっ!! ぶっ殺しにっ!!」


オラァっ


ああああああああああああっ!!!


叫ぶ日暮、 そこからは酷いものだった、 何度も何度も転倒させられて、 馬乗りにされて押しつぶされ


腕を足をボロボロのズタズタにされて、 喉や鼻まで抉られた、 それでも日暮の傷は再生する


補う様に、 敵にその刃を叩きつけ、 肉を抉り喰らい、 着実に、 純粋に向かい続ける敵を斬って斬って斬りまくった


吹き飛ばした、 叩き潰した、 殺し続けた、 狼の群れは三十匹は軽く超えて居たが、 不思議と逃げ出す様な個体は居なかった


皆、 仲間の屍に目もくれず、 日暮を目掛け、 その牙を振るう、 もはやただの前の敵を殺す為だけの装置、 日暮も、 狼も……


………


「ぁああああああっ!! さぁッ!! てめぇで最後だっ! ボス狼っ! さっさと来いっ!!」



「ゥラァアアアアアッ!!」


バンッ!!


大口を開け飛ぶ狼、 それに合わせてカウンター、 ナタを振るう


トンッ!


振るわれるナタ、 狼は日暮の腕を蹴り、 更に高く、 ギラリッ、 狼の背の体毛が固まり、 彼等特有の武器、 切断線、 刃となる


ぐるっ!


狼が体を器用に捻る、 そのまま、 日暮の首筋を目掛けて振り下ろし……


ザグッ!!


日暮は首を捻って後ろを向く、 狼の刃は日暮の首に当たっていた、 首筋から血が伝う、 だがそれだけだった


逆に狼の体は空中に固定された様に浮いていた、 日暮のナタから伸びた骨が、 日暮の背中を周り、 狼を突き刺していた


「喰らえっ」


グシャアアアンッ!


ベシャッ……


体が抉れ飛び、 滑り落ちる様に地面へとボス狼は吸い込まれた、 野生の生命力か、 苦しそうに息を吐き出している


「直ぐに楽にしてやる」


日暮が再度ナタを構え…………


ガブッ


「キャンキャンッ!!」


足元に針を刺す様な痛み、 見下ろせば、 まだ小さな子狼が、 必死にその牙を足に食い込ませている


この子狼は、 日暮がこの街に来た時、 巨大な幼虫型モンスターを連れてきてしまい、 偶然居合わせた狼の群れ、 その子供が幼虫に食われてしまったのだ


子狼を助ける為に、 日暮と狼達は共闘した、 その縁だ、 その後聖樹討伐の為、 二度目の共闘


この子狼は、 日暮と狼達を繋ぐ、 共闘関係、 その架け橋だった………


グルルッ


唸る子狼、 ボス狼を見る、 苦しそうだ、 だがその目は子狼を見ている


「喰らえ牙龍っ!」


グシャッ!


ボス狼に刃を突き立て、 その肉体を抉り喰らう、 その様に、 子狼は一際強く噛むが、 死したボスを見て噛むのを止めた


子狼に向き合う


「……………………ごめん」


ブンッ!


グシャアアッ!!


子狼の脳天を目掛けて振り下ろされたナタ、 追加ダメージが追随する


「一片も残さず、 全部喰らえっ! 牙龍っ!!」


バシャアアアアンッ!!


子狼は、 喰われ、 そのエネルギーは明山日暮へと、 勝利者への報酬、 余す事無く、 その全てを喰らえ


それが捕食者の特権であり、 人間の捕食者、 明山日暮の義務である、 と、 そんな言い訳の様な価値観が急浮上した


「…………まだだ」


日暮はふらふらと地面に立つ、 眼前に広がる広大な闇を前に……


叫ぶっ


「ああああああああっ!!! モンスター共っ!! まだまだ足りねぇっ!! もっとだっ!! タラタラしてんじゃねぇよっ!! 来いっ!! 全員だっ! 集まりやがれっ!!!」


喉がジリジリと痛む程叫ぶ、 闇を睨む、 さっきから分かっていた、 まるで狼達が絶えるのを待つ様に、 数十、 数百の視線


ドシッ ドシッ


大きな足音が………


タッ タッ


複数の足音が……………


ガァアアアアアアアアアアッ!!


何か巨大な生命の息吹が……


………


「こっからはただの憂さ晴らしだっ! どんどん来いっ!!」


これは始まりの戦い、 その時に既に決めていた事だ、 なんの疑いも無い、 当たり前の事だ……


「てめぇら、 モンスター共は、 全部、 全部っ! 俺がぶっ殺してやるっ!!」


恐怖は無い、 ただ広がる夜闇と、 降り注ぐ月光が見つめる中、 日暮の鋭い殺意と、 刃がキラリと反射した

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