表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

104/164

第百四話…… 『最終章、 上編・4』

あ~あ


「星お兄さんだけ遊んでて羨ましい~ 私も日暮お兄さんと遊びたいっ!」


何処にでも居るような少女の声、 可愛らしい子だが、 まさかこの子が本当に……


「まあまあ、 魔王雪ちゃん、 わがまま言わないでね~」



「ふふ~ 勇者のお兄さん、 消し飛ばされたくなかったら子供扱いはやめよっか?」


あははははっ



ふふふっ


薄暗い空間に、 男と、 少女の笑い声が木霊する、 彼らの関係は、 世界を破壊する魔王と、 それを阻止する勇者


だがそれも、 今まではの話である……


「はぁわわっ、 ちっ、 んなやり取りはどーでも良いんだよ、 寝みぃからさっさと話始めろよ」


欠伸の後に舌打ちをする男、 柳木刄韋刈やぎばいかりがイライラとした声を隠さずに声を出す


「おいおい、 小さな女の子に向かって怖い声を出すなよ韋刈、 ごめんね、 怖かったよね? さぁ、 おじさんの膝の上においで」



「うえっ、 何だその喋り方、 てめぇの方が怖いだろうがロリコン野郎」


少女を前にニコニコと普段の表情を崩し、 話し掛ける森郷雨録もりさとさめろく、 毒舌すら珍しく無い男だが、 今は気持ち悪い程声が丸い


「滅多な事を言うなよ韋刈、 私はロリコンでは無い、 ただ幼い女の子が可愛いと思うだけだ、 実際、 犯罪者の君と違って、 私は毎日通学路に立ち子供を守って来た」


それに……


「私は少女が悲しむ様な事は絶対にしないよ、 韋刈、 君と違ってね」


はぁ?


「だってそうだろ? 彼女がかの魔王少女なら、 彼女の両親を殺したのは確か君だったろ?」


雨録の言葉に反応した少女が韋刈の事を見る


「ああ、 確かに、 そうなるな」


悪びれる様子すら無い韋刈は、 ソファーにどっかりと座ったまま少女と目を合わせる


「ふ~ん、 お兄さんがあの時の…… そっか……」



「何だよ、 別に怒ったって良いんだぜ? てめぇの両親みたいにゴミみたいに死ぬだけだけどな」


あははっ


少女は笑いながら首を横に振る


「ううん、 怒ってないよ~ ただ、 こんなイケメンのお兄さんが来てくれてた何て知らなかった~ 私あの時逃げるのに必死で~」


にこにこと笑う少女、 何を言っても無駄だと悟って、 珍しく韋刈の方から視線を逸らした


少女の笑顔に雨録は心をときめかせ、 そんな彼らのやり取りを呆然と聞いていたフードを目深に被った男、 冥邏めいらが口を開く


「そろそろ良いか、 さっきの韋刈じゃないが、 話を進めて欲しい、 こんな夜更けに呼び出したのだから、 さぞ大事な用何だろうな?」



「ごめんごめん、 そうだね、 話を進めよう、 冥邏、 悪いけど、 これから初めて欲しいんだ」


その言葉だけで冥邏は頷く


遠太倶とおたくが使った抜け道が有ると聞いてるが、 シェルターへの侵入はどう行けば良い?」


冥邏の質問に、 少女が笑って答える


「貴方が聖樹核のお兄さん? 今ね、 シェルターの中で暴れてる人が居るの、 元々夜で皆寝てるけど、 更に注目はそこに向いてるから、 その隙に入れるよ」


そうか……


「感謝する」


冥邏は誰に対しても淡々としている、 これから作戦通り、 彼はシェルターに侵入して、 モンスターを寄せ付ける餌となる


彼を目指し、 この街のモンスターはシェルターに向かうだろう、 しかも今回の作戦は夜戦


少女がここに来た時点で作戦準備は整ったと考えて良いのだろう、 ならば作戦は開始する


「悪いね冥邏、 一人で、 せめてそこまで俺が送るよ」



「そうしてくれ、 そう出なくては夜も更に老けてしまう」


なんの未練も何も無い様に立ち上がる冥邏、 それに続いてナハトが立ち上がる


「行ってくる」



「送ってくるから、 出発の準備しといてね、 じゃ」


ふぁんっ


軽い音を立てて、 ナハトの触れた冥邏事、 二人の人間が突然消えてしまった、 座標変換の能力による瞬間移動


残された三人は沈黙する……


「そう言えば魚惧露ぎょぐろはどこに行った? 作戦の前だと言うのに……」



「あいつはいつもそうだろ、 ここに居た事だって珍しい、 とっくに現場に居るんじゃねぇのか?」


ん?


「他にもお仲間さんが居るの?」



「居るよ~ 磯臭い変なお兄さんで正体が何なのか私にも分からないんだけどね~ それよりも、 お嬢さん、 ナハトが帰って来るまで私と遊ばないかな?」


幼い少女にデレデレの雨録に対して、 韋刈は嫌悪の顔を向ける、 少女自身は特段嫌がる様な素振りは無い


「えー、 そんな事言って~ おじさんは私みたいな子だったら、 誰だって良いんでしょ?」



「うーん、 痛いところを付いてくるね~ 正にそうさ、 可愛い幼女を見ると、 胸がドキドキするんだ、 これって恋だよね?」


ふふふっ


「それなら残念~ 私は他に好きな人が居るから、 おじさんとは遊びませ~ん」



「ガーン、 おじさん泣いちゃうっ、 えーん」


ふふふっ



あっはっはっ


………


笑い声の響く空間で、 空気が揺らぐ


「よっと、 戻って来たよ、 ん? なになに? 二人とも楽しそう、 何の話してたの?」


戻って来たナハトが楽しそうに尋ねる


「気持ちのわりぃ話をしてただけだろ、 もう良いから俺達もさっさと始めようぜ」



「そうだね、 順次持ち場に送るよ、 冥邏にも言ったけど、 皆がそれぞれの為に、 健闘を祈ってるよ」


彼らの戦う理由は、 それぞれだ、 仲間であるけれど、 自身の目的の為に、 ただそれだけ……


「さてさて、 始めたからには徹底的に、 どれくらい面白くなるかな、 この後、 この世界が歩む道程は、 ははっ」


常に彼らの笑い声は、 この街に揺蕩う、 黒い煙、 街を侵す腐敗と破壊の象徴のように、 始まる


「人間と、 モンスター、 真のナワバリ争い、 弱肉強食、 純粋な暴力によって作られた世界の始まりだっ!」


………………………………



………


ナハトが笑った時、 同時に、 甘樹シェルター内、 彼等の仲間が侵入に使った穴、 倉庫内部、 人目に付かない隅の方の排気口の網の部分に人影が移る


タンッ


その人影は排気口から飛び降り倉庫内へと降り立つ


「存外簡単に侵入できたな、 遠太倶の奴は随分苦労したろう、 奴は図体もでかければ頭も硬い、 線の細い俺ならものの二分ほどで通過できたがな」


さて……


「さぁ、 力を欲する獣共よ、 その本能に従い、 ここを目指し吠えてみろ、 駆けてみろ、 邪魔者共を喰らい、 我こそはと一番にたどり着いてみせろっ」


冥邏は想像する、 聖樹核、 殆どの力を望むモンスター達が我先にと求める力の結晶、 大切なのはイメージだ


そこに強く存在し、 群がり、 貪られ死ぬ、 その想像により、 精度高い再現が可能……


「テンリ・サライ、 俺の姿形は、 聖樹核……」


冥邏の能力、 テンリ・サライは、 変質による再現、 自分の肉体を、 全く別の物質に変換する事が出来る


その精度は、 世界を総べる一体の龍すら、 この世界へと呼び寄せた……


匂い、 音、 気配、 多種多様な感覚器官を使い、 多くの生命が、 多くの命の鼓動が、 今、 一瞬にしてこちらを見た


一瞬にして溢れ出す、 膨大なエネルギーの気配が、 空気に溶け、 気流に乗り、 はたまた電波の様に世界に干渉する


目を閉じれば、 こちらを見る、 幾万の視線、 息遣いがすぐ側で聞こえる様で震える


……………………


ワォオオオオンッ!! ワォッンッ!!



ガァアアアアッ!! ギャァアアアッ!!



グラガァアアアアアアッ!!


……………


街は、 夜中だと言う事を忘れてしまった様に、 一瞬で彼らの喧騒に呑まれた、 我先にと存在証明の如く吠える


この世界にやってきたモンスターが、 地を走る、 空を飛ぶ、 川を越え、 山を越え、 ここを目指す


ここを………


……


ガシャアアンッ!!


倉庫内に轟音を響く、 破壊された様な音、 そうだ、 シェルターの中は安全な訳では無い


実際に侵入した穴があるのだから、 気配を辿り、 近くに居た奴が、 それを利用し更に侵入する事は考えられる事だ


「ブギガァアアアアッ!!」


豚の様な見た目のモンスター、 巨大な体躯だが、 遠太倶も通れたんだ、 無理やりなら通れる


「……俺が死ねば、 聖樹核の気配も消える、当たり前の事だが準備は出来ている……」



「ブギャアアアアッ!!」


冥邏は背中に手を回すと、 大き目のパーカーの下に隠す様に、 背にある柄の感覚に触れる


シィァンッ!


柔らかい腕を捻り一気に鞘から抜いた刃、 音から既に切れ味が極上である事が分かる程


その刃が鈍く光る、 湾曲した刃は、 その内側に刃が付いている……


「俺が初めて殺した、 物好きな資産家の男が海外から取り寄せた、 ショーテル、 盾を躱す様設計されたこの湾曲が、 想定外の切れ味を産んだっ」


ブルルッ


バゴンッ!!


話に興味は無いと言わんばかりにモンスターが地を蹴る、 その突進、 ぶつかれば即死っ!


だが……


「その考え無しの突進は、 命取りだ、 俺は刃を置くだけで良い……」


たっ


軽いステップ、 突進衝突の数泊手前にて行われたそれ、 器用に構えられらた刃が、 まるでゴールに用意されたフィニュシュテープの様に


シャッ、 ッシィッ!!!


ビシャアアアアッ!!


柔らかい鼻からくい込んだ刃は、 力に抵抗せず、 硬い骨を避け、 柔らかい筋肉を断ち、 器用に脳天と顎下に切り分けた


「ぶっ!? ギャッ…………」


バダンッ……


血飛沫をあげた豚の顔面がズレ落ち、 崩れる様に地面へと吸い込まれた


バサンッ!


彼のパーカーがはためく、 突進が連れてきた風がフードを外し、 彼の顔が晒される


左目が妙だった、 てらてらと光を淡く光を放つ琥珀の様な色をした物が、 眼球が有るべき位置を占領し、 今にも飛び出ると思う程、 そこから根を張る様に不自然な血管が身体中に蜘蛛の巣状に伸びている


「左目が聖樹核になったか、 だが能力と言うのは良い、 自分を不利にしない様出来ている為か、 問題なく視覚が繋がる」


更に……


「俺の能力で作られた物は正しく本物だ、 だが俺が死ねば能力が解除されその恩恵を受けない為、 結果的に偽物でしか無いのだが……」


身体中にみなぎる力、 エネルギー、 嘗て龍に憧れたのは、 病弱で、 弱い自分が嫌いだったから、 力を求めたから……


「この聖樹核は俺にとって呑み本物、 ここに含まれる膨大なエネルギーが俺の肉体に巡り、 力が湧いてくる、 くははっ……」


ここに侵入した遠太倶の目的は、 シェルターに暮らす人間の皆殺しだった、 そしてそれは今も同じ、 ならば、 自分のする事は……


「俺も動くか、 今はただ、 力を振るえる事がただただ、 たまらなく楽しい、 ははっ」


鈍く光を反射する曲剣を肩に担ぎ、 冥邏は歩く、 シェルターは幾度となく襲われる、 今度はまた、 大きな炎が付く


……………………………………



……………



……


戦いは別の所でも…………


《午後十一時過ぎ、 医務室エリア通路・女性専用医務室前》


…………


先程響いた爆音の反響も収まった頃、 首を圧迫されていた苦しみも消え、 息が落ち着いてくる


通路は明るい、 日暮の隣に立つフーリカの魔法と言うの力で、 白く照らしあげられる、 伸びる人影が三つ


(……敵の能力は影を操る事、 そしてそれはただの影では無く、 能力による影、 これが大事だ)


例えば日暮の能力は空気を集め、 圧縮、 それを放つ力、 これを空気の乏しい水中で使ったとしたら、 おそらく能力が無理やりにでも、 岩の隙間や、 水面上から空気を引っ張ってくるのだろうと思う


状況によって能力が使えないと言うことは無い、 相手の影の能力もそうだ、 本来、 影とは光あってこそ出来る物だが、 能力で固定されたこいつの影は違う


闇の中でもはっきりと影が有るんだ、 そして相手の影も触れる事で闇の中で強制的に作り出し、 動かしたり、 攻撃出来る


影が闇に溶ける、 暗闇の方が奴にとっては楽、 暗殺と言う意味では完全に姿形を見せること無く相手を殺せるという訳だ


だが……


「この光量の中、 もうてめぇの影も、 自分の影も見失うことは無いっ! 要はてめぇの影に触れなければ良いんだからなっ!」


敵の影は空間の暗闇も同時に影として過程し動かせると鈴歌は言って居た、 だがおそらくそれこそが例の『影部屋』とやらに敵を閉じ込める力


純粋な影を操る能力と、 もうひとつ影部屋なる相手の能力の領域へ誘う力が有ると言う、 多分さっきみたいな闇の中に二人の影が有る時に発動出来る


周囲の『闇』を能力で『影』に仮定、 利用した領域の構築、 成長し操る空間の影が大きくなると言うのはつまり能力の射程距離、 鈴歌を襲った時通路を覆う闇が奴の射程距離だと、 奴本人が語ったと言う


(……さっき敵は影部屋を使えた、 でも使わなかったのは敵が言った通り俺を俺自身の影に首を絞めさせる為だ)


日暮を苦しめる為に、 影部屋へ誘う前にこの方法をやりたかった、 敵は影部屋の中ではそれが出来ないと言って居たが、 もしかしたら影部屋の中では影が出来ないのかもしれない


これは完全に敵、 星之助聖夜ほしのすけせいやの落ち度だった、 日暮に対する怒り、 その発散に理想性を求めた結果


影部屋と言う自身の領域に日暮、 またはフーリカを落とす事ができたにも関わらず、 勝利では無く、 感情の発散を優先した


自分が優位に立ったと錯覚し、 常に狩る側だと、 戦いと言う状況を忘れ、 その全能感に浸る


(……力に目覚めたてのまだ敗北を知らない大凡人の思考だ、 こういう奴は自分が無意識に賭けてる物の大きさを理解してない)


それは命、 相手がこちらを殺す時、 こっちも相手を殺せる、 互いに一つの命、 それを賭けた時、 どんな力の差も関係なく、 天秤は均等に真横へ並ぶ


……


鈴歌が襲われてから今日で五日目、 能力がどれ程成長したか知らないが、 こうして通路全体を照らし暗闇を極力無くせば『影部屋』は使えない


「フーリカ、 極力暗闇に触れない位置で、 敵の影から避けつつ、 俺と奴を照らせる位置で光を固定しといてくれ」



「はい、 全く注文が多いですが、 私能力と魔法の同時使用が苦手なのでそこは分かってて下さいね」


おっけー


ナタを構えて歩く、 敵に向かって、 何時だってそう、 こちらから動く……


ぐわっ!


「馬鹿がっ! 俺の影は伸ばせる、 捉えたっ!!」



「させませんっ!」


くいっ


左手側から指す光、 日暮の影は右側、 壁に沿う様に、 そこを目掛けて真っ直ぐ進む敵の影


しかし、 すんでの所ででフーリカが光源の位置を逆側にずらす、 光源の有無に干渉しない敵の影は真っ直ぐそのまま、 日暮の影は逆に向く


見ただけで分かる、 影の動かし方は真っ直ぐだ、 いきなり横に動かないし、 曲げるのも苦手、 だから……


バンッ!!


日暮はそのまま、 敵の伸びる影を右側にその横を敵に向け駆ける、 光源が常に並走して影位置感は変わらない


「ちっ! おい良いのかよ! 俺はそのまま真っ直ぐ後ろの女の影に触れるだけだぜっ!」


いや………


「てめぇの影は遅いんだよっ! それより速くっ!!」


バシッ!


接近、 踏み込んだ体勢のまま構えたナタを、 斜めに振り上げるっ!


当たるっ……


「それを想定してない訳ねぇだろっ!! 女の光で照らせねぇ部分、 そこに影は有るっ!」


日暮の真上、 LED電球が嵌められた丸型の溝、 そこに沼の様に溜まった影が落ちてくる


バチュンッ!


重量に引かれたような黒い影の塊、 日暮に触れればどうなる? いや……


(……敵の操る影はそもそも攻撃性能が乏しい、 それは奴のメイン能力が『影部屋』と言う領域に重きを置いた物だからだ)


だから束縛、 おそらくその類、 そして日暮がそこまで恐れない理由、 それは……


「ブレイング・ブーストっ!!」


グワッ!!


ブーストによる加速、 持ち上げた足、 振られたナタに意識が行き過ぎた敵に、 超加速した蹴りが……


「ぶっ飛べっ!!」


ドガスッ!!


バギギギギギギッ……………



ドガァアアアアアアアンッ!!!


「うがっあああっ!?」


ボガンッ!!


振り抜いた蹴り、 敵の肉体もろに側面から捉え、 横方向に吹き飛んだ敵は、 壁を突き破ってそのまま、 医務室の中へ……


壁に開いた大穴、 通路からの光をまるで吸いこもうとしないその大闇の中に日暮は声をかける


「俺は確かに人を殺したことは無い、 だからお前の気持ちは分からない、 でも一つだけ言える確かな事は有る」


それは……


「過去の恐怖を克服する為に必要な事、 それは決着だ、 何よりお前自身の為に、 お前自身の手で決着を付けなくちゃならない」


あの敵が、 お前の作る影ならば……


天成鈴歌あまなりすずか、 俺はお前の気高く美しくあろうとする姿、 凄いと思うよ、 だから、 過去にトドメをさして、 また戻って来いよ、 お前自身のままな」


声が届こうが、 届きまいが別に構わない、 彼女の意思も既に強く固まって居るだろう、 何故なら……


「日暮さんはカッコつけて俺が守ってやるっ! って思ってたのかも知れませんけど、 やっぱりこれが一番だと思います」


傍まで歩いてきて隣に立つフーリカも共に壁の穴を覗く、 いつか見た黒い壁が張っている


「おい、 言い方よ、 カッコつけてねぇよ、 でも俺はあの女を信用してなかったんだろうな、 俺はあいつが勝つって今なら確信して言えるよ、 あいつは強い」


だから……


「作戦通り、 鈴歌狙いだと思い込んだ俺達、 特にヘイトを買ってる俺を囮にして敵を削ってから、 弱った所をもう一度、 『闇』と『影』、 互いの領域の押し合いで勝つ」


結局、 フーリカ越しにこの夜護の時間を伝え、 話し合い最終的に決まったやり方だった、 後は待ちの時間、 いつ来るか分からない敵を待ち、 その上で彼女に繋ぐ


覚悟無しには出来ない戦い、 だからこそ……


「やっぱり凄いよお前、 失意から数日でもう一度立ち上がったんだからな……」


既に領域の押し合いが始まっている事は感覚で理解出来る、 そうなったら後する事は…………


………


タン、 タンッ!


不意に通路に足音が響く、 大股で駆けて居る様な足音だ、 随分慌てて居る様だが……


「うおっ、眩し! 日暮かっ? そこに居るのはっ!」


そう声を発したのは土飼のおっさんだ、 焦った声、 あっ、 これはもしかして……


吹き飛んだロッカー、 大穴の開いた壁、 響いた轟音……


(……説教かな?)


もうすぐ二十三時半、 本格的に夜も更けて来る頃だが………


「あ〜、 そうです、 俺です、 伝えてた通りシェルター内に居た影の敵を対処してただけで、 いやうるさかったのは申し訳無いんですが……」


予め会議でもこの話はしてある、 知らなかった訳では無いのだ、 実はこの為だけに、 この周辺の医務室は夜だけ空っぽにして貰っている、 迷惑は最小限に抑えられて居ると思うが……


「いや、 その事じゃない、 対処が済んだと言うのは作戦通り、 天成さんに繋げたという事だな?」


日暮は頷く


「なら良かったが、 落ち着いては居られない、 緊急事態なんだ!」



妙に焦ってるな、 土飼のおっさん……


「シェルターが襲撃にあって居る!」


!?


「誰の?」



「モンスターだ、 突如夜中だと言うのにモンスター達が騒がしく吠えだし、 そうして何か、 目的がある様にここを目指してやって来たそうだ」


突如って……


「侵入はされたの?」



「侵入した敵を確認はしてない、 幸い今このシェルターは砦になっているからだ、 だが対空には特価してないから、 翼のある様なモンスターは防げない」


そうじゃ無くてもどうにか侵入、 または砦を破壊してくる事も用意に想像出来る


この中に入れてしまえばおしまいだ、 モンスターと言う存在と戦える人間は殆どいやしない、 砦の外で対処しなくちゃ……


「それで? 俺は何をすれば良いですか?」



「勿論、 君には最前線でモンスターと戦い、 シェルター内への侵入を阻止して欲しい…… やってくれるかい?」


ふっ


日暮は鼻で笑う


「要らねぇでしょ、 そんな質問は、 全部殺しますよ、 俺の得意分野だ、 フーリカ」


隣に立つ彼女の方を見る、 目が合う


「俺は行ってくるから、 天成鈴歌の事は頼んだ、 ……でももしなんかあったら直ぐに逃げ……」



「逃げません、 心配してくれるのはありがたいです、 でも、 もう逃げません、 以前鈴歌さんが私を助けてくれた、 私も鈴歌さんを助けたい」


だから……


「大丈夫です、 私はここで鈴歌さんを待ちます、 ですから…… 日暮さん、 行ってらっしゃいっ」



「ああ、 頼んだ、 行ってくるっ」


光指す通路に足音が響いて、 遠のいて行く、 行く者、 待つ者、 それは互いに戦う者、 命を燃やし生きる者


それが…………


…………………………………………



……………………



……


ビシッ……


接触、 その瞬間に流れる感覚、 互に展開し合った能力の領域がぶつかり、 押し合う


この感覚を感じるという事は…………


「鈴歌? 居るのかい? 僕をここに入れてしまう何て、 あの男、 明山日暮も酷いね~ あの男は君のボディーガードだったんだろ?」


暗い、 黒の中、 その領域内で、 押し合う『闇』と『影』、 星之助聖夜は闇の方を見る


居た……


「はぁ~ 可愛いねぇ、 鈴歌ちゃん? そして可哀想に、 あの男、 どうやらこの中には入って来れない様だ、 しっぽを巻いて逃げたよ、 ははっ」


一面の黒世界で、 くっきりと視認出来る二人、 影の方に星之助聖夜、 闇の方に天成鈴歌


鈴歌はぺたんとへたりこんで下を向いている、 その姿は幼い少女の様で、 庇護欲が掻き乱される


「っ、 あぁ、 鈴歌、 君は何て可愛いんだ、 怖いのかい? 可哀想にねぇ、 僕はずって君を見てた、 君はここで何時も夜に怯え震えてた、 僕は知ってるよ、 君は戦えない」


鈴歌は両の手を耳に当て、 塞ぐ


「……怖いんだね? 全てが怖くて苦しくて、 目も、 耳も逸らして、 助けを求めたのに無責任にその手を離され、 可哀想だねぇ~」


でも、 大丈夫……


「日差しで凛と咲く君も美しいが、 日陰で健気に枯れる君もとっても魅力的だ、 君の全てが好きだ、 ははっ、 『可哀想』は、 『可愛い』だ、 はははっ」


タン タン


星之助聖夜が鈴歌に近づく程、 闇は押され、 影が支配して行く、 完全な影の支配下に置かれた時、 『影部屋』と扉は開く


「最初に明山日暮を殺す為に使うと言ったが、 優先順位はどちらでも良い、 そこに拘りは持っていないよ、 こうなった以上、 鈴歌が僕の影部屋の最初の住人だ」


遂に星之助聖夜が鈴歌に触れる距離まで近づく、 あとほんのもう一押し、 自分の力はこんなにも、 鈴歌を押さえ付ける程に強くなったのか……


星之助は思った


ごくりっ


「初めから、 こうしてしまえば良かったんだっ、 か弱い鈴歌をっ、 押さえつけてっ! 閉じ込めてっ! 首輪をつけてっ! へへっ、 誰にも触れられないっ、 僕だけの鈴歌っ!!」


ずっと彼女に触れたかった、 壊してしまう程に力で強引に、 でも常に、 彼女の内に潜む神秘の様な力を感じ、 どこか恐れていた……


「シェード・チェイン、 開け『影部屋』っ!」


だが、 今は違う、 ようやく、 遂にこの時が来たのだ……


「ようこそっ、 鈴歌、 僕の『影部屋』へ………」


ぐわんっ


影が、 押し切り、 鈴歌を完全に取り込む、 同じ黒でも、 闇は消え、 影が支配する


影部屋、 星之助聖夜の能力で構成される領域が開き、 閉じ込めた


ぎゅ


この腕の中に、 確かに彼女の温もりが…………


……?


冷たい…… とても冷たい、 まるで氷の様に冷たい体、 冷えて………


影の中で、 鈴の音に似た声が鳴る……


「前にも言いましたが、 女性を見た目で判断するのは、 その方の心を理解して居ないから、 私と鈴歌の区別が付いて居ないのかしら?」


っ!?


これは、 この声は……


あの時の、 鈴歌であって、 鈴歌じゃない、 『闇』の中で聞こえた声は……


シャラランッ!


グシャァッ!!



痛み、 突き刺さる錫杖、 そして……


ひたっ


触れる、 冷たい手


影芍憐華えいしゃくれんげ


ぶっ……


ぼしゅ! ぼシュッ!


音を立てて肉体を突き破り、 白い小さな花を幾つも付けた茎がいつくか映えてくる、 妙だ、 痛みを感じない、 何のために……


「鈴歌は日向に咲いた大輪の花、 私は影にひっそりと咲いた誰も知らない小さな華、 貴方は言いましたよね? 闇とは影だと」


闇とは、 影だ、 夜闇すらもこの星自身が作る大きな影、 能力は仮定、 そう、 ならば……


「影とは闇です、 光があって初めて生まれる闇の事、 そして私は影に咲く華、 ここは影の中なのでしょう?」


いや、 待て、 そもそも、 おかしい……


何で……


「何でっ! 能力の押し合いで俺は勝った筈だ! ここは俺の能力の領域内、 『影部屋』の中の筈だろっ!」



「ふふっ、 そうですよ、 ここは貴方の中、 しかし、 同時に影の中、 私の本来居るべき場所という事です」


ガタンッ



音のした方、 まただ、 またあの……


「っ、 何なんだよっ! あの仏壇はっ! 何であんな物が俺の中にあるんだよっ!」



「貴方に心の闇が有るからですよ! 勘違いしては行けませんよ、 ここは貴方の領域内であり、 頂様の領域内でもある」


どういう事……


「同時に領域が展開し、 どちらも被さる様に構築された、 一つになったんです、 『影』と『闇』が混じりあった、 ひとつに……」


どうなるんだ、 そうなったら、 一体……


「私はこの状況を待っていたんです! 本来あの少女さえ居なければ、 頂様のお力が貴方の能力に劣る訳が無いのですから!」


ぐわっ!


不確定に混ざりあった世界にもう一度押す力が生まれる、 そうか、 そういう事か……


「まだ拮抗し、 能力の押し合いは終わって無いのかっ! クソがっ! だが、 お前は言ったな! ここは俺の影部屋でも有ると!」


星之助聖夜は能力の強さ、 そのリソースの殆どをこの影部屋に振った、 だから……


ぐわわっ!!


影が押す、 まさかな……


「っはは、 既に領域は展開されているっ、 押し合いに勝てば今度こそ鈴歌は俺の物に…………」


違和感、 鈴歌の所在、 ここに居るのは、 もう一人の鈴歌、 桜初おうしょう、 この闇と影の混じり会う黒の中、 鈴歌の気配を感じない……


影部屋と言う領域が作用しているおかげか、 桜初の刺した錫杖は、 星之助にそこまでダメージになっていない


星之助に咲かせた華も、 もう一度領域の押し合いに持ち込む為だ、 だが、 何だ、 何だ、 この違和感は……


(……鈴歌は何処に)


………


星之助の能力は、 『影部屋』を展開した際、 意外にもその肉体自身の所在は、 影部屋の外にある


『影部屋』はそこに閉じ込めさえすれば、 今回のように能力が押し合わない限り、 確定で勝利する能力


星之助自身、 理解し得て無かった、 能力のリソースの分配、 パワーを強くすれば、 速度が下がる


『影部屋』の中に居る彼は、 彼の影に自身の意識が宿った物であり、 その外に、 まるで置いてけぼりの様にされた彼の体は、 意識の抜けた、 まさに抜け殻


そのままただ止まってしまうのだ、 能力は使用者を不利にしないよう出来て居る物だが、 そもそも『影部屋』に敵を入れてしまえば有利となる為


能力発現の際、 他者を閉じ込める事に重きを置いた条件と、 確定勝利の力、 リソース限界の果てに導きだされた妥協点、 それこそ、 『影部屋』使用中、 使用者の肉体を『影部屋』外に置く、 それによる硬直だった


……


「はっ!?、 俺の『影部屋』は、 そうか、 これは俺の影っ、 俺の肉体は外に置き去りなのかっ!?」


『影部屋』が展開されている以上、 肉体が影である為、 『影部屋』内での彼に対するダメージはゼロ、 それこそが領域内の強さなのだが


つまり、 この『影部屋』と言うのは、 周囲に敵の存在しない場所を選び、 一体一又は、 完全に領域に閉じ込められる数を相手する場合のみ使用出来る力……


(……外の明山日暮は、 奴がここに来る? いやそれとももう一人、 何にせよ、 俺の外の肉体は無防備、 早く『影部屋』から出なくては……)


だが、 現状、 押し合い、 拮抗し続ける力のぶつかり合いを放棄し、 『影部屋』を閉じてしまえば、 その時、 闇に呑まれ死ぬ


(……まずいまずいまずいっ、 何でここに来て自分の力を理解するんだっ、 まさか……)


にやりっ


「今更気が付いたんですか、 自分の事なのに、 鈴歌はとっくに貴方の力を看破していましたよ? 凄いでしょあの子は?」


くそくそくそくそっ!


「要はこのまま、 俺が押し切っててめぇを負かした後に、 出ればいいんだろっ! 俺の全力っ! 出せる物全部出し切るっ!!」


ぐわわわっ!!


ちっ


桜初の舌打ち、 能力の本質を理解した事により、 『影部屋』の真のポテンシャルが解放する、 それはみるみる内に闇を押し返し……


遂に


バジィンッ!!


同じ黒の中で、 『闇』が負けた、 ここは完全なる……


「『影部屋』今度こそ完全顕現っ!!」


そして、 浮かれては行けない、 直ぐにでも、 この影部屋から出て、 肉体を守る……


…………?


きらきらきら………………


違和感


負かした筈の桜初と、 取り込んだ仏壇、 本来ならば、 この影部屋の住人と家具と言う判定になる、 この影部屋の物になる


のに………


まるで、 砂のように崩れて行く、 桜初の輪郭と、 仏壇が崩れて消えていく、 こんな事はありえない


何故だ、 何故っ……


「あぁ、 鈴歌、 私が消えたとしても、 貴方は貴方、 他の誰でも無い……」


消える?


「鈴歌…… 後はよろしくね、 陽の差す所で強く、 美しく、 貴方はそのまま、 咲き誇って…… 私は、 頂様と共に……」


ガラガラガラッ


崩れる様に、 影部屋が消滅を始める、 まだ影部屋を解除して居ないのにも関わらず、 勝手に崩れる、 それは、 この肉体を襲う酷い倦怠感……


(……影部屋で更に力を全力で力を使い続けると、 こんなにも体力を消耗するのか……)


今にもふらついて倒れそうな時、 影に咲く華に、 優しい陽の光が指すのを見た、 その光は、紛うことなき……


………………………



………


「……………はっ」


意識が現実に戻る、 星之助の肉体は……


ふっ……


まだ霞む様な視界に、 ぶれる、 光の様な軌跡、 その軌道が………


ぐりりっ!


「トロウ・ドライグッ!!」


ドスゥッ!!


拳、 突き刺さる、 この拳は、 何だ、 誰だ、 これは………


(……鈴歌)


……


ドガシャアアアアンッ!!


叩きつけられる、 呼吸が尽きる、 この力、 だと言うのに、 この痛み……


「…………ぁ、 鈴歌っ、 好きだっ………」


星之助聖夜から見える正面、 彼を吹き飛ばしたその正体


「はぁ…… さっきからうるさいのよ、 全く懲りないわね、 あんたも」


天成鈴歌、 その姿、 羽毛混じりの綺麗な鱗が所々皮膚に現れ、 尻尾と、 翼、 尖った耳からも羽毛の様な毛が生えている


鋭い爪と、 牙、 それらを携えて笑う、 怖いと言うより、 かっこいい、 かっこいいと言うより……


「……可愛い」



「でしょ? 全くさ、 こんな可愛い私をさ…… 良くも泣かしてくれたよね」


それに……


つー


「っ、 あの子は、 桜初は私の半分だった、 もう私の中にあの子は居ない……」


鈴歌は星之助を睨む


「私を影部屋に連れ込んだと思ったあの時、 貴方が本当に連れ込めたのは桜初だけだった、 私は見てただけ、 これも頂様のおかげ」


「私は、 桜初と二人で一人、 彼女が居なくなったら……」


ボッカリと穴の開いた半身……


ううん


「違う、 本当の意味であの子が居なくなった訳じゃない、 私の中に居るよ、 それでも能力は違う、 彼女の闇に割いてた半分のリソースは、 私のドライ・ドライグ、 煉華龍れんげりゅうの力に反映される」


たった今から、 鈴歌の能力は、 百パーセント、 煉華龍・天成鈴歌だ


ボオンッ!!


「フレア・ドライグっ!!」


叫ぶ鈴歌の口内、 光放つ、 蜃気楼が発生、 大気が震える……


龍のブレス……


ボガァアアアアアンッ!!!!!



ボシュンッ……


「はぁ…… あははっ、 楽しいかも、 頂様が、 桜初が、 フーちゃんが、 そして忌々しい明山日暮が、 ここまであんたを削ってくれた」


ブワッ……


炎と煙が消える、 焼け焦げた地面と壁、 そこに横たわる黒焦げの体、 それでも、 瞬時に影を展開したのか、 まだかろうじて星之助聖夜の息はあった


鈴歌が手を構える、 この暗い空間、 まとわりつく様な黒が今は鬱陶しい


「照らして見せる、 教わって初めてやるけど…… ルーンライトっ」


魔法、 異世界の法則、 感覚を掴んだら、 魔法とは法則であり、 数学に近いと鈴歌は思った


そして、 それは彼女に確かに才能があったからだ、 暗闇を照らす、 光が咲く


ピカァンッ!!


女性専用医務室は光に照らされる、 鈴歌も、 星之助も照らしあげられる


「あっ、 あぁ、 鈴歌、 は、 俺の光……」



「うん、 認めてあげるよ、 振りほどいても、 何をしても着いてくる、 貴方はずっと私の傍に居た、 星之助くん、 貴方は私の影だよ」


あぁ……


でもね………


「鬱陶しいくらいなら、 私は要らない、 しがらみになるなら、 迷いなく捨てる、 それが私、 私が私である為に…… 星之助くん、 私には貴方はもう要らないの」


「貴方があくまでも、 貴方自身では無く、 私の影で居ると言うなら、 私は私自身の光で、 私の影を消してしまう、 それで良いよね?」


それは、 何の意味もなさない問いかけ、 もう既に確定した、 決まった事だ


それでも、 星之助聖夜も、 確かに、 強く、 頷く……


「……俺は鈴歌の影、 光が無いと現れない、 鈴歌は光だ、 俺を照らしてくれよ……」


鈴歌は目を瞑る、 昔から見る、 幼さ、 幼稚、 笑顔、 怒り顔、 困り顔、 声、 張り付いて消えないそんな記憶……


そうだ、 だから覚悟が出来るんだ


今、 ここに、 彼との奇妙な青春の日々、 その決着をつける時だ、 だから最後に……


「ありがとう、 私が私でいる為に、 貴方はとても大切な人だったよ」


鈴歌は広げた手のひら、 指を伸ばし、 虚空に円を描く、 円が光の線を描いて世界に干渉する


光の魔法は、 生活魔法のルーンライトだけでは無い、 その種類は様々、 才能を持つ物が扱う光の魔法……


「エスペトラライト」


高出力で放たれる、 光のレーザー、 触れた者は尽く、 塵も残さず消えると言う、 上級魔法


ビカァッ!!


ビジャァァアアアアンッ!!!


世界が白く色ずく、 その白に思い出達がスクリーンの様に映し出される、 これは……


………………


『鈴歌っ、 これやるよ、 俺の一番のお気に入り何だっ!』


小さい頃の……


『わ~ ありが…… ひっ! 虫っ!?』



『カッケェだろ! ミヤマだ! 藍木山で見つけたんだぜっ!』


ガチガチ


こちらを見て威嚇する様にハサミを噛み合せる姿、 元々虫も苦手な鈴歌は悲鳴をあげた


『ごめっ、 私は虫苦手なんだよ、 知ってるでしょ、 星之助くんも、 うぅ……』



『あはははっ、 めんごめんご、 でもクワガタもダメなのかよっ? カッケェのによ~』


虫は虫だし、 怖いし……


と言うか、 どうしてこんな事を、 男の子は直ぐに私に意地悪しようとするけど、 またそう言うのなの……


『もうやめてっ! 何で意地悪するのっ!』


泣き出しそうになる鈴歌に対して、 まるで予想外の反応だった様に彼は焦った様にアワアワとしだす


『ごめっ、 本当にごめんっ、 本当に俺のお気にだったから、 見せたいと思って……』



『……何で、 何時もはそんな事しないじゃん、 私が虫苦手って知ってるくせに』


彼は下を向く


『ごめん、 何か、 鈴歌最近元気無かったから…… 俺はコイツを見ると元気が湧いてくるからさ、 ごめん、 鈴歌がどうやったら笑顔になるのか、 分からなかった…… ごめん』


……………………


いつだってそうだ、 私が彼を利用しようなんて思ったのも、 彼がその前から私を何時も助けてくれたり、 傍に居てくれたからだ


『…………その子、 噛まない?』


鈴歌は彼の持つミヤマクワガタに恐る恐る手を伸ばす


『えっ、 あぁ、 噛まないよ、 こいつはめちゃくちゃっ、 賢いんだっ……』


ガチッ!


『っ!? 痛っ、 いたたたたっ!? 離せ離せっ!!』


ぷっ


『あははっ、 もー、 噛むじゃんっ! あはははっ』



『痛たッ!? ははっ、 でもこれが結構癖になっ…… いてぇっ!?』


…………………


あっ……


そうか………………


「あの頃は、 ちゃんと笑ってたんだ、 私も、 星之助くんも、 私どうして……」


要らない過去って、 勝手に捨てて、 忘れようとしてた、 全てが私なのに、 彼の存在も、 切っては切らない物なのに……


星之助くん、 ごめん…………


「……絶対に忘れない、 忘れたくない、 私このまま進むから、 だからずっと、 この光の指す所で見ててね」


それは彼に対する言葉であり、 彼女の中から居なくなってしまった桜初に対する言葉でもあった


……………………


光が全て消えた時、 闇も影も消え、 ただ純粋な陽の光が指さない暗闇へと変わる


ガララッ


「鈴歌さん、 終わったという事何ですよね?」


フーちゃんか


「うん、 ずっと待ってくれてたんだよね、 ありがとうフーちゃん」


今はただ、 彼女の何処か抜けた様な可愛い顔が心地よく、 落ち着く


それに、 決着をつけた事で、 心は晴れやかで澄んで居る、 明山日暮の言葉通りなのは癪に障るけど


それでも、 今は失った喪失感と、 それを満たす新たな心地良さ、 そして確かな疲れだけがこの身を満たす


「……あれ? ごめん、 フーちゃん私何だか、 疲れて……」



「大丈夫ですよ、 ここはそもそも医務室ですから、 ベットはすぐそこで、 私もここに居ますから」


ありがとう……


着の身着のままと言うか、 果てしない疲れと倦怠感を引きずり、 ベットに寝転がる、 ゆっくりと深く息を吸い、 一拍程止める、 そうしてゆっくりと徐々に補足するように息を吐く


睡眠時の呼吸、 明山日暮が言ったその言葉が実際に眠るのに適した呼吸法で、 ここ数日、 夜は怖いけど、 眠ることは出来た


(……そう言う意味では、 あいつにも感謝…………)


そんな思考すら途中で途切れる、 その後鈴歌はフーリカに手を握られながら、 静かに寝息を立て眠った、 それは久しぶりにとても気分の良い眠りだった

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ